博 士 ( 農 学 ) 加 藤 清 明
学位論文題名
Genetic studies of the genes controlling ear emergence time on chromosome 5A of wheat (コムギ5A 染色体の出穂期に関する遺伝学的研究)
学位論文内容の要旨
禾 穀類では,適期 に開花・登熟することが収量を向上させる上で不可欠で ある。
コ ム ギ(Triticum aestivumL2n=6X亨42)においては,花芽形成期の干ばっ や霜,
あ るいは成熟期の 降雨による穂発芽は,収量と品質に影響する。また,一 般に栄 養 成長期間を長く することで収量は多くなる。遺伝的には出穂期は春化反 応性遺 伝 子 日 長反 応性 遺伝 子と これら環境要因に 作用されない純粋早晩性遺伝子の3 種 の遺伝子が影響 し合って決定される複合形質で量的形質である。春化反 応性遺 伝 子 は, 花芽 分化 する ため の幼 苗期 の低 温要 求性 を支 配し,最も効果の 大きな Vrn− ・Ajは5A染 色 体 に 座 乗 し , こ れ と 同 祖 的 な 遺 伝 子 が5B(WnーBJ) , 5D(竹n一Dj))染色体に同定 されている。これらの遺伝子座を全て劣性にもっと 春 化処理なしでは 出穂しない。また,いずれかの遺伝子座を優性にもつと その優 性 遺伝子数に関連 して春化要求性は量的に変動し,出穂期に影響を及ぼす 。春化 反 応性遺伝子と日 長反応性遺伝子は比較的大きな効果なため遺伝分析が進 み,収 量 形質への効果も 考察されてきた。一方,純粋早晩性遺伝子の効果は小さ いため 多 くは量的遺伝子座(QI、L)か,あるいは染色体腕の効果として検出されているの に とどまり,遺伝 子座があいまいなために形質発現や収量形質への効果は 十分に 解 析されていない 。今後,早晩性と収量性を遺伝的に制御するための新た な遺伝 子 源の可能性をもつ。
本 研 究 で は , 竹nイu以 外 に 十 分 に 解 析 の 進 ん で い な い5A染 色 体 に 着 目 し ,新 たに2つ の純 粋早 晩性 遺伝子をマップ上に同定し,その育種的意 義を示 し た。また,レm―Ajと同祖的なイネゲノム領 域を特定し,レrn一ユjのイ ネゲノ ム 中 の 同 祖 的 遺 伝 子 の 候 補 を 示 し た . 本 研 究 の 概 要 は 以 下 の 通 り で あ る 。 1.5A染色体遺伝子連鎖マッブ の作成
コ ム ギ 品 種ChineseSpring(CS) をCappelle―Desprezと コ ム ギ 近 縁 種 の 丁
.pdぬの5A染 色体 に置 換し たCS(Ca・pDe11e―Desprez5A)とCS(丁叩eJfa5A冫 を 親 系統 とす る5A染色 体組 換え 置換 系統 (RSL)118系 統をマッピング集 団に用 い た 。RFLPマ ー カ ー15と レmりj, 穂 の 形 態 遺 伝 子Q、 芒 の 抑 制 遺 伝 子BJ を 含 む 全 長230cM, 平 均 マ ー カ ー 間 隔13cMの マ ッ プ を 作 成 し た 。動 原体 を短 腕 上 のXpsr326と 長 腕 上 の めcd4i2間 の24.7cM内 に 同 定 し た 。W・nイ ュJと 密 に連鎖するヌ一bcd4印,鬮95 iゆsr426,Xめa〇68を見出し、これらは 動原体 か ら 約90cMに マ ッ ピ ン グ で き た 。 こ れま での 形態 形質 をマ ーカ ーと した 連鎖 マ ップには順序に 混乱があったが,本研究により動原体ーレrn刊.j―(p―BIと 結 諭できた。
2. Qぬ t‐0cs― 5A.7の マ ッ ピ ン グ と 春 化 反 応 性 , 日 長 反 応 性 マ ッ ピン グ集 団と 親系 統を3年 間帯広畜産大学実験圃場で栽培し,出穂日 に効果
をも つ遺 伝子 とそ の環 境と の交 互作 用を 検討 した 。年 次 間に 差異 はあ るものの CS(丁sDelta 5A)がCS(Cappelle―Desprez 5A)より5〜10日ほ ど早 く出 穂し , マッ ビン グ集 団で は両親の値をレンジとする連続変 異となった。インターバルマ ッ ピ ン グ と 複 合 イ ン タ ー パ ル マ ッ ピ ン グ に よ りQTL解 析 し た 結 果 ,Vm‑ゝJ以 外 に マ ー カ ー 問Xc〔 め5餾/Qに年 次を 越え て有 意 な効 果を 検出 し, 丁叩eJ魎 型 が2.7〜6.O日出穂を早め、寄与率37.O〜53.0%で,W刀一Aヱ座と同等の効果を もつQ.Eef.〇cs―5,・A.jを見出した。
姫ef. 〇cs―5A,1座の 準同 質遺 伝子 系統 (Mh) を用 いて ,春 化反 応性 と 日長反応性を調査し,Q.Eef.〇cs−5A.jが,春化反応性と日長反応性とは独立な 純 粋 早 晩 性 遺 伝 子 で ある こと を明 らか にし た。 形質 発現 には レm―Aj座 の春 化 要求性がェピスタシスを示した。
3‐ QEet‐ 〇 cS− 5A. 2の マ ッ ピ ン グ と 春 化 反 応 性 , 日 長 反 応 性 CS(CappelleーDesprez5心 とCS(丁 叩eJね5A冫を 遺伝 背 景と する 動原 体近傍領 域に つい てのNIhを用 。ゝ て 環境 制御 下で 春化反応 性と日長反応性を調査し,オ オ ム ギ5H染 色 体 の 動 原体 近傍 に座 乗す る純 粋早 晩性 遺伝 子e甌f5工 と同 祖的 な 遺 伝 子 を コ ム ギ5A染 色体 に見 出し た。CS(Cppeue−Desprez5A)を 遺伝 背景 に もつ 場合 ,丁SpeJぬ型 が出 穂を 早め ,こ の効 果は 春化 反 応性 ,日 長反 応性とも 独立な純粋早晩性遺伝子(Q.Eef.〇csー5A.2)によると結論した。効果をもつ共通な 染色体領域から,長腕のマーカー間亂d〇4J2/蝕cd9にQ.巨ef.〇csー5n.2をマッ プし た。 さら に, 竹加1ユjある いは 丁叩eJぬ 型のQEet〇cS−5A.jがエピスタテ イックに作用することを示した。
本 研 究 で 用 い たNIhは 純 粋 早 晩 性 遺 伝 子 の 形 質 発 現 や 生 理 的 機 構 さ ら に,春化反応性遺伝子との相互作用を明らかにするための有用な植物材料となる。
さら に, 本研 究で 見出 した2遺伝 子座 の収 量形質へ の影響を明らかにし,総合的 に育 種的 な利 用性 を検討することが必要である。両 遺伝子を詳細にマップし,夕 ッギ ング でき るマ ーカーを見出すことで,遺伝的操 作手法の開発に貢献できると 期待される。
4.コムギレrn47領域とイネ〃・d・6領域のシンテニ―関係
コム ギと イネ との マク ロな 比較 マッ プで は, コムギ5A染色体とイネ第9染色体,
第3染 色 体 と の シ ン テニ ー関 係が 一部 で複 雑に な って おり ,Wn―Aj領域 との シ ン テ ニ ー の 関 係 に あ る領 域は 特定 され てい ない 。レm岨iと密 に連 鎖す る3ク 口 ー ン の イ ネ ゲ ノ ム で の マ ッ プ ポ ジ シ ョ ン か ら 出 穂日QTL,Hdー6の マッ プさ れ て い る イ ネ の 第3染 色 体 長 腕 末 端 領 域 を 候 補 領 域と した 。Hd−6を 含む8.2cM 内 に マ ッ プ さ れ て い る12のcDNAク 口 一 ン の う ち コ ム ギ の マ ッ ピ ン グ に 利 用 で き た10ク 口 ー ン は ,5A染 色 体 上 に 座 乗 す る こ とを 示し た。 この うち ,マ ッ ピ ン グ 集 団 の 親 問 で 多 型 を 得 た4ク 口 一 ン は レm私Jを 挟 む6.7cM内 に マ ッ プ でき,この4マーカーの順序 はイネとコムギで保存されていた。従って,コムギ,
オオ ムギ ,ラ イム ギで保存されている春化反応性遺 伝子のイネゲノムでの同祖的 遺 伝 子 がHd―6か あ るい は2.2cM以内 の隣 接し た 領域 に含 まれ る可 能性 の高 い こと を示 した 。こ れまでに,PなUm(gardenpea冫の 開花に関与する2遺伝子座エf と5nが春 化と 日長 の両 方に 反応 性を もつ こと が知 られ て おり ,本 研究 結果は適 応性 の重 要な 要因 であるイネの短日反応性遺伝子と ムギ類の春化反応性遺伝子が 進化 の過 程で どの ような機作で生理的に分化したの かを解明する糸口となろう。
今後 ,物 理地 図レ ベルでの詳細な比較マップと両遺 伝子の構造解析により,ミク 口 な ゲ ノ ム 領 域 の 分 化 と 遺 伝 子 の 分 化 を 明 ら か に す る 必 要 が あ る 。
学位論文審査の要旨
学位論文題名
Genetic studies of the genes controlling ear emergence time on chromosome 5A of wheat
(コムギ5A 染色体の出穂期に関する遺伝学的研究)
本論文は、図24、表21、121ベージからなる英文で、別に7編の参考論文が添えられている。
作物の生育期間は、環境ストレスを回避して地域適応性と収量性を高めるための重要形質で ある。禾穀類における生育期間の変動は、発芽から花芽分化までの栄養成長期間の長さに起因 する。コムギにおいては栄養成長期間を長くすることで収量は高くなるものの、花芽分化期の 干ぱっや低温,あるいは成熟期の降雨による穂発芽は,いずれも収量と品質に著しい影響を与 える。6倍体コムギでは、形質の遺伝子解析が染色体レベルに留まることが多いのが現状であ る。本論文は、育種上重要な出穂性を春化反応・日長反応とそれら以外の要因に分割しその遺 伝的要因を解析したもので、主な結果は次のごとくである。
(1)5A染色体の遺伝子連鎖地図の作成
コムギは花芽分化するために幼苗期の低温を必要とし、その現象は春化反応と呼ぱれる。春 化反応性遺伝子には、最も効果の大きいVm‑虹が5A染色体に座乗し,これと同祖的な遺伝子 が5Bと5D染色体上に同定されている。5A染色体には、栽培型の穂形成遺伝子Qと芒の抑制 遺伝子閲も記載されているが、これら遺伝子の位置関係には不明の点が多kゝ。本実験では、コ ムギ栽培系統と野生系統(丁s.pdぬ)由来の5A染色体置換系統を利用して、5A染色体の組換 え置換系統118系統を作成した。次に、5A染色体に特異的な15個の分子マーカーを同定し、
両親系統と組換え置換系統118系統の遺伝子型を決定した。その結果、動原体を分子マーカ一 地図上に位置づけるとともに、動原体―Vmっ虹ーQ−BIの順序で短腕上に座乗することを明 らかにした。
(2)5A染色体上の2つの純粋早晩性遺伝子の同定
3年間の栽培調査に基づbゝて,出穂性遺伝子と環境の相互作用を検討した。両親系統の出穂の 一263―
雄
也
夫
芳
義
哲
野 本
上
佐 島
三
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
違い は 、 従 来Vm‑Aヱに よ っ て 説明 さ れ て きた 。 組 換え置 換118系 統の出穂 日は両 親の中 間に 連続 的に分 布したこ とから 、竹力1虹以外 にも出 穂性遺 伝子が5A染色体 上に存 在する ことが 推 察さ れた。 本実験で は、量 的形質 座(q凡 )の分 析をイ ンター パルマ ッピン グ法と複 合イン タ ーバ ル マ ッ ピン グ 法 を 用い て 行 っ た。 そ の 結 果、V而 イu以外 に2つの 純粋早 晩性遺 伝子が5A 染色体上に存在することを明らかにした。
一っは、分子マーカーiにd〇584とQの間に位置する遺伝子(Q.EeC.ocs五A.ユ)である。T. 叩dぬ型 をもつ 個体は2.7〜6.O日早く出穂し、伽1―:釦座と同等の効果をもつことが判った。
次に、 この座 に関す る準同 質遺伝子 系統を 用いて ,制御 環境下 で春化 反応性と日長反応性を調 査した ところ ,両反 応性と は独立に 出穂を 変更す る純粋 早晩性 遺伝子 であることが判った。ま た、こ の遺伝 子と珊 】−:朏の相互作用を調査したところ、春化要求性が締粋早晩性に対して上 位性を示した。
オオム ギ5H染色 体の動 原体近 傍には 純粋早 晩性遺 伝子eps5乙 が座乗 することが判っている。
コム ギ5A染色 体 は オ オム ギ5H染色 体 と 同 祖性 を も っ と考 え ら れ るの で 、 コム ギ5A染色 体の 動原 体 近 傍 部位 だ け が 異な った準 同質遺 伝子系 統を選 んで出 穂性を 調査し た。その 結果、 丁 ゆeJぬ の 動原 体 近 傍 には 出 穂 を 早め る 別 の 遺伝 子 が存 在し、5A染色体 の長腕 上の2つ の分子 マーカ ー間に 座乗す ること が判った 。オオ ムギ同 様に、 この遺 伝子も 、春化反応性および日長 反応性と独立な純粋早晩性遺伝子(Q馳f.〇cs−5 A.)であると結諭した。さらに,レmイuおよ び讎沼己〇csー5A.ユとの間で遺伝子間相互作用を調査したところ、両者はともにQ 瓰C.ocsもA.2 に対して上位性を示した。
(3)コムギ伽】−Aユ領域とイネHd16領域の遺伝子配列の相同性
イネ科 植物の 染色体 は、数は異なっても座乗する遺伝子の配列は保存されていることが多い。
高密 度 分 子 マー カ ー 地 図の 比 較 に よる と 、 コ ムギ5A染 色体 は イ ネ の第9染色 体と第3染色体 に座乗する遺伝子群から構成されているが、コムギ珊ユ―A.ヱ領域の位置的対応は未だ判ってい ない。伽】―.AIと密接に連鎖する3つの分子マーカーをイネ高密度分子マーカー地図上に対応さ せた ところ 、コムギ の伽】tAユ領域 がイネ の第3染 色体長 腕末端 領域と 相同で あって 、イネ で はそ の領域 に出穂性qIL(Htゴ 一6)が 報告さ れてい ること が判った 。Hd―6近傍の10個のイ ネ cDNAマ ーカ ー は ,bゝ ずれ も コ ム ギ5A染 色 体上 に 座 乗して いた。 このうち ,組換 え置換 系統 間で多 型を示 した4個 の分子 マーカ ーはV襾 ‐.Aヱを挟む6.7cM内に位置しており,その順序は イネと コムギ で保存 されて いた。本 実験結 果から ,コム ギ,オ オムギ ,ライムギで保存されて いる春 化反応 性遺伝 子の同祖的遺伝子がイネのH〔ト・6あるいはその近傍領域に含まれるものと 推察した。
以上の ように 、本論 文は従来解析が進まぬかったコムギの出穂に関わる遺伝解析を可能にし、
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異なる要因の作用を明確にした。この成果は、学術的・実用的に高く評価される。よって審査 員一同は、加藤清明が博士(農学)の学位を受けるのに十分ぬ資格を有するものと認めた。
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