地域と歩む子育て
未来をはぐくむ
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第 回
第4部・晩婚化の周辺(上)
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「5分たちました。男性は次のテーブルへどうぞ」 。進行役がマ イクで〝タイムアップ〟を告げると、貸し切られた洋風レストラ ンに一瞬、静けさが戻った。用意された 18卓のそれぞれで、一対 一に向かい合った男女が名残惜しそうに会釈を交わす。間もなく すると、同じテーブルは新たな出会いの舞台に変わる。 7 月 の あ る 夜、 大 分 市 の 民 間 団 体「 お お い た 出 会 い 応 援 セ ン ター」 が市内で催したお見合いパーティーに、 男女各 18人が集まっ た。1人の異性と会話できるのは、フリータイムを除けばわずか 5分。限られた時間になるべく多くの出会いを提供するための配 2 0 1 0 年 7 月 20日 掲 載 「はじめまして」。ぎこちないあいさつから、 生涯のパートナーを探す会話が始まる=大 分市内のレストラン=
5分間の伴侶探し
参加者の目に願いと焦り
慮だ。 30歳 代 後 半 が 目 立 つ 顔 触 れ。 「 一 生 の パ ー ト ナ ー を 見 つ け た い 」。 参 加 者 の 目 に は 願 い と 焦 り が に じ む。 県の委託を受け、年間 80件近いパーティーを開く セ ン タ ー に は、 県 内 各 地 か ら 申 し 込 み が 舞 い 込 む。 事業を始めたこの4年間で、登録会員は8千人を超 えた。 その多くは 40歳前後。週末のパーティーは希望者が集中し、抽選を余儀なくされることもた びたびだ。 「 仕 事 を 持 ち 自 立 し た 生 活 を 送 る 女 性 の 増加や、不況による男性の収入不安が、結 婚 を 考 え る 時 期 を 遅 ら せ て い る の で は な い か 」。 応 援 セ ン タ ー の 村 山 和 寿 事 務 局 長 ( 44) は、 さ ま ざ ま な 要 因 が 初 婚 年 齢 を 押 し上げているとみる。 その一方で、家庭や子どもを真剣に求め るようになったものの、年齢を重ねてしま いパートナー探しに苦労する人が増えると いったジレンマも生じている。 「 出 会 い を 紹 介 し て く れ る 近 所 の お ば さ んや職場の上司といった〝世話焼き〟がい なくなった点も大きい」 。 村山事務局長は、出会いの受け皿づくり を急ぐ必要性を強調する。 子どもを産む女性に負担を掛け、少子化 も助長する晩婚化を食い止める手だてはあ るのか。若者の出会い支援に取り組む関係 者 た ち は、 「 家 庭 を 築 く こ と の 素 晴 ら し さ を、人生の先輩たちからもっと伝えてもら いたい」と口をそろえる。 「 結 婚 生 活 の 大 変 な 面 ば か り が 話 題 に さ れ る か ら 、若 者 が 結 婚 か ら 遠 ざ か っ て し ま う 」。 豊後大野市を拠点に結婚式のプロデュース やお見合いイベントに携わる坂本江里子さ ん ( 42) は も ど か し さ を 感 じ て い る 。 若 者 た ち の 結 婚 相 談 に 耳 を 傾 け な が ら 思 う 。「 家 庭 か ら 得 ら れ る 充 実 感 を 伝 え る こ と が 、 若 者 の 背 中 を 押 し て あ げ る こ と に な る 」 晩婚化が止まらない。初婚年齢、第1子 出産年齢、未婚率は上昇カーブを描き続け る。 婚 活、 結 婚 難、 雇 用 不 安、 不 妊 治 療。 少子化問題の底流にある結婚・出産事情を 追った。 【大分県の未婚率】 国勢調査によるデータでは、1975 年ごろから、20 歳代後 半~ 30 歳代の男女の未婚率が上昇を続けている。30 歳代 前半では男性が 75 年の 8.8%に対し 2005 年が 42.5%、女性 が 7.7%に対し 31.1%になるなど、増加が著しい。50 歳時 点で結婚していない割合は男性が 13.3%、女性が 6.8%(2005 年)。男性は 1990 年(3.6%)の 4 倍近くに上る。
「子どもは2人ほしいな」 。付き合って1年半。 同棲中の彼女( 27)が、ふとつぶやいた。子育 て の 費 用 と 自 分 の 収 入 を 頭 の 中 で は か り に 掛 け、 思わず口から出かかった言葉を飲み込んだ。 「難しいかもな…」 大分市の会社員男性( 26)は3年前から、県 中部の部品製造工場で正社員として働く。堅実 な仕事ぶりが認められ、 派遣社員からの〝昇格〟 だった。 し か し、 夏 冬 の ボ ー ナ ス や 定 期 昇 給 は な い。 派 遣 時 代 に は な か っ た 残 業 が 加 わ っ た も の の、 手取りの月収は一向に増えない。 最 近、 毎 日 の よ う に 結 婚 が 話 題 に 上 る。 お 互 い の 気 持 ち は 通 じ て い る。 た だ、 年 収 は 2 0 0 万 円 台。 貯 金 も な い。 家 族 を 養 え る か、 まだ自信がない。 「 安 定 し た 仕 事 に 就 け た こ と は あ り が た い 」 と 男 性 は 言 う。 そ れ で も、 「 ま だ 結 婚 生 活 や 子 育てに実感がわかない」と漏らす。 結婚と収入。これから家庭を築いていく世代 2 0 1 0 年 7 月 21日 掲 載 仕事帰り。一緒に暮らす彼女のため に食材を買い込む。「今すぐにでも 結婚したいけれど」と男性は漏らす =大分市内のスーパー駐車場
家族を養えるのか…
収入伸びず不安〝足踏み〟
にとって、雇用や収入の安定は欠くこ とのできない条件だ。 しかし、長引く不況で非正規労働者 の割合が年々増加。労働者全体の平均 収入も下がり続け、将来への不安から 結婚や出産の前で立ち止まる若者が増 えている。 収入の規模が結婚への意識に直結す る傾向が、国の調査でもくっきりと浮 かび上がる。収入に関係なく、人生の 新たな一歩を踏み出そうとする若者を 後押しする施策は考えられないか。 社会保障や次世代育成策を研究して いる大分大学福祉科学研究センターの 椋野美智子教授は「経済的な負担が大 きい、子育てにかかわる行政支援を手 厚くするべきだ」と指摘する。 表裏一体の取り組みとして、女性が 結婚や出産後も働き続けられる環境を 整える重要性を強調する。 「不況でも、 夫婦共働きで家計を支えていけるシス テムを築く必要がある」 高校や大学を出て最初に選んだ仕事 になじめず、若者が早期に辞めるミス マ ッ チ も 雇 用 の 不 安 定 化 を 促 す 大 き な 問 題 だ。 大 分 県 内 の 高 卒 者 が 就 職 後 3 年 以 内 に 離 職 す る 割 合 は 5 3 % ( 2 0 0 7 年 3 月 卒 業 生 ) で、 全 国 平 均を約10ポイント上回る。 高校生の進路指導に当たる県内の教 育関係者は「一度離職すると再び正規 の仕事には就きにくいのが現実」と険 しい表情で語る。 「 最 初 に 選 ん だ 職 場 で 後 悔 し な い よ うに、仕事に対する知識を生徒や保護 者と一緒に深めていかなければならな い」 【大分県の雇用状況】 2007 年の総務省「就業構造基本調査」では、大分県内 の非正規労働者の割合は 33.2%。内訳はパート 17.7%、 アルバイト 4.6%、契約 3.6%、派遣 2.8%など。所得が 300 万円未満の労働者の割合は 59.8%(男性 46%、女性 77.3%)で、いずれも 02 年より約5ポイント増えた。所 得層が最も厚いのは、男性が 300 ~ 399 万円、女性は 50 ~ 100 万円未満の層。
結婚して、子どもを産 む ―。 「 女 と し て、 自 分 では当たり前のことだと 思 っ て た 」。 こ の 数 年、 不妊に悩んでいる県中部 のある主婦は静かに胸の 内を語った。 生理が少しでも遅れれ ば 妊 娠 の 期 待 に 胸 が 躍 り、 生理が来るたびに 「暗 い 穴 に 気 持 ち が 落 ち て いった」 。 同級生や友達の妊娠を 喜ぶことができず、子ど ものことを聞かれるのが 怖くて夫の実家にも足が 遠のいた。 だが、じきに 30代も半 ば に 差 し 掛 か る。 「 年 齢 的 に も う 余 裕 が な い か ら」 。 夫 と 何 度 も 話 し 合 い、 不妊治療を始めようと決 めた。 わが子がほしい―。 その思いだけは、どうし てもあきらめることがで きない。 2年以上の性生活を経 ても妊娠できない「不妊 症」に悩む夫婦は、国内 に140万組以上とされ る。 大 分 市 の「 セ ン ト・ ル カ 産 婦 人 科 」。 こ の 不 2 0 1 0 年 7 月 22日 掲 載 職員とのミーティングに臨むセント・ルカ産婦 人科の宇津宮隆史院長(左)。不妊治療の最前線 に晩婚化の波が押し寄せている=大分市
「わが子を」不妊治療
年齢と負担の間で、もがく
妊治療の最前線にも、晩婚化の波は容赦 なく押し寄せる。 同産婦人科で女性が不妊外来にかかる 年齢は、開院当初(1992年)の 28歳 か ら 2 0 0 6 年 に は 32歳 に 上 昇。 「 本 来 の生殖年齢と、現実の出産年齢に隔たり が生まれている」 。宇津宮隆史院長( 61) は、晩婚化が止まらない現状にもどかし さも感じている。加齢だけでなく、不妊 に は さ ま ざ ま な 要 素 が 複 雑 に 絡 み 合 う。 体外受精、顕微授精といった生殖医療は 目覚ましい進歩を遂げた。それでも女性 の 生 殖 年 齢 に は 限 界 が あ り、 妊 娠 率 は 35歳から急激に下がるという。 「 晩 婚 化 の 影 響 だ け で な く、 高 額 な 治 療費に若い夫婦が戸惑い、受診時期がず れ込むことで結果的に初診年齢を押し上 げ て い る 」。 患 者 負 担 の 軽 減 ―。 宇 津 宮 院長は、治療に対する適正な保険適用と 助成金の増額を社会に訴え続ける。 「加齢とともに妊娠が難しくなる」 。不 妊に悩む夫婦が一日も早い妊娠を願うの は当然だ。年齢的に治療は簡単には先送 りできない。多額の治療費や交通費がか かっても、遠方まで通院する患者は少な く な い。 「 患 者 は 年 齢 の 壁 と 精 神 的、 経 済的な負担のはざまでもがき、苦しんで い る 」。 不 妊 当 事 者 の 自 助 団 体「 N P O 法 人・ F i n e 」( 東 京 ) の 松 本 亜 樹 子 代表( 46)は、自らの不妊体験と重ね合 わせてこう話す。 生殖医療によって生まれる赤ちゃんは 増え続ける。子どもを産み、 育てたい―。 不妊治療は、晩婚化社会に生きる女性が 抱く、本来はささやかであるはずの願い を支えている。 【不妊治療】 日本産科婦人科学会によると、国内では出生児の 55 人に 1人(2007 年)が生殖医療によって生まれている。治療は (1)排卵を予測して自然妊娠を促すタイミング法(2)精 子と卵子を培養器の中で受精させ、受精卵を子宮に戻す体 外受精(3)顕微鏡下で卵子に精子を直接注入する顕微授 精―など。セント・ルカ産婦人科によると、全国では約 40 万組(推計)の夫婦が不妊治療を受けている。
■オオイタデジタルブックとは オオイタデジタルブックは、大分合同新聞社と学校法人別府 大学が、大分の文化振興の一助となることを願って立ち上げた インターネット活用プロジェクト「NAN-NAN(なんなん)」の一 環です。 NAN-NAN では、大分の文化と歴史を伝承していくうえで重要 な、さまざまな文書や資料をデジタル化して公開します。そして、 読者からの指摘・追加情報を受けながら逐次、改訂して充実発 展を図っていきたいと願っています。情報があれば、ぜひ NAN-NAN 事務局にお寄せください。 NAN-NAN では、この「未来をはぐくむ」以外にもデジタルブッ ク等をホームページで公開しています。インターネットに接続 のうえ下のボタンをクリックすると、ホームページが立ち上が ります。まずは、クリック!!! 別 府 大 学 ⓒ 大分合同新聞社 デジタル版「未来をはぐくむ~地域と歩む子育て~」 第9回 編集 大分合同新聞社 初出掲載媒体 大分合同新聞(2010 年 4 月 20 日~ 2011 年 2 月 12 日) 《デジタル版》 2011 年4月 29 日初版発行 編集 大分合同新聞社 制作 別府大学メディア教育・研究センター 地域連携部/川村研究室 発行 NAN-NAN 事務局 (〒 870-8605 大分市府内町 3-9-15 大分合同新聞社 企画調査部内) ⓒ 大分合同新聞社 ●デジタル版「未来をはぐくむ」について 「未来をはぐくむ」は、大分合同新聞社が 2010 年4月から 翌 2011 年 2 月まで、同紙夕刊に掲載した連載記事。今回、 デジタルブックとして再構成し、公開する。登場人物の年齢 をはじめ文中の記述内容は、新聞連載時のもの。 閲覧には Adobe Reader をご利用下さい。ほかの PDF ビュー アではリンクやボタン機能が使えない可能性があります。 2011 年3月4日 NAN-NAN 事務局 大分合同新聞社