前突シートベルト着用乗員の胸部骨折形態の解析
* 西本 哲也1) 坪井 昭典1) 菊池 厚躬1) 杉浦 隆次1) 富永 茂2) 本村 友一3)Analysis of Thoracic Fracture Patterns in Frontal Impacts for Seatbelt Restrained Occupants
Tetsuya Nishimoto Akinori Tsuboi Atsumi Kikuchi Ryuji Sugiura Shigeru Tominaga Tomokazu MotomuraThe purpose of this study was to examine the mechanisms of thoracic injury in seatbelt restrained occupants. The fracture locations and fracture patterns were analyzed using CT images and were derived from injured occupants in our in-depth traffic accident database. The results of our analysis showed that some fractures occur along the seatbelt path, however, the majority of fractures occurred in the lateral thoracic region, away from the seatbelt path. For drivers(seated in the right front position), break fractures occurred predominantly in the upper right part of the thoracic region while crack fractures and bend fractures occurred predominantly in the lower left part of the thoracic region. Drivers aged 65 years and over had twice as many rib fractures compared to drivers under the age of 65 years.
KEY WORDS: Safety, Air bag/seat belt, Accident investigation and analysis, Chest injury, Biomechanics (C1) 1.緒 論
日本の平成28 年交通統計での損傷主部位別の死亡・重傷者 数をみると,胸部傷害は死亡者数が466 人(34.8%),重傷者数 が2,872 人(27.8%)であり(1),他の損傷主部位と比較して最も多
い.胸部骨折の解析は多数おこなわれ,主な研究としては PMHS(Post Mortem Human Subjects:屍体)を用いたスレッド試 験がある.Kentら(2)が実施したPMHS正面スレッド試験では, シートベルトによる骨折の箇所をX 線検査によって特定し, 安全装備であるシートベルトによって拘束されている場合で も肋骨の多発骨折が発生することを示している.Forman ら(3) が実施したCAE でのコンピュータモデルを用いた研究では, 有限要素モデルを用いて胸がたわむことで生じるひずみの影 響を解析し,極限ひずみによってPMHS のスレッド試験結果 と同様の骨折を再現することで,重傷胸部傷害の予測を可能 としたとしている.Laituli ら(4)による胸部たわみに関する研究 では,複数のPMHS 試験での重傷胸部傷害発生時の胸部たわ みを回帰分析により解析し,年齢別のリスクカーブを示した. Laituli らは年齢が高くなると重傷胸部傷害が発生する許容胸 たわみ量は小さくなることを示しており,現在の人体ダミー による衝突試験では胸部傷害の発生には胸のたわみが影響す ると考え,胸部傷害を胸部たわみ量で評価している.胸部変 位に関する画像解析はShawら(5)がPMHSを用いて実施してお り,胸部の上部と下部での変位が異なることを示している. また,江島ら(6)は米国の交通事故患者のCT 画像データを用い て骨折位置に関する研究を実施し,前面衝突での高齢者の骨 折位置は前胸部に分布することを示している. 以上のようにスレッド試験での胸部変位と重傷度に関する 研究や実事故での胸部骨折の発生位置に関する研究は実施さ れているが,実事故で生存する人間の胸部変位を測定するこ とは不可能である.また画像診断情報としてX 線画像や CT 画像により医師が特定する骨折発生位置の情報だけでは胸部 変位を推定することはできない. 我々は車両損傷と人体傷害 の関係に特化した交通事故実態調査を実施しており(7), (8),車体 変形測定に加えてCT 画像や X 線画像による人体傷害の詳細 解析を実施している.本研究では前面衝突時のシートベルト 着用乗員が受傷した胸部骨折を材料の破壊や構造強度との観 点により解析した.ここではCT 画像を用いて骨の破壊形態を 年齢層別に分類し,乗員の胸部骨折位置,骨の破壊形態,骨 折本数に基づいて胸部骨折の詳細解析を実施した. 2.骨折の幾何学的位置と破壊形態の定義 交通外傷患者が三次救急病院に搬送された場合,人体の傷 害の発生位置を確認するためにCT を全身で撮影する.図 1 は人体胸部のCT 画像であり,CT 画像は胴体を輪切りにし人 体頭部方向から体幹を俯瞰したもので,図の上部が腹部で下 部が背面であるが,左右は反転している特長がある.救命救 急医は画像を基に骨折の発生位置を特定し,図1 の例では左 肋骨2 番で骨折が発生していることを示している.乗車乗員 については受傷者の体表面に生じるシートベルトの擦過痕跡 を体表面の観察で確認できる場合もあるが,加えてCT 画像に *2018 年 7 月 12 日受理. 2017 年 5 月 26 日自動車技術会春季大会において発表. 1)日本大学工学部(963-8642 郡山市田村町徳定字中河原1 番地) 2)日本大学理工学部(101-8308 千代田区神田駿河台1-8-14) 3)日本医科大学千葉北総病院 (270-1694 印西市鎌苅1715) *2018 年 7 月 12 日受理. 2017 年 5 月 26 日自動車技術会春季大会において発表. 1)日本大学 工学部(963-8642 郡山市田村町徳定字中河原1番地) 理工学部(101-8308 千代田区神田駿河台1-8-14) 2)日本医科大学千葉北総病院(270-1694 印西市鎌苅1715) 1) 2)
より内出血箇所の特定によりシートベルト着装による痕跡を 特定できる.図1 の皮下脂肪組織の濃度上昇箇所は皮下出血 (Subcutaneous bleeding)を示しており,これはシートベルト擦過 による皮下出血が発生している証拠となる.CT は 5mm ピッ チで撮影しており,それぞれの画像の皮下の脂肪織濃度の上 昇がある位置に基づいてシートベルトウェビングと人体表面 との装着位置の関係,すなわちここでは「シートベルトパス」 と呼ぶ胸部に対するシートベルトの装着位置を特定した.こ のようなシートベルトパスに基づく解析は乗員体格の違いや シートバック角度に基づく着座姿勢によるシートベルト着用 位置の影響を除外し,人体のシートベルト拘束に基づく解析 を実施できるようにするためである. 図2にはCT画像を基に作成した胸部骨格とシートベルトパ スの関係図を示す.右側運転席乗員のシートベルトパスは図 の赤色で囲まれた領域となる.胸部の骨格構造は肋骨,肋軟 骨,胸骨および背中側の脊椎で構成されており,脊椎から左 右の肋骨と肋軟骨を介して胸骨に接続されている.解析対象 の骨格は胸骨(Sternum),肋骨(Rib),肋軟骨(Costal cartilage)お よび上肢に属する鎖骨(Collarbone)である.解析する骨の本数 は左右の鎖骨2 本と中央の胸骨 1 本,肋骨と肋軟骨が左右 12 対で計24 本あるので,合計 27 本(個)となる. 胸部骨折位置はCT 画像により特定することができるが,こ こではさらに骨折位置が胸部前部,側部,背部のどの領域に 生じたのかを定義して分類した.図3 は胸部 CT 画像に基づく 骨折発生位置の定義を示すものであり,CT 撮影では人体が上 を向く姿勢として仰臥位で撮影するため背部を基準とした. 背部の直線は左右肋骨の最背部を通過するように定義した胸 背部線(Back thoracic line)であり,この線上で発生した骨折を胸 背部域(Back thoracic region)での骨折と定義した.前胸部にあ る直線は胸骨を通過して胸背部線と平行になるように定義し た前胸部線(Precordial line)であり,前胸部線上で発生した骨折 を前胸部域(Precordial region)の骨折と定義した.そして前胸部 域と胸背部域以外の左右の側胸部で発生した骨折は側胸部域 (Lateral thoracic region)の骨折と定義した.以上のように定義す ると,図3 にある右肋骨 3 番の骨折例は側胸部域での骨折と なる. 次に胸部骨折域に加え骨折の破壊形態を分類した.これは 事故後に生じた骨の破壊の詳細観察が事故時の胸変位量の推 定につながると考えたためである. CT 画像によって観察す ると骨折は3 つの破壊形態に分類できた.まず図 4(a)は骨全体 の連続性が完全に断たれる破断骨折である.図4(b)は骨にき 裂が発生し,骨の連続性が一部で断たれるき裂骨折である. 図4(c)は皮質骨や海綿骨に連続性が断たれるような破断やき 裂は生じていないが,明らかな変形が生じた屈曲骨折である. Front Back Right Left Rib fracture (L2) Subcutaneous bleeding
Fig.1 Thoracic fracture and seatbelt path location
Fig.2 Definition of thoracic structure and seatbelt path area
Front
Back
Right Left
Rib fracture (R3) Lateral thoracic region
Back thoracic line
Precordial line Precordial region
Lateral thoracic region
Back thoracic region
Fig.3Definition of fractures location
(a) Break (b) Crack
(c) Bend
3.結 果 3.1. 解析対象
日本大学と日本医科大学で実施した交通事故実態調査にお いて,2012 年から 2016 年までの事例を解析対象とした(表1). 対象は車両の衝突方向CDC(Crash Deformation Classification)コ ードで11F,12F,01F の前面衝突とし,人体への衝撃負荷方 向を前面に限定した.横転や転覆事例,データに欠損がある 事例は除外している.解析対象乗員は,シートベルト着用の 右側運転席乗員に限定した.人体左右を対象とみなし助手席 乗員を含める方法もあるが,肝臓のように左右対称ではない 内臓器の配置構造の影響を考慮できるように運転席のみとし た. AIS スコア(Abbreviated Injury Scale1990)は 1 以上の胸部 の骨折傷害者(鎖骨を含む)であり,加害物がシートベルト と判定できた受傷者48 人を解析対象とした. 解析乗員48 人の年齢別の分布を図 5 に示すと,年齢別分布 で最も多かったのは19-54 歳であり 40%を占めた.65 歳未満 の人数は29 人,65 歳以上の人数は 19 人であった.Laituli ら や江島らの研究でも示されているが,胸部傷害に及ぼす年齢 の影響が大きいため,本研究でも年齢の影響をみるために高 齢者に着目する.年齢は厚生労働省が定める前期高齢者65 歳 以上を高齢者とし,65 歳未満を若年者として区分した. 衝撃の大きさに基づいて年齢層別の比較をおこなうために, 車体変形量から固定壁換算速度EBS(Equivalent Barrier Speed) を計算し,年齢層別に胸部傷害の発生件数を比較した.図6(a) は65 歳未満 29 人,図 6(b)には 65 歳以上 19 人の EBS の分布 を示す.図6(a)の 65 歳未満の場合では,最も件数が多い EBS 域は30km/h で 7 件であり累積構成率が 50%となるのは約 30km/h であった.図 6(b)は 65 歳以上の場合では,EBS 域は広 範囲に分布し,累積構成率が50%となるのは約 35km/h であっ た.累積構成率50%は 65 歳以上の高齢者のほうが 5km/h 高い ものの,高齢者と若年者で胸部傷害発生時のEBS の分布に傾 向に差異はない.
Table 1 Disaggregated occupants in in-depth study Target occupant Number of occupant in-depth cases: 2012-2016 years 286
Driver 211
Seatbelt worn 171
Frontal impact 122
Thoracic fracture 74 Injury source: shoulder seatbelt 48
19人(40%) 10人(21%) 15人(31%) 4人(8%) 0 5 10 15 20 25
19-54 years 55-64 years 65-74 years 75-79 years
N
um
ber
of
cases
Fig.5 Distribution of driver age
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 2 4 6 8 10 12 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 C umu lat iv e r at io [% ] N um ber o f cas es EBS[km/h]
MAIS 3- (Thoracic fracture) MAIS 3+ (Thoracic fracture) Cumulative ratio
(a) Under 65 years old (29 cases)
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100 0 2 4 6 8 10 12 15 20 25 30 35 40 45 50 55 60 C umu lat iv e r at io [% ] N um ber o f cas es EBS[km/h]
MAIS 3- (Thoracic fracture) MAIS 3+ (Thoracic fracture) Cumulative ratio
(b) 65 years old and over (19 cases) Fig.6 Relationship between thoracic fracture and Equivalent
Barrier Speed 3.2. 胸部骨の破壊形態の分布 図 7(a)は鎖骨を含む胸部骨折を連続性が完全に断たれる破 断骨折,骨の連続性が一部で断たれるき裂骨折,曲げ変形が 生じた屈曲骨折を示したものであり,CT 像のために左右が反 転して示されている.骨折位置をみると胸骨の骨折や鎖骨骨 折の一部,肋骨骨折の一部はシートベルトパスの範囲内で骨 折している.しかし大多数の骨折はシートベルトパス領域外 の側胸部域で発生していた.図7(b)には図 7(a)に対応した各骨 の破壊形態別骨折本数として定量化して示す.なお,胸骨は 胸郭前部の中央に位置するが図では右側に表示している.各
骨の形態別の骨折本数をみると,胸部右側上部では骨の連続 性が完全に断たれる破断骨折が多発し,胸部左側下部では骨 の連続性が完全に断たれないき裂骨折と変形が生じる屈曲骨 折が多発している.
Right rib cage Left rib cage : Break : Crack : Bend
(a) Fracture location map for all 48 cases
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 Rib 12 Rib 11 Rib 10Rib 9 Rib 8 Rib 7 Rib 6 Rib 5 Rib 4 Rib 3 Rib 2 Rib 1 CollarboneSternum Right side Left side
Break Crack Bend
(b) Number of fractures for all 48 cases
Fig.7 Thoracic fracture distributions in seatbelt restrained drivers (48 cases) 表2 には図 7(b)の結果を統計的に表すために実施した有意 検定の結果を示す.鎖骨を含む肋骨1 番から 12 番までの各骨 での左右の骨折が一方の側に対して有意に発生するかを示す ために,片側での二項検定を実施した.その結果,胸部上部 では右側の鎖骨と肋骨1 番の骨折が左側よりも有意に発生し, 胸部下部では左側の左肋骨4 番から左肋骨 8 番で右側よりも 有意に骨折が発生していた. 表3 に表 2 で有意差があると判定された各骨での破壊形態 別の有意差検定の結果を示す.破壊形態別の分類は,骨の連 続性が完全に断たれる破断骨折と骨の連続性が完全には断た れないき裂骨折・屈曲骨折の2区分とし,一方の形態に対し て有意に発生したかを示すため片側での二項検定を実施した. その結果,胸部右側上部の右鎖骨と右肋骨1 番では破断骨折 がき裂・屈曲骨折よりも有意に発生し,胸部左側下部ではき 裂・屈曲骨折が破断骨折よりも有意に発生していた. 図8 に骨折が発生した領域別の本数と有意検定の結果を示 す.なお胸郭での骨折の発生位置を比較するため,鎖骨骨折 を除外し,胸骨骨折と肋骨骨折160 本を用いた.前胸部での 骨折は45 本,側胸部での骨折は 104 本,また胸背部での骨折 は11 本であり,側胸部領域での骨折が大多数を占めた.側胸 部領域での骨折104 本と,前胸部と胸背部を合わせた側胸部 以外での骨折56 本の有意検定を実施した結果,側胸部領域で の骨折が有意に発生していた.
Table 2 Significant fracture differences for number of ribs Right side Left side
Collarbone 9 0 0.0020 ** Rib1 9 2 0.0327 * Rib2 9 6 0.3036 Rib3 9 15 0.1537 Rib4 7 18 0.0216 * Rib5 5 18 0.0053 ** Rib6 3 14 0.0064 ** Rib7 1 11 0.0032 ** Rib8 0 7 0.0078 ** Rib9 1 4 0.1875 Rib10 1 2 0.5000 Rib11 1 0 -Rib12 0 0 -* p<0.05, -*-* p<0.01
Thoracic bones Number of fracture p-Value
Table 3 Significant differences for number of fracture patterns
Break Crack and Bend
Collarbone 9 0 0.0020 ** Rib1 9 0 0.0020 ** Rib4 3 15 0.0038 ** Rib5 5 13 0.0481 * Rib6 4 10 0.0898 Rib7 2 9 0.0327 * Rib8 0 7 0.0078 ** * p<0.05, ** p<0.01 Right side Left side
Thoracic bones with significant differences
Number of fracture
for each pattern p-Value
45 104 11 0 20 40 60 80 100 120
Precordial and Back
thoracic region Lateral thoracic region
N um ber o f cas es ** p=0.0001 ** p<0.01 Back thoracic Precordial thoracic
Fig. 8 Significant fracture differences between lateral and precordial/back regions in frontal impact.
3.3. 年齢の影響 図9 と図 10 に若年者と高齢者別の骨折位置と各骨の骨折本 数を示す.図9(a)は若年者の骨折位置であり,図 9(b)は若年者 の骨折本数である.図 10(a)は高齢者の骨折位置であり,図 10(b)は高齢者の骨折本数である.図 9(a)と図 10(a)を比較する と,骨折位置は65 歳未満の場合と 65 歳以上の場合のどちら
の場合も大多数の骨折がシートベルトパスの範囲外の側胸部 領域で発生していることを示しており,骨折位置に年齢の影 響はない.図9(b)と図 10(b)の破壊形態別の分布では,65 歳未 満の場合と65 歳以上の両方の年齢層で胸部右側上部では破断 骨折が多発し,胸部左側下部ではき裂骨折と屈曲骨折が多発 しており,年齢の影響はなかった.最も多く骨折が発生した 骨は,65 歳未満の場合では胸骨と鎖骨でそれぞれ 8 本であっ た.65 歳以上の場合,最も多く骨折が発生した骨は肋骨左肋 骨4 番と 5 番であり 11 本であった. 表4 に 65 歳未満と 65 歳以上の場合の骨折本数と 1 人当た りの骨折本数を示す.65 歳未満の場合は乗員 29 人に対して 72 本の胸部骨折が発生し 1 人当たりの平均骨折本数は 2.5 本 であるのに対し,65 歳以上の場合は乗員 19 人に対して 97 本 の胸部骨折が発生したため 1 人当たりの平均骨折本数は 5.1 本であり,年齢が65 歳以上の場合では 65 歳未満と比較して 平均骨折本数は2 倍以上になっている.またシートベルト着 用で前面衝突者は全体で122 人いるが(表1),胸部骨折受 傷者は65 歳未満が 76 人中 29 人,38.2%,65 歳以上は 46 人中 19 人,41.3%と受傷の割合はほぼ同じである.しかし,年齢層 別の胸部の非骨折を含めて総骨本数に対する骨折本数の割合 をみると,65 歳未満の場合は総乗員 76 人,総胸部骨本数 2,052 本に対して29 人 72 本の胸部骨折が発生し,胸部骨折の割合 は3.5%となる.それに対し, 65 歳以上の場合は総乗員 46 人, 総胸部骨本数1,242 本に対して 97 本の胸部骨折が発生したた め,7.8%の胸部骨折の割合となる.以上のように 1 人当たり の平均骨折本数でみても,また胸部骨折の発生割合でみても 高齢者は2 倍以上になっている. 図11 には表 4 に示した 65 歳以上と 65 歳未満の平均骨折本 数の有意検定の結果を示す.平均値の差を検定するためt 検定 を実施した結果,65 歳以上と 65 歳未満の平均骨折本数には有 意に差があることが示された.
: Break : Crack : Bend
Right rib cage Left rib cage (a) Fracture location map under 65 years old
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 Rib 12 Rib 11 Rib 10Rib 9 Rib 8 Rib 7 Rib 6 Rib 5 Rib 4 Rib 3 Rib 2 Rib 1 CollarboneSternum Right side Left side
Break Crack Bend
(b) Number of fractures under 65 years old
Fig.9 Thoracic fracture distributions under 65 years old seatbelt restrained drivers (29 cases)
: Break : Crack : Bend
Right rib cage Left rib cage (a) Fracture location map 65 years old and over
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20 Rib 12 Rib 11 Rib 10Rib 9 Rib 8 Rib 7 Rib 6 Rib 5 Rib 4 Rib 3 Rib 2 Rib 1 CollarboneSternum Right side Left side
Break Crack Bend
(b) Number of fractures 65 years old and over
Fig.10 Thoracic fracture distributions in 65 years old and over drivers (19 cases)
Table 4 Ratio of thoracic fractures compere with two age groups
Number of
drivers thoracic bonesNumber of fracture bones per driverNumber of thoracic Number ofdrivers thoracic bonesNumber of fracture bones per driverNumber of thoracic All cases (within non-fracture) 2012-2016year Frontal impact Seatbelt worn 76 2052 - 46 1242 -Number of thoracic
bone fracture Injury source: seat-belt 29 72 2.5 19 97 5.1
38.2 3.5 - 41.3 7.8
-Under 65 years old 65 years old and over
Ratio of thoracic fractures
2.5 5.1 0.0 2.0 4.0 6.0 8.0
Under 65 years old 65 years old and over
N um be r o f th or acic fr ac tur e bo ne s p er d riv er ** p=0.0023 ** p<0.01
Fig. 11 Significant fracture differences between age groups 4.シートベルト着用乗員の胸部骨折の破壊形態について 本研究の結果では固定壁換算速度EBSの分布は65歳未満と 65 歳以上で傾向は同じであるにも関わらず,65 歳未満と比較 し65 歳以上の乗員は有意に胸部の骨折本数が増加した(表 4, 図11). Carter ら(9)による交通事故でのAIS3 以上の重度傷害 に及ぼす年齢の影響に関する研究では,胸部の骨折の本数増 加による重傷化は加齢が最も大きな要因であると示しており, 本研究の結果と符合する.またLaituri ら(4)はPMHS による前 面衝突時のシートベルト着用乗員について,AIS3 以上の胸部 傷害を受傷するリスクは加齢によって胸部変位量が小さくな ることを示している.さらにAgnew ら(10)が実施したヒト肋骨 の単体材料試験の結果では,加齢によって肋骨の剛性が低下 することを示している.Mirzaali ら(11)の皮質骨の引張・圧縮実 験でも同様に加齢によって弾性率が低下することを示してい る.以上のような先行研究を踏まえると,高齢者が有意に骨 折が発生した要因として,加齢による骨の材料特性の低下が 原因であると言える. シーベルトパスと骨折位置の関係については,前面衝突時 のシートベルト着用運転席乗員が受傷した胸部骨折箇所は, シートベルトパス直下の前胸部ではなく,むしろシートベル トパス領域外の側胸部で有意に発生することを示した(図7, 図8).このことは,これまでにあまり着目されていないが重 要な知見である.前面衝突においてシートベルトによる荷重 によって側胸部で骨折が発生する結果は,Shaw ら(7)が実施し たPMHS による前面スレッド試験での側胸部の骨折位置と符 合する.Shaw らは側胸部での骨折はショルダーシートベルト から加わった荷重によるたわみによって発生すると示唆して いる.またForman ら(3)が実施した有限要素モデルによる肋骨 骨折リスクの予測に関する研究では,シートベルトによる荷 重の極限ひずみの分布を解析し,極限ひずみが側胸部に分布 することを示している.したがって,本研究の事故調査例で 前面衝突時に側胸部が有意に骨折する原因は,シートベルト パスを介して胸郭がたわむことで,側胸部の骨折が好発した ものと考える. 胸部CT 画像により破断,き裂および屈曲に分類した骨折の 破壊形態の解析は,これまでの事故調査解析では前例をみな い新しい解析である.右側運転席乗員の胸部右側上部の鎖骨 と肋骨1番では破断骨折が有意になり,胸部左側下部ではき 裂・屈曲骨折が有意に発生した(表3).Charpail ら(12)による PMHS を用いたヒト肋骨の材料試験の結果では,胸部上部の 肋骨4 番は下部の 8 番・9 番と比べ背面部から前面部までの長 さが短いので胸郭構造が小さく,そのためより小さい変位量 で骨折が発生することを示している.Charpail らの研究では肋 骨4 番から 9 番のみが用いられているが,これに基づくとシ ョルダーシートベルトパス近傍で破断骨折が発生する原因は, 肋骨1 番や 2 番は骨が短く胸郭構造が小さいので変形しにく く,荷重が加わった場合に破断に至るものと推定できる.ま た胸部下部の肋骨は胸部上部の肋骨と比べ胸郭構造が大きく 変形しやすいため,破断には至らずき裂あるいは屈曲骨折が 発生したものと推定する.Kemper ら(13)が実施した肋骨皮質骨 の単純曲げ試験の結果では,肋骨の位置による材料特性には 差がないことが示されており,したがって胸郭の破壊形態は 骨の材料特性よりもむしろ胸郭構造の影響が大きいものと考 える. Shaw ら(7)のPMHS 試験時では,正面衝突時の乗員に 加わるシートベルト張力はショルダー上側と下側で差がない としており,以上に基づくと,破断やき裂,屈曲の破壊形態 にはショルダーシートベルトを介した荷重の違いではなく, むしろ上下の胸郭構造が肋骨の破壊形態の差異に影響を及ぼ していると言える. 5.結 論 本研究では前面衝突時のシートベルト着用運転席乗員が受 傷した胸部損傷をCT 画像を用いて詳細に特定することで次
の3 点の結論を得た. 1) 65 歳未満と 65 歳以上に分類し年齢による影響を調査した 結果,65 歳以上は65 歳未満より骨折本数が2 倍以上になった. 2) 前面衝突時のシートベルト着用乗員の胸部骨折を CT 画像 より特定した結果,大多数の骨折がシートベルトパス以外の 側胸部で有意に発生することがわかった. 3) 前面衝突時のシートベルト着用右側運転席乗員が受傷する 胸部骨折は,右上胸部と左下胸部で骨折が多発し,右上部で は破断骨折,左下部ではき裂・屈曲骨折が多発する.このよ うな胸部の上部と下部の破壊形態の違いは,胸郭構造が影響 を及ぼしている. 本研究で実施した交通事故実態調査は「実社会の交通事故 による外傷のメカニズムの究明と傷害軽減戦略の在り方に関 する調査研究」として日本医科大学千葉北総病院倫理委員会 の承認(第506 号)を得て実施した. 参 考 文 献 (1) 公益財団法人 交通事故総合分析センター:交通統計 平成 28 年版,p. 85 (2016)
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