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HMG CoA レダクターゼによるコレステロール生合成の制御

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平 成 元 年12月(1989年) 1

HMG

CoAレ

ダ ク タ ー ゼ に よ る

コ レ ス テ ロ ー ル 生 合 成 の 制 御

Regulation of Cholesterol Biosynthesis by HMG CoA Reductase

Narita Hiroshi は じ め に 現 在 で は コ レス テ ロ ー ル と 聞 くと,そ の動 脈 硬 化 症 と の 関連 か ら生 体 に と って は"ワ ル モ ノ"で あ る と い う イ メ ー ジ を 持 って い る人 が 多 くな って きて い る よ うで あ る 。Fig・1は ア メ リカ に お いて35才 か ら57才 の男 性 約36万 人 を6年 間 調 査 した 結 果 得 られ た,血 清 コ レス テ ロ ー ル 値 と総 死 亡 率 並 び に 虚 血 性 心 疾 患(CHD) に よ る 死 亡 率 との 関 係 を見 た もの で あ る1)。 後 者 は 明 らか に200mg/dlあ た りか ら立 ち 上 が りを み せ,前 述 の見 解 が 正 しい こ と を 証 明 して い る 。 しか し,総 死 亡 率 は190mg/dlあ た りを 極 小 と した 下 に 凸 の カ ー ブ を 描 き,高 コ レ ス テ ロ ー ル 血 症 の 危 険 性 と共 に低 コ レ ス テ ロー ル血 症 の 危 険性 も示 して い る。 これ を 裏 返 せ ば,コ レ ス テ ロ ー ル は生 体 に と って 必 要 な 物 質 で あ りい わ ば 両 刃 の 刃 的 性 格 を 持 った 化 合 物 で あ る事 が分 か る 。 ま た,そ の 極 小 範 囲 の 狭 さ は,生 体 は そ の量 を 厳 密 に 制 御 しな け れ ば い け な い,換 言 す れ ば,生 体 に は コ レス テ ロ ー ル 含 量 の厳 密 な 制 御 機 構 が 存 在 す る事 を示 して い る。 本 総 説 で は コ レ ス テ ロ ー ル 生 合 成 の 律 速 酵 素 で あ る HMG-CoAレ ダ ク タ ー ゼ(3-hydroxy-3-methylgluta-ryl-CoA reductase EC 1.1.1.34,以 下HMGRと 略 す)の 制 御 機 構 を わ か りや す く解 説 す る こ と を 通 じて 生 命 の 妙 あ るい は そ れ を 明 らか に せ ん と して 進 歩 して き た 生 化 学 の 流 れ,現 状 を 紹 介 で きれ ば と思 って い る 。 1.コ レ ス テ ロ ー ル 代 謝 京都 女子大 学食物 学科食 品学第一研究 室 コ レス テ ロー ル は細 胞 膜 の 約50°0を 占 め る主 成 分 で あ る の み な らず,ス テ ロ イ ドホ ル モ ン,胆 汁 酸 の前 駆 体 で も南 り,生 体 の 構 造 及 び 生 理 機 能 上 必 須 の化 合 物 で あ る。 通 常 成 人 で は1日 当 り最 高 約1gの 食 事 性 コ レス テ ロ ー ル(胆 汁,消 化 管 脱 落 細 胞 由来 の コ レス テ ロ ー ル を 含 む)が 小 腸 で 吸 収 さ れ,カ イ ロ ミク ロ ン と 呼 ば れ る リポ タ ンパ ク 質(脂 質 と タ ンパ ク質 の複 合 体 で 水 に 溶 け に くい 脂 質 の 可 溶 化 と方 向 付 け をす る運 搬 体)と して 門 脈 に分 泌 され 肝 臓 に至 る 。肝 臓 に運 ばれ た 食 事 性 コ レス テ ロー ル の う ち,肝 細 胞 で利 用 され た も のや 胆 汁 酸 に異 化 され た も の 以 外 はVLDL(very low density lipoprotein)と して 循 環 系 に 放 出 され,各 組 織 細 胞 に 分 配 さ れ る。 こ の 際VLDLは 血 流 中 でLDL (10w density lipoprotein)に 転 換 さ れ た 後,各 組 織 細 胞 表 面 に 存 在 す るLDLレ セ プ タ ー を 介 して 細 胞 内 に特 異 的 に 取 り込 ま れ る。 一 方Fig.2に ま と め た よ う に, コ レス テ ロー ル は アセ チ ルCoAを 出発 物 質 と して10 数 段 階 の 酵 素 反 応 を へ て 細 胞 内 で 生 合 成 され る。 こ れ ま で 調 べ られ た全 て の 動 物 細 胞 は こ の経 路 を 有 して お り,成 人 で そ の 量 は 一 日当 り約1gで あ る 。 従 って, 細 胞 は 常 に 外 因 性 コ レ ス テ ロ ー ル(カ イ ロ ミク ロ ンや LDLな ど)と バ ラ ン ス を と っ て コ レス テ ロ ール 生 合 成 量 を 決 定 しな け れ ば な らな い 。1950年 代 後 半 ま で の 研 究 で コ レス テ ロー ル生 合 成 の 律 速 段 階 がHMGR に よ るHMG-CoAの メ バ ロ ン酸 へ の変 換 に あ る こ と

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Total Mortality Serum Cholesterol (mg/ dl) Fig. 1 Age-adjusted 6ぅTearcoronary heart disease (CHD) and toatal mortality

per 1000 men according to serum cholesterolll

が明らかにされてきた。酢酸からの HMG-CoAの合 成速度やメバロン酸からのコレステローlレ合成速度が コレステローノレによってあまり影響を受けないにもか かわらず,HMG-CoAからのメバロン酸の合成速度は 強い抑制を受けるからである。つまり,LDLレセプタ ーを介した細胞内へのコレステローノレの取り込みによ りコレステローノレの生合成が抑制される事になる。乙 Acetyl CoA

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~ Vitamin D のように生合成系の最終生成物がその系の初期反応を 抑制する事は負のフィードパック制御と呼ばれている。 Fig.2はさらに重要なことを示している。このコレス テロール生合成経路の側鎖反応として, tRNAの構成 成分であるイソペンテニノレアデニシや呼吸鎖における ATP合成に必須なユビキノン,ビタミンD,糖タン パク質合成に係わるドリコーノレなどの合成経路が位置 している事である。つまり, HMGR によるメバロン 酸合成の制御はコレステロール生合成のみならず他 のいくつかの生体にとって極めて重要な化合物の合 成量を制御している可能性があるからである。では HMGRはどのように制御されているのであろうか? その前に HMGR自体について理解しておく必要が ある。

1

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HMG-CoA reductase HMGRの重要性が1950年代に指摘されていたにも かかわらず,その実体が判明するまでには長い時聞が 必要であった。それは HMGRの存在量が少ない乙 とに加えて, HMGRが細胞内の小胞体画分に存在す る膜結合酵素であるためで,その精製には膜からの可 溶化が必要とされ困難を極めた。しかし, 1976年遠藤 ら2)によって発見された HMGRの阻害剤 ML236B (コンパクチン)の利用がその後のHMGR研究を飛 躍的に発展させることになる。

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平成元年12

(1989年) スタンフォード大学の Simoni ら3-5)とテキサス大 学の Brown と Goldstein らめは,動物培養細胞を ML236 B に馴化させることにより高濃度 ML236B 耐性株を樹立した。これらの細胞は ML236B による 阻害に打ち勝っために,正常細胞に比べて 100倍以上 の HMGRを含むような能力を獲得したものであっ た。彼等はこれらの細胞を用いて HMGRがモノマー 当り 97キロダノレトン (kD)の分子量を持つ高マンノー ス型の糖タンパク質であることを明らかにした問。 さらに,遺伝子工学的手法の導入により HMGRの mRNA に相補的な cDNAが単離され,その塩基配 列が決定された判ω。チャイニーズハムスター輸卵管 (CHO)細胞由来の HMGRの場合ペアミノ酸として 887残基,推定分子量約 97kDをコードする mRNA の全容がこうして明らかとなった。 Fig.3はとのタン パク質のアミノ酸配列と各残基の近傍の疎水性度との 関係を表している11>0 N 末端側 340番 ま で に 22"-'30 残基からなる 7つの疎水性の高い領域が連続している のが特徴的である。 乙の部分は一次構造上 α ヘリッ クスをとりやすい。 αーヘリックスが一回転あたり 3.6 残基5.4Aであるととを考慮すると,約 40Aの生体 膜を貫通するためには約26残基のアミノ酸が必要であ る。この値から,前述の7つの領域は小胞体膜を貫通 している部分に相当していることが予想される。また, HMGRをタンパク質分解酵素の阻害剤なしで可溶化 すると分子量約 52kDの活性酵素が得られるが,これ 〉、

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ー は HMGRの C末端側の530残基に相当する。乙のほ か,乙の親水d性触媒部分が小胞体の細胞質側を,糖鎖 は小胞体の内側を向いていることが明らかにされ, HMGR の構造が Fig.4のように推定された。又, HMGRタンパク質の N末端のアミノ酸配列は遺伝子 から予想される配列と同じであることから HMGRは 一般の膜タンノfク質とは異なり切断されるシグナル配 列を持たない事も判明した。 Table1 に乙の CHO 細胞由来の HMGRとシリアンハムスター10〉,ヒト12) 由来 HMGRとのアミノ酸配列の相同性をまとめた。 この場合,“タンパク質のアミノ酸配列は,種が近い程 あるいは,機能的に重要な部分程進化の過程でよく保 存されている"事が予想される。予想通り,全体でみ るとハムスターどうしは極めて良く似ており,また種

Table 1 Amino acids homology of different do -mains of Syrian hamster and H uman versus Chinese hamster HMGR. Human HMGR has an additional amino acid in the linker domain. 10-12)

Domain RNumber esidue SHyarmiasnter Human Membrane 1-339 100第 98 Linker 340-448 85 77 Catalitic 449-887 99 95 Whole 1-887 98 93 600 800 Residue

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Fi忌.3 Hydrophobicity plots of the amino acid sequence of HMGR. The 7 predicted membrane-spanning regions are numbered 1-711).

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- 4 -

食物学会誌・第

4

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NH3

Fi忌.4 Topological model for HMGR in the membrane of the endoplasmic reticulum. The arrows indicate the carbohydrate chain. The 17 amino acid substitutions between the hamster lines are shown 1llclosed circles9dO)

が違っても触媒部位は良く保存されている。膜部位と 触媒部位のつなぎ部分では相向性が低く,シリアンハ ムスターの場合全体で17個の置換のうち 13個がこの部 位に集中しており (Fig.4),との部分があまり重要でな いことを推測させる。 一方,驚いたことに,膜部位はハムスターどうしで は全く同じであり,ヒトの場合も含めて触媒部位より 高い相向性を示している。このことは膜部位が本酵素 の機能上非常に重要な役割を果たしていることを示唆 している(後述)。

1

1

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.

HMGR

の制御機構

酸素反応速度は酵素量に比例する。細胞が酵素量を 変動させる方法としては,酵素タンパク質の生合成速 度を変化させる,分解速度を変化させる,の2通りが ある。 ここではテキサス大学の Brownと Goldsteinらの ク"ルーフ。によって解明された HMGRの制御機構を中 心に解説する。因みに,彼等はコレステロール代謝に 関する研究で

1

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5

年度のノーベル医学,生理学賞を授 賞している。 1) HMGR生合成の制御 前述したように HMGRはコレステロールによって 負のフィードパック制御を受けている。乙の現象は試 験管内での HMGR反応では見られない為,間接的な 仕方である。 コレステローjレを含まない脱脂血清中で培養した UT-1細胞 (CHO 細胞由来の ML236B 耐 性 高 HMGR細胞)にコレステロール運搬体である LDL を加えると HMGR活性が低下する。このとき同時に HMGR自身の合成速度,さらに HMGRの mRNA 量も低下する13)(Fig. 5)。つまり, LDL (コレステロー ノレ)は HMGR生合成を転写レベノレで抑制している。 従って, HMGRをコードしている DNA部分にコレ ステロール量の増加により HMGRの転写を抑制する 部分(オペレータ)があることになる。彼等はこのオ

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に示したように, HMGR遺伝子のこのプロモータ一 部分には6つのタンバク質結合サイトがあるが, Dの 部分はその 2番目とオーパーラップしている。そして とのD領域における変異によりタンパク質結合活性も 消失することが明らかにされた。さらに乙のD領域中 には, HMGR同様コレステローlレによってその転写 が抑制される事が明らかとされている LDLレセプタ ー遺伝子のオベレーター領域と 8残基中7残基まで一 致する部分がある1ヘ 彼 等 は こ の8残基配列 GTGZ GGTGがコレステロール依存性転写抑制をつかさど るタンパク質の結合サイトであると推定している。現 在乙の配列に結合可能なタンパク質が検索されている が,特異的なものはまだ発見されていない加。 HMGRの生合成速度は翻訳段階においても制御さ れている。 Peffleyと Sinenskyは HMG-CoA合成 酵素を欠損しているためにメバロン酸要求性である CHO細胞を用いて, HMGRに対する培地への25-ヒ ドロキシコレステロールとメバロン酸の添加効果を調 べた17)0 25-ヒドロキシコレステローノレのみの添加で は, HMGRの活性,合成速度,mRNA量はともに25 箔までしか低下しなかったが, 25ヒドロキシコレス テローJレをメバロン酸とともに添加すると, HMGR-mRNA量の低下は同じであるにもかかわらずHMGR ベレーターの塩基配列を極めて巧妙な手段で同定した 14) 0 Fig.6 !ζ示すように,彼等は HMGR遺伝子の転 写開始コドンより 5'上流277塩基対のA"-,,Oのそれぞ れ異なった部位に変異をもっ 15個の変異フ。ロモーター を作製し,乙れらをバクテリアのクロラムフェニコー ノレアセチlレトランスフエラーゼ (CAT)遺伝子のコー ド領域の上流につないだプラスミドを構築した。これ らのプラスミドが CHO細胞に導入され, このキメ ラ遺伝子の転写効率に対する培地へのコレステローjレ の添加の影響が調べられた。プロモーターが正常な場 合,培地へのコレステロールの添加により約70労の転 写抑制がみられる (Fig.6,左端).C, Fおよび H十I 部分の変異lとより転写活性が著しく低下する事から, これらの配列がプロモーター活性に重要であることが 推察される。一方,

D

における変異はプロモーター活 性に影響を与えないが,コレステローノレによる転写抑 制を完全に解除してしまう。次に D部分の 5'側20塩基 対をへJレペスウィルスのチミジンキナーゼのプロモー タ一部分に挿入し,先ほど同様CAT遺伝子につない でCHO細胞に導入してやると, CATの発現が培地 へのコレステローjレの添加によって抑制されるように なる。この様に, D領域の乙の20塩基対はオペレータ ーとしての必要十分条件を備えている。 Fig.6の下部

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Relative transcription of pJasmids driven by wild-type and mutant HMGR promoters in CHO cells in the absence (open bar) or presence (closed bar) of sterol. The horizontal axis indicates the location of each mutation in the reductase promoter sequence (十1 corresponds to nucleotide A of initiation ATG). All values are plotted relative to the transcriptional activity shown by wild-type HMGR promoter (very left). Six protein binding resions are shown at the bottom14).

Fi岳.6 胞を用いて分解機構のみを解明することは不可能であ った。そ乙で, 彼等はまず CHO細胞を変異剤処理 し, HMGR欠損細胞 UT-2を樹立した20。 従って UT-2はメバロン酸要求細胞である。つぎに simian virus 40 (SV 40)のプロモーターの下流に HMGR cDNAをつないだプラスミドを作製し,乙れを UT-2 に導入することにより,メバロン酸非要求性となっ た細胞TR-36を樹立した。さらに彼等は HMGRの 膜部分を完全に欠損した cDNAを作製し乙れを同様 にUT-2に導入してTR-70という細胞を得た22)0 TR -36,70のHMGR遺伝子はSV40プロモーターによ り支配されているためコレステロールによる転写抑制 を受けないし,また TR-70のHMGRは膜部部分を 欠いているため分子量は 60kDで小胞体ではなく細 胞質に局在するはずである (Fig.7)。乙れらの人工 HMGR発現系はこのように設計され,事実分析の結 果は予定通りであった。 Fig.8はpulse-chase実験iと より TR-36とTR-70における HMGRの分解速度 を比較した結果である。 TR-36の完全 HMGRの方 がTR-70の膜欠損 HMGRより速く分解する上,そ の速度は培地へのステローノレの添加によりさらに数倍 加速される。膜欠損HMGRの分解速度はステロール の影響を受けない。つまり,彼等の作業仮説の正当性 活性とその合成速度は

2%

まで低下した。すなわち, HMGRmRNAの翻訳がメバロン酸(あるいはその コレステロール以外の代謝物)によって抑制されてい る事が判明した。非ステローノレ性メバロン酸代謝物に よる HMGRの制御に関しては後述する。 2) HMGR分解の制御 HMGR量は転写,翻訳レベルのみならず分解レベ ノレでも制御を受けている。たとえば,小胞体酵素であ るHMGRの半減期はラット肝臓で2-4時間であるが, 乙の値は他の小胞体のタンパク質の 2日に比べて著し く短い18)。また UT-1における HMGRの分解速度 はLDLの培地への添加により数倍速くなるゆ。一方, UT-1のHMGRはクリスタロイドと呼ばれる特異構 造をした小胞体に存在しているが, LDL を培地に加 えるとクリスタロイドへのコレステローノレの蓄積にと もなって乙の構造が崩れHMGRも減少する加。これ らの結果から BrownとGoldsteinらは“HMGRの膜 部分がコレステロールと相互作用することによって HMGRの分解が制御されている"という作業仮説を たてた。前述したように, HMGRの膜部分のアミノ 酸配列の著しく高い保存性はこの膜部分が極めて重要 である乙とを示唆している (Table1)・しかし,HMGR 量は生合成レベノレで強い制御を受けている為,正常細

(7)

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97kD Protein (TR-36 cells) 園

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平成元年12月(1989年)

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Structures of the two HMGR plasmids and the proteins that they encode22). Plasmid

pRed‘227 encodes the entire 97 kD form of HMGR. Plasmid pRed・227

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Gln341) encodes a 60 kD form of HMGR in which the membrane-spanning domain has been deleted from the 97 kD HMGR.

60kD Protein (TR-70 Cells)

pRed-227ム (GlYlO-GIll341)

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Fi邑.7 (116 kD)のハイブリッド (152kD)であり,名前も両 者にちなんで HMGalと 命 名 さ れ た 。 対 照 と し て CHO細胞に導入された戸ーガラクトシダーゼ(Gal)は 可溶性画分の酵素であったが, HMGalは小胞体に局 在していた口つまり, HMGRは切断されるシグナJレ 配列を持たないことから,乙の膜部分が小胞体への酵 素の局在化の情報を担っているととになる。さらに重 が証明された訳である。 HMGRの膜部分の重要性は別の方法を用いても明 らかにされた。 Simoniらは HMGRの膜部分をコー ドする塩基配列に大腸菌のかガラクトシ夕、、ーゼの配 列をつなぎ, 乙れを SV40のプロモーターのもとに CHO細胞に導入した却。発現されたタンパク質は HMGRの 膜 部 分 (36kD)と戸ーガラクトシダーゼ B. TR-36 Cells (97 kD) A. TR-70 Cells (60 kD)

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98H恥lGal 12 24 36 48 Hours in LDL

Fi忌.9 Suppression of s-galactosidase activity in cell lines expressing HMGal (.) or Gal (0) after addition of

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要なことには, Gal活性は培地への

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の添加によ って変化しないが, HMGal活性は

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の添加によ って急速に低下した (Fig.9A)o HMGalの転写は

LDL

の影響を受けない SV40のプロモーターによっ て支配されているため,この活性変化はHMGalの分 解速度の上昇によるものと考えられる。このように, HMGRの膜部分がコレステロールによって制御され る分解に必須であることは明白である。また, Fig.l0 のようにこの膜部分を一部欠損したHMGalを作製し てみると,酵素の小胞体への局在は起こるが

LDL

に よる分解促進は起こらなくなった (Fig.9B, C,

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~. 1185-1 ト ー ム98 --1 半分が酵素の局在性化関する情報を,C;末端側半分が コレステロールによる分解制御に関する情報を担って いることが明かとなった。現在これらの領域をさらに 詳細に同定する試みが続けられている。 BrownとGoldsteinらはゴドステローノレ性メノイロン酸 代謝物もHMGRの分解を促進することを明らかにし ている加。乙の場合も HMGRの膜部分が必須である 事から,この分解制御は当初考えられていたような, HMGRの膜部分が小胞体膜のコレステローjレ含量を 感知するといった単純な機構ではない事が判明した。 さて,先に述べたように非ステローjレ性メバロン酸代 謝物は翻訳レベルでの制御にも関与していた。 Brown β-galactosidase

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and 98 amino acids) in the membrane domain of HMGR. The numbered resions indicate the seven membrane domains

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(9)

平成元年12

(1989年) と Goldstein らは HMGRがステロールおよび, 非 ステローjレ性メバロン酸代謝物の両方によって制御さ れているととを早くから指摘し, これを multivalent feedback regulationと呼んでいる 25)。現在のところ乙 の非ステローjレ性メノイロン酸代謝物の実体は不明であ る。 Fig.2に示したように, HMGR反応以降にはコレ ステローノレ合成の他イソペンテニノレアデニン,ユビキ ノン, ドリコールといった重要な化合物の合成系が 分岐している。これらの化合物はコレステロールが LDL によって細胞外から十分に供給される場合にお いてもやはり合成される必要がある。この場合,まず コレステロールによる HMGR転写の抑制と HMGR 分解の促進により細胞内のメバロン酸あるいはそれ以 降の代謝物濃度が低下する。しかし,これらの代謝物 の lつあるいはそれ以上がすでにメバロン酸合成を HMGRの翻訳と分解レベ、ルで抑制しているため,こ の濃度低下は抑制の解除をもたらし,系はメバロン酸 合成に傾く事になる。この時もう一つ重要な事は,ス クアレン合成酵素 (Fig.2)も LDLにより抑制される 事である。従勺て, LDL存在下で合成されたメバロ ン酸はコレステロール合成に流れる事なく有効に分岐 鎖のほうに供給される事になる。まさに生命の妙と言 わざるを得ない。 3)その他の制御機構 HMGR には乙れまで述べてきた量的な制御以外に, 酵素の状態の変化による制御機構の関与が提唱されて いる。 HMGRが可逆的なリン酸化によって不活性型(低 活性型)に移行するという結果は invUroにおいては

9

-古くから知られていた加。しかし,先にのべた量的変 動が著しい事,またコレステロール投与前後の肝ミク ロソームにおけるリン酸化 HMGRの割合が変化して いない事2わから invivoにおける重要性には疑問が持 たれていた。これに対して Begらは,ラットの胃への メバロン酸の強制投与後20分で,肝 HMGRへの 32p の取り組みが1.5倍に増加すると共に, HMGR活性が 約40箔低下する事,との活性の低下は試料をホスファ ターゼ処理した場合には認められない事,さらには, 投与後60分で約80箔の活性低下がみられるが,乙の低 下はホスファターゼ処理した場合でも認められる事を 明らかにした加。したがって, HMGRの リ ン 酸 化 脱 リン酸化による制御は量的制御に先行して起こってい る可能性がある。 Fig.llに現在彼等が提唱している カスケードモデノレをまとめた加。メバロン酸(あるい はコレステローノレ)投与は HMGRキナーゼキナーゼ を活性化すると同時に脱リン酸化系を抑制する。活性 化されたキナーゼキナーゼは HMGRキナーゼをリン 酸化して高活性型とする。これによりさらに HMGR がリン酸化され低活性型となる。同時に,脱リン酸化 系の抑制は HMGRキナーゼを高活性型に, HMGR を低活性型に維持するように働き,メバロン酸ひいて はコレステロール生合成が抑制される事になる。現在 のところメバロン酸あるいはコレステロールがと、のよ うな機構で HMGRキナーゼキナーゼやホスファター ゼ系に作用しているかは不明である。 HMGRの分子量はモノマー当り 98kDであるが, その機能的サイズは HMGRが膜酵素であり容易に凝 集してしまう事から解析が困難であった。 Ness らは 放射線不活性化という特殊技法を用いてラット肝小胞 乱

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Changes in the plasma cholesterol level in Japan and U. S.A.33). 40 30 20 100 10 とHMGR研究は現在生化学で問題になっているかな りの領域に関係しており,また, Brownと Goldstein らの研究を見ていると,明らかに生化学が生命を受動 的に分析する学聞から能動的に解析する学聞に変貌を 遂げている事を感じざるを得ない。初めに述べたよう に本稿がその解説になれば幸いである。 最後に Fig.12に日本とアメリカにおける年齢別に みた血清コレステロール値の推移を示した.Fig.1 と 合わせて考えていただきたい。日本,特に若年層にお ける血清コレステロール値の上昇が気になるところで ある。細胞レベルではコレステロール量は極めて巧妙 に制御されていた。個体,集団レベルではどうであろ うか。教育,栄養指導などいろいろな制御方法がある はずであり,また必要であろう。 献 1) M.

J

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Martin, S.B.Hulley, W. S. Browner, L.

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2

933

Fi邑.12 体における HMGRの機能的サイズを 100kDと 200 kD と決定した30)0 HMGRがモノマーとダイマーを とり得ることは速度論的にも示唆されている。低濃度 (4mM) のグノレタチオンの存在下では HMGR は NADPH に対して Hi1l定数 n=2のシグモイダノレな 速度論を与えるが,高濃度 (25mM)では n=1であ る3D0

H

i1l定数の変化は食事条件によってもみられ, 肝HMGRを強く誘導する(食事性コレステローノレの 取り込みを阻害する)と低グノレタチオン濃度でも n=1に近づき, 酵素の分子当たりの活性も強くな る30,32)。とれらの結果は HMGRのz'nvz':仰における ダイマーモノマ一変換がコレステローjレによって制御 されている可能性を示唆している。膜部分を欠いた HMGRは NADPHに対して協働性を示さない (n= 1)事から,膜部分が HMGRの可逆的凝集に必須で あると考えられる。分解の制御との関連においても興 味深い。 (1986)

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以上,HMGRの制御機構を解説したが,著者の能力

と紙面の都合上触れられなかったり説明不足なと乙ろ が多々ある事をお詰びしたい。こうしてまとめてみる

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参照

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