外国語教育質的研究における調査対象の抽出方法
―サンプルサイズが
1 の場合に着目して―
Sampling Scheme in Qualitative Research in Foreign Language Education
キーワード:合目的的サンプリング、質的研究、調査対象東條 弘子、髙木 亜希子 TOJO Hiroko & TAKAGI Akiko 1. はじめに
質的研究における調査対象に関しては、合目的的サンプリングの考え方に即して少数の対象(参 加者・事例)を抽出することが一般的である。2006~2015 年の 10 年間に発行された外国語教育分 野における主要国際誌 3 種の質的研究論文を分析したところ、調査対象の 58%においてサンプルサ イズが10 以下であり、14%が 1 であった(Tojo & Takagi, 2017)。しかし外国語教育質的研究にお いて、実際にどのように調査対象が抽出されているかを論じた研究はあまりない。質的研究論文にお いて少数サンプルの抽出方法が明確に記述されれば、サンプル数が少ないために研究の妥当性と客観 性が担保されないという批判は避けることができる。そこで本稿では、Tojo & Takagi で質的研究と みなされた 29 報において最もサンプル数が少ないサンプルサイズが 1 の場合にあえて着目し、調査 対象がどのように選択され、どのような抽出の行程が見られるかについて明らかにすることとした。 研究課題は以下の2 点である。(1) 外国語教育質的研究においては、1 つのサンプルをどのように 抽出するのか。(2) サンプルサイズが 1 の場合、抽出されたサンプル自体の特徴は何か。 2. 先行研究 2.1 質的研究におけるサンプリングの行程 質的研究が厳密であるためには、データ収集・分析方法をできるだけ公開し、反復可能にすべき であると Denzin(1978)は述べる。言い換えると、論文執筆の際には読者が研究の過程を辿れるよ うに、データ収集・分析方法を詳細に伝える必要がある。実際、質的研究では様々なデータ収集・分 析方法や行程が明示されるが、サンプリングのあり方やサンプルサイズについての議論は少なく、そ の行程も明確でない場合がある(Onwuegbuzie & Leech, 2007)。したがって、質的研究におけるサ ンプリングのあり方を探究していくことは、質的研究を厳密なものとするために、重要な課題である。 2.2 質的研究におけるサンプリングの定義
質的研究における「サンプリング(sampling)」という用語の使用は確立されており、Gentles, Charles, Ploeg, & McKibbon(2015)は、「研究目的に対処するために収集されたデータから特定デ ータ源を選択すること(p.1775)」と定義している。しかしサンプリングの性質は質的研究方法論の 違いにより異なる。グランデッド・セオリー・アプローチでは「データを得る場所(Strauss & Corbin, 1998, p. 21)」、現象学では「情報提供者を選択すること(Cohen, Kahn, & Steeves, 2000, p. 45)」、事例研究では「事例を選択することと事例を最もよく理解するのに役立つデータ源を選択 すること(Stake, 1995, p.56)」を指す。なお、事例研究を専門とする Yin(2014)は、Yin(2009, 2011)とは異なり、量的研究における統計的一般化(statistical generalizability)を含意する「サン プリング」 という用語の使用を避け、「選択(selection)」という用語を使う例外的な立場を取る。 2.3 合目的的サンプリング 質的研究では、比較的少数のサンプルを意図的に選択して深く研究することが一般的で、このこ とは「合目的的サンプリング(purposeful sampling)」と呼ばれる。Purposeful sampling の日本語
訳として「意図的サンプリング」も用いられ、英語の用語"purposive sampling" もほぼ同義である。 「合目的的サンプリング」はPatton(1980, 1990, 2002, 2015)の影響により、質的研究で最もよく 使われる用語である(Gentles, et al., 2015)。Patton (2015)によれば、目的に応じて重要な事柄に ついて深い学びを可能にする事例の選択が、合目的的サンプリングの鍵となる。Creswell(2016) は、合目的的サンプリングにおける 3 要素として、参加者や現場の選択、サンプリングの方略、サ ンプル数の決定を挙げている。グランデッド・セオリーと現象学では、「合目的的サンプリング」と いう用語をあまり使わず、事例研究で採用されることが多い(Gentles, et al., 2015)。外国語教育研 究では、質的研究方法論としてグランデッド・セオリーや現象学を用いることは少なく、事例研究が 6 割以上を占める(Tojo & Takagi, 2017)ことから、合目的的サンプリングの考え方は適用しやすい。
しかし事例研究における合目的的サンプリングのあり方に関しては、未だ統一見解に達していない。 Yin(2011)が、snowball sampling は、合目的的サンプリングとは異なるとしている。しかし Merriam(2009)は、snowball sampling を合目的的サンプリングの顕著な形であるとみなす一方で、 理論的サンプリング(theoretical sampling)は、合目的的サンプリングに含まれないと述べる。あ るいは、そもそも全てのサンプリングは、何らかの目的をもって行われていると主張する立場 (Guba& Lincoln, 1999)もある。このように合目的的サンプリングの捉え方が多様であるのは、認 識論的立場や質的研究方法論の違いにより、様々な用語や解釈がなされてきたことも一因と思われる。 2.4 合目的的サンプリングの方略 さらに先行研究をたどると、合目的的サンプリングの方略が 16 の下位項目で構成されている書籍 が 3 点あった(Gall, Gall, & Borg, 2007; Miles & Huberman,1994; Patton, 2002)。そして、 Creswell(2016, p.111)、Marshall and Rossman(1999, pp.72-78)、Marshall and Rossman (2015, p.115)に記載されている方略は、いずれも Miles and Huberman(1994) に依拠していた。 既述した16 の下位項目を網羅する 3 つの先行研究を比較したところ、用語が多少異なるものの定義 は類似していた。具体的項目例として、「最大バリエーション(Maximum variation)」(多様なバ リエーションを記し、重要な共通パターンを見出す)、「クリティカルな事例(Critical case)」 (論理的一般化を可能とし、別の事例への応用を最大限可能とする)、「理論に依拠したサンプリン グ(Theory based )」(理論的概念を例示し、かつその構成概念について詳述する)、などが含ま れていた。 しかし直近のPatton(2015)においては、方略は 8 類型 40 項目に分類されていた。なお、8 類型 とは、A, Single significant case; B. Comparison focused sampling; C. Group characteristics sampling; D. Theory-focused and concept sampling; E. Instrumental-use multiple-case sampling; F. Sequential and emergence-driven sampling strategies during fieldwork; G. Analytically focused sampling; H. Mixed, stratified, and nested sampling strategies、である。本研究では、質的研究の方法論を示す書籍 として改訂が重ねられ、先行研究で広く引用されているPatton の最新の分類を用いることとした。
既述のように、質的研究では多様な行程を経る合目的的サンプリングが実施されることがわかっ た。それでは、外国語教育質的研究におけるサンプリングはどのような行程を辿るのであろうか。 Tojo & Takagi (2017)に即し、サンプルサイズが 1 の場合の行程のあり方を分析し検討する。 3. 方法
以下の手順により分析対象を決定し、Patton (2015) に即し第一次分析~第三次分析を行った。 3.1 分析対象
2006~2015 年の 10 年間に発行された外国語教育の分野における主要国際誌 3 種(TESOL Quarterly,Applied Linguistics, Modern Language Journal)において、Tojo & Takagi (2017) によ り質的研究とみなされた226 報の中から、調査対象が 1 と示された 29 報を分析対象とした。
3.2 分析枠組みと分析手続き ①第一次分析:Patton (2015) による合目的的サンプリングの方略としての 8 類型 40 項目に即し、 分析対象の 29 報で示されたサンプリングの手順各々に沿って、採用されている方略を本稿第一著者 が分別していった。この一次分析では、最初から単一の調査対象に焦点を絞って行われる研究と、複 数の調査対象から徐々に単一対象を抽出する経緯を辿る研究、に大別した。②第二次分析: 第一次 分析の 1 週間後に、第一著者が第二次分析を行った。一次分析と同じ手順を用いて分別した結果を 確認し、一次分析時と異なる結果が導出された際には、さらに翌日に見直して双方間の解釈に関し齟 齬が生じないように選別した。またこの二次分析では、複数の調査対象が扱われる際に、実際にいく つの対象が選定されるのかを捉えた。第二次分析を終えた時点で 29 報の全てが、(A) Single significant case, (B) Comparison-focused sampling, (C) Group characteristics sampling (Patton, 2015) の3 類型(表 1)、または Unknown 、のいずれか一つに該当することを捉えた。加えて (A) に帰属 する論考を下位の6 項目、(B) に帰属する論考を下位の 6 項目、(C) に帰属する論考を下位の 8 項目 に、各々さらに分別した(表 1)。③第三次分析: 第二著者が、①②と同様の手続きを経て、29 報 の全てを類型化した。この第三次分析の結果、第一著者と第二著者間での一致率は 76%であった。 不一致部分については類型と下位項目の解釈のあり方に違いがあったことから、合意に至るまで協議 した。 表1 合目的的サンプリングにおける方略の 3 類型と下位項目 (Patton, 2015, pp. 266-268) 及びその概要 方略の類型と下位項目 概要
A. Single significant case 最初から単一の対象を確定
1 Index case 当該の現象を留めるに際し、最初に記された事例
2. Exemplar of a phenomenon of interest
長時間かけて、深く事例を掘り下げて検討
3. Self-study: making oneself the case 自身の経験に裏打ちされた、興味深い事例
4. High-impact case 可視化されやすく、当該領域に一石を投じる事例
5. Teaching case 深い洞察を伴い、手法ならびに理論において模範となる事例
6. Critical case (or crucial case) 決定的な事例として、既存知の反証を可能にする事例
B. Comparison-focused sampling 最初に二つの対象を選定し、両者を比較検討した後に、最終的に単一の 対象を決定 7. Outlier sampling 統計分析で度数分布の両端に位置しているが、興味深い現象を伴う 8. Intensity sampling 過度でなく、情報が豊かで十分に当該の現象を示す 9. Positive-deviance comparisons 問題を抱えているものの、解決の方途を見出した個人や地域を比較する 10. Matched comparisons どのような要因で双方の差異が生じるのかに、関心を寄せて比較し検討 する
11. Criterion-based case selection 重要な尺度に沿って、尺度を超えたものと超えないものを比較する 12. Continuum or dosage sampling 継続的に関心を抱き、連続体に沿った異なる段階における本質を深く探
る
C. Group Characteristics Sampling 最初に三つ以上の対象を選定し、集団内での型や様式をふまえ、最終的 に単一の対象を決定
13. Maximum variation (heterogeneity) sampling
目的に即した事例を幅広く収集し、多様性と共通の型・様式を明らかに する
14. Homogenous sampling 類似の事例を選定し、共通の特徴を捉える
15. Typical cases 典型的で平均的、標準的な事例について理解し説明する
16. Key informants, key knowledgeables, and reputational sampling
研究対象に光をあてることが可能な影響力と知識をもつ人物を同定する
17. Complete target population 興味を抱いた独特な集団における全構成員にインタビューや観察を行う
18. Quota sampling 多彩な母集団から事前に重要な事例を決定した上で、柔軟に対処する
19. Purposeful random sample 無作為抽出法により、質的研究における分析過程への信頼性を高める
4. 結果
調査対象29 報において採用されたサンプリングの方略、ならびに明らかになった報数を記す。
図1 主たるサンプリングの方略 3 類型
次に、Patton (2015) による下位 20 項目を参照し(表 1)、単一の調査対象を決定するまでに、 どのような方略が援用されたのかについて、各論考の記述を基に分析した (表2~4)。
表2 Single significant case 14 報の内訳
下位項目 報数
1. Index case 0
2. Exemplar of a phenomenon of interest 3 3. Self-study: making oneself the case 2
4. High-impact case 4
5. Teaching case 4
6. Critical case (or crucial case) 0
Unknown 1
表3 Comparison focused sampling 2 報 ならびに Group characteristics sampling 13 報の内訳 Comparison focused sampling における下位項目・単一調査対象選定時の方略における下位項目 報数
7. Outlier sampling 0
8. Intensity sampling 0
9. Positive-deviance comparisons 0
10. Matched comparisons 2
Exemplar of a phenomenon of interest 1
Teaching case 1
11. Criterion-based case selection 0
12. Continuum or dosage sampling 0
Unknown 0
Group characteristics sampling における下位項目・単一調査選定時の方略における下位項目
13. Maximum variation (heterogeneity) sampling 0
14. Homogeneous
sampling Exemplar of a phenomenon of interest 4 9
High-impact case 5
15. Typical cases 1
Teaching case 1
16. Key informants, key knowledgeables, and reputational sampling 0
17. Complete target population 0
18. Quota sampling 0
19. Purposeful random sample 0
20. Time-location sample 0
Unknown 3
Exemplar of a phenomenon of interest 1
High-impact case 1 Unknown 1 全29 報に関し、単一調査対象に絞り込む際の方略における下位項目を統括した(表 4)。 最終的に単一調査対象を 包摂する質的研究29 報 (A) 最初から単一の対象(14 報) 最初は複数の対象(15 報) (B) 対象 2(2 報) (C) 対象 3 以上(13 報) 単一対象 単一対象
表4 全 29 報における Single significant case の内訳
単一調査対象選定時の方略における下位項目 報数(占有率)
1. Index case 0 ( 0%)
2. Exemplar of a phenomenon of interest 9 (31%) 3. Self-study: making oneself the case 2 ( 7%)
4. High-impact case 10 (34%)
5. Teaching case 6 (21%)
6. Critical case (or crucial case) 0 ( 0%)
Unknown 2 ( 7%)
質的研究で用いられる主要なアプローチ (Tojo &Takagi, 2017) をふまえ、本研究 29 報で援用さ れたアプローチとの関係を提示する(表5)。
表5 アプローチとサンプリング方略の関係
Single significant Comparison-focused Group characteristics Total
Narrative Inquiry (NI) 5 0 3 8
Case Study (CS) 4 1 6 11 Ethnography (Eth) 1 0 1 2 CS +NI 1 0 0 1 CS+ Eth 3 0 2 5 CS + Action Research 0 1 0 1 NI + CS + Eth 0 0 1 1 Total 14 2 13 29 5. 考察 本節では得られた結果を総括し、抽出されたサンプル自体の特徴の考察を加え、質的研究におけ るサンプリングに関する示唆を得る。本研究で分析対象とみなした質的研究 29 報における初期段階 でのサンプリングの過程は、主として3 つに大別された(図 1)。すなわち、最初から単一の調査対 象を照射する研究 (A)、または複数の調査対象を照射する研究に二分され、後者はさらに、二つの対 象に焦点をあてた後に単一対象に至る研究(B) と、三つ以上の対象に焦点をあてた後に単一対象へと 至る研究 (C) 、に分けられた。また、最初から単一対象を確定して行われた全 14 報で、最も頻用さ れている方略がHigh-impact case と Teaching case で、Index case と Critical case は見られなかった。 加えて選定方法を詳述しない研究もあった(表 2)。さらに複数の調査対象を照射する際には、二つ の対象を比較した後に単一の対象を選ぶ研究が 2 報、三つ以上の対象から単一の対象を選ぶ研究が 13 報見られた(表 3)。なお、全 29 報で最終的に単一調査対象を選定する際に、最も多用されたサ ンプリングの方略は、High-impact case の 10 報で、続いて Exemplar of a phenomenon of interest も9 報見られた(表 4)。そして、質的研究における主要なアプローチ (Tojo & Takagi, 2017)と 29 報で採用されたサンプリングの方略との関係を捉えたところ、全体として 11 報の Case Study (CS) が見られ、8 報の Narrative Inquiry (NI) がそれに続いた。また、最初から単一調査対象 を照射する研究では、NI と CS の 9 報が見られ、3 つ以上の対象を照射する研究においても、同じ 9 報のNI と CS が見られた。一方、前者は 5 報の NI を含み、後者は 6 報の CS を含んでいた(表 5)。
本稿で参照したサンプリングの方略が、8 類型 40 項目であった(Patton, 2015)一方、分析対象の 質的研究 29 報が包摂する方略は、3 類型 8 項目に留まった。次にサンプルの特徴を述べると、単一 の調査対象を決定するに際し、6 割以上の質的研究が、High-impact case と Exemplar of a phenomenon of interest を援用しており、研究者の抱く興味関心に即した研究対象が選定されること がわかった。さらに、snowball sampling や opportunity sampling が見られなかったことをふまえる と、研究過程が必ずしも単一で直線的に進むとは限らない質的研究 (Tojo & Takagi, 2017) におい ても、サンプリングの過程に関しては、研究者各々が方略的に単一の調査対象を選定していくとも理
解できるであろう。実際に、各研究者がどのように調査対象に接近するのかを、知見ごとに明らかに したところ、研究者自身の指導生を扱う研究が 6 報、知り合いを照射する研究が 5 報であり、続い て自分自身を対象に見立てた研究 (Self-study) 、職場での募集、ならびに研究サイトで協力を仰い だ研究が2 報ずつ、そして新聞広告での募集が 1 報(計 17 報)であった。よって、研究者は比較的 身近な参加者から調査対象者を選定する傾向にある、とも解釈できる。 また、上述したサンプリングの具体例以外にも、大きなプロジェクトの一環にあり、複数の対象を 包括的に分析した結果をふまえ、その中の一事例を考察する論調も、29 報中 15 報で見られた。した がって、質的研究では一つの研究から個の対象を抽出し、複数で論文化することもいとわないといえ る。各論文のサンプリングの行程がある程度詳細に記述されているからこそ、上記のような具体の例 示が可能になるのである。実際に、いずれの論文においても共通して匿名性への配慮がなされ(e.g., Xu & Liu, 2009)、調査環境や文脈が明示されており (e.g., Chen, 2008; Miller, 2011)、質的研究に おける強みである読者への転用可能性が担保されていた。好例としてde Costa (2010) は、サンプ リング過程の一環にある研究協力者と研究者自身の関係をめぐって、以下のような説明を施している。
In September 2005, I started working with a 26-year-old Hmong man. I was one of 23 graduate students from the university whose assistance was enlisted to personally tutor participants…..Being a graduate student from Singapore, I was not a member of the Hmong community. However, I was able to claim partial insider status, as a result of my Southeast Asian racial and ethnic identity and also, because, like Vue Lang, I was a foreigner in the United States.… [C]onversations about adjusting to life in the United Sates, for instance allowed me to ask Vue Lang further questions about his former life in Thailand (pp. 523-525). 全ての質的研究に対し、上記のような詳細が一律に求められるわけではない。しかし調査者がどのよ うな “positioning transparency”(p. 524)を伴い研究協力者に接近し、いかに “researcher as outsider or insider, researcher as resource, and researcher as befriender” (ibid.) として、自身の立場 を知見に反映させるかという点では、示唆に富む。また既述した以外にも、調査対象が人物ではなく、 対象者の言語使用を照射する場合(Eskildsen, 2009)や、まず地域を選定し、その中から参加者一 人に焦点を絞っていく方略の援用(Sandwall, 2010)、さらには第一著者が第二著者の文化に関わる 事象を考察する研究(Atkinson & Sohn, 2013)も見られた。質的研究においては通常調査環境や文 脈の明示化は重視されており、読者にとってはこれらのいずれもが、不可欠な情報となり得るのであ る。
さらに、アプローチとサンプリング方略との関係について、ここに論ずる。Tojo & Takagi (2017) によれば、近年10 年間の主要国際誌における質的研究の 65%が CS をアプローチとして採用してお り、16% を占める Eth に次いで、13% の NI が援用されている。一方、本研究では、CS としての占 有率が38%、NI が 28% であった。さらに、CS における三つ以上の調査対象を最初に選定する研究 が 55%、単一調査対象を確定する研究が 36%を占めており、NI では前者が 38%、後者が 63%であ った。したがって、質的研究においてはCS がアプローチとして頻用される (Benson, Chik, Gao & Wang, 2009, Tojo & Takagi, 2017)旨が本稿でも確認された傍ら、最初から単一の調査対象を照射す る研究においては、NI を用いる志向性が相対的に低くないと結論づけられる。一人の人物の語りに 耳を傾け、その語り口に焦点をあてる質的研究が、稀有ではないという解釈が成り立つことから、質 的研究における一般化のあり方(Eisenhart, 2009)をめぐり、新たな示唆が得られる可能性もある。
6. おわりに 本研究を通して、外国語教育分野においても質的研究サンプリングの方法を明確にし、その行程 をできるだけ詳しく説明することの重要性が改めて確認された。実際には研究実施上の制約もあり、 身近な対象者を選択していたとしても、サンプリングの方法が明確で、対象の選択の行程について詳 細に記述してあると、読者にとっては対象から得られたデータの意味づけや解釈が容易になる。 本研究結果から、外国語教育質的研究におけるサンプルサイズが 1 の場合の抽出方法は、最初か ら単一の調査対象を照射する研究 と複数の調査対象に焦点をあてた後に単一対象に至る研究の 2 つ に大別されることがわかった。さらによく用いられている方法は、Single significant case における 4 項目(Exemplar of a phenomenon of interest, Self-study: making oneself the case, High-impact case, Teaching case)、Comparison focused sampling における 1 項目(matched comparison)、と Group characteristics sampling における 2 項目(Homogeneous sampling, Typical cases)であった。これら の方略と論文の記載内容を参考にすることで、質的研究の抽出方法に関する理解が深まるであろう。 最後に今回の分析では、出版年が最新となるPatton(2015)による類型を用いたが、40 項目の分 類はあまりに微細にわたると思われた。先行研究として扱う際には、2.4 の 16 項目でも十分と見な し得る。論文執筆において重要なことは、分類の用語に囚われすぎることなく、先行研究論文の適切 な事例を参照して、詳細に抽出方法と対象(参加者・事例)そのものについて記述をすることである。 (宮崎大学・青山学院大学) 7. 引用文献
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