博士(地球環境科学)青木かおり
学位論文題名
Tephra identification and tephrostratigraphy of the late Quaternary pelagic sediments in the Northwest Pacific
(北西太平洋における後期更新世遠洋性堆積物に 介 在 す る テ フ ラ の 同 定 と 層 序 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
テフロクロノロジーは,火山が噴火した際に広域に分布する火山灰を同定することによ り,遠隔地の地層を対比し年代を決定する,地質学上きわめて有効な手法である.日本で は多くの第四紀火山が分布していることから,テフラ(火山性砕屑物)を年代決定の重要 な鍵層として利用する研究が発達してきた.各地でテフラの層序を確立する研究が進んで きたが,その際に広域に分布するテフラを基準にしてきた,日本の広域テフラは九州を起 源とするものが多い.そのために西日本から関東,東北地方南部までは,九州起源の広域 テ フ ラ を 基 準 に 各 地 の テ フ ラ 層 序 を 結 び っ け る こ と が 可 能 で あ っ た , ところが,東北や北海道では共通して分布が認められている広域テフラは最終間氷期以 降で は九 州 起源 の阿 蘇4 (Aso‑4) と北 海道 起源 のToyaの2枚のみである.また,東北 地方と北海道地方に分布する火山を起源とするテフラは,地理的に陸上で重なり合って分 布することがない.そのため,本研究では東北地方と北海道の火山を起源とするテフラの 層 序 を 北 西 太 平 洋 の 連 続 性 の よ い 遠 洋 性 堆 積 物 を 用 い て 解 明 し た . テフラの層序研究において最も重要な点はその同定手法の確立である,これまで北西太 平洋の遠洋性堆積物に多くのテフラが分布していることは知られていたが,給源火山が不 特定多数であること,珪質軟泥や赤色粘土の詳細な年代決定ができなぃという理由から,
テフラの給源の推定すらなされて いなかった.そこで,遠洋性堆積物中の未知のテフラ (marine tephra)す べて につ いて ,1) 岩石 学的 記載,2) 火山ガラス及び鉱物の屈折 率測定,3)火山ガラスに.ついて電子プローブマイクロアナ ライザー(EPMA)を用いて 化学組成分析をおこなった.同定するためには,これらの結果をこれまでに報告されてい る陸上の模式地のテフラ試料(type tephra)と比較する必要が ある.type tephraの1) と2) については多くの研究報告とその成果がカタログとしてまとめられているが,火山 ガラスの化学組成についてはまとめられていない,そこで,type tephraを模式地(もし くはそれに準ずる地点)で採取し,その火山ガラスについてmarine tephraと同一条件下 で化学分析を行った. type tephraは広域テフラ16試料,東北起源と北海道の火山を起源 とす る大 規 模火 砕流 及ぴ火山爆発指数(VEI)5以上と考えら れている巨大噴火による噴 出物(東北地方;16試料,北海道 ;24試料)の合計56試料の火山ガラスの化学組成を分 析した.
同定の手順としては1)化学組成のデータを比較して,marine tephraと対比される可 能性のないtype tephraを削除する,2)残った候補の中で鉱物の特徴が一致しないtype tephraを削除する,3)層序学的に矛盾するテフラを肖l亅除し,最終的に残ったtype tephra
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をmarine tephraと 対 比 可 能 テ フ ラ , も し く は 同 一 火 山 起 源 の テ フ ラ と し た , 1) の段階で は,type tephraとmarinetephraの 化学組 成の特徴 を総当りで客観的に 比較するために,SimnarityCoe伍cient8(SC;Borchard,1972)と多変量解析の一種で重 判別分析の2通りの方法を用いた,いずれの方法でも,化学組成から対比される可能性の ないtypetephraを 削除す るという 点では 変わらな い.ま た,1)の段階で候補が1っに 絞り込 まれたテ フラについても,2)と3)の段階を経ることで,同定が間違っているか 否かをクロスチェックすることができる.
SCでは計 算過程が 比較的 単純なた め,同 定されな かった テフラについてもコア間の marinetephraを対 比の可能 性を考え ること がたやす い,た だし,SCは各テフラの主成 分の平 均値につ いて比を計算しているのに対し,重判別分析はtypetephraの分散を計算 しており,火山ガラスの化学組成の不均質性を考慮した解析方法である点で優れている,
重判別分析を用いても,同一火山起源のテフラを識別することは難しいが,降下軽石ー 火砕流 を細かく 区分し ,複数地 点でサン プルを 採取して データ ベースを用意したtype tepka(十和田起源テフラ)ほど判別率が上がる傾向が見られる,今後,火山ガラスの化 学組成についてデータベースをさらに地域と時代を拡大して充実させる必要があるが,そ の際には1枚のテフラに関連する一連の噴火の噴出物をすべて分析することが望ましい,
北西太平洋から採取された海底コア中に介在するテフラについて以下のような結果が得 られた.北海道起源の支笏第1テフラ(Spfa‐1),屈斜路カルデラ起源のI(c.1火砕流
(Kc.Sr;クッチャロ庶路)及びKc.4火砕流(Kc.Hb;クッチャロ羽幌),少なくとも2 枚のクッタラカルデラ起源テフラ(Kt.2〜6),阿寒下部火砕流(ALP)が同定された.東 北地方起源のテフラは十和田カルデラ起源の十和田中掫くr ̄Cu),十和田ハ戸(恥・H),
十和田大不動(To‐ODの3枚,鳴子カルデラ起源の鳴子柳沢(Nr.Y冫,鳴子荷坂(Nr・N) の2枚が同定された,広域テフラは中部地方御岳起源の御岳第1軽石(On ̄Pm1),九州起 源の阿蘇4(舳o,4)阿多鳥浜(Ata‐Th)が同定された.
上記のテフラは阿蘇4(舳o.4)を除くと,いずれも現在最も給源火山から離れた地点で見 っかっ たもので ある, 特に支笏 第1テ フラ(Spfa・1)は層厚が最低でも8cmと見積もら れることから,さらに広範囲に分布していると考えられる,
北西太平洋の三陸海岸の気仙沼沖で採取された海底コアKH94・3,IAI・8には九州,北海 道起源 の広域テ フラが3層,十和田カルデラ起源と考えられるテフラが6層,その他の火 山から 供給され たテフ ラが5層確認さ れてい る,このIM.8コアに介在する14枚のテフ ラについて,酸素同位体比層序のどの層準に位置しているのかを明らかにした上で,各テ フラの噴出年代を推定した.その結果,十和田八戸テフラ(恥・H)は,ステージ2後期の 急速に温暖化の始まった時期(14.9ka.15.3ka),十和田大不動はステージ3末期の寒冷 化した時期(29.0ka・29.6ka),支笏第1テフラはステージ3中期(39.5ka.40.0ka) にそれぞれ相当する.これらの年代と遠洋性堆積物中のテフラ層序から,北海道道東起源 のKc‐1火砕流は放射性炭素年代で同時代の噴出物である十和田大不動テフラ(恥.0Dの 下位であることが判明し,噴出年代を31.7・32kaと推定した.また,これまで陸上のテ フラ試 料の熱ル ミネッセンス法やフィッショントラック法で測定された年代の幅が広く
(44・63kめ噴出年代が曖味だった鳴子柳沢テフラが,支笏第1テフラ(40ka)の下位で あることが確定し,年代は67.6・68kaと推定される.さらに,鳴子柳沢テフラの下位に 北海道のクッタラカルデラ起源のテフラが2枚分布していることがわかった,本研究によ り,東北地方と北海道のテフラ層序が解明された.また,それらのテフラの噴出年代を用 いることで,北西太平洋の遠洋性堆積物を研究する上で広域対比が可能な,極めて有益な 年代軸 を入れる ことが できた. 今後はさ らに研 究海域の 拡大と 最終問氷期以前のtype tephraデ ー タ ベー ス の 充実 を 図 るこ とによ り,古 環境復元 への貢 献が期待 される ,
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学 位 論 文 審 査 の 要 旨 主 査
副 査 副 査 副 査 副 査
教授 教 授 助 教 授 名誉教授 教 授
大場 南川 山本 町田 長谷川
忠 道 雅 男 正 伸
洋 ( 東 京 都 立 大 学 ) 四 郎(熊 本大学理学研究科)
学位論文題名
Tephra identification and tephrostratigraphy of the late Quaternary pelagic sediments in the Northwest Pacific ( 北 西 太 平 洋 に お け る 後 期 更 新 世 遠 洋 性 堆 積 物 に 介在するテフラの同定と層序)
日 本 で は 多 く の 第 四 紀 火 山 が分 布 し てい る こ と から , テ フラ ( 火 山性 砕 屑 物)
を 年 代 決 定 の 重 要 な 鍵 層 と し て 利 用 す る 研 究 が 盛 ん に 行 わ れ て き た . 東 北 や 北 海 道 で は 共 通 し て 分 布 が 認 め ら れ 基 準 と な る 広 域 テ フ ラ は 最 終 間 氷 期 以 降 で は 九 州 起 源 の 阿 蘇 4 (Aso‑4) と 北 海 道 起 源 のToyaの2枚 の み で あ る . ま た , 東 北 地 方 と 北 海 道 地 方 に 分 布 す る 火 山 を 起 源 と す る テ フ ラ は , 地 理 的 に 陸 上 で 重 な り 合 っ て 分 布 す る こ と が 少 な い . こ れ に 対 し て , 北 西 太 平 洋 の 遠 洋 性 堆 積 物 に 介 在 す る テ フ ラ の 層 序 を 明 ら か に す る こ と で , 東 北 地 方 と 北 海 道 の 火 山 を 起 源 と す る テ フ ラ の 層 位 関 係 を 直 接 解 明 す る こ と が で き る . ま た , 北 西 太 平 洋 に 広 く 堆 積 し て い る 珪 質 軟 泥 や 赤 色 粘 土 の 詳 細 な 年 代 決 定 を 行 う た め に も テ フ ラ 層 序 の 確 立 が 必 要 で あ る ・
テ フ ラ の 層 序 研 究 に お い て 最 も 重 要 な 点 は そ の 同 定 手 法 の 確 立 で あ る . こ れ ま で 北 西 太 平 洋 の 遠 洋 性 堆 積 物 に 多 く の テ フ ラ が 分 布 し て い る こ と は 知 ら れ て い た が , そ の 起 源 や 年 代 は あ ま り 明 ら か で は な か っ た . そ こ で , 陸 上 の 模 式 地 の テ フ ラ 試 料(type tephra)と 遠 洋 性 堆 積 物 中 の テ フ ラ(marine tephra)す べ て に つ い て ,1) 岩 石 学 的 記 載 ,2) 火 山 ガ ラ ス 及 び 鉱 物 の 屈 折 率 測 定 ,3) 火 山 ガ ラ ス に つ い て 電 子 プ ロ ー ブ マ イ ク ロ ア ナ ラ イ ザ ー(EPMA)を 用 い て 主 要 元 素 分 析 を お こ な っ た .type tephraは 広 域 テ フ ラ16枚 と , 東 北 起 源 と 北 海 道
の 火 山 を 起 源 と す る 大 規 模 火 砕 流 及 び 火 山 爆 発 指 数(VEI)5以 上 と 考 え ら れ て いる 巨大 噴火 によ る噴 出物 (東 北地 方;16試料 ,北 海道 ;24試料)の合計56 枚 ,91サ ン プ ル に つ い て ,1600点 の 火 山 ガ ラ スの 主要元 素組 成を 分析 し, さ らに鉱物及びガラスの屈折率を測定して,各テフラを識別する基準を得た.marne tephraは16本 の 海 底コ アに介 在す る168サ ンプ ルを ついて 同様 の分 析を し, か つ 陸上 のタ イプ テフ ラと コア 間の テフ ラの対 比を 行っ た. テフ ラの対比・同定 に は, ガラスの主要元素組成の重判別分析,類似係数を主要基準とし,屈折率,
鉱物組合せ,層序を考慮して総合的に判断した.
そ の 結 果 , 後 期 更新 世テフ ラに つい てはAso‑4が 最も広 域に 分布 し, 特異 な 性 質か ら基 準層 とな るこ とが わか った .また ,北 西太 平洋 から 採取された海底 コ ア中 に介 在す るテ フラ につ いて 以下 のよう な結 果が 得ら れた .北海道起源の 支 笏第1テフラ(Spfa‐1),屈斜路庶路テフラ(Kを−Sr)及び屈斜路羽幌テフラ
(Kc‐Hb),少なくとも2枚のクッタラカルデラ起源テフラ(Ktー2〜6),阿寒下 部 火 砕 流 相 当 テ フ ラ(ALP) が同 定さ れた .東 北地 方起源 のテ フラ は十 和田 中 掫(To‐Cu),十和田八戸(To‐H),十和田大不動(To−Of),鳴子柳沢(NrーY),
鳴 子 荷 坂 (Nr一N) の5枚が同 定さ れた .広 域テ フラ は中 部地 方起 源の 御岳 第1 軽石(On−Pm1)とTE‐5,九州起源の阿蘇4(Asoー4)以外に阿多鳥浜(Ata‐Th) が 同定 され た. これ らの 同定 によ って 陸上で 知ら れて いた 層序 の一部が改良さ れた.
さらに、北西太平洋の三陸海岸の気仙沼沖で採取された海底コアKH9年3.LM―8 の 海洋 酸素 同位 体比 層序 とテ フラ 層序 を組合 せる こと によ り, 各テフラの噴出 年 代が 推定 され て従 来の 知見 を改 良で き、本 研究 は今 後の 我が 国のテフラ層位 学の発展に寄与することが期待される。
審 査委 員一 同は 、こ れら の成 果を 高く 評価し 、ま た研 究者 とし て熱心であり、
大 学院 課程 にお ける 研鑽 や取 得単 位等 も併せ 、申 請者 が博 士( 地球環境科学)
の学位を受けるのに十分な資質を有するものと判定した。