博 士 ( 地 球 環 境 科 学 ) 森 正 人
学位論文題名
Dynamics of the Pacific/North American Teleconnection Pattern
(PNAテレコ ネクションパターンのカ学)
学位論文内容の要旨
北半球冬季の主要な低周波変動として知られている太平洋一北米(Pacific/North Ame rican,PNA)テレコネクションバターンは、季節だけでなく季節内の時間スケールにも 卓越する変動で、その持続時間スケールは約1週間から10日である。PNAは日々の天気に 影響を与えるだけでなく、時に異常気象をもたらすことから、そのライフサイクルを明 らかにすることは予報の観点からも重要である。しかし、この時間スケールにおけるPN Aの発現・成長・持続・遷移の特徴、ならびにそれを支配しているカ学はよく分かって いない。そこで本研究では、季節内スケールのPNAを支配しているカ学を、日平均のER A‑40再解析デー夕(期間は1957−2002年の11―3月)およびカ学モデルを用いて調べた。
データを用いた合成図解析から、PNAの成長・減衰の明瞭なライフサイクルが同定で きた。対流圏上層における渦度収支解析から、アリューシャン低気圧の強化に相当する 正位相のPNAは、東西非一様な気候学的平均場との順圧工ネルギー変換などの線型過程 により成長する一方、負位相のPNAの成長にはそれに加えて低周波偏差の非線型過程も 重要であることが分かった。また、PNAが最大振幅を示す約9日前にアジアジェットに沿 った顕著な口スビー波列が見られ、やがてそれはジェットの出口付近でPNAに成長した。
この波列は主に熱帯のマッデン・ジュリアン振動OVIJO)に伴う発散風が励起していた。P NAの極性で場合分けしたMJOの確率密度関数(PDF)は、PNAの極性とMJOの位相の間に明瞭 な対応関係があることを示しており、MJOに付随する対流活発(不活発)域がベンガル湾 から西太平洋にある時に負(正)のPNAの出現頻度が最も高くなる。MJOを基準にした合成 図解析の結果、このMJOによる励起は全PNAイベントの約30%を説明することが分かった。
MJOによる励起、中高緯度での順圧成長、ならびに遷移の特徴は、気候学的平均場のま わりで線型化された線型傾圧モデルでもある程度再現することができ、上記ヌカニズム が妥当であることが示された。これらの結果は、PNA自体は中緯度固有の変動であると 考えられるものの、それが卓越するためには熱帯からの特定の強制も重要であることを 示唆してしゝる。
渦度収支解析で示されたPNAに伴う非線型過程の役割をさらに詳しく調べるために、
線型・非線型順圧モデルを用いた数値実験を行った。その結果、PNA自身に付随する流
れの非線型性は、正のPNAを弱める一方で負のPNAを強めるように働くことが分かった。
この非線型性は絶対渦度保存則や基本場の変化として説明することができ、負のPNAが 生じている時の場がより不安定であることを示している。また、非線型効果は観測され るPNAのPDFを定性的に説明する。具体的には、非線型陸によってエルニーニョ時には強 い正のPNAイベントは減少し、ラニーニヤ時には強い負のPNAイベントは増加する。この ことから、工ルニーニョ・南方振動(ENSO)のような時間スケールの長い現象は、流れ の非線型性を通してPNAの出現確率を変調していると考えられる。順圧モデルを用いた 診断により、この非線型効果はPNA以外の他のテレコネクションバターンでも無視でき ない寄与を果たしていることが示唆された。
外部強制を固定した非線型自律系の長期積分で生じる振動解の一部はPNAによく似て おり、そのカ学は線型のモードで解釈できる。このモードがPNAの原型と考えられ、基 本場やバラヌータを変化させた多くの追加実験によって、そこから現実のPNAへ至る遍 歴が同定できた。
学位論文審査の要旨 主査
副査 副査 副査 副査
准教授 教授 教授 教授 准教授
渡部 山崎 長谷部 久保川 向川
雅浩 孝治 文雄 厚
均(京都大学防災研究所)
学位論文題名
Dynamics of the Pacific/North American Teleconnection Pattern
(PNAテレコネクションパターンのカ学)
北 半 球 冬 季 の 主 要 な 低 周 波 大 気 変 動 と し て 知 ら れ て い る 太 平 洋 ― 北 米(Pacif ic/Nor th American,PNA)テ レ コ ネ ク シ ョ ン パ タ ー ン は 、 気 候 の 年 々 変 動 で あ る エ ル ニ ー ニ ヨ ・ ラ ニ ー ニ ヤ の サ イ ク ル に 伴 っ て 出 現 し や す い こ と が 知 ら れ て お り 、 そ の 生 態 系 な ど へ の イ ン バ ク ト は 広 く 研 究 さ れ て い る 。 一 方 で 、PNAバ タ ー ン は 季 節 内 の 時 間 ス ケ ー ル に も 卓 越 し て お り 、 そ の 典 型 的 な 持 続 時 間 は1週 間 か ら10日 程 度 と 短 い 。 し た が っ て 、PNAパ タ ー ン の カ 学 を 理 解 す る た め に は 、 日 々 の デ ー タ を 詳 細 に 解 析 し て ラ イ フ サ イ ク ル を 明 ら か に す る こ と か ら 始 め る 必 要 が あ る が 、 そ う し た 研 究 は 以 外 に も ほ と ん ど 行 わ れ て い な い 。 そ こ で 申 請 者 は 、 こ の 時 間 ス ケ ー ル に お け るPNAの 発 現 ・ 成 長 ・ 持 続 ・ 遷 移 の 特 徴 、 な ら び に そ れ を 支 配 し て い る カ 学 を 、 長 期 間 の 目 平 均ERA‑40 再 解析 デー タお よび カ学 大気 モデ ル を用 いて 調べ た。
デ ー タ を 用 い た 合 成 図 解 析 か ら 、PNAの 成 長 ・ 減 衰 の 明 瞭 な ラ イ フ サ イ ク ル が 同 定 で き た 。 対 流 圏 上 層 に お け る 渦 度 収 支 解 析 か ら 、 ア リ ュ ー シ ャ ン 低 気 圧 の 強 化 に 相 当 す る 正 位 相 のPNAは 、 東 西 非 一 様 な 気 候 学 的 平 均 場 と の 順 圧 エ ネ ル ギ ー 変 換 な ど の 線 型 過 程 に よ り 成 長 す る 一 方 、 負 位 相 のPNAの 成 長 に は そ れ に 加 え て 低 周 波 偏 差 の 非 線 型 過 程 も 重 要 で あ る こ と が 分 か っ た 。 ま た 、PNAが 最 大 振 幅 を 示 す 約9日 前 に ア ジ ア ジ エ ッ ト に 沿 っ た 顕 著 な 口 ス ピ ー 波 列 が 見 ら れ 、 や が て そ れ は ジ ェ ッ ト の 出 口 付 近 でPN Aに 成 長 し た 。 こ の 波 列 は 主 に 熱 帯 の マ ッ デ ン ・ ジ ュ リ ア ン 振 動OVIJO)に 伴 う 発 散 風 が 励 起 し て い た 。PNAの 極 性 で 場 合 分 け し たMJOの 確 率 密 度 関 数(PDF)は 、PNAの 極 性 とMJ 0の 位 相 の 間 に 明 瞭 な 対 応 関 係 が あ る こ と を 示 し て お り 、MJOに 付 随 す る 対 流 活 発 ( 不 活 発) 域が べン ガル 湾か ら西 太平 洋 にあ る時 に負 (正 )のPNAの 出現 頻度 が最 も高くなる。
MJOを 基 準 に し た 合 成 図 解 析 の 結 果 、 こ のMJOに よ る 励 起 は 全PNAイ ベ ン ト の 約30%を 説
明することが分かった。MJOによる励起、中高緯度での順圧成長、ならびに遷移の特 徴は、気候学的平均場のまわりで線型化された線型傾圧モデルでもある程度再現する ことができ、上記ヌカニズムが妥当であることが示された。これらの結果は、PNA自 体は中緯度固有の変動であると考えられるものの、それが卓越するためには熱帯から の特定の強制も重要であることを示唆している。
渦度収支解析で示されたPNAに伴う非線型過程の役割をさらに調べるために、申請 者は続いて非線 ‑J頓圧モデルを用いた一連の数値実験を行った。その結果、PNA自身 に付随する流れの非線型陸は、正のPNAを弱める一方で負のPNAを強めることが分かっ た。この非線型性は絶対渦度保存則や基本場の変化として説明することができ、負の PNAが生じている時の場がより不安定であることを示している。また、非線型効果は 観測されるPNAのPDFを定性的に説明する。具体的には、非線型性によってエルニーニ ヨ時には強い正のPNAイベントは減少し、ラニーニヤ時には強い負のPNAイベントは増 加する。このことから、工ルニーニョ・南方振動(ENSO)のような時間スケールの長 い現象は、流れの非線型性を通してPNAの出現確率を変調していると考えられる。順 圧モデルを用いた診断により、この非線型効果はPNA以外の他のテレコネクションバ タ ー ン で も 無 視 で き な い 寄 与 を 果 た し て い る こ と が 示 唆 さ れ た 。 申請者は非常に丁寧にデータを解析しており、かつ、論文および発表における論 旨展開も明快であった。このことは、申請者の研究者としての資質を示すものである。
本研究の成果は、PNAパターンをどう理解するかという問題に有益な示唆を与えるに とどまらず、PNAバターンを予測するために重要な過程を明らかにしたという点で大 気循環変動の研究に大きく貢献するものである。
審査委員一同は,これらの成果を高く評価し,また研究者として誠実かつ熱心であ り,大学院博士課程における研鑽や修得単位などもあわせ,申請者が博士(地球環境 科 学 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。