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ヨルダンにおけるパレスチナ難民及びシリア難民の現状と支援について 坂田章吉 北海道大学 キーワード : 難民 パレスチナ シリア ヨルダン 国際協力 1. はじめにヨルダンにおけるヨルダン人の人口は 660 万人であるが 1 パレス

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ヨルダンにおけるパレスチナ難民及びシリア難民の現状と支援について

坂田 章吉 北海道大学 E-mail:[email protected] キーワード: 難民、パレスチナ、シリア、ヨルダン、国際協力 1.はじめに ヨルダンにおけるヨルダン人の人口は 660 万人であるが 1、パレスチナ難民が約 210 万 人 2、シリア難民が約 65 万人滞在する 3(シリア難民は UNHCR への登録者数は約 65 万人 であるが、未登録者を含めると約 130 万人と言われている 1)。ヨルダンにとって、短期間 にヨルダン人の約 10%ないし 20%に相当するシリア難民が流入してきたインパクトは大き く、インフラ、社会サービスの不足等様々な問題が生じている。 このようなヨルダンにおけるパレスチナ難民及びシリア難民の現状とこれら難民及び難 民を受け入れているヨルダンへの日本の支援について紹介し、今後の支援の在り方につい て述べる。 2. ヨルダンにおける難民の現状 (1) パレスチナ難民 パレスチナ難民は、1948 年の第一次中東戦争を契機に発生した。この戦争で発生したパ レスチナ難民は約 75 万人であり、ヨルダンをはじめ、周辺国のレバノン、シリア等に避難 した。その後 1967 年の第三次中東戦争で更に増加し、現在、周辺国を中心に世界に滞在す るパレスチナ難民は約 520 万人と言われる。この約 520 万人の内、約 210 万人がヨルダン で生活している 2。現在ヨルダンにある 10 か所のパレスチナ難民キャンプに合計 40 万人 弱、ヨルダンのパレスチナ難民の約 20%が生活 している一方、残りの約 80%のパレスチナ難民 は ヨ ル ダ ン 人 コ ミ ュ ニ テ ィ の 中 で 生 活 し て い る。難民キャンプは古いものは建設後 60 年以 上が経過し、キャンプ内には商店や市場も形成 され、それぞれのキャンプが一つの街のような 状況となっている。しかしながら、キャンプ内 は、車が交差できないような狭い道の両側に 2 階から 3 階建ての家屋が隙間なく連なり、下

1 Jordan Times, 2016.1.3(Department of Statistics, Jordan)

2 UNRWA HP, URL(最終検索 2017 年 10 月): https://www.unrwa.org/where-we-work、周 辺国を含めたパレスチナ難民数は 5,266,603 人、ヨルダンのパレスチナ難民数は 2,175,491 人(2016 年 12 月)とされる。 3 UNHCR HP, URL(最終検索 2017 年 10 月): http://data.unhcr.org/syrianrefugees/regional.php シリア難民数全体は 5,276,506 人、ヨルダンのシリア難民数は 654,582 人とされる。 写真1 パレスチナ難民キャンプの状況

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水道が不十分なため、汚水が道路に漏れ出し、ごみ収集が不完全でごみが散乱する等不衛 生な状況も見られる(写真 1)。

ヨルダンにおける 2017 年第 2 四半期の失業率は 18.2%とされ 4、ヨルダン人でも就職が

難しい状況にある中、パレスチナ難民が条件の良い仕事を得ることは難しい。このため、 パレスチナ難民は、生計的にも困難な状況にある。

な お 、 パ レ ス チ ナ 難 民 に 対 し て は UNRWA(United Nations Relief and Works Agency for Palestine Refugees in the Near East, 国連パレスチナ難民救済事業機関)が教育等の支援にあ たっている。また、ヨルダン政府においても外務省にパレスチナ難民局が設置されており、 UNRWA と密接な協力の下、支援にあたっている。 (2)シリア難民 シリアでは、いわゆる「アラブの春」に触発され発生した抗議デモをきっかけに、2011 年に市民と政権側との衝突が起き、2012 年になるとそれが激化し次第に内戦化していっ た。2013 年にはシリア北部の都市を反体制派が占拠し、2014 年になるとシリア、イラク にまたがる IS が勢力を拡大した。その後、外国による空爆も開始され、シリア国内での 戦闘は継続した。このような状況の中、シリア難民、シリア国内で自宅を離れた国内避難 民の数は増え続けた。シリア難民の総数は約 520 万人、国内避難民の数は約 630 万人 5 あり、元のシリアの人口 2,240 万人 6の約半数が自宅を離れて生活せざるを得ない状況と なっている。図1 はヨルダンにおいて UNHCR に登録されたシリア難民の人数の推移で ある 7 ヨルダンのシリア難民のほとんどは、ヨルダン北部の国境を徒歩で越えてヨルダンに 入ってくる。現在ヨルダンにはシリア難民キャンプが 3 か所に設置され、そこに滞在す る人数は約14 万人であり、UNHCR への登録者約 65 万人の約 20%(未登録者を含めた 130 万人の約 10%)である。それ以外のシリア難民はヨルダン人コミュニティの中で生 活している。ヨルダンの中でシリア難民が多く滞在している地域は、首都のアンマンの 他、シリアに近い北部地域である。キャンプでは、当初はテントを用いた生活が主体であ

4 Department of Statics, Jordan HP,

URL(最終検索 2017 年 10 月): http://web.dos.gov.jo/

5 UNOCHA HP, URL(最終検索 2017 年 10 月): https://www.unocha.org/syria 6 世銀, 2012 年, 外務省 HP, URL(最終検索 2017 年 10 月):

http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/syria/data.html#section1

7 UNHCR HP, URL(最終検索 2017 年 10 月):

http://data.unhcr.org/syrianrefugees/country.php?id=107

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ったが、その後、コンテナハウスが主体となっている。ヨルダンのコミュニティでは、急 速なシリア難民の増加により、飲料水の不足、不十分なごみ収集、医療機関、学校の不足 が大きな問題となっている。 生計面では、難民登録をしているシリア難民に対しては、革新的な虹彩認証技術等を 用いて食料費が支給されるが、十分な金額ではない。ヨルダンの雇用情勢が厳しいことも あり、シリア難民は不足する生活費を得るために、安価な賃金で雇用されていると言われ ている 8 3.シリア難民に対するヨルダン政府の対応 ヨルダン政府は、多くのシリア難民を受け入れ、自国のインフラ、社会サービスを提供 してきた。そのため、多額の政府予算をシリア難民対応に充てる必要があり、国際社会に 対してそれらの資金の提供、種々のインフラ建設、社会サービスの強化に対する協力を求 めている。 2016 年 2 月にロンドンで開催されたシリア及び周辺地域に対する支援会議において、 ヨルダン政府は、シリア難民を大量に受け入れているホスト国として国際社会に支援を求 めると共に、ヨルダンにおけるシリア難民問題をヨルダン人及びシリア難民双方の利益と なるような経済開発を促進する新たなパラダイムが必要であるとして、シリア難民が労働 許可を申請できるようにすること、現在シリア難民が行っているビジネス、新規に開始す るビジネスを正式に認める旨を発表した 9。更に、シリア難民の労働許可証取得を進める ため、申請費用の免除(補助)、違法労働者の国外追放の猶予等の取組を行い、2017 年 7 月には労働許可を取得したシリア難民は約 55,000 人となった 10。失業率が約18%に達す るヨルダンにおいては大きな決断であった。 4.ヨルダンにおけるパレスチナ難民及びシリア難民支援 (1)パレスチナ難民支援 パレスチナ難民に対する生計向上に関する支援 11 ヨルダンでは失業率が高いことに加えて、アラブでは女性が外で働くことを嫌う傾向 があり、パレスチナ難民の女性が働くことには種々の困難が伴うが、世帯主が女性の場合 もあり、難民の生計向上のためには女性の就業が必要である。このため、JICA は、ヨル ダン外務省パレスチナ難民局が実施する①自宅で実施可能な家内工業支援(石鹸、香水、 ハンドクリーム作り等)、②就業支援(CV の作成方法、面接の受け方研修等)、③行動変 容プログラム(女性が外で働くことの重要性についての W/S)の 3 つのプログラムに協 力してきた。これらのプログラムにより、日本円換算で 1 か月あたり数千円から数万円 8 Jordan Times, 2017.10.5

9 Jordanian government, 2016, “The Jordan Compact: A New Holistic Approach

between the Hashemite Kingdome of Jordan and the International Community to deal with the Syrian Refugees Crisis”

10 Head of Syrian Refugees Department/Ministry of Labour, 2017, ”Ministry of Labour’s procedures dealing with Syrian Crisis in the Labour Market”

11 JICA HP,「難民という境遇を生きる女性たち ヨルダン」URL(最終検索 2017 年 10

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の収入が得られるようになった家庭がみられる。女性の家族や地域の男性を含めた行動変 容プログラムの W/S では女性の就労に否定的な意見も見られるが、香水や石鹸作り等で 収入が上がることによって生活が改善された家庭から話を聞くことなどを通じて理解が広 がりつつある。 (2)シリア難民支援 1)シリア難民障害者支援 12 シリア難民は、戦火の中をヨルダンへ逃れてきた人々であり、銃撃による下半身麻痺等 の障害者も多い。生まれながら障害を有していた障害者とは異なり、障害を受け入れるこ とが難しく、また、異国のヨルダンに滞在することもあり、家に閉じこもっている障害者 が多い。このような中、JICA は障害者が議論の進行役としてファシリテーターを務め、 多様な参加者に対して、社会の側にある「障害」を見抜き、それについて働きかける能力 を身に着ける障害者平等研修を行ってきた。その結果、相当数の研修参加者が、閉じこも っていた自宅から外に出て活動するようになってきた。 2)シリア難民に対する就労支援 ヨルダン政府のシリア難民への就労許可証発行の決定を受け、JICA は就労に関する以 下の 2 件の協力を進めている。労働許可を得ても、実際に就労する機会が限られている ことから、実際にすぐに活用可能なスキルの向上を目指し、シリア難民キャンプ内での仕 事が期待できる電力分野技術者育成支援を開始し、また、パレスチナ難民生計向上を参考 にしたシリア難民の生計向上に関する支援も計画している。 ① シリア難民キャンプでの電力分野技術者育成支援 13 シリア難民キャンプ内では、技術、資格のない一般の難民が電気工事を行い、感電事 故等が発生していた。このため、ヨルダン政府と協力の下、ヨルダン電力技術訓練所に て、キャンプに滞在するシリア難民の内、電気工事の経験者を中心に電気分野技術者育成 支援を開始した。これらの技術者はキャンプ内の電気工事を担うと共に、将来、シリアに 帰国した後も、シリアで同技術を活用することが期待されている。 ② シリア難民の生計向上に関する支援 上記、パレスチナ難民の生計向上に関する支援を参考に、シリア難民の生計向上に関 し、調査分析等を計画している。 3)ヨルダン政府及びホストコミュニティーに対するインフラ、社会サービス、財政支援 ① 北部地域シリア難民受入コミュニティ水セクター緊急改善計画 14 JICA は、多くのシリア難民が滞在し、飲料水の不足が顕著な北部地域において緊急マ スタープランを作成し、その中で特に優先度が高い地域において配水管の新設、更新を実

12 JICA, 2017,「ここに生きる」(特集 難民支援、故郷の夜明けを夢見て), Mundi, June 2017,p12, URL(最終検索 2017 年 10 月):

https://www.jica.go.jp/publication/mundi/1706/ku57pq000020fg7t-att/04.pdf

13 JICA, 2017,「シリア難民キャンプでの電力分野技術者育成支援」(特集 難民支援、故

郷の夜明けを夢見て), Mundi, June 2017,p13, URL(最終検索 2017年 10 月):

https://www.jica.go.jp/publication/mundi/1706/ku57pq000020fg7t-att/04.pdf

14 JICA HP,「北部地域シリア難民受入コミュニティ水セクター緊急改善計画」,URL(最

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施した。また、作成したマスタープランは、他の複数のドナーが活用し、優先順位の高い 地域において給水施設の改善工事に取り組んでいる。 ② シリア難民ホストコミュニティ地方部における村落保健センターのサービス向上 15 JICA は、多くのシリア難民が滞在し、サービス向上が求められるヨルダン北部地域の 村落保健センターに対して、スタッフの能力強化、センターのヘルスプロモーション活動 の活性化等の協力を開始した。 ③ ヨルダン政府に対する財政支援 ヨルダンは、同国の自立的な経済発展や社会開発の実現と共に、大規模なシリア難民 対策実施のためにも大きな財政負担が必要な状況であることを踏まえ、日本政府および JICA は、下記の円借款を実施している。 ・財政強化型開発政策借款(2014 年 3 月調印)120 億円 16 ・財政・公的サービス改革開発政策借款(2015 年 5 月調印)240 億円 17 ・金融セクター、ビジネス環境及び公的サービス改革開発政策借款(2016 年 12 月調 印)300 億円 18 5.長期化する難民への支援 日本政府は、シリア難民発生当初はキャンプ内で生じた洪水に対して毛布やテントの配 布等の緊急人道支援を行ってきたが、難民の滞在が長期化するにしたがい、ニーズに応じ て支援の内容や規模を拡充してきた。 難民の滞在が長期化すると、難民自身への支援としては、生計向上や帰国後も見据え た就労のための能力向上への支援が必要となる他、SDGs でも言及されている「すべての 人々」を対象とするとの観点からも障害者への支援も重要となる 19 一方、ホスト国、ホストコミュニティのヨルダン国民は、急増したシリア難民によ り、インフラの不足や社会サービスの低下を受け入れてきているが、その期間が長期化す ると社会不安の要因となる可能性もある。これを避けるためには、ホスト国であるヨルダ ン自身が安定的な政治経済運営を続け、適正な経済発展や社会開発を実施することが必要 15 JICA HP,「シリア難民ホストコミュニティ地方部における村落保健センターのサービ ス向上プロジェクト」, URL(最終検索 2017 年 10 月):https://www.jica.go.jp/project/jordan/001/index.html 16 JICA HP,「ヨルダン・ハシェミット王国向け円借款契約の調印」, URL(最終検索 2017 年 10 月): https://www.jica.go.jp/press/2013/20140318_01.html 17 JICA HP,「ヨルダン向け円借款契約の調印」, URL(最終検索 2017 年 10 月): https://www.jica.go.jp/press/2015/20150528_1.html 18 JICA HP,「ヨルダン向け円借款契約の調印:シリア難民初め、多くの難民を受け入れ るヨルダンの改革を支援」, URL(最終検索 2017 年 10 月): https://www.jica.go.jp/press/2016/20161222_01.html 19 SDGs:「目標3:あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進 する」、「目標8:すべての人々のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的 な完全雇用およびディーセント・ワークを推進する」、「目標16:持続可能な開発に向け て平和で包摂的な社会を推進し、すべての人々に司法へのアクセスを提供するとともに、 あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する」

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であり、それを支えるための支援が重要となる。

このように、今後も時間の経過により変化するニーズに応じた支援を行っていくこと が重要である。

図 1 ヨルダンにおいて UNHCR に登録されたシリア難民の人数の推移 7

参照

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