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アミノ酸ラセミ化を利用した歯からの年齢推定:高年齢帯での有用性 利用統計を見る

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Academic year: 2021

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氏 名 井口 蘭 博士の専攻分野の名称 博 士 ( 医 学 ) 学 位 記 番 号 医工博4甲 第229号 学 位 授 与 年 月 日 平成30年3月23日 学 位 授 与 の 要 件 学位規則第4条第1項該当 専 攻 名 先進医療科学専攻 学 位 論 文 題 名 アミノ酸ラセミ化を利用した歯からの年齢推定:高年齢帯での有 用性

(Age estimation by using racemization of amino acid in a tooth: usefulness for elderly people)

論 文 審 査 委 員 委員長 教 授 大塚 稔久 委 員 教 授 小口 敏夫 委 員 講 師 大森 真紀子

学位論文内容の要旨

研究の目的 歯は人体の組織の中で最も硬い組織であり、身元不明死体の個人識別において重要な情報源の一つ となる。実際に東日本大震災では、歯の情報から約 15%の身元不明遺体の身元が確認されている。 歯を用いた個人識別の多くは、その治療痕を用いてなされるが、歯は治療痕以外にも死者の年齢に関 わる情報をもっている。 歯の成長期においては歯の石灰化および萌出状態から年齢推定が行われている一方、成人では、咬 耗や第 2 象牙質などの加齢に伴う生理学的変化を用いられている。しかしこれらの方法は、技術や 知識にかなりの専門性を必要としている。その上にそれらの形態的変化は個人の生活環境に影響を受 けると考えられており、視覚を用いた鑑定方法のため主観的な判断となることも含め、推定年齢と実 年齢が一致しないことも少なくない。 エナメル質に含まれるアスパラギン酸 (Asp) において、D 体が年齢依存的に増えることを応用し、 D-Asp と L-Asp の比が年齢推定に適応可能であることが報告された。その後エナメル質、象牙質、 セメント質、そしてそれらを含めた全歯牙を用いるなど改良された方法が研究され、現在では歯に含 まれるAsp のラセミ化 Aspartic acid racemization (AAR) を利用した年齢推定法は、最も正確な方 法の一つとして、実際の年齢鑑定にも活用されている。

しかし AAR を利用した年齢推定法が、今後我が国で確実に増加する高年齢層にも同じ精度をも って適用できるか否か検証した研究はほとんど見られない。先行研究の多くは分析方法について言及 したものが多く、高年齢層に特化した分析を行った研究はほとんど認められない。

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そこで我々は、来たるべき超高齢化社会に対応すべく、AAR を利用した年齢推定法が高年齢帯に も適応可能か否か研究を行った。 方法 年齢既知の抜去歯70 歯 (10~90 歳、52.9±2.8 歳) から縦断切片を作成後、洗浄し粉末化した。 粉末化した試料10mg に 6N 塩酸 5ml を加え、100℃6時間加水分解を行った。ロータリー式遠心エ バポレーターにて乾燥後、純粋5ml を加え、強酸性陽イオン交換樹脂に通し、2N アンモニア水 5ml にてアミノ酸を溶出させた。溶出液をエバポレーターおよびデシケーターにて乾燥させた。2ml 混合 液 (イソプロピルアルコール:塩化アセチル=8:2) を加え、100℃で 30 分間にてエステル化を行い、 乾燥させた。800μl 塩化メチレンと 200μl 無水トリフルオロ酢酸を加え、室温にて 30 分間アミド 化させ、誘導体化を完了させた。再度試料を乾燥後、酢酸エチルに溶解させ、ガスクロマトグラフに 注入した。カラムは光学活性固相Chirasil-Val が塗布されたものを用い、D-Asp と L-Asp の検出量 の比D/L を用いたラセミ化率 In[(1+D/L)/(1-D/L) ]と年齢との相関関係を分析した。 本研究の試料は、エナメル質や象牙質などを複数の組織を含んでいるために、1 試料からの再現性 を確認するために、2 試料 (21 歳、65 歳) を 7~8 回分析し、1 試料からのラセミ化率の再現性を平 均値および標準誤差にて評価した。 次に、抜去歯70 歯のラセミ化率を分析し、全年齢層と高年齢層 (60 歳以上) の 2 群に分け、ラセ ミ化率と年齢について単回帰分析をおこなった。 得られた回帰曲線から算出した推定年齢と実年齢との差を推定誤差として、各年齢層 (10~19 歳、 20~29 歳、30~39 歳、40~49 歳、50~59 歳、60~69 歳、70~79 歳、80~89 歳、90 歳~) およ び60 歳未満と 60 歳以上について統計的解析を行った。 統計分析はSPSS ver.16.0 を用いて、Shapiro-Wilk 検定、単回帰分析、t検定を行った。 結果 A 再現性の評価 ラセミ化率の平均値は21 歳、65 歳それぞれ 0.11523、0.24111、標準偏差は 0.00340、0.00354 であった。 B 年齢層による年齢とラセミ化率の相関関係 全年齢帯におけるラセミ化率と年齢について回帰分析を行ったところ、回帰曲線は In[(1+D/L)/(1-D/L)]=0.002x+0.073、有意確率 (P) は 0.01 未満、相関係数 (R) は 0.971、決定係数 (R2) は 0.943 と高い値を示した。その一方で、60 歳以上の回帰曲線は In[(1+D/L)/(1-D/L)]=0.002x+0.101、P<0.01、R=0.71、R2=0.504 であり、相関関係を認めたが、全 年齢帯と比較し低い値を示した。 C 推定年齢と実年齢の差の検討 全年齢層での推定誤差は、平均は-1.1 歳で標準偏差は 5.6 歳であった。一方各年齢層における推

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定誤差は、高年齢になるにつれ標準偏差は高くなる傾向を認めた。 2:60 歳未満と 60 歳以上 60 歳未満における推定誤差の平均値±標準偏差は、-0.9±3.6 歳であったが、60 歳以上では-1.4 ±7.4 歳となり、高年齢帯では標準偏差の上昇を認めた。また 60 歳未満と 60 歳以上の推定誤差につ いてt 検定を行ったところ、有意差は認められなかった 。 結論 複数の組織を含んだ縦断切片を試料として用いた場合でも、象牙質のみを用いた結果と近い相関関 係を得られた。本研究によって、煩雑で健康被害の懼れのある象牙質の単離を省略できる可能性が示 され、本法の普及に寄与するものと考えられる。 また、高年齢帯においても適応可能であるが、年齢推定結果が60 歳以上の推定年齢がなった場合、 実年齢との推定誤差が大きい可能性があり、法医実務に応用する際にはこの点に注意が必要であるこ とが示された。

論文審査結果の要旨

歯は人体を構成する組織の中でももっとも硬い組織である。歯は様々な情報を有しており、先の東日 本大震災では、約15%の身元不明遺体の身元の確認に歯の情報が役立ったとされている。個人識別 法という点では DNA 情報がよく知られているが、DNA の場合は比較となる DNA 情報が必要であり、年 齢までは判別できないというデメリットも存在する。一方で、歯の成長期では、石灰化や萌出状態が 変化することからこれらの変化をもとに年齢推定が可能である。また、成人においても加齢にともな う生理的な変化を基準にして、年齢推定が行われている。しかし、このような手法は、その技術習得 にかなりの専門性が必要であること、また、視覚を用いた鑑定方法であるために、主観的な判断にな らざるをえない。 そこで、より客観性のある再現性を持った手法としてアスパラギン酸のラセミ化(Aspartic acid racemization; AAR)を利用した年齢推定方法が広く用いられている。これは、通常の生体内アスパ ラギン酸は L 体であるが、年齢依存的に D 体が増加するという現象を利用している。本手法は当初、 エナメル質で用いられたが、その後、象牙質、セメント質、さらにこれらを含む全歯牙へと適応が広 がり、様々な改良も研究されてきている。 一方で、本手法も万能ではなく、AAR を用いた年齢推定法が、高年齢層においても同様の精度で応 用可能かと言った点に着目した研究は殆どなされていない。そこで、本研究では、AAR を利用した年 齢推定法が高年齢層にも応用可能かどうかを、山梨県内の施設で抜歯術が施行された年齢既知の抜去 歯70歯を用いて検討を行った。 方法面では、象牙質を用いた従来法を変更し、縦断切片をそのまま用いた。分析では、再現性評価、 年齢層による年齢とラセミ化率の相関関係、さらに推定年齢と実年齢の差の検討を行った。再現性に ついては、2試料のラセミ化の標準偏差は 1.73~3.67 歳となったが、標準誤差は、年齢に換算する と 0.01 歳、0.67 歳であった。また、全年齢帯におけるラセミ化率と年齢についての回帰分析では、

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高い相関関係が見られたが、60歳以上の回帰曲線では一定の相関が認められたものの、全年齢帯と 比較して低い値であった。さらに、全年齢層での推定誤差の平均は-1.1 歳で標準偏差は 5.6 歳であ った。また、60歳以上の高年齢層では標準偏差の上昇を認めた。 本研究では、象牙質を単離しない縦断断片を用いた解析でも、十分な精度で結果が得られることを 示しており、その優位性が高く評価できる。これによって、年齢推定法の手順がより簡便になること が期待でき、本手法の普及に寄与するものと考える。また、高年齢層においては、実年齢との推定誤 差が比較的高くなる傾向が見られたため、法医実務に応用する際にはこの点を考慮する必要性がしめ された。一方で、研究全体を通して、性別についての視点が抜けており、女性は閉経後でホルモンの 影響を様々な形で受けることから、今後は性別を意識した試料の回収と分析を行うことで、より精密 な解析法が確立できるのではないだろうか。今後の発展に期待したい。

参照

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