異常出血にて治療に難渋した3例 ―凝固第13因子測定の重要性―
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(2) 異常出血にて治療に難渋した 3 例. 266. a. b. 図 1 症例 1(a)搬送時 膝関節単純 X 線 正面像,(b)最終術後 大 腿骨単純 X 線 正面像. a. b. c. 図 2 症例 2(a)術前胸腰椎 MRI T2 矢状断像,(b)初回手術術後 胸腰椎 X 線 正面像,(c)側面像. なった.. を認め,CT では後腹膜と右胸腔内への出血を認めた.. 既往歴:高血圧. スクリューによる血管損傷等の所見は認めず出血の原. 内服薬:抗凝固薬・血小板内服なし. 因は不明であった.. 予定待機手術として,最小侵襲後方固定術(手術時. (術後 2 日目)通常の DIC 治療を行うも,心臓マッ. 間:180 分,出血:90 ml)を施行した.病棟帰室後,. サージによる肋骨骨折からの胸腔内出血が続いたため. 術後出血による hypovolemic shock(Hb 5.8 g/dl). 血管内治療にて肋間動脈の塞栓を行った.その後,誤. ― 94 ―.
(3) 267. めなかった.3 例中 1 例は DIC の合併を認めなかった.. 嚥性肺炎を発症するなど全身状態は安定しなかった. (術後 7 日目)胸腔ドレーン刺入部の創傷治癒遅延. 3 例中 2 例が出血傾向を契機に,もう1例は創傷治癒. を認め,F13 活性値の測定を行ったところ,低下して. 遅延を契機に F13 活性の測定を行い F13 欠乏症の診. おり補充療法を行った.. 断に至った.F13 補充療法にて F13 活性値が正常と. その後,全身状態は徐々に改善し,リハビリ病院に. なり,同時期に止血操作・創閉鎖を得ることができた (Table 1).. 転院となった(図 2). 症例 3:頚椎症性脊髄症,81 歳,女性.. Ⅲ 考 察. 主訴:手の平,指先のジンジンした痺れ 現病歴:1 年前からの両手の痺れ,巧緻性の低下を. F13 は,凝固タンパク質同士を架橋結合させるトラ. 主訴に受診した.精査の結果,頚椎症性脊髄症の診断. ンスグルタミナーゼ(TGnase)という酵素の一つで. し,手術加療目的に入院となった.. ある2).F13 は,凝固カスケードの最終段階で機能す. 既往歴:C 型肝炎治療中.. る.トロンビンによってきわめて迅速に活性化され,. 内服薬:抗血小板・凝固薬の内服なし.. フィブリン同士を架橋結合させ働きがあり,その血液. 頚椎椎弓形成術を施行した(手術時間:110 分,出. 凝固塊により創傷治癒に関して重大な役割を持ち,低. 血:少量). 下している場合は創傷治癒の遅延を招く(図 4)3).. 術中特記すべき所見なし.良好な除圧が得られた.. 凝固第 13 因子活性の正常値は 70~130% とされて. 術翌日よりリハビリを開始した.術後 8 日目より徐々. いる.F13 活性が 70% 未満の場合は凝固第 13 因子欠. に両手の動きが悪くなり,術後 9 日目には下肢の脱力. 乏症(以下,F13 欠乏症)と呼ばれ,原因として先天. が進行した.MRI にて術後血種による脊髄圧迫と診. 性と後天性に大きく分類される3).一般的には,5 ~. 断し,同日血種除去術を施行した.皮下出血斑や下腿. 10% 以下の活性値で出血傾向を示すとされる7).ただ. の紫斑など臨床的に出血傾向があり精査にて F13 因. し,創傷治癒不全を改善するにはより高い活性値が必. 子欠乏症の診断に至った.同日より F13 因子の補充. 要であることが報告されている7).F13 は,それ以外. 療法を行った.その後は再発なく,F13 活性値も正常. の凝固因子と異なり PT,APTT に影響を及ばさない. 範囲となった(図 3).. (図 5).また,一時止血の評価に使われる出血時間に. 症例のまとめ:. 関しても通常影響を与えない.そのため,F13 活性値. 3 例のうち 2 例は待機手術であり術前検査の PT,. の低下が存在しても通常の術前検査でその病態は疑わ. APTT は正常で,抗血小板薬,抗凝固薬の内服は認. れにくい1).. a. b. 図 3 症例 3(a)初回術後,(b)血種除去術施行時 (a)椎弓形成術後であり硬膜の拍動を認めた. (b)広範な血種を認めた.. ― 95 ―.
(4) 268. 異常出血にて治療に難渋した 3 例 Table 1 第ⅩⅢ因子の活性と DIC スコアの経過. 矢印:補充療法のタイミング それぞれ補充療法後に正常範囲内の活性値を得ることができた.. 図 4 F13 によりフィブリンが架橋され,安定化フィブリンとなる.. 図 5 凝固カスケード F13 はカスケードの最終段階で作用するので APTT,PT に影響を 及ばさない. ― 96 ―.
(5) 269. 今回の症例:. 認め,F13 欠乏症の診断に至りこれを補充し治療し得. 先天性 F13 欠乏症は非常にまれであり,常染色体. た.出血や創傷治癒に関しては様々な因子が複雑に絡. 劣性遺伝,1/100~500 万人の割合で発症するといわ. み合い,複雑な病態をとっている.もし周術期におい. れている .今回は 3 症例とも比較的年齢が高い患者. て,PT,APTT,出血時間と一般的な術前検査で異. であったことから先天的な自己抗体が関与していると. 常が指摘されない場合や,DIC のような易出血傾向. いわれている先天性 F13 欠乏症は否定的である.し. を示す病態の治療後にも重篤な出血や創傷治癒の遷延. かしいずれの症例も定期的なフォローを行っておらず. または不全を認めた場合は鑑別の一つとして F13 活. 今後の研究課題とする.. 性の測定が重要である.さらに,低下を認めた場合は. 後天性 F13 欠乏症は,抗 F13 自己抗体,その他の. 補充が必要である.. 5). F13 インヒビター,重度の二次性 F13 欠乏症(DIC,. ただし,F13 活性の基準値と出血傾向に関しては,. 大手術,外傷,肝障害,白血病など)などがその原因. 今回の症例のように経過の正確な判断が困難な場合も. として考え得る.今回の症例では,周術期の血清が保. 多く,活性目標値や製剤投与量,有用性についてはさ. 存されておらずインヒビターの存在を証明することは. らなる検討が必要である.. 難しく,インヒビターの関与を完全に否定することは. Ⅳ 結 語. できていない.谷中らは,通常では F13 活性値が 40 ~70% で出血傾向をきたす可能性は少ないが,他の. 術中・術後出血にて治療に難渋した 3 例を報告し,. 出血素因を合併することで出血傾向をきたす可能性を. F13 測定の重要性に関して考察した.内出血が多いと. 示唆している7).本症例においては,それぞれ DIC(症. 予想される骨折や手術においては,術前・術後の F13. 例 2),肝炎(症例 3)の合併を認めた.ただし,肝炎. 活性の測定と補充が有効である可能性が示唆された.. に関しては肝機能の低下,血小板減少,凝固系異常は. F13 活性の基準値と出血傾向に関しては関連が不明な. 認めていない.DIC に関しても,後天性 F13 欠乏症. 場合も多く,活性目標値や製剤投与量,有用性につい. が原因となり出血,DIC の発症につながったか,出. てはさらなる検討が必要である.. 血による消費性の低下が結果的に DIC,F13 欠乏症に. 参 考 文 献. つながったかは検査結果からははっきりしない. 補充療法の有用性: Korte らの報告では,F13 活性値は術中の出血量と 逆相関するといわれている.つまり,出血量が多くな ればなるほど,F13 活性の測定,また補充を検討する 必要があると考えられる4).Shirahata らをはじめと する過去の報告でもその補充療法の有用性が示唆され いる6). 今回の 3 例に関しても,いずれも補充療法が奏功し ている.当院での治療法としては,過去の文献を参考 に血漿分画製剤 フィブロガミン P 静注用 960 単位 (240 単位/ 1 V×4 V) 5 日間投与 を一つのサーク ルとして投与している.通常の新鮮凍結血漿(FFP) ではそれぞれ 1 単位/ml しか含まれておらず同容量を 投与する場合は大量の輸液量が必要となる.今回の症 例に関しては原因不明の出血傾向・創傷治癒の遅延を. ― 97 ―. 1) Britten, A. F. H.: Congenital deficiency of factor ⅩⅢ. Am. J. Med., 43:751-761, 1967. 2) Ichinose, A.: Extracellular transglutaminase: factor ⅩⅢ. Prog. Exp. Tumor Res., 38:192-208, 2005. 3) 一 瀬 白 帝: 第 ⅩⅢ/13 因 子 抗 体 と 後 天 性 出 血 病. Thrombosis. Medicine, 5(1):67-72, 2015. 4) Korte, W. F.: ⅩⅢ in perioperative coagulation management. Best Pract. Res. Clin. Anaesthesiol., 24(1):85-93, 2010. 5) Lorand, L., Losowsky, M. S., Miloszewski, K.: Human factor ⅩⅢ; fibrin-stabilizing factor. Prog. Hemost. Thromb., 5:245-290, 1980. 6) Shirahata, A., et al.: Blood coagulation and the efficacy of factor ⅩⅢ oncentrate in premature infants with intracranial hemorrhages. Thromb. Res., 57:755-763, 1990. 7) 谷中清之ら:血液凝固第ⅩⅠ,ⅩⅢ因子欠乏症による反 復性皮下出血の一例.脳卒中,13:120-124, 1991..
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