1/3
論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨の公表
学位規則第 8 条に基づき、論文の内容の要旨及び論文審査の結果の要旨を公表する。
○氏名 今川 新悟(いまがわ しんご)
○学位の種類 博士(スポーツ健康科学)
○授与番号 甲 第 1335 号
○授与年月日 2019 年 3 月 31 日
○学位授与の要件 本学学位規程第 18 条第 1 項 学位規則第 4 条第 1 項
○学位論文の題名 アイスホッケー選手の競技力向上に向けた精神生理学的 アプローチについて
○審査委員 (主査) 佐久間 春夫 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 山浦 一保 (立命館大学スポーツ健康科学部教授) 長積 仁 (立命館大学スポーツ健康科学部教授)
石倉 忠夫 (同志社大学スポーツ健康科学部教授)
<論文の内容の要旨>
本論文は、アイスホッケー競技における選手の心理面を強化するメンタルトレーニング の科学的根拠とその有用性について明らかにするために、精神生理学的な観点から脳波や 事象関連電位を用い、感情面のセルフマネージメントとしてセルフトークによる心理的競 技能力の向上と、認知スキルとしてメンタルローテーション、サビタイジングによる状況 判断能力について、以下の四つの研究課題を通して検討を行った。
研究課題 1 では、動機づけや感情面の切り替えにおけるセルフトークの有用性について 脳波を基に、精神生理学的な観点から検討を行い、ポジティブなセルフトークの使用に伴 う前頭部、側頭部における脳活動の活性化との関連性を見出し、パフォーマンスの発揮に つながる可能性を、生理指標である脳波によって客観的に明らかにした。
研究課題 2 では、アイスホッケー選手を対象に 2 ヶ月間のポジティブなセルフトークの 指導介入を行った。経時的な効果として、心理的競技能力診断およびセルフトークの使用 頻度調査、内省報告から、介入によるセルフトークの内容の改善と、心理的競技能力の向 上が見出された。
研究課題 3 では、アイスホッケー選手の認知スキルについてメンタルローテーション課 題を用い、rotation related negativity; RRN と contingent negative variation; CNV の 2 つの事象関連電位を用い課題に対する正答率と反応時間を基に、認知的特徴を検討し た。
2/3
その結果、アイスホッケー選手が正確性よりも速さを優先すること、また、ゴールキー パーは速さを優先させながらもより正確性を重視する傾向のあることを見出した。
研究課題 4 では、アイスホッケー選手の複雑な競技展開場面における瞬間的な状況判断 能力の特徴を、サビタイジング課題の正答率と反応時間について事象関連電位との関連で 検討を行い、競技特性、ポジション特性との関連を明らかにすると共に、事象関連電位の N170 と N2 の意味づけと P3 の注意資源との関係について検証した。
以上の本研究結果から、アイスホッケー選手におけるポジティブセルフトークの有用性 および認知スキルの特徴について、精神生理学的な観点から明らかにすることができた。
さらに、認知的側面からポジションごとに示されたパフォーマンスの特徴についても、脳 波や事象関連電位を用いて客観的に示すことができ、最終章で、メンタルトレーニングを 開発する上での重要なエビデンスを踏まえたメンタルトレーニング・プログラムとその活 用が提案された。
<論文審査の結果の要旨>
<論文の特徴>
本論文は、アイスホッケー選手の実力発揮、競技力向上に向けて、二つの観点と問題意 識から精神生理学的な手法を用いて実証し、その成果をまとめたものである。一つは、メ ンタルトレーニングにおけるセルフトークが心理的競技力の向上にもたらす効果について であり、ポジティブなセルフトークの使用によって脳波的にも覚醒水準が上昇することを 明らかにし、また、その手法による現場介入でも一定の効果を得るに至っている。
二つ目は、アイスホッケー選手に必要とされる状況判断能力への着目であり、状況判断 能力を観察するに適した二つの課題(メンタルローテーションやサビタイジング)を設定 し、各課題遂行中におけるアイスホッケー選手の行動面、および認知面の特徴を検討し、
選手の特性、およびポジションによる特徴の違いを生理学的な指標(脳波、事象関連電位)
で明らかにした。
<論文の評価>
論文の特徴とも一致するが、特に下記の点は高く評価できる。
1.心理面の強化としてのメンタルトレーニングには逸話的で実証性に乏しく、科学的な 根拠に基づく実践的な研究が求められている中で、評価の指標化、効果の可視化といった 点で最適かつ妥当な研究計画として、脳波や事象関連電位を用い、科学的知見に基づいた アイスホッケーのメンタルトレーニング法の開発に必要不可欠な基礎的研究を行った点に 独創性がある。
2.本研究で得られた知見はアイスホッケー競技と同様の競技特性を持つゴール型スポー ツ種目(例えばフィールドホッケー、サッカーなど)にも応用できる知見を明らかにした という点で学術的意義があると言える。
3/3
3.感情面のセルフコントロールとしてポジティブなセルフトークの使用によって、脳波 的にも覚醒水準が上昇することを明らかにし、また、その手法による現場介入でも一定の 効果を得るに至っている。
4.ポジション特性を示す事象関連電位の N2 成分と P3 成分の特徴を見出した点は、さら なる検証が求められるものの、選手の行動特性との関連で新たな知見といえ、評価できる。
5.絶えず環境が変化するという不安定で予測不可能な状況下で、オープンスキルを用い てプレーするアイスホッケー競技に着目し、メンタルトレーニングの一つであるセルフト ークの効果を明らかにしようとした点は、先行研究のレビューや方法論の適切性を踏まえ ても意義深い研究である。
以上、公聴会と論文審査の議論により、審査委員会は本論文が本研究科の博士学位論文 審査基準を満たしており、博士学位を授与するに相応しい水準に達しているという判断で 一致した。
<試験または学力確認の結果の要旨>
本論文の公聴会は 2019 年 1 月 21 日(月)18 時 00 分~19 時 00 分インテグレーションコ ア大会議室で行われた。続いて 19 時から同場所で口頭試問が行われた。公聴会において申 請者は出席者の質問に対して十分な回答と説明を行い、本研究の意図、成果について参加 者の理解は深まったものと評価できる。
主査および副査は、公聴会の質疑応答、口頭試問を通して、この分野における研究能力 ならびにその基礎となる豊かな学識について確認し、その上で論文の新規性・独創性を高 く評価することができ、博士学位に相応しい能力を有することを確認した。
したがって、本学位申請者に対し、本学学位規程第 18 条第 1 項に基づいて、博士(スポ ーツ健康科学 立命館大学)の学位を授与することが適当であると判断する。