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78 及川和美 田島誠 米谷正造 を肥満であると認識し, 体型認識の歪みを持っていることが示された. 体型認識の歪みの原因として, 雑誌やテレビといったマスメディアや異性からの影響などが挙げられ, そういった原因の一つに自尊感情 (self-esteem) との関係が注目されてきている 11). 体

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緒言  近年,若年女性のやせとやせ願望の増加が問題視 されている.特に,体型は人々の健康と直接結びつ いており,肥満であったりやせであったりすると 様々な健康障害を引き起こす.肥満の場合は糖尿 病,高血圧に始まり,冠動脈疾患や脳梗塞,月経異 常などを引き起こし1),やせの場合は月経異常,骨 粗鬆症などのカルシウム代謝異常,低身長,貧血, 便秘,冷え性などを引き起こす2).2007年の厚生労 働省が行った国民健康・栄養調査報告によれば, 1987年と1997年に比べて20~40歳代の女性の低体重 (やせ)が増加傾向で,2007年の20歳代の女性では 25.2%を占めると報告されており3),深刻な問題と なっている.しかしその一方で,やせ願望をもった 若年女性の増加も報告されている.加藤4)は1976年 からの継続的なアンケート調査をもとに,青年期の 女性のやせ願望の年次変化について検討している. この調査では,1984年から8割以上の者が「やせた い」という意識を持っており,年を追うごとに増 加傾向にあることが示された.古川5)の中学生~大 学生を対象としたアンケート調査において,低体 重志向者は男子で10~20%前後で,女子は中学生で 41.7%だったのに対し,高校生と大学生では70%以 上を占め,やせ願望の多さを報告した.この他に も,思春期や青年期の人を対象にやせ願望について 行った研究の多くは,女性がやせ願望を持っている ことを報告している6-8).体型がやせであるにも関 わらずやせ願望を持つことは,過度のダイエットを 行うきっかけとなり,それが摂食障害につながる可 能性がある.切池9)は1985年から1993年までの疫学 的研究の結果から,実際に10~20歳代の若者の間で 摂食障害の有病率が増加していることを報告してい る.  このやせ願望には,体型認識の歪みが関係してい ると考えられる.体型認識の歪みとは,太っていな いにも関わらず自己の体型を太っていると認識する ことや,太っているにも関わらず自己の体型を太っ ていないと認識することである.このうちの特に 「太っていないにも関わらず太っていると認識す る」という体型認識の歪みがやせ願望の背景にある と考えられ,多くの研究が行われている.西沢・木 田・木村ら10)は小学4~6年生を対象として,自己 の体型および肥満ややせについての認識を調査した が,やせ群の約5%,標準群の約30%は自己の体型 要   約  本研究は,体型認識およびその歪みが身体的自己概念に及ぼす影響について明らかにすることを 目的とした.大学生693名に,体型と体型認識に関するアンケートと日本語版身体的自己知覚プロ フィールを回答させた.体型に関しては,実際の身長・体重とその希望値を自己申告させ,身長と体 重の値からBMIを算出した.自己の体型を太っていると認識している群は,自己の体型を標準ややせ ていると認識している群より身体的自己概念が低かった.この群のうち,実際のBMIが普通以下の人 を「歪みあり群」,実際のBMIが肥満以上の人を「歪みなし群」とし,実際のBMIが普通であり体型 認識も歪んでいない群を「普通‐歪みなし群」とし比較した.その結果,歪みあり群が普通‐歪みな し群より身体的自己概念が低かった.特に,女性は歪みなし群も,普通‐歪みなし群より身体的自己 概念が低かった.このことから,体型認識とその歪みが身体的自己概念と関係していることが示さ れ,さらに女性は実際の体型も身体的自己概念と関係していることが示された.

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1 川崎医療福祉大学大学院 医療技術学研究科 健康体育学専攻 

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2 川崎医療福祉大学 医療技術学部 健康体育学科 (連絡先)及川和美 〒701-0193 倉敷市松島288 川崎医療福祉大学 E-Mail:kazumaro71@gmail.com

体型認識とその歪みが身体的自己概念に及ぼす影響

及川和美

*1

 田島 誠

*2

 米谷正造

*2 原 著

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及川和美・田島 誠・米谷正造 78 を肥満であると認識し,体型認識の歪みを持ってい ることが示された.体型認識の歪みの原因として, 雑誌やテレビといったマスメディアや異性からの影 響などが挙げられ,そういった原因の一つに自尊 感情(self-esteem)との関係が注目されてきてい る11)  体型認識の歪みと自尊感情の関係を調べた研究に おいて,多川ら11)は女子大学生を対象に,身長・ 体重・体脂肪率を測定し,体型認識・体型志向・自 尊感情等に関するアンケート調査を行い,肥満度を 体型の判断基準として,実際は太っていないにも関 わらず自己の体型を太っていると評価する過大評価 群と自己の体型を適切に評価している適正評価群に 分けて自尊感情と体型認識の歪みの関係を検討し た.その結果,過大評価群は適正評価群に比べ,自 尊感情得点が有意に低かったことから,自尊感情と 正しい体型認識には重要な関連があると報告してい る.また,竹内ら12)は,中学生を対象に,ボディ イメージ(体型認識)と自己評価的意識尺度による セルフイメージとの関係を明らかにするアンケート 調査を行った.体型を過大に評価している者は,体 型を過大に評価していない者に比べ,肥満度や学年 に関わらず自己受容の得点が低値であったことか ら,自己受容の低いことが実際の体重の受容をも障 害し,体重を過大評価する傾向の原因となると報告 している.このように,体型認識の歪みがある者は 自尊感情や自己受容が低いことが示され,体型認識 の歪みと自尊感情はお互いに深く関係しあっている と考えられる.  自尊感情とは,James13)によって自尊感情を自 己に対する満足・不満足といった自己評価の感情と 定義されたものが最も古く,日本においては,遠 藤14)や榎本15)によって定義されている.本研究で は,それらをまとめた内田・橋本16)を参考に,自 分をどれだけ肯定的・否定的にみるかといった自己 評価の感情と定義する.そして,自尊感情には下位 概念があり,最も主要な構成要素として身体的自己 概念があるといわれている16).身体的自己概念と は,自己の身体面に対してどう評価しているかとい うことである.身体的自己概念を測定する尺度と して,Physical Self-Perception Profile(PSPP) が開発され,信頼性及び妥当性が高いとされて いる17).この尺度の日本語版として,内田・橋 本・藤永18)により,日本語版身体的自己知覚プロ フィール(PSPP-J)が開発され,高い信頼性と妥 当性が確認されている.  上述したように,体型は人々の健康と深い関係が あり,肥満の場合はダイエットなどの身体的なアプ ローチによって改善ができるが,やせの場合,本人 がやせたいと思っていてもそれ以上のダイエットを 行うことは,摂食障害につながる危険性が考えられ る.しかし,現在行われている運動教室や家庭でで きるダイエット法などの情報によって,本当はダイ エットなどが必要ない体型であるにも関わらずやせ たいという希望があるだけで,ダイエットが必要な 人と同様のプログラムを行うことができると考えら れる.やせる必要のない人がダイエットを行うこと は,摂食障害のきっかけとなる可能性が考えられ る.このようなやせる必要がないけれどもやせたい という人々には身体的アプローチでなく,心理的な アプローチが必要になると考えられる.心理的なア プローチとして,体型認識と自尊感情の両方に対し てのアプローチが必要になると考えられ,そのため に,体型認識の歪みと自尊感情の関係についてより 詳細な資料が必要になると考えられる.  しかし,これまでの先行研究において,自尊感情 は包括的に捉えた自尊感情尺度でしか評価されてい ないが19,20),効果的な心理的アプローチを考えるた めには,包括的な自尊感情との関係を漠然と捉える のではなく,具体的な自尊感情の下位領域との関係 を捉えることが必要であると考えられる.  そこで,本研究では,体型認識およびその歪みが 自尊感情の下位概念である身体的自己概念に及ぼす 影響について明らかにすることを目的とした. 2

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方法 2

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1 対象と調査時期  本研究では,大学学部生827名(男性313名,女性 514名)を調査対象とした.対象者に対し,身体的 自己概念について調査を行うもので,アンケートに 参加することは任意であること,回答内容は本研 究や学会発表,論文投稿以外の目的で使用するこ とはないという説明を口頭と書面にて行い,イン フォームドコンセントを得た.なお,記入漏れや 記入ミスのあった回答を除いた有効回答数は693名 (83.7%),うち男性279名(89.1%),女性414名 (80.5%)であった.調査時期は,2010年6月~7月 であった. 2

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2 調査内容 2

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1 体型について  身長(実際の身長),体重(実際の体重),身長 の希望値(希望身長),体重の希望値(希望体重) をそれぞれ小数第一位まで自己申告で回答させた. それらの身長と体重の値から,実際の値と希望値そ れぞれのBMIを算出した.また,自己の体型に対す る認識を「とてもやせている」,「まあまあやせて

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いる」,「標準」,「まあまあ太っている」,「と ても太っている」の5段階評価で尋ねた. 2

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2 身体的自己概念について  身体的自己に対する認識については,PSPP-Jの 改訂版21)を用いた.回答は4件法で行い,得点が高 いほど高い身体的自己概念を有しているとみなし た.PSPP-Jの構成因子は表1に示す通りである. 2

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3 群分け 2

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1 BMIによる群分け  体型による身体的自己概念の違いを明らかにする ため,客観的な体型の評価として,日本肥満学会に よるBMIの基準を用い,表2に示すように群分けを 行った. 2

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2 体型認識による群分け  体型認識による身体的自己概念の違いを明らかに するため,対象者の体型認識から表3に示すように 群分けを行った. 2

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3 体型認識の歪みによる群分け  体型認識の歪みによる身体的自己概念の違いを明 らかにするため,対象者の体型認識と実際のBMIか ら,表4に示すように群分けを行った. 2

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4 統計処理  対応のあるt検定と1要因分散分析を用いた.相 関係数を算出するにあたり,ピアソンの積率相関係 数を用いた.下位検定にはFisher PLSD法を用い, 各統計の有意水準は5%未満とした. 3

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結果 3

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1 対象者の体型について  対象者の身長と体重,BMIの実際の値と希望値 を図1~3に示した.身長,体重,BMIそれぞれの 実際の値と希望値に対し対応のあるt検定を行った 結果,男性は,実際の値より有意に高い身長を希 望し(t(278)=21.220, p<.001),実際の値より有意 に重い体重を希望し(t(278)=6.050, p<.001),実 際の値より低いBMIを希望していた(t(278)=4.233, p<.001).女性は,実際の値より有意に高い身長を 希望し(t(404)=8.330, p<.001),実際の値より有意 17 表1 因子 説明 スポーツ有能感 スポーツの得意さや自信に関する項目 体調管理 体調やそれを維持するための運動習慣に関する項目 魅力的なからだ からだの外見や体型に関する項目 身体的強さ 身体的な強さや筋力に関する項目 身体的自己価値 身体的自己知覚における4つの下位領域の上位概念の構造 および包括的な概念として位置づけられている 表1 PSPP-Jの構成因子とその説明 18 表2 BMI 人数 やせ群 18.5未満 122名(男性30名,女性92名) 普通群 18.5~25.0未満 530名(男性226名,女性304名) 肥満Ⅰ群 25.0~30.0未満 350名(男性22名,女性13名) 肥満Ⅱ群 30.0以上 600名(男性1名,女性5名) 表2 BMIによる群分け 19 表3 体型認識 人数 とてもやせている群  とてもやせている 272名(男性23名,女性4名) まあまあやせている群  まあまあやせている 852名(男性64名,女性21名) 標準群  標準 289名(男性113名,女性176名) まあまあ太っている群  まあまあ太っている 243名(男性66名,女性177名) とても太っている群  とても太っている 492名(男性13名,女性36名) 表3 体型認識による群分け 20 表4 体型認識 実際のBMI 体型認識の歪み 人数 歪みあり群 太っている 25未満(やせ・普通) あり 268名(男性65名,女性203名) 歪みなし群 太っている 25.0以上(肥満度Ⅰ・肥満度Ⅱ) なし 24 名(男性14名,女性10名) 普通‐歪みなし群 標準 18.5~25.0(普通) なし 229名(男性108名,女性121名) 表4 体型認識の歪みによる群分け 21 図1 150  160  170  180  190  男性 女性 身 長( ) 実際の身長 希望身長 cm ** *p<.05 ** 図1 対象者の実際の身長と希望身長の比較 22 図2 30  40  50  60  70  80  男性 女性 体 重( ) 実際の体重 希望体重 kg *p<.05 ** ** 図2 対象者の実際の体重と希望体重の比較

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及川和美・田島 誠・米谷正造 80 に軽い体重を希望して(t(404)=16.487, p<.001), 実 際 の 値 よ り 有 意 に 低 い B M I を 希 望 し て い た (t(404)=20.378, p<.001).男性には身長は高く体 重は重くなりたいという願望があり,女性には身長 は高く体重は軽くなりたいというやせ願望があるこ とが示された. 3

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2 身体的自己概念と体型との関係について  身体的自己概念と体型の関係について明らかに するため,BMIの各群のPSPP-Jの因子別得点を比 較し,男性は図4に女性は図5に示した.1要因分散 分析を行った結果,男性は,「スポーツ有能感」, 「体調管理」,「魅力的なからだ」,「身体的自己 価値」において有意な主効果は示されなかったが, 「身体的強さ」においては主効果がある傾向が示さ れ(F(3,275)=2.339, p<.10),下位検定の結果,や せ群が普通群と肥満Ⅰ群に比べて低い値を示した. このことから,男性の身体的自己概念には実際の体 型は影響していないと考えられる.  女性は,「スポーツ有能感(F(3,410)=7.368, p<.001)」において有意な主効果が示され,下位 検定の結果,やせ群が普通群に比べて有意に低い 値を示した.肥満Ⅱ群がやせ群と普通群と肥満Ⅰ 群に比べて有意に低い値を示した.「体調管理 (F(3,410)=8.845, p<.001)」において有意な主効果 が示され,下位検定の結果,やせ群が普通群に比べ て有意に低い値を示した.肥満Ⅱ群がやせ群と普通 群と肥満Ⅰ群に比べて有意に低い値を示した.「魅 力的なからだ(F(3,410)=6.172, p<.001)」において 有意な主効果が示され,下位検定の結果,やせ群 が普通群と肥満Ⅰ群と肥満Ⅱ群に比べて有意に高 い値を示した.肥満Ⅱ群がやせ群と普通群と肥満 Ⅰ群に比べて有意に低い値を示した.「身体的強 さ(F(3,410)=5.618, p<.001)」において有意な主効 果が示され,下位検定の結果,やせ群が普通群に 比べて有意に低い値を示した.「身体的自己価値 (F(3,410)=3.749,p<.05)」において有意な主効果 が示され,下位検定の結果,肥満Ⅱ群がやせ群と普 通群に比べて有意に低い値を示した.このことか ら,女性の身体的自己概念には実際の体型が影響し ていると考えられる. 3

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3 身体的自己概念と体型認識の関係について  次に,身体的自己概念と体型認識の関係について 明らかにするために,体型認識の各群のPSPP-Jの 因子別得点を比較し,男性は図6に女性は図7に示 した.1要因分散分析を行った結果,男性は,「ス ポーツ有能感(F(4,274)=6.321, p<.001)」におい て,有意な主効果が示され,下位検定の結果,とて も太っている群とまあまあ太っている群が,標準群 とまあまあやせている群に比べて有意に低い値を 示した.「体調管理(F(4,274)=8.720, p<.001)」に おいて,有意な主効果が示され,下位検定の結果, とても太っている群とまあまあ太っている群が, 標準群とまあまあやせている群に比べて有意に低 い値を示した.「魅力的なからだ(F(4,274)=10.913, p<.001)」において,有意な主効果が示され,下位 23 図3 18  20  22  24  男性 女性 B M I( kg /m 2  ) 実際のBMI 希望BMI *p<.05 ** ** 図3 対象者の実際のBMIと希望BMIの比較 24 図4 3  5  7  9  11  13  スポーツ 有能感 体調管理 魅力的な からだ 身体的 強さ 身体的 自己価値 得 点 やせ群 普通群 肥満Ⅰ群 肥満Ⅱ群 図4  男性のBMIによる群におけるPSPP-Jの因子得点の 比較 25 図5 3 5 7 9 11 13 スポーツ 有能感 体調管理 魅力的な からだ 身体的 強さ 身体的 自己価値 得 点 やせ群 普通群 肥満Ⅰ群 肥満Ⅱ群 * * * * * * * * * * * * * * * * *p<.05 図5  女性のBMIによる群におけるPSPP-Jの因子得点の 比較

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検定の結果,とても太っている群とまあまあ太っ ている群が,標準群とまあまあやせている群とと てもやせている群に比べて有意に低い値を示し た.まあまあやせている群が標準群に比べて有意 に低い値を示した.「身体的強さ(F(4,274)=8.703, p<.001)」において,有意な主効果が示され,下位 検定の結果,標準群が他の4群より有意に高い値を 示した.まあまあ太っている群がまあまあやせて いる群に比べて高い値を示した.「身体自己価値 (F(4,274)=4.049, p<.01)」において,有意な主効 果が示され,下位検定の結果,標準群がまあまあ 太っている群ととても太っている群に比べて高い値 を示した.このことから,とても太っている群とま あまあ太っている群は全体的に身体的自己概念が低 く,自己の体型を太っていると認識している人は身 体的自己概念が低いことが示された.  女性は,「魅力的なからだ(F(4,409)=24.214, p<.001)」において,有意な主効果が示され,下位 検定の結果,とても太っている群が標準群とまあ まあやせている群,まあまあ太っている群に比べ て有意に低い値を示した.まあまあ太っている群 が標準群とまあまあやせている群に比べて有意に 低い値を示した.「身体自己価値(F(4,409)=6.825, p<.001)」において,有意な主効果が示され,下位 検定の結果,とても太っている群が標準群とまあま あやせている群,まあまあ太っている群に比べて有 意に低い値を示した.まあまあ太っている群が標準 群に比べて低い値を示した.しかし,「スポーツ有 能感」,「体調管理」,「身体的強さ」において, 有意な主効果は示されなかった.このことから,自 己の体型を太っていると認識している人は,外見や 体型,自己の身体面全体に対しての評価が低いこと が示された.  しかし,とても太っている群とまあまあ太って いる群の中には,実際のBMIが肥満の人,実際の BMIが普通もしくはやせの人が含まれている.その ため,実際にはBMIが普通であるにもかかわらず, 太っていると認識している(体型認識の歪みがあ る)人について,身体的自己概念と体型認識の歪み にどのような関係にあるか詳細に検討する必要があ る. 3

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4 身体的自己概念と体型認識の歪みの関係につ いて  とても太っている群とまあまあ太っている群に おいて,身体的自己概念と体型認識の歪みの関係 を明らかにするために,体型認識の歪みによる身 体的自己概念の違いを比較し,男性は図8に女性 は図9に示した.男性において,各群の人数は歪 みあり群(65名),歪みなし群(14名),普通‐ 歪みなし群(108名)であった.それぞれの因子 得点において,1要因分散分析を行った結果,「ス ポーツ有能感(F(2,184)=12.206, p<.001)」におい て,有意な主効果が示され,下位検定の結果,歪 みあり群が普通‐歪みなし群より有意に低い値を 示した.「体調管理(F(2,184)=17.534, p<.001)」 において,有意な主効果が示され,下位検定の結 果,普通‐歪みなし群が歪みあり群と歪みなし群に 比べて有意に高い値を示した.「魅力的なからだ (F(2,184)=19.022, p<.001)」において,有意な主 効果が示され,下位検定の結果,歪みあり群が普通 ‐歪みなし群より有意に低い値を示した.「身体的 強さ(F(2,184)=6.224, p<.01)」において,有意な 主効果が示され,下位検定の結果,歪みあり群が普 通‐歪みなし群より有意に低い値を示した.「身体 自己価値(F(2,184)=6.642, p<.01)」において,有 意な主効果が示され,下位検定の結果,歪みあり群 26 図6 4  8  12  16  スポーツ 有能感 体調管理 魅力的な からだ 身体的 強さ 身体的 自己価値 得 点 とてもやせている群 まあまあやせている群 標準群 まあまあ太っている群 とても太っている群 * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *p<.05 図6  男性の体型認識による群におけるPSPP-Jの因子 得点の比較 27 4 8 12 16 スポーツ 有能感 体調管理 魅力的な からだ 身体的 強さ 身体的 自己価値 得 点 とてもやせている群 まあまあやせている群 標準群 まあまあ太っている群 とても太っている群 * * * * * * * * * *p<.05 図7  女性の体型認識による群におけるPSPP-Jの因子 得点の比較

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及川和美・田島 誠・米谷正造 82 が普通‐歪みなし群より有意に低い値を示した.歪 みあり群が普通‐歪みなし群より有意に低い身体的 自己概念を示した.このことから,体型認識の歪み を持っている人は,BMIが普通で体型認識の歪みを 持っていない人より,身体的自己概念が低いことが 示された.  女性において,各群の人数は歪みあり群(203 名),歪みなし群(9名),普通‐歪みなし群(121 名)であった.それぞれの因子得点において,1 要因分散分析を行った結果,「スポーツ有能感 (F(3,330)=6.253, p<.001)」において,有意な主効 果が示され,下位検定の結果,普通‐歪みなし群 が歪みあり群と歪みなし群に比べて有意に高い値 を示した.「体調管理(F(3,330)=5.744, p<.001)」 において,有意な主効果が示され,下位検定の結 果,普通‐歪みなし群が歪みあり群と歪みなし群 に比べて有意に高い値を示した.「魅力的なから だ(F(3,330)=25.706, p<.001)」において,有意な 主効果が示され,下位検定の結果,普通‐歪みな し群が歪みあり群と歪みなし群に比べて有意に高 い値を示した.「身体自己価値(F(3,330)=11.042, p<.001)」において,有意な主効果が示され,下位 検定の結果,普通‐歪みなし群が歪みあり群と歪み なし群に比べて有意に高い値を示した.しかし, 「身体的強さ」においては有意な主効果は示されな かった.「スポーツ有能感」,「体調管理」,「魅 力的なからだ」,「身体自己価値」において歪みあ り群と歪みなし群は普通‐歪みなし群より有意に低 い身体的自己概念を示したことから,実際に太って いる・太っていないにかかわらず太っていると認識 している人は,BMIが普通で体型認識の歪みを持っ ていない人より,身体的自己概念が低いことが示さ れた. 4

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考察  対象者の身長・体重・BMIの実際の値と希望値の 結果から,男性は実際の身長より希望身長が高く, 実際の体重より希望体重が重かったが,実際のBMI が希望BMIより高かった.これは,BMIの計算式の 性質を考えると,軽すぎる体重を希望していたか, 高すぎる身長を希望していたことが考えられる.つ まり,一部の男性はやせ願望を持っていることが考 えられる.佐藤・土谷22)は,高校生の男女を対象 に摂食障害傾向を調査した.男女で摂食障害傾向を 比較したところ,男子は女子よりも「やせているこ とへの周囲からの圧力」を感じていることが示され た.このことから,男子高校生はやせ願望が強く, 従来男性の身体像として一般的と考えられてきたも のよりも細身の姿を目指している場合が多いことが 考えられると報告している.つまり,本研究で男性 のやせ願望がみられたことは,この仮説を支持する 結果であると考えられる.  体型による身体的自己概念の違いについて,男性 はBMIによる群間に有意な主効果が示されなかった ことから,実際の体型は身体的自己概念に影響しな いことが考えられる.しかし,女性は「スポーツ有 能感」,「体調管理」,「魅力的なからだ」,「身 体的強さ」,「身体的自己価値」において,BMIに よる群間に有意な主効果が示されたことから,実際 の体型が身体面に対する評価に影響することが考え られる.これらのことから,男性は実際の体型が身 体的自己概念に影響しないことが考えられ,女性は 実際の体型が身体面に対する評価全体に影響するこ とが考えられる.  身体的自己概念と体型認識においては,男性は体 型認識と「スポーツ有能感」,「体調管理」,「魅 力的なからだ」,「身体的強さ」,「身体的自己価 値」に有意な主効果が示されたことから,体型認識 28 図8 4 8 12 16 スポーツ 有能感 体調管理 魅力的な からだ 身体的 強さ 身体的 自己価値 得 点 歪みあり群 歪みなし群 普通‐歪みなし群 *p<.05 * * * * * * 図8  男性の体型認識の歪みによる群におけるPSPP-J の因子得点の比較 29 図9 4 8 12 16 スポーツ 有能感 体調管理 魅力的な からだ 身体的 強さ 身体的 自己価値 得 点 歪みあり群 歪みなし群 普通‐歪みなし群 *p<.05 * * * * * * * * 図9  女性の体型認識の歪みによる群におけるPSPP-J の因子得点の比較

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が身体面に対する評価に影響することが考えられ る.一方,女性は体型認識と「魅力的なからだ」に のみ主効果があったことから,女性にとって体型認 識は外見に対する評価に影響すると考えられる.こ れらのことから,男性は体型認識が身体面に対する 評価全体に影響することが考えられ,女性は外見的 な評価にのみ影響することが考えられる.  また,太っていると認識している人の中で体型認 識の歪みを持っている人と持っていない人と,実際 の体型が普通で体型認識の歪みを持っていない人を 比較すると,男性において,太っていると認識して いる人の中で,体型認識の歪みを持っている人は, 実際の体型が普通で体型認識の歪みを持っていない 人より身体的自己概念が低いことが示された.女性 において,太っていると認識している人の中で,体 型認識の歪みを持っている人は,実際に太っていて 体型認識の歪みを持っていない人と同様に,実際の 体型が普通で体型認識の歪みを持っていない人より 身体的自己概念が低いことが示された.このことか ら,男性に比べて女性は実際の体型に関わらず,自 己の体型に対して厳しい評価や認識をしている可能 性が考えられる.  ここで特に問題なのは,体型認識の歪みを持って いる女性が,太っていないにも関わらず実際に太っ ている人と同様に身体的自己概念が低いことであ る.男性は体型認識の歪みを持っている人が,体型 が普通体型認識の歪みを持っていない人より身体的 自己概念が低いだけで,実際に太っている人ほどで はなく,また身体的自己概念には実際の体型が影響 しないことから,体型認識の歪みの改善を目指した 指導を行う場合,男性を対象とする時は体型認識の 歪みを持った人に注目し,心理的なアプローチを行 えばよいと考えられる.しかし,女性は,太ってい ると認識している人の中に,実際に太っている人と 太っていない人が混在するため,実際に太っている 人には身体的なアプローチ,実際に太っていない人 には心理的なアプローチをそれぞれに合わせて使 い分けていかなければならない.阿部・羽山・岡 田23)が,インターネット上で摂食障害の個人Web ページをもち,患者ではないが神経性大食症(自 己申告)である女性を対象に,e-mailでアンケート 調査を行った研究において,対象者6名全員がダイ エットをきっかけとして神経性大食症に陥っている ことから,やせる必要のない人にはダイエットを行 わせないことが重要になる.そのためには,正しい 体型認識と適切な理想体型の認識を持たせる必要が ある.そこで,体型認識について指導できる場面と して,教育現場や運動教室などがあると考えられ る.しかし,健康について学ぶ場面の多い保健体育 の授業で使う教科書を見てみると,詳細に体型や体 型認識について触れた章はあまりみられず,参考書 の中に付録として肥満とやせについて取り上げてい る程度である.従って,正しい体型認識や適切な理 想体型の認識を促すためには,体型や体型認識につ いての詳細な記述を加えることも検討する必要があ ると考える.また,運動教室やダイエット教室など の現場などにおいては,客観的な数値で判断し身体 的なアプローチを行っているが,客観的な数値とと もに,体型認識の歪みのような心理的な問題に対す るアプローチも行うことで,より人々の心身の健康 に貢献できると考えられる.  このようなアプローチが,やせる必要のない人の やせ願望をなくさせ,過度のダイエットによる摂食 障害などの健康障害を減らせると同時に,身体面に 対する自尊感情の向上からメンタルヘルスの向上に もつながると考えられる. そのために,今後は, 体型認識の歪みの改善や自尊感情の向上のための心 理的アプローチの具体的な方策を探っていく必要が ある. 5

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まとめ  本研究は,体型認識およびその歪みが自尊感情の 下位概念である身体的自己概念に及ぼす影響につい て明らかにすることを目的とした.  結果より,自己の体型を太っていると認識してい る人や体型認識の歪みのある人は身体的自己概念が 低いことが示された.このことから,体型認識とそ の歪みが身体的自己概念と関係していることが示さ れ,さらに女性は実際の体型も身体的自己概念と関 係していることが示された. 文     献 1) 日本肥満学会肥満症診断基準委員会:新しい肥満の判定と肥満症の診断基準.肥満研究,6,18−28,2004. 2)半藤保,川嶋友子:女子大学生の体型とやせ願望.新潟青陵学会誌,1(1),53−59,2009. 3) 健康・栄養情報研究会編:国民健康・栄養の現状―平成19年厚生労働省国民健康・栄養調査報告より―.第一出版株式会 社,東京,56,2010. 4) 加藤恵子:女子短大生の年次変化からみた体格認識について.名古屋文理短期大学紀要,25,75−80,2000.

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Abstract

The purpose of this study was to examine the influence of body perception and distortion on physical self-perception. 693 participants were answered a questionnaire that consisted of items concerning the body and body perception, and the Physical Self-Perception Profile-Japanese Version (PSPP-J). Participants were divided groups according to their responses to the questionnaire. The Obese-estimated group which participants estimated their body physique to be obese had lower scores in the PSPP-J than the group which participants estimated their body physique to be normal or lean. The Obese-estimated group classified into the Distortion group which 268 participants had normal or low BMI and the Non-distortion group which 24 participants had high BMI. These groups were compared with the Normal-non-distortion group which 229 participants had normal BMI and no distortion of body perception. The Distortion group had lower scores in the PSPP-J than the Normal-non-distortion group. And the Non-distortion group of 10 females had lower scores in the PSPP-J than the Normal-non-Non-distortion group. It was shown that the body perception and the distortion related to the physical self-perception, and in female, the body physique related to the physical self-perception.

Master’s Program in Health and Sports Science Graduate School of Health Science and Technology Kawasaki University of Medical Welfare

Kurashiki, 701-0193, Japan

E-Mail:kazumaro71@gmail.com

(Kawasaki Medical Welfare Journal Vol.21, No.1, 2011 77−85) Correspondence to:Kazumi OIKAWA

The Influence of Body Perception and the Distortion on Body Perception on

Physical Self-perception

Kazumi OIKAWA, Makoto TAJIMA and Shozo YONETANI (Accepted May 26, 2011)

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