第 667 回健康教育講座
「子どものアザの治療」
開催日 平成19年10月10日(水) 講 師 愛知医科大学形成外科 教授 横尾 和久 1)はじめに アザは、癌や心臓病などと違って直接生命を脅かす疾患ではない。しかしながら患者さ ん本人や家族にとってはしばしば深刻な悩みの原因となる。われわれの施設には、生まれ たばかりのゼロ歳児から中高年に至るまで様々な年齢層の患者さんがアザ治療の相談に訪 れる。その中には、年頃になってから50年以上毎日厚化粧で顔のアザを隠し続けてきた という女性もお見えになる。このような患者さんに接する度に、もしももっと早い時期に 治療できていれば随分と違った人生を送れたのではないかとつくづく思う。 現在では各種レーザー装置の導入により、ほとんどのアザが早期から治療可能となってき た。 2)アザ治療の歴史 19 世紀には、アザは治療方法が無かった。ゴヤの名画「カルロス国王一家」には、顔に 黒いアザを持つ王族の女性が描かれている。30 年前までは、アザ治療の中心は「切り取っ て縫い縮める」という手術であった。ある程度の大きさまでは切除縫縮が可能であったが、 それ以上の大きさとなると、皮膚移植するしか手だてが無かった。雪状炭酸療法といって ドライアイスをアザに押しつける治療法があったが、疼痛を伴う治療で、またしばしば瘢 痕を形成し満足する結果が得られなかった。これらの治療手段は10 歳以前では全身麻酔が 必要であり、そのため従来アザ治療は「もう少し年齢が大きくなるまで待つ」という考え 方が主流であった。 3)レーザー治療の導入 30 年前頃から各種のレーザー装置が開発され臨床応用が始まった。アザの原因となる色 素はメラニン(茶アザ・黒アザ・青アザ)あるいはヘモグロビン(赤アザ)である。これ らを選択的に破壊することができれば、皮膚に瘢痕を残すことなくアザの色調を薄くする ことができる。現在では、メラニンに対してはルビーレーザー(波長649nm)、ヘモグロビ ンに対しては色素レーザー(波長580nm)が主として臨床に用いられている。4)レーザーによるアザの早期治療 愛知医科大学病院でも、20 年前からアザのレーザー治療を開始した。レーザー治療は、 手術とは異なり2歳未満であれば全身麻酔不要である。手術が「大きくなるまで待つ」治 療法であったのに対し、レーザー治療は「できるだけ小さいうちに治す」治療法といえる。 レーザーといえども2歳近くになってくれば全身麻酔が必要となる。われわれは極力早期 に治療を開始することで、治療成績を向上させてきた。 5)ゼロ歳でのレーザー治療 ゼロ歳でレーザー治療を行う利点は、麻酔の問題以外にも、①皮膚が薄くて透明度が高 いのでよく効く、②アザの物理的面積が小さいので照射時間や照射回数が少なくてすむ、 ③あまり痛がらないので外来通院での治療が可能、④乳児医療なので無料、等があげられ る。 6)アザの種類別にみた治療成績 ① 青アザ 太田母斑は、Q スイッチルビーレーザー照射により 100%消すことが可能である。どの年 齢でもレーザーがきわめて有効であるが、治療に要する期間は、ゼロ歳児が数回の照射で 済むのに対し、成人では3年がかり(30 回以上の照射)になる。 異所性蒙古斑は自然に薄れるケースが多いが、お尻にある蒙古斑よりも濃い場合は自然 には消えないことがありレーザー治療の対象となる。何歳でもレーザーが有効であるが、 やはりゼロ歳のうちに済ませたほうが医療経済の面からもメリットが大きい。 ② 赤アザ 単純性血管腫は、ゼロ歳で治療を開始した場合の有効率が約6割であるのに対し、成人 になってからの有効率はわずか1割である。最近では生後1週間からの超早期照射の症例 が増えてきており、これによって有効率がさらに向上してきている。 いちご状血管腫は、従来「10 歳くらいまでに自然消退するから何もせずに待っていれば よい」といわれてきた。しかし、いちご状血管腫でも盛り上がりの大きい場合や皮下のし こりを伴うタイプでは、色調が消えても瘢痕が残る。生後6ヶ月までの増殖期のうちにレ ーザー照射することにより、瘢痕を残さずに早期に(幼稚園や保育園に入る満3歳までに) 治すことが可能となってきた。 ③ 茶アザ・黒アザ 茶アザ(扁平母斑)は治療がむずかしい。レーザー照射直後は薄れていても、時間が経 つと色調の戻りがみられることがある。年代別に有効率を調べると、ゼロ歳児では6割で 有効であるのに対し、成人では2割以下となってしまう。 黒アザ(色素性母斑)は、皮膚が薄くて透明度が高いゼロ歳児でのレーザー治療が有効 である。皮膚の深い部分にアザの細胞があるため瘢痕を残さずに消すことは現在のところ
不可能であるが、ゼロ歳児では瘢痕も目立ちにくい。巨大な黒アザでも早期に黒い色を薄 れさせておくことで家族の精神的負担も随分と軽減できる。後日手術により瘢痕を縮小さ せることでさらに満足した結果が得られる。