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プロサバンナ事業に関する現地情報に基づく現状報告・資料
~「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」開始を受けて~ 作成:2014 年 7 月 19 日 プロサバンナ事業とは? プロサバンナ事業とは、「日本・ブラジル・モザンビーク三角協力によるモザンビーク熱帯サバンナ農 業開発協力」の略称であり、3 カ国の間で 2009 年 9 月に調印、モザンビーク北部のナカラ回廊沿い地域 (3 州 19 郡:ナンプーラ州 10 郡、ニアサ州 7 郡、ザンベジ州 2 郡)を対象に、2011 年より事業が開始 されている。対象地には、400 万人を超える小農とその家族が 1 ㌶前後の農地で家族農業を営む。モザ ンビーク最大の穀倉地であり、最大の人口を誇る。 プロサバンナ事業は、次の 3 本の柱に、「有償・無償・海外投資」 「責任ある農業投資・CSR 事業」が並行して走るものとして設計さ れた(JICA, 2013 年 1 月1)。 (1) ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能力向上プロジェクト(PI) (2) ナカラ回廊農業開発マスタープラン策定支援(PD) (3) ナカラ回廊農業開発におけるコミュニティレベル開発モデル策 定プロジェクト(PEM) 本現地近況報告の目的 2014 年 6 月 2 日、モザンビークの首都マプートで「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」の開始 が発表された。キャンペーンの母体は、モザンビーク全国並びにプロサバンナ事業対象地の小農組織を 代表する UNAC(全国農民組織)とその下部連合体(郡・州レベル)であり、その他、8 つのモザンビ ークを代表する女性団体(ネットワーク)、人権・法団体(ネットワーク)、環境団体、開発団体、農村 関連団体が参加している。 重要な点は、UNAC をはじめとするこれらの小農や市民社会組織が最初からプロサバンナに反対を唱 えていたわけではなく、プロサバンナ事業の実施プロセスへの具体的な調査やフォローアップ(2012 年 4 月-現在)を経て、「ノー」という「拒否」に至ったということである。ただし、キャンペーン公式文 書(次頁)にもある通り、対話自体を拒否しているわけではなく、後述する「公開書簡」への回答や「民 衆会議」への参加の要請にみられるように、その努力は継続している。 これを受けて、その経緯と背景を十分理解するために、現地から最新の情報を取り寄せるとともに、 過去の情報を整理し、本報告を作成した2。 目次 1) 「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」 ... 2 2) UNAC(全国農民連合)2014 年度年次総会並びに「ナンプーラ宣言」 ... 4 3) プロサバンナ事業プロセスにおける UNAC との関係構築の破たん... 4 4) PI(ナカラ回廊農業開発研究技術移転プロジェクト) ... 6 5) PEM(コミュニティレベル開発モデル策定プロジェクト) ... 7 6)「第二回プロサバンナ三カ国民衆会議」(2014 年 7 月 23 日―24 日、マプート市) ... 10 1 2013 年 1 月 25 日の第 1 回 ProSAVANA に関する意見交換会(以下、略して「意見交換会」)での JICA 資料。 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/prosavana/prosavana_01.html 2 プロサバンナ事業への現地社会の強い懸念の根幹にある、三角協力・官民連携事業としての基本構想や手法(「広大な未 耕地への投資奨励」「ブラジル・セラードを成功例とした技術移転」「アグリビジネスの進出支援」「日本の大豆供給地の多 角化」「小農無視の計画」)の問題と現在までの影響に関しては割愛する。詳細は、「ProSAVANA 市民社会報告 2013-現地 調査に基づく提言」(2014)参照。https://www.dlmarket.jp/products/detail.php?product_id=263029 ProSAVANA-PD(2013 年 3 月) *モザンビークでのステークホルダー会議配布資料2
1) 「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」
1-1) キャンペーンの開始(2014 年 6 月 2 日、首都マプート) 本キャンペーンは、現地小農運動が主導する形で起ち上げられ、2014 年 6 月 2 日、マプート市にて記 者会見が開かれ、事業対象地の小農組織連合の代者3らが次の公式文書を読み上げた4。 プレスリリース(マプート、2014 年 6 月 2 日) 「プロサバンナにノー! 全国キャンペーン」【日本語訳】 2013年5月、20以上の市民社会組織、社会運動、小農組織、環境および宗教組織、並びにナカラ開発回廊の 家族・コミュニティは、モザンビークおよびブラジルの大統領と日本の首相宛の「プロサバンナ事業の緊急停 止と再考を求める公開書簡」に署名し、提出した。 プロサバンナは、上記三政府が参加する「三角」協力事業である。また、1,450万ヘクタールを超える対象 地域において、ブラジルと日本のアグリビジネスが土地をモザンビーク政府から手に入れ、北部のナカラ開発 回廊と呼ばれる地域で、大豆、トウモロコシ、ひまわり、綿花のモノカルチャー(単一作物)栽培を行うもの である。ナンプーラ、ニアサ、ザンベジ州の19郡がこの事業の実施地とされている。 「公開書簡」は、この巨大パートナーシップ事業の主体である三カ国の首脳に宛てられており、その主要な 目的は、プロサバンナを直ちに停止させ、深く広範で、透明かつ民主的な公開の議論を行うことにあった。こ の事業は、数百万の「現在の」市民だけでなく「将来の」世代にも、社会・経済・環境の面で大きな悪影響を 直接・間接的に及ぼす可能性があり、したがってそのプロセスには広く国民の参加と協議が不可欠である。こ の事業に関する情報へのアクセスの権利は、何にも代えがたい国民の基本的権利でもあると指摘した。 同「書簡」はまた次のことを非難している。提供された情報は不十分で、入手できる情報は限られているも のの、そこにみられる数えきれないほどの食い違いと矛盾は、この事業の基本構想が取り返しのつかない欠陥 をもって設計されたことを裏付け、立証している。また、公衆の参加と協議の手続きとされているものは深刻 な不正にまみれている。さらに農民は、これにより土地収奪の深刻な脅威にさらされ、農民とコミュニティが 現在使っている土地からの強制立ち退きも計画されている。 このような「プロサバンナ事業の緊急停止と再考を求める公開書簡」を発表・提出してから一年が経つが、 未だ回答はない。モザンビーク社会の多様な層からの批判と要請にもかかわらず、プロサバンナは継続されて おり、しかも当初の構想の非を認めることもないまま、それにこだわり続ける形で推し進められている。モザ ンビーク政府、とりわけ農業省は、この事業に対する多数のモザンビーク国民男女の正当な要請と要求を無視 し続けてきた。 これまで繰り返し目の当たりにしてきたように、プロサバンナでは、悪質な秘密主義が蔓延し、同事業が作 成する文書には恒常的な情報の削除や改ざん・操作、意図的な不一致が明白であり、今もこうしたことが続い ている。また小農組織のリーダー、社会運動や市民社会組織の代表者、活動家に対し、プロサバンナの企画者 や実務者による脅迫や強要が多数実行に移されている。 私たちは、プロサバンナを停止させ、新植民地主義的な多国籍企業による小農の土地への侵入を食い止める ため、本日、2014年6月2日に、「全国キャンペーン プロサバンナにノー(CAMPANHA NACIONAL NÃO AOPROSAVANA)」の開始を公表する。このイニシアティブは、小農らが直面する土地に対する侵略、収奪、 商品化、私有化の危険に立ち向かい、私たちの天然資源を守るための闘いを強化するためのものであり、市民 社会組織と小農運動による共働を目指すものである。 「全国キャンペーン プロサバンナにノー」を開始することで、この闘いが国民全体のアジェンダとなるこ とを目指す。このキャンペーンは、プロサバンナ推進のプロセスにおいて、当初計画されたもの(現在はプロ サバンナ外で行われているもの)、そして実際に実施されることとなったものを含む、すべての活動および計 画(例:マスタープラン[PD]や開発モデル策定プロジェクト[PEM])を停止させ、無効化することを主要目的 3 全国連合の副代表(在ナンプーラ)、ニアサ州・ナンプーラ州の小農連合の副代表。いずれも女性。 4 原文・関連記事:http://www.unac.org.mz/index.php/7-blog/82-campanha-nacional-nao-ao-prosavana
3 とする。以上によって、私たちは、「公開書簡」が現在でも有効であることを再確認するとともに、同「書簡」 で述べられているにもかかわらず未だに回答されることがない小農の要求と懸念の数々を、改めて表明したい。 このキャンペーンは次のことを計画する。 プロサバンナに反対する市民社会組織、リーダー、活動家らに対する、すべての形態の巧妙な操作、「一 本釣り」や脅迫、犯罪的行為の企みを糾弾し、拒絶する。 プロサバンナ(とその当初想定事業)によって引き起こされる土地の侵略と収奪、環境汚染に対し、小農 およびコミュニティの広範な動員、組織化、民衆的抵抗を推し進める。 プロサバンナに関与する諸国家・国際諸機関に、その行為に関して責任を取らせる。そのため、国内およ び国際的な司法の場で、公衆の利益のための事業にもかかわらず情報が秘匿されていることに関し、法的 な手段に訴える。また、全国人権委員会やオンブズマンなどの司法メカニズム外の諸機関に対し、現状へ の抗議と告発を提起する。 モザンビーク政府に対し、すべての人が参加でき、広範で民主的な公式の対話の仕組みを設置することを 求める。この仕組みは、モザンビーク社会のすべての層(小農男女、農村コミュニティ、宗教組織、市民 社会組織)が参加できるものでなくてはならず、またこの国の発展における主権のため、真のニーズ、願 望、そして行動計画とアジェンダにおける優先順位を議論することを保証するものでなければならない。 最後に重ねて、すべての小農運動、環境運動、社会運動、市民社会組織、農村コミュニティ、そして市民 のすべてに対し、土地・水・資源および共通の文化的・歴史的遺産の管理に関する私たち自身の権利と利 益を守る闘いへと立ち上がり、広範な動員と組織化を行い、全国的な民衆運動を作り上げるための本キャ ンペーンに招待する。プロサバンナの対象となるすべての人びと、あらゆる社会・環境的な不正義に立ち 向かう人びとに、強力かつ断固とした抵抗を呼びかける。
União Nacional de Camponeses-UNAC(モザンビーク全国農民連合) Liga Moçambicana dos Direitos Humanos-LDHM(モザンビーク人権リーグ)
Justiça Ambiental-JA(環境正義)
Accão Académica para o Desenvolvimento das Comunidades Rurais-ADECRU(農村開発アカデミック・アクション) Fórum Mulher(女性フォーラム)
Actionaid Moçambique(アクションエイド・モザンビーク)
Associação de Apoio e Assistência Jurídica as Comunidades-AAAJC(コミュニティへの法的支援協会) Livaningo (リバニンゴ *環境団体) Kulima (クリマ *農村開発支援団体) 1-2) キャンペーン組織・ネットワークの構成 ① これらキャンペーン起ち上げ団体・ネットワークは、農村部の小農・女性住民らを広範に代表する組 織であり、対象地を含むモザンビークの全国規模で人権・環境・農村開発分野で活躍する団体である。 UNAC は 2,200 の小農組織の連合体、女性フォーラムは 90 の女性組織のネットワーク、人権リーグ は全国76 支部(内 17 副支部)を代表する。 ② UNAC に加盟する 19 郡の農民組織連合のすべてがキャンペーンに参加(その背景は次頁)。 ③ 起ち上げ以来、キャンペーンへの賛同や協力が同国内外で広がっており、プロサバンナ事業中心地で あるナンプーラ州(19 郡中 10 郡が集中)等の事業対象地での市民社会間の協働が開始している5。 1-3)「公開書簡」への「回答」問題 ① キャンペーン起ち上げ主要組織は、「公開書簡」署名団体である。同「書簡」から1 年が経過したが、 繰り返しの要請にもかかわらず 3 政府からの「回答」はないままであり、その一方で各種事業が進 められていることが大きな問題となっていることが以上プレスリリースでも明らかである。 *「公開書簡」:「プロサバンナ事業の緊急停止と見直しを求める公開書簡」6。2013 年 5 月 28 日に、モザンビーク(ゲブ ーザ大統領)、ブラジル(ルセフ大統領)、日本(安倍首相)宛に提出された。モザンビーク社会、対象地域を広範に代表 する23 の組織並びにネットワーク組織に署名される。日本では、UNAC の代表者らによって安倍首相に手渡しされた7。 ② 同「書簡」では、小農や市民社会のプロサバンナ事業に対する懸念や問題意識、どのような方向性 への転換が不可欠か、仕切り直しと信頼回復のための様々な方策についての具体的提案がなされて いる。これへの「回答(対応)」がないままに、これら当事者らの認識においては「形式的な対話」 が政府側より設定されてきた。 ③ モザンビークからの要請を受け、日本の市民社会も外務省・JICA に対し、「回答」について繰り返 5 キャンペーン参加団体は、事業対象郡すべての訪問を予定しているが、これに非署名団体らも積極的に協力している。 6 「公開書簡」日本語訳:http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-27.html 7 「公開書簡」を巡る国内外の報道一覧:http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-28.html
4 しの働きかけが行われてきた8。それに呼応して、外務省も努力を続け、本年5 月に入り「モザンビ ーク政府が回答する」との説明が外務省よりなされたが9、現在も未回答。 ④ モザンビーク政府から現地の農民組織や市民社会に対しては、「回答」が「な される」とも「準備中」との情報も寄せられていない。同国内では、依然 として、次の2 大臣の談話が公的なものとなっている。 TICAD V 時のパウロ・ズクーラ運輸通信大臣のスピーチ:「このよう な書簡を文盲のモザンビーク農民が書けるはずがない。誰か他の者が 書いたのだ」(於:JICA「回廊開発セミナー」)10。 ジョセ・パシェコ農業大臣の談話:「(公開書簡は)外部の陰謀者らに よるもの」(Canal de Moçambique, 2013 年 8 月 1 日、右写真)。
2) UNAC(全国農民連合)2014 年度年次総会並びに「ナンプーラ宣言」
小農らがキャンペーンに至る前提に、4 月 29 日~5 月 1 日、ナンプーラ州で開催された UNAC の 2014 年度年次総会での全国の小農運動の連合体としての意思決定があった。これについて紹介する。 ① 本年度の行動方針と計画決定までの数か月間、UNAC 配下の 2,200 の各農民組織とその連合は、草 の根レベルでの議論を積み重ね、郡、州、地域レべル、全国評議会での議論を経て、年次総会での 最終討論で、正式に「プロサバンナ反対」を決議し、以下の「ナンプーラ宣言」を発表した11。 【「ナンプーラ宣言」(2014 年 5 月 1 日、ナンプーラ)概要】 (ア) 昨年来の政治軍事衝突の高まりが農民の周辺化と排除をもたらしている。 (イ) 全国にわたる巨大開発プロジェクトにより農民の土地の権利が剥奪されており、これに抵抗する方針を明 らかにする。 (ウ) 紛争が起きている地域で政府の抑圧が高まっている。 (エ) プロサバンナについての問題と今後の対処の方向性は次の通り。 i. 「公開書簡」に1 年近くも返答がない。 ii. 小農リーダーらは、プロサバンナに反対することを確認した。 iii. 全国規模のプロサバンナへの抵抗運動のロードマップとアジェ ンダを作成する。 iv. 対象郡の小農運動の指導部、個々の農民男女に対する迫害、脅迫、 買収そして情報操作に強く抗議し反対する。 例)「(プロサバンナ対象の)ある郡の郡長は、プロサバンナの悪 口を言おうとする者は牢屋に入れる」と脅している。 v. 以上の行為者に対し(外国人を含む)、彼らを法的に告発することを誓約する。 ② UNAC にとって、年次総会後の「宣言文」は一番効力の強いものであり、かつ開催地の小農らの声 や要請が一番反映されやすいこともあり、プロサバンナ事業の中心地であるナンプーラ州の小農ら の強い働きかけでこの宣言が起草されたことは留意すべきである。3) プロサバンナ事業プロセスにおける UNAC との関係構築の破たん
3-1) UNAC 最初の「プロサバンナ声明」~2013 年 9 月 ① UNAC は、プロサバンナ事業について最も早く問題提起を行った組織である。2012 年 4 月から半年 かけて行われた文献並びに3 か国関係者へのインタビュー調査に基づき発表されたのが、「プロサバ ンナに関する声明」(2012 年 10 月 11 日)であり、同事業の不透明性に加え、その基本構想や手法・ 方向性の問題が批判されるとともに、オルタナティブな提案がなされている12。 ② しかし、日本政府・JICA には、プロサバンナに異議を唱えた UNAC への拒否感は強く、そのモザ ンビーク社会における役割・小農運動としての正当性・代表性の認識は弱く、次のような理解が繰 り返し言及された。(例)「UNAC は反対勢力/野党勢力」「UNAC は一団体にすぎない」「賛成小農組織もあり、 UNAC は一反対派にすぎない(ため面会する必要なし)」等 8 http://www.ngo-jvc.net/jp/projects/advocacy-statement/2014/01/20141017-prosavana.html 9 参議院決算委員会(2014 年 5 月 12 日)での岸田文雄外務大臣答弁(石橋通宏議員質問)。第 9 回「意見交換会」(5 月 20 日)での外務省国際協力局国別三課による説明(「これまで『(回答を)検討中』だったが『回答する』に変わってきた」)。 10 この模様は、TBS 報道特集(2013 年 6 月 8 日)で放映されている。http://farmlandgrab.org/23050 11 UNAC の意思決定メカニズムについては、「ProSAVANA 市民社会報告 2013」第 4 章を参照。「ナンプーラ宣言」原文: http://www.unac.org.mz/index.php/7-blog/79-declaracao-da-assembleia-geral-ordinaria-da-unac-2014 日本語訳:http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-91.html 12 UNAC による最初の声明(日本語訳):http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/ps20121011unac.html5 ③ 2013 年 3 月にはモザンビーク訪問議員団と UNAC との面談を巡る問題、2013 年 8 月には対話プロ セスからの「UNAC 外し」と思われるタイムラインの提示、同年 9 月には同事業のモザンビーク人 コーディネイターより「UNAC 排除」が市民社会との面談の席で披露される等の事態が生じた13。 ④ これらを整理すると、この期間、事業実施側とUNAC との関係は、次のように推移した。 「ProSAVANA 市民社会報告 2013」(2014 年、183 頁)より抜粋 3-2) 2013 年 10 月~12 月 ① しかし、日本市民社会の情報提供と繰り返しの指摘を受けて、「UNAC の小農組織連合としての代表 制・正当性」について、外務省やJICA も 2013 年 10 月以降は認め始めた14。 *UNAC の正当性について: モザンビーク農業省事務次官の談話:「(UNAC は)モザンビークの農民組織として最大の規模を持ち、(国民の)食料 安全保障を保障し、小農らの大多数を代表する組織である」(CanaldeMoçambique 2013 年 12 月 13 日)。 また、UNAC は、同国の農業政策・貧困政策を話し合う委員会の主要メンバーであるだけでなく、現行の土地法制定の 主導者であった。同国の最古かつ最大小農組織連合として、長年にわたり各国政府援助機関、大使館、国際機関、国連機 関、国際NGO、国内 NGO の最大のパートナーとなっている(「ProSAVANA 市民社会報告 2013」第 4 章)。JICA も 1990
年代末、戦緊急支援のパートナーとしてUNAC を支援。これらの点は、「意見交換会」を通じ、日本の NGO らから日本 政府・JICA に繰り返し説明されてきた。 ② 東京での変化を受けたナンプーラのプロサバンナ事務局は、UNAC への「働きかけ」を開始したが、 「公開書簡」に回答がないままであったこと、またその手法が、電話による非公式な個別面談の繰 り返しの要求などだったため、これが「対話の強要」、「密談」依頼、「抑圧」と受け止められた15。 ③ 農業省からの繰り返しの圧力を受け、2013 年 11 月、UNAC が場と参加者を設定する形で、農業省 と日伯政府の関係者、「公開書簡」署名団体との「対話のための話し合い」が開催された。あくまで も「対話のための前提を話し合う場」との設定であった。しかし、会議当日、政府側より「プロサ バンナに関する対話への参加者一覧」へのサインが求められたために会議が紛糾した16。 ④ 一方で、UNAC やこの場に参加した市民社会組織からは対話の前提として「公開書簡の回答」と「情 報(資料)公開17」が請求された。後者について、農業省局長は次回会議(12 月に予定)までの提 供を約束する。しかし、これらの要請資料は一点も提供されなかったため、「第二回対話のための話 し合い」が農民・市民社会側にボイコットされる18。 ⑤ この点につき、日本の市民社会は、第7 回・第 8 回・第 9 回「意見交換会」で、(i)「公開書簡」へ の早急なる回答、(ii) 会議への出席を既成事実に使わないこと、(iii)早急なる情報公開の必要性、(iv) これらを踏まえた共催での対話の場の設置について、外務省・JICA に呼びかけてきた。(iv)につい て賛同を得たが、その前提にある(i)と(iii)の問題が継続した。また、(ii)も実際は改善されなかった19。 13 詳細は、「ProSAVANA 市民社会報告 2013」及び次の資料。http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-98.html 14 2013 年 9 月 30 日国会議員立ち会い下での NGO・JICA/外務省意見交換会での議論。 15 UNAC 本部によると、農業省での別件の会議中に、突然事業担当官・JICA・ABC 関係者が現れ、プロサバンナに関す る話し合いを要求したという。第6 回「意見交換会」資料。http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-61.html 16 本件について、外務省・JICA は当初懐疑的であったが(第 6 回意見交換会)、後にこれを認めている(第 7 回)。 17 特に、2013 年 9 月に発表された「ナカラ回廊農業開発マスタープランのためのコンセプトノート」のもととなったと いう現地調査結果、報告、データ、並びに農村部での「公聴会」の結果など。ただし、「情報の非公開性」の問題は、2011 年10 月の抗議声明以来、UNAC が繰り返し問題にしてきた点である。 18 詳細は、次資料。http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/shimin/oda_ngo/taiwa/pdfs_2013/oda_seikyo_13_2_212_1.pdf 19 詳細は、第 9 回「意見交換会」資料。http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-98.htmlボイコットの背景 には、過去の会議への出席が「対話の実績」としてプロサバンナ関係者に繰り返し利用され、「公開書簡」への未回答と緊 急停止要請に応じない根拠とされてきたことへのモザンビーク農民・市民社会組織の強い憤りと懸念があった。
6 3-3) 2014 年 1 月~現在 ① UNAC によると、2013 年 12 月以降、事業実施側からのコンタクトは一切なかったという。 ② 一方、2014 年 4 月頭には、一部団体(ナンプーラ州市民社会プラットフォーム:PPOSC-N)のみ に対し、「コンセプトノートⅡ(JICA は「三段表」と表現)20」が提供され(但し、紙コピーで 1 部のみ)、意見交換会への招待がなされた。しかし UNAC に対しては、意見交換への招待はもとよ り、この書類の提供はなされなかった21。 ③ しかし、「コンセプトノートⅡ/三段表」には、「プロサバンナの提唱する重要なアプローチは、UNAC と合致」との記述があり、UNAC の組織や主張の正当性が認められる記述がなされている。 [右]JICA 提供「三段表」日本語版からの抜粋 (2014 年 5 月 17 日提供) [左]UNAC が他の NGO から受け取った「コンセプトノートⅡ/三段表」 (紙コピーのスキャン。非常に不鮮明である) ⑨ 上記の通り、「対話」が政府側の「情報開示約束」の不履行により暗礁に乗り上げている最中に、自 分たちに届けられていない文書の中でUNAC に関する唐突な言及、とりわけ「プロサバンナのアプ ローチと合致」との説明がなされたことに、むしろUNAC は不信感を募らせた(UNAC 聞き取り)。
4) PI(ナカラ回廊農業開発研究技術移転プロジェクト)
4-1) 農民・市民社会組織への説明の不在 ① プロサバンナ事業の3 本の最初の柱である ProSAVANA-PI(ナカラ回廊農業開発研究・技術移転能 力向上プロジェクト22)について、対象3 州および全国レベルの農民・市民社会組織は、プロジェク ト担当者らに説明を受けたことは一度もなかったという。例外は、アメリカの国際NGO(Care International)、そして報道などによると農業試験場周辺の農家・調査対象の農家のみであった。 ② JICA 案件概要によると、PI は 2011 年 4 月より開始されているが、3 年間プロサバンナ事業に関心 を払って意見を述べてきた農民・市民社会組織にPI の説明や協議がなされなかったことになる。 4-2) 突然の「PI 成果セミナー」(2014 年 4 月 22 日―23 日)への招待 ① 3 年間の説明の不在を経て、突然 PI に関する「成果セミナー」の招待状(3 月 20 日の日付)が、作 成日から3 週間が経過した 4 月 11 日に、ナンプーラ州市民社会プラットフォーム(PPOSC-N)に 紙コピーで一部提供される。 ② UNAC など、プロサバンナ事業により直接影響を受ける当事者の団体や、同事業の透明性確保に取 り組んできた市民社会の大半に招待状は届かなかった。そのため、PPOSC-N によって招待状がスキ ャンされ(右写真)、NGO 側から幅広い参加、特に UNAC や農民の参加が呼びかけられた。 ③ PI については情報が提供されてこなかったことを受けて、UNAC をはじめとする多くの団体が参加 し、PI のカウンターパート IIAM(モザンビーク国立農業研究所)の農業試験場の訪問と聞き取り 調査が実施された。 ④ その結果として、UNAC スタッフにより、報告書が採り纏められた23。 【PI に関する UNAC 報告の要点】 プロサバンナの焦点はやはり大豆だった。しかし大豆は地域に元々ある作物ではなく、輸出を念頭におい た研究・技術移転であると考えられる。 モザンビーク政府は「マスタープラン策定の対話が終わるまで現場での実施はしない」と繰り返し公言し てきたが、実際は事業が粛々と進んでいることが明らかになった。 20 モザンビーク農業省は「コンセプトノートⅡ」と意見交換会への招待状で説明。 21 PPOSC-N が 22 ページに及ぶこの「ノートⅡ」をスキャン・メールしたため、UNAC や他の団体は中身を知る事が出 来た。なお、正式なPDF ファイルは、モザンビークや日本市民社会の繰り返しの要請にもかかわらず 1 か月に亘り提供さ れず、いつの間にかプロサバンナの公式サイトに掲載されていた。ほとんどの地元団体が、この事実すら知らなかった。 22http://gwweb.jica.go.jp/km/ProjectView.nsf/VIEWParentSearch/4464CF8056D0AD9B492577FF000CEC25?OpenDoc ument&pv=VW02040104 23 全文の日本語訳。http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-92.html 「『UNAC家族農業支援国家計画』の柱とする項目 は、ProSAVANAで提唱する重要なアプローチと合 致しており、各項目に関連する以下のようなプロ ジェクトを提案する」。7 この動きは市民社会から隠される一方、推し進められることで、「プロサバンナの既成事実化と正当化」 のため利用された。 ブラジル並びに日本の機関が試験場で独自調査を行っており、その結果はモザンビーク側と共有されず、 別の意図が隠されている(企業のための研究・情報提供と考えられる)。PI の技術者(モザンビーク人) 自身が事業に疑問を持ち、企業を利するもので結局は土地収奪につながると話した。 セミナーで批判を口にした農民に対し、政府側より不適切な表現や介入があった。農民は事業の当事者・ 裨益者である。 例)「農民を「動物」のように扱った」と報告。 開発は、民衆(小農)を犠牲にして実行されるべきものではなく、彼らの土地を奪い、国際市場に売られ るための一次産品のモノカルチャー生産を見据えて外から持ち込まれる生産モデルに反対。 これらを受けて市民社会はプロサバンナに反対を唱えた。 ⑤ PI に関する試験場訪問、インタビュー、セミナー参加がプロサバンナ事業に対して疑念や不信感を 強める結果となったことと、UNAC 年次総会「ナンプーラ宣言」から「プロサバンナにノー」キャ ンペーンに至る一連のプロセスが無関係ではないことが、記者会見の報道で明らかになっている24。 ⑥ とりわけ、大豆に偏った調査研究が、当初のプロサバンナ事業の基本構想「ブラジル・セラードで の大規模大豆生産を参照事例とし、モザンビーク北部の『広大な余った土地』への投資乾期」(詳細 は注2)に沿ったものとして理解され、プロサバンナ事業開始後一気に増えた大豆生産のための投資 による土地収奪が進行していることを受けて、この疑念は上塗りされる結果となった。
5) PEM(コミュニティレベル開発モデル策定プロジェクト)
プレスリリースでも取り上げられた3 本目の柱 PEM が、問題視されている理由について紹介する。 5-1) JICA による PEM に関する説明 ① JICA による「詳細計画策定調査報告」(2012 年 10 月)には、次のことが記載されている。 (ア) 当初、PEM は PI と PD を踏まえた、「農業技術普及事業」として計画 (イ) 日本側の発案で「地域開発モデル策定事業」として変更を提案 (ウ) これに対し、ブラジル側の強い抵抗と反対(2012 年 9 月) その理由:「モデル策定」はPD で行われるべきで、PE は「普及事業」であるべき。 (エ) このような意見にも拘らず、モデルを入れた形で PEM として合意(2012 年末) (オ) その後、コンサルタント募集が公示されるも、入札されず再募集で当初予定の 2013 年 3 月が 5 月開始(この時点では、PD 事業は 2013 年 9 月終了見込みであった) ② PEM をマスタープラン策定前に実施している理由として、JICA は次のように説明してきた。 【PEM 先行実施の JICA 側説明】(いずれも 2014 年) (ア) 石橋通宏議員(参議院)への 5 月 9 日ブリーフィングでは、「PEM は PEM として独立した事業であ る。PEM は PD(マスタープラン策定)に必要なもの。どのような作物をどのように耕作するのが 適切かを知るためにも必要である。したがって、PE を先行して進めることは全く問題がない」との 説明がなされている。 (イ) 一方、第 9 回「意見交換会」(5 月 20 日)では、NGO 側質問「PE が終わらないとマスタープラン は出来ないと考えていいのか」との質問には、「待たない」との回答がJICA 農村部からなされてい る。「現地小農にいち早くアクションを取りたいからやっている」との説明もあった。 (ウ) 他方、同じ意見交換会で、マスタープラン策定については、JICA 農村開発部より「農民の皆さん、 現地の市民社会の皆さんが懸念している中で、我々の事業を一方的に進めることは難しいと思ってい る」との見解が示されているが、何故PEM について同様の姿勢で進めることが出来ないのかの説明 はなされなかった。 (エ) 参議院決算委員会(5 月 12 日)での JICA 田中明彦理事長の答弁:「始められるところから始めてい った方が将来的により良いプランもできるし、それからより良い農業開発ができると思ってこのよう に進めている」との説明がなされている25。 ③ いずれの説明も、PEM の実施が何故急がれなければならないのか、現地社会は全体としてプロサバ ンナ事業の不透明性を問題にしているにもかかわらず、何故 PD と同様に、現地ステークホルダー らに情報提供や協議の試みがなされないのかの説明としては不十分であり、かつ矛盾が多いことが 24 キャンペーン開始は、フランス国際ラジオ放送 RFI、ドイツ国営国際放送 DM、ポルトガル国営通信 LUSO、ブラジル DE FATO 等、モザンビーク内外で広く報道されている。http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-97.html 25 国会図書館の国会審議記録より抜粋。http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-103.html8 読み取れる。 5-2) 現地市民社会、農民組織へのコンサルテーションの状況26 ① 2013 年 5 月に開始したとされる PEM であるが、現地によれば、これに関する説明会・意見交換会・ 協議は、3 州や首都のいずれでも開催されておらず、全容について小農・小農組織・市民社会は一切 の情報を提供されておらず、目的・内容・手法の妥当性について全く議論がされていない。 ② 一方で、この点について、第 9 回「意見交換会」で JICA に確認を行ったところ、「選定したコミュ ニティとは相談しながら進めている」との説明がなされた。 ③ 一方「小農のため」とされる PEM であり、先述「三段表」にもわざわざ UNAC の提案する農業普 及サービスについて賛同が書き込まれているにもかかわらず、同農民連合には現在に至るまで情報 提供も協議もされていない点について、日本のNGO 側から問題提起がなされた。 ④ 現地の農民や市民社会にとっては、PD も PEM もプロサバンナ事業の一部であるにもかかわらず、 何故PEM について説明会の開催すら試みもされないのかとの疑念が強まっている。 ⑤ なお、マスタープランに関する「対話の場」以外の「説明会」については、先述 PI セミナーに見ら れる通り、UNAC らは参加しており、「出席を拒否しているため」との説明は難しい。 5-3) モザンビーク・日本政府の説明「調査・プラン段階」 ① モザンビーク政府は、UNAC や市民社会に対し、これまで繰り 返し、現在は「調査研究・プラン段階」、「マスタープラン策定な しにはインプリメンテーションしない」と約束してきた27。 ② 第1 回プロサバンナ三カ国民衆会議では、首相代理で出席した農 業省局長が「対話なき事業推進は行わない」と約束したことを日 本からの出席者らも確認しているが(2013 年 8 月 8 日右写真)、 これに反する事態が進行していることになる。 ③ 「調査・プラン段階で実施局面にない」との説明は、日本でも意 見交換会時に外務省によって繰り返しなされてきた。 5-4) PEM の現場での推進とプロジェクト予算を使った「署名団体」への契約働きかけ ① 2014 年 3 月になると、「プロサバンナ関係の事業が農村部で進められているようだ」との情報が、 UNAC や市民社会の間で問題視され始める。 ② 2014 年 4 月、現地市民社会組織が発見した PEM サイトの看板により(写真)、ナンプーラ州でイン プレメンテーションが進んでいることが明らかになり、農民組織・市民社会が騒然となる。 ③特に、ナンプーラ州の小農や市民社会組織のショックは 大きかった。なぜなら、日本政府・JICA も認めるように、 対象19 郡の 10 郡が集中する中心州であるものの、同州で はマスタープランのコンセプトノートの議論すら、農村部 で一度も実施されていない状態にあったからである。 ④PPOSC-N は、「公開書簡」への回答とともに、コンセプ トノートの書き直しと議論、その上で農村部での議論を繰 り返し要請していた28。いずれの要請も果たされない中の、 同州農村部でのPEM の推進であった。 ⑥モザンビーク市民社会にとっては、次の通り、さらに大 きな衝撃が待ち受けていた。以下、現地市民社会への聞き 取り結果である。 【「公開書簡」署名団体(AENA)への PEM 契約の働きかけ】 (ア) 2014 年 4 月、「公開書簡」署名団体AENA(農業普及サービス全国協会)が、プロサバンナ事務局・JICA・ ABC 関係者に秘密裏に呼び出され、非公式会談を持ち、PEM の事業を行うための「パートナー契約」を 行う旨が確認されたことが明らかになった。 (イ) AENA に提案された契約案には、人件費と車両、レポート作成の謝金の提供が書き込まれていた。また 会合では、同団体によるプロサバンナ事業への賛同表明と農村部での宣伝が促されたという。 (ウ) 他の署名団体が PEM についての情報提供を全く受けない中、AENA がピンポイントで選ばれた理由は、 同団体のメンバーがプロサバンナ事務局のある農業省ナンプーラ州局に勤めているためで、この人物を通 26詳細は、第9 回「意見交換会」で発表された「プロサバンナに関するナンプーラ州市民社会プラットフォームと政府の やり取り NGO 側まとめ」を参照 http://mozambiquekaihatsu.blog.fc2.com/blog-entry-98.html 27 食糧援助の見返り資金を使った PDIF(プロサバンナ開発イニシアティブ基金)の問題については、本報告では割愛す る。詳細は、「ProSAVANA 市民社会報告 2013」第 3 章。
9 じて同団体への働きかけが行われ、会合に至ったという。なお、この会合はあえて同団体本部や農業局で なく別の場所で開催されている。会合の記録は作成しない約束で実施された。 (エ) 以上の事態は、モザンビーク市民社会内部で広く知られることになり、市民社会の独立性・連帯に対する 政府の深刻な介入として受け止められているという。 5-5) 農村部での PEM 推進と「小農組織」との急がれた契約 マスタープランへの対話が暗礁に乗り上げ、現地社会の抵抗が強まる中、事業実施者らはPEM の実施 を推し進め、プロジェクト予算を活用した様々な契約の試みが、市民社会組織のみならず、農村部の「小 農組織」に対しても行われている。次がその詳細である。 ① 現在までに、PEM と契約を交わした「小農組織」は 4 つあるというが29、その選定プロセスや選定 基準は不透明である。先述の通り、公開の説明会も開かれておらず、公募された形跡はない。 ② なお、対象4組織の1つとしてゲブーザ大統領夫人30の名前を冠したアソシエーションが選ばれてい る(契約書表紙[下写真]に「マリア・ダ・ルス・ゲブーザ・アソシエーション」と記されている)。 ③ 契約したアソシエーションには、農業資機材と投入財が「寄贈」される。ゲブーザ夫人アソシエー ションの契約書には、「灌漑設備」に加え「化学肥料」「農薬」の「寄贈」が約束されている。 ④ 政府答弁(2014 年 6 月 27 日)によると、「JICA の業務経費のうち技術協力プロジェクト関係費に よって調達された約七十万円相当の種子、肥料、農薬等が無償で供与されるとともに、約六十万円 相当の農業用ポンプ等の資機材が(5 年間)貸与される」とある(注参照)。無償供与物資だけでも 5 年間の総額は 350 万円にも上り、同じプロサバンナ事業の一環として行われている PDIF(貸付) には500 万円程度の事業があり、少なくとも公募がされているのと対照的である31。 ⑤ AENA の例と同様、この契約手続きも、社会に開示されないまま行われている。本年 5 月に現地調 査を行ったNGO とジャーナリストにより、初めてこれらの情報が明らかになったが、このような契 約が現地小農組織との間で進められていることについて、日本での「意見交換会」においても一切 説明されてこなかった。 ⑥ 現地 NGO による調査報告書の結果概要は次の通り。 【PEM 現地調査報告】 (ア) これまでの「研究・プラン段階」「合意なき実施はしない」との主張と異なり、プロサバンナはナンプー ラ州の農村部においても既に実施局面にある。 (イ) あえて与党の影響を受やすい、小農アソシエーションとしての意識の弱い組織をタ-ゲットにしている。 (ウ) 特に、アソシエーションとして DUAT を持たない組織が優先されている。これは、DUAT を持っている ところは政府に土地の権利を認めてもらう必要があるため抵抗力がるからである。逆に、持っていない組 織は、政府の言いなりになりやすい。 (エ) インタビューした PEM 契約アソシエーションは、契約の目的を「化学肥料などの物資提供のメリットを 享受するため」と話し、「プロサバンナについては良く分からないし、何も情報を持っていない」と繰り 返し述べた。そして、「我々にはこれらの物資が必要で、必要な物資をもらうだけ」との説明を行った。 (オ) 「メリット」は PEM を通じた物資提供だけではない。顕著な例は、同じリバウエ郡マパレ(Mapare) 29 質問主意書(石橋通宏議員)への政府側答弁(2014 年 6 月 27 日) http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/186/touh/t186153.htm 30 農村部の選挙キャンペーンは、多くの場合ゲブーザ夫人が担ってきた。一時的に、ゲブーザ大統領の後継候補者として 取り沙汰されていたほど政治にコミットしている。 31 正規雇用者ですら農村部でのサラリーは月 1 万円程度であり、農民にとってこの額の影響力の大きさ分かる。 [左] 契約書表紙。訳:2014 年 5 月付、PEM モデル2「アソシエーションによ る農業支援モデル」のための農業資機材・投入財の寄贈契約 PEM チームと「マ リア・ダ・ルス・ゲブーザ・アソシエーション」(リバブエ郡イアパラ地区) [下] 現地 NGO が調査中に遭遇した PEM 担当日本人専門家
10 にあるアソシエーションである。同アソシエーションによると、「プロサバンナの下で大豆生産を行うた め、政府より3000 ㌶の土地の DUAT を付与される」という。 (カ) 立ち会った PEM の担当官(モザンビーク人と日本人)に対し、プロサバンナを通じた大豆生産について の社会的責任について質問したが、「良く分からない。大豆生産の情報は知らない」との返答であった。 (キ) 契約書には、「モデル 2―小農が裨益するモデル」であることが示されているが、それ以外のモデルにつ いての説明は皆無である。「モデル 1」が「誰を裨益するモデル」なのか、他にいくつの「モデル」があ るのか、契約書には全く記載がないばかりか、契約小農組織にすら説明がなされていなかった。つまり、 プロサバンナどころ自分たちの契約相手の「PEM」の全容すら知らされないままの契約である。 (ク) 他方、PEM 担当官は、「小農支援のためのもので返済は不要」と「メリット」のみを強調し、小農らも「メ リット」しか聞かされていない。アグリビジネスの進出モデルがあったとしても、小農らの「モデル2」 契約が、PEM への承認、ひいてはプロサバンナの承認として利用され、「手遅れ」になる可能性は高い。 【現地調査に基づく結論】 プロサバンナについて疑義が示され、対話を重視する、実施段階にないとの説明の一方での、不透明なPEM の契約は、農村部にプロサバンナがいつの間にか侵入し、浸透するための足場作りを意味しており、全体とし て何に契約しているのか全く分からないままに小農組織が利用され、「同盟者」に仕立て挙げられる危険を現 実のものとしている。 ⑦ 大豆生産のための 3000 ㌶の DUAT 付与の件は、小農組織でもこのように大規模な土地のアクセス があるところは皆無であり、世帯あたり1 ㌶前後の耕地面積しか有さない地域の小農にとり、数百 ㌶でもかなりの規模である。この一報を受けた現地の市民社会は、「小農アソシエーション」を前面 に出しながら、大豆生産、大規模生産への道を開くものとして理解し、PI と同様懸念を深めている。 ⑧ ナンプーラ州は、有権者人口が最大である一方、歴史的に与党フレリモが弱い地域であり、州都ナ ンプーラでは市長・市議会ともに第三政党(MDM)が勝利している。そのような中で、与党 FRELIMO の支持基盤となる小農組織を個別選定している点(大統領夫人名の組織)、選挙間近の大統領の訪問 先コミュニティとのPEM 契約(前々頁の看板の写真)、モザンビーク政治の文脈では、PEM は同党 の支持基盤の強化や宣伝効果を狙った「選挙キャンペーン」としても理解され、問題視されている。