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て食品と疾病の関係を消費者が意識するようになったし, 企業側も疾病を避けるという次元で食品を製品改良するようになった, という好意的な論調も一方にはあるものの (Calfee, 1991; Ippolito and Mathios, 1989, 1990a, b; 1991), 他方においては, こ

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Ⅰ. 研究目的

 食品業界が,その持続可能性を維持・発展し ていくためには,消費者の信頼を勝ち得る必要 がある。というのも,食品は,その安全性や健 康維持機能の点で,購買前評価はおろか,購買 後評価も難しいからである。食品業界各社が, 熾烈なマーケティング競争の手段として,広告 や製品パッケージにおいて,不当な健康強調表 示を行い,かつ,それが何かの拍子で白日の下 にさらされるならば,たちまち,その企業は, 競合企業をも巻き込みつつ,消費者需要を下落 させてしまうであろう。このような帰結に至ら ぬよう,企業が自発的に,不当な健康強調表示 を行わないようにすればよいのであるが,上記 のとおり,食品の保健機能は,日常的な購買・ 消費の現場において消費者にとって正しく評価 できるものではない。そこで,政府が法規制を かけることになる。  1984年,米国ケロッグ社 (Kellogg's) が,自 社製品を売り込むに際して,食物繊維には抗癌 作用があると広告したことをきっかけとして, 食品の広告ならびにパッケージにおける健康強 調表示は,瞬く間に業界全体に広まった (Ford, Hastak, Mitra, and Ringold, 1996)。これによっ 要約  本論は,食品の健康強調表示に対する米国の法規制が消費者の食品選択に及ぼす影響に関する既存の マーケティング研究を再吟味することによって,日本の保健機能食品制度が及ぼす影響に関するマーケ ティング研究の進展に貢献しようとするものである。本論が主張することには,米国の既存研究は,主 として,(1) 健康強調表示の解禁前後を比較した研究群,(2) 政府によって表示が義務づけられた栄養成 分表と,企業によって任意に表示された健康強調表示の両者に対する消費者の反応を分析した研究群, および,(3) 疾病リスクを抑えるという健康強調表示に対する賛否両論の事前情報が存在する場合の当該 の健康強調表示に対する消費者の反応を分析した研究群という,3 つの研究潮流によって分類される。一 方,日本の保健機能食品制度を研究する際に留意すべき,米国の健康表示規制にはない特徴として,ト クホマークという高品質シグナルを発する記号が存在するということと,パッケージ裏面には米国の栄 養成分表示に類する表示が限定的にしか行われないという 2 つの特徴が存在している。それゆえ,日本 における研究を独自に展開する余地は大きいということが主張された。 キーワード 健康強調表示,栄養成分表示,トクホ,機能性表示食品,フードマーケティング

食品の健康表示規制に関する

マーケティング研究

慶應義塾大学 商学研究科 後期博士課程

小野 雅琴

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て食品と疾病の関係を消費者が意識するように なったし,企業側も疾病を避けるという次元で 食品を製品改良するようになった,という好意 的な論調も一方にはあるものの (Calfee, 1991; Ippolito and Mathios, 1989, 1990a, b; 1991),他 方においては,これらの健康強調表示は,不完 全であったり,競合製品との些細な相違点を強 調するものであったり,誤解を招くようなもの であったりすることもあり,そのことによって 消費者は不利益を被っているという,否定的な 主張もある (Silverglade, 1991)。かくして,米 国連邦政府は,一旦は健康強調表示を全面的に 禁じたものの,1988 年,幾つかの慢性疾患に 対して効果的な食品,すなわち「保健機能食 品」と認定しうる食品が世の中には存在する と,公式的に認め,さらには,1990 年に,栄 養表示教育法 (NLEA: Nutrition Labeling and Education Act) を制定し,食品のパッケージ や広告に企業が自発的に掲げる健康強調表示や 栄養成分表示を統制するに至った。  この分野のマーケティング研究が盛んになっ たのは,このような経緯を経て健康表示教育 法が制定されてからであった (Golan, Kuchler, and Mitchell, 2000; Naylor, Droms, and Haws, 2009)。事実,1990 年に栄養表示教育法が制 定 さ れ,1994 年 に 栄 養 補 助 食 品 健 康 教 育 法 (DSHEA:Dietary Supplement Health and Education Act) が制定されると,これらの法 律の施行前と施行後における自発的な健康強調 表示の変化を調査した研究が盛んに行われる ようになった (例えば,Ippolito and Mathios, 1991; Balasubramanian and Cole, 2002; Caswell, Ning, Liu, and Mojduszka, 2003)。さ らに,米国食品医薬品局(FDA)が管理する「栄

養成分表」(Nutrition Facts panel) と,企業が 自発的に掲げる「健康強調表示」の組合せに対 する消費者反応に関する調査も多数行われる ようになった (例えば,Ford, et al., 1996; Roe, Levy, and Derby, 1999; Garretson and Burton, 2000)。加えて,このような 2 つの研究潮流を 指摘したNaylor, et al. (2009) 自身は,事前情 報と健康強調表示のギャップに対する消費者反 応を調査することによって,これらの研究とは 異なる第3の研究潮流の嚆矢となった。  一方,日本においては,1991 年,世界にさ きがけて施行された「特定保健用食品 (トク ホ)」制度がある。この制度の特長は,健康強 調表示を政府による個別審査を伴う許可制とし た点にある。米国の健康表示規制は,政府が定 めた栄養成分の規格基準に適合していれば,食 品メーカーの責任の下で,その栄養成分に保健 機能があるということを,予め定められた範囲 で強調することができるという制度であり,日 本における「栄養機能食品」に相当する。「特 定保健用食品」は,これとは異なり,食品メー カーが申請した個々の食品が保健機能を有する か否かを政府が審査し,審査に通過したら,そ の保健機能について強調することができるとい う制度なのである。  さらに,昨年 2015 年,日本の食品業界は, さらに大きなターニングポイントを迎えること になった。トクホ制度に加えて,「機能性表示 食品」制度が施行されたのである。米国に次い で施行されたトクホ制度が,上記のとおり,個 別審査を受けなくてはならない点において大変 厳格な制度であったのに対して,新しく施行さ れた機能性表示食品制度は,有効成分と機能の 因果的関係に関する過去の証拠をもって届出て

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おけば,許可を必要としないという点で,米国 を皮切りにして世界各国で施行される保健機能 食品規制法の方針に比べても緩やかであり,そ の点でも世界的に見て画期的な制度であると言 える。以上のような制度上の展開に鑑みれば, 日本の食品業界においては,いまだかつてない ほど「保健機能食品」に対する注目が高まって いると見なすことができるであろう。  しかしながら,1991 年に特定保健用食品制 度が施行され,1998 年にこの制度の下で特定 保健用食品として許可された食品が販売されて から 16 年が経過するものの,日本の保健機能 食品に関する制度が消費者の食品選択に及ぼす 影響に関する研究は,米国の制度のケースとは 異なり,極めて少ない。そこで,本論においては, 米国の健康強調表示規制が消費者の食品選択に 及ぼす影響に関する研究を概観した上で,日本 の保健機能食品に関する制度が消費者の食品選 択に及ぼす影響に関する研究を展開していく上 での適用可能性と限界を検討したい。

Ⅱ. 研究潮流1:健康強調表示に対する

法規制の施行前と施行後の比較

  上 記 の と お り,1984 年, 米 国 ケ ロ ッ グ 社 (Kellogg's) が,自社製品を売り込むに際して, 食物繊維には抗癌作用があると広告したことを きっかけとして,食品の広告ならびにパッケー ジにおける健康強調表示が,瞬く間に業界全 体に広まったのを受けて,米国連邦政府は,一 旦,健康強調表示を全面的に禁じたものの,食 品と疾病の関係は否定しがたいため,1990 年, 健康表示教育法を制定して,政府の指導下に おいて健康強調表示を許容する措置を取った。 この歴史的経緯を踏まえたマーケティング研 究には,Ippolito と Mathios による一連の研究 が あ る (Ippolito and Mathios, 1989, 1990a, b, 1991)。

 例えば,米国マーケティング協会が発行す る Journal of Public Policy & Marketing 誌 に 掲 載された 1991 年の研究において,Ippolito and Mathios (1991) は,問題の発端となったシリ アル食品市場におけるデータを用いて,健康強 調表示が全面禁止となった期間と,その後の 解禁となった期間を比較しようと試みた。彼 らが用いたデータは,具体的には,Advertising Age誌に掲載されている主要シリアル食品ブラ ンドの売上およびシェアに関するデータ,米 国食品医薬品局が全国の消費者に電話調査を 行って収集した Health and Diet Surveys に収 録されている消費者知識に関するデータ,ま た,Continuing Survey of Food Intakes by Individuals (CSFII) に収録されているシリア ル食品個人消費量に関するデータであった。  Ippolito and Mathiosは,統計技法を用いず, 上記の時系列データを加工して表にまとめて議 論するだけの素朴な分析技法を採用したもの の,そこから見出されたのは,極めて独創性の 高い知見であった。すなわち,彼らは,シリア ル食品広告における健康強調表示は,消費者に とって重要な情報源であり,健康強調表示に よって,消費者は食品と疾病の関係を意識する ようになったと言いうるのではないかと主張 し,さらに,企業側も,消費者によって意識さ れるようになった,疾病を避けるという次元で, 食品に対するイノベーションを探究しようと試 みるようになったと言いうるのではないかと主 張したのである。

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 健康強調表示に関する研究論文は,上記の Ippolito and Mathios (1991) や,後述の研究 潮流 2 および 3 の研究群がもっぱら米国マーケ ティング協会発行の Journal of Public Policy &

Marketing誌上において発表されてきたのに対

し て,Balasubramanian and Cole (2002) は, マーケティング学術誌として最高峰に位置づけ られる同協会発行の Journal of Marketing 誌に, ついに取り上げられるに至った,著者の知りう るかぎり最初の論文である。彼らは,Ippolito and Mathios (1989, 1990a, b, 1991) 以来の研究 課題である「健康表示教育法の施行前と施行後 において,いかなる変化が生じたか?」につい て再び取り上げて,大規模な調査を実施し,か つ,統計解析を伴った実証分析を行った。  上記の研究課題に加えて,彼らは,5 つの調 査仮説を設定した。5 つの仮説とは,以下のと おりである。すなわち,仮説 1 は,「健康表示 教育法の施行前に比して,施行後においては, 消費者の探索強度や再生効率が高まり,彼らは ポジティブな栄養成分というよりむしろ,ネガ ティブな栄養成分に基づいて食品選択を行う傾 向が高まった」,仮説2は,「健康表示教育法の 施行前に比して,施行後においては,消費者の 動機付けは,探索強度や再生効率の決定要因と して重要ではなくなった」,仮説3は,「健康表 示教育法の施行前に比して,施行後においては, 消費者の知識は,再生効率の決定要因として重 要ではなくなった」,仮説4は,「健康表示教育 法の施行前に比して,施行後においては,ブラ ンド間の類似性と探索強度の間の負の関係は強 まった」,仮説5は,「健康表示教育法の施行前 に比して,施行後においては,ブランド・ロ イヤルティと探索強度の間の負の関係は強まっ た」である。  調査の結果,まず,消費者の栄養成分情報の 探索行動や再生効率については,健康表示教育 法の施行前と施行後の間に差異がさほど見出さ れなかったものの,新しい健康強調表示に対し て注意を払う健康志向な消費者も中にはいるこ とが見出された。また,特定の栄養成分を強調 した食品を選択しようという傾向が,味や予算 の範囲内に限られるものの見出された。つぎに, 仮説1に関して,新しい健康強調表示によって, 探索強度や再生効率が高まり,また,ネガティ ブな栄養成分に関して確認するようになったこ とが見出された。また,仮説2に関して,消費 者の動機付けは,探索強度や再生効率の決定要 因として重要ではなくなったと期待されたが, そうではなく,購買動機の高い消費者は,検証 困難な健康強調表示に対してむしろ懐疑的であ るということが見出された。同様に,仮説3に 関して,消費者の知識は,探索強度や再生効率 の決定要因として重要ではなくなったと期待さ れたが,そうではなかった。一方,仮説4に関 して,ブランド間の類似性と探索強度の間の負 の関係は,事前に仮説化したとおり強まってい ることが見出された。すなわち,栄養成分の類 似した競合ブランドが存在する場合には,栄養 成分に関する情報探索量が減じられる傾向が強 まったということである。最後に,仮説5に関 して,ブランド・ロイヤルティと探索強度の間 の負の関係も,事前に仮説化したとおり強まっ ていることが見出された。すなわち,ブランド・ ロイヤルティが高いブランドについては,栄養 成分に関する情報探索量がより低くなったとい うことである。

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究が,1990 年施行の健康表示教育法の施行前 と施行後の比較を行ったのに対して,Caswell, et al. (2003) は,1994年施行の栄養補助食品健 康教育法の施行前と施行後を比較した。栄養補 助食品健康教育法の下で許可された健康強調表 示は,健康表示教育法の下で許可された健康強 調表示が,単に,特定の栄養成分と特定の疾病 リスク軽減の因果的関係について消費者教育を 行うための表示にすぎなかったのに対して,そ の特定の栄養成分を有する食品が栄養補助食品 である旨を指摘するような表示である。このよ うな表示が可能になる前と後を比較したのであ る。  彼らが注目したのは,食品の栄養成分表示 や健康強調表示の数,表示を有する食品の数, および,表示の一般化度という,栄養補助食 品健康教育法の 3 つの側面である。これら 3 つ の変数に関する時系列データは,Ippolito and Mathios (1991) と同様に,統計解析の対象と して取り扱われるのではなく,加工して表にま とめられての議論の対象となった。彼らの議論 によると,新しい法規制の下では,栄養成分表 示を行った食品は幾分減少した一方,健康強調 表示を行った食品は増加したこと,しかしなが ら,食品の栄養成分表示の数は健康強調表示の 数を上回っており,健康強調表示は,いまだ少 数に留まっているとのことである。

Ⅲ. 研究潮流2:栄養成分表と

健康強調表示に対する消費者反応

 先駆的研究である Ippolito and Mathios によ る一連の研究 (1989, 1990a, b, 1991) と同様に, 法律の施行を擁護する立場に立ちながら,彼ら とは全く異なる観点から擁護しようと試み,な おかつ,統計解析を伴った実証分析を行ったの が,Ford, et al. (1996) である。彼らは,3 つ の調査課題を設定した。第1の調査課題は,「消 費者は栄養成分表を解釈する資質を持っている と報告する既存研究が存在するものの (Levy, Fein, and Schucker, 1992),そうとも限らず, 例えば8グラムの脂質というのが,高いのか低 いのか判らない消費者もいるだろうか?」,第 2 の調査課題は,「健康強調表示があれば,栄 養成分表を解釈する資質の高低にかかわらず, 消費者は,それを解釈しようと努めるだろう か?」,第3の調査課題は,「健康強調表示があ れば,栄養成分表を完全に無視して,健康強調 表示のみに頼ろうとするであろうか?」であっ た。  分散分析の結果,Ford, et al.は,(1) 健康強 調表示は,感情的な健康に関する期待をもたら すということ,および,(2) 栄養成分表は,製 品評価に独立的な影響を有している(つまり, 健康強調表示からの影響を受けない)というこ とを見出した。これらの知見は,健康強調表示 が栄養成分表の情報処理を促すのではないかと いう考えと合致していない。とりわけ,パッケー ジ正面の健康強調表示は,消費者に対して,そ の食品の栄養成分が健康に寄与することに関す る期待,あるいは言わば「仮説」を形成させる 種類の情報であると見なされる一方,パッケー ジ裏面の栄養成分表は,その「仮説」を検証な いし反証するための情報である,という「仮説 検証枠組 (hypothesis-testing framework)」に おいて,第2の情報源が曖昧な情報しか提供し ていない場合には,第2の情報源に露出しても, 第1の情報源によって形成された期待が正しく

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更新されないのではないかという,いわゆる「追 認バイアス (confirmation bias)」が生じるので はないか,という予想を支持してはいない。予 想に反して,健康強調表示は栄養成分表の間に, 後者が曖昧であっても前者が促進されるという 関係を有してはいなかったのである。  かくして,食品パッケージにおいて,その正 面に企業が自発的に掲げる情報と,パッケー ジ裏面の米国食品医薬品局 (FDA) が管理する 「栄養成分表」という,食品に関して品質評価 の購買意思決定を下すために消費者が用いるこ とができる異なる2つの情報源を調査した結果, 一方の,パッケージ正面における健康強調表示 は,他方の,パッケージ裏面における栄養成分 表から読み取れる情報の一部を際立たせ,強調 する役割を演じているものと推論されたもの の,両者の間には相互作用は見いだされなかっ たことになる。

 Roe, et al. (1999) は,Ford, et al. (1996) の 追随研究を実施するに際して,「食品評価を課 題に有する消費者が,健康強調表示および栄養 成分表という2つの異なる情報源を,いかに使 用するのだろうか?」という調査課題を設定し て調査を行った。Ford, et al.は,それまで第1 の情報源を購買前に露出する広告,第2の情報 源を購買後に露出する製品それ自体として研究 されてきた「追認バイアス」(Deighton, 1984; Hoch and Deighton, 1989; Hoch and Ha, 1986) に着目し,これをパッケージ正面とパッケージ 裏面に置き換えて研究したものの,先述のとお り,健康強調表示と栄養成分表の間には追認バ イアスは見出されなかった。Roe, et al. は,そ の理由を,消費者が2種類の情報源に露出する ケースにおいては当てはまるかもしれないが, そうでないケースにおいては当てはまらないと いう点に見出し,前者のケースに限定しないと いう意味において,Ford, et al.の研究を拡張し た。すなわち,消費者がどのように2種類の情 報源に露出するかに応じて,消費者がそれらの 情報源からの情報を統合する仕方が変わってく るがゆえに,追認バイアスは生じないこともあ るのではないかと考えたのである。  かくして,彼らは,3つの調査仮説を設定して, 調査を行った。3 つの調査仮説とは,以下のと おりである。すなわち,仮説 1 は,「自発的な 健康強調表示や栄養成分表示が存在すると,栄 養成分表に対する情報探索確率は低い」,仮説 2は,「情報探索が省略されると,(a) 製品の健 康さと購買の好ましさが増加し,(b) 強調表示 再述 (プレイバック) 型の健康便益推論水準が 増加する一方,(c) 非強調表示型の正確な健康 便益推論水準は減少し,(d) ハロー効果が生じ,

(e) 魔法の弾丸 (magic bullet) 効果も生じる」 であり,それゆえ,仮説 3 は,「健康強調表示 や栄養成分表示が存在すると,(a) 製品の健康 さと購買の好ましさが増加し,(b) 強調表示再 述 (プレイバック) 型の健康便益推論水準が増 加する一方,(c) 非強調表示型の正確な健康便 益推論水準は減少し,(d) ハロー効果が生じ, (e) 魔法の弾丸 (magic bullet) 効果も生じる」

であった。  回帰分析の結果,Roe, et al. は,(1) 健康強 調表示が (あるいは,幾分かは,栄養成分表示 も),パッケージ正面に対する情報探索確率と 有意に関連している一方,パッケージ裏面の「栄 養成分表」に対する情報探索確率とは関連して いないということを見出した。また,(2),パッ ケージ正面しか見ない調査協力者たちは,表示

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の有無にかかわらず,当該製品を購買したいと 回答する高い傾向を有し,(3) 表示に含まれる 健康便益を正確に再生したり記述したりする傾 向も高いということを見出した。さらに,(4) 健康強調表示や栄養成分表示のある食品は,情 報探索にかかわらず,健康な食品であると見な され,購買意図も高く,(5) そうした食品に対 して,表示によって言及された健康便益が再生 される傾向は高い一方,(6) 不適切な健康便益 は,当該の食品全体に帰属させられるというハ ロー効果も観察され,また,一部の製品カテゴ リーにおいては,健康強調表示がより不適切な 健康帰属をもたらしたため,魔法の弾丸効果も 観察されたと結論づけた。最後に,(7) 健康強 調表示や栄養成分表示はいずれも健康情報とし て見なす調査協力者が大半であり,2 種類の健 康情報が及ぼす影響はほとんど等しいと報告さ れた。

 上記のFord, et al. (1996) やRoe, et al. (1999) が,異なる種類の栄養成分ないし健康強調要 素の間の差を考慮に入れなかったのに対して, Garretson and Burton (2000) は,異なる対象 に関する栄養成分表示や健康強調表示が,消費 者の製品評価,疾病リスクの知覚,栄養成分表 や健康強調表示の情報信頼度に及ぼす影響に ついて調査しようと試みた。彼らは,まず,3 つの調査課題を設定した。第 1 の調査課題は, 「疾病に直結していると消費者に知覚された栄 養成分 (脂質) と,疾病に直結していると消費 者に知覚されていない栄養成分 (繊維) の間に は,栄養成分表や健康強調表示が消費者態度に 及ぼす影響に,いかなる差異があるか?」,第 2 の調査課題は,「栄養成分表や健康強調表示 の差は,疾病リスクの知覚や食品 - 疾病間関係 に関する知識に対して,いかなる影響を及ぼす か?」,第3の調査課題は,「パッケージ正面の 健康強調表示とパッケージ裏面の栄養成分表の 間の情報の組合せが,それらの情報や企業に対 する信頼度に対して,いかなる影響を及ぼす か?」であった。  これらの課題を直接的ないし間接的に解くた めに,彼らは,5 つの調査仮説を設定して,調 査を行った。5 つの仮説とは,以下のとおりで ある。すなわち,仮説 1 は,「食品ブランドや 成分に対する消費者態度や,購買に対する意図 は,栄養成分表における脂質の値が高いほど低 く,この因果的関係は,他の因果的関係より大 きく,とりわけ,高脂質・高繊維の場合と低脂 質・低繊維の場合の差は,低脂質・高繊維の場 合と高脂質・低繊維の場合の差より大きい」, 仮説2は,「栄養成分表において低脂質ならば, 疾病リスクは低く知覚され,その因果的関係 は,繊維の因果的関係より大きい」,仮説3は, 「脂質と繊維に関する健康強調表示に露出した 消費者は,健康強調表示に露出しなかった消費 者に比して,心臓麻痺と癌の恐れが低いと知覚 する」,仮説4は,「脂質と繊維に関する健康強 調表示に露出した消費者は,健康強調表示に露 出しなかった消費者に比して,栄養成分と疾病 リスク因果的関係を強く知覚する」,そして仮 説 5 は,「脂質に関して栄養成分表における表 記と一致しない健康強調表示に露出した消費者 は,栄養成分表における表記と一致した健康強 調表示に露出した消費者に比して,強調表示と 企業の信頼度が低く,その差は,繊維に関する 差より大きい」であった。  多変量分散分析 (MANOVA) および 単変量 の差の検定の結果,栄養成分情報が消費者の態

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度や購買意図に及ぼす影響 (仮説1),疾病リス クの知覚 (仮説2 ~仮説4),信頼性 (仮説5) は, 成分間差異とは無関係な仮説4は不支持であっ たものの,その他の仮説群は概ね支持された。 これによって得られた特筆すべき知見は,疾病 に直結すると知覚された栄養成分に関する栄養 成分表における表記は,そうでない栄養成分に 関する表記に比して,消費者反応に対して大き な影響を及ぼすということ,および,疾病に直 結すると知覚された栄養成分に関する栄養成分 表における表記と健康強調表示の間の矛盾は, そうでない栄養成分に関する矛盾に比して,消 費者に気づかれやすく,それゆえ,強調表示に 対する信頼性が揺らぎやすいということであろ う。

Ⅳ. 研究潮流3:事前情報と健康強調表示

のギャップに対する消費者反応

 先述のとおり,Naylor, et al. (2009) は,健 康強調表示に関する消費者教育を政策策定者が 行おうと試みても,何が健康的で何が健康的で ないかに関して報道機関の報道に矛盾があるた めに,健康強調表示を行っている食品を選択す るべきか,それとも,健康強調表示を行って いない食品を選択するべきかを判断すること が,消費者にとって困難であるという点に着 目し (Block and Peracchio, 2006),「健康強調 表示の妥当性に関して矛盾した情報が存在する ような不透明な環境下において,消費者は健康 強調表示に対していかなる反応を示すであろう か?」という調査課題を設定することによって, 健康表示規制の研究の分野において新しい研究 潮流を成した。  この課題を解くために,彼らは,3 つの調査 仮説を設定して,調査を行った。3 つの仮説と は,以下のとおりである。すなわち,仮説1は, 「食品の健康強調表示の妥当性に関して矛盾し た情報が存在する場合,健康志向の低い消費者 は,健康志向の高い消費者に比べて,健康強調 表示を行っている食品を選択する傾向を低め る」,仮説2は,「健康志向の高い消費者は,健 康志向の低い消費者に比べて,健康強調表示の 妥当性を疑問視するような情報に露出した後に おいても,その健康強調表示を依然として信じ る傾向にある」,そして,仮説3は,「その極め て揺るぎのない信念は,健康志向と矛盾した情 報との間の相互作用を媒介する」であった。  ロジスティック回帰分析の結果,仮説化した とおり,健康志向の高い消費者は,健康強調表 示を支持するような情報の後に表示された,健 康強調表示の妥当性を疑問視するような情報を 割り引くという行動を見せ,また,健康強調表 示に対する信念が,それを行っている食品への 選好を促進するということが見出された。

Ⅴ. 日本における食品の健康表示規制に関

するマーケティング研究の知見と課題

 本論冒頭において言及したとおり,日本には, 1991 年,世界にさきがけて施行された,独自 の厳しい健康表示規制が存在する。それは,「特 定保健用食品 (トクホ)」制度である。トクホ 制度の特徴は,健康強調表示を政府による個別 審査を伴う許可制とした点にある。米国の健康 表示教育法や栄養補助食品健康教育法が,政府 が定めた栄養成分の規格基準に適合していれ ば,食品メーカーの責任の下で,その栄養成分

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に保健機能があるということを,予め定められ た範囲で強調することができる制度であるのと は異なり,日本のトクホ制度は,食品メーカー が申請した個々の食品が保健機能を有するか否 かを政府が審査し,審査に通過したら,その保 健機能について強調することができる制度であ る。  このことから導出される1つの特徴は,政府 の厳しい審査を経てひとたびトクホ食品として 許可された食品は,消費者から高水準の保健機 能を有する食品として評価されるということで ある。先述のとおり,米国の健康強調表示規制 に関する最新のマーケティング研究のトピック は,健康強調表示に対して賛否両論な外在的情 報の存在が及ぼす影響であったが,日本のトク ホ制度の下において許可された健康強調表示に 関しては,外在的情報の影響が入り込む余地が ないと予測されるほどに揺らがないのである。 とりわけ日本においては,最近まで,米国市場 において食品医薬品局が管理する栄養成分表に 比して栄養成分表における記載義務事項が少な く,栄養成分の含有量が明記されてこなかった ために,栄養成分表は消費者による参照の対象 にはなりにくい。それゆえ,米国における最新 のマーケティング研究が取り扱ってきたよう な,パッケージ正面における健康強調表示お よびパッケージ裏面における栄養成分表という 二重の情報の間の相互作用という研究トピック は,日本のトクホ制度を取り扱う研究には馴染 まないであろう。  他方,日本のトクホ制度には,特筆すべき二 重の情報を包含している。それはすなわち,当 該制度によってトクホ食品にしか許可されない 健康強調表示が存在するだけでなく,同じくト クホ食品にしか表示が許可されない「トクホ マーク」と呼ばれるシンボルマークが存在する ということである。トクホマークは,それがパッ ケージ正面に存在しているだけで,その食品が, 政府のお墨付きを得た高水準の保健機能を有す る食品であることが判るという意味で,高度な シグナリング効果を有している。それと比較す ると,健康強調表示は,厳しい規制の下で許可 されたものであるにもかかわらず,例えば「ダ イエットコーラ」の「ダイエット」のように科 学的に無根拠な,企業による自発的表示と混同 されやすいと推測されよう。このように,健康 強調表示とシンボルマークという,米国にはな い二重の情報の間の相互作用という研究トピッ クが浮上するのである。  この新たな研究トピックについて,Ono and Ono (2015) は,2つの仮説を設定した。仮説1は, 「トクホマークは,トクホ食品の知覚健康価値 を高める。健康強調表示は,トクホ食品の知覚 健康価値を高めない。トクホマークと健康強調 表示は,トクホ食品の知覚健康価値に交互効果 を及ぼす」,さらに,仮説2は,「健康強調表示は, 同一カテゴリーの競合商品の知覚健康価値を高 める。ただし,競合商品とパッケージの類似度 が低い場合,健康強調表示が及ぼす外部効果は 相対的に小さい」であった。  分散分析の結果,仮説1に関して,トクホマー クの有無と健康強調表示の有無の間には交互効 果が存在した。トクホマークありの場合には, 健康強調表示ありの場合に,知覚健康価値は高 水準であるが,トクホマークなしの場合には, 健康強調表示の有無にかかわらず,知覚健康価 値は低水準であった。仮説2に関しては,トク ホ食品の呈示とパッケージの類似度の間には交

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互効果が存在した。パッケージ類似度の高い場 合には,トクホ食品に露出した消費者は,トク ホ食品に似た非トクホ食品に対して高い評価を 与え,トクホ食品に露出していない消費者は, それと同じ製品に対して相対的に低い評価しか 与えなかった。  すなわち,トクホマークは,保健機能食品の 評価を向上させる効果を有し,その結果,保健 機能食品は,競合する非保健機能食品から成功 裡に差別化することができる一方,健康強調表 示は,単独では,評価に影響を及ぼすことはで きない,ということが示唆された。というの も,健康強調表示は,当のカテゴリーの代替ブ ランドの評価に対して外部効果を有するからで ある。ただし,健康強調表示の外部効果は,競 合製品と似ていないパッケージを採用すれば抑 制されるということも同時に示唆された。  以上のように,健康表示規制が消費者の食品 選択に及ぼす影響という研究領域は,米国にお ける研究成果がそのままでは適用できず,日本 における独自の研究を展開する余地が大きい研 究領域であるものの,その取り組みは始まっ たばかりである。注目すべきことに,2015 年, 特定保健用食品 (トクホ) 制度に加え,機能性 表示食品制度が施行された。この制度は,有効 成分と保健機能の因果的関係に関して,個別審 査を必要としないばかりでなく,エビデンスを 持って届け出さえすれば,表示許可を必要とし ない点において,トクホ制度とは対極的な意味 で,米国や諸外国とは異なる特徴的な制度であ る。さらに,マーケティング研究の観点から指 摘するならば,トクホ食品には存在するシンボ ルマークが,機能性表示食品には存在しない。 このような新制度の有効性についての学術研究 は,著者の知りうる限り存在しない。そのよう な点を考えると,日本における食品の健康表示 規制を巡る現状は,世界的にみても興味深い, 今後開拓すべき大きな研究上の真空地帯の存在 を示唆していると言いうるであろう。     参考文献

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  小野 雅琴(おの まこと)  専門分野:マーケティングリサーチ,マーケティン グコミュニケーション論,マーケティング論,消費 者行動論  慶應義塾大学商学研究科 後期博士課程 

参照

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