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現代日本語における接続辞の研究 ―〈範列条件関係〉を表す場合―

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現代日本語における接続辞の研究 ―〈範列条件関

係〉を表す場合―

著者

劉 川?

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第18976号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00128177

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博士論文要約

現代日本語における接続辞の研究

―<範列条件関係>を表す場合―

東北大学大学院文学研究科言語科学専攻国語学専攻分野 劉 川菡 現代日本語では、語彙的意味を表し、実質名詞として働く一方で、文法的機能を有し、接続 辞のように振る舞う語が存する。本論は、そのような語から「以上」「かぎり」「あたり」「点」 「場合」という5 つを取り上げ、「名詞用法と接続辞用法との関わり」を中心視点として、5 語 の<接続辞としての在り方や位置づけ>を考察したものである。章ごとの内容を概括すると、 以下のように記すことができる(図の番号は初出の番号である)。

1. 序論各章の概要

本論の序論は、第1 章「はじめに」、第 2 章「研究対象の確定」、第 3 章「研究の視点」、第 4 章「文法化研究との関係」の 4 章から構成され、本論の問題意識、研究対象の位置づけや研 究視点を示した。 【第1 章 はじめに】 第1 章ではまず、本論で扱う接続辞が一般的な接続辞と区別され、(1)のように「品詞性の二 重性」がみられるという特徴を述べ、本論の出発点を示した。 (1) 「以上」「かぎり」「あたり」「点」「場合」のように、本論は「接続辞用法以外に名詞 用法を同時にもつ」という類の接続辞を対象とする。この類の接続辞が節を構成して 働く際に、構成した節は分析の視点によって、①複文の従属節として文中での機能を 問うならば、「副詞節」となるのに対して、②複文から切り出して単独で見ると「名 詞節」となるというように、二重の品詞性が認められる。 次に、この類の接続辞は日本語に多く存在するが、従来の接続辞体系に組み込まれていると は考えにくく、本論と同じくこの点を目指す研究は少ないが、村木(2012)があげられること を述べ、研究対象として一定の研究価値が認められていることを示した。

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続いて、村木(2012)で特に本論の参照となるところを示し、それを踏まえて本論の研究目 的を以下の<1>と<2>とまとめた。最後に、本論の構成を記した。 <1> 名詞用法の在り方、接続辞用法の在り方、名詞から接続辞に変化する仕組み(以 下、「接続辞化の仕組み」と呼ぶ)という3 つの面に分けて、各形式の接続辞としての 独自性を解明する。 <2> 上記<1>に基づき、この類の接続辞を従来の接続辞体系においてどのように位置 づけるべきかを明らかにする。 【第2 章 研究対象の確定】 第2 章はまず、本論における「接続辞」の定義を示した。具体的に示すと(2)のようになる。 (2) 複文は先行節と結合部と後続節からなるが、先行節と結合部を合わせたものを従属 節、後続節を主節と呼ぶ。このような従属節が主節に対して副詞的にかかっていく場 合に、この結合部のことを「接続辞」と呼ぶ。 次に、「本論で対象とする接続辞の範囲」、つまり、接続辞のうちどんなものが本論の対象と なるのかを示した。そのために「接続辞の分類」を行ったが、具体的には「詞的な要素を含む か否か」を第1 基準として、接続辞をまず「A 類」と「B 類」と二類型化した(図3 参照)。 その上で、「構成したのは並列的な複文か従属的な複文か」という第2 基準を導入し、図 3 の 2 類型を図 5 のように 4 類型化した。 図4 本論が考える「複文の構成」 従属節 結合部 先行節 + 主節 後続節 + 接続辞 (A)辞的な要素だけを含む類 (B)詞的な要素を含む類 図3 本論が考える「A 類接続辞」と「B 類接続辞」の 2 類型

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その結果、本論の研究対象の範囲は図5 の黒枠が示すように、「従属的な複文を構成する、 詞的な要素を含むB 類接続辞」と明らかにした(以下「B 類接続辞」と略称)。 しかし、図5 で明らかにした特徴づけでは、本論の研究対象「B 類接続辞」の位置付けが明 らかになったかと言うと、そうではない。なぜなら、こういう「①詞的な要素を含む、②従属 的な複文を構成する」接続辞は従来どのように扱われてきたかという側面を見る必要がある からである。なお、先行研究を見る限り、接続辞の分類は「従属節の種類」という視点によっ て行われるのが一般的であるため、先行研究に関する調査は「従属節の分類」に関するものを 対象とした。 調査の結果、「従属節の分類」に関する先行研究は「分類を行う際に採用した基準」によっ て2 種類分けられる。一つ目は「先行節の係り先」を基準として、連体修飾節を特立するタイ プであり、二つ目は「先行節+結合部」を基準として、機能上単文のどの成分に相当するのか をもって分類するタイプである。一つ目のタイプとして仁田(1987)、前田(2009)や村木(2012) をとりあげ、二つ目のタイプとして寺村(1981)、益岡・田窪(1992)と高橋ほか(2005)を とりあげ分析を行ったが、前者の基準に従うと、本論の研究対象が「連体節」になったり「連 用節」になったりするという問題点がみられるのに対して、後者の基準での分類によれば、本 論の研究対象を他の接続辞と区別できていると考えられる、ことを明らかにした。 後者のタイプのうち高橋ほか(2005)は特に本論の参考となる(次頁の図14 参照)。同論の分 類は工藤(2002)が取り上げた「文の成分」という概念に基づくと考えられる。 図14 の「複文(2)」という部分に注目されたい。「条件節」や「譲歩節」は普通複文(1)の「原 因・理由」「目的」などを表す「状況語節」に入るものであるが、ここでは新しい枠を立て「状 況語節」と区別して扱われている。この操作は高橋ほか(2005)の研究目的にそう設定である が、本論にとって必ずしも適切であると限らない。本論の立場は「原因・理由節」と「条件節」 を完全に切り離して扱うという考え方は取らない。 接続辞 並列的な複文 A類:が、し、けど、… B類:一方、傍ら… 従属的な複文 A類:から、からには、ながら、… B類:時、瞬間、場合、以上、限り… 図5 本論で対象とする接続辞の範囲

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以上の理由で、本論は新しい分類を行った。新しい分類は高橋ほか(2002)の基準を尊重し、 つまり、同じく工藤(2002)の「文の成分」に従って分類しながらも、「条件節」などを別枠 に設定しない分類と理解してよいだろう。具体的に示すと、図18 のようになる。 図 18 本論における従属節の分類 従属節 中核的な成分 述語節 基本的な成分 主語節 補語節 任意的な成分 状況語節 修飾語節 規定語節 複合文 重文 複文 複文(1) 規定語節 主語節・補語節 述語節 修飾節 状況語節 場所を表す ときを表す 原因・理由を表す 目的を表す 複文(2) 条件節 譲歩節 図 14 高橋ほか(2005)における従属節の分類

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図18 によると、本論の研究対象は任意的な成分に属する「状況語節」という位置づけにな る。品詞別で言えば「状況語節」とは「副詞節」に相当する。このように、本論の研究対象「B 類接続辞」は、 ① 詞的な要素を含む ② 副詞節を作る という2 点を同時に満たす語である、と明らかにした。図で示すと、下記の図 19 で示せる。 最後に、本論で「B 類接続辞」のうち「以上」「限り」「あたり」「点」や「場合」の 5 語を 対象としてとりあげる理由を述べて、第2 章を終えた。 【第3 章 研究の視点について】 第3 章は、「以上」「限り」「あたり」「点」や「場合」の位置づけを明らかにするにあたって 本論では研究視点をどのように設定するのかを述べた。結論からいえば、①B 類接続辞が繋げ る「先行節や後続節の意味的関係」を観察する以外に、②「名詞用法との関連性」を追究し、 2 つの視点を併用する方針を取った。前者の視点は従来の複文研究で馴染み深い視点であるが、 後者の視点は研究対象の「詞的な要素を含む」特質を生かさせ、文法化の考え方を接続辞研究 に取り入れる視点であり、本論の独自性が見えるところと言える。 その他に、研究目的が異なるが、本論と同じく「B 類接続辞」の「詞的な要素を含む」とい う特徴に注目した先行研究、森田・松木(1989)、寺村(1992)、村木(2012)を概観した。そ の際、なぜ上記①と②のように視点を設定するのかについても記した。 図 19 本論における「B 類接続辞の位置づけ」 従属節 副詞節 名詞節 形容詞節 本論の 研究対象 並列節 結 合 部 に 詞 的 な 要 素 を 含 む も の

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【第4 章 文法化研究との関係】 第4 章は、「文法化とは何か」に対して従来の説を整理しながら本論の立場を示した上で、 本研究と文法化の研究との関係を述べた。 まず、「文法化」は「内容語→機能語」のような言語の変化過程と簡潔にまとめるが、図21 のように「語彙的な意味→文法的な機能α」と「文法的な機能α→文法的な機能β」という2 つの段階に分けることができるという点を述べた。 次に、「以上」「かぎり」「あたり」「点」と「場合」という5 語の接続辞用法を明らかにする にあたって、①名詞用法と意味上の関連性、または②名詞用法から接続辞用法への派生プロセ スを目的解明の手掛かりとする点からいえば、本論は「共時的な観点を取る文法化研究である」 と認めていいが、以下の 2 点を考慮に入れればそのように断定できないことが明らかである ことを述べた。 ① 接続辞の研究としての本論では、実質名詞から接続辞までの特定の段階しか問題と しない。つまり、対象語の文法化プロセス全体をみるわけではなく、機能語化とい う区間だけを問題とする。 ② 「内容語→中間的段階→機能語」のプロセスをみる目的は「機能語」を「内容語」と 「中間的段階」と比較することによって、その用法・機能をより全面的に記述する 点にある。プロセスを分析する手続きを行ったのは、プロセス自体の解明ではな く、機能語の成立条件という側面から機能語の在り方を描くためである。 (別の文法的な機能への拡張) 機能語α+β+… 図21 本論の「文法化」に対する理解 無 強 さらに強い (文法化の度合い) (語彙的な意味をもつ要素) 内容語 (文法的な機能を担う要素) 機能語α 機能語化 多機能化

文 法 化

中間的段階

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2. 本論各章の概要

本論文の本論は、第一部「接続辞用法と名詞用法の繋がりをめぐって」と第二部「名詞の接 続辞化の機構をめぐって」からなる。 2.1 第一部について 第一部は第5 章「条件を表す接続辞「以上」の機能」や第 6 章「条件を表す接続辞「かぎり」 の機能」の2 章から構成される。B 類接続辞の中で条件表現と認められてきた「以上」と「か ぎり」をとりあげ、「従属節と主節の意味的関係」以外に「内容語用法との関連性」を視点に 取り入れ、2 語の接続辞機能を考察した。 【第5 章 条件を表す接続辞「以上」の機能】 第5 章は「以上」を対象として、まず『現代日本語書き言葉均衡コーパス(BCCWJ)』から 例文を収集し、「従属節と主節がどのような意味関係にあるのか」という複文の研究でよく採 用される視点を用いて、接続辞「以上」の用法を精査した。結果として、接続辞としての「以 上」には「根拠用法」「前提用法」「恒常条件用法」「一回的出来事用法」「事前対処用法」「経 験用法」という6 つの用法があると分かった(表1 参照)。 しかし、多様な用法には共通した一つの機能が存在する。「従属節の特徴」、「主節の特徴」 および「前後節の関係づけ」という三つの側面に分けて、6 つの用法の共通性を分析した結果、 接続辞「以上」の機能は、「確定している事態 P の成立を話し手が認める。それに基づいて、 Q が十分に成立しうる/Q が引き続き成立した」というように明らかにした。 表1 接続辞「以上」の用法 用法 「以上」文の意味 例文 根拠 P が成立した。それが根拠となって、Q が成立し うる。 養子として迎えた以上、織田家の後嗣に はするつもりはない。 前提 P が前提となって、その上で、Q という判断が成 立しうる(Q のようにすべきである)。 政権の生き残りを目指す以上、それを使 用する可能性は低い。 恒常 条件 P が成り立つ場合、Q も必ず成立する。 植物を育てる以上、害虫や病気はつきも のである。 事前 対処 P を実行するために、その事前対処に関する心構 えとしてQ をやるべきだ。 意見をする以上、相手を説き伏せるだけ の用意がなければならない。 一回 的出 来事 P が成り立った。この事実を受け止めたある人は その事実をもって、引き続いてQ のような行為 をした。 お前の嫁になった以上、きっぱり諦めた。 経験 P が示した内容を経験として受け止めた。この経 験を踏まえて、これからQ の示すようにやって いきたい。 ぼくもここまできた以上、なんとしてで も頭取を経験したい。 一方、「以上」は「五千円以上の寄付」のように、「ある数量や程度より上」という意味を表 し、内容語として働く用法をもつ。機能語として働く接続辞用法は内容語用法から「文法化」

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によって変化してきたものと考えられる。その点で、「内容語とどのように関わるのか」とい う文法化の側面からも接続辞「以上」を考察した。 それにあたって、まず先行研究を踏まえて、内容語としての「以上」の基本的意味を整理し た。結果として、内容語「以上」には「意味A」(前接要素を基準とし、それを超える。ex.「二 百人以上の患者」「裏付け取材が予想以上に難航した」)と「意味 B」(前文脈を指し示すとい う意味を持ち、前文脈に述べた内容の成立を認める。ex.「以上です」「以上、食物に対する二 つの立場が紹介された」)という二通りの意味が分けられるが、「~を最低限界として認める」 というファクターを共通してもっており、二通りの意味は「ある基準より上の範囲を区切って 示す」と一つの基本的意味にまとめられることを明らかにした。 最後に、上で明らかにした「以上」の接続辞機能は「前提⇔当然的な帰結」と簡潔にまとめ られ、内容語としての「最低限界やそれをもって区切ったより上の範囲」という基本的意味と は類似性があげられる点を論じた。 【第6 章 条件を表す接続辞「かぎり」の機能】 第6 章は第 5 章と同様の方法を用いて「かぎり」の接続辞機能を考察したものである。考察 の結果、接続辞「かぎり」には図29 のように、「量的限界用法」「時間的限界用法」「並行的事 態用法」「範囲用法」「承認事態用法」「選定事態用法」の6 つの用法があると分かった。 図23 接続辞「かぎり」の用法 しかし、6 つの用法には共通点があり、いずれも「従属節内容が指し示す範囲をとりあげ、 その範囲内全てにおいて、主節内容が成立する」といった関係を表している。それが「かぎり」 の接続辞機能と認められる。 接続辞としての「かぎり」は内容語「かぎり」から文法化を経て成立したものであり、接続 辞になっても語彙的意味から一定の影響を受けている。そこで、続いて接続辞化のプロセスと いう側面で、接続辞「かぎり」がどのように内容語「かぎり」と関連するのかについて検討し 時間的限界用法 並行的事態用法 範囲用法 承認事態用法 選定事態用法 想定的に捉える グループ 「 か ぎ り 」 節 の 表 す 内 容 に お い て 「 限 界 」 を ど う 捉 え る の か ? 既定的に捉える グループ 量的限界用法

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そこに含まれる「副詞的性格」を利用し、「先行する節を連用的に後続の節につなげる」とい った統語的な機能を獲得することによって、連体修飾を受ける用法(主名詞用法)から文法化し できたのであると明らかにした。 接続辞「かぎり」は「以上」と同様に、従来条件表現と位置付けられてきたが、BCCWJ か ら収集したデータを分析してみると、そのように言い切ることはできない、ことが明らかにな った。しかし、2 語に条件的な意味が生じることには理由がある。具体的には、「以上」は「基 準より上の範囲⇔基準より下の範囲」と、「かぎり」は「限界より内の範囲⇔限界より外の範 囲」というように、2 つの対立しあう「範囲」を作るファクターが語彙的意味に含まれている 点があげられよう。 2.2 第二部について 第二部は第7 章「場所を表す名詞「あたり」の接続辞化」、第 8 章「「あたり・点・以上・か ぎり」からみる<範囲>を表す名詞の接続辞化」、第9 章「範列関係を表す接続辞の条件性」 や第10 章「名詞「場合」の接続辞化にみられる<範列条件関係>」の 4 章から構成される。 具体的にはまず、「名詞の接続辞化の機構」という視点で考察を行って、範囲を表す名詞が条 件性をもつ接続辞になりやすい現象の内実を明らかにし、接続辞体系の中に<範列条件関係 >を表すものの存在を論じた【第7~8 章】。そしてさらに、<範列条件関係>を表す接続辞の体 系の構築を試みた【第9~10 章】。 【第7 章 場所を表す名詞「あたり」の接続辞化】 「範囲」を表す名詞には第一部で述べた「以上」と「かぎり」以外にもう一つの類が存在し、 「あたり」と「点」という2 語があげられる。二つの類は「範囲の作り方」という点で区別さ れる。前者の類は「限界」をもって全体を二分化して、片方をとりあげて範囲とするのに対し て、後者の類は「焦点」をもって、それを取り巻く一定の幅をもつ範囲を表すものとなる。第 7 部ではまず後者の類に注目し、「あたり」を中心対象としてとりあげ検討を行った。 「あたり」は例えば「現在の本丸休憩所のあたりに将軍の食事を整える大台所があった」の ように、将軍の大台所の存在するところを漠然と示し、場所(=物理的な範囲)を表す名詞であ る。ただし、BCCWJ から収集したデータをみると、下記の(3)のような用法が存在する。こ の場合には「あたり」節に副詞節化が起こり、「あたり」が「接続辞化」する傾向がみられる。 (3)相手のペースにはめられたあたり、谷川さんらしくないなぁ。 (七色の逃げ水) このように、名詞が修飾節を伴って名詞節を作る際、助詞を介在せずに主節を直接修飾し、 接続辞のように振る舞う現象について、寺村(1992:301)はその原因について「相対性を表す 名詞は本来副詞的な性格をあわせもっている」というように指摘した。そこで、本論第7 章は 寺村(1992)を踏まえて、まず「語や句」と共起する場合と「節」と共起する場合と分けて、

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場所を表す「あたり」の名詞としての在り方を分析し、さらに、接続辞用法はどのように名詞 節用法から派生したのか(=接続辞化の仕組み)を考えるという2 つのステップに分けて考察を 行った。その後、「あたり」の接続辞用法は場所を比較的明確に指示する「点」という語の接 続辞用法(=(4))とどう異なるのかという点についても述べた。 (4) すなわち先に述べた陳寿の『三国志』の裴松之注である。裴松之は百五十六種の資料 を収集して、本文三十五万八百三十三字に対して、三十二万二千六百四十三字におよ ぶ注を完成して、宋の文帝に献上した。注の字数が本文の字数に迫っている点、その 精力的な仕事ぶりが察せられる。 (三国志と日本人) 結果としては、「あたり」には時空間表示、部分提示という2 つの基本的な用法と、前文脈 指示、他項暗示という2 つの比較的周辺的な用法が存するほか、節と共起してはじめて生じる ものとして、前文脈評価用法が観察された。「あたり」の接続辞化は、前文脈評価用法におい て「あたり」節に副詞節化が起こることによる現象であり、副詞節化を引き起こす要因は、評 価対象を選び出す範列の在り方の曖昧化という点にある、ことを明らかにした。なお、接続辞 「あたり」は一種の婉曲表現であって、自分の主張や意見をやわらかく提示する時に使われる のに対して、「点」節は明示的なので、自分の主張や意見を強く提示する時に使われるという ことも明らかにした。 他方、寺村(1992)で指摘された「相対性」は、「共起要素を範列の一項目としてとりあげ て明示し、それと同時に同範列の他項目を暗示する」というように理解でき、「範列」という 概念の存在を前提とするものであると分かった。 【第 8 章 範囲を表す名詞の接続辞化からみる〈範列条件関係〉を表す接続辞の成立 ―「あたり」「点」「以上」「限り」を対象として―】 第8 章は「あたり・点」と「以上・限り」を対照しながら、<範囲>を表す名詞が条件性を 表す接続辞になりやすい現象の内実を明らかにしたものである。 考察の結果、「あたり・点」と「以上・限り」には<範囲>という実質的意味を表す基本的 用法以外に、語彙的意味が希薄化した派生的用法があること。派生的用法では「あたり・点」 と「以上・限り」はそれぞれものレベルの項目か、事態レベルの項目かを想定する点で相違点 がみられるが、いずれも複数の候補から目標項目を選び出すというように使われており、「範 列意識」をもつと考えられること。「範列意識」は具体的に、「臨時的に複数の項目を想定し、 各項目に自分なりに軽重差をつけて、最も「重」と思われる項目に焦点をあててとりあげ提示 する」となっており、先行研究で「副詞的性格」といわれる性質に相当することを明らかにし た。

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「語や句」 「節」 名詞性 副詞性 図27:<範囲>を表す 4 語の接続辞化の機構 図27 から、4 語は名詞として、<範囲>を意味する基本的用法の他に、語彙的意味が希薄化 した派生的用法があること。派生的用法では「前接要素の節化」する現象があり、その際には 4 語は<副詞的性格>を受け継ぎ、複数の事態から 1 つの事態を選択するという形式名詞節を 構成して働くものとなること。そういう名詞節に、さらに副詞節化が起こると、4 語は主名詞 から接続辞へ変質し、接続辞として成立することが分かる。 接続辞化の機構を明らかにした後、本章は接続辞となった4 語の在り方を究明し、その上で 類似性がみられる「複合副助詞」というグループと対比することによって、4 語の位置づけに ついて明らかにした。結果は以下の(5)のように示せる。 (5) 接続辞としての 4 語は範列関係を表す副詞節を作るものといえる。類似したものと して、丹羽(2007)で提示された「複合副助詞」もあげられる。ただし、副詞節とし て主節を修飾する際「条件」的な意味が読み取れる点で、4 語は複合副助詞と異なっ ており、<範列条件関係>を表す接続辞と位置づけられる。 なお、<範列条件関係>を表す接続辞の存在を論じた後、本章はさらに「構成した複文の条 件性の有無」という点で「あたり・点・以上・限り」と「複合副助詞」が区別されるが2 類型 に共通性があるという点に注目して、「範列関係を表す複文」という体系の可能性について述 べた。その体系は以下の表2 のように簡略に示せる。 語彙的意味が働く基本的用法 (ex. 東北のあたり) <副詞的性格(性格 A+性格 B)>が働く 派生的用法 (ex. 萩原聖人あたり) 事態レベルの範列を想定して一項 目を選出するというように働く形 式名詞節用法 (ex. よかれと思って言っている言葉が人を傷 つけるあたりは) 範列条件関係を表す接続辞用法 (ex. 視線を逸らすあたり) 前接要素 範列項目の事態化 名 詞 節 の 副 詞 節 化 品詞性 前接要素の節化 本章で対象としない (ex. 明後日あたり出来るらしい) 範 列 の 曖 昧 化 ・ 〈 副 詞 的 性 格 〉 の 統 語 化

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【第9 章 範列関係を表す接続辞の条件性について】 第9 章では同じように範列から項目を選択して複文を作るものとして、なぜ「以上・限り・ あたり・点」の場合には「条件性」がみられ、「複合副助詞」の場合には「条件性」がみられ ないのか、という点から出発し、<範列条件関係>を表す接続辞に「条件性」が生まれる理由 を明らかにしたものである。 考察の際にはまず、①範列の項目の在り方はどうなっているか、②典型的に範列を表すもの である「とりたて詞」に、条件性を表せるものと表せないものという分化が見られるのはなぜ か、③一般的条件文に存在する「条件性」とはどういうことなのか、という3 点にわけて考察 し、以下の(6)を明らかにした。 (6) 範列から 1 項目をとりたてるという働き方は、上記範列条件関係類と「複合副助詞」 類以外、とりたて詞と一般的条件文にも見られる。それらの場合、「主題化」が「条 件性」を引き起こすポイントとなっている。 また(6)を踏まえ、「主題化」の有無という点から、2 つの類型を再考察し、以下の 2 点を明 らかにした。 (7) 「範列条件関係類」が作る複文は「範列から 1 項目をとりたてて主題化し、そのも とで評価を行う」ものと理解でき、「主題化」が確実に含まれている。 (8) 「複合副助詞」類は「対立的に扱われる 2 つの項目を特定の意味に関係づける」も のであり、「主題化」が含まれていない。従って、「範列条件関係類」と区別され、 「範列項目関係類」と位置付けられる。 他方、上記の考察の結果、本章は「範列条件関係類」と「範列項目関係類」ないし「とりた て詞」「一般的条件接続辞」がどのような関係にあるのかという点についてもある程度明らか にした(表3 参照)。 表2 範列関係を表す複文の体系 類型 該当形式 共通性 相違性 範列条件関係類 以上・限り(相反項目選択類) 範列から項目を選択し て従属節を構成する方 法で複文を作る。 条件性・強 あたり・点(多項目選択類) 条件性・弱 範列項目関係類 代わりに…(複合副助詞) 条件性・無

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【第10 章 名詞「場合」からみる<範列条件関係>】 第10 章は同じく範列条件関係を表す接続辞でありながら、<範囲>を表さない「場合」が <範囲>を表す4 語「以上」「かぎり」「あたり」「点」とどう異なるのか、を明らかにしたも のである。考察の結果を示すと、以下の3 点となる。 (9) 最も大きな相違は語彙的意味に範列意識が含まれるか否かという点にある。「場合」 は複数の項目から特定の1 項目をとりあげて、状況として提示する名詞として、語彙 的意味に「範列意識」が有する。それに対して、「以上」「かぎり」「あたり」「点」の 語彙的意味は<範囲>の意味しか存在せずに、複数の項目を想定する「範列意識」は 語彙的意味が希薄化してはじめて現れるのである。 (10) 接続辞化のプロセスという観点からも相違点がみられる。「範列意識」をもつ「場合」 では「接続辞用法」が「副詞句用法」によって派生するのに対して、<範囲>を示す 4 語では「名詞節用法」によって「接続辞用法」が派生するとみられる。 (11) 範列条件関係を表す接続辞体系での位置づけとして、「場合」は「以上・かぎり」と 「あたり・点」の中間に位置すべきと考えられる。なぜなら、範列にある項目の数と いう点からみれば、「場合」は多項目選択類に属し、「あたり・点」と類似している。 しかし、構成した複文に条件性の強弱という点からみれば、「場合」は強い条件性を 有しており、「以上・かぎり」と類似している。 最後に、今後の課題として、範列条件関係を表す接続辞には「以上」「かぎり」「あたり」「点」 や「場合」という5 語以外に他の語があるのかを中心として、範列条件関係を表す接続辞の体 系をさらに充実していきたい、という点を述べた。 表3 「範列条件関係類」「範列項目関係類」「とりたて詞」「一般的条件接続辞」の関係 類型 該当形式 従属節に示す項目の属性 条件性 範列関係 とりたて 主題化 有無(強弱) 範列項目関係類 代わりに・を除いて… 〇 〇 × × 範列条件関係類 あたり・点 〇 〇 〇 〇(弱) 以上・限り 〇 〇 〇 〇(強) 一般条件接続辞 なら、ば、と、たら 〇 〇 〇 〇 とりたて詞 主題化:は、なら… 〇 〇 〇 〇 その他:だけ、まで… 〇 〇 × ×

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3. 結論各章の概要

本論の結論は「第11 章 本論のまとめ」と「第 12 章 本研究の意義及び今後の課題」の 2 章から構成される。第11 章では各章で論じた内容の概要を記す上で、本論文の結論をまとめ た。第12 章では本研究の意義や今後の課題について述べた。

4. 本論の結論

接続辞は、複文を構成する際に欠かせない機能語であり、二つの節を特定の意味的関係で結 びつけるというように働く。先行研究では、「時」「原因・理由」「条件・譲歩」「様態」「目的」 「程度」「逆接」などのように、「構成した従属節をどんな意味で主節に繋げるか」という点で 分類されるのが一般的である。一方、形式上接続辞は「辞的な要素だけを含む」タイプと「詞 的な要素を含む」タイプという2 つの類に分けられる。 序論で述べたように、本論は前者を「A 類接続辞」(ex.~なら、~からには)、後者を「B 類接 続辞」(ex.~場合、~くせに、~ところで)と呼び、後者の類を対象としている。理由としては、「B 類接続辞」は詞的な要素がもつ語彙的意味によって、構成した複文が「時」「原因・理由」「条 件」「目的」などと単純にまとめきれない意味を表していると考えられるからである。 そこで、本論は「以上」「かぎり」「あたり」「点」「場合」という5 語を具体的な研究対象と して考察を行い、結果として、「範列から1 項目をとりあげて条件とする」というように働く、 <範列条件関係>を表す接続辞の存在を明らかにした。具体的にいえば、以下のようになる。 <範列条件関係>を表す接続辞は「範列の在り方」によって 2 類型に分けられる。「以上」 「かぎり」の2 語は「相反項目選択類」であるのに対して、「あたり」「点」「場合」の 3 語は 「多項目選択類」である。言い換えれば、前者は2 つの相反関係にある項目から片方をとりあ げて条件文を作るのに対して、後者は同類関係にある複数の項目から 1 項目をとりあげて条 件文を作ると認められる。 他方、この5 語は、同様に条件文を構成して働くものであるが、「条件性の強弱」という点 で差がみられる。「以上」「かぎり」「場合」の3 語は条件性が強いのに対して、「あたり」「点」 の2 語は条件性が弱いものとなっている。以上の内容をまとめると、表 4 のように示せる。 表4 <範列条件関係>を表す接続辞の体系 類型 該当形式 範列の在り方 条件性 項目の数 項目間の関係 相反項目選択類 以上・限り 2 相反関係 強 多項目選択類 あたり・点 ≥2 同類関係 弱 場合 ≥2 同類関係 強

図 18 によると、本論の研究対象は任意的な成分に属する「状況語節」という位置づけにな る。品詞別で言えば「状況語節」とは「副詞節」に相当する。このように、本論の研究対象「B 類接続辞」は、  ①  詞的な要素を含む  ②  副詞節を作る  という 2 点を同時に満たす語である、と明らかにした。図で示すと、下記の図 19 で示せる。  最後に、本論で「B 類接続辞」のうち「以上」 「限り」 「あたり」 「点」や「場合」の 5 語を 対象としてとりあげる理由を述べて、第 2 章を終えた。  【第 3 章  研

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