博 士 ( 環 境 科 学 ) 藤 井 正 典 学 位 論 文 題 名
Relationship between microbialCOmmunityStruCtureand enVironmentalfaCtorinhighaltitudeandhighlatituderegionS
( 高 緯 度 お よ び 高 標 高 域 に お け る 微 生 物 群 集 構 造 と 環 境 要 因 と の 関係 )
学位論文内容の要旨
自然界における微生物の分布や群集構造を制御する要因を解明することは、微生物 生態学における重要な課題のーっである。環境中における微生物の移住率は、動物や陸 上植物のようを大型の生物と比べて比較的高いと推定されている。実際に、地形、気候 帯、さらには大陸を越えて、同種およぴ同系統の微生物がしばしば地球上のいたる所か ら検出されている。このことは、微生物の分布を決定するうえでは距離や地形による分 散制限の効果より、移住した環境への定着陸が重要であることを示唆している。っまり、
環境の違いが微生物の分布や多様陸、およぴ分類群構成を決定する要因として重要であ ると考えられる。しかし、環境と微生物群集との関係は複雑多様であり、解析にf 霆多数 の地域での調査を必要とする。高緯度およぴ高標高域といった調査の困難な環境にっい ては、その知見は限られており、研究が十分に進んでいるとはいえない。本研究では、
高緯度(南極ラングホブデ;2 章)および高標高(東日本の山岳湖沼;3 章)域におけ る 微 生 物の 分 布や 多 様 性、 ヨ 轌黻に 影響を及 ぼす環境 要因につ いて調査 した。
2006
年と
2007年、南極ラングホブデの雪上において赤雪現象が観察された。赤雪と は、氷雪藻類と総称される単細胞藻類のフシレームによって雪が赤色を呈する現象のこと である。氷雪藻類は生命活動の乏しい雪や氷河のような極限環境における一次生産者と して重要な存在であると考えられている。採集した赤雪サンプルから直接DNA を抽出 し、ポリ メラーゼ 連鎖反応
(PCR)によって スモール サブュニツ卜リボソーム
RNA遺 伝子を増 幅した。 得られた
PCR増幅産物 を用いて 変性剤濃度 勾配ゲル 電気泳動 法 くPCR‑DGGE 法)およぴクローニング法による群集構造解析を行った。真核生物を対 象とした群集構造解析の結果、2006 年と
2007年に採集した赤雪憾どちらも複数種の緑 藻と真菌類で構成されており、そのを黼造は年によって異なっていた。一方で、真正 細菌を対象とした群集構造解析では、いずれの年においても好気性従属栄養細菌である
Hymenobacteraに近縁なバクテリアが優占しており、それぞれの年の群集構造に大き な違いはなかった。また、2006 年に採集した氷雪藻類のブルームが発生していない白 い雪においては、真正細菌を対象としたPCR による増幅産物は得られなかった。これ
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らの結果は、南極の雪上におけるバクテリアの分布を制御する要因として、氷雪藻類ブ ルームの発生が重要であることを示唆している。Hymenobacter に近縁なバクテリア は、氷雪藻類の一次生産に依存することで南極の雪上という炭素源の制限された厳しい 環境に適応しているのかもしれなじヽ。窒素同位体比を測定した結果、
2006年と2007 年 に採集した赤雪は、どちらも付近の環境と比較して有意に重い窒素同位体比を示した。
栄養段階の推定に基づいて、これら赤雪の窒素源は海鳥の排泄物から供給されているこ とが示唆された。っまり、南極ラングホブデの雪上において、氷雪藻類およぴバクテリ アの分布は、栄養塩類の供給源である海鳥の行動によって制御されていることが示唆さ れた。
東日本の山岳地域に位置する41 湖沼にっいて、環境要因と湖沼浮遊陸細菌群集構造 との関係を調査した。群集構造は16S rRNA 遺伝子を対象としたP く凧・DGGE によって 解析した。正準対応分析(C (強)の結果、群集構造と環境要因との関係は湖沼栄養状 態の違いによって異なる傾向を示した。全湖沼を対象としたCCA では、群集構造のpH に対する有意な影響を示していた。一方で、貧栄養湖沼を対象としたC (強では、溶存 有機炭素の0c )による影響が示された。山岳湖沼におけるDOC は主に陸或を起源とす る有機物質で構成されており、炭素源の乏しい貧栄養環境に生息するバクテリアにおい て陸性有機物の供給が重要性であることを示唆した。一般化線形回帰によって、山岳湖 沼におけるバクテリアの分類群数を最もよく説明する環境要因のモデルを選択した結果、
DOC
に対する負の関係が示された。この結果は、山岳湖沼に生息する分類群の多くが、
陸或から供給される
DOCを利用することが困難であることを意味しているのかもしれ な い。 同 様に、調査 湖沼から 最も高頻 度で検出 されたA 蜘 粥めぬ属 の在、不在 を 最もよく説明する環境要因のモデルを選択した結果、
DOCに対する正の関係と全リン
(TIP )に対する負の関係が示された。また、TP による影響はDOC の影響よりも高いこと が示された。月め田w 出
Dぬ甜
8属は、多くのバクテリアにとって利用困難である腐食物 質の利用性を持っが、この属の分布には
DOC(腐食物質)の供給よりむしろ貧栄養環 境であることが重要となることが示された。これらの結果は、湖沼内への有機物供給経 路の違い(陸曦からの供給、もしくは光合成生物の一次生産による湖沼内生産)が、山 岳湖沼バクテリア群集の分類群構成や多様性、さらに優占種であるR 晒隠迎めぬ甜B 嘱 の存荏に強い影響を及ぼすことを示唆した。
南極雪上や山岳湖沼のように、光合成生物による一次生産の限られた貧栄養環境に おいては、炭素源として利用可能な基質の供給に関わる要因が微生物群集に対して強い 影響を示すことが明らかとなった。また、個々の分類群における基質利用性の違いが、
自然環境中における微生物の分布や群集構造を決定する要因として重要な意味を持つこ とが示唆された。本論文の結果は、多様な自然環境における微生物分布を説明する上で、
重要な知見を提供するものと期待される。
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学 位 論 文 審 査 の要 旨 主査 副査
教授 教授 准教授 助教
福 井 森 川 笠 原 小 島
学 位 論 文 題 名
学 正章 康裕 久弥
Relationship between microbial community structure and environmental factor in highaltitudeandhighlatituderegionS (高緯度および高標高域における微生物群集構造と環境要因との関係)
自 然 界 に お け る 微 生 物 の 分 布 や 群 集 構 造 を 規 定 す る 要 因 を 解 明す る こ と は 、微 生 物 生 態 学 に お け る 重 要 な 課 題 の ー つ で あ る 。 微 生 物 の 分 散 速 度 は 、 動 物 や 陸 上植 物 の よ う な大 型 の 生 物 と 比 較 し て 高 い と 推 定 さ れ て い る 。 実 際 に 、 地 形 や 大 陸 を 越 え て 、同 種 お よ び 同系 統 の 微 生 物 が し ば し ぱ地 球 上 の い たる 所 か ら 検 出さ れ て レ ゝ る。 こ れ ら の 事 実は 、 微 生 物 の分 布 を 規 定 す る う え で 、 距 離 や 地 形 に よ る 分 散 制 限 の 効 果 よ り も 移 住 し た 環 境へ の 定 着 性 が重 要 で あ る こ と を 示 唆 し て い る 。 し か し 、 微 生 物 と 環 境 と の 関 係 は 複 雑 多 様 であ り 、 解 析 には 多 数 の 地 域 で の 調 査 を 必 要 と す る 。 高 緯 度 お よ び 高 標 高 域 と い っ た 調 査 の 困難 な 環 境 に つい て は 、 そ の 知 見 は 限 ら れ て お り 、 研 究 が 十 分 に 進ん で い る と は いえ な い 。 本 研究 で は 、 高 緯度 ( 第2 章 ) お よ び 高 標 高 ( 第3章 ) 域 に お い て 、微 生 物 の 分 布や 多 様 性 、 群 集構 造 に 影 響 を及 ぼ す 環 境 要 因に つ い て 調 査し た 。
第2章 で は 、 南 極 ラ ン グ ホ プ デ の 雪 原 に お い て 観 察 さ れ た 氷 雪 藻 類 プ 渺 ー ム 儀 き 動 の 分 布 を 規 定 す る 要 因 に つ い て 解 析 を 行 っ た 。2006年 と2007年 に 採 取 し た 赤 雪 サ ン プ ル か ら 直 接 DNAを 抽 出 し 、18Sお よ び16S rRNA遺 伝 子 を 対 象 と し て 赤 雪 を 構 成 す る 微 生 物 群 集 構 造 を 解 析 レ た 。 そ の 結 果 、 赤 雪 は 複 数 種 の 藻 類 と 真 菌 類 で 構 成 さ れ て お り 、そ の 分 類 群 構成 は 年 に よ っ て 異 な っ て い た 。 一 方 で 、 赤 雪 を 構 成 す る バ ク テ リ ア の 分 類 群 構成 は い ず れ の年 に お い て も 大 き な 違 いは な く 、 氷 雪藻 類 と 同 様 に雪 上 の 強 し ゝUV・ 照 射 に耐 性 を 有 す ると 予 想 さ れ る ロ . 珊2飴D ぬ甜B漏 に 近 縁な パ ク テ リ アが 優占し ていた 。ま た、パ クテル アから 藻類へ の窒 素供 給 を 予 想 し て 、 窒 素 固 定 遺 伝 子 価 工 励 を 対 象 と し た 解 析 を 行 っ た 結 果 、 目 的 の 遺 伝 子 は 検 出 さ れ な か っ た 。 さ ら に 、 赤 雪 の 対 照 区 と し て 付 近 の 白 い 雪 に 対 し て同 様 の 解 析 を行 っ た 結 果 、 氷 雪 藻 類 だ け で な く パ ク テ リ ア に 由 来 す る 遺 伝 子 も 検 出 さ れ な かっ た 。 以 上 の結 果 は 、 南 極 ラ ン グ ホ ブ デ の 雪 原 に お い て 、 氷 雪 藻 類 と バ ク テ リ ア は ど ち ら も雪 上 環 境 に 適応 し て い る が 、 そ れ ら の 分 布 に は そ わ ぞ ゎ の 異 な る 要 因 も 影 響 し て い る こ と を示 唆 し て い る。 調 査 し た 赤 雪 に お い て 窒 素 成 分 は す で に 枯 渇 し て い た た め 、 安 定 同 位 体 比 の測 定 に よ る 窒素 供 給 経 路 の 推 定 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 赤 雪 の 窒 素 源 は 調 査 地 近 辺 に 生 息 す る海 烏 の 排 泄 物か ら 供 給 さ れ て い る こ と が 推 測 さ れ た 。 っ ま り 、 南 極 ラ ン グ ホ プ デ の 雪 原 に おい て 、 氷 雪 藻類 お よ び
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バ ク テ リ ア の 分 布 は 、 淘 烏 に よ っ て 規 定 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。 第3章 で は 、 東 日 本 の 山 岳 地 域に 位 置 す る41湖 沼 を 調 査し 、 環 境 と 湖沼 浮 遊 性 バ クテ リ ア 群 集 構 造 と の 関 係 に つ い て 解 析 を 行 っ た 。 採 取 し た 湖 沼 サ ン プ ル か ら 直 接DNAを 抽 出 し 、16rS rRNA遺 伝 子 を 対 象 と し て パ ク テ リ ア 群 集 構 造 を 解 析 し た。 正 準 対 応 分析 に よ っ て パク テ リ ア 群 集 構 造 と 環 境 要 因 と の 関 係 を 比 較 し た 結 果 、pHの 重 要 性 が 示 さ れ た 。 一 般 化 線 形 回 帰
(GLMs) を 行 い 、 パ ク テ リ ア の 分 類 群 数 と 環 境 要 因 と の関 係 を 解 析 した 結 果 、 溶 存有 機 炭 素
(DOC) に 対 す る 負 の 関 係 カ 萌 ミ さ れ た 。 山岳 湖 沼 に お けるDOCは 主に 陸 域 を 起 源と す る 有 機 物 儻 治 [ 物 質 ) で 構 成 さ れ て お り 、 山 岳 湖 沼 に 生息 す る 分 類 群の 多 く が 、 陸域 か ら 供 給 され る 腐 食 物 質 を 利 用 す る こ と が 困 難 で あ る こ と を 示唆 し た 。 同 様に 、 調 査 湖 沼か ら 最 も 高 い頻 度 で 検 出 さ れ た 員 め 田 弛 め ぬ 甜B漏 の 在 、 不 在 と 環 境 要 因 と の 関 係 を 解 析 し た 結 果 、DOCに 対 す る 正 の 関 係 と 、 湖沼 内 生 産 性 の 指標 で あ る 全 リンCIP)に 対 す る 負 の 関係 が 示 さ れ た。 ま た 、TPに よ る 影 響 はOCよ り も 強 い こ と カ ゞ 示 さ れ た 。j髱 囮 班 ぬ 蛾 ぬd甜 属 は 多 くの パ ク テ リ ア に と っ て 利 用 困 難 で あ る 腐 食 物 質 の 利 用 性 を 有す る が 、 こ の属 の 分 布 に はOC儀 治 二 物質 ) の 供 給 よ り む し ろ 生 産 性 の 低 い 貧 栄 養 環 境 で あ るこ と が 重 要 とな る こ と が 示唆 さ れ た 。 山岳 湖 沼 パ ク テ リ ア 群 集 構 造 を 規 定 す る 要 因 は 主 にpHだ っ た が、 個 々 の 分 類 群に 着 目 す る と、 湖 沼 内 へ の 有 機 物 供 給 経 路 の 違 い ( 陸 域 か ら の 供 給、 も し く は 光合 成 生 物 に よる 湖 沼 内 生 産)
が 重 要 で あ る こ と が 示 唆 さ れ た 。
本 研 究 の 結 果 は 、 多 様 な 自 然 環 境 に お け る微 生 物 と 環 境要 因 と の 関 係 につ い て 重 要 な知 見 を 提 供 す る も の と 期 待 さ れ る 。 ま た 、 第3章 で用 い た 微 生 物 群集 構 造 解 析 とG心 缸 を 組 み合 わ せ た 分 析 手 法 は 、 特 定 分 類 群 と 環 境 要 因 と の 関 係を 推 定 す る こと が 可 能 で あり 、 未 培 養 の分 類 群 の 生 態 を 明 ら か に す る こ と に よ っ て 新 た な 分 離 培 養 の 糸 口 と な る こ と が 期 待 さ れ る 。 審 査 委 員 一 同 は 、 こ れ ら の 成 果 を 高 く 評 価し 、 ま た 研 究者 と し て 誠 実 かつ 熱 心 で あ り、 大 学 院 博 士 課 程 に お け る 研 鑽 や 修 得 単 位 な ど も あ わ せ 、 申 請 者 が 博 士 儀 謗 蘇 蝉 ) の 学 位 を 受 け る の に 充 分 な 資 格 を 有 す る も の と 判 定 し た 。
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