弘前大学教育学部紀要 第7
0号 :
69‑82 (1993年7月)
Bull.Fac.Educ.HirosakiUniv.70:69‑82 (Jul.1993)69
津軽十二湖湖沼群の陸水生物学的研究
(ⅠⅠⅠ)一 日暮 の池 における湖沼環境 と
アナベナを中心 とした植物 プランク トンの季節変化 について‑
LimnologicalandBiologicalInvestigationsintheTsugaruJ血ikoLakeGroup(ⅠⅡ)
‑SeasonalChangesinPhytoplanktoninLakeHigurashinoike
,
withSpecialReferencetoAnabaena‑大 高 明 史 * ・相 馬 咲 子 *, ** ・斎 藤 捷 ‑ 辛
AkifumiOHTAKA,SakikoSOMA andSh6ichiSAITOAbstract
SeasonalchangesofphytoplanktonandwaterenvironmentswerestudiedinLake HigurashinoikeintheTsugaru‑Jhikolakegroupfrom 1990to1992.TheTsugaru‑Jhiko lakegroupissituatedinthebeechforestatthewesternfootoftheShirakamimountains inAomoriprefecture,northernJapan,andtheLakeHigurashinoikeisasmall(ll,500m2)
andeutrophiclakehavingamaximum depthofabout15m.Ineveryyear,Anabaena increasedinsummertoautumn.Ontheotherhand,diatoms(Asterionellaformosaand Synedraspp.dominated),greenandgoldenalgaeoccurredinotherseasons.TheAnabaena wascomposedofthreespeciesinthislake,andthespeciescompositionanddensitieswere differentbyyear.Themostprevalentbloom wasfoundinOctober1990byAnabaena smithii,thenthewatersurfacewascoveredwithAnabaenamatandSecchidisktranspar‑ encydecreasedto0.5m.ThemorphologyofthreeAnabaenaspeciesweredescribedand f
igured,andsomefactorsbringingAnabaenabloom werediscussed.
1.は じめに
白神 山系の津軽十二湖湖沼群 は, 自然状態が比較的良 く保存 されたブナ林 内に位置 し,狭 い 範囲 に多 くの湖沼 を散在 させ るため, 自然条件下で湖沼生物 の生態 を比較す るのにつ ごうの よ いフィール ドである
.弘前大学教育学部理科教育研究室で は
1986年か ら本湖沼群 の継続調査 を 行 っているが, この過程で
1990年 に日暮 の池でラン藻 のアナベナによるマ ッ ト状 の " 水 の華' ' が観察 された。近年報告 され るラン藻類 による " 水 の華" は,多量 の栄養塩 の流入 な どの人為 的影響が きっか けになって起 こる場合が多 い( 坂本
,1976)。しか し, 日暮 の池で は
1950年代 に
(Kawamura,1956),また同 じ津軽十二湖湖沼群 の糸畑 の池で はさらに古 く
1934にアナベナの ブルームが記録 されている( 吉村
,1935,1976)。 これ らの ことか ら,本湖沼群 のい くつかの湖
*
弘前大学教育学部 自然科学科教室,
〒036弘前市文京町
1;Departmentof NaturalScience,
FacultyofEducation,HirosakiUniversity,Hirosaki036,Japan**現在 :筑波大学大学院環境科学研究科,
〒305つ くば市天王台
1‑1‑1;Presentaddress,The Master'SDegreeProgram inEnvironmentalScience,UniversityofTsukuba,Tsukuba305,
Japan70
大高 明史 ・相馬 咲子 ・粛藤 捷‑
沼 はアナベナが増殖 しやすいなん らかの機構 を備 えている と推測 され る。 そ こで, ここで は, 日暮の池 を対象 にした過去
3年間の調査結果か ら,アナベナをはじめ とした植物 プランク トン 群集 と環境要因の季節変化 について報告す る
。野外調査 と並行 して, 日暮 の池で出現 したアナ ベナ
2種
(Anabaenasmithiiと
A.s p. 1 ) について は,分離 し,培養実験下で増殖やヘテロシ ス ト, アキネ‑ トの形成 に関す る特性 を比較検討 中で あ り, この結果 の一部 について は賛藤
(1993)が報告 した。
日暮 の池 を含 む津軽十二湖湖沼群 の陸水生物学的研究史 は賓藤 ら(
1988)に詳 しい。 日暮 の池 の近年の報告 として は,斎藤 ら(
1988)による水温お よび溶存酸素濃度, クロロフィル濃度 の報 告や,賓藤 ・大高
(1993)による透明度 の長期変動 の記録があるが,植物 プランク トンについて は過去30 年以上 まとまった報告がな く, さらに窒素 ・リンな どの栄養塩類 の動態 については未 研究である
。2.
調査地 と方法
調査 の対象 とした 日暮 の池 は,青森県南西部の津軽十二湖湖沼群 に属す る,湖面標高1
55m,面積1 1
,500m2 ,容積46,
450rrf ( 吉村 ・他,1
934a,b)の小湖沼である (Fig.1)。湖盆 は東西 に 長 い楕円形で,八光 の池か らの細 い流入河川 を 1本持つが,流出河川 はない。本湖沼 は水位 の 変動が大 き く,最大水深 は調査期間中1
2.8mか ら1
5.5mの間で変動 した。冬期間 は全面結氷す る。湖 内には水草 は全 く分布 してお らず,動物 プランク トンとして は
Polyarth71a Vulgarisや
KeratelklCOChlearisをはじめ としたワム シ類が通年優 占す る ( 未発表) 。魚類 として はワカサ ギお よびギ ンブナの生息が確認 されている
。湖畔 に岩崎村教育委員会所有 の無人 の宿泊施設が 1軒 あ り,お もに夏の時期 に利用 されている
。しか し,栄養塩 の負荷 な どの湖沼 に及ぼす影響 については不明である。
LAKE HJGURASHINOIKE
Fig.1. A,LocationoftheTsugaru‑Jdnikolakegroupanddistributionoflakes:1,LakeKetobanoike
,
L2,
L,Ochikuchinoike;3.L.Nakanoike:4
1
LIKoikuchinoike;5,
L.Oike;6.L・Futatsumenoike;7.L.Hakkeinoike;8,
L.Higurashinoike;9.L.Kanayamanoike;1
0,
L.ltobatakenoike;ll ,
L.Gob6ike;12,
L.Nigoriike;13,
L Daiike.B
,MapoftheLake Higurashinoikewithshowingthesamplingstation(soJidcircle).AandBaremodifiedfromSaitoetal.(1988) andYoshimuraetal.(1934a),respectively.津軽十二湖湖沼群 の陸水生物学的研究
(lIH 71この 日暮 の池の最大水深地点 において
,1990年
4月か ら
1992年
12月 まで
1‑ 2ケ月に
1回の 頻度で,午後 の 日中に植物 プランク トンの採集 を継続 した。毎回,
0,2,5,10,15m層 をバ ン ドン型採水器 を用いてそれぞれ
30L(Omは
50L)採水 し,
NXXX25メッシュのプランク トンネ ッ トで ろ過 したサ ンプル を
2%グルタールアルデ ヒ ドまたは
5%ホルマ リンで固定 した。持 ち 帰 ったサ ンプル は トーマの血球計算板 を用 いて同定 ・定量 した。植物 プランク トンのなかで優 占 したアナベナ類 については,同定のために顕微鏡描画装置 を用 いてスケ ッチを行 い形態観察 をす るとともに,窒素固定細胞ヘテロシス トと休眠細胞 アキネ‑ トの密度 をサ ンプル ごとに算 出 した。
植物 プランク トンの採集時 に,同 じ地点で湖沼環境 の調査 を行 った。水温お よび溶存酸素濃 度 は溶存酸素計
YSI58を使用 し,表層か ら湖底 まで
1m間隔で測定 した。同時 に
,pH, クロロ フィル α 濃度,栄養塩類濃度 の測定 のために,植物 プランク トンを採集 したの と同 じ深度 の水 を採水 した
。pHの測定 は
pHメータ‑
(ToÅ HMIOK)使用 した。 クロロフィル
α濃度 は, 採水後直 ちに原水
500mLを直径
47m mのワッ トマ ン
GF/Cフィルターで ろ過 し,このフィルター を凍結 して持 ち帰 り
,90%アセ トンを加 えて抽 出 したのち,
Lorenzen(1967)に従 って定量 し た。全窒素
(T‑N)の定量 はアルカ リ性ベルオキシ二硫酸 カ リウム加水分解後,紫外線光度法
(SolozanoandSharp,1980;Otsuki,1981), アンモニウム態窒素
(NH。‑N)はイン ドフェノ ール青吸光光度法 ( 気象庁
,1970),亜硝酸態窒素
(NO2‑N)はナフチルエチ レンジア ミン法, 硝酸態窒素
(NO 31N)は鋼 ・カ ドミウム還元後同法
(Woodeta1.
,1967)で定量 した。 また,
リン酸態 リン
(Pod‑P)はモ リブデン青法
(MurphyandRiley,1962)によった。全 リン
(T‑P)
はペルオキソ二硫酸 カ リウム分解
(MenzelandCorwin,1965)後,モ リブデン青法 によ り定量 した。
3.
結果
3.1
.湖沼環境 の季節変化
調査期間中の水温 と溶存酸素濃度 の変動 をそれぞれ
Fig.2と
Fig.3に示 した。本湖沼 は毎年
12月中旬か ら
3月中旬 まで結氷 し,春 と秋 に湖水 の循環が見 られたが
,1990年秋 と
1992年秋 を 除いては循環が底層 にまで及 んでいたか どうか は明 らかでない。
5月か ら
10月 までの夏期停滞 期 には明瞭 な水温躍層が形成 された
。1990年の夏の水温 は
1991年や
1992年の同時期 に比べて全 層 にわた り高 く,表層で期間中の最高
(26.OoC;7月
31日) を記録 したほか,
8月か ら
11月 ま で は底層 も
6oC以上 と高かった。夏期停滞期 には底層で貧酸素層が発達 し,底層の溶存酸素濃 虎 は
O.5mg
・L1 以下 となった
(Fig.2)。 この貧酸素層 は停滞期が続 くにつれて次第 に厚 くな り, 秋 の循環期 に消失 した。貧酸素層が最 も発達 した時期 に溶存酸素が
1mg
・L1以下 に減少す る深 度 は
1990年
,1991年で は約
8m,1992年で は約
6mであった。表層の
pHは期間中
6.7か ら
9.0の間 で変動 し,夏期 に高 まる傾向が見 られた。一方,底層
(10m)の
pHは
6.6か ら
7.4の範囲で,明 瞭 な季節変動 は認 め られなか った。 日暮 の池 の透明度 について は,賓藤 ・大高
(1993)が過去 の全記録 をまとめてい るが,期間中の変動 を
Fig.4に示す。期間中の変異幅 は
0.5m(1990年
10月)か ら
4.9m (1992年
2月)で,各年 とも冬 に高 く夏か ら秋 に低 い値が観測 されてい る。 この 中で
1990年
10月に見 られた最低値
(0.5m)はアナベナ
(A.smithii)のブルームによるもので,
この時,湖面 はアナベナのマ ッ トでおおわれてブルーグ リー ンに変色 した。
夏期停滞期 の水温 の鉛直 分布 か ら,採水 を行 った層 (
0,2,5,10,15m)を表水 層 (
0,2,
72
5
LLLJ )
LJtdo白大高 明史 ・相馬 咲子 ・膏藤 捷‑
Fig.2 tsothermalvariations(oC)inLakeHigurashinoikeduring1990・19921Solidbarindicatestheice・coveredperiod.
1990 1991 1992
5
(∈二三do白
Fig.3. Depth‑timediagram ofisoplethsofdissolvedoxygenconcentration (mgL
l )
inLakeHigurashinoike during 1990‑1992.8L̲
l1
3210 (N)
^3N3tlYJSNYtJt1990 1991 1992 Fig.4 SeasonalchangeofSecchidisktransparency
(m)in Lake Higurashinoike during 19901
1992.AfterSaitoandOhtaka (1993).
5m)
と深水層
(10,15m)に分 ける ことが で きる。植物 プランク トンとの関係 を考察す るために, 以下 の クロロフィル
α濃 度 や栄養塩濃度 につ い て は,植物 プランク トンの活性が高い と推測 され る
0,2,5m層 の平均値 を表水層 の値 として季 節変化 を示す。期間中,表水層 の クロロフィル α 濃度 は大 き く変動 したが,極小値 は毎年冬 に観測
された
(Fig.5)。 また,極大期 は珪藻 またはラン
藻が高密度 になった時 と対応 していた。表水層中
の全窒素
(Fig.6)および全 リン (Fig.8)の変動のパ ター ンは,1990年 の夏期 を除いて はクロ
ロフィル α濃度の変動パ ター ンとおおむね同調 していた。表水層中の溶存無機態窒素
(DIN)の濃度 は,クロロフ ィルα とは逆 に,冬 に高 く,春か ら秋 に は低 い状態が続 いていた
(Fig.6)0
津軽十二湖湖沼群 の陸水生物学的研究 ( l l I )
0021L‑1・6rl
73
4 8 8 10 12 2 4 88 10 12 2 1 8 8 10 1990 1991 1992
F i gl5・ Seas onalchangeofc hl or ophyl lacon c ent r at i oni nt h eupp erJ ay er s ( 0‑ 5m)ofL ak eHi gur as hi noi k edur i ng 1 990・ 1 992.
0.8
0.6
1 0.4
01
≡
0.2
0 48 8
1
0t22 4881 0 1 2 2
488 I O
19 9 0
1991 1992Fi g.6. Seas onalchangesi nt h ec on c en t r at i onsoft o t alni t r ogen ( T‑ N)an ddi s s ol ve di nor gani cni t r ogen( DI N)i nt h e upp erl ayer s( 0‑ 5m)ofLak eHi gur as hi noi k edur i ng1 990・ 1 992.
0.20 0.16
‑.J Ol1 12
0I
≡ 0・08 0.04
0
ANO2‑ N +
4
8 8 1 0 t 2 2 4 6 8 1 0 1 2 2 4 8 8 1 0 1 990 1 991 1 992
Fi g. 7. Seas onal c hangesi nt hecon c e nt r a t i onso fammonj umni t r ogen ( NH. IN), ni t r i t eni t r oge n ( NO
2‑N)andni t r at e ni t r ogen ( NO, ‑N)i nt h eupp erl ayer s( 01 5m)o fLak eHi gur as hi noi k edur i ng1 990・ 1 992.
0 . 0 4 J t O ≡ ) 0 . 0 2
●
i \ / ・ 1 ・ V・ J . \ ・ 1 1 ‑ ・ ・ ・ ・ , ・ ‑ ・
● T ‑ P
●
u。D\ 。一。→。 言 。̲ 。̲ . , ㌔ /q t : 3 ‑ 4 . l I .刀
4 8 8 T D t 2 2 4 8 8 1 0 1 2 2 4 8 8 7 0 1 990 1 991 1 992
Fi g.8. Seas onalchangesi nt h econ c ent r at i onso ft ot alphos phor us( T‑ P)an di no r gani cphos phor us( PO。 ‑P)i nt h e
upperl ayer s( 0‑ 5m)o fLak eHi gur as hi noi k edur i ng1 990・ 1 992.
74
大高 明史 ・相馬 咲子 ・斎藤 捷‑
無機態窒素 の中で はア ンモニア態窒素が年間 を通 して大 きな割合 を占めている
(Fig.7)。硝酸 態窒素 は秋 か ら冬 に増加が見 られたが,夏の期間中 はほ とん ど検 出 されず, また,亜硝酸態窒 素 は期 間中
10〟g・L1以上 にな ることはなか った。 また, リン酸態 リンの濃度 は
1991年
8月 と
1992年
2月に ピー クが見 られたが, ほか は
10JLg・L‑l 以下 と低 い状態であった
(Fig.8)。この う ち前者 の ピー クはアナベナ
(A.smithiiと
A.sp.1)によるクロロフィル aの極大期 に対応 し ていた。
3.2
.植物 プランク トンの構成 とラン藻
3種 の形態
期間中, ネ ッ トプランク トンとして, ラン藻
4種
(Anabaena smithii,A.sp.1,A.sp.2, 0scillato
riasp. ) ,珪藻
7taxa(AsterionellajTormosa,Fylagilariacrotonensis
,F.spp
.,S ′nedyla spp.,
Tabellaria sp,
Melosiyla Sp,
Aulacosiyla gYlanulata),緑藻
4種
(Pandorina morum,
Eudorinaelegans,VoluoxauyleuS
,Mougeotiasp.),黄金藻
2種
(SynuylaSp.,Dinob7yOnSp.), 渦鞭毛藻
2種
(Peridinium spリ
Ceylatium sp.)の,計
19taxaが観察 された。
この うち, ラン藻のアナベナ 3種 について形態観察 を行 った結果 を以下 に示す とともに,計 測値 を
Tablelにまとめた。
a h a
ATnVA U
5aha
F i g.9. Thr e e
Anabaenas p ei c esf r om Lak eHi gur as hi noi k e.ト3
,Anabaenasmithii(19May1 992) ;4‑ 7 , A.s p.2( 4‑ 5,20
Jun e1 992;6‑ 7,23May1 992) ;8‑ 1 0 , A.s p.1( 1 9S ep.1 992) .a,aki nat e;h,he t er o cys t .
津軽十二湖湖沼群 の陸水生物学的研究
(ⅠⅠⅠ)Table1.MeasurementsofceHdimention(JLm)inthree
Anabaena
speciesfrom LakeHigurashinoike.75
Vegetativecell Heterocyst Akinate diameter length diameter 1ength diameter length A.smithii 8‑ll(113) 4‑12(‑14) 8‑12 8‑12 14119 15122 A.sp.1 4‑6.4 4‑10 5.6‑8 7‑9 9‑10.4 14‑19 A.sp.2 8‑11 4‑12 8‑12 8‑12 14‑19 15‑22
Anabaenasmithii(Komarek)Watanabe (Fig.9,113)
トリコーム はまっす ぐで,厚 さ約
8JLmの無色透明の粘常 におおわれてお り,単独で浮遊生活 をす る。 トリコームの先端部 の細胞が特 に細長 くなることはない。栄養細胞 はガス胞 を持 ち, 球形 ない し楕円形, または棒形で,直径
8‑11仁13)〟m,長 さ
4‑12(‑14)〟m。ヘテロシス トは ほぼ球形,両端 は多少突出 してお り,直径,長 さ ともに
8‑12/Jm。アキネ‑ トはヘテロシス ト か ら
1‑10数個離れた位置 に形成 され る
。その形 は球形 ない し楕円形で,無色,平滑の厚膜 に おおわれている.アキネ‑ トの直径 は
14‑19JLm,長 さは
15‑22JLmで,長 さ と直径 の比 は
1‑1.2である
。日暮 の地産 の本種 は,上記の特徴か ら国立科学博物館渡辺真之氏 によって同定 された もので ある
。同定者 の渡辺 による北海道産 の本種 の計測値 は次 の とお りである :栄養細胞 の直径
6,4‑ 12.OJLm,長 さ
4.0‑10.OJLm ;ヘテロシス トの直径
8115JLm,長 さ
7.0‑14.9JLm ;アキネ‑ トの直 径
13.8‑23.2JJm,長 さ
15.2‑24.7/Jm (Watanabe,1992)。日暮 の地産 の本種 は, いずれの細胞 もこれ に近似 している。また,アキネ‑ トの形状が ほぼ球形で,その直径 と長 さの比が
1.0‑1.1であるとい う特徴
(Watanabe,1992)も日暮 の地産 の標本 と一致す る
o A.smithiiに似 た種類 に
A.macrospwaKlebahnと
A,planktonicaBrunnthalerがある
。しか し,
A.smithiiと
A.macrospoyla
はアキネ‑ トの形態 と,栄養細胞 に対 す るアキネ‑ トの直径 の比が
A.macrosporaで
2.4,
A.smithiiで
1.8‑2.0である点が異 なる
(Watanabe,1992)。 日暮 の地産 の この比 は
1.7で,
A.smithiiの範囲 に入 るO また,
A.planktonicaは,栄養細胞が
A.smithiiとほぼ同 じ形で あるものの, アキネ‑ トの直径 と長 さの比が
1.5‑2.2である点が異 なる
(Watanabe,1992)0Anabaenasp.1 (Fig.9,8‑10)
トリコーム は らせ ん状,単独 で浮遊 生活 をす る。 らせ んの巻 きは規則 正 し く,幅 は
65‑90〟m
。厚 さ約
8/Jmの無色透明の粘鞠 におおわれ る。栄養細胞 はガス胞 を持 ち,球形 ない し楕円 形 で,直径
8‑llJLm,長 さ
4112JLm。ヘテロシス トはほぼ球形,両端 は多少突出 してお り,直 径,長 さ ともに
8‑12/Jm。アキネ‑ トは球形 ない し楕円形 で,ヘテロシス トか ら
1‑10数個離 れた位置 に形成 され る.アキネ‑ トは無色平滑の厚膜 におおわれ,直径
14‑19JLm,長 さ
15‑22JLmで,長 さと直径 の比 は
1‑
1.2である。
国立科学博物館 の渡辺氏 によると,本種 は
A.mucosaKom.‑Legn.etCronb.と
A.Spiroides f.uc71ainica(Schkorb.)Eleuk. に似 ているとい う ( 渡辺,私信)。 これ らを比べ る と, まず,栄
養細胞,ヘテロシス ト,アキネ‑ トの特徴や計測値 について は,本種 と
A.mucosaの間に違 いは
ないが,
A.mucosaは トリコームの らせんの巻 きが本種 よりもゆる く,規則的であった り不規
則 で あ っ た りす る こ とか ら, らせ ん の 巻 き幅 の 範 囲 が
80‑200JJmと広 い
(Komarkova‑76
大
高明史 ・相馬
咲子 ・斎藤捷‑
LegnerovaandEloranta,1992)。
一方,
A.spi710idesf .
uc71ainicaについて も,各種細胞 の特 徴や大 きさに本種 と違 いはない。 らせんの巻 きは規則的で巻 の幅 は
32.3‑58.1‑(80‑99)〟mで あ り,本種 の値
(65‑90JJm)を含 む。 しか し,本種 は観察数が少な く,各形質 の変異幅が不明 であるため, この値 のみで
A.spi710idesf .
uc71ainicaと同定す ることはで きない と判断 し, ここ で は種小名不称種 とした。
Anabaenasp.2 (Fig.9,417)
トリコーム はまっす ぐ。厚 さ約
6JJmの無色透明 の粘鞠 におおわれ,単独 で浮遊生活 をす る
。トリコームの先端部 の細胞が特 に細長 くなることはない。栄養細胞 はガス胞 を持 ち,長方形 あ るいは円筒形。栄養細胞 の直径 は
4‑6.4JJm,長 さは
4‑10JJmで,直径が長 さよ りも大 きくなる ことはない。ヘテロシス トは球形 ない し楕円形で,直径
5.6‑8JJm,長 さ
7‑9JJm。アキネ‑ トは 無色平滑 の厚膜 におおわれ, 円筒形で両端 は丸 くなる
。ヘテロシス トの片側 または両側 に隣接
して生 じる
。3.3.
植物 プランク トンの季節変化
表水層中のネ ッ トプランク トンの密度 の季節変化 を, アナベ ナは種 ごと,他 の藻類 はグルー プ ごとに
Fig.10に示 した。期間中
102・mL1以上 の密度が見 られたグループは,
1992年
11月の 緑藻
(Maugeotiasp.が優 占)を除いて, ラン藻 と珪藻 によって占め られてお り,本湖 の植物 プ ランク トンの中で はこの
2つが卓越 しているといえる
。この うち,珪藻 で は
Asten'onella for‑ mosaと
Syned71aSpp.が通年優 占していた。ラン藻 と珪藻 よりも密度 は低 い ものの,緑藻
(1992年
11月 を除いて
Eudorinaelegansが優 占)はお もに春 に,黄金藻
(Dinob7yOnSp.が優 占)は春
3 4 5 6 7 8 9 1 t 日 11 21 2 3 4 5 6 7 8 91 t H 11 21 2 3 4 5 6 7 8 9 1 01 11 2
199t ) 1991 1992
Fig・10 Seasonalchanges in the density of phytoplankton in the upper layers (015m)of Lake Higurashinoike.Solidbarindicatesice‑coveredperiod.
津軽十二湖湖沼群の陸水生物学的研究 ( M)
77と冬 に増加が見 られた。 グループ間で増殖の時期 を比較す ると, ラン藻のアナベナ類 とその他 の藻類 の間 には詰抗的な関係が見 られた。つ まり, アナベナの増加す る時期 には他の藻類 は減 少 またはほ とん ど消失 し,アナベナの減少 に伴 って他の藻類が増加 し始めるという変動が くり 返 されている。一方,アナベナは主 に夏か ら秋 に優 占したが,その種類構成や出現時期 は次の
ように年 によって大 きく異なっていた.1
990年 はまず, 6 月に
A.smilhiiと
A.sp.1の増加が 見 られた。後者 はその後す ぐに消失 したが
,A.smithiiは引 き続 き増加 を続 け
,11月 まで単独で優 占 しブルーム となった。期間中に観察 された透明度の最低値や クロロフィル α濃度の最高 値 はこの時期 に相 当する。この年の
A.smithiiの鉛直分布 の季節変化 を見 ると,増殖の初期 (
6月
,7月)には
2m層 を中心 とした表水屑での密度が高 く,底層で は減少 していたが, ピー ク時 の秋 には深 さによる密度の違 いは小 さ くな り
,11月 にはむ しろ底層での密度が高 くなった(
Fig, ll
)。一万,1
991年 は前年 よりも早 い
4月上旬か ら
A.smithiiの増加が始 まったが,6 月には
A.sp.1
が これに加わ り
,8月に両種 は共存す る形で増殖の ピークをむかえている.その後,A.
sp, 1はす ぐに減少 したが,A.smiihiiは1
0月 まで1
02・mL l 以上 の高 い密度 を維持 し続 けたoな 浴, この年の
4月には同 じ くラン藻の
OscilhZlor由 sp.がわずかであるが観察 されている
。1992年 には, まず
5月下旬 にこれ まで見 られなかった
A.sp.2の ピー クが観測 され,夏の間減少 し た
。 9月には前年同様A.smithiiと
A.sp.1が共存 して ピーク となったが, この時の密度 を比 較す ると
,1991年 とは逆 に
A.smilhiiの方が高かった
。3種の出現時期 をまとめると
,A.smilh‑ii
と
A.sp.1は主 に夏か ら秋 に,一方A.sp.2は春 に増殖の ピークが見 られている。o nu nU n l・u / ・O N lL・ 3
2 5 10
Depth(rTl)
Fig.ll. Seasonalchangesinthevertica一distrlbutionofAnabae/1aSmlthillnLakeHlguraShlnOlkeln1990.
3.4.アナベナ2
種のヘテロシス トとアキネ‑ トの密度
アナベナ類 は,細胞が一列 につながった糸状体 (トリコーム) を形成す るが, この トリコー
ムの中に,栄養細胞 とは形態の異なる窒素固定 を行 う異質細胞ヘテロシス トや,休眠細胞 ( 耐
久細胞)アキネ‑ トを分化 させ る。 これ らの密度が増殖の時期や生息深度 によって どの ように
変わ るかを調査時 に採集 したサ ンプルを使 って調べた.Fi
g.12に
Anabaenasmithiiの全細胞,
78
大高 明史 ・相馬 咲子 ・膏藤 捷‑
ヘテロシス ト, アキネ‑ トの密度 の鉛直分布 を
1990年か ら
1991年の期間 について調査 日ごとに 示 した。時期 によって はヘテロシス トやアキネ‑ トが観察 されない ことがあったが, それ らを 除 くと,ヘテロシス トの鉛直分布 は全細胞数のそれ とよ く連動 していた
。1991年
8月の増殖 の ピー ク時で見 る限 り, この傾 向 は
A.sp.1で も観察 されている
(Fig.13)。季節や深度 を問わ ずヘテロシス トが見 られた全サ ンプルについて,全細胞密度 に対す るヘテロシス トの密度 をプ ロッ トしたのガ
ザig.14であるO両種 とも相関関係が認 め られた ことか ら,個体群 の中に占める ヘテロシス トの割合 は季節や深 さによらずほぼ一定であるといえる。サ ンプ/ レごとに求 めた全 細胞 に対す るヘテロシス トの割合 の平均 は,
A.smithiiで
2.8%,
A・sp・1で
5,2%であ り,
A・sp.1
のほ うが高かった。一方,
A.smithiiのアキネ‑ トについて は,表水層中で は全細胞やヘ テロシス トの分布傾 向 と似 ていたが
,10m以深 の底層で はしば しば密度が増加 し,ヘテロシス トの密度 に接近す るか, またはこれ を上回 ることもあ り,全細胞 に対 す るアキネ‑ ト形成率 は
0.ll‑18.7%の変異幅 を示 した。 しか し,表 層か ら
5m層 までの形成率 は
1%前後 で あった
(Fig.12)。 また
,1998年
8月にお ける
A.sp.1のアキネ‑ トの密度 は底層 まで全細胞やヘテ ロシス トと連動 した鉛直分布が見 られ, その形成率 は平均
1.36%であった。
cel
l No.mL‑11 0
102 1030 2 ‑L7 (≡ )上 音 0 2
5(u
l)王dq(≡)qtdqー90.5.
26
0 2
501
(LJJ)Lltdq
■90.ll.24
cell No.mL‑1 10 102 103
ー91.6.22
025
Fig.12. VerticaldistributioninthedensitiesoftotaJceHs
( ○)
,heterocysts (△)andakinates( ● )
of AnabaenasmithiiinLakeHigurashinoike.津軽十二湖湖沼群 の陸水生物学的研究 ( Ⅰ I l )
cellNo.
mlJ‑11 0 1 0 2
10つ 10̀「
ー79
Fi g.1 3. Ver t i caldi s t r i but i oni nt hedensi t i esoft ot alc e" S ( ○) ,het er ocys t s
(△)andaki nat es ( ●)ofA.sp.1i nLak e Hi gur ashi noi k e,1Aug.199 1 .
Hrrり q 一 ̲O hHIJHU (
T一∈
・・0〜=aD)SIS^UOJalaH1 2 3
日 og)
(
l og ) cel l s(CeHN
〇・ ml1
) (l」∈:0〜n8
)SIS^UOLal
aH 52 2⊂)11 CLS
〇
・や.5
3.6
‖og)
2 2.4 2.8 3.2 1.2 1.6cel l s(Cel lNo. ・ m
l1)Fi g.14. Rel at i onbet we endensi t i esoft ot al ce" san dhet er ocys t si n
A.Smithii( A)andA. sp.1( B)i nLak eHi gur ashi noi k e.
AHs ampl esf r om Apr .1990t oNov.1991ar ecombi ned.
4.