障害児家族の生活・養育困難に対する教員の認識
―― 特別支援学校教員へのインタビュー調査から ――
窪 田 知 子 *・丸 山 啓 史 **・河 合 隆 平 ***
田 中 智 子 ****・越 野 和 之 *****
Recognition of the Teacher for Difficulties of Families
with Children with Disabilities in Living and Rearing
―― From the Interview to Special School Teachers ――
Tomoko KUBOTA, Keishi MARUYAMA, Ryuhei KAWAI
Tomoko TANAKA, Kazuyuki KOSHINO
キーワード:障害児家族、生活・養育困難、貧困、特別支援学校 1.問 題 の 所 在 近年、「貧困・格差」が社会問題化する中で、「子どもの貧困」に対する注目が高まっている。経済 的貧困や生活資源の欠乏が発達期にある子どもにもたらす影響は、基本的な生活基盤のみならず、学 校教育、医療、福祉等のさまざまな局面に及び、それが年齢と共に蓄積され、進学や就労等の可能性 と選択肢を大きく制限することは想像に難くない。その結果、発達期の貧困が長期的に固定化するこ とで、貧困の世代間連鎖を生み出すことも指摘されている。 そうした貧困に陥りやすい条件にある特定のグループの 1 つに、障害児家族が挙げられる。たとえ ば、田中 (2010) が指摘するように、障害児家族の場合、母親が障害児のケアの専従者としての役割 を担うことが期待され、家計がシングルインカムによって維持される傾向がある。したがって、稼働 所得が制限されやすい障害児家族においては、一人親世帯になること・母親の就労が困難であること は、貧困の大きなリスクとなる1 ) 。さらに、本人の家族への経済的依存が青年・成人期以降も継続さ れることで、障害児家族は一般世帯と比較しても経済的収入が低位に置かれ続けることになる。 また、母親が障害児の養育を専門に引き受けることで、家族や社会的関係から孤立し、適切な母子 関係を築くことが困難になる場合がある。丸山 (2011) はさらに、貧困による福祉サービスの利用や 社会的活動の制限が、家族によるケアをいっそう増幅させ、家族の就労や社会的関係の形成をさらに * 滋賀大学 ** 京都教育大学 *** 金沢大学 **** 佛教大学 ***** 奈良教育大学
困難にし、社会的孤立を深めるという悪循環に陥りやすいことにも言及している2 ) 。 このように、障害児と貧困をめぐって、貧困により障害児本人の成長・発達が阻害され、障害が固 定化し、さらなる困難や重症化をもたらすばかりではなく、そうした状態を回避するために生じる家 族のケアや経済的負担が、さらに家族の生活を縮小させるという悪循環が存在している。 さらに今日では、児童虐待と障害の関係をめぐり、虐待による障害発生、虐待のリスク要因として の障害の問題などが論じられている。厚生労働省によれば、乳児院の約 30%、児童養護施設の約 20% の子どもに障害があるとされている。その背景には、子どもの障害のほか、養育者が障害を有 しているがゆえの生活・養育能力の低さ、養育者が一定せず丁寧に支援する大人が不在である等の要 因があり、障害と生活困窮や家族関係の困難が複雑に絡み合うことで子どもの育ちにいっそうの不利 益を生じさせている。そのような状況の中で、「貧困と障害の重なり」を視野に入れた、家族形成の 初期段階からの長期的な介入と援助は、喫緊の課題となっている。 知的障害のある特別支援学校児童二人をもつ父子家庭の一家心中事件 (2006) に象徴されるように、 障害児とその家族の貧困問題は、ライフサイクルの進行とともに拡大、複層化することが考えられる。 障害児に対する適切な対応がなされない場合、二次障害を発症したり、問題行動が顕在化することも 少なくない。貧困の長期化は、障害児のきょうだいの進学や進路の断念、夫婦間あるいは親子間に心 理的軋轢をもたらす等、家族の問題をいっそう複雑化させるおそれもある。社会的養護の課題として 障害児の貧困問題が本格的に議論され始める一方、特別支援教育において、貧困をはじめとする生 活・養育困難の実態解明は端緒についたばかりである。 こうしたことを背景に、本研究は、現代社会における「貧困」が特別支援教育においていかなる形 で顕在化しており、それらを解決するための学校教育の課題は何かについて検証することを問題意識 としている。その上で本稿では、近畿圏の特別支援学校の教員に対するインタビュー調査の結果から、 障害児家族における生活および養育・教育上の困難な実態が特別支援学校の教員らにどのように認識 されているのか実証的に把握することを目的とする。 2.研 究 課 題 障害のある子どもたちの学校教育の現場において、子どもたちの家庭環境の厳しさやその下での教 育活動の展開の難しさの実態について、複数の特別支援学校教員にインタビューを行い、特別支援学 校に通う障害のある子どもとその家族をめぐる生活・養育困難の実態を社会的に共有する機会とする とともに、困難を軽減するための課題を検討する。 3.調 査 方 法 特別支援学校に勤務する教員 9 名を対象として、対面による個別の半構造化インタビューを行った。 インタビューの内容はボイスレコーダーを用いて記録し、逐語録をもとに分析を行った。対象者の所 属学部は、小学部 2 名、中学部 3 名、高等部 4 名である。全員が異なる特別支援学校に勤務している。 調査期間は、2012 年 7〜9 月である。 主な調査内容は、障害児家族の生活・養育困難の実態、家族 の生活・養育困難の学校教育への影響、家族の生活・養育困難への対応などである。本稿ではとくに、 障害児家族の生活・養育困難の実態について焦点を当てて検討する。 4.インタビュー調査の結果からみえる障害児家族の生活・養育困難の実態 インタビューで聞き取った障害児家族の生活・養育困難の実態について、表 1 にまとめた。 顕著な特徴として、「一人親家庭」が「学部 78 名中 3 名 ( 4 %)」から「学年 17 名中 5 名 (29%)」
所 属 学 部 * 一人親 家庭数 保護 者にも障害が ある (障害が 疑わ れれる) 家 庭数 生活 保護 を 受け ている 家 庭数 「家 庭環境 に 困難がある」 と 感じ る子ども 「家 庭 が経済的困難」 と 感じ る子ども 「虐 待されている (かもしれない)」 と 感じ る家 庭 経済的困難と 虐 待 (の可能性) を 併 せ 持つ家 庭 虐 待まではないま でも家 庭 での対 応 が 望 ましくないと 感じ る家 庭 *括弧内 は、 回答 にあたって母 数 となる 集団 の 数 (担 任 する学 級 または学年の児 童 生 徒数 ) ** この 項 目のみ、学 部内 (100 人中) での人 数 を 回答 回答 者 【表 1】 障害児家族の生活・養育困難の 実態 認識 不明 5 (10 % ) 8 (1 5% ) 高等 部 (5 2 名 ) 教 師 H 0 (0 % ) 0 (0 % ) 3 (8% ) 2〜3 (5〜8% ) 1〜 2 (3〜5% ) 不明 2? (5% ) 4 (10 % ) 高等 部 (4 0 名 ) 教 師 I 教 師 F 不明 不明 不明 2 (2 9% ) 3 (43% ) 1 (1 4% ) 1 (1 4% ) 1 (1 4% ) 高等 部 (7名 ) 教 師G 1 (2 % ) 1( ? ) (2 % ) 1( ? ) (2 % ) 1( ? ) (2 % ) 不明 10 (1 3% ) 13 (1 7% ) 2 (3% ) 不明 3 (4% ) 中学 部 (78名 ) 教 師E 2 (12 % ) 3 (1 8% ) 3 (1 8% ) 4 (2 4% ) 7 (4 1% ) 4 (2 4% ) 7 (4 1% ) 5 (2 9% ) 高等 部 (1 7名 ) 3 (2 3% ) 中学 部 (1 3名 ) 教 師C 1 (2 % ) 3 (7% ) 3 (7% ) 10 (2 4% ) 不明 3 (7% ) 10 (2 4% ) 5 (12 % ) 中学 部 (4 2 名 ) 教 師D 不明 不明 0 (0 % ) 0 (0 % ) 10** (10% ) 0 (0 % ) 2 (33% ) 1 (1 7% ) 2 (33% ) 1 (1 7% ) 小 学 部 (6名 ) 教 師 B 不明 1 (8% ) 1 (8% ) 0 (0 % ) 不明 3 (2 3% ) 1? (8% ) 1〜 2 (3〜5% ) 0 (0 % ) 0 (0 % ) 1 (3% ) 3 (8% ) 不明 2? (5% ) 4 (10 % ) 小 学 部 (4 0 名 ) 教 師 A 不明
とばらつきはあるものの、9 名中 8 名の教師が 10% 以上と答えており、高い傾向にあることが明ら かとなった。確認できている限りにおいて、一人親家庭はすべて母子家庭である。厚生労働省による 「平成 24 年国民生活基礎調査」によれば、児童のいる世帯のうち、一人親と未婚の子のみの世帯が占 める割合は約 6.6% であり、今回のインタビューから得られた結果は平均よりもかなり高い率である ことがうかがえる。また、「保護者にも障害が疑われる家庭数」は、「学年で 2 名 ( 5 %)」から「ク ラスで 7 名 (41%)」と少なくない家庭数が該当することがわかった。なかには、「数え切れない」と いう回答も見られた。その他、「生活保護を受けている家庭数」については、「学部で 2 名 ( 3 %)」 から「クラスで 4 名 (24%)」と結果に幅が見られた。その一方で、「不明」「わからない」と回答す る教員も見られ、実態把握に差が見られた。 次に、インタビューで聞き取った具体的な子ども・家庭の姿とあわせて結果についてみていく。 (1) 「家庭環境に困難がある」と感じる子どもの様子 表 1 に示したように、「家庭環境に困難がある」と感じる子ども・家庭数について、おおよその人 数を把握している教員と、そうでない教員があった。後者については、正確な人数を把握はしていな くても、次に挙げるような具体的な子ども・家庭の姿として「家庭環境に困難がある」実態を把握し ている場合が多く見られた。「家庭環境に困難がある」と感じる子ども・家庭数は、「学年 40 名中 1〜2 名 (3〜 5 %)」「学部 40 名中 3 名 ( 8 %)」という回答が見られる一方で、「クラス 6 名中 2 名 (33%)」「クラス 7 名中 3 名 (43%)」と高い割合の回答もあり、結果に幅が見られた。 インタビューでは、具体的に次のような子どもの姿が語られた。 ・母子家庭。お風呂や着替えなど (小) ・母子分離の問題、経済的問題、母子家庭。その他に、きょうだいともに障害がある家庭、子だくさんの家庭も ある (小) ・子どもが家で暴れるということはある (中) ・一人親家庭や保護者同士の意見の食い違いの大きい家庭 (中) ・生活保護を受けている家庭、母子家庭など (中) ・家事の手伝いで、本人の自由になる時間がない (高) ・学校に行かせないといけないという意識が薄い保護者がいて、子どもは不登校気味。きちんとした服装という ものを保護者が理解しておらず、服が用意されない。身だしなみを整えられない。バス停に送れない。自分も 起きられないし、子どもを起こせない親 (高) ・母子家庭で母一人では車椅子の子どもを連れて動けない。お風呂もあまり入っていないのではないか。学校に 来ることが難しい子どももいる (高) (インタビュー回答より一部抜粋、(小) (中) (高) はそれぞれ学部を表す:以下同じ) 「家庭環境に困難がある」と感じる具体的な内容を回答した 8 名の教員のうち 5 名が、「母子家庭」 であることを挙げた。ここから、「家庭環境に困難がある」と感じられる背景には、「母子家庭」であ ることの影響が少なくないことがうかがえる。今回のインタビューでは、小学部・中学部・高等部と すべての学部の教員が母子家庭の影響について言及しており、子どもの年齢にかかわらず、保護者が 一人で子どもを養育することの困難さが現れていると言える。また「母一人では車椅子の子どもを連 れて動けない」といった障害と関連する困難が見られることから、障害の種別や程度に起因する困難 さについてはより丁寧な聞き取りと分析が今後必要だと考える。 その一方で、「学校に行かせないといけないという意識が薄い」「家事の手伝い」「きちんとした服 装というものを保護者が理解していない」「親が起きられない」「子どもを起こせない」といった、子 どもの障害に直接起因しない生活・養育困難の実態も見られる。ここでは、後にふれるように、保護
者自身に障害がある (可能性がある) ことの影響も含んで検討する余地があるだろう。 (2) 「家庭が経済的に困難」と感じる子どもの様子の具体例 次に、「家庭が経済的に困難」と感じる子ども・家庭数についてみると、「今は特にない ( 0 %)」 から「クラス 7 名中 2 名 (29%)」とばらつきがみられる。「わからない (一人はいる)」という回答 も見られた。インタビューでは、具体的に次のような子どもの姿が語られた。 ・同じ服をずっと着ている、服装が季節に合っていない (小) ・生活保護家庭は別として、あまり困難は感じない (中) ・生活保護を受けている家庭。定期的に引き落としが困難な家庭がある (中) ・生活保護を受けている。母子家庭 (中) ・生活保護家庭。諸費が払えない (高) ・共働きでぎりぎりなど (高) 家庭の経済的困難については、「生活保護を受けている」「諸費が払えない」といった金銭面での把 握と、服装や持ち物などの子どもの姿から把握している側面がある。「生活保護家庭は別として、あ まり困難は感じない」というように、「生活保護を受けている」すなわち「経済的に困難」であると 受け止める教員がいる一方で、「家庭が経済的に困難と感じる子ども」は 0 名でも、「生活保護を受け ている家庭数は 1 世帯」と答える教員がいるように、何を以て「経済的困難」と判断するかの基準が 明確ではないことが浮き彫りになった。 (3) 「(ネグレクトなど) 虐待されている (かもしれない)」と感じる子どもの実態 次に、虐待の可能性についてみてみる。「(ネグレクトなど) 虐待されている (かもしれない)」と 感じる子ども・家庭数についてみると、「特にない ( 0 %)」から「学年 17 名中 3 名 (18%)」という 結果であった。具体的な子どもの実態としては次のような姿が語られた。 ・身体的虐待の疑いとして報告された。虐待とまではいかなくても、子どもに手を出す親は多い。保護者もうつ 病など (小) ・服装のことなど (中) ・行政と連携して経過観察中。十分な食事がとれていない (中) ・過去に暴力等の虐待があったと中学から伝えられた。愛着に問題がある (高) ・母親が教員の目の前で子どもを叩く。食べているのがポッキーやポテトチップス。子どもが自分でお弁当を用 意している (高) ・親の感覚がずれている (高) 虐待の可能性については、暴力・身体的虐待は比較的把握しやすく、他機関との情報共有や経過観 察につながっているケースがある。ネグレクトは、「服装」や「十分な食事がとれていない」姿から 把握される傾向がある。「子どもに手を出す (叩く)」保護者の存在については、小学部だけでなく、 高等部でも見られた。子どもの障害ゆえに言葉で伝える (たとえば、注意する、叱責するなど) こと の難しさが「手を出させている」可能性と同時に、保護者自身の抱える課題との関連についても慎重 な分析が今後必要だと考えられる。 (4) 「経済的困難と虐待 (の可能性) を併せ持つ子ども・家庭数 経済的困難と虐待 (の可能性) を併せ持つ子ども・家庭数については、「母子家庭かつ生活保護を
受けている家庭」が該当するという回答があった。「虐待されている (かもしれない) と感じる」家 庭数と「経済的困難」な家庭数が重なる回答が 9 名中 4 名見られ、一定の関連性が見られる。その一 方で、経済的困難ではなく「障害と虐待の関連性を感じる」という回答もあり、障害と生活・養育困 難および「貧困」が複雑に絡み合って子どもに影響を与えている実態がうかがえる。 (5) 虐待まではないまでも家庭での対応が望ましくないと感じる子ども・家庭数 「虐待まではないまでも家庭での対応が望ましくないと感じる子ども・家庭数」については、数を 正確に把握することの困難さがうかがえた。しかしながら、「対応が望ましくないと感じる具体的内 容・理由」について尋ねると、さまざまな保護者・家庭の様子が語られた。具体的には以下のとおり である。 ・「専門家」のような親がいる。子どもを「子ども」として見ているか。家では子どもは思いが出せているのか。 保護者が働きづめで、事実上の一人親家庭のようになっている家庭が少なくない。子どもをはたくなど、手を 出す親が多い。「物でつる」のも目につく。母子一体の状態もある。肢体障害、重度障害の子どもに多いのでは ないか。ショートステイについて小学部では抵抗感が強い。修学旅行について行っていいか聞く母親。遠足の 別れ際に母が号泣。就学前の子どもについて、母子通園が多い (小) ・車の中で便をした子をそのまま学校に連れてくる。トイレの習慣もつけてもらえなかった。母親と一緒に学校 で過ごす子どももいる。「やってあげなくちゃ」という感覚が強い。働いていないので子どものことだけになる。 「私がいなければ」という母親は多い。タイムケアに子どもを通わせたり、PTA の役員をしたりするなかで変 化があった (中) ・生徒が虫歯を痛がっているのに病院に連れて行かない、子どもへの関わりがうまくない (すぐ手をあげる、注 意や叱責ばかりするなど) 若い保護者に多いか (中) ・お金の面などで (高) ・学校に様々な要求をしてくる保護者はいる (高) インタビューからは、「子どもをはたく」「手をあげる」「病院に連れて行かない」など、「虐待」に 近い実態があることもうかがえた。また、「ショートステイに子どもを預けられない」「遠足の別れ際 に号泣する」など、子どもと離れられない母子関係も垣間見られた。これまでにも、母親が障害児の 養育を専門に引き受けることで、家族や社会的関係から孤立し、適切な母子関係を築くことが困難に なる場合があることは指摘されてきたが、その実態が学校教育現場でどのような影響を及ぼしている かの一端をうかがうことができる。このように、母子一体とネグレクトという両極に現れる保護者の 養育態度と障害との関係について、今後さらに多面的・多角的かつ複層的にとらえて、学校教育とし ての課題と対応を考えていく必要があるだろう。 このようにインタビューでは、障害児家族の生活・養育困難について非常にリアルな家庭・子ども の実態とその中で対応に苦慮する教員の切実な思いを聞き取ることができた。 5.家庭の生活・養育困難状況の変化について 最後に、こうした家庭の生活・養育困難な状況について、教員が過去と比べて変化を感じているか について尋ねた。その結果、以下のような回答が得られた。 ・シングルの家庭が増えたように思う。良くも悪くも学んでいる保護者が多い (小) ・一人親家庭が増えている。コンビニの普及などで便利になったことでかえって生活習慣が崩れているように感 じる。パッと見た感じは昔より身ぎれいにしているが、生活の質は低下。小さい頃から療育を受けて生きた生
徒が増えている (中) ・支援センターなどが増えて、家族 (とくに母親) が丸抱えしてしまうことは減った。一方で、緊急で入所でき る施設は減っている (とくに両親がそろっている家庭の場合、施設入所や寄宿舎、支援サービスなどを利用し たくてもなかなか利用できないのが現状)。保護者自身がなんらかの障害を持っている家庭も増えているか?母 子家庭が増えた (中) ・15 年前に別の養護学校にいた時の方が家庭の状況は大変だった。地域の状況もあるかもしれない (中) ・祖父母の存在が大きいのではないか。今は核家族が多くなっている。両親の足並みもそろわない (高) ・経済的な問題よりも、親の関わり方が気になるところが目につく (高) 「変化は感じていない」という回答がある一方で、「一人親家庭が増えた」「核家族が減った」とい う回答が 9 名中 4 名と多く見られた。これは、障害児を育てていく上で「祖父母の協力が得られにく くなった」ことを意味すると考えることができる。あくまで教員個人の実感に基づく回答ではあるが、 ここでも、特別支援学校において一人親家庭の影響が深刻化しつつある現状がうかがえる。 また、「小さい頃から療育を受けてきた生徒が増えている」「 (良くも悪くも) 学んでいる保護者が 多い」「支援センターなどが増えて、家族 (とくに母親) が丸抱えしてしまうことは減った」という 意見もある。別に「近年の家庭・保護者について『気になること』」を尋ねた項目では、「保護者自身 に障害がある場合が多い」という回答も多く、今日の特別支援学校が抱える課題の 1 つであることが 浮かび上がった。 6.考 察 今回のインタビューは対象が 9 名と少数であること、また教員一人ひとりの主観に基づく回答であ ることから、障害児家族の生活・養育困難の実態についてすべてを描き出すことはできない。しかし ながら、特別支援学校に通う障害のある子どもとその家族をめぐる生活・養育困難の実態に関する調 査の一端として、今回のインタビューを通じて以下の様相が見えてきた。 第一に、一人親家庭率が高いことである。今回の調査結果は局所的なものであるが、障害児家族に とって、「一人親世帯になること」がさらなる就労困難を生み出し、貧困の大きなリスクになること を考えると、子どもの「障害」ゆえに「家庭生活を続けることの困難」の結果として一人親家庭率が 高い可能性はないかなど、子どもの障害と一人親家庭率の因果関係について詳細な検証が必要である と考える。それと同時に、障害児を育てていく上で一人親家庭であることのリスクに対して、学校が それをどのように認識し対応していくのか、福祉的なアプローチとどう連携していくのかを考えてい くことも重要になるだろう。 第二に、教員によって、実態の把握の度合いにかなりの幅があることである。たとえば、生活保護 の受給などを含めた各家庭の経済状況について、必ずしもすべての教員が共通して把握できるとは限 らない。その一方で、保護者と市役所の了解を得て、生活保護費や就学奨励費から学習にかかる費用 を徴収したり、保護者に生活保護の仕組みを説明するなど、学校から積極的に関与するケースも見ら れた。実態把握の方法や情報共有・管理・活用のあり方について、今後検討していく必要があると考 えられる。また、「家庭環境に困難がある」「家庭が経済的に困難と感じる」といった項目への回答に はバラツキが見られ、障害児家族の生活・養育困難の実態に関して全体的に教員の認識に小さくない 差が認められた。これがその学校に通う児童生徒の「実態」の違いを表すものであるか、または教員 の「生活・養育困難」に対する感度の違いかは、今回の調査では明らかにすることができなかったが、 そのことを踏まえて、障害児の貧困をめぐって地域や学校間格差がどのように現れうるのか、また実 際に現れているのかを今後より丁寧に検証していく必要があると考える。 第三に、特別支援学校に通う子どもとその家族の実態として、「保護者にも障害がある (疑われる)
家庭数」が少なくないことが明らかとなった。保護者の障害の有無は非常にナイーブな問題であり、 学校が踏み込んで把握していくことには困難も予想される。その一方で、保護者の障害による生活・ 養育困難が子どもに与える影響は深刻であり、今後、障害児の貧困の問題を考えていく上で、避けて は通れない課題となりうる。 7.お わ り に 今回のインタビュー調査を通して、障害児家族がさまざまな生活・養育上の困難を経験しているこ とを教員が大なり小なり把握している実態と、その困難が子どもの健全な発達を阻害している現状、 また学校教育にも深刻な影響を及ぼしている現実の一端を垣間見ることができた。なかでも、特別支 援学校において一人親家庭率が高いこと、保護者に障害がある (疑われる) 家庭数が少なくないこと が、障害児家族の生活・養育困難の背景にあることがうかがえた。 今後は、実態をより的確に検証するための調査方法のあり方について検討していきたい。具体的に は、障害児家族の生活・養育困難がより顕著に表れると考えられる寄宿舎を対象にした調査や、具体 的な対応を模索している特別支援学校教員への聞き取りなどを計画している。その中で、今日の特別 支援学校における在籍者増大と貧困問題が顕在化していることの関係性や、障害児をめぐる学校と家 族の関係のあり方を問い直す作業、学校や教員がこうした実態についてどのような視点を持って対処 していくことが期待されるのか、また障害児の「貧困」という視点に立って、教育現場からどう問い 直していくことができるのかを明らかにする課題にも取り組んでいきたいと考える。 【謝辞】 本研究を行うにあたり、貴重な時間を割いてインタビューに協力してくださった先生方に心より 感謝申し上げます。 【付記】 本研究は、平成 24〜26 年度科学研究費助成事業 (学術研究助成基金助成金) 基盤(C)「障害児 家族の生活・養育困難と学校教育の課題に関する実証的研究」による研究成果の一部である。 引用・参考文献 阿部彩『子どもの貧困 ―― 日本の不公平を考える』岩波書店、2008. 子どもの貧困白書編集委員会編『子どもの貧困白書』明石書店、2008. 藤本典裕・制度研『学校から見える子どもの貧困』大月書店、2009. 田中智子「知的障害児のいる家族の貧困とその構造的把握」『障害者問題研究』37(4)、2010. 浅井春夫「子どもの貧困の現状と政策報告」『障害者問題研究』37(4)、2010. 青木紀『現代日本の貧困観 ―― 「見えない貧困」を可視化する』明石書店、2010. 丸山啓史「障害児を育てる母親の就労に影響を与える要因」『京都教育大学紀要』118、2011. 厚生労働省「平成 24 年国民生活基礎調査」 (http : //www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa12/index.html 2013. 10. 24 確認) 註 1 ) 田中智子「知的障害者のいる家族の貧困とその構造的把握『障害者問題研究』37(4)、2010. 2 ) 丸山啓史「障害児を育てる母親の就労に影響を与える要因」『京都教育大学紀要』118、2011.