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救急,集中治療領域における抗菌薬適正使用の取り組み

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は じ め に 救急・集中治療領域において,感染症は頻繁に遭 遇する病態である。市中感染,病院内感染,集中治 療室(ICU)入室後感染と,さまざまな感染症およ びさまざまな微生物に対峙している。救急・集中治 療領域における感染症有病率は,欧米を中心とした 前向き国際共同研究の Extended Prevalence of In-fection in Intensive Care(EPIC)で報告されている。 2017 年に,88 ヵ国,1,150 施設の ICU が参加した EPICⅢ study では,特定の 1 日に登録された ICU 入室患者 15,165 名のうち 54%が感染有りと診断され ていた1)。感染部位では,呼吸器 60%,腹部 18%, 血流 15%,腎・尿路 14%,皮膚 6%,カテーテル関 連が 3%を占めていた。 また,ICU では,非常に多くの患者が抗菌薬投 与を受けている。前述の EPICⅢ study では,70% もの患者が少なくとも 1 剤の抗菌薬投与を受けてい た1)。このように,ICU においては抗菌薬の使用頻 度が高いこと,患者が重篤で多彩な基礎疾患をもつ こと,気管挿管や中心静脈カテーテルなどのデバイ ス類の挿入が多いこと,侵襲的処置を多く必要とす ることなどにより多剤耐性菌が蔓延しやすい状況に

トピックス

救急,集中治療領域における抗菌薬適正使用の取り組み

ある。さらに,多剤耐性菌の発生により患者の予後 が不良となる恐れもある。それゆえ,ICU におい て抗菌薬適正使用を推進することは有意義である。 一方,救急・集中治療領域で扱う感染症の多くは, 重篤で予後不良な敗血症の病態を呈する。重症感染 症では初期治療で抗菌薬投与を誤ると,死亡率上昇 や入院期間延長に関連するため2)3),日本版敗血症 診療ガイドライン 2016(JSSCG2016)では,敗血症, 敗血症性ショックに対して有効な抗菌薬を 1 時間以 内に開始することが推奨されている4)。そのため, empirical therapy として広域抗菌薬投与や多剤併 用を必要とすることも多いが,広域抗菌薬の汎用は 抗菌薬による耐性菌の選択圧を高め,耐性菌の発生・ 伝播にもつながりかねない5) このように,救急・集中治療領域では,重症患者 の予後を改善することが最も重要な任務であり,か つ耐性菌出現を抑制するという対極的な 2 つの事項 のバランスを上手く保つことが要求される。さらに, 重症患者の病態生理に基づいた,救急・集中治療領 域ならではの抗菌薬投与法も必要となる。そこで本 稿では,救急・集中治療領域における重症感染症患 者に対する抗菌薬適正使用の特徴およびわれわれの ICU での現状と取り組みについて報告する。 要旨:重症感染症患者の救命と耐性菌出現抑制の両立には,想定原因菌を網羅可能な初期抗菌薬の早期投与と,感受性 判明後の de─escalation が重要である。De─escalation は安全で死亡率を低下させるが,集中治療領域ではその施行率 は高くはない。自施設 ICU に敗血症の診断で入室した 76 名を検討し,外科的感染症では市中感染・消化器が最多であっ た。初期治療には 90%以上で広域抗菌薬が用いられ,外科系感染症では 80%が単剤投与であった。初期治療の適正率 は約 95%であった。広域抗菌薬投与患者の 50%で de─escalation が施行可能であった。重症患者では,原因菌不明, 病態改善が得られない,重複感染巣,免疫抑制患者など,de─escalation が躊躇されるやむを得ない理由が多岐にわたっ ていた。集中治療領域での抗菌薬適正使用の推進には,抗菌薬適正使用支援チームや感染対策室,ICU 専従薬剤師と の協力のもと,重症患者においても感染症診療の基本的ロジックに即して診療を進めること,細菌の迅速診断法の普及 などが望まれる。 藤田医科大学医学部麻酔・侵襲制御医学講座1),藤田医科大学病院医療の質・安全対策部感染対策室2) 山下千鶴1),川治崇泰1),中村智之1),石川清仁2),西田 修1) 【索引用語】  de─escalation,empirical therapy,広域抗菌薬,重症感染症

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Ⅰ.救急・集中治療領域における抗菌薬適正使 用の要点 1.救命のための適切な初期抗菌薬使用 2016 年に改訂された Sepsis3 によると,敗血症は, 「感染に対する制御不能な宿主反応に起因する生命 を脅かす臓器障害」と定義され6),抗菌薬治療は, 敗血症を引き起こす原疾患に対する根本治療として 重要である。とくに,重症病態においては,患者の 予後を改善するために適切な抗菌薬の早期投与が求 められるため,血液培養をはじめとする各種培養検 査提出後,十分な情報が集まらない状態で予測的な 判断のもとにすみやかに治療を開始する必要があ る。その際には,抗菌薬の“種類”のみでなく“量” の適切性も満たすことが重要となる。 1)抗菌薬の選択 敗血症では,不適切な初期抗菌薬投与は,適切な 抗菌薬投与に比べ有意に死亡率が高いことが示され ている7)。したがって,投与抗菌薬の決定に際して は,患者背景や病歴,疑わしい感染臓器,地域や施 設の疫学情報,最近の抗菌薬使用歴などから可能な 限り具体的な微生物を想定し,考えうる病原微生物 をすべてカバーできるように配慮して,遅滞なく empirical therapy を開始することが求められる。 そのため,重症患者においては広域スペクトラムの 抗菌薬が選択されることが多い。ただし,むやみに 広域スペクトラムの抗菌薬を選択するのではなく, 想定される感染巣に十分作用し,患者背景や重症度 から推察した「カバーすべき原因菌」に対して良好 な感受性を示す抗菌薬を,施設の微生物ごとの抗菌 薬感受性率(アンチバイオグラム)データをもとに 選択することが求められる。さらに,ICU では一 般的に緑膿菌や大腸菌などの感受性率が低下してい ることが多いため8),自施設 ICU のアンチバイオ グラムを作成することは,初期治療薬の選択に有用 である。 また,緑膿菌などのグラム陰性桿菌に対する複数 薬併用療法については,生命予後を改善するとの報 告も散見される9)ものの,Paul らのメタ解析では 生命予後を改善させず腎障害を含めた合併症発生率 を増加させることが示されている10)。これらの結 果から,JSSCG2016 においてはグラム陰性桿菌敗 血症で日常的に複数の抗菌薬を併用することは推奨 されていない4) 一方,疑わしい原因菌をすべてカバーするために, 抗 MRSA(methicillin ─ resistant Staphylococcus au-reus)薬や抗真菌薬の併用療法を考慮すべき症例も 少なくない。MRSA は多くが医療関連感染として 発症し,入院患者から分離される黄色ブドウ球菌 の約 48%を占める11)。が,近年市中感染型 MRSA (community─acquired MRSA:CA─MRSA)も増 加しつつあることに注意が必要である。MRSA が 分離される主な疾患として,人工呼吸関連肺炎を含 む肺炎,カテーテル関連感染などによる菌血症,皮 膚軟部組織感染症,手術部位感染症などがある。こ のうち CA─MRSA を考慮すべきであるのは,若年 者の皮膚軟部組織感染症が最多であるが,重症な壊 死性肺炎を発症することもある。これらの感染巣に よる敗血症や,施設および地域で MRSA 検出率が 高い場合,表 1 12)13)に示すリスク因子を持つ症例 などでは,empirical therapy として抗 MRSA 薬の 併用を考慮するのが良いと思われる。さらに,リス ク因子(表 1)としてあげられている“最近の抗菌 表 1 抗 MRSA 薬の併用を考慮するリスク因子 患者背景 ・入院後 48 時間以降 ・最近の入院歴 患者自身の因子,既往 ・MRSA 保菌患者または MRSA 感染症の既往 ・MRSA 保菌リスクあり  ✓最近の抗菌薬療法  ✓長期療養施設入居者  ✓透析患者  ✓最近の在宅経静脈治療,創傷処置,経腸栄養など  ✓免疫抑制薬および免疫不全患者  ✓麻薬常注者 患者の病態に関連するもの ・市中発症だが重度の皮膚軟部組織感染症 ・インフルエンザ後あるいは壊死性肺炎像を呈する市中肺炎 ・カテーテル関連感染症が疑わしい場合 ・グラム陰性菌に有効な抗菌薬に治療反応が乏しい場合 (文献 12,13 より改変)

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薬治療”に関して,MacDougall ら14)は,キノロン 系薬の使用が MRSA の出現と有意な関連を持つこ とを示している。キノロン系薬の使用歴のある患者 ではとくに MRSA に対する注意が必要といえよう。 次に,抗真菌薬の併用について考えてみる。救急・ 集中治療領域で問題となる真菌症はほとんどがカン ジダ症である。カンジダ血症の死亡率は他の菌血症 より高いことが知られている。また,カンジダは一 般に血液培地での発育が遅く15),血液培養陽性率 も低い16)一方で,敗血症性ショック発症から抗真 菌薬開始が遅れるほど有意に予後不良となる17) そのため,好中球減少症や細胞性免疫障害などの免 疫抑制患者や,表 2 18)19)に示すようなリスクを有 する場合には,empirical therapy として抗真菌薬 の併用を考慮すべきである。その際に,β─D グル カンの高値は深在性真菌症を強く疑わせる所見とな るが,β─D グルカンは血液透析,血液製剤投与,心・ 大血管系あるいは消化器系手術などで偽陽性を示す 場合があるため,注意が必要である。また,抗真菌 薬の選択においては,近年,アゾール系抗真菌薬に 抵抗性を示す Non ─ albicans Candida が半数程度に 増加していることから,キャンディン系あるいはリ ポソーマルアムホテリシン B の投与が推奨される。 2)抗菌薬の初期投与量 抗菌薬初期投与の“適切性”を述べる際には,投 与した抗菌薬の血中濃度および感染組織中濃度が初 回投与時から十分に上昇していることが重要であ る。敗血症の病態の特徴として,毛細血管内皮細胞 表面で血管透過性を調節しているグリコカリックス が炎症性サイトカインにより損傷し,血管内皮細胞 間の tight junction も開大するために血管透過性が 亢進し,水のみでなくアルブミンなどの蛋白質も血 管外に漏出する20)。加えて,敗血症性ショックに 対する初期蘇生で投与された 30mL/kg 以上の初期 大量輸液は,さらに間質への水の漏出を助長するこ ととなる。 敗血症で用いられることの多いカルバペネム系薬 などのβ─ラクタム系薬のほとんどは水溶性薬剤で あり,その分布は主に細胞外液である。そのため, 敗血症患者では,初期大量輸液により増加した体重 分は,抗菌薬の分布容積が増大することとなる。 Meropenem(MEPM)を投与された敗血症患者の 分布容積が約 2 倍に拡大したとの報告さえもみられ る21)。さらに,敗血症では腎代替療法や体外式膜型 人 工 肺(extracorporeal membrane oxygenation: ECMO)などの体外循環を行う場合も多いが,その 場合には体外循環の回路充填量も分布容積の増大と なる(図 1)22)。それゆえ,重症感染症患者における 初回抗菌薬は最大用量で投与することが重要である と考える。 2.PK/PD 理論に基づいた抗菌薬の投与設計 近年では,生体内における薬物の吸収,組織分布, 蛋白結合,代謝・排泄などと血中濃度を関連付ける Pharmacokinetics(以下,PK)と,作用部位におけ る薬物濃度と効果の関連性を示す Pharmacodynam-表 2 抗真菌薬の併用を考慮するリスク因子 colonization の増加 ・長期の ICU 滞在 ・広域抗菌薬の使用 ・複数部位での真菌の定着 translocation の増加 ・低栄養 ・高 APACHE Ⅱscore ・腹腔内手術(とくに吻合部リークのある患者,複数回手術) ・急性壊死性膵炎 ・人工呼吸管理 ・長期血管デバイスの留置 ・完全静脈栄養 ・制酸薬投与 深部組織への浸潤の増加 ・免疫抑制 ✓悪性腫瘍(固形臓器癌および血液悪性疾患) ✓ステロイド投与または化学療法 ✓臓器移植 ✓血液透析 ✓好中球減少症 ✓糖尿病 ✓低出生体重児,早産児 (文献 18,19 より改変)

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ics(以下,PD)に則り,最適な用法・用量を設定す るPK/PD 理論が重要と考えられるようになってきた。 しかしながら,敗血症においては,前項で述べた血 管透過性亢進や初期大量輸液による組織浮腫のみな らず,低アルブミン血症,腎障害の合併,腎代替療 法の施行など,PK に影響を及ぼす病態が複雑に重 なっている。さらに,全身の炎症反応は薬剤代謝酵 素および受容体の down regulation を引き起こすこと によって PK に影響を及ぼすことも報告されている23) 例えば,敗血症性腎障害24)においては,補体・ 凝固の活性化,フリーラジカル産生,炎症性サイト カイン産生,好中球の活性化,血管拡張に伴う糸球 体濾過量の低下,傍尿細管血管への血流分布の変化, 血管透過性亢進による血管内脱水などの病態によ り24),腎前性,糸球体,尿細管,間質などの障害 が関与するが,各要因の影響度は個人差が大きい。 また,敗血症性腎障害は経過中に腎機能が回復する ことも多いが,その過程では尿量と薬物除去能力は 相関しない場合が少なくない。さらに,腎障害時に 用いられる腎代替療法は modality により薬物動態 への影響はさまざまである25)26)。これらの理由に より,敗血症性腎障害患者においては,個々の患者 の薬物クリアランスの予測は非常に困難である。ま た,血清クレアチニンやシスタチンの eGFR も当 てになりにくい。そのため,早期より適切な抗菌薬 血中濃度を維持するためには,薬物治療モニタリン グ(therapeutic drug monitoring: 以 下,TDM) を積極的に実施し,薬物投与設計を行うことが有用 である27)。De Waele ら28)は重症患者でβ─ラクタ ム系抗菌薬の TDM を行ったところ,多数の患者が 事前定義した PK/PD 指標を達成していないことを 示し,β─ラクタム系薬の TDM に基づく用量調節 の有用性を報告している。しかしながら,現在本邦 においては,敗血症の重症患者で最も汎用されるβ ─ラクタム系抗菌薬の TDM はほとんど行われてい ない。重症患者において患者の予後を良好に保ちつ つ抗菌薬適正使用を推進するためには,本邦におい てもβ─ラクタム系薬の TDM が施行可能になるこ とが望まれる。 また,TDM の施行および結果に合わせた投与設 計変更においては,ICU 専従薬剤師の果たす役割 は大きい。当院においても,ICU 専従薬剤師が TDM 施行予定時期や投与設計変更に積極的に関与 し,より早期の適切な投与設計の推進に重要な役割 を果たしている。 3.抗菌薬の de ─escalation 敗血症患者に対する初期治療では救命のために広 域抗菌薬を使用することが多いが,不必要に広域抗 菌薬を継続することは耐性菌の出現や抗菌薬関連副 作用の増加,医療費の増大につながる。そのため, 培養検体より抗菌薬感受性試験の結果が判明すれ ば,可及的すみやかに de─escalation を行うことが 推奨される。de─escalation の方法としては,起因 病原菌に対して強い抗菌力を有する狭域抗菌薬への 変更のほか,広域抗菌薬の 1 回投与量の減量,複数 の抗菌薬併用から単剤への変更,あるいは培養陰性 で非感染性疾患の診断がついた場合の投与中止も含 む。もちろん,適切な de─escalation のためには抗 菌薬開始前の培養検体の提出が必須である。 Garnacho─Montero ら29)は,de─escalation は安 全に施行可能で死亡率を低下させると報告してい る。しかし,集中治療領域において実際に de─es-calation が行われる頻度は 22 〜 50%とばらつきが あり,十分に行えているとはいえない状況である2) その原因の 1 つとして,敗血症の 20 〜 30%で感染 源を特定できないことがあげられる30) 。また,em-pirical therapy で良好な臨床効果が得られていない 場合や培養結果が陰性であった場合にも de─escala-tion を行うことは困難である。さらに,広域抗菌薬 による初期治療が奏効している場合に抗菌薬を変更 することへの医療者の憂慮も,de─escalation を阻 む大きな要因の 1 つである。 de─escalation の有効性については,観察研究が 中心ではあるが,人工呼吸器関連肺炎(VAP)を はじめとする多くの報告がある29)31)32)。日本版敗 血症診療ガイドライン4)においても,日本呼吸器 学会が作成した成人肺炎診療ガイドライン 2017 33) においても,重症感染症における抗菌薬の de ─es-calation を推奨している。したがって,患者の状態 が改善傾向にあり,原因菌および感受性が判明し, 図 1 重症患者における水溶性抗菌薬の分布容積 血管透過性亢進時 大量輸液分 (血管外貯留) 間質分布 血管内分布 (文献 22 より引用改変) 血液浄化や ECMO 回路プライミング分 重症患者 分布容積 健常時 分布容積

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感染源コントロールができている場合には,積極的 に de─escalation を進めることが全世界の薬剤耐性 菌の脅威に立ち向かう第一歩であると考える。 ただし,従来の培養検査においては,細菌を増殖 させて目に見える集落を作るのに約 1 日,さらに,菌 名を確定する同定検査および薬剤感受性検査の結果 判明に 2 〜 3 日程度が必要となり,適正な抗菌薬を 迅速に開始することに限界がある。近年開発されて きた,マトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時 間型質量分析計(matrix assisted laser desorption/ ionization─time of flight mass:MALDI─TOF MS) は病原体に由来する蛋白質成分のマススペクトルの パターンから 10 分足らずで病原体の同定が可能で あり,一方,遺伝子解析を用いた multiplex poly-merase chain reaction(PCR)は遺伝子解析を用い る方法で,複数の病原体の検出や病原因子・毒素の 検索,薬剤耐性遺伝子の検出が約 2 〜 4 時間で可能 である。これらの迅速診断法が広く臨床で活用可能 になることにより,より早期の de─escalation が可 能となり,抗菌薬適正使用の推進に非常に有用であ る。しかしながら,現在,多くの施設で広く臨床に 用いられるには至っていない。今後の迅速診断法の 保険適用の拡大および普及が望まれる。 4. 多 職 種 お よ び 抗 菌 薬 適 正 使 用 支 援 チ ー ム (Antimicrobial Stewardship Team:以下,AST)

や感染対策部門(Infection Control Team:以下, ICT)との連携 各集中治療医が適正使用に留意しながら抗菌薬を 使用することは当然であるが,ICU スタッフに抗菌 薬の専門的知識が十分にある施設は圧倒的に少なく, AST や ICT との連携が重要となる。当施設では, 毎朝 ICT 医師,ICU 専従薬剤師を含む多職種ミー ティングを行い,抗菌薬の妥当性や de─escalation の可否についてディスカッションを行っている。ま た,AST や感染症内科医とも顔が見える関係を構 築し,相談しやすい環境を整えている。 また,ICU 専従薬剤師は PK/PD 理論に基づいた 投与設計や,TDM による用法・用量の調節,抗菌 薬による副作用や配合禁忌などの知識に長けてい る。患者の病態や経過を熟知した ICU 専従薬剤師 による薬物療法への積極的な関与および迅速な対応 は,ICU における抗菌薬適正使用の推進に重要な 役割を担っている。 さらに,微生物検査技師との連携も重要である。 培養検査提出時には,細菌の同定に 1 〜 2 日,さら に感受性の判明に 2 〜 3 日程度かかる。しかし,微 生物検査室では,培養が陽性になった時点で,グラ ム染色や生化学的な性状の検討により原因菌に関す る情報がある程度得られている場合が多い。微生物 検査技師と連携することで,原因微生物のより早期 の絞り込み,ひいてはより早期の de─escalation に つながる可能性がある。 5.保菌に抗菌薬を投与しない ICU 入室患者は耐性菌を保菌するリスクが高い。 また,耐性菌保菌患者の入室は他の患者への感染伝 播のリスク要因となる。そのため,ICU においては, 全患者で入室時および定期的に,保菌している病原 体を同定する“アクティブサーベイランス”が実施 されることも多い。しかし,重症患者ゆえに,非無 菌組織から耐性菌が検出された場合に,保菌にもか かわらず抗菌薬を投与してしまうこともありえる。 感染症を発症している場合には抗菌薬は有用である が,保菌に対する抗菌薬は無効であり,抗菌薬の投 与により更なる耐性化を進めてしまう懸念も持たれ る。非無菌組織からの検出菌に対しては,臨床所見 やグラム染色の所見などから感染か保菌かを見極 め,不必要な抗菌薬を投与しないことも,抗菌薬適 正使用の方策の 1 つであると考える。 Ⅱ.自施設における抗菌薬適正使用の取り組み と現状 救急・集中治療領域における抗菌薬投与を目的別 に分類すると,感染性心内膜炎や手術部位感染の予 防,移植後などの免疫不全患者への予防的投与と, 感染症に対する治療的投与に分けられる。このうち, 救急・集中治療領域に特徴的な抗菌薬使用を捉える ため,重症感染症により当院 ICU に入室した患者 における抗菌薬使用の現状と適正使用の取り組み状 況について検討した。

当院 ICU は 18 床の closed ICU であり,内科系 および外科系,あらゆる年齢を診る general ICU で ある。今回の検討対象は,2018 年に当院 ICU に入 室した 1,527 名の患者のうち,入室時に Sepsis3 の 診断基準で敗血症と診断された(感染により SOFA score が 2 点以上上昇)18 歳以上の患者 76 名とした。 緊急手術あるいは侵襲的処置を行った外科的感染症 および処置を行わなかった内科的感染症に分類し, 電子カルテより後方視的にデータを収集した。なお, 研究は当院倫理委員会の承認の下で実施した。

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1.患者背景

敗血症の診断で ICU に入室した 76 名は,外科的 感染症 32 名,内科的感染症 44 名であった。表 3 に 患者背景を示す。重症度は Acute physiology and chronic health evaluation(APACHE) Ⅱ score は 外科的感染症で 21.1±6.5,内科的感染症は 24.2±6.2 と有意に内科的感染症が高値を呈した。また,外科 的感染症では,市中感染が 71.9%を占めたのに対し, 内科的感染症では市中感染は 31.8%と有意差があっ た。その他の患者背景には有意差は認められなかっ た。ICU 退室時の生存率は外科的感染症 100%,内 科的感染症 90.9%であった。 感染巣は外科的感染症では消化器が 84.4%で大半 を占め,内科的感染症は呼吸器が50%で最多であり, 皮膚軟部組織,血流と続いた。CT などの画像検査 にもかかわらず原因感染巣不明症例が 2 例(2.6%) あった。 2.血液培養(図 2) 血液培養の陽性率は 1 セットでは 60 〜 70%と十 分でない場合が多く34),また,血液培養で皮膚常 在菌が検出された場合,その結果が汚染菌によるも のか真の菌血症かの判断が困難となることから,血 液培養は複数セット提出することが推奨されてい 表 3 患者背景 全例 (n=76) 外科的感染症(n=32) 内科的感染症(n=44) P 値 性別(男:女) 47:29 19:13 28:16 ns 年齢(歳)* 68.4±13.2 69.5±15.3 67.7±11.7 ns APACHEⅡ score* 22.9±6.4 21.1±6.5 24.2±6.2 P<0.05 SOFA score* 9.4±3.4 8.9±3.6 9.7±3.2 ns Lactate(mmol/L)* 3.0±3.1 2.9±2.7 3.1±3.5 ns 市中感染:院内感染 37:39 23:9 14:30 P<0.05 ICU 退室時生存 72(94.7%) 32(100%) 40(90.9%) ns 感染源 消化器 31(40.8%) 27(84.4%) 4(9.1%) 呼吸器 23(30.3%) 1(3.1%) 22(50%) 皮膚軟部組織 10(13.2%) 2(6.3%) 8(18.2%) 血流 7(9.2%) 1(3.1%) 6(13.6%) 尿路 3(3.9%) 1(3.1%) 2(4.5%) 原因不明 2(2.6%) 0 2(4.5%) *:mean±S.D. 100% 80% 60% 40% 20% 0% 提出無 a.血液培養提出セット数 b.血液培養結果 c.陽性患者に対する血液培養再検 陰性 陽性 なし あり 1セット 2セット 100% 80% 60% 40% 20% 0% 100% 80% 60% 40% 20% 0% 外科的感染症 内科的感染症 外科的感染症 内科的感染症 外科的感染症 内科的感染症 図 2 血液培養の詳細

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る。自験例では外科的感染症,内科的感染症ともに 93%以上の症例で,ICU 入室後に血液培養を 2 セッ ト提出していた(図 2a)。 血液培養陽性率は,外科的・内科的感染症ともに 約 50%であった(図 2b)。また,血液培養から検出 された菌は表 4 のとおりであった。このうち,外科系 感染症では 7 例,内科的感染症では 4 例で,血液培 養から感染の原因菌と考えられる複数菌が検出され た。また,耐性菌の検出状況をみると,外科的感染 症では,Extended spectrum β─lactamases(ESBL) 産生菌が 2 例のみであったのに対し,内科的感染症 では MRSA 6 例,ESBL 産生菌 2 例,カルバペネム 耐性腸内細菌科細菌(CRE)2 例,メタロβ─ラク タマーゼ産生菌 2 例,2 剤耐性緑膿菌 1 例と多種・ 多症例に及んでいた。 さらに,血液培養陽性患者に対する追加の血液培 養(図 2c)は,外科的感染症では 62.5%で提出さ れており,その結果はすべて陰性化していたのに対 し,内科的感染症では 85.7%で提出され,5 例で同 一菌が持続陽性を示していた。外科的感染症におい ては,根治的治療である侵襲的処置が適切に行われ た場合には感染コントロールを行いやすいのに対 し,内科的疾患では血液培養陽性時の血液培養フォ ローがより重要であることが示唆される。 3.初期投与薬の選択 Empirical therapy として投与された抗微生物薬 (抗真菌薬,抗ウイルス薬を含む)数は,外科的感 染症では 80%で単剤投与であったのに対し,内科的 感染症では約 50%で 2 剤以上の投与が行われてい た(図 3)。これは,外科的感染症では市中感染が中 心であるのに対し,内科的感染症は院内感染が多い ことを反映していると考えられる。3 剤以上の抗微 生物薬を投与した症例をみると,院内感染の呼吸器 感染症,化学療法施行や HIV 陽性,ステロイド投 与などの免疫抑制症例などが多く含まれていた。 投与された抗微生物薬の種類を検討すると,48 例 (63%)で MEPM が用いられ,最多であった(図 4)。 表 4 血液培養検出菌 外科的感染症 (n=16) 内科的感染症(n=21)

Streptococcus species 4 MSSA 2

Coagulase negative staphylococcus 3 MRSA 3

Gemella 1 Coagulase negative staphylococcus 3

Bacillus 3 E.faecalis 2 Eubacterium 1 St.pneumoniae 1 E.coli 3 Bacillus 1 K.pneumoniae 2 Propionibacterium 1 Bacteroides 3 Enterobacter 4 Clostridium 2 K.pneumoniae 3 C.albicans 1 E.coli 1

Collinsella aerofaciens 1 Serratia marcescens 1

A.baumannii 1 P.aeruginosa 1 C.albicans 1 ※複数菌検出 外科系感染症 7 例,内科系感染症 4 例 図 3 empirical therapy 投与抗微生物薬数 100% 80% 60% 40% 20% 0% 1剤 2剤 3剤 4剤 5剤 外科系感染症 内科 系 感染症

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他のカルバペネム,Tazobactam/Piperacillin(T/P), 第 4 世代セフェム系を含む広域抗菌薬が投与された のは,外科的感染症で 30 例(93.8%),内科的感染 症では 37 例(84.1%)となり,敗血症の診断を満 たす重症感染症においては,ほとんどの症例で広域 抗菌薬が投与されていることが明らかとなった。ま た,キノロン系薬は呼吸器感染症に用いられる傾向 があった。また,抗 MRSA 薬の併用は,外科系感 染症で 4 例(12.5%),内科的感染症で 21 例(47.7%) に行われ,抗真菌薬はそれぞれ 3 例(9.4%),5 例 (11.4%)であった。初期治療薬の選択においては, 重症度や患者背景に加えて,感染巣から予測される 原因菌を考慮し,広域抗菌薬の選択や抗 MRSA 薬 や抗真菌薬の併用の必要性をより一層考慮すること が重要であると考える。 さらに,血液培養あるいは感染巣の培養で陽性と なった 61 例のうち,empirical therapy で投与した 抗微生物薬が適切であったかどうかを検討したとこ ろ,4 例(6.6%)で不適切であった。その原因は, 高度耐性菌が 2 例,感染巣の原因菌としては通常検 出されない菌の検出が 2 例であった。そのうち,1 例は ICU 入室中に死亡したが,残り 3 例は生存した。 4.de ─escalation の施行状況 第 4 世代セフェム,T/P,カルバペネム系のいず れかの広域抗菌薬を投与した 71 例における de─es-calation の施行状況を表 5 に示す。De ─ esde─es-calation を施行できたのは外科的感染症で 50%,内科的感染 症 58.5%であった。De─escalation の後ろ向き観察 研究においては,ほとんどの症例で de─escalation 施行率は 22 〜 50%程度と報告されている2)29)35)36) また,院内発症の重症敗血症患者に対する抗菌薬治 療では,感染症専門医の協力がある環境においても de─escalation の実施は 50%未満であったとの報告 もある37)。これらの報告と比較しても,当 ICU で の de─escalation 率は同等であった。

De─escalation の内容は,empirical therapy で 1 剤投与症例が多数を占めた外科的感染症では狭域抗 菌薬への変更が大部分を占め,複数薬投与症例が多 かった内科的感染症では,狭域抗菌薬への変更と複 数薬のうち一部薬の中止が同程度にみられた。また, de─escalation を施行した日数は,外科的感染症で 7.2±3.4 日,内科系感染症では 5.7±2.0 日で,外科 的感染症のほうが遅い傾向にはあるものの統計学的 有意差は認められなかった。一方,de─escalation が施行されなかった症例の理由を検討したところ, 感染源あるいは原因菌不明,感染コントロールが不 良で病態改善が見られない,重複感染巣有り,免疫 抑制患者であるなど,de─escalation を検討したに もかかわらずやむを得ず de─escalation できなかっ た症例が大半を占めた。しかしながら,一部には明 らかな理由が不明であった症例もあった。また, de─escalation 施行の日数も長い傾向にあり,感受性 判明から時間を要している症例も少なくなかった。 これらの結果より,われわれの初期抗菌薬投与は 患者の救命には十分に寄与できていると考える。し かしながら,初期抗菌薬として広域抗菌薬が用いら れた割合は 88.2%と非常に高率であった。敗血症を 呈した重症患者が対象ではあるが,全例で広域抗菌 薬が必要であったであろうか?“とりあえず”の広 域抗菌薬投与を行っていないであろうか?重症患者 であっても感染症診療の基本的ロジックに即し,感 染巣から想定される原因菌を網羅する抗菌薬を使用 することが重要であると考える。実臨床においても これらの点を考えながら,個々の患者の重症度によ り抗菌薬の選択を滴定することにより,救命率を保 ちながらも広域抗菌薬の使用を減少させることも可 能ではないかと思われる。 一方,重症患者では de─escalation の施行が躊躇 される状況が多岐にわたることが明らかになった。 また,狭域抗菌薬への変更は,複数薬のうち一部薬 の中止に比べ遅くなりがちな傾向もみられた。重症 患者においては,感染症の経過と炎症所見の改善が 比例しないことも少なくないが,それぞれの感染症 に付随する症状や所見を注意深く観察し,常に de─ escalation の可否について検討することにより,さ らに適切な de─escalation を推進する余地は残って いると考える。 ま と め 救急・集中治療領域においては,目の前の重症感 染症患者の救命という命題の一方で,社会的に耐性 菌出現を抑制しなければならないという使命も負っ 図 4 empirical therapy 投与抗微生物薬種類 60 患者数 (人) 50 40 30 20 10 0 外科的感染症 内科的感染症 MEPM T/P 他のカルバペネム 第 4 世代セフェム 他の β ラクタム 他の抗 MRSA 薬 抗真菌薬 抗ウイルス薬 他の抗菌薬 LVFX VCM

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ている。そのためには,想定される原因菌をすべて 網羅できる初期抗菌薬を,適切な種類のみでなく適 切な量の早期投与を行うこと,原因菌の同定および 感受性判明後に de─escalation を行うことが必要と される。重症患者においては,理論通りに de─es-calation を進められない要因も少なくないが,AST や ICT,ICU 専従薬剤師とも協力し,感染症診療 の基本的ロジックに即して常に de─escalation の可 否について考慮し続けることが重要と考える。 本論文において,開示すべき利益相反はない。 文  献

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To save severely septic patients and simultaneously prevent the emergence of resistant bacteria, antibiotics should be administered empirically and then de─escalated promptly, after bacterial susceptibility is confirmed. De─escala-tion therapy for septic shock is a safe strategy associated with lower mortality ; however, its incidence is not high in Intensive Care Units(ICU). From 76 patients admitted to our ICU with a diagnosis of sepsis, most of surgical pa-tients were infected with community ─ acquired agents including digestive infections. Broad ─ spectrum antibiotics were used empirically in > 90% patients ; approximately 20% surgical patients received more than one drug. The adequate rate of empirical therapy was about 95%. Antibiotic de─escalation therapy was performed in 50% of cases receiving broad ─ spectrum antibiotics. There were various reasons behind the hesitancy to apply de ─ escalation therapy to severely ill patients: unknown causative agent, no visible improvement of pathological conditions, pres-ence of multiple infection foci, and immunosuppression. In order to promote the proper use of antibiotics in ICU, in addition to a strong cooperation between clinicians, antimicrobial stewardship team, and ICU ─ dedicated pharma-cists, critically ill patients’ treatment should be carried out rationally in accordance with the basic treatment logic for infectious diseases, and in parallel a rapid bacteria diagnostic method should be applied.

Chizuru Yamashita1), Takahiro Kawaji1), Tomoyuki Nakamura1), Kiyohito Ishikawa2), Osamu Nishida1)

Department of Anesthesia and Critical Care Medicine, Fujita Health University School of Medicine1)

Department of Quality and Safety in Healthcare Division of Infection Control and Prevention, Fujita Health University Hospital2)

参照

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