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執務空間における好ましい輝度分布に関する研究
- 快適な VDT 作業空間の検討 - 宮城 亜矢 1.はじめに 人は明るさを、対象に入射した光の量である照度で はなく、対象からの反射光の量である輝度でとらえる。 古くから輝度設計の重要性は唱えられ、執務空間に対 する順応輝度や、視対象とその背景との輝度対比の研 究が多く行われてきた。しかし、現在でも多くのオフ ィスが手元の明るさの指標である机上面照度をもとに 照明計画を行っている。これは、輝度の予測や計算方 法が難しいことや、照明設計者によって変えうるもの が照度のみであることが理由として挙げられる1)。 現在のオフィスでは、VDT 作業が大きな割合を占め ている。また、近年照明用消費電力削減のために、タ スク・アンビエント照明方式(以下、TAL)が普及し ている。TAL とは、アンビエント照明で室全体の最低 限の明るさを確保し、作業に必要な場所にのみタスク 照明を用いることで、消費電力削減になると言われる 照明方式である。TAL を採用し、机上面照度を低く設 定するオフィスの事例が増えている。しかし、著者は 発光するディスプレイを見ながら行う作業空間の光環 境は、机上面照度だけでなく、ディスプレイの背景領 域の輝度も同様に重要になるのではないかと考える。 そこで本研究では、VDT 作業において作業面周辺輝 度の違いが空間の快適性に与える影響を検討するため の被験者実験を行った。さらに、従来使われてきた画 面表面に反射防止処理が施された非光沢液晶ディスプ レイ(以下、非光沢液晶)に加え、反射防止処理を施 していない光沢液晶ディスプレイ(以下、光沢液晶) も普及し始めている2)。そこで、2 種類のディスプレイ の違いによる影響についても検討を行った。 2. 実験Ⅰ 2.1.概要 実験Ⅰでは、作業面周辺輝度の違いとディスプレイ の仕様の違いが及ぼす作業性への影響を検討するため の研究を行った。実験は九州大学構内の研究室内に反 射率の異なる実大模型室(1800 mm×2000 mm×天井高 3500 mm)を 2 種類設置して行った。パーティション で区切られたブース内の中央部に作業机を設置した。 天井面、床面は既存のものを使用した。反射率はそれ ぞれ 60 %、30~45 %であった。パーティションは白 と黒の模造紙で作成し、机上面にも同じ模造紙を敷い た。壁面及び机上面の反射率はそれぞれ 75 %、5 %で あった。図 1 に実大模型室の平面図、断面図を示す。 実験は 2013 年 12 月~2014 年 1 月の 8:30~9:30、 10:30~11:30 に 1 日 1 条件行った。実験中、室温は不快 でないように調節した。実験条件は、机上面照度 500 lx、 ディスプレイの輝度は白色表示 100 cd/㎡で一定とし、 ディスプレイ 2 条件(光沢液晶・非光沢液晶)、壁面及 び机上面の反射率 2 条件(75 %・5 %)、の組み合わ せ計 4 条件とした。作業面周辺輝度はそれぞれ、反射 率 75 %で約 70 cd/㎡、反射率 5 %で約 5 cd/㎡であっ た。条件の組み合わせと、各条件の作業面周辺輝度、 顔面照度を表 1 に示す。以下、表 1 の条件 1 を〈75 %・ 光沢〉、条件 2 を〈75 %・非光沢〉、条件 3 を〈5 %・光 沢〉、条件 4 を〈5 %・非光沢〉とする。 図 1 実験室(上)平面図、(下)断面図 周辺輝度 測定点 LED 電球 作業面照度測定点 鉛直面照度 測定点 顔面照度測定点 画面照度測定点 天井面照度測定点 LED 電球 画面輝度測定点 2000mm 600mm 9 0 0 m m 18 00m m 30 0 0 m m 12 0 0 m m 15 0 0 m m 2000mm44-2 実験手順は、以下の通りとした。 1. ART(焦点調節応答時間)を測定 2. 入室後、アンケート(光環境・疲労感)に回答 3. 30 分間の VDT 作業 4. アンケート(光環境・疲労感・作業性)に回答 5. ART を測定 作業内容は、タイピング 20 分、机上面に置いた電卓を 用いた 3 桁の乗算 10 分である。画面上の文字の大きさ は、見かけ上の大きさを合わせ、光沢で 12 pt、非光沢 で 10 pt とした。アンケート内容を表 2 に示す3,4)。 被験者は、平均年齢は 22.5 歳の健康な大学生 8 名 (A~H)を用いた。 表 1 実験条件 表 2 アンケート内容 ※疲労感Ⅳ群のだるさ感の項目は使用しなかった。 2.2.結果 作業面周辺輝度の違いが空間の快適性に及ぼす影響 を検討するために、ディスプレイの種類ごとに比較し た。 まず、〈75 %・光沢〉〈5 %・光沢〉について比較した。 ART の中央値変化率の値は、被験者 8 人中 5 人が〈5 %・ 光沢〉で高い値となった。ART の中央値変化率を図 2 に示す。主観評価における疲労感は、〈75 %・光沢〉で 高い値を示した。増加量が高いほど疲労感が高まった ことを示している。作業効率は〈5 %・光沢〉でやや高 い値を示した。タイピングと乗算の入力数と誤入力率 を図 4 に示す。アンケートによる光環境、作業性に関 する項目に傾向はあまり見られなかった。 次に、〈75 %・非光沢〉〈5 %・非光沢〉について検討 する。ART の中央値変化率は、被験者 8 人中 5 人が 〈75 %・非光沢〉で高い値を示した。ART の中央値変 化率を図 3 に示す。主観評価による疲労感は、〈75 %・ 非光沢〉で高い値を示した。作業効率は、タイピング では〈5 %・非光沢〉で高い値を示した。乗算は、〈75 %・ 非光沢〉で入力数は高い値を示しているが、誤入力率 も高い値となっていることからあまり差は見られない と判断した。 図 2 光沢液晶使用で空間反射率の違いでの ART の変化率 図 3 非光沢液晶使用で空間反射率の違いでの ART の変化率 -0.3 0.0 0.3 0.6 条件 1 条件 3 条件 1 条件 3 条件 1 条件 3 条件 1 条件 3 条件 1 条件 3 条件 1 条件 3 条件 1 条件 3 条件 1 条件 3 A B C E H D G H 中央値変 化率 -0.3 0.0 0.3 0.6 条件 2 条件 4 条件 2 条件 4 条件 2 条件 4 条件 2 条件 4 条件 2 条件 4 条件 2 条件 4 条件 2 条件 4 条件 2 条件 4 D E G A B C F H 中央値変 化率 条 件 机上面 照度(lx) 壁面反射 率(%) 周辺輝度 (cd/㎡) 顔面照度 (lx) VDT 1 500 75 70 357 光沢 2 303 非光沢 3 5 5 300 光沢 4 240 非光沢 5 300 75 46 245 非光沢 質問 内容 評価方法 光 環 境 A-1 作業空間として快適か はい/ いいえ A-2 作業空間としての明るさについて 明るい ~暗い 作 業 性 B-1 作業中、集中力は持続したか はい/ いいえ B-2 最初と比べて終盤にミスタイプが多くなったか B-3 視野内がぼやけて見えたか B-4 パソコン画面がまぶしかったか B-5 キーボードや机上面からディスプレイに目を移す時、見えにくかったか B-6 パソコンの文字が二重に見えたか B-7 ディスプレイの映り込みは気になったか 疲 労 感 Ⅰ 1 あくびが出る ない ~ かなり ある 2 眠い 3 やる気が乏しい 4 全身がだるい 5 横になりたい Ⅱ 6 いらいらする 7 落ち着かない気分だ 8 不安な感じがする 9 憂鬱な気分だ 10 考えがまとまりにくい Ⅲ 11 頭が重い 12 気分が悪い 13 頭がぼんやりする 14 めまいがする 15 肩がこる Ⅴ 16 目が乾く 17 目が痛い 18 物がぼやける 19 目が疲れる 20 目がしょぼしょぼする
44-3 図 4 空間反射率と画面仕上げの違いごとの作業成果 3.実験Ⅱ 3.1.概要 実験Ⅰで得られた結果が、作業面周辺輝度の違いに よるものか、壁面及び机上面の反射率の違いによるも のかを検討するための実験を行った。実験Ⅰでディス プレイの違いが実験結果に影響を与えるかを検討した ところ、それぞれのディスプレイの持つ性質や被験者 の好みなどが大きく影響していると考えられた。実験 Ⅱでは輝度の違いによる影響に限定して検討するため に、非光沢液晶を用いた。被験者は 7 人を用いた。実 験条件は、反射率 75 %で机上面照度 300 lx とした。以 下、表 1 の条件 2 を〈75 %・500 lx〉、条件 4 を〈5 %・ 500 lx〉、条件 5 を〈75 %・300 lx〉とする。作業面周辺 輝度は約 46 cd/㎡であった。条件 5 の作業面周辺輝度、 顔面照度は表 1 を参照されたい。 3.2.結果 まず、〈75 %・500 lx〉〈75 %・300 lx〉で比較したと ころ、〈75 %・500 lx〉条件で視覚疲労が高い値を示し た。ART の中央値変化率を図 6 に示す。作業効率は、 タイピングで被験者 7 人中 4 人が、乗算で 7 人中 6 人 が、〈75 %・300 lx〉で入力数が増加した。タイピング と乗算の入力数と誤入力率を図 7 に示す。作業性につ いては、項目 3、5、6 の出現率が〈75 %・500 lx〉より 〈75 %・300 lx〉のほうが低下したことから、作業性が やや向上したと考えられる。光環境に関する主観評価 に大きな差はなく、〈75 %・300 lx〉でも「やや明るい」 側の申告であった。 次に、〈5 %・500 lx〉〈75 %・300 lx〉を比較したとこ ろ、7 人中 4 人が〈5 %・500 lx〉で視覚疲労が高い値 を示した。ART の中央値変化率を図 8 に示す。作業効 率は、タイピングで 7 人中 5 人が〈75 %・300 lx〉で入 力数が増加した。乗算で 7 人中 6 人が〈5 %・500 lx〉 で入力数が増加した。タイピングと乗算の入力数と誤 入力率を図 9 に示す。作業性の出現率はほぼ同じ結果 であった。〈75 %・300 lx〉で「作業空間として快適か」 の項目で、全員が作業前後ともに快適であると回答し ているのに対し、〈5 %・500 lx〉では作業後に不快であ ると回答した者が 3 人いた。全条件の主観評価におけ る光環境の項目 1 の回答を表 3 に示す。 図 6 空間反射率 75%で照度の違いでの ART の変化率 図 7 空間反射率 75%で照度の違いでの作業成果 図 8 空間反射率と机上面照度の違いでの ART の変化率 0 1 2 3 4 6 7 8 9 10 条件 1 条件 2 条件 3 条件 4 誤 入 力数 (% ) 入力数 (× 100 字 ) 0 2 4 6 20 30 40 50 60 条件 1 条件 2 条件 3 条件 4 誤 入 力率 (% ) 入力数( 問) 入力数 誤入力率 -0.3 0 0.3 0.6 条件 2 条件 5 条件 2 条件 5 条件 2 条件 5 条件 2 条件 5 条件 2 条件 5 条件 2 条件 5 条件 2 条件 5 A B F H C D G 中央値変 化率 0 2 4 6 8 10 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 A B C D F G H 誤 入 力率 (%) 入力数 (字 ) 0 10 20 30 40 0 20 40 60 80 A B C D F G H 誤 入 力率 (% ) 入力数 (問 ) 入力数 条件2 入力数 条件5 誤入力率 条件2 誤入力率 条件5 -0.3 0.0 0.3 0.6 条件 4 条件 5 条件 4 条件 5 条件 4 条件 5 条件 4 条件 5 条件 4 条件 5 条件 4 条件 5 条件 4 条件 5 A B D C F G H 中央値変 化率 タイピング タイピング 乗算 乗算
44-4 図 9 空間反射率と机上面照度の違いでの作業成果 表 3 主観評価における快適性 A-1 の回答 表 4 作業性の項目の「はい」の回答者出現率 図 10 空間反射率と机上面照度の違いでの作業前後の 明るさ感の変化 4.まとめ 実験Ⅰ、実験Ⅱの結果より、作業面周辺輝度が低いほ うが、視覚疲労度は低く、作業効率は高い値となった。 三木氏によると、創造的業務には低照度・低色温度が良 く、一方単調な知的作業には高照度・高色温度が良いと されている5,6)。本研究の作業内容は単純作業であったが、 低輝度条件で作業効率が高い値となったことや、「作業 中、集中力が持続したか」の項目の出現率がやや高い値 を示したことから、単純作業においても低輝度空間が好 ましいと本研究で示唆された。また、作業面周辺輝度を 下げすぎると、視覚疲労が高く、作業効率が低い値とな ることも分かった。これは、作業面であるディスプレイ と空間の輝度との輝度対比が大きくなったことが影響し ていると考えられる。中村らの研究で、室表面の反射率 が低い場合、照度を低く設定しても執務者の不快感は高 まらないとある7)。本研究結果では、反射率が低い場合、 照度を高く設定しなければ周辺輝度を好ましい値に保つ ことができない。また、照度を500 lxから300 lxに下げて も、明るさ感の評価にほとんど影響を与えなかった(図 10)。このことからVDT作業時の執務空間としては、室 表面の反射率は高めに設定し、照度を下げる方が良く、 省エネにも効果的である。ただし、本研究は個人用執務 室を想定した実験である。本研究結果がオープンプラン オフィスに適用できるかは、さらなる研究が必要となる。 謝辞 本研究は科学研究費補助金の基盤研究(B)(課題番号 24360237)によった。記して謝意を表する。 参考文献 1) JIS Z9110 1964 年改正 第 4 編第 3 章「照度の重要性」 2)EIZO : White Paper(2014 年 1 月現在)
http://www.eizo.co.jp/products/tech/files/2005/glare_vs_nong lare.pdf 3) 望月悦子ら「VDT 作業時の視覚疲労評価 -分光分 布が視覚疲労に与える影響-」日本建築学会大会学術講 演梗概集 2009 4) 片山徹也ら「コンピュータ画面の明度条件と作業効 率及び疲労感との関連」人間と生活環境 2010 5) 同志社大学理工学部インテリジェント情報工学科 知的システムデザイ研究室 HP(2014 年 1 月現在) http://mikilab.doshisha.ac.jp/research/index.html 6)エコッツェリアポータルサイト(2014 年 1 月現在) http://ecozzeria.jp/ 7) 中村芳樹ら「オフィス照明の節電対応と省エネルギ ー」日本建築学会大会学術講演梗概集 2012 0 2 4 6 8 10 0 200 400 600 800 1000 1200 1400 A B C D F G H 誤 入 力率 (% ) 入力数 (字 ) 0 10 20 30 40 0 20 40 60 80 A B C D F G H 誤 入 力率 (% ) 入力数 (問 ) 入力数 条件4 入力数 条件5 誤入力率 条件4 誤入力率 条件5 前/後 はい/はい はい/いいえ いいえ/はい いいえ/いいえ 条件 1 6 1 0 1 条件 2 6 0 1 1 条件 3 6 1 0 1 条件 4 5 2 0 1 条件 5 7 0 0 0 作業性の項目 B-1~B-7 の「はい」の出現率(%) 項目 条件 1 条件 2 条件 3 条件 4 条件 5 B-1 75.0 75.0 50 62.5 71.4 B-2 37.5 50.0 75 25.0 42.9 B-3 37.5 25.0 50 37.5 28.6 B-4 37.5 50.0 25 37.5 42.9 B-5 62.5 37.5 38 50.0 28.6 B-6 12.5 12.5 25 25.0 0 B-7 0 0 13 0 0 明るい やや明るい どちらでもない やや暗い 暗い タイピング 乗算 後 前 後 前 後 前 条 件 5 条 件 4 条 件 2