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の中に法人税率をOECD 諸国の平均である25 % 程度の水準まで引き下げる提案が含まれている 米国は多大な財政赤字を抱えているため, 米国議会のPAYGOと呼ばれる原則方針により抜本的な税制改正は財政のバランスが取れていなければならず, 提案書には税率引下げに必要な財源確保の提案や見積が含まれてい

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はじめに

 各国においては,法人税の課税ベース及び 税率のあり方を検討するに当たり,当然なが ら経済状況や企業活動の変化に対応すること が求められ,従前は主として国内における企 業活動に係る税制が考慮されてきたところで ある。例えば,個人所得税との関係,優遇措 置の対象業種,費用控除限度額等が意識され てきたところであるが,近時においては,企 業の経済活動の国際化が進展するに伴い,自 国企業の国際競争力の維持・強化及び自国課 税権の確保といった観点が強く意識されるよ うになっている。  その点では,最も典型的な要因とみられる 法人税率についてその引下げを行う一方で, 課税ベースの拡大を図るのが,各国での一般 的な方向であると言えよう。OECD加盟国全 体でみても,多くの国で税率引下げが行われ, この10年余で平均約 7 %ポイントの法人税率 の低下となっている。一方,課税ベースの拡 大は必ずしも画一的ではなく,各国での法人 税の歳入構造に占める位置づけ,その時々の 政策課題等との関係で,その内容及び程度は 異なるものとみられる。また場合によっては, 課税ベースの縮小となる優遇措置が企業への 投資誘因等として採られる場合もないわけで はなく,その場合には結果的にそれに係る企 業の法人税負担の軽減が図られることとな る。さらに,これらの措置が,国際競争力の 観点から,各国で同様にその導入に向けて検 討されることもある。  この問題を巡る主要国の最近の動向は次の とおりである。

アメリカ

 米国の法人税率は連邦税が35%,州税を含 めると約40%であり,先進国の中で一番高い 税率となっている。法人税率の引下げは1986 年の「The Tax Reform Act of 1986」以来 行われておらず,現在の最高連邦法人税率で ある35%は過去25年間保たれている。  しかし近年法人税率の引下げを伴うような 抜本的な税制改正に取り組むべきという声が 高まっており,大統領から税制委員会まで複 数の提案書が提出されている。全ての提案書 特集

米・英・独・仏等の主要国の最近の動向を紹介する

岡田至康

◉ 代表・税理士法人PwC常任顧問

村岡欣潤

◉ アメリカ・税理士法人PwCシニアマネージャー

高木陽一

◉ イギリス・税理士法人PwCマネージャー

中田幸康

◉ ドイツフランス等・税理士法人PwCマネージャー

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諸外国における現状

─欧米諸国

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所得を新しいCFC税制の対象となる所得(い わゆるSubpart F所得)として取り扱うなど 新規制度の導入に加え,現行の租税特別措置 の縮減を図る提案も含まれている。租税特別 措置の縮減の詳細な説明はされておらず,特 別減価償却の削減,支払利息の損金算入制限, 大規模法人と大規模パススルー事業体の取扱 いも公平にする等,具体的な内容は明確では ない。2014年度及び過去の予算案を基に推測 すると棚卸資産における後入先出法(LIFO) と低価法(Lower-of-cost-or-market method) の撤廃,ファンドマネージャーの報酬(俗に いうCarried Interestに係わる報酬)に対す る増税措置,石油・ガス会社に対する様々な 租税特別措置の排除及び縮減等が具体的な案 として考えられる。  一方,デイビッド・キャンプ議員が2011年 の10月に発表した改正案「International Tax Discussion Draft」は国際税制に焦点を当て た提案書である。この提案は国際税制改正の Discussion Draftという位置づけで,正式な 法案ではなく国際税制以外の内容は乏しい。 詳細を欠くところもあるが,法案のドラフト の形で発表されたこのDiscussion Draftは将 来提出される国際税制法案のロードマップに なると考えられ,今後の税制改正の動向に大 きく影響することが予測されている。この提 案書でも法人税率を25%まで引き下げるとし ており,租税特別措置の改正による課税ベー スの拡大という意味では過大な負債により発 生する利子の損金算入を防止するための新た な過少資本制度が提案されている。ただし, 税源確保の手段としては,米国多国籍企業に よる税源侵食・利益移転による課税ベースの 縮小を防止するための提案が主な内容となっ ている。  課税ベースを狭める新規の租税特別措置も %程度の水準まで引き下げる提案が含まれて いる。  米国は多大な財政赤字を抱えているため, 米国議会のPAYGOと呼ばれる原則方針によ り抜本的な税制改正は財政のバランスが取れ ていなければならず,提案書には税率引下げ に必要な財源確保の提案や見積が含まれてい る。ただし,提案書の段階では詳細な分析が 行われていないものも多く,不明瞭な部分も 多々ある。財源確保の手段は提案書によって 異なるが,原則的には民主党主導の提案書は 富裕層と多国籍企業に対する増税が主な内容 となっており,一方共和党主導の提案書は税 率引下げによる経済効果を財源確保の手段と している。抜本的な税制改正の提案は法人税 全般を取り扱っているため,国内経済の復興・ 回復及び米国多国籍企業の海外競争力維持の ための租税特別措置,つまり課税ベースを狭 めるものも含まれており,財源の確保は税率 の引下げ及び課税ベースを狭めるような特別 措置も含めて検討されている。  近年発表された主な抜本的な税制改正の提 案としてオバマ大統領の法人税改正フレーム ワ ー ク「The President’s Framework for Business Tax Reform」と下院税制委員会 (House Ways and Means Committee)の議 長であるデイビッド・キャンプ議員が発表し た国際税制に関する改正案「International Tax Discussion Draft」がある。2012年 2 月 に発表されたオバマ大統領の法人税制フレー ムワークは法人税率を28%まで引下げ,国内 製造業に対しては更に25%まで引き下げると している。さらに現在暫定措置として導入さ れている研究開発費控除を恒久化する提案が 含まれており,国内経済の復興も焦点の一つ となっている。  財源の確保として海外所得に対するミニマ

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法人税の課税ベースと税率のあり方 特集 10%以下の実効税率で課税を受ける額を新た にSubpart F所得として米国で合算課税する という仕組みである。合算課税を回避するに は,CFCがその設立国内に事業拠点を設け, 設立国内のマーケットに対する事業の所得と する必要がある。実効税率は米国税法に基づ き計算された海外所得を基に算定する。三番 目のオプション(Option C)は「アメとムチ」 アプローチと呼ばれ,国外の無形資産より発 生する所得を新たにSubpart F所得として米 国で合算課税する一方,国内の無形資産より 発生する所得は15%の優遇税率で課税すると いう仕組みである。国外の無形資産より発生 す る 所 得 は 新 た にForeign Base Company Intangible Incomeと 呼 ば れ, 資 産 の 売 買, 消費,処分,または役務提供による所得で無 形資産に帰属する所得と定義される。このオ プションは他の 2 つと異なり,所得の海外移 転の防止のみならず,国内で発生する無形資 産関連所得に対して優遇措置を設けることに より,米国多国籍企業が無形資産を国内に留 めるように促す試みでもある。これは欧州な どにみられる「Patent Box」のコンセプトを 借用したものとみられる。  このように法人税率引下げと課税ベースの 拡大・縮小に関しては米国財政,米国多国籍 のアグレッシブな税務プランニング,米国経 済の復興,抜本的な税制改正の必要性など 様々な要素を背景に検討されており,単純な 法人税率引下げと課税ベースの拡大という形 で整理するのは難しい。さらに複雑化となる 要素として,米国の法人税率は40%前後であ るものの,様々な優遇税制の活用により,多 くの米国多国籍企業の実効税率は20%台に留 まっている。このため,税率の低下によるメ リットより,ループホール(抜け穴)の閉鎖 や優遇措置の廃止によるデメリットの方が大 きい企業も相当数存在すると見受けられる。 含まれており,日本が2009年に導入した外国 子会社配当益金不算入制度の導入を検討して いる。米国経済の空洞化の防止策として提案 されており,海外で発生した所得を米国での 課税を受けることなく国内で再投資ができる ようにする仕組みである。これにより,海外 に蓄積された米国多国籍企業の利益を米国に 還元させ,経済活性化のために国内投資をし てもらうという狙いである。また,外国子会 社配当益金不算入制度を導入することによ り,必要以上に複雑化した外国税額控除制度 を廃止し,税法を簡素化させようとする目的 もある。なお,オバマ大統領は,国外所得免 税制度の導入への懸念を示しており,所得の 海外移転がさらに加速するという見解を表し ている。  よって,法人税率の引下げのみならず,外 国子会社配当益金不算入制度の導入も考慮し た財源確保がDiscussion Draftでは提案され ている。外国子会社配当益金不算入制度が導 入された場合,軽税率国への米国多国籍企業 による利益の海外移転がますます増加するこ とが懸念される。特に無形資産の海外移転に よる米国の課税ベースの縮小が指摘されてお り,その防止のために 3 つのオプションが Discussion Draftの中で提案されている。最 初のオプション(Option A)は,オバマ政 権の予算案に含まれていた案を基にしてお り,国外のCFCに移転された無形資産に関 連してCFCで生じた所得が新たにSubpart F 所 得(Foreign Base Company Excess Intangible Income)として米国で合算課税 する。合算対象となる所得は, 1 )対象無形 資産の有無, 2 )超過利益,及び 3 )当該所 得が生ずる国の実効税率,の 3 つの要素を基 に判定する。二番目のオプション(Option B) は日本のタックスヘイブン税制と近似してお り,事業活動以外から発生する海外所得で

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行う中小企業が賛同しているが,国外で事業 を繰り広げる米国多国籍企業は比較的に消極 的であると言える。  また,米国両議院税制委員会の計算による と, 1 %の税率を引き下げると,向こう10年 間でおよそ1,000億ドルの歳入減が見込まれ ている。つまり,現在35%の税率を10%引き 下げるためにはおよそ 1 兆ドルの財源が必要 となる。これまでに発表された改正案は収支 均衡を保つことが前提とされてはいるが,ど の提案書も 1 兆ドルの費用の財源について具 体的な分析はされておらず,現実的に法人税 率の引下げを行うのは困難な状況にある。提 案書は原則法人税に関するものであるが, 2010年度の米国の連邦歳入の内訳によると, 法人税の占める割合は非常に少なく,2.2兆 ドルの連邦歳入総額のうちの8.9%に過ぎな い。よって,法人税の課税ベースを拡大して も歳入の増加はそれほど期待できないとも言 われている。法人税率を下げることによる経 済効果とその他の歳入への相乗効果はあるか と思われるが,収支均衡した抜本的な税制改 正を行うには法人税以外からの財源も確保し なければ実現不可能と思われる。法人税以外 の主な財源としてVATの導入とパススルー 事業体への課税があるが,本格的な議論には 至っていない状態である。

イギリス

 英国では課税所得の金額によって適用され る法人税率が異なる。課税所得が30万ポンド 以下である小会社に対しては,20%の税率 (small profits corporation tax rate)が適用 される。課税所得が30万ポンド超の会社には, 通常税率(main corporation tax rate)であ

得 が150万 ポ ン ド 以 下 の 会 社 に 対 し て は, marginal reliefという税額控除が適用可能で ある。  小会社に対する法人税率は2002年に19%に 引き下げられ,その後2011年に20%に引き上 げられているものの,大きな変更はない。  他方で,通常税率は段階的に引き下げられ ている。上記のとおり,現在の税率は23%で あるものの,2013年財政法が発効し,2014年 4 月 1 日以降は21%,2015年以降は20%とさ らなる引下げが行われることとなる。この改 正により2015年 4 月 1 日以降は課税所得の多 寡による税率の相違はなくなることとなり ( な お,marginal reliefも2015年 4 月 1 日 以 降は廃止される),また,英国の法人税の税 率はG20の中で最も低い税率の一つとなる。  英国政府により2012年12月 5 日に発表され たAutumn statementによると,この税率の 引下げは,企業の投資と成長を促すとともに, 英国法人税の制度をより競争力のある,かつ 簡易化した制度に変更する目的を支える物と して述べられている。加えて,英国政府は税 率を軽減することにより,英国がビジネスを 行う国としてさらに魅力的な国になるものと 考えており,さらに,法人税率の引下げは企 業のコストの引下げとなることから,さらな る企業の成長を促すことができると述べてい る。  また,2010年及び2011年に行われた法人税 率の引下げに当たっても同様の趣旨が述べら れており,法人税の引下げは英国法人税制度 をG20の中で最も競争力がある制度に変える 長期的な目的に基づき行われている法人税制 の改正の企画の一つであるとしている。  法人税率の引下げによる税収の減少は,税 務上の減価償却費(capital allowances)の 引下げ等の課税ベースの拡大によりある程度

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法人税の課税ベースと税率のあり方 特集 の財政法により無形資産に関する新しい制度 を導入している。2012年度の財政法の設立に より2013年 4 月 1 日以降からパテントボック ス税制が段階的に導入されている。さらに, 2013年度の財政法の設立により2013年 4 月 1 日以降からは研究開発税控除給付―Above The Line(調整後総所得前の課税控除)の 新制度を導入した。  パテントボックス税制は,特許権や特許に 密接に関連するその他の権利より生ずる利益 に対して,10%の軽減税率を適用するという ものである。パテントボックス税制の導入の 背景としては,英国政府は2010年11月29日に 発表した法人税に関する指針(Corporate Tax Road Map)の中で,特許から生じる所 得に関する優遇規定としてパテントボックス 税制導入の意向を明らかにしていて,パテン トボックス税制は,企業が特許権の開発,製 造及び利用に関連した高付加価値な業務を英 国国内に設置するように促し,さらには特許 からの所得が多いハイテク企業に適用される 英国税制について,他国との競争力を高める ことができると記している。また英国政府は, 特許権に重点を置く理由として,特許権がハ イテクの研究開発及び製造活動と特に深く結 びついていること,他の諸国では,特許所得 に関する特則がすでに導入されており,これ らが英国税制の競争力の低下の一因となっ て,企業の海外移転が促進される懸念がある ことを述べている。予算責任局(the Office for Budget Responsibility)は,2012年予算 報 告 書(Budget report) の 第 2 章 の 中 で, 予算編成方針を取り込んだ国家財政と経済に 関する独自の見通しを発表している。本章の 2.2表では,2012年 4 月あるいはそれ以降に 発効となる歳出計画を含む2011年経済白書の 発行日以前に発表された財政的影響を与える あらゆる政策から生じる収益及び費用が示さ はカバーされることになる。2012年 4 月 1 日

以 降,capital allowanceの 償 却 率(main rate)は20%から18%に引き下げられている。 さらに,特別償却率(special rate)は10%か ら 8 %に引き下げられ,annual investment allowanceは10万ポンドから 2 万5,000ポンド に引き下げられた。  また英国では支払利息に関して以前から移 転価格税制,過少資本税制等の損金算入制限 制 度 が あ っ た が2009年 度 の 財 政 法 に よ り Worldwide debt capと呼ばれる新たなる支 払利息損金算入制限制度が導入された。この 制度は支払利息の損金算入額をグループ全体 の外部負債利息の水準までに制限することで あり,一定の大法人の英国支店,及び,大法 人と75%以上の資本関係にある英国法人が制 度の対象となる。各英国支店及び英国法人に おける関係会社借入金額の合計金額が,企業 グループ全体の総外部借入金額の75%相当額 以下である場合(ゲートウェイテスト)には, ‘tested amount’(各英国の純借入金に対す る 純 支 払 利 息 額 の 合 計 ) が,‘available amount’(全世界規模でみた総外部借入金に 対する支払利息額)を超える金額が損金不算 入される金額となる。  この制度の導入は,英国の支払利息に関す る制度は従来,他の多くの先進国と比べると 寛容であり,国外グループ会社に対して支払 う利息に関して過大な支払利息が損金算入さ れないために,支払利息損金算入の制度を変 更する必要性があるものとされている。 ま た英国は2009年 7 月より配当免税制度を導入 したが,英国財務省はWorldwide debt cap は配当免税制度の導入から生じる税収上の負 担を補うには必要であると述べている。  税務上の減価償却費(capital allowances) の引下げや,Worldwide debt capが導入さ れた一方で,英国政府は2012年度と2013年度

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ス税制の導入による影響額は,2013年-2014 年は 3 億5,000万ポンド,2014年-2015年は 7 億2,000万ポンド,2015年-2016年は 8 億2,000 万ポンド,2016年-2017年は 9 億1,000万ポン ドと試算されている。  2013年度の財政法が成立されたことによ り,研究開発税控除給付―Above The Line (調整後総所得前の課税控除)制度は導入さ れた。概要としては大会社に関する現行制度 下では実質控除率 6 %(法人税率20%での 30%の追加費用控除) となるのに対して,新 制度下では実質控除率 8 %(10%の控除率と それに対する20%の法人税との正味控除率) となる。新制度の導入の背景としてはさらに 効果的な研究開発税控除給付の導入により, 大企業による研究開発活動の投資拠点として の英国の競争力を向上させることである。予 算責任局(Office for Budget Responsibility) に よ り 承 認 さ れ て い る2012年 予 算 報 告 書 (Budget 2012) の2.1表 の 数 値 に よ る と, ATL制 度 導 入 に よ る 財 政 へ の 影 響 額 は, 2013-14財政年度は500万ポンド,2014-15財 政年度は, 2 億500万ポンドとなる見通しで ある。

ドイツ,フランス等

 ドイツにおいて,法人の所得に対しては, 法人税,連帯付加税及び営業税が課税される。 法人税率は15%,連帯付加税は法人税額の 5.5%で課税されている。営業税は基本税率が 3.5%であり,各市で定める乗率(Hebesatz) を乗じた税率となる。乗率は一般的には400 %-490%であるため,ドイツの実効税率は約 30%程度になっている。  ドイツにおいては2008年 1 月 1 日より法人 幅な引下げが行われ,現在の税率となってい る。この引下げによって,法人税率が25%か ら15%(ただし,別途連帯付加税は法人税額 の5.5%が課税),営業税の基本税率が 5 %か ら3.5%に引き下げられた。この結果,ドイ ツの実効税率は約40%から約30%に引き下げ られることとなった。この税率の引下げは, ドイツをビジネスを行うためにより魅力的な 国とし,また,ドイツから他の国に対する所 得の移転を回避する目的で行われたものであ る。税率については,当時他のEU諸国の実 効税率が30%前後であったため,これらの水 準に合わせることを目的として行われていた ものである。  実効税率の引下げに伴って,課税ベースの 拡大も行われており,以下のような改正が行 われている。 〈営業税の損金算入〉  2008年 1 月 1 日の改正以前は,ドイツの営 業税は法人税及び営業税の双方において損金 算入が認められていたが,税率の引下げに伴 って損金算入が認められなくなった。 〈支払利息の損金算入制限〉  支払利息の損金算入制限制度は,従来の過 少資本税制を廃止して導入された制度であ る。そもそもドイツの過少資本制度は国外の 関係会社からの借入金のみを対象としていた ため,EU加盟国の関係会社からの借入金は 過少資本税制の対象となるものの,ドイツ国 内の関係会社からの借入金は過少資本税制の 対象とならないことから,2002年に欧州司法 裁判所によりEU法抵触の判決が下されてい た。この判決を受けて2004年に法人税法が改 正され,国内の関係会社からの借入金も過少 資本税制の対象としたことにより,EU法違 反の状態は解消された。  他方で,多国籍企業においては税率の比較

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法人税の課税ベースと税率のあり方 特集 的高いドイツで借り入れを行って支払利息を 損金算入を行う一方で,当該資金を利用して 国外企業に対して出資を行うことにより,ド イツでの法人税を「不当に」減少させる行為 が行われた。  このような行為を防止するために,支払利 息の損金算入をドイツにおける利息減価償却 控除前課税所得(EBITDA)の30%に制限し, 残額については翌期以降に繰り越すという制 度が創設された。  ただし,「通常の」事業を行っている企業 の事業活動を阻害することのないよう,支払 利息金額が100万ユーロ(2010年に300万ユー ロに改正)以内であれば,全額損金算入が可 能という制度等の例外規定が設けられている。 〈機能移転課税〉  2008年に機能移転課税が導入され,企業が 有する機能を関連会社等に移転した場合に は,当該機能の移転に対して課税が行われる こととなった。これは例えば,ドイツで研究 開発を行っていたものの,当該研究開発が完 成する前にスタッフをアイルランドの関連会 社に移転させ,その直後にアイルランドの関 連会社が特許を申請し,高価額の製品の販売 を開始するような事例が発生していた。  機能移転課税の導入により,このような状 況を防止することができるようになった。 〈繰越欠損金の損金算入制限〉  ドイツの税法上,繰越欠損金は原則として 無期限に繰り越しが可能であるものの,株主 の変更時には,変更した持分割合に応じて欠 損金が消滅することとなる制度が導入された (持分割合が25-50%であれば,欠損金額に変 更割合を乗じた金額。50%超の変更があった 場合には欠損金額の全額が消滅する)。これ は,繰越欠損金を保有するドイツ企業を買収 し,繰越欠損金を利用することでドイツの法 人税額を不当に減少させようとするような行 為を防止することを目的として導入されてい る。  ドイツにおいては上記のような課税ベース の拡大は行われているものの,課税所得を制 限するような趣旨の租税特別措置はほとんど 設けられていない。主要なものは一定の中小 企業に対する加速度償却や旧東ドイツでビジ ネスを行う場合に,一定の条件を満たした企 業に対して固定資産の取得に補助金が与えら れる制度(2014年以降廃止予定)が存在する。  他方で,フランスにおける法人税率は33 1/3%である。さらに,法人税額76万3,000ユー ロを超える企業には,法人税の支払い額と76 万3,000ユーロの差額に対し,3.3%の社会保障 負担金(Contribution sociale sur les benefices, CSB)が課せられる また,2011年12月31日 か ら2015年12月30日 ま で 年 間 売 上 高 2 億 5,000万ユーロ以上の企業に対し,法人税の 総額(控除前)の 5 %が加算される。  フランスの法人税率は1993年から変更が行 われていない。フランスにおいてはEU諸国 の実効税率を考慮して税率引下げの議論が行 われたことはあるものの,変更には至ってい ないのが現状である。  なお,EUにおいては,上記のような各国 における所得ベースの範囲に関する議論のほ か,EUにおける居住法人及び支店の所得を 計算し,計算された事業体ごとに所得を合算, さらに合算された所得を加盟国に配分する方 法(CCCTB:Common Consolidated Corporate Tax Base) が 議 論 さ れ て お り, 2011年 3 月16日に欧州委員会より,EU指令 案が公表されている。CCCTBが導入されれ ば,各国における課税所得ベースが原則とし て統一化されることとなる。  欧州委員会では,加盟国ごとに異なる税制 が,過剰な課税,二重課税,コンプライアン ス・コスト増加の原因で,EUの単一市場に

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単一市場における障害を取り除き,成長と雇 用の増加を促進する政策であると考えている ため,この制度の導入が検討されている。た だし,実際にCCCTBが導入される可能性が あるかどうかについて現状では不明確な状況 である。

まとめ

 主要国の動向をみると,やはり法人税率引 下げの実施(英・独)ないし検討(米国)が 幅広くなされているのが一般的傾向のようで あり,これは主に自国企業の国際競争力確保 を図る観点からであるが,その取り巻く環境 を理解するためには,同時に,多国籍企業に 係る実際の税負担(特に米国における実効税 率),各国での歳入構造に占める他税目(特 に個人所得税及び付加価値税)との関係等を も踏まえたところでの検討が必要である。ま た,課税ベースについては,各国で法人税率 の変更と併せて議論されているようである が,その内容については,一般的な減価償却 費や繰越欠損金等の取扱いに係る制度変更に 加えて,支払利息の損金算入制限等の租税回 避対応関連の諸措置による課税ベース拡大の 傾向がみられるものの,同時に,いわゆる国 外所得免除制度・海外受取配当益金不算入制 の ほ か, 個 別 的 に, 政 策 的 観 点( 例 え ば R&D促進)から各種優遇措置の採用もなさ れる等,必要に応じて結果的に課税ベースの 縮小となる制度の検討・採用もなされている。 特に英国では,業種間の公平及びビジネス自 体での判断優先の観点から,段階的な法人税 率引下げを行うとともに,課税ベースを広げ ているが,一方で高付加価値業務に対する誘 因措置(パテントボックス)を導入している ことは注目される。ただ,経済の国際化・高 度化の中で,各国とも企業行動を踏まえた制 度対応が求められ,独自の国際競争力確保策 による国家の税収や経済への中長期的影響は 必ずしも明らかではない。  このような中で,ごく最近は,欧州におけ る課税ベース共通化の動き(CCCTB)のほか, むしろ各国間の競争条件の均一化を求める動 きが出ている。法人税率の決定は各国主権の 権限の範囲内であるとしても,OECDで検討 が進められているBEPS(税源浸食・所得移 転)プロジェクトのように,多国籍企業によ る二重非課税の恩典享受や低税率国への所得 移転を制限するとともに,各国における制度 の整合性を図ることによる各国企業の同等競 争条件確保への動きがみられる。国際的な法 人税制度の調和を図る動きが今後どのように 具体化していくのか,その動向が大いに注目 される。

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