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「アジア市場での国際マーケティングの課題(論点整理)」

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はじめに

日本の裏庭とも言え,且つ,世界の成長センターであるアジア地域は,日本企業の 海外事業活動の中心であり,その重要性が増している。その中で,アジア諸国の経済 発展に伴う賃金水準の上昇から,経済発展に比較的先行した諸国では労働集約的な産 業の生産基地としての優位性が低下する一方で,市場としての魅力が高まっている。 特に中国は急速な経済発展の結果,賃金コストが上昇したことに加えて日中関係の悪 化もあり,ASEAN,インドなどへの分散投資を志向する「チャイナプラスワン」戦略 の必要性が叫ばれている。 この環境変化と日本の中堅・中小企業の課題に関しては,別の論文で既に述べた(舛 山,2014)。その中で,対象地域が中国から ASEAN,インドへと変わるが,日本の中 堅・中小企業の経営課題は基本的には中国におけるものと似ているということを示し た。中堅・中小企業特有の制約と利点の下でいかに新興国における国際経営を行って 行くかという課題である。 さらに,中堅・中小企業の国際経営の課題は基本的な内容は大企業のものと変わら ないと考えられる。なぜなら,冨山(2014)のいうように,グローバル化の下では,大 企業,中小企業の区別はあまり重要ではなくなり,むしろグローバル企業かローカル 企業かの分類の方が適切だと考えられるからである。製造業など貿易財を供給する企 業は,大企業か中小企業かを問わず,熾烈なグローバル競争に直面して,これに打ち 勝つ必要があるのに対して,多くのサービス企業などローカル市場で寡占的地位にあ る企業は,成長性があまりない代わりに事業環境は安定的だからである。従って,本

Seiichi MASUYAMA

舛 山 誠 一

Issues for International Marketing Strategies in Asia

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稿においては,特に中堅・中小企業に関して扱うことはせず,日本企業一般のアジア における国際マーケティングを想定する。 国際経営という枠組みで見ると,国際生産の重要性が相対的に低下する一方で,国 際マーケティングの重要性が高まっていると言える。本稿では,日本企業のアジアに おける国際マーケティングの課題に焦点を当てて,論点整理を試みる。図表1は,ア ジアにおける国際経営の枠組みを示したものである。 図表1.アジアにおける国際経営の枠組み (出所)筆者。 国際経営とは,全社的な統合・標準化のメリットを確保しながら,現地の立地環境, 本稿においてはアジアの立地環境,に適応した経営を行うことである。国際経営戦略 は,全社戦略と,国際マーケティング,国際生産,国際研究開発,国際人的資源開発な どの機能別戦略に分けられる。この中で,前述のように国際マーケティングの重要性 が高まっている。国際マーケティングとは,市場ターゲティング,製品,価格,プロ モーション,流通などの企業がコントロール可能なマーケティング手段を,企業とし ての統一性を保ちながら,企業がコントロールできない現地の環境にいかに適応して 成果を挙げるかということである。適応すべき現地の環境の主なものは経済,政治, 文化であり,他に企業間競争,技術トレンドなどがある。 方法論的には,アジアにおける国際マーケティングに関連した書籍,論文,雑誌・ 新聞記事の内容を,上に示した枠組みに従って整理して,論点の整理を試みた。 第1章においては,日本企業が適応を迫られるアジアの経済,政治,文化などの環 中堅・中小企業 の特質 現地適応 全社統合 全社戦略 機能別戦略 国際マーケティング 国際生産 国際人的資源管理 その他 国際経営 アジア 立地環境

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境の特徴とその国際マーケティングとの関わりについて述べる。第2章においては, 第1章で述べたようなアジアの環境の下で,市場ターゲティング,市場参入モード, 商品戦略,価格戦略,流通戦略,プロモーション戦略などの日本企業の国際マーケティ ングの現状と課題について述べる。第3章は,以上のまとめである。

1.アジアにおける環境変化と国際マーケティング

1.1.アジアの経済環境の国際マーケティングへの影響

1.1.1.高成長下における中間層の台頭 アジア経済の高成長によって国民の所得が増加し,消費意欲の旺盛な中間層 の 規 模 が 拡 大 し て い る。1 人 当 た り 国 内 総 生 産(GDP)が 3,000 ドル を 超 え る と,家電製品や自動車などの耐久消費財の需要が本格化すると言われる。ボスト ン・ コンサルティングは,インドネシアにおいて家計支出(外食や余暇を除く)が 月200 ~ 500万ルピア(約2~5万円)を中間層と定義するが,この層が 2020年には 現在の2倍の1億1,750万人に拡大すると予測しているⅰ)。インドにおいては年間所 得100万ルピーii)以上が高所得世帯,18万ルピー以上100万ルピー未満が中所得世帯, 18万ルピー未満が低所得世帯と分類されるが,日本メーカーの主なターゲットとなる 中所得世帯が,野村総合研究所の予測によると 2010年の約4,100万世帯から 2020年 には約7,800万世帯に拡大する(渡辺等,2013)。 このようなトレンドの国際マーケティングへの影響としては,市場ターゲティング において,世界市場の中でアジア市場のウェイトを高める動きが出ることと,アジア 市場の中でこのような中間層に重点を置く動きが出ることである。製品戦略において も,このような層に適応するような製品を開発・投入する必要があることを意味する。 主要なターゲットとなる,このアジアの中間層は日本などの先進国の中間層より低 所得なので,機能,品質を絞った低価格の商品を提供することが必要である。いわゆ るボリュームゾーン市場対応製品を提供する必要性が高まる。 1.1.2.アジア経済の多様性 上記に加えて,アジア経済の第2の特徴は,その多様性である。各国経済の規模, その豊かさの程度,各市場内の地域的格差など,極めて多様性に富む。 経済規模から見ると,中国のように日本の倍ぐらいの規模の国,それに次ぐ,イン ド,インドネシアのような国がある一方,ラオスのように中国の,1,000分の1程度の 規模の国まで,大きな差が存在する。ASEAN の国々は,その経済規模は中国の1省

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並みである。 各国間の所得格差も大きい。シンガポールのような1人当たり所得が日本以上の 国,マレーシアのように1万ドル以上のような国,中国,タイ,インドネシアのように 3,000 ドルから1万ドルの間の国,フィリピン,ベトナム,インド,パキスタンのよう に 1,000 ~ 3,000 ドルの国,カンボジア,ミャンマー,バングラデシュのように,1,000 ドル未満の国のように様々な所得レベルの国が存在する。 また,国内の所得格差も拡大傾向にあり,ジニ係数で見ても日本や欧米諸国に比べ てかなり高くなっている。特に中国の所得格差が大きい(舛山,2014)。また,この所 得格差は,都市と農村などの地域間,都市内・農村内などの地域内でも大きい。 このようなアジア経済の多様性の国際マーケティングへの影響は,市場ターゲティ ング,製品戦略の分野に及ぶと考えられる。 市場ターゲティング関しては,先ずは,このように極めて多様な各国市場をどのよ うに細分化し,そのどの市場あるいは市場の組み合わせをターゲットとするかという ことが極めて重要性を持つが,それは複雑で急速に変化するので難しい。一般的に, 現在の市場規模の大きなところほど魅力的であり,中国,インド,インドネシア,タイ などの人口大国の市場が,人口と1人当たり国民所得の乗数の程度に応じて魅力的で ある。また,成長性の高い市場ほど魅力的である。アジア諸国の雁行的発展のパター ンから一般的に後発国ほど高い成長を遂げる傾向がある。これまでは,中国の成長率 が圧倒的に高かったが,今後は減速し,ベトナム,ミャンマーなどの ASEAN後発国 やインドの成長性が相対的に高くなると予想される(舛山,2014)。 さらに,国内の所得格差が大きい中で,どのように市場を細分化して,どの所得階 層をターゲットにすべきか,という課題がある。 中間層が台頭して重要なターゲット市場となることを述べたが,他方では,所得格 差の大きさから富裕層のシェアも高く成長性も高い。増大する富裕層にも大きなビジ ネス機会が存在する。しかも,この層の求める商品は日本などの先進国市場で一般的 な商品と似ていることから,この層をターゲットとするメリットも大きい。そして, まだまだ大きな人口規模の低所得層市場にも大きなビジネス機会が存在する。いわゆ るBOP市場である。 製品戦略への影響に関しては,市場の発展段階,また1国の中の所得階層によって 需要される商品が異なり,これへの対応が必要になることが挙げられる。個々の国の 発展段階に応じて投入製品を変化させることも必要になる。 1.1.3.アジア経済の雁行性 アジア経済の第3の特徴は,経済発展の雁行性である。後発国が先発国を追いかけ て,産業構造を踏襲しながら発展するという雁行性を持っている。日本からアジア へ,NIEs から ASEAN・中国へ,中国・ASEAN先発国から ASEAN後発国への流れ

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が存在する。また,それは国単位だけではなく地域的にも当てはまる。中国の沿海部 から内陸部へ,ASEAN の中でタイなど先発国から周辺のインドシナ半島へという, 「海のアジア」から「陸のアジア」への成長センターのシフトがあるとの見方もあるiii) このような雁行的発展パターンの背景として,キャッチアップ成長と人口動態の複 合作用がある(舛山,2014)。一般的に,所得レベルの低い後発国(あるいは後発地域) ほど,キャッチアップ成長の余地が大きく成長性に富む。技術移転余地が大きく,労 働集約的産業における競争力が強いからである。他方では,所得水準の上昇は市場と しての魅力を高める。 そして,人口動態において若年層の割合が高いほど,成長性に富む。労働供給にお ける優位性があるからである。一般的に,後発国ほど人口構成が若い。このような 複合作用の結果,後発国ほど経済成長のスピードが速くなる傾向がある。アジア諸 国における人口動態変化を見ると,日本,韓国を除くと,中国の高齢化の先行が際立 ち,ASEAN の特に後発国,インドでの進展がはるかに遅い。日中関係などの政治 的要因に加えて,このようなアジアにおける雁行的発展パターンの要因が,中国から ASEAN への分散投資という「チャイナプラスワン」戦略の背景にある(舛山,2014)。 このような流れは,先ず,中国沿海部から内陸部,ベトナム,カンボジア,ラオスな どのタイ周辺の ASEAN後発国への労働集約産業を中心とする生産拠点志向投資の シフト(「タイプラスワン」戦略)に端的に見られるが,市場志向の投資にも中国から ASEAN・インドへの流れが見られる。他方で,中国市場の高度化が進展し,中間層, 高所得層の市場が厚みを増し,より洗練されたものになってきている。 アジア経済の雁行的発展の国際マーケティングへの影響としては,以下のような点 がある。 第1に,個別市場における有望産業・商品が異なり,且つ,それらが継続的に変化 していくことから,発展段階から自社製品の需要が増加している市場を選択し,その 変化に対応していく必要があることが挙げられる。 第2に,日本がこのようなアジア諸国の雁行的発展の先頭に立っている場合が多い ので,日本の成熟・衰退産業が現地での成長産業となる場合がある。このため,日本 の成熟産業・衰退産業がアジアに進出することによって再び成長産業として復活する 可能性がある。また,多くの産業において過去に日本で蓄積した経験がアジア市場で 使える可能性がある。例えば,インフラ関連産業,自動車産業,素材産業,小売り産業 などである。さらに,現在の日本の課題である環境問題,教育問題,医療・介護問題 への日本企業の取り組みの経験が,今後アジア市場で生かせる可能性がある。 第3に,アジアの各市場で,人口動態に対応した成長市場に市場ターゲティングを 行う必要性がある。年齢構成の若い市場では,日本では市場が縮小している子供市 場,若年市場が拡大している。また,他方では東アジア諸国を先頭に高齢化も進展し ている。国によって,また将来において高齢者市場も有望である。経済発展,少子高

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齢化ではるかに先行している日本の経験の活用機会がある。 第4に,アジア諸国の流通市場は現状では未発達な段階から,徐々に発展して行く と予想され,流通戦略や,それに対応したプロモーション戦略において,適切な対応 が必要になることである。現状では,小売業においては「パパママストア」と呼ばれ る零細小売店の占める割合が極めて高い。しかし,今後は量販店のような組織小売り チェーンが発達していくと予想される。 第5に,市場参入に関して,発展度の低い市場に早期に参入して先行者利益を獲得 するという戦略が考えられる。 1.1.4.急速な都市化の進展 アジア経済の第4の特徴は,急速な都市化の進展である。国全体の所得の上昇とと もに,地方にもターゲットとなりうる大都市が増えている。インドネシア,フィリピ ン,ベトナム,マレーシアには人口150万人以上の都市がそれぞれ 25,10,6,4存在 する(岩垂,2014)。インドの消費市場においても,デリー,ムンバイ,バンガロール, ハイデラバードなどの人口400万人超の大都市に加えて,それ以下の 100万人都市も 存在感を示し始めているという(渡辺等,2013)。 このような都市化の国際マーケティングへの影響には,以下のような点がある。 先ず,その集積度から都市市場が主要なターゲットとなる。都市インフラ市場も急 速に拡大しており大きな市場機会を提供している。これには日本政府との協力も必要 となる。そして,ターゲットとするべき都市の範囲が拡大している。従来日本企業が ターゲットとしていたメガ都市からターゲットとすべき都市が 100万人以上の都市ま で拡大してきている。中国においても従来日本企業が中心としてきた沿海部の大都市 が飽和状態になり,地方都市の市場が拡大している。インドネシアやフィリピンにお いても地方都市の重要性が増している。地方の都市もターゲットとする必要が出てき ている。インドにおいても,中国で日本企業が行ったような,先ず沿海部の都市に集 中して市場開拓を行うような手法では十分なマーケットを獲得することは難しいとの 見方があるiv) そして,各国で首都や大都市において,かなり共通性を持った都市型の消費が拡大 しているとの指摘がある。海外からの投資がこれら都市を中心に循環し,消費活動が 活発化しているという。不動産・建設業,通信や近代的商業,ホテル,金融,専門サー ビス業などが発展しており,これら都市型産業に従事するホワイトカラーの多くは大 卒以上のエリートで,生活様式が西洋化しているとの指摘である(岩垂,2014)。 次に,流通への影響に関しては,地方都市の重要性が増すことに対して,地方への 流通チャネルの整備が課題となる。

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1.1.5.アジア市場の分断性と統合への動き アジア経済の第5の特徴は,アジアの市場が分断されていることと,その統合への 動きが強まっていることである。例えば,EU に比べるとアジアにおける制度的統合 の程度は低い。アジアの中では,ASEAN の制度的統合は進んでいるが,EU に比べる とはるかに統合度は低い。モザイク市場とも言われる。東北アジアの中国,日本,韓 国の間の制度的統合はほとんど進展していない。 市場の統合度は,制度的統合とロジスティクスの整備の両面を反映し,また企業の 多国籍化がこれを推進する。そして市場の統合度が高いほど,市場としての魅力が高 い。中国,ASEAN,インドの中では,現状では,一つの政治制度の下にあり,ロジス ティクスの整備も比較的進んでいる中国市場の統合度が高い。インドも1国ではある が,地方分権傾向が高く,輸送インフラも中国に比べると格段に整備不足であり,統 合度が低い。ASEAN は国に分かれていて低いが,AFTA,輸送インフラ整備で改善 中であるⅴ)(舛山,2014)。 また,ASEAN を核として,中国,インドを含むアジア全体の市場統合も進展し ている。制度面に関しては,ASEAN・ 中国,ASEAN・ インド,ASEAN・ 日本, ASEAN・オーストラリア,ニュージーランドなどの自由貿易協定が締結されている。 ロジスティクスに関しては,ASEAN・中国間の交通輸送インフラの整備が進んでい る。 アジアに進出した日本企業は,このようなアジア地域の市場統合に対応して,市場 ターゲティングにおいて,進出国だけでなく,ASEAN内,あるいは ASEAN と他の 地域を一体と捉えることが可能となる。日本企業は,ASEAN,中国に基盤を持つ企 業が多いので,中国内拠点から ASEAN市場へ,また ASEAN内拠点から中国市場に 販売する機会が拡大する。現状では,インドに進出している日本企業は少ないので, 主に ASEAN内拠点からインド市場に販売する機会が拡大するが,逆の可能性はまだ 小さい。一方で,中国・ASEAN間の市場統合は,ASEAN市場における中国企業・ 中国製品との競争が激化することをも意味する。

1.2.政治環境の国際マーケティングへの影響

政治環境の国際マーケティングへの影響に関しては,経済自由化政策,法治の浸透 度,国際関係などがある。 1.2.1.経済自由化政策 規制環境が,外資のマーケティング活動に影響を及ぼす。自由化が進んだ市場ほど 参入が容易であり,また,マーケティング活動を含めてビジネスがしやすい。種々の

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規制,外資規制などが少なく自由度の高い市場が外資にとっては好ましい。先ず,外 資がその国で販売活動を許されるかどうかに関わる。このような規制は,マーケティ ング活動を含めた,その市場でのビジネスのしやすさに影響を及ぼす。従って,市場 ターゲティングに影響を与える。 アジアにおいては,一般的に経済発展が進んだ国ほど経済自由化が進んでおり,後 発国ほど遅れているという傾向がある。逆もまた真である。世界におけるビジネス規 制を調査・評価した世界銀行・IFC によるビジネスのしやすさランキングを見てもそ のような傾向がうかがえる(図表2)。シンガポール,香港という中継貿易国・地域, あるは地域ビジネスセンター的な市場の規制は緩やかである。 他方で,このような国・地域には外資の参入が多くなるので,競争も激化する。従っ て,まだ自由化があまり進展していない市場に早く参入して早期参入のメリットを享 受するという戦略も存在する。カンボジア,ラオス,ミャンマーなどの後発国におい て早期参入のメリットを狙うという戦略もあり得よう。ミャンマーは,2012年11月に 外国投資受け入れを明確にした「新外国投資法」が制定され,参入機会が増大してい る。カンボジアは,外資規制に関しては,不動産所有に現地資本が過半を占める必要 があるという規制がある以外には,規制がほとんどないというvi) 図表2.ビジネスのしやすさランキング 2014 (出所)世銀・IFC。 1 シンガポール 38 フランス 2 香港 53 メキシコ 3 ニュージーランド 65 イタリア 4 米国 96 中国 5 デンマーク 99 ベトナム 6 マレーシア 108 フィリピン 7 韓国 110 パキスタン 9 ノルウェー 116 ブラジル 16 台湾 120 インドネシア 18 タイ 134 インド 21 ドイツ 137 カンボジア 27 日本 169 ラオス 28 オランダ 182 ミャンマー 29 スイス 全189 か国

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アジアにおける規制で国際マーケティングに大きな影響を及ぼしている分野にサー ビス分野,特に流通分野に関する規制がある。ASEAN諸国においては,国内の零細企 業の保護や育成の名目でインドネシア,フィリピン,ベトナムなど小売業の外資規制が 残っているvii)。インドにおいては 2012年にスーパーなど総合小売業において出資比率 51%を上限に外資の進出が認められた。しかし,調達金額の3割以上をインド内の小 規模企業からにするよう義務付けられるなどの障壁があり,進出は難しいというviii) 経済発展段階が低いことに加えて,このような規制の影響もあり,アジアにおいて は零細店のシェアが極めて高く流通の近代化が遅れている国が多い。調査会社ユーロ モニターによると,ASEAN 6か国の消費財向け支出約26兆円のうち,零細の小売店 によるものが 76%を占める。タイでも 58%で日本の 1980年代レベル,インドネシア で 85%と日本の 60年代レベル,参入規制の激しいベトナムでは 96%で日本の 60年 代以前のレベルであると言われるix)。インドにおいても零細店のシェアが高い。 このようにアジアにおいて流通近代化が遅れていることは,国際マーケティング活 動の様々な面で制約となっている。流通網が欠けていることから,ターゲットとなる 市場の範囲が狭められたり,流通網の整備が必要になったりしている。 一方で,このような規制の緩和の動きがあり,参入チャンスが拡大しつつあり,早 期に参入して先行者利益を獲得する可能性がある。例えば,ベトナムにおいては小売 業の規制緩和の動きがあり,注目を集めているx)。また,タイ,シンガポール,マレー シア,インドネシアなどと日本との間の EPA も,サービス分野における日本企業へ の障壁の緩和をもたらしているxi)。一方で,インドネシアでは,外資規制の改正案で 卸売業,すなわち販売会社の設立で外資の出資上限を従来の 100%から 33%に引き下 げる方針が示されるなど逆行する動きも存在するというxii) 1.2.2.法治の浸透度 アジア諸国においては,法律は表面的には整備されていても,必ずしもその遵守が されないという問題が存在する。新興国で事業を行う日本企業へのリスク・問題点に 関するアンケートをみても,法制度・運用の不備,知財保護の不備,税務上のリスク・ 問題,代金回収の問題など法治の不足に関連するリスク・問題点が指摘されている(舛 山,2014)。法治の不足の国際マーケティングへの影響は,価格戦略における代金回 収,製品戦略における模倣品の問題,ビジネス交渉,ビジネスへの政府の関与など多 くの分野に及ぶ。 関係主義的な文化の地域ほど,法治の程度が低く,人治的要素が強くなる。日本企業 が大々的に進出している中国に関して,この問題が特に強く認識されている。植民地化 を含めてルールによる物事の決定を志向する傾向が強い欧米,特にアングロサクソン諸 国の影響を受けた東南アジア諸国は,中国に比べてこの問題は少ないようだxiii)(舛山, 2013)。

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1.2.3.国内・国際政治リスク 国内政治リスク 国内政治リスクは国際マーケティングに影響を及ぼす。民族・宗教問題,格差問題 が国内政治リスクの大きな要因になっている。タイにおいては,バンコクと地方農村 の格差問題が,国内政治に大きな影響を及ぼしており,2014年の軍事クーデターに発 展している。このような状況が深刻化すれば,このような政治状況は,その市場の低 迷につながりうる。また,後述の中国における反日問題は,この国内の格差問題のは け口という側面もあろう。このような国内政治リスクは,そのような市場をターゲッ トとすることを困難にし,参入後のマーケティング活動を困難にする。 反日・親日意識 国際政治リスクは,日中問題を抱える日本企業のマーケティングにとっては特に大 きな問題である。2012年の尖閣諸島国有化に端を発する中国での反日デモが自動車な ど日本製品の売れ行きに大きな影響を与えたことは記憶に新しい。政府関連企業への 販売,公共投資入札などに影響を及ぼしている。 製品ブランドは国のブランドを反映した面があるが,国際関係は国のブランドに大き な影響を及ぼす。中国における日本車ブランドに明らかに影響が及んでいる。中国の ような関係の悪い国でいかにリスクを抑えるかが日本企業にとって大きな課題となっ ている。また,企業による市場ターゲティングにも相当の影響を及ぼす。中国の反日度 の上昇に対応して日本企業の対中進出も鈍っている。ただ,このような反日環境の下 でも中国に大きな市場機会が存在することは確かであり,中国市場で成功している日 本企業も多い。政治リスクをどのように扱うかも日本企業にとって大きな課題である。 中国と比べると,ASEAN には親日的な国が多い。このような国においては日本製 品の人気が高く,販売がしやすい。しかし,このような国々でも最近は韓流ブームが 盛り上がっており,日本ブランドとの競争が激化している。インドは少なくとも反日 的でない。しかしインドにおける日本,日本製品の認知度が低く,「無関心」が反日以 上に大きな問題である。

1.3.文化環境と国際マーケティング

1.3.1.文化と国際マーケティング 文化は国際マーケティングに大きな影響を及ぼすxiv)。そもそもマーケティングと は,いかに顧客との関係の創造・構築・維持を行うかである。「マーケティングとは, 主として,広義のコミュニケーションを中心とした(意味の)交換のプロセス」であり,

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「そこで交換される意味の多くは,文化に基づいている。」(ウズニエ等,2011)。国際 マーケティングは,異なった文化間の意味の交換であり,文化的類似性と相違点が国 際マーケティングの多くの局面に影響を及ぼす。市場の魅力,関係性の構築,取引関 係,原産国イメージ,市場セグメンテーション,製品,マーケティング・コミュニケー ションなど国際マーケティングの多くの分野が文化の影響を受ける(同上)。 国際マーケティングの商品分野への文化の影響に関しては,ウズニエ等(2011)によ ると以下のようなことが言える。先ず,歌,ドラマ,映画,小説といった純粋に文化的 な商品は当然直接的な影響を受ける。また,「他者との関係」を含む製品も,誰が意思 決定過程に関与するか,誰が製品を使うかのような関係性自体が文化によって規範化さ れているので,影響を受けやすい。従って,高額商品,ブランド商品など顕示的消費の 対象となる商品,より一般的にはメッセージ性の高い商品も,文化の制約を受ける。加 えて,気候,人口密度,住宅の様式,動植物相といった地域の物理的環境との関係が強 い商品ほど,文化の影響を受ける。これらの物理的環境がローカル文化に強く関係する ためであるxv) 文化の影響をあまり受けない商品分野としてはコンピュータのハードウェア,工作 機械,重機といった産業財や先端技術製品がある。性能面で比較検討されるからであ る。そして,どのような製品であれ,パッケージングデザインやブランド名などを通 じ,言語・文化の影響を受ける(同上)。 1.3.2.異文化マーケティングの重要性の高まり グローバル化が進展する中で,経済,政治,文化の中で文化の重要性が相対的に高 まる。なぜならグローバル化による標準化は,経済,政治面で進展するが,各地の固 有の文化は土着性が強く,なかなか変化しないからである(渥美,2013)。また,日本 企業のアジア進出のパターンが,生産目的から市場志向へと変化してきていることか らも文化の重要性が高まる。工場内を中心とする生産管理が中心であれば,現地の文 化との接点は限られているが,消費市場志向の投資が増えてマーケティング活動が増 えるにつれ,現地文化との接点が格段に増えるからである。 しかし,このような重要性を増す異文化理解において,日本人経営者は相対的に 劣っている(図表3)。図表から大国の人材より小国の人材の方が異文化理解に優れ る傾向があることがうかがえる。これは大国では国内マーケットも大きく,相手の国 に合わせるという必要性が少ないからだと考えられる。大国の中でも,後述のように 国内に多様な民族を抱えているインド人の異文化理解は比較的優れている。日本のス コアの低さは,中国に抜かれるまでは世界第2の経済大国であったことと,島国で他 国の文化との接触経験がもともと少ないことに起因していると考えられる。アジアに おける国際マーケティングにおいて,日本企業は自らの欠陥を良く理解して,現地の 文化への適応を心がける必要があると考えられる。

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図表3.経営者の異文化理解度(10点満点)

(出所) Briscoe & Schuler, p.115.

1.3.3.文化類型とアジアにおける国際マーケティング 国際経営と文化の関係についての文献では,ホフステッドによる国民文化分類が良 く引用される。彼は,調査当時もっとも多国籍化していたIBMの従業員を対象にし て,国民文化を5つの次元で分類した。5つの次元は,権力格差,男性性―女性性,不 確実性の回避,個人主義―集団主義(自立―依存),長期志向―短期志向である。彼 は,これを尺度に各国文化を評価した(図表4)。この分類は本稿の目的とは必ずしも 整合的ではないので,この分類を参考にしながらもそれにこだわらず,アジア諸国の 文化タイプとその国際マーケティングへの影響について考察する。 図表4.文化の類型と国別のスコア (出所)ウズニエ等,2011。 国 ・ 地 域 権 力 格 差 不 確 実 性 回 避 個 人 主 義 男 性 性 長 期 志 向 国 ・ 地 域 権 力 格 差 不 確 実 性 回 避 個 人 主 義 男 性 性 長 期 志 向 米国 40 46 91 62 29 日本 54 92 46 95 80 英国 36 35 89 66 25 韓国 60 85 18 39 75 フランス 68 86 71 43 39 台湾 58 69 17 45 87 西独 35 65 67 66 31 シンガポール 74 8 20 48 48 スペイン 57 86 51 42 19 タイ 64 64 20 34 56 オーストラリア 36 51 90 61 31 マレーシア 104 36 26 50 - スウェーデン 31 29 71 5 33 フィリピン 94 44 32 64 19 トルコ 66 85 37 45 - インドネシア 78 48 14 46 - ブラジル 69 76 38 49 65 インド 77 40 48 66 61 南アフリカ 49 49 65 63 - 平均 57 65 43 49 39 スイス 8.02 インド 6.23 シンガポール 7.45 韓国 5.35 オランダ 7.39 米国 5.22 香港 7.37 日本 5.08 マレーシア 7.30 中国 3.42 ベルギー 7.12 ロシア 3.10 デンマーク 6.94

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① 個人主義―集団主義 集団主義的社会には,緊密な社会構造があり,人々は内集団のメンバーと外集団の メンバーとをはっきりと区別する傾向が強い。世界的に見て,アジア諸国の特色は, 集団主義の傾向が強いことである。 集団主義的文化では,内集団とその外部者とを明確に区別する傾向が強い。内集団 の中のメンバーは相互に緊密な関係を持ち,そのメンバー間では強い信頼感,忠誠心 が働くが,外集団の人に対しては信頼度が低く,約束を守る義務を重視しない傾向が ある。内集団の単位として最も基本的なのは家族であり,緊密な友人関係などが含ま れる。これに対して個人主義的(外集団志向)社会は,内集団のメンバーと外集団の 人間をあまり差別せず,万人に適用される普遍的な規則を大切にする(ウズニエ等, 2011)。渥美(2013)によると,このような規則は,法律,契約などのルールである。 内集団志向が強いと,規則よりも人間関係が重要性を持つ。例えば,中国文化におい て外集団に対しては,兵法的な策略などが行使される傾向があるのはこの反映である と考えられる(古田,2005)。 これらの基準による国別のスコアでは,強い個人主義的傾向を示しているのは,米 国,英国,フランス,オーストラリア,スウェーデンのような欧米諸国である。逆にこ の個人主義の点が低い(つまり集団的な)のは,韓国,台湾,タイ,マレーシア,イン ドネシアなどのアジア諸国である。アジアの中でもインド,日本は中間的なスコアに なっている。 何れにせよ,アジア文化の際立った特色は,集団主義の傾向が強いことである。集団 主義的な文化においては,これらの分野において人間関係の構築が大きなカギを握る。 個人主義―集団主義の国際マーケティングへの影響に関しては,マーケティングに おける交渉,購買の意思決定,流通網構築の方法,製品戦略などに及ぶと考えられる。 アジア諸国においては,人間関係の重要性から,流通チャネルの構築・維持に関係の 構築・維持が重要である。また,製品のマーケティングにおいて口コミの重要性が高 い。 中国では人間関係で物事が処理される傾向が強く,中国ビジネスはパートナー次第 だと言われる。マレーシアにおいては,政府の許可取得において日本人が申請したら 1~2か月かかるところが現地の人がやれば2~3週間でできてしまうという。従っ てマレーシアにおいても現地パートナーの存在が重要だというxvi)。インドでは,財閥 を中心に人的ネットワークが幾重にも張り巡らされて,外国の参入者がこの輪の中に 入るのは難しいという。中国に比べても,誰が何を決めているのか見極めるのが難し いというxvii) アジアビジネスにおける日本企業にとっての問題は,アジア諸国における集団主義 の度合いが日本よりもかなり強いことと,同じ集団主義,関係重視タイプと言っても, その内容が文化によって大きく異なる場合があることである。例えば,中国のそれは

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個人的な関係なのに,日本では会社対会社のような「場」あるいは組織をベースとし た関係である。この違いへの理解の不足が日本企業の中国ビジネスの困難の大きな原 因となっていると言われる。政府行政部門との折衝における官吏の恣意的処理や内 国民待遇との違い,地方保護主義,不透明な投資制度,労務管理上の華人職員の信頼 性,通関業務,税務当局との折衝,販売管理における債権回収などの問題がある(古田, 2005)。これらの多くは国際マーケティングに関連した問題である。 ASEAN諸国における家族主義の強さも購買パターンに影響を及ぼしているとい う。日本経済新聞がアジア 10 か国で行った若者調査によると,「働く目的は何か」と いう問いに対して,所得水準の高い日本,シンガポール,マレーシアでは,「日々の生 活」と答えた割合が,それぞれ 64.5%,57%,56.5%と高かったのに対して,フィリピ ン,タイではその回答はともに 43%とトップであったが,「家族のため」と答えた人 がそれぞれ 35.5%,35%と高かった。インドネシアでも家族向けの消費が目立ち,多 人数乗りのミニバンが新車販売台数の4割を超しているxviii) ② 権力格差 組織内で,もしくは社会全体での権力の配分が不平等であることをどれくらい許容 できるかという尺度である。これは上の個人主義―集団主義と関連する。個人主義 的な外集団志向の多くの文化に見られるように権力格差が小さいと,多くの人々が何 らかの形で規則の制定にかかわり,社会内で権力の強い人も含め,万人にとって公正 で公平な規則が生まれる。反対に集団主義的な内集団志向の文化によく見られるよ うに権力格差が大きいと,人は権力の強い人間の決定に従う傾向がある(ウズニエ等, 2011)。 国別スコアでは,マレーシア,フィリピン,インドネシア,インドなどのアジア諸国 の権力格差が大きくなっている。アジア諸国の中でも,日本,韓国,台湾は中間的であ る。逆に権力格差が低いのは,米国,英国,西独,オーストラリア,スウェーデンなど の欧米諸国である(図表4)。このようにアジア諸国における権力格差は,欧米諸国よ りも極めて高く,日本よりも高い傾向にある。 国際マーケティングの観点からは,誰が購買の意思決定者かを想定してマーケティ ング活動を行う上で重要な要素となろう。上述のような顕示性の強い製品が好まれる 傾向もあろう。例えば,インドでは極めて社会的ヒエラルキーが強い。メリットより 地位,年齢が重要であるという。年長者への敬意からオープンなディスカッションが できないこともある。高位の人の発言でプロジェクトの計画がころころ変わることが あるという(Bagan,2008)。 中国文化の際立った特徴である面子もこのような権力格差に関連していると思われ る。製品に関して,中国では機能以上に見栄えが大切だと言われる。他人に自慢でき る外観か否かが売れ行きを左右すると言われる。日本製品はデザインが地味で売れな

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いとの説がある。中国においては,日本車の販売が低調な理由として,色の選択肢が 少なく新車のように見えないと指摘されている。また,家電製品も小さすぎてデザイ ンが地味で友人に自慢できないとの評があるxix)。これに比べてインドは,他人に左 右されない国民性であるので,自動車では実用性が重視され小型車が良く売れるとい う。 ③ 不確実性の回避 不確実性回避傾向の高い社会では,あいまいな状況は回避され,不確実性を低減す るための規則や手続き,商品が好まれる傾向がある。逆に不確実性回避傾向の低い社 会では,不確実性はさほど不安のもとにはならないばかりか,変革のための一種の機 会であるとみなされる(ウズニエ等,2011)。 不確実性回避傾向が極端に強いのは,日本,韓国であり,インドネシア,インド,マ レーシアなどは,米国,英国,オーストラリアなどとともに比較的低い(図表4)。ア ジア全体としては際立った特徴は見られないが,日本の極度の不確実性回避傾向と比 べるとその傾向が弱いと言える。 このアジアにおける国際マーケティングについての影響については詳らかでない が,以下のような点が考えられよう。製品などにおける日本企業の完璧主義につな がっていることは,製品差別化の大きな要因になっている一方で,アジアの消費者が 必ずしも望まない過剰品質につながって,そのためにコスト高になって価格競争力を 失う結果にもなっていよう。またリスクを回避するために決定が遅くなったり,事業 の意思決定がアジアのスピードから格段に遅くなってビジネス機会を逸することにつ ながっていたりするという問題がある。 ④ 時間概念 ホフステッドの分類による長期志向文化では現在の満足を犠牲にして将来により大 きな満足を得ようという志向が強い。質素,忍耐,倹約,投資といった長期的な美徳 が重視される。逆に,短期志向文化では,すぐに満足を得ようという志向が強い(ウ ズニエ等,2011)。国別スコアでは,日本,韓国,台湾,タイ,インドなどのアジア諸 国の長期志向度が高くなっている。フィリピンがアジア諸国の中で唯一高度の短期志 向を示している。欧米諸国のスコアは低い。この国際マーケティングへの影響は詳ら かでない。 むしろこのような長期志向,短期志向の背景に時間概念の文化差があり,このこと が製品ライフサイクル,販売予測,新製品の発売計画など,多くのマーケティング概 念にも強い影響を及ぼすことの方が重要であろう。 時間の経済価値に関しては,文化によって,時間は希少価値と考えるか,逆に,時間 はいくらでもあると考えるかの違いがある。欧米文化は,「時は金なり」文化の典型

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であり,最も経済的な方法で最適な時間配分を試みる(ウズニエ等,2011)。一般的に アジア諸国は,日本と比べて時間の経済価値についての意識が低いと見られるxx) 時間の金銭的価値への態度は,マーケティングと不可分の関係にある。例えば,日 本企業はアジア企業に比べて納期を順守する意識が極めて高い。このことは,アジア における経営において納期管理で大きな苦労をする一方で,この納期管理を製品差別 化における大きな武器とすることができることを意味する。例えば,中国で大きな化 学処理用タンク市場で中国をベースに大きな成功を収めている森松工業は,高度の現 地調達を行いながら納期管理を徹底するノウハウを蓄積して,差別化に成功している (舛山,2015)。 1.3.4.アジア文化の多様性 アジアの文化は極めて多様であり,アジアにおける国際マーケティングにおいてこ のような多様性への適応が重要である。先ず,個々の国がその構成民族や宗教などに 基づいた固有の文化を持ち,アジア全体として極めて多様性に富んでいる。次に,多 くの国が多民族で構成され,個々の国の文化自体が多様性を持っている。加えて,中 国,インドという巨大文明が人や貿易の交流を通じて広域的な影響を及ぼしているし, 植民地の歴史やグローバルな交易,グローバル化などを通じて欧米の文化の影響も大 きい。これらの文化の諸層が重なり合ってアジアの文化の多様性を形成している。 インドと中国の民族・文化・言語の多様性 アジアの大国であるインド,中国は,その中に多くの民族,言語,宗教を含んでおり, ともに文化的多様性に富んでいる。2か国の中では,インドの方が国内の多様性に富 んでいる。 インドには,西北部,北部などを中心に分布するヨーロッパ系アーリア人を祖先と する人々(人口比約70%)と,南部を中心に居住する先住民族のドラビダ系諸民族(約 25%)に加え,オーストロアジア語族,シナ・チベット語族などが居住する。言語に 関しては,インドでは,ヒンドゥー語を使う人が7億人に達するが,ベンガル語,ウル ドゥー語もメジャー言語であり,100万人以上の話者人口の言語が 29存在する。この ためインドでは,共通言語として英語が重要な役割を果たしている。この英語を使え る人口の多さが,IT のアウトソーシングなど言葉が重要な役割を果たす産業におい てインドの優位性をもたらしている。宗教に関しては,ヒンドゥー教徒(83%),イス ラム教(11%)の他,キリスト(2.5%),シーク(2%),ジャイナ,仏教(1.5%)などの 諸宗教が存在する。インドのイスラム教徒人口1.5億人はインドネシア,パキスタンに 次ぎ,インドのビジネス,国民,政治,社会に深く統合されている。 中国の民族・文化・言語も多様であるが,インドに比べればその程度は低い。中国 には 56 の民族が存在するが,漢民族が 92%と圧倒的多数派である。中国も仏教(「漢

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民族仏教」と「チベット仏教」),道教,イスラム教,キリスト教が主流である多宗教国 家だが,すべての宗教を合わせても信者数は1億人以下に過ぎない。 このように中国とインドの文化的多様性に大きな差があることは,国内において文 化的障壁を乗り越えるコストが中国の方がインドに比べてはるかに低いことを意味す る。このことは外国企業のインドでの経営に,例えばマーケティング,人的資源管理な どにおいて,大きな影響を及ぼしている。例えば,インドで 8,000万人の利用者を有 する米国の Facebook は現在8言語でサービスを提供しているという(渡辺,2013)。 図表5.ASEAN 諸国の主要言語と主要宗教 (出所)アセアンセンター・ホームページなどを基に作成。 ASEANの文化的多様性 ASEAN諸国の文化も多様である。図表5に見るように,言語的,宗教的にも極め て多様である。宗教的には,インドシナ半島を中心に仏教が普及し,またインドネシ ア,マレーシアなどにおいてイスラム教が主流になっている。個々の国の中も,マ レーシア,インドネシアなど民族,言語,宗教,文化において大きな多様性を持ってい る。例えば,マレーシアにおいては,華人は人口の 25%を占めるだけだが,大きな購 買力を持っている。これに対してマレー人は人口の約67%を占めるが,所得は相対的 に低く,ボリュームゾーン市場を形成している。また,華人,マレー人は文化的にも 大きく異なり,全く異なった市場を形成している(倉林・長尾,2013)。 ブルネイ カンボジア インドネシア ラオス マレーシア 人口 (2014年,百万人) 0.4 15.6 251.5 6.9 30.1 主要言語 マレー語,英語 クメール語 インドネシア語 ラオス語 マレー語,中国語,タミール語, 英語 主要宗教 イスラム教(67%), 仏教(13%), キリスト教(10%) 仏教(97%) イスラム教(88%), プロテスタント(6%), カトリック(3%), ヒンドゥー教(2%) 仏教(90%) イスラム教(61%), 仏教(20%), 儒教・道教(1%), ヒンドゥー教(6%), キリスト教(10%) ミャンマー フィリピン シンガポール タイ ベトナム 人口(百万人) 66.2 99.4 5.5 68.6 90.6 主要言語 ミャンマー語 フィリピン語 中国語,マレー語,タミール語, 英語 タイ語 ベトナム語 主要宗教 仏教 カトリック ヒンドゥー教仏教,イスラム教,仏教(92%),イスラム教(5%), キリスト教(1%) 仏教(80%), カトリック(7%)

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ASEAN におけるマーケティングにおいて言語の壁は意外と高いという。ASEAN においてシンガポール,マレーシア,フィリピンは英語が通じるが,タイ,インドネシ ア,ベトナムではあまり通じないという(根岸・倉林,2013)。 このような ASEAN諸国の多様性に対応したきめ細かなマーケティング対応を行 う必要がある。これに対処するために,文化的多様性を持つマレーシアを学習拠点と する動きも存在する。小売のイオンは,華人,マレー系,インド人など人種的多様性 に富むマレーシアで対応を学び,その他の地域への展開の参考にしている。 1.3.5.アジア横断的な文化と国際マーケティング アジアの文化の多様性とともに,地域横断的な文化も存在する。欧米文化,イスラ ム文化,印僑・華僑のネットワークなどが挙げられる。 欧米文化の影響 産業革命以来の欧米支配の影響は,植民地化も含めて,アジア文化に大きな影響 を及ぼしている。例えば,法治の浸透度が中国に比べて東南アジア,インドの方が 高いところにも表れている(舛山,2013)。インド文化への西欧文化の影響は大きい。 Bagla(2008)は,インドビジネスで成功しようとするならその前にロンドンに行く ことを勧めるという。インドは 200年間のイギリスの支配の間に,多くの習慣やプロ セスを取り入れており,多くのインド人がアメリカ人より非英語国のヨーロッパ人と の方が気が合うと言っているという。このことが,SKE,ABB,フィリップス,ジー メンス,アルストロムなどの成功の要因であるとする。 アジアのイスラム文化と国際マーケティング ASEAN域内のイスラム教徒人口は3億人弱に達し,総人口の5割弱を占める。上 記のようにインドネシア,マレーシア,インドなどに多くのイスラム教徒が居住する。 インドネシアは世界最大のイスラム国である。イスラム教は信者に対して戒律に従っ た生活を求めるので,その消費行動に大きな影響を及ぼす。例えば食品や金融商品に おいて宗教の教えに従った商品を提供する必要がある。特に食に関する禁忌が多く, これに対応した製品市場が大きいxxi)。金融に関してもイスラム教は金利を認めない などの戒律がある。イスラムの戒律に則った金融商品(イスラム金融)で対応する必 要がある。「イスラム金融」「イスラム保険」などがある。イスラム金融市場の規模は1 兆ドルで,毎年15 ~ 25%で成長していると推定されているxxii) このように,イスラム教に対応した消費行動は国を超えた共通性を持ち,東南アジ ア,南西アジア,中東,アフリカなどに広がっている。イスラム教徒は世界で約19億 人に達し,世界人口の約27%を占めるので,イスラム文化に対応した製品・サービス を提供することで,ASEAN内のイスラム教徒市場に,また,世界のイスラム文化圏

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市場に展開する可能性が広がる。イスラム教徒の食マーケットは 30兆円とも 50兆円 とも言われる。 イスラム教徒の禁忌に対応した製品を提供するためには,それを証明するハラル認 証を受ける必要がある。ASEAN において,特にマレーシアでハラル認証を受けて, それを下に世界に展開する可能性が開ける。マレーシアのハラル認証は世界で唯一国 の機関が審査し認証するもので,世界で最も信頼性が高く,マレーシア以外のイスラ ム圏で有効性が高いといわれる。マレーシアは,ハラル生産に必要な資源を集めた専 用工業団地「ハラル・パーク」を全国200 か所に設置しているxxiii)。このためにイス ラム市場向けの生産・輸出拠点としての投資の動きがある。 食品分野においては,ひかり味噌(株)は 2013年1月,3商品で JAKIM(マレーシ ア政府ハラル認証機関)から認証を受けている。ネスレはマレーシアをイスラム圏を 中心とする世界50 か国への輸出拠点と位置付け,味の素やキューピーもマレーシア から周辺のイスラム教国へ輸出しているxxiv)。金融分野に関しては,三菱東京UFJ銀 行やみずほコーポレート銀行などが 2011年から,東南アジアに住むイスラム教徒を 対象にした営業体制を強化している。金融商品においても,マレーシアがセンター的 な役割を果たしている。2011年3月,三井住友海上火災保険がマレーシア企業に出資 して,イスラム保険事業に参入したxxv) 華僑・印僑の国際的ネットワーク アジアには華僑・印僑の国際的ネットワークが存在する。特に東南アジアにおいて は,華人が経済面で支配的な地位にある国が多い。国際的マーケティングを含む国際 ビジネスにおいて対象となるのは華人であることも多い。この華人は中国文化を体現 しているので,彼らとのビジネスにおいては,関係,面子など中国文化を理解した対 応が求められる。 華僑は東南アジア中心であるのに対して,印僑の場合は,中東・アフリカに広がる ネットワークを持っている。在外華人(華僑)は約5,000万人に達するが,その6割近く が東南アジア,東アジアに居住する(図表6参照)。在外インド人は約2,200万人に達 するが,アフリカや中東,中南米などに分散している(図表7)xxvi)。インド企業は,中 東やアフリカなど日系企業とは異なる独自の販路やネットワークを有しているxxvii) このためアジアビジネスにおける影響力は華僑が圧倒的に大きいが,アジアにおける インド人とのビジネス関係を通じて,国際マーケティングを含む国際ビジネスが中 東・アフリカ市場につながる可能性がある。インド市場はアフリカと同じ低所得消費 者,劣悪なインフラという環境でローコスト・ハイボリューム事業モデルを磨いてき ており,インドでの経験をアフリカ市場で生かしうるxxviii)

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図表6.国別の華人人口 (出所)維基百科。 華僑は東南アジアの流通,金融などで支配的な地位を占めているので,東南アジ ア市場におけるビジネスにおいて彼らとの協力が必要になる場合も多い。三菱UFJ ファイナンシャル・グループはタイ5位のアユタヤ銀行の買収を推進しているxxix) 買収金額は,5,600億円である。目的は華人ネットワークの利用である。タイ金融界は 華人が支配し,外資の参入は困難なことが背景にある。また,倉林・長尾(2013)は, 英語が通じることとともに華僑とのビジネスになれ,また,人的なネットワークを構 築する上からも,シンガポール,マレーシアを ASEAN市場へのエントリー・マーケッ トとして捉えるべきだとしている。 アジアの若者市場 都市化の進展とともに,西欧文化の影響を強く受けるアジアの若者の間に共通的な 若者文化が形成されているようだ。若者文化に関して,日経ビジネスのサーベー記事 は共通項として,以下のような点を挙げているxxx)。日本との共通点として,韓流ブー ム,SNS,サッカー,カラオケ,カフェなどの諸文化を挙げている。韓流ブームは,家 電,ドラマ・KPOP などのコンテンツ,それに関連したファッション,化粧品などに 拡大しているという。これに対して日本文化はアニメや漫画,日本食には根強い人気 があるが,それ以外では存在感は希薄になってきているという。日本の若者との違い は,格差社会の下で富裕層とそれ以外の層での二極化傾向が強く,中間層の消費基準 は日本よりも低いこと,共稼ぎ志向が強いこと,発展ステージの違いから,東南アジ ア諸国を中心に消費に対して積極的なことを挙げている。個々の国によって差はある が,アジアの若者市場を一体として捉えたマーケティングの有効性があるのではない かと考えらえる。 タイ 939万人 ペルー 130万人 インドネシア 880万人 フィリピン 115万人 マレーシア 696万人 ベトナム 100万人 米国 379万人 ロシア 100万人 シンガポール 281万人 韓国 70万人 ミャンマー 164万人 日本 67万人 カナダ 135万人

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図7.印僑の主要居住地 (出所)「インドで売る」日経ビジネス,2012 年9月 17 日号等。

1.4.アジアの技術環境

国際マーケティングに関連したアジアの技術環境について特筆すべきは,インター ネット,スマートフォンの急速な普及と SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サー ビス)の利用の拡大である。インドにおいても富裕層・中間層を中心にインターネッ トの利用が進んでいる。インドにおける Facebook の利用者数は 800万人と言われる (渡辺,2013)。一方で電子商取引の利用は進んでいない(中島・岩垂編,2012)。 コトラーは,20世紀における工業化時代の「マーケティング 1.0」,情報化時代の 「マーケティング 2.0」のモードから,21世紀のマーケティングは,グローバル化,ソー シャル・ネットワーキングの普及に対応した「マーケティング 3.0」のモードに転換す べきだと主張している(コトラー等,2010)。 21世紀の「マーケティング 3.0」は,グローバル化に伴う環境問題の深刻化などへの 困難に対して消費者の持つ深層の欲求,社会的・経済的・環境的公正さに対する欲求 に対応して,消費者のマインド,ハートだけでなく精神をつかむために,企業のミッ ションや価値で対応するマーケティングである。加えて,ソーシャル・ネットワーキ ング・サービス(SNS)の普及などで,消費者の企業とのコミュニケーションへの参 加が増加して消費者のコミュニティー化が進展していることに対応して,双方向のコ ミュニケーションを重視したマーケティングが「マーケティング 3.0」の構成要素と なっている。 アジアの現状を見ると,先進国に比べて,例えば環境意識よりも経済発展志向が依 然強いなど,まだまだ「マーケティング 2.0」の要素が強いところがある。しかし,環 境問題,格差問題の深刻化が明らかになってきており,精神的なマーケティングの必 要性も高まっていくと考えられる。しかし,SNS に関しては,アジア諸国は日本以上 に普及している面がある。2011年11月末時点の Facebook ユーザー数は,日本の 524 万人に対して,インドネシアが 4,083万人,インドが 3,804万人,フィリピンが 2,675 居住地 万人 居住地 万人 ミャンマー 約290 オマーン 72 サウジアラビア 179 クウェート 58 アラブ首長国連邦 175 カタール 50 マレーシア 約170 バーレーン 35 南アフリカ共和国 122 シンガポール 約30 モーリシャス 88 フランス領レユニオン 27

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万人,タイが 1,288万人,マレーシアが 1,182万人,台湾が 1,182万人といずれも日本 を上回っている。中国では Facebook は認められていないが,中国版Facebook と言 われる Renren が 1.3億人のユーザーを擁している。 このような SNS はますますスマートフォンで行われるが,アジアのスマートフォ ン人口は,2013年から 2017年にかけて,日本が 7,200万台から 1.2億台に増えると予 想されているのに対して中国は6億台から 11億台へ,インドは 1.9億台から 6.7億台 へ,東南アジア(インドネシア,フィリピン,ベトナム,マレーシアの合計)は 1.8億台 から 3.5億台へと増加すると予想されているxxxi)。日本に比べて圧倒的な規模である。 アジアにおいては,インターネット人口のうち SNS を利用する割合が高いことが, SNS人口の多さにつながっている。日本ではインターネット総人口の 42%が SNS を 利用しているのに過ぎないのに対して,東南アジアでは 89%が利用している。この背 景としては,先進国に比べてマスメディアが発達していないことと,ブロードバンド の普及が遅れているので,データ量の少ないコミュニケーションインフラとしてソー シャルメディアが使われていることがある(JETRO,2012)。人間関係重視の文化の 下でマスメディアに対する信頼性が低いことから重要な「口コミ」が SNS を通じて行 われている面もあろう。 また,インド市場などにおいては,高所得層ほどネット販売を利用する傾向が強く, この点からもネット販売が重要になるxxxii)。さらに中国やインドなどの広大な市場で は,都市の消費者は店舗での購入ができるが,地方ではその機会が限られる。このよ うな消費者の需要をとらえるためにもネット販売が重要である。 このような状況から,アジア市場におけるマーケティングにおいて,流通,プロモー ションの手段としてインターネットが極めて重要になっている。

1.5.アジアにおける企業間競争と国際マーケティング

企業間競争も国際マーケティングに大きな影響を及ぼす。自社あるいは日本企業が 支配的な市場においては,ブランドの構築も容易であり,価格の主導権もとりやすい。 逆に自社あるいは日本企業の存在感の薄い市場においては,ブランドの構築が困難で あり,価格面でも不利になりがちである。例えば,日本企業が市場を支配している東 南アジアでは日本企業製のバイクはインドの 1.5倍の価格で売れるというxxxiii) 日本ブランドは ASEAN市場で強く,シェアも高い。日系企業は ASEAN全体の新 車販売市場で 65%以上のシェアを握る。中国における日本ブランド,日本企業の地盤 は中程度であり,インドではこれまで日本企業が力を入れて来なかったこともあり, 弱い。 ASEAN市場も含めて,他国企業との競争が激化している。高価格帯において欧米 企業との競争が激化し,中価格帯において韓国,台湾企業との競争が激化し,低価格 帯において中国企業との競争が激化している。また,地場企業との競争も激化してい

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る(舛山,2014)。 例えば,インドネシア家電市場では,日本企業が 1990年代前半までは圧倒的に市場 を支配していたが,近年中韓企業,地場企業のシェアが上昇しており厳しくなっている が,依然日本企業が強いブランド力を有しており,売り上げを伸ばす余地が大きいとい うxxxiv)。 逆に,インドシナ半島諸国の農村部では中国製品,あるいはタイ製品が圧倒的 に優勢である。これはこれら市場では価格,供給力が重要であるからであるxxxv)。一般 用医薬品市場では,フィリピン,インドネシアの地場企業が大きなシェアを有している。 中国市場においては,中国における国有企業・地元企業優遇傾向があり,世界中の 企業が巨大市場である中国に参入していること,また中国企業に過当競争体質がある こともあり,競争は厳しい。インド市場においては,インド企業との価格競争が厳し い。ここ数年で自動車部品などの品質が急速に向上しているのに加え,インドのメー カーには,インフラ,労務管理,複雑な規制という困難な環境での事業展開で培った ノウハウが存在するxxxvi) また,近年,アジア市場において韓国企業が力をつけてきており,同国企業との競 争が激化している。日本経済新聞によるアジア6か国の「買いたい」ブランド調査に よると,家電の洗濯機と冷蔵庫では,韓国のサムスン電子,スウェーデンのエレクト ラックス,パナソニックが1~3位を占めたxxxvii)。基礎化粧品市場においても,中国 市場,東南アジア市場で韓国のアモーレなどのシェアが上昇して,資生堂が劣勢であ るxxxviii)。インド家電市場では LG電子,サムスンという韓国企業が圧倒的なシェアを 獲得している。また,インド家電市場には,ハイアール,美的集団などの中国企業も進 出している。 中国企業による ASEAN,インド市場への進出も加速している。中国市場による過 剰能力,中国政府による対外投資支援政策(「走出去」政策)が背景にある。中国国有 自動車大手の上海汽車集団は,タイ財閥大手のチャロン・ポカパンと合弁で,2014年 にタイ東部チョンブリ県で英国ブランド車「MG 6」の生産を開始したxxxix) また,日本ブランドは,アジアにおいて今後成長が予想される高級品において存在 感が薄いという問題を抱えている。日本経済新聞が 2014年8月から9月にかけて中 国,インド,インドネシア,タイ,フィリピン,ベトナムの6か国の消費者1,800人を 対象に行った調査でそのような傾向が見える。乗用車ではドイツの BMW がアジア で最も人気のあるブランドであり,これ以外にも5つの欧州自動車メーカーがトップ 10 に入ったxl)。また,化粧品では,フランスのロレアル,シャネルなどの欧州ブラン ドが上位に入った。インドにおいては,日本ブランドの存在感が乏しい。地場や韓国, 欧米ブランドに圧倒されているxli) これまで見てきたようにアジアの政治,経済,文化,技術環境,企業間競争は極めて 異質で多様性に富み,複雑である。重要性を増す文化環境に対して,日本人の異文化 理解能力は低い。日本人は,アジアの異質で複雑なマーケットに対応することが基本

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的に苦手であるという認識に立ち,現地の環境を受容し,これに学ぶ姿勢が必要であ る。日本人が複雑なマーケットへの対応が苦手なのは,日本の消費市場は極めて同質 性が高く,多くの日本企業の経営・事業の手法をこのようなマーケットに適応するよ うに磨き上げてきているからだとの指摘がある(倉林等,2013)。

2.アジアにおける国際マーケティング戦略

これまで述べてきたアジアの市場環境に対応するための日本企業の国際マーケティ ングはどのようにあるべきか,どのような対応を行っているかについて考察したい。 この枠組みは図表8に示すようなものであろう。 図表8.国際マーケティングの意思決定プロセス (出所)筆者。 国際経営一般と同様に,国際マーケティングにおいても現地環境への適応と全社的 な標準化・共通化のバランスを取りながら進めていく必要がある。また,これを一般 的なマーケティングの意思決定プロセスに沿って行う必要がある。先ずは市場調査を 行い,現地市場に参入すべきか,もし参入すべきだとなった時にどのような方法で参 入するべきかという意思決定を行う。そして市場を細分化して標的市場を決め(ター ゲティング),自社の強みを生かすポジショニングを行う。国際マーケティングにお いては,国内市場の細分化の前に世界やアジアの市場を分類してどの市場に参入する べきかという意思決定がある。ターゲット市場が決まれば,自社がコントロール可能 なマーケティング手段(製品,価格,流通,プロモーションというマーケティング・ミッ 標準化・共通化 市場調査 参入時期・方法 STP 市場細分化(Segmentation) ターゲティング(Targeting) ポジショニング(Positioning) マーケティング ・ ミックス 製品 価格 流通 プロモーション 現地適応 アジア 市場 環境

参照

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