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新型インフルエンザによる 急性脳症の1例

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(1)

パンデミックインフルエンザ

A(H1N1)

による急性脳症の臨床的検討

神奈川県立こども医療センター

神経内科

渡辺好宏,大塚佳満,三谷忠宏,安西里恵,露崎悠,辻 恵,

鮫島希代子,和田敬仁,井合瑞江,山下純正,小坂仁

集中治療科

林拓也

放射線科

藤田和俊,相田典子

2010年5月21日 第52回日本小児神経学会総会

(2)

新型インフルエンザによる急性脳症

2009年5月に,パンデミックインフルエンザA(H1N1)(以降

新型インフルエンザ

)の国内発生例が確認され,その後

全国的に大流行した.

新型インフルエンザの流行に伴い急性脳症症例が増加し,

死亡例も散見された.

2009年9月-2010年2月に,12例の新型インフルエンザによる

急性脳症症例が当院に入院した.インフルエンザ脳症

ガイドラインに沿って診療し,全例で後遺症なく退院した.

一部の症例の経過を呈示するとともに,臨床的特徴について

比較し検討する.

(3)

症例~臨床経過~

年齢 (歳) 性別 既往歴 神経症状意識障害 けいれん 異常言動 その他 発熱 神経症状 合併症 1 4 女 熱性けいれん ○ ○ - - 1日 肺炎 2 13 男 熱性けいれん 喘息 ○ ○ ○ - 12時間 肺炎 3 12 男 てんかん ○ ○ ○ 無呼吸 18時間 無気肺 4 5 女 超低出生体重児 熱性けいれん ○ ○ - - 12時間 - 5 10 男 細菌性髄膜炎後 てんかん ○ ○ ○ - 16時間 - 6 6 男 熱せん妄 喘息 ○ - ○ - 12時間 喘息 7 3 女 超低出生体重児 熱性けいれん ○ ○ - - 10時間 - 8 7 男 喘息 ○ - - - 3日 喘息 9 8 男 軽度発達遅滞 喘息 ○ - - - 1日 肺炎 喘息 10 2 男 熱性けいれん 筋ジストロフィー疑い ○ ○ - - 1時間 - 11 1 男 低出生体重児 精神運動発達遅滞 ○ ○ - - 10時間 - 12 4 男 てんかん ○ ○ - - 20時間 -

(4)

症例~検査・画像所見~

AST LDH CK Na 血清/髄液NSE 血清/髄液IL-6 高振幅徐波脳波 脳腫脹CT脳腫脹MRI 脳梁膨大部 信号異常 1 121 455 677 130 29.1/8.3 1290/17 ○ ○ ○ - 2 91 336 1079 130 16.9/0.8 349.8/852.7 ○ ○ ○ - 3 143 360 295 127 14.1/5.3 3.0/4.3 ○ - - ○ (+錐体路) 4 42 318 313 131 25.3/8.8 174.0/109.0 ○ - - - 5 59 280 360 132 15.8/13.3 5.6/3.1 ○ - - - 6 55 406 232 127 44.8/1.4 16.4/24.1 ○ - - ○ 7 44 391 732 133 31.2/ND 112.7/ND ○ - - - 8 49 351 183 133 28.4/3.3 1.6/2.3 ○ - - - 9 29 294 270 128 26.3/12.0 5.3/2.2 ○ ○ - ○ 10 207 883 10020 130 22.1/8.5 2.8/12.9 ○ ○ ○ - 11 49 382 853 138 9.0/2.0 10.0/11.4 ○ - - - 12 32 315 432 128 21.2/7.4 80.1/13.0 ○ - - -

(5)

症例~治療・転帰~

治療 mPSLパルス ガンマグロブリン 脳低体温療法 シクロスポリン エダラボン 転帰 1 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 2 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 3 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 4 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 5 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 6 ○ ○ - - - 後遺症なし 7 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 8 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 9 ○ - - - ○ 後遺症なし 10 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 11 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 12 ○ - - - - 後遺症なし

(6)

症例~治療・転帰~

治療 mPSLパルス ガンマグロブリン 脳低体温療法 シクロスポリン エダラボン 転帰 1 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 2 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 3 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 4 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 5 ○ ○ ○ ○ ○ 後遺症なし 6 ○ ○ - - - 後遺症なし 7 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 8 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 9 ○ - - - ○ 後遺症なし 10 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 11 ○ ○ - - ○ 後遺症なし 12 ○ - - - - 後遺症なし

(7)

症例

2;13歳男児

【主訴】発熱,異常言動,けいれん

【家族歴】特記事項なし

【周産期歴・発達歴】特記事項なし

【既往歴】熱性けいれん

2回,

気管支喘息

【現病歴】

1病日夜より発熱.

2病日近医受診し

インフルエンザ

A陽性

異常言動

(点滴を抜こうとする,母が認識できない)

出現し,

近医へ救急車で受診.

救急車内から全身強直性けいれん群発し,

DZP・MDL投与.

脳症疑いで当院へ紹介入院となった.

(8)

入院時現症

身長

143cm,体重43kg

体温

42.0℃,心拍数156/分,血圧98/26mmHg

呼吸数

30/分,SpO

2

100%(O

2

3L)

胸部

:異常所見なし,腹部:平坦・軟,腸蠕動音正常

神経学的所見

意識レベル

:JCS 100~200,GCS E1V2M1

瞳孔

2.5mm/2.5mm,対光反射+/+

項部硬直なし

四肢筋緊張

:正常,

両側足関節

spasticity(+)

深部腱反射

:正常,病的反射なし

(9)

入院時検査所見

WBC

7500

/μl

AST

35

IU/l

CRP

0.46

mg/dl

Neu

63.2

%

ALT

22

IU/l

Glu

120

mg/dl

Lym

19.0

%

LDH

310

IU/l

NH

3

17

μg/dl

Hb

14.3

g/dl

CK

246

IU/l

Plt

22.1

/μl

TP

6.3

g/dl

Alb

4.0

g/dl

髄液検査

PT-INR

1.24

BUN

13.5

mg/dl

細胞数

3/3

/μl

APTT

27.7

Cr

0.99

mg/dl

蛋白

10.9

mg/dl

Fib

291

mg/dl

Na

131

mEq/l

84.4

mg/dl

ATⅢ

90.0

%

K

4.1

mEq/l

乳酸

16.4

mg/dl

D-ダイマー

1.03

μg/ml

Cl

100

mEq/l

ピルビン酸

1.10

mg/dl

NSE 血清 16.9 ng/ml,髄液 0.8 ng/ml

IL-6 血清

349.8

pg/ml,髄液

852.7

pg/ml

インフルエンザ 迅速

A(+)

B(-)

PCR

AH1pdm(+)

(10)

入院時頭部

CT

(11)

入院時頭部

MRI

FLAIRで頭頂後頭葉を主体に

脳溝に沿って高信号

皮質障害

の初期変化

(12)

入院時脳波検査

Fp1 Fp2 C3 C4 O1 O2 T3 T4 T3-C3 C3-Cz Cz-C4 C4-T4 ECG

後頭部から一部前頭部にかけて

高振幅徐波

50μV 1sec

(13)

入院後経過

意識障害

頭部

CT・頭部MRIで

皮質脳腫脹

脳波検査で

高振幅徐波

以上より,インフルエンザ脳症と診断し,

オセルタミビル内服

メチルプレドニゾロンパルス療法

ガンマグロブリン大量療法

脳低体温療法

(34.0℃)

シクロスポリン療法

アンチトロンビンⅢ大量療法

脳保護剤

(エダラボン)

抗凝固療法

(メシル酸ナファモスタット)

による加療を開始した.

後遺症なく軽快し,

30病日退院となった.

(14)

症例

3;12歳男児

【主訴】

発熱,異常言動,意識障害,けいれん

【家族歴】

母・弟

:てんかん,妹:熱性けいれん

【周産期歴・発達歴】

特記事項なし

【既往歴】

てんかん

(2009/2まで当科フォロー)

【現病歴】

1病日朝発熱.近医受診しタミフル処方.

2病日の3時に突然大声を出した後,

反応が鈍くなり

前医再診したが,受診後は意識障害なく帰宅.

10時

異常言動

(トイレのドアを開け閉め,反応鈍い)

出現し,

前医受診前後に

GTC群発

・意識障害続くため,

脳症疑いで当院へ紹介入院となった.

(15)

入院時現症

体重

39kg

体温

38.3℃,心拍数103/分,血圧117/68mmHg

呼吸数

34/分,SpO

2

99%(R/A)

胸部

:異常所見なし,腹部:平坦・軟,腸蠕動音正常

皮膚

:頚部・肘・膝等にアトピー疹散在

神経学的所見

意識レベル

:GCS E4V3-4M5-6

傾眠傾向強く,入眠時

5-10秒の無呼吸出現(SpO

2

<70%)

瞳孔

2.5mm/2.5mm,対光反射±/±

四肢筋緊張

:正常,深部腱反射:正常,病的反射なし

(16)

入院時検査所見

WBC

6400

/μl

AST

35

IU/l

CRP

0.25

mg/dl

Neu

78.1

%

ALT

12

IU/l

NH

3

22

μg/dl

Lym

16.1

%

LDH

276

IU/l

乳酸

21.8

mg/dl

Hb

14.2

g/dl

CK

253

IU/l

ピルビン酸

1.69

mg/dl

Plt

25.4

/μl

TP

8.0

g/dl

Alb

4.7

g/dl

髄液検査

PT-INR

1.35

BUN

18.3

mg/dl

細胞数

4/3

/μl

APTT

30.8

Cr

0.62

mg/dl

蛋白

28.6

mg/dl

Fib

250

mg/dl

Na

134

mEq/l

71.3

mg/dl

ATⅢ

115.2

%

K

5.0

mEq/l

乳酸

16.4

mg/dl

D-ダイマー

15.52

μg/ml

Cl

96

mEq/l

ピルビン酸

1.10

mg/dl

NSE 血清 14.1 ng/ml,髄液 5.3 ng/ml

IL-6 血清 3.0 pg/ml,髄液 4.3 pg/ml

インフルエンザ 迅速

A(+)

B(-)

PCR

AH1pdm(+)

(17)

入院時頭部

MRI

DWIで

大脳白質~脳梁膨大部~脳幹に信号異常

(18)

入院時脳波検査

Fp1 Fp2 C3 C4 O1 O2 T3 T4 T3-C3 C3-Cz Cz-C4 C4-T4 ECG

後頭部~前頭部に

高振幅徐波

の混入あり

50μV 1sec

(19)

入院後経過

意識障害

頭部

MRIで

大脳白質・脳梁膨大部・脳幹に信号異常

脳波検査で

高振幅徐波

以上より,インフルエンザ脳症と診断し,

オセルタミビル内服

メチルプレドニゾロンパルス療法

ガンマグロブリン大量療法

脳低体温療法

(34.0℃)

シクロスポリン療法

脳保護剤

(エダラボン)

抗凝固療法

(ダナパロイド)

による加療を開始した.

後遺症なく軽快し,

21病日退院となった.

(20)

症例のまとめ

国立感染症研究所感染症情報センター

120例との比較

~背景・神経症状~

背景 自験例 国立感染症研究所 年齢(中央値) 1~13歳(6-7歳) 1~70歳(7歳) 性別 男9(75%),女3(25%) 男74(62%),女46(38%) 基礎疾患・既往歴あり 12/12(100%) (熱性けいれん5,てんかん3,喘息3) 57/119(48%)(熱性けいれん24、喘息16) 神経症状 意識障害 12/12(100%) 120/120(100%) けいれん 8/12 (67%) 66/120 (55%) 異常行動・言動 4/12 (33%) 81/120 (68%)

(21)

症例のまとめ

国立感染症研究所感染症情報センター

120例との比較

~背景・神経症状~

背景 自験例 国立感染症研究所

年齢(中央値)

1~13歳(6-7歳)

1~70歳(7歳)

性別 男9(75%),女3(25%) 男74(62%),女46(38%)

基礎疾患・既往歴

あり

12/12(100%)

(熱性けいれん5,てんかん3,喘息4)

57/119(48%)

(熱性けいれん24、喘息16) 神経症状

意識障害

12/12(100%)

120/120(100%)

けいれん 8/12 (67%) 66/120 (55%) 異常行動・言動 4/12 (33%) 81/120 (68%)

季節性インフルエンザによる脳症と比べ高い年齢層.

参考:季節性インフルエンザによる急性脳症 小林ら. 日小児会誌 2007; 111: 659-665 年間発生数(日本):2002-2003シーズン 35例,2003-2004シーズン 39例 年齢:0~1歳・・・25%,2~3歳・・・34%,4歳以上・・・41%

全例で何らかの基礎疾患・既往あり.

(22)

症例のまとめ

~検査所見~

検査所見 自験例 国立感染症研究所 脳波検査で所見あり 12/12(100%) 66/95 (69%) 頭部CT検査で所見あり 4/12 (33%) 64/105(61%) 頭部MRI検査で所見あり 6/12 (50%) 30/90 (33%)

(23)

症例のまとめ

~検査所見~

検査所見 自験例 国立感染症研究所

脳波検査

で所見あり

12/12(100%)

66/95 (69%)

頭部CT検査で所見あり 4/12 (33%) 64/105(61%)

頭部

MRI検査

で所見あり

6/12 (50%)

30/90 (33%)

脳波で高振幅徐波

熱せん妄・非定型熱性けいれんなど非脳症例では徐波なし.

頭部

CT・MRI検査

異常所見があったのは半数以下.

また,その所見は微細で判断に難渋する症例も多かった.

⇒脳波検査の重要性を再確認

(24)

症例のまとめ

~治療~

治療 自験例 国立感染症研究所 ステロイドパルス療法 12/12(100%) 97/120(81%) γグロブリン療法 10/12(83%) 49/120(41%) 脳低体温療法 5/12 (42%) 12/120(10%) シクロスポリン療法 5/12 (42%) 2/120 (2%)

(25)

症例のまとめ

~治療~

治療 自験例 国立感染症研究所 ステロイドパルス療法 12/12(100%) 97/120(81%) γグロブリン療法 10/12(83%) 49/120(41%)

脳低体温療法

5/12 (42%)

12/120(10%)

シクロスポリン療法

5/12 (42%)

2/120 (2%)

脳低体温療法

大きな合併症なく安全に行えている.

⇒明確な導入基準はなく,症状の経過,呼吸管理の有無,脳波・画像所見

などから総合的に判断

参考:長野県立こども病院での例 GCS≦8点,MRI・CT所見,β2MG≧1×104μ/gCreatinine,血液検査所見から総合的に判断 津田ら. 日小児会誌 2010; 114: 364

シクロスポリン療法

0.5mg/kg/day持続点滴静注

(血中濃度99-130ng/mL) ⇔ガイドライン:1-2mg/kg/day,目標血中濃度100ng/mL(200ng/mLを超えない)

⇒合併症:高血圧

5例中5例→減量やニカルジピン投与で対応

(26)

症例のまとめ

~合併症・転帰~

合併症、転帰 自験例 国立感染症研究所 脳症以外の合併症あり 6/12(50%) 37/117(32%) うち肺炎、気管支炎 6/6 (100%) 28/37 (76%) 転帰 治癒・軽快12/12(100%) 治癒・軽快96/118(83%) 後遺症あり14/118(12%) 死亡8/118 (7%) 入院日数(中央値) 8~29日(12-13日) 2~56日(9.5日)

(27)

症例のまとめ

~合併症・転帰~

合併症、転帰 自験例 国立感染症研究所 脳症以外の合併症あり 6/12(50%) 37/117(32%) うち肺炎、気管支炎 6/6 (100%) 28/37 (76%)

転帰

治癒・軽快

12/12

(100%)

治癒・軽快

96/118

(83%)

後遺症あり

14/118

(12%)

死亡

8/118

(7%) 入院日数(中央値) 8~29日(12-13日) 2~56日(9.5日)

全例で後遺症なく退院.

しかし,症例

2では半年後の外来で短期の記憶障害が出現.

⇒高次脳機能障害?

⇒今後のフォローアップが必要

症例

2は意識障害の進行,高度脳腫脹,IL-6高値から重症例と考えられ,

脳低体温療法により予後が改善したともいえる.

(28)

まとめ

新型インフルエンザによる急性脳症の

12例を経験した.

インフルエンザ脳症ガイドライン改訂版に準じた治療を行った.

また,脳低体温療法やシクロスポリン療法などの特殊治療を

積極的に行い良好な経過を得ている.

適切かつ早急な診断・治療が必要な疾患であり,症例の蓄積

が必要と考えられる.

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