博 士 ( 医 学 ) 斉 藤 康 二
Cdc50p, a Protein Required for Polarized Growth, Associates with the Drs2p P‑Type ATPase Implicated in Phospholipid Translocation in Sacchar07nyces cerevzszae
(出 芽酵 母の細 胞極性を制御する Cdc50 は、
リン脂質輸送体である P 型ATPase Drs2 と結合する)
学位論文内容の要旨
[目的と背景]
細 胞極性 、すなわ ち非対 称的た細胞骨格構造、細胞内輸送、生体膜構造などの形成・維持は、酵母から 哺乳 動物細 胞まで すべて の真核生物において見られる普遍的た現象であり、これらが秩序だって進行して いく ことが 生命の 維持に とって必要である。細胞極性の形成にはアクチン細胞骨格が特に重要な役割を果 たし ており 、細胞 が増殖 する際や外界からの刺激に応答する際にダイナミックに再構成されることが知ら れて いる。 一方こ の再構 成が正常に進行しないと細胞内の秩序は失われ、細胞増殖、接着、運動などに異 常が生じるが、これらの異常は癌細胞において顕著に観察される。
一 方、真 核生物の モデル 系として広く分子細胞生物学研究に用いられている出芽酵母は、文字通り出芽 によ って増 殖する 。この 出芽という現象において細胞極性は非常に重要な意味を持っており、この過程は アク チン細 胞骨格 の再構 成によって支えられている。アクチン細胞骨格の再構成による細胞極性形成の分 子機 構は真 核生物 細胞に おいて普遍的に保存されていることから、細胞生物学的、分子遺伝学的な解析が 迅速 かつ確 実に行 える出 芽酵母をモデル系として細胞極性形成の分子機構の研究を行うことは、医学・生 物学上大変有意義なことである。
我 々の研 究室では 以前、 出芽酵 母の細 胞極性 形成を制御する遺伝子のーっとしてC.Dc.刃を同定した
(朋みtぢめZ.Q心2003,Jt730‐747)。Cdc50は非常に類似した蛋白質が酵母からヒトまで広く存在し、その アミ ノ酸配 列から2回膜貫 通型蛋 白質で あると 予想さ れてい る。砒刃 遺伝子 欠損株(cdびD△株)は低温 で小 さな芽 を出し た状態 で増殖が停止し、細胞極性形成を制御するアクチン繊維やその関連因子の細胞内 分布に異常が生じる。出芽酵母には匸DC知と相同性の高い己E伽とc 靜Yが存在し(C.DC5Dファミリー)、
これ らすべ ての遺 伝子を 欠損した細胞は致死になることから、これらが生命の維持に重要な分子であり、
機能 を重複 してい る可能 性が高 い。し かしそ の詳細 な機能は全く不明である。本研究ではCdc50の機能を 解明 するこ とを目 的に、Cdc50の関 連因子の 探索を 行い、 さらにCdc50と関 連因子との相互作用について 解析した。
隴:果]
先ず、cぬ5〇△株で高発現させるとその低温感受性を抑圧する、っまり低温でも増殖できるようになる遺 伝 子 を 探索 し 、 そ の抑 圧 遺 伝子のー っとし てMm´を 同定し た。NE〇Jがコー ドする 蛋白質 はP型ATPase に 属 す るア ミ ノ リ ン脂 質 ト ラ ンス ロ ケ ー ス(APT) に 分類 さ れ て いる 。APTに分類 される 蛋白質 は広 ―640―
く 真 核 生 物 に 存 在 し 、 出 芽 酵 母 に は そ の フ ァ ミ リ ー と し てNE01の 他 にDRS2、DNFI、2、3が 存 在 す る(DRS21NE〇Jフ ァ ミ リ ー) 。 一 般 に真 核 生 物 の細 胞 形 質 膜を 構 成 す る脂 質 二 重 層は そ の 内 外で 様 々 な 脂 質が 非 対 称 に分 布 し て いる 。 膜脂 質非対 称性は 脂質が 二重層を 横切る 動きに よって 成立し て お り 、 こ の 動 き に は 能 動的 に 脂 質 を運 ぶ 輸 送 分子 が 働 い てい る と 考 えら れ て い る。APTは 外 層( 細 胞 外 側 ) から 内 層 ( 細胞 質 側 ) にり ン 脂質 を運ぶ 働き( フリッ プ活性) がある ことが 示唆さ れてい る 分子群である。
さ ら にCDC50フ ァ ミ リ ー とDRS2lNE01フ ァ ミ リ ー と の 関 係 を 遺 伝 学 的 に 調 ぺ た と こ ろ 、CDC50 とDRS2、 ま たLEM3とDNFIが そ れ ぞ れ 機 能 的 に 同 等 で あ る こ と が 示 唆 さ れた 。 ま た 、Drs2とCdc50 は 細 胞 内 の後 期 ゴ ル ジ体 や エ ン ドソ ー ム 膜 に共 局 在 し 、み 蛇 遺 伝 子欠 損 株(drs2A株 ) はcdc50A株と 同 様に低 温感受 性を示 し、細 胞極性 形成の異 常を示 した。 一方、Dnfl、Dnf2お よぴLem3は いずれも主に 極 性 成 長 部位 の 細 胞 形質 膜 に 局 在し 、DNF1遺 伝 子 およ ぴDNF2遺 伝 子とLEM3遺 伝 子 を それ ぞれ 欠損し た 細胞で は、細 胞形質 膜にお けるり ン脂質の フリップ活性が低下することが示唆されている。これらの知 見 か ら 、Drs2とCdc50が 、 またDnflお よ ぴDnf2とLem3が、 そ れ ぞれ 物理的 にも近 いとこ ろで機 能して い るので はなぃ かと考 え、免 疫沈降 実験を行 った。その結果、確かにこれらがそれぞれ結合していること が 示 さ れ た。 さ ら にDnf3とCrf1も結 合 し て いる こ と が 示さ れ た 。一方NeolはCdc50フ ァミリ ーのい ず れの分子とも結合していなかった。さらにC,Da〇ファミリー遺伝子を欠損すると、それぞれのDR鉈川・E〔)J フ ァミリ ーの結 合パー トナー は本来 の局在部 位に移行できずに、小胞体に留まることが示された。また、
Lem3がDnf1の 局 在 部 位で の 機 能 自体 に も 関 与す る こ と が示 唆 さ れた。Cdc50ファ ミリー にはATPaseの モ チ ー フ がな い ことを 考える と、こ れらはAPTの正常 な局在 や生理 機能に 必須な 調節サブ ユニッ トとし て機能している可能性が高い。
先 述 のと お りD骼2とCdc50は 通常主 に細胞 内のオ ルガネ ラ膜に 局在し ているが 、エン ドサイ トーシ ス 不 全の遺 伝子変 異株で はそれ らの多 くが細胞 形質膜に局在することが示された。従って、これらは細胞内 オ ル ガ ネ ラ膜 と 細胞形 質膜聞 を行き 来し、 様々な オルガ ネラ膜で 他のAPT複合体 と重複し た役割 を果た す ことが できる ことが 示唆さ れた。 さらにこ のエンドサイトーシス不全の遺伝子変異株を利用し、多くの Drs2‐Cdc50複合 体が細 胞形質膜に存在する条件で、そのフリップ活性を細胞形質膜上で測定することを試 み た。螢 光標織 したり ン脂質 を外部 から添加 し、細胞形質膜外層から内層にフリップによって取り込まれ る これら の量を 調べた 結果、 確かにCdc50.Drs2複 合体はア ミノリ ン脂質のフリップに関与していること が示唆された。
L考察 ]
本 研 究 で は 、 細 胞 極 性 形 成 を 制 御す る 新 規 分子 と し て 同定 さ れ て いた 出 芽 酵 母Cdc50が 、リ ン 脂 質 の フ リ ッ プ に 関 与 す るAPTの ー っ で あ るDrs2と 結 合 し て い る こ と を 示 し 、 その 調 節 サ ブュ ニ ツ ト と し て 機 能 し て い る 可 能 性 を 示 唆 し た 。 他 のCdc50フ ァ ミ リー 分 子 も 同様 に 他 のDrs2/Ne01フ ァ ミ リ ー 分 子 と 結 合 し て い るこ と も 示 され た 。Cdc50フ ァ ミ リー は 酵 母 から 動 物 細 胞ま で 広 く 保存 さ れ て お り 、APTの こ の よ う な複 合 体 形 成は 広 く 一 般的 な 現 象 であ る と 考 えら れ る 。 この よ う に 真核 生 物 のAPTに 調 節 サ ブ ュ ニ ッ ト が 存 在 す る こ と を 示 した の は 本 研究 が 初 め てで あ る 。 また 、drs弘 株 およ びcdc50A株で は 細 胞 内の 小 胞 輸 送に 異 常 が 認め ら れ 、 これ ら の 遺 伝子 欠 損 株 にお け る ア クチ ン繊維 やその 関連因 子の細 胞内分 布の異常 は、こ の小胞 による 蛋白質 輸送の 異常が 原因か もしれな ぃ。
APTに よ る フ リ ッ プ 活 性 が どの よ う に 小胞 輸 送 に 関与 し て い るの か な ど 、そ の 細 胞 内機 能 は 不 明で あ り今 後 の 機 能解 析 が 期 待さ れ る が 、小 胞 輸 送 の新たな 制御機 構の存 在を示 唆して いると いう点 で非 常 に興 味 深 い 。高 等 動 物 で小 胞 輸 送 は、 例 え ば 、上皮細 胞の非 対称性 の維持 や神経 細胞に おける 神経 伝 達物 質 の シ ナプ ス 小 胞 開口 分 泌 な どに 深 く 関 与してお り、小 胞輸送 の異常 は癌細 胞の湿 潤・転 移や
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神経疾患などに密接に関連している。細胞内の詳細な分子機構を容易に解析できるという点で、酵母 で得られる知見はヒトなどで有効に活用できるものと考えられる。
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨
Cdc50p, a Protein Required for Polarized Growth, Associates with the Drs2p P‑Type ATPase Implicated in Phospholipid Translocation in Saccharomyces cerevzsz,ae
( 出芽 酵母の 細胞極性を制御する Cdc50 は、
リン脂質輸送体である P 型ATPase Drs2 と結合する)
細胞極性の形成、すなわち細胞が非対称な構造を持つことは、酵母からヒトまですべて の真核生物の生命活動に必要不可欠である。細胞極性形成の異常は、上皮組織の機能不全、
がん細胞の運動能亢進およぴ神経細胞の形成不全などを引き起こすことが知られている。
細胞生物学的、分子遺伝学的な解析が迅速かつ確実に行える出芽酵母は高等動物の細胞極 性形成の分子機構を理解する上で、真核生物のモデル系として非常に優れている。申請者 の研究室では以前、出芽酵母の細胞極性形成に関与する分子のーっとして膜貫通型蛋白質 であるCdc50が同定された。cdc50遺伝子欠損株は低温で生育できない低温感受性を示し、
細胞極性形成を制御するアクチン繊維やその関連因子の細胞内分布に異常が生じる。Cdc50 は何らかの形で細胞極性形成に関与すると考えられるが、その機能はほとんど分かってい なかった。
本研究ではCdc50の機能を解明することを目的に、Cdc50の関連因子の探索を行った。
cdc50欠損株で高発現させるとその低温感受性を抑圧する、っまり低温でも増殖できるよう になる遺伝子を探索し、その抑圧遺伝子のーっとしてNE01を同定した。NeolはP型ATPase に属するアミノリン脂質輸送体(APT)に分類されている。APTに分類される蛋白質は広 く真核生物に存在し、出芽酵母にはNeolの他にDrs2、Dnfl、2、3が存在する(Drs2/Neol ファミリー)。ー般に真核生物の生体膜脂質二重層はその内外で様々な脂質が非対称に分布 しており、その非対称性の形成、維持には能動的に脂質を内外に運ぶ輸送分子が働いてい ると考えられている。APTは外層(細胞外側)から内層(細胞質側)ヘリン脂質を運ぶ働 き(フリップ活性)があることが示唆されている。
出芽酵母にはCdc50と相同性の高いパラログとし てLem3とCrflが存在する(Cdc50フ ァミリー)。Cdc50ファミリーとDrs2/Neolファミリーの関係を遺伝学的解析、細胞内局在 および欠損株の表現型などから調べた結果、これらのファミリーが互いに細胞内で非常に ―643―
次 利
馬
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山 田
中
畠 志
田
授 授
授
教 教
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査 査
査
主 副
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近いところで機能している ことが示唆された。免疫沈降実験を行った結果、Cdc50がDrs2 と 、Lem3がDnflもし くはDnf2と、CrflがDnf3と それ ぞ れ特異的に結合 していることが 示 され た。 一方NeolとCdc50フ んミ リー との 特異 的な 結合 はみ られ ず、Neolは単 独 も しくは他の結合パートナー と機能していることが示唆された。Cdc50ファミリーを欠損す ると、それぞれのDrs2/Neolフんミリーの結合パートナ ーは本来の局在部位に移行できず に 、小胞体に留 まることが示された。また、Lem3がDnflの局在部位での 機能自体にも関 与することが示唆された。Cdc50フんミリーには特徴的 なドメインなどがないことを考え ると、これらはAPTの正常な局在や生理機能に必須な調 節サブュニットとして機能してい る可能性が高い。さらにDrs2‑Cdc50複合体のフリップ活性をこれらの大部分が細胞形質膜 に局在する条件で、外部か ら添加した螢光標識リン脂質がフリップにより取り込まれた量 を測定することにより調べた。Cdc50‑Drs2複合体はアミノリン脂質の輸送に関与しており、
特 に フ ァ ス フ ァ チ ジ ル セ リ ン に 対 す る フ リ ッ プ 活 性 が 高 い こ と が 示 唆 さ れ た 。 本研究により、真核生物のAPTであると考えられている分子群に調節サプュニットが存在す ることが初めて示された。Cdc50フんミリーは酵母からヒトまで広く保存されており、APTの このような複合体形成は広く一般的な現象であると考えられる。Cdc50やDrs2を欠損した細胞 では細胞極性形成に重要な役割を果たす小胞輸送に異常が生じることから、APTによるアミノ リ ン 脂 質 の フ リ ッ プ が 何 ら か の 形 で 小 胞 輸 送 に 関 与 し て い る と 考 え ら れ る 。 口頭発表において、副査の志田壽利教授からCDC50とNE|ワ´との間に見出された遺伝学的 相互作用の意味や様々なりン脂質輸送体の働きについて質問があった。続いて主査の畠山鎮次 教授からアミノリン脂質輸送体と疾患との関連やりン脂質が膜非対称性を持つ生物学的な意義 について質問があった。また副査の田中一馬教授からアミノリン脂質輸送体がフォスファチジ ルコリンを内層に輸送する意義について質問があった。これらに対して申請者は、自己の研究 結果と文献的知識を基に誠実に、概ね妥当な回答を行った。
本研究は、真核生物のAPT分子群の複合体形成を初めて明らかにし、生理機能や細胞内機能 にまで結果、考察が及んでいる点において高く評価され、今後高等動物のAPT分子群の機能並 びに細胞極性形成に関わる小胞輸送との関連やその異常による病態の解明に役立つ可能性が期 待される。
審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども併せ 申 請 者 が 博 士 ( 医 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 十 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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