びまん性大細胞型B細胞リンパ腫を合併した耳下腺Warthin腫瘍の1例

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(1)口咽科 2020； 33（2）：65 ∼ 70. 原著. びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫を合併した耳下腺 Warthin 腫瘍の 1 例松元隼人・永野広海・馬越瑞夫川畠雅樹・黒野祐一鹿児島大学大学院医歯学総合研究科先進治療科学専攻感覚器病学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学. びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫を合併した耳下腺 Warthin 腫瘍の 1 例を経験したので若干の文献的考察を踏まえて報告する．症例は 80 歳代男性．受診の約 2 ヵ月前から右耳前部腫脹と. 痛を自覚し，次第に増大傾向を認めた．造影. CT 検査では，淡く均一に造影される腫瘤性病変を耳下腺に認めた．PET/CT 検査では，最大 SUV 値 28.9 の異常集積を耳下腺に認めた．一度目の生検では，Warthin 腫瘍と診断された．しかし生検部位と異なる耳下腺上方が急速に増大するため，後日再度生検術を施行した．免疫染色では異型細胞は CD20，CD25，CD79a に陽性であり，びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫（Diffuse large B-cell lymphoma：以下 DLBCL）と診断された．以上よりワルチン腫瘍と DLBCL の合併と診断した．キーワード：耳下腺腫瘍，Warthin 腫瘍，びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫. 認めた．顔面神経麻痺は認めなかった．. はじめに. 血液生化学所見（前医の初診時）：白血球 5,800 個 /μL，. Warthin 腫瘍は，耳下腺に発症する良性腫瘍としては. CRP 0.64mg/dL，LDH 472IU/L，IL-2R 1,310U/mL．. 多形線腫の次に多い．何らかの契機で Warthin 腫瘍は. 画像検査所見：造影 CT 検査では，均一に淡く造影さ. 発赤を伴い急速に増大し，一部皮膚潰瘍を形成し悪性腫. れる腫瘤性病変を耳下腺に認めた（図 2A）．造影 MRI. 瘍のような経過をきたすことがあり，鑑別を要すること. 検査は閉所恐怖症のため施行できなかった．PET/CT. がある．耳下腺に発生する悪性リンパ腫は散見される. 検査では，最大 SUV 値 28.9 の異常集積を耳下腺に認め. が，Warthin 腫瘍との合併例の報告. 1，2. は少ない．今回. たが，頸部リンパ節や他の臓器への集積は認めなかった. 我々は，Warthin 腫瘍にびまん性大細胞型 B 細胞リン. （図 2B）．. パ腫を合併した耳下腺腫瘍の 1 例を経験したので若干の. 経過：以上の局所所見と画像検査所見から顔面神経麻. 文献的考察を踏まえて報告する．. 痺はないものの悪性腫瘍が否定できないことから，確定診断のために，耳下腺下方の，耳垂 10mm 前方の組織. 症例. を局所麻酔下に採取した（図 1A 破線）．耳下腺腫瘍摘. 症例：80 歳代，男性．主訴：右耳前部腫脹と. 出術に備え，通常の耳下腺腫瘍に対して行う S 字皮膚痛．. 切開の延長線上で皮切をデザインした．検体は白色充実. 既往歴：高血圧にて内服加療中．現病歴：受診の約 2 ヵ月前から右耳前部腫脹と. 性で均質であった．痛を. 病理組織検査所見（1 回目：耳下腺下方より）：HE 染. 自覚したため近医耳鼻咽喉科受診し，局所所見と検査所. 色で耳下腺組織内に高円柱状の上皮細胞が二層性を呈し. 見より耳下腺腫瘍と診断された．直ちに精査および加療. 腺管状に増殖し，腺管内に好酸性分泌物が認められた．. 目的に当科紹介受診となった．. 周囲にリンパ濾胞の形成を伴うリンパ球浸潤があること. 初診時の現症：右耳前部から耳下部に最大径 50mm. から Warthin 腫瘍と診断された（図 3A，B）．組織中に. 程度の自発痛を伴う腫瘤を認めた（図 1A，B）．弾性. 悪性リンパ腫を示唆する所見は認められなかった．. 硬，可動性は不良であった．耳珠前方にわずかに発赤を. 経過：生検後も増大傾向を認め，一部の皮膚が著明な 65.

(2) 口咽科 33 ： 2. 松元隼人，他 4 名. A. B. 図 1 初診時の局所所見右耳前部から耳下部に顔面神経麻痺を伴わない自発痛を伴う腫瘤を認める．破線は 1 回目の生検施行部位．. A. B. 図 2 A：造影 CT 検査所見．均一の淡く造影される腫瘤性病変を耳下腺に認める． B：PET/CT 検査所見．右耳下腺に最大 SUV 値 28.9 の異常集積を認める．. 発赤を伴った（図 4）．Warthin 腫瘍による皮膚潰瘍形. の合併と診断され，他院の血液内科にて化学療法を行う. 成をきたす症例も散見されるが，LDH 960IU/L，IL-2R. こととした．Rituximub 及び THP-COP 療法施行され，. 4,204U/mL と上昇を認め，悪性リンパ腫が疑われるこ. 痛軽減など一時的な効果が得られていたが，治療開始. とから，初回生検術より約 2 週間後に最も発赤の強かっ. 17 日後に誤嚥性肺炎を起こし緊急入院となった．全身. た耳珠前方の部位（図 4 破線）より，再度局所麻酔下に. 状態は徐々に悪化し，治療開始 30 日後に永眠された．. 生検を施行した．検体は炎症が強く，一部に壊死をきた. 考察. していた．病理組織検査所見（2 回目：耳下腺上方より）：HE 染. 耳下腺腫瘍の中で Warthin 腫瘍は多形腺腫に次いで. 色でびまん性に増殖する大型の異型細胞を認め，高 N/C. 多く，上皮とリンパ両方の組織学的特徴を持つ良性唾液. 比で類円形腫大核を有し，初回の生検の所見とは明らか. 腺腫瘍である．多くは緩徐に増大するが，一部では皮膚. に異なっていた．また免疫染色では異型細胞は CD20，. の発赤や皮膚潰瘍を形成し悪性腫瘍との鑑別を要する症. CD25，CD79a に陽性で，CD3，CD4，CD8，CK-AE1/. 例3，4 も散見される．. AE3 に陰性であり，びまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫. 今回の症例でも，高齢者であり急速に増大するものの. （Diffuse large B-cell lymphoma：以下 DLBCL）と診断. 境界は明瞭であり，顔面神経麻痺を伴わなかったことか. された（図 5A-H）．組織中に Warthin 腫瘍を疑う所見. ら Warthin 腫瘍と思われた．そして初回の生検術の結果. は認められなかった．. は Warthin 腫瘍の診断であった．しかし生検後も増大傾. 以上の 2 回の生検術の結果から Warthin 腫瘍と DLBCL. 向を示し，IL-2R の上昇を伴ったことから，1 回目の生 66.

(3) 口咽科 33 ： 2. Warthin 腫瘍とびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫の合併例. A. B. 図 3 A：病理織学的検査所見（HE 染色：強拡大） B：病理組織学的検査所見（HE 染色：弱拡大）耳下腺組織内に高円柱状の上皮細胞が二層性を呈し腺管状に増殖し，腺管内に好酸性分泌物を容れている．周囲にはリンパ濾胞の形成を伴うリンパ球浸潤を認め Warthin 腫瘍と診断する．. 最も頻度の高い病型で，急速に進行するが化学療法に対する反応は良好であり，早急に適切な治療を行うことにより約半数は治癒する．濾胞性リンパ腫では Warthin 腫瘍との合併例において，Warthin 腫瘍内のリンパ組織から発症したものか周囲のリンパ節から発生したリンパ腫が浸潤するかどちらかの機序が考えられている．リンパ腫における Warthin 腫瘍の存在は，リンパ組織に対する長期の抗原刺激の原因となり，B 細胞悪性リンパ腫のその後の発生の素因となり得るとする報告もある9．本症例は，画像上同一腫瘍内からの 2 種類の腫瘍の発生であるが，生検での判定であり，2 腫瘍の連続性の証明が困難である．そのため，Warthin 腫瘍から DLBCL が発生したものか，たまたま併発したものか経過の一部であるかは判別困難であり，今後の症例の蓄積が必要である．本邦では高齢化に伴い DLBCL の症例が増えてきてい. 図 4 生検術後の局所所見術後 1 週間経過時には耳介前方に皮膚発赤を伴う増大を認めた．破線は 2 回目の生検部位．. る．頭頸部領域での腫瘍の診断において非特異的な経過をきたす場合には DLBCL を含む悪性リンパ腫も鑑別のひとつに挙げる必要があると考える．手術に際して Warthin 腫瘍と悪性リンパ腫の合併を. 検部位と異なる部位を生検し，DLBCL と診断された．. 偶然術後に診断された症例が散見され1，2，10，その後高齢. Warthin 腫瘍と悪性リンパ腫の併発例の報告5 は少な. を理由に経過観察されることもある．しかし数年後の再. いが，細胞レベルでの形質の変化による発症が推測され. 発例11 もあるため，治療が可能であれば悪性リンパ腫に. ており，非 Hodgkin リンパ腫の濾胞リンパ腫が多いと. 準じて加療すべきである．. 6，7. される．ただ悪性リンパ腫合併例での特異的な臨床像. また，高齢者で吸引細胞診や画像検査より Warthin. 8. 腫瘍と診断され，手術をしないで経過観察する場合で. も報告されていることから，それが診断の一助となりう. も，増大する可能性や他の悪性腫瘍の発症の可能性を念. る．最終的には免疫染色を含む病理組織学的検査に委ね. 頭において経過観察する必要があると考える．. はないが，当症例のように IL-2R が上昇している症例. られる．. ま. 我々が渉猟しえた限りでは，Warthin 腫瘍と DLBCL. と. め. の合併例は Gorai ら1 と Guliz ら2 の症例報告のみである．. 1）Warthin 腫瘍に DLBCL を合併した耳下腺腫瘍の. DLBCL は，成人非 Hodgkin リンパ腫の 30-40％を占め. 1 例を報告した． 67.

(4) 口咽科 33 ： 2. 松元隼人，他 4 名. A. B. C. D. E. F. G. H. 図 5 A：病理織学的検査所見（HE 染色：Bar ＝ 100μm） B：病理織学的検査所見（CD3 染色：Bar ＝ 100μm） C：病理織学的検査所見（CD4 染色：Bar ＝ 100μm） D：病理織学的検査所見（CD8 染色：Bar ＝ 100μm） E：病理織学的検査所見（CD20 染色：Bar ＝ 100μm） F：病理織学的検査所見（CD25 染色：Bar ＝ 100μm） G：病理織学的検査所見（CD79a 染色：Bar ＝ 100μm） H：病理織学的検査所見（CK-AE1/AE3 染色：Bar ＝ 100μm） HE 染色においてびまん性に増殖する大型の異型細胞を認め，高 N/C 比で類円形腫大核を有する．また免疫染色では異型細胞は CD20，CD25，CD79a に陽性で，CD3，CD4，CD8，CK-AE1/ AE3 に陰性であり，DLBCL と診断する .. 68.

(5) 口咽科 33 ： 2. Warthin 腫瘍とびまん性大細胞型 B 細胞リンパ腫の合併例. 2）耳下腺腫瘍の診断において非特異的な経過をきた. 2013；30：145-149. 6）Melato M, Falconieri G, Fanin R, et al : Hodgkin s disease. す場合には DLBCL を含む悪性リンパ腫も鑑別のひとつ. occurring in a Warthin s Tumor : first case report. Pathol. に挙げる必要がある．. Res Pract 1986；181：615-620. 7）Badve S, Evans G, Mady S, et al : A case of Warthin s. 付記. tumor with coexistent Hodgkin s disease. Histopathology. 著者は申告すべき利益相反は有しない．. 1993；22：280-281. 8）名取一彦，石原晋，長瀬大輔，他：耳下腺原発悪性リン. 文献. パ腫の 1 例．臨牀と研究 2011；88：1574-1576. 9）Park CK, Manning JT Jr, Battifora H, et al : Follicle Center. 1）Gorai S, Numata T, Kawada S, et al : Malignant. Lymphoma and Warthin Tumor Involving the Same. Lymphoma Arising from Heterotopic Warthin s Tumor in. Anatomic Site. Am J Clin Pathol 2000；113：113-119.. the Neck : Case Report and Review of the Literature. The. 10）Miller R, Yanagihara ET, Dubrow AA, et al : Malignant. Tohoku Journal of Experimental Medicine 2007；212：. lymphoma in a warthin s tumor report of a case. Cancer. 199-205.. 1982；50：2948-2950.. 2）Ozkok G, Tasli F, Ozsan N, et al : Diffuse large B-cell. 11）礒田幸太郎，久保正治，小林庸次：Warthin 腫瘍を合併し. lymphoma arising in Warthin s Tumor : case study and. た耳下腺 MALT リンパ腫の 1 手術例．診断病理 2003；. review of the literature. The Korean Journal of Pathology. 20：223-227.. 2013；47：579-582. 3）吉田亜由，大月直樹，米澤宏一郎，他：耳下部皮膚に自潰したワルチン腫瘍の 1 例．耳鼻・頭頸外科 2014；86：. （平成 29 年 12 月 27 日受理）. 671-674.. 別刷請求先：. 4）四宮弘隆，岩江信法，平山裕次，他：超高齢者の皮膚自壊. 〒 890-8520 鹿児島市桜ケ丘 8 丁目 35 番 1 号. を伴う耳下腺ワルチン腫瘍の露出例．頭頸部外科 2012；. 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科. 21：287-290.. 先進治療科学専攻感覚器病学耳鼻咽喉科・. 5）日比谷孝志，大田泰徳，沼倉里枝，他：Warthin 腫瘍に. 頭頸部外科学. 濾胞性リンパ腫を合併した耳下腺腫瘍の 1 例．診断病理. 松元隼人. 69.

(6) 口咽科 33 ： 2. 松元隼人，他 4 名. A case of diffuse large B-cell lymphoma with Warthin s tumor in the parotid gland Hayato Matsumoto, Hiromi Nagano, Mizuo Umakoshi Masaki Kawabata and Yuichi Kurono Department of Otolaryngology Head and Neck Surgery, Kagoshima University Graduate School of Medical and Dental Sciences. We report a case of diffuse large B-cell lymphoma arising from Warthin s tumor in the parotid gland. An 8X-year-old man presented with a mass in the right side of the parotid gland which was painful and gradually enlarged over two months. CT showed a uniform region in the parotid gland. A positron emission tomography/ computed tomography（PET/CT）scan showed abnormal accumulation in the same area. The histological diagnosis was Warthin s tumor in the first biopsy. However, since the tumor was rapidly enlarging, a second biopsy was performed. Histological analysis showed variant cell, which stained positively for CD20, CD25, and CD79 and negatively for CD3, CD4, and CD8, and the tumor was diagnosed as malignant lymphoma, diffuse large B-cell type. Taking those findings together, we diagnosed the patient as malignant lymphoma with Warthin s tumor in the parotid gland. Key words : salivary gland tumor, Warthin s tumor, diffuse large B-cell lymphoma. 70.

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