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佐見 植田 結びつくと考えられている ₅). 畑は, その疾病をいかに深刻なものととらえていたとしても, 罹患の可能性がないと考えている場合には, その疾病への恐れは存在しないことになり, 結果としていかなる予防行動も起こりえないとしている. また, この 重大性 の自覚と 罹患性 の自覚の ₂ つ

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Academic year: 2022

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Ⅰ.目  的

 保健の授業で取り上げる健康問題については,

学習者が「過去のこと,他人のことと受け止めて しまい,授業に意欲を示さない,集中しないとい う問題がある」₁)ことが指摘されている.すなわ ち,保健の授業では,取り上げる健康問題が,ど

* 東京学芸大学・聖心女子大学大学院

* 聖心女子大学 連絡先:佐見由紀子

住所:〒₁₈₄-₈₅₀₁ 小金井市貫井北町₄-₁-₁ 東京学芸大学

実践報告

市販薬の使用における副作用の「罹患性」の 自覚を高める保健の授業

佐見由紀子 *

・植田 誠治 *

目的:中学校で取り上げる市販薬の使用における副作用の「罹患性」の自覚を高める教材を用いた保健の授 業を行い,その効果を検討することを目的とした.

方法:平成₂₆年 ₆ 月の同日に,都内国立大学附属A中学校 ₃ 年生 ₄ クラス₁₆₀名を対象に,準実験計画研究 デザインに基づきクラス単位で割付した. ₂ クラス₈₀名には,副作用の「罹患性」の自覚に焦点を当 てた事例教材を用いた授業を実施し,別の ₂ クラス₈₀名には,自然治癒力に焦点を当てた教材を用い た授業を実施した.授業の ₁ 週間前と ₁ 週間後, ₃ ヵ月後に無記名自記式の質問紙調査から,副作用 の「罹患性」の自覚,副作用への意識,副作用予防の自己効力感を得点化し,その変化を分析した.

なお,学習保障として,全てのクラスに対して, ₃ ヵ月後の調査が終了した後に,授業で取り上げな かった教材についてのプリントを配布し,授業者が補足説明を行った.

結果:副作用の「罹患性」の自覚に焦点を当てた授業では,副作用の「罹患性」の自覚の ₃ 項目全て(p<

₀.₀₀₁),副作用への意識の ₃ 項目全て(p<₀.₀₀₁),副作用予防の自己効力感では, ₂ 項目全て(「薬 剤師に質問することができる」:p=₀.₀₀₃,「説明書を読むことができる」:p<₀.₀₀₁)において有意 な差が認められた.また,授業の ₁ 週間前に比して ₁ 週間後の得点の中央値が高くなった.ただし,

副作用予防の自己効力感は, ₃ ヵ月後には授業前に戻っていた.一方,自然治癒力に焦点を当てた授 業では,副作用の「罹患性」の自覚に変化はなかった.副作用への意識と副作用予防の自己効力感で は,有意な差が認められ,授業の ₁ 週間前に比して ₁ 週間後に得点の中央値が低くなった.

結論:「罹患性」の自覚に焦点を当てた事例教材を用いた授業では,副作用の「罹患性」の自覚だけでなく,

副作用への意識に望ましい変化がみられた.副作用予防の自己効力感の変化の持続については,今後 の検討課題である.

〔日健教誌,₂₀₁₇;₂₅(₄):269-279〕

キーワード:保健の授業,中学校,副作用の「罹患性」の自覚,市販薬の適正使用

の程度,学習者にとって身近な問題であると感じ られるかが,学習意欲の向上に関係する.

 これまでの健康行動に関する研究では,自分が 病気に罹ったり,事故に遭ったりする可能性の認 識を,「罹患性」の自覚とし,病気や事故が起こっ た後の結果が重大であるという「重大性」の自覚 と,この「罹患性」の自覚により,特定の疾病等 の恐ろしさの自覚が生まれるとされている₂-₆).こ れらが,勧められた予防的保健行動をとる可能性 に結びつく ₁ つめの流れであり,さらに, ₂ つめ の流れとして,「保健行動の有効性」が「保健行動 の障害」を上回る場合に保健行動をとる可能性に

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結びつくと考えられている₅)

 畑は,その疾病をいかに深刻なものととらえて いたとしても,罹患の可能性がないと考えている 場合には,その疾病への恐れは存在しないことに なり,結果としていかなる予防行動も起こりえな いとしている.また,この「重大性」の自覚と

「罹患性」の自覚の ₂ つの因子を「疾病への主観的 評価」と位置づけ,「保健行動の有効性」と「保健 行動の障害」の ₂ つの因子を「保健行動の主観的 評価」と位置づけている₆)

 中学校における保健の授業では,新たに学習す る疾病や健康問題を,生徒がまずどのように受け 止めるかという疾病や健康問題への主観的評価が 重要であり,そこで,学ぶ価値があると判断する と,その後の保健行動についての評価につながる.

そのため,本研究では,教材の工夫をするにあた り,「重大性」の自覚と「罹患性」の自覚という疾 病や健康問題への主観的評価に着目することとし た.

 さらに,高橋は,エイズ教育の海外での教材を 紹介し,日本では,エイズの恐ろしさ,つまり

「重大性」に比して,感染可能性,つまり「罹患 性」の自覚に関する内容が不足していることを指 摘している₅).また,徐らは,健康情報に基づく 認識が自分自身及び自分の生活に意味あるものと して,個人の記憶にとどまることを,「健康認識の 個人化」と名づけ,他人事意識を変化させ,健康 メッセージを「自分の事」としてとらえるための 教材を,主に看護学生や助産師対象の健康教育の 事例をもとに紹介している₇).しかしながら,生 徒を対象とした保健の授業においては,病気や事 故の「罹患性」の自覚に焦点を当てた教材の提案 やその効果性を検証した研究はみられない.

 平成₂₀年度の学習指導要領から,中学校の保健 の授業に医薬品の適正使用の内容が導入された.

この内容は,「健康な生活と疾病の予防」の領域に 位置づけられ,「医薬品には,主作用と副作用があ ることを理解できるようにする.医薬品には,使 用回数,使用時間,使用量などの使用法があり,

正しく使用する必要があることについて理解でき るようにする」ことが主な学習内容とされてい る₈).そのため,昨今の医薬品の適正使用に関す る中学生対象の実践研究では,医薬品の種類や体 内動態,副作用,正しい使用法などの学習内容が 中心となっている₉-₁₁)

 しかし,医薬品の適正使用の学習において,生 徒にとって身近な市販薬を取り上げた場合でも,

日常的に使用している生徒もいれば,ほとんど使 用したことのない生徒もいる.そのため,市販薬 の適正な使用法を学習しても,自分には関係のな いことと考え,生活への応用に意識が向かない生 徒が出てくる可能性がある.よって,すべての生 徒が医薬品や市販薬を適正に使用しようという行 動意図をもつためには,何らかの教材の工夫が必 要である.

 そこで,本研究では,「医薬品の副作用について 具体的にイメージし,自分にも起こりうる可能性 があるとの自覚」を,医薬品における副作用の

「罹患性」の自覚と位置づけ,実際に,中学生自身 が自分で市販薬を使用する場面を想定し,どのよ うな行動をとると問題が生じうるのか,を具体的 にイメージすることのできる事例教材の開発を試 みた.その教材を用いた授業を実践し,効果を検 証した.

Ⅱ.活動の実際

1 .研究方法および対象

 本研究では,準実験計画研究デザインにより,

クラス単位で ₂ つの型の授業について割付を行っ た.対象は,東京都内国立大学附属A中学校 ₃ 年 生 ₄ クラス₁₆₀名であり,そのうち ₂ クラス₈₀名に は,副作用の「罹患性」の自覚に焦点を当てた市 販薬適正使用の教材を取り上げた授業(以下,「罹 患性」焦点型授業とする)を実施した.別の ₂ ク ラス₈₀名には,副作用の「罹患性」の自覚とは異 なった視点として,自然治癒力に焦点を当てた市 販薬適正使用の教材を取り上げた授業(以下,自 然治癒力焦点型授業とする)を実施した.授業は,

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平成₂₆年 ₆ 月の同日に, ₄ クラスに実施し, ₁ 時 間の授業時間は₅₀分であった.

2 .授業内容について

 本研究における「罹患性」焦点型授業と,自然 治癒力焦点型授業の学習目標は同一とし,学習内 容では,展開部分 ₁ のみで異なる教材を用いたが,

学習内容として押さえる点は同一になるようにし た.

 「罹患性」焦点型授業では,従来どおりの市販薬 適正使用の授業内容に,副作用の被害にあった事 例を詳しく紹介し,追体験できるような文章教材 を加えて授業を実施した.

 木村らは,エイズ教育の研究結果をもとに,エ イズに関する不安や恐怖の感情が強い者ほど,患 者や感染者を排除する態度が強いことから,エイ ズへの脅威を強めすぎないよう指摘している₁₂). このことから,副作用の「罹患性」の自覚に焦点 化し,かつ「重大性」の自覚を過度に強調しない よう配慮して教材を作成した.

 また,自然治癒力焦点型授業では,市販薬適正 使用の授業内容として,対象となる中学校で従来 から取り上げている,かぜの症状の意味や日ごろ から行っているかぜの予防や対処法としての行動 の意味について理解する教材を用いて授業を実施 した.

( ₁ )授業の目標

 いずれの授業も学習目標は,共通であり,次の

₅ 点とした.

 ①市販のかぜ薬の適正な使い方に関心をもつこ とができる(関心・意欲・態度).

 ②かぜ薬の効能は,かぜの諸症状の緩和であり,

治しているのは自然治癒力であることを知る

(知識・理解).

 ③市販薬を適正に使用するには,専門家に相談 する,説明書の用法・用量以外の注意点もよ く読むことが必要であると理解することがで きる(知識・理解).

 ④重篤な副作用が起きる場合もあり,自分にも 副作用が起きる可能性があると気づくことが

できる(思考・判断).

 ⑤自分の今後の市販のかぜ薬の適正な使い方を 考えることができる(思考・判断).

( ₂ )学習の導入部分の内容( ₅ 分)

 いずれの授業においても,導入部分の内容は,

共通とした.

 ①かぜをひいていると感じている人は,どのよ うな症状からそう判断したかを考える.

 ②これまでの経験から,特有の症状で「かぜ」

であると判断していたが,その判断は本当に いつでも正しいのか考えてみる.

( ₃ )学習の展開部分 ₁ の内容(₂₀分)

 展開部分 ₁ では,「罹患性」焦点型授業と自然治 癒力焦点型授業で異なる内容の教材を取り上げた.

それぞれの教材の内容は次のとおりである.

₁)「罹患性」焦点型授業の教材の内容  ①事例と発問の内容

 Aという中学校教員の体験談をもとにした文 章教材を作成した.Aのおかれている生活状況 や気持ち,考え,行動が記載されている文章を 読む.

  事例の主な概要は,次のとおりである.

 Aが第一子を出産し,睡眠不足の末,体調不 良となり,かぜ症状が出現した.子どもを置い て病院に行くことができず,あることをした結 果,数日間は体調がよかった.数日後,四肢,

体幹,眼球,手のひら,足の裏,呼吸器にじん ましんが出た.その後,受診し,あることをや め,肝臓の働きを高める薬を飲んだ結果,大事 には至らなかった.その後,じんましんの症状 は, ₁ 年間続き,散歩の後に,じんましんで呼 吸困難になったこともあった.

 この事例を読み,「あることとはどのようなこ とか,自分だったらどのようなことをすると思 うか」との発問から,自分はこの状況でどうす るかを考える.

 ②あることとは,市販のかぜ薬を飲むという行

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為であったことを知り,蕁麻疹は,薬の副作 用であること,主な効能を主作用ということ について理解する.また,かぜを治している のは,自然治癒力であり,薬は補助的に使用 する必要があることを知る.

 ③事例Aのその後の状況について,事例の続き を読む.主な内容は次のとおりである.

 じんましんが軽快して ₁ 年以上経過した後,A が読んだ新聞記事に,自分と同様にじんましん が全身に出た後に,失明してしまった人や死亡 してしまった人がいることを知る.その後もあ ることをするとじんましんが出るため,使用す ることができないでいる.

 また,事例を読んだ後,Aが実際に読んだとい う新聞記事を読み,Aのその時の気持ちを考える.

₂)自然治癒力焦点型授業の教材の内容

 自然治癒力焦点型授業では,自分たちのクラス や学年で,かぜをひいたときに,どのような対処 を行っているか事前にアンケート調査した結果を 発表し,生徒に学習意欲をもたせるようにした.

 ①かぜをひいた時にどのような行動をとってい るか,事前アンケートの結果を知る.

 ・早く寝る₄₉%,・市販のかぜ薬服用₃₂%,・水 分補給₂₂%,・何もしない₁₂.₂%.

 ・日本では多くの市販のかぜ薬が販売され,購 入されていることを知る.

 ②市販のかぜ薬の効能(主作用)は,症状の緩 和であり,かぜを治しているのは,体に備わ る自然治癒力であることを知り,自然治癒力 の例として,発熱と,せき・くしゃみの意味 を理解する.

 ③かぜを治すために,睡眠をとる,体を温める などの行動の意味を理解する.どのような場 面で薬を補助的に使うとよいかを考える.

( ₄ )学習の展開部分 ₂ の内容(₁₅分)

 展開部分 ₂ では,いずれの授業においても共通 の内容とした.

 ①新聞記事から,市販のかぜ薬による副作用の

例として,蕁麻疹が出たり,重症な場合には,

失明したり,亡くなったりした例もあること を知る.副作用の予防には,用法・用量を守 ることがまず重要であることを知る.また,

用法・用量を守っていても副作用が生じる場 合もあることを知る.

 ②薬の説明書をよく読むことで₂₀₀₀年以前と以 後の内容において,新たに詳しく記載される ようになった箇所を見つける.新しく記載さ れた内容として,重篤な副作用の病名や症状,

飲んでもよい回数などが具体的に記載される ようになったことに気づく.また,あらため て,正しい使用法や注意事項を読む.

 ③これまでの自分の市販のかぜ薬の使い方を振 り返る.使用したことのある者でも,薬を飲 む際,医薬品の外箱に記載された用法・用量 は見るが,箱の中にある説明書までは読んだ ことがないこと,注意事項までは詳しく読ん だことがないことを確認する.

 ④これから自分が市販のかぜ薬を買うとき,使 うときにどのような行動をとったらよいかを 考え,発表する.説明書をよく読むこと,専 門家に相談することの重要性を確認する.

( ₅ )学習のまとめ部分の内容(₁₀分)

 自由記述の感想文を記入する.感想文を発表し,

共有する.

Ⅲ.評価方法

1 .分析方法

( ₁ )授業前後の意識等の変化

 授業の効果をみるために,授業の ₁ 週間前(以 下,事前とする)と授業の ₁ 週間後(以下,直後 とする),授業の ₃ ヵ月後(以下, ₃ ヵ月後とす る)に,生徒を対象に無記名自記式の質問紙調査 を行った.また,事前,直後, ₃ ヵ月後の調査結 果を対応させるため, ₃ 回の回収順が同様になる よう席順で回収し,回収後に通し番号を付した.

₁)質問紙の内容について

 質問紙の内容は,①副作用の「罹患性」の自

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覚:「自分にも副作用で蕁麻疹が出る可能性があ る」「自分も副作用で失明する可能性がある」「自 分も副作用で死亡する可能性がある」の ₃ 問,② 副作用への意識:「市販薬の副作用で蕁麻疹が起き る」「市販薬の副作用で失明する」「市販薬の副作 用で死亡する」の ₃ 問,③副作用予防行動の自己 効力感:「市販薬の副作用を防ぐために,購入の 際,薬剤師に相談することができる」「市販薬の副 作用を防ぐために,使用の際,説明書を読むこと ができる」の ₂ 問,④市販薬への意識:「市販薬は 安全である」「市販薬の作用は弱い」の ₂ 問からな る計₁₀問とした.

 いずれの質問も ₄ 件法( ₁ .とてもそう思う,

₂ .そう思う, ₃ .そう思わない, ₄ .全くそう 思わない)で回答を求め,とてもそう思うを ₄ 点,

そう思うを ₃ 点,そう思わないを ₂ 点,全くそう 思わないを ₁ 点として点数化した.

 なお,④の市販薬への意識については,授業に おいて,市販薬の使用の仕方によっては,安全で あったりなかったりする場合もあること,市販薬 の作用が弱い場合も強くでる場合もあるという両 面を理解させることがねらいであるため,得点の 高低によって,望ましい変化をしたとは判断せず,

意識に変化があったかどうかを判断するのみとし た.

₂)データ分析方法

 質問紙調査の結果について,事前,直後, ₃ ヵ 月後の副作用の「罹患性」の自覚,副作用への意 識,副作用予防の自己効力感,市販薬への意識の 経時的な変化を把握するため,まず ₃ 群間につい ての差を,Friedman検定により分析した.そこで 有意差が認められた場合,対応のある ₂ 群間につ いて,事前と直後,事前と ₃ ヵ月後,直後と ₃ ヵ 月後のいずれの関係が強いのかを把握するために,

Wilcoxonの符号付順位検定により検討した.この

際,第一種の過誤を考慮するために,Bonferroni の不等式を利用して,有意水準は,₀.₀₅/₃=₀.₀₁₇,

₀.₀₁/₃=₀.₀₀₃,₀.₀₀₁/₃=₀.₀₀₀₃とした.さらに,

効果量についても算出した.

 なお,検定の際には,IBM SPSS statistics ₂₂(日 本アイ・ビー・エム株式会社)を使用し,有意水 準は ₅ %とした.また,効果量の算出には,水本 の計算シート₁₃)を使用した.

( ₂ )授業の自由記述の感想文の分析

 授業の終わり₁₀分間で生徒に自由記述の感想文 記入を求め,感想文の内容から,どのようなこと に気づいたかを分析するために,内容のまとまり ごとに,研究者 ₂ 名がそれぞれカテゴリー化を行 い,協議の上,最終的なカテゴリーを決定した.

 また,学習した内容をどの程度正しく理解でき たかについて把握するために,授業の目標に照ら して記述件数とその内容を抜粋し,分析した.

2 .倫理的配慮

 本授業は,筆者が以前勤務していた学校であり,

継続的に行っている大学と附属学校の教育実践の 交流の一環として行った.なお,A中学校は国立 大学附属中学校であり,教育の理論と実際に関す る研究と実証を行うことを使命としている.また,

授業内容,調査方法,調査結果の公表については,

対象となる中学校の教職員に書面および口頭で説 明を行い,同意を得た.

 また,実施にあたっては,「罹患性」焦点型授 業,自然治癒力焦点型授業の生徒に対して,①教 材開発の研究の資料とすること,②得られたデー タは本研究のみに使用し,他には使用しないこと,

③回答しないことで不利益はこうむらないこと,

④回答の途中で答えたくなくなった場合は回答を 中止してよいこと,⑤学校での保健の授業の成績 には影響しないことの ₅ 点を文書および口頭で説 明し,調査用紙への回答をもって同意を得たと判 断した.

 なお,学習保障のため,全てのクラスに対して,

₃ ヵ月後の調査が終了した後に,プリントを作成 し,配布した.プリントの内容は,「罹患性」焦点 型授業のクラスには,日ごろの市販薬の使用率や かぜへの対処法,かぜの症状の意味についての内 容とし,自然治癒力焦点型授業のクラスには,「罹 患性」焦点型授業で取り上げた事例と副作用を予

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防する行動の再確認を促す内容とし,授業者が補 足説明を行った.

Ⅳ.評価結果

1 .授業前後の意識等の変化についての分析結果  表 ₁ は,授業の事前,直後, ₃ ヵ月後の副作用 の「罹患性」の自覚,副作用への意識,副作用予 防行動の自己効力感,市販薬の意識の変化を示し たものである.

 「罹患性」焦点型授業では,授業の事前,直後,

₃ ヵ月後に,副作用の「罹患性」の自覚に関する

₃ 問と,副作用への意識に関する ₃ 問,副作用予 防行動の自己効力感に関する ₂ 問全てにおいて有 意な差が認められた.また,授業の事前と直後,

事前と ₃ ヵ月後,直後と ₃ ヵ月後のいずれの関係 が強いかをみた結果,副作用の「罹患性」の自覚 に関する ₃ 問は,事前と直後,事前と ₃ ヵ月後と もに,有意な差が認められ,全ての項目において,

事前に比して直後と ₃ ヵ月後に得点の中央値が高 くなり,効果量は中および大であった.また,副 作用への意識の ₃ 問においても,事前と直後,事 前と ₃ ヶ月後に有意な差が認められ,全ての項目 において,事前に比して直後と ₃ ヵ月後に得点の 中央値が高くなり,効果量は大であった.副作用 予防行動の自己効力感である「薬剤師に質問する ことができる」「説明書を読むことができる」の ₂ 問では,事前と直後に有意な差が認められ,いず れの項目においても,事前に比して直後の得点の 中央値が高くなったが, ₃ ヵ月後には,有意な差 は認められず,授業前に戻っていた.

 一方,自然治癒力焦点型授業では,授業の事前,

直後, ₃ ヵ月後に,副作用の「罹患性」の自覚に 有意な差は認められなかった.副作用への意識の

₃ 問と,副作用予防の自己効力感の ₂ 問について は,有意な差が認められた.また,有意な差が認 められた,副作用への意識と,副作用予防の自己 効力感について,授業の事前と事後,事前と ₃ ヵ 月後,直後と ₃ ヵ月後のいずれの関係が強いのか をみた結果,「副作用で蕁麻疹が起きる」「副作用

で失明が起きる」の ₂ 問は,事前と直後,事前と

₃ ヵ月後に有意な差が認められ,項目の得点の中 央値が低くなっていた.さらに,「副作用で死亡す る」は,事前と直後で有意な差が認められ,得点 の中央値が低くなったが, ₃ ヵ月後には,授業前 に戻っていた.副作用予防行動の自己効力感の

「薬剤師に質問することができる」と「説明書を読 むことができる」の ₂ 問は,いずれも事前と直後,

事前と ₃ ヵ月後に,有意な差が認められ,得点の 中央値が低くなっていた.副作用の「罹患性」の 自覚では,有意な差は認められなかったが, ₃ 問 ともに,授業の事前と直後に効果量が小であった.

 また,市販薬への意識の項目では,「罹患性」焦 点型授業において,事前と直後, ₃ ヵ月後に,「市 販薬は安全である」では有意な差が認められな かったが,「市販薬の作用は弱い」で有意な差が認 められた.一方,自然治癒力焦点型授業では,「市 販薬は安全である」,「市販薬の作用は弱い」のい ずれの項目においても,有意な差は認められな かった(表 ₁ ).

2 .自由記述の感想文の分析結果

( ₁ )授業による意識の変化に関わる記述の分析結果  自由記述の感想文のカテゴリーと記述例は,表

₂ に示したとおりである.

 表 ₂ に示した「罹患性」焦点型授業における,

【副作用の身近さと意外性の実感】のカテゴリー 中,副作用の身近さに関連する記述としては,「こ んなに身近に副作用をうけた人がいるのかと驚い た」といった事例の身近さを記述したものや,「自 分はアレルギー体質で薬でじんましんが出たこと があるので真剣に考えたい」といった自分の体質 と照らした振り返りや,「今まで気にせずに服用し ていたので,何がいつ起こるかわからないと思っ た」といった薬の使用状況に照らした振り返りや,

「自分は頭痛もちで鎮痛剤をよく使うが,注意が必 要だ」といった体質と薬の使用状況の両面からの 振り返りや,「兄がよく薬を飲んでいるので注意し てみてあげたいと思った」など家族の使用状況か ら振り返りを行った記述がみられた.

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1 質問項目ごとの事前,直後,3ヵ月後の変化 「罹患性」焦点型授業自然治癒力焦点型授業 質問項目調査時期中央値(25%  75%タイル)

3ヵ月  p 多重比較効果量 調査時期中央値(25%  75%タイル)

事前-直後- 3  p

多重比較効果量 比較時期pzr目安比較時期pzr目安 副作用への 意識

副作用で蕁麻疹が起きる事前₃.₀(₂.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₅.₂₆₀.₆₀事前₃.₀(₂.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₅.₇₉₀.₆₆ 直後₄.₀(₃.₀₄.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₄.₆₇₀.₆₀直後₁.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₅.₅₃₀.₆₃ ヵ月後₄.₀(₃.₀₄.₀)直後ヵ月後₀.₁₄₁-₁.₄₇₀.₁₇ヵ月後₁.₀(₁.₀₂.₀)直後ヵ月後₀.₈₅₅-₀.₁₈₀.₀₂ほとんどなし 副作用で失明が起きる事前₂.₀(₂.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₆.₂₇₀.₇₂事前₂.₀(₂.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₄.₀₈₀.₄₆ 直後₄.₀(₃.₀₄.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₅.₂₆₀.₆₀直後₁.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後₀.₀₀₁-₃.₃₁₀.₃₈ ヵ月後₃.₀(₃.₀₄.₀)直後ヵ月後₀.₀₆₀-₁.₈₈₀.₂₂ヵ月後₂.₀(₁.₀₂.₀)直後ヵ月後₀.₃₄₃-₀.₉₅₀.₁₁ 副作用で死亡する事前₂.₀(₂.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₆.₀₄₀.₆₉事前₂.₀(₁.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₃.₈₃₀.₄₃ 直後₄.₀(₃.₀₄.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₅.₁₂₀.₅₉直後₁.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後₀.₁₀₄-₁.₆₂₀.₁₈ ヵ月後₃.₀(₂.₃₄.₀ヵ月後₀.₀₂₀-₂.₃₃₀.₂₇ヵ月後₂.₀(₁.₀₃.₀)直後ヵ月後₀.₀₁₀-₂.₅₈₀.₂₉ 副作用予防 行動の自己 効力感 できる

事前₂.₀(₂.₀₃.₀) ₀.₀₀₂事前直後₀.₀₀₃-₂.₄₆₀.₁₁事前₃.₀(₂.₀₄.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₅.₇₇₀.₆₅ 直後₃.₀(₃.₀₄.₀)事前ヵ月後₀.₀₁₈-₁.₈₆₀.₂₇直後₂.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₅.₂₇₀.₆₀ ヵ月後₃.₀(₂.₀₄.₀)直後ヵ月後₀.₅₆₇-₀.₅₇₀.₀₇ほとんどなしヵ月後₂.₀(₁.₀₂.₀)直後ヵ月後₀.₉₂₀-₀.₁₀₀.₀₁ほとんどなし 事前₃.₀(₂.₀₄.₀) ₀.₀₀₄事前直後<₀.₀₀₁-₃.₅₀₀.₄₀事前₃.₅(₂.₃₄.₀) <₀.₀₀₁直後₀.₀₀₁-₇.₀₄₀.₇₉ 直後₄.₀(₃.₀₄.₀)事前ヵ月後₀.₁₀₁-₀.₃₄₀.₁₆直後₁.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₆.₁₂₀.₆₉ ヵ月後₄.₀(₃.₀₄.₀)直後ヵ月後₀.₀₇₂-₁.₈₀₀.₂₁ヵ月後₁.₀(₁.₀₂.₀)直後ヵ月後₀.₀₃₁-₂.₁₆₀.₂₅ 副作用の 「罹患性」 の自覚

能性がある 事前₂.₀(₁.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₄.₇₀₀.₅₄事前₂.₀(₁.₀₃.₀) ₀.₉₄₆事前直後 -₀.₉₉₀.₁₁ 直後₃.₀(₂.₈₄.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₄.₄₇₀.₅₂直後₂.₀(₁.₀₃.₀)事前ヵ月後-₀.₅₁₀.₀₆ほとんどなし ヵ月後₃.₀(₂.₀₄.₀)直後ヵ月後₀.₅₀₂-₀.₆₇₀.₀₈ほとんどなしヵ月後₂.₀(₁.₀₃.₀)直後ヵ月後-₀.₃₁₀.₀₄ほとんどなし ある

事前₂.₀(₁.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₄.₅₁₀.₅₂事前₂.₀(₁.₀₂.₀) ₀.₀₉₉事前直後 -₁.₀₃₀.₁₂ 直後₃.₀(₂.₀₄.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₄.₇₁₀.₅₄直後₂.₀(₁.₀₃.₀)事前ヵ月後-₁.₇₉₀.₂₀ ヵ月後₃.₀(₂.₀₄.₀)直後ヵ月後₀.₈₅₃-₀.₁₉₀.₀₂ほとんどなしヵ月後₂.₀(₁.₀₃.₀)直後ヵ月後-₀.₆₂₀.₀₇ほとんどなし ある

事前₂.₀(₁.₀₃.₀) <₀.₀₀₁事前直後<₀.₀₀₁-₄.₀₉₀.₄₇事前₂.₀(₁.₀₃.₀) ₀.₃₅₆事前直後 -₀.₈₉₀.₁₀ 直後₃.₀(₂.₀₄.₀)事前ヵ月後<₀.₀₀₁-₄.₆₄₀.₅₃直後₂.₀(₁.₀₃.₀)事前ヵ月後-₁.₁₉₀.₁₄ ヵ月後₃.₀(₂.₀₄.₀)直後ヵ月後₀.₉₇₃-₀.₀₃₀.₀₀ほとんどなしヵ月後₂.₀(₁.₀₃.₀)直後ヵ月後-₀.₂₁₀.₀₂ほとんどなし 市販薬への 意識

市販薬は安全である事前₂.₀(₁.₀₂.₀) ₀.₁₂₁事前直後 -₂.₁₀₀.₂₄事前₂.₀(₁.₀₂.₀) ₀.₆₂₁事前直後 -₀.₄₇₀.₀₅ほとんどなし 直後₁.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後-₀.₃₆₀.₀₄ほとんどなし直後₂.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後-₀.₆₈₀.₀₁ほとんどなし ヵ月後₂.₀(₁.₀₂.₀)直後ヵ月後-₁.₅₄₀.₁₈ヵ月後₁.₅(₁.₀₂.₀)直後ヵ月後-₀.₉₆₀.₁₁ 市販薬の作用は弱い事前₂.₀(₂.₀₃.₀) ₀.₀₀₃事前直後₀.₀₀₁-₃.₃₉₀.₃₉事前₂.₀(₂.₀₂.₀) ₀.₃₁₉直後 ₀.₃₄₀.₀₂ほとんどなし 直後₂.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後₀.₂₆₁-₁.₁₂₀.₁₃直後₂.₀(₁.₀₂.₀)事前ヵ月後-₀.₉₆₀.₁₆ ヵ月後₂.₀(₁.₅₃.₀)直後ヵ月後₀.₀₁₃-₂.₄₇₀.₂₈ヵ月後₂.₀(₂.₀₂.₀)直後ヵ月後-₁.₁₅₀.₁₃ 事前-直後-ヵ月後の群間の差の検定:Friedman 検定 多重比較:Wilcoxonの符号付順位検定,Bonferroniの不等式に従い,有意水準は次のように補正した.p<₀.₀₅/₃=₀.₀₁₇,p<₀.₀₁/₃=₀.₀₀₃,p<₀.₀₀₁/₃=₀.₀₀₀₃ zは,「直後-事前」,「ヵ月後-事前」,「ヵ月後-直後」で算出された数値である. r(効果量:₀.₅以上で効果が大,₀.₃以上で効果が中,₀.₁以上で効果が小)

(8)

 一方,自然治癒力焦点型授業における感想文で は,【自然治癒力と日ごろの行動の大切さの実感】

のカテゴリー中,自然治癒力の重要性を再認識す るものとして,「かぜを治すには自然治癒力が重要 だと改めてわかった」,「かぜを治す力を高めてい きたいと思った」といった記述や,症状や行動の 意味の再認識に関連するものとして,「早く寝る,

水分補給するなどかぜをひいたときにこうすると よいと言われてきたことの大切さを再認識した」,

「くしゃみ・鼻水などにも意味があると思うと,単 純に薬で症状を止めるのはどうなのかと思った」

といった記述がみられた(表 ₂ ).

( ₂ ) 授業による知識の変化に関する記述の分析結果  授業の目標として,知識・理解に該当する項目 として①かぜ薬の効能,自然治癒力の意味と②市 販薬の適正使用には,専門家への相談,説明書を よく読むことを設定した.これらの目標に照らし て,感想文に記載された記述内容と記述数をみた 結果が表 ₃ である.目標①については,「自分に 合った薬の使用」に関する記述と,「薬の効能」に 関する記述がそれぞれの授業でみられた.目標② については,「説明書を読む」ことの必要性につい

ての記述と,「専門家に相談する」必要性について の記述がそれぞれの授業でみられた.

 その他に,「罹患性」焦点型授業では,「薬は万 能ではないということを知って使用すべきだ」と いった薬の限界を知った上での使用に関する記述 が ₄ 件みられたが,自然治癒力焦点型授業では,

「説明書を読めば安心・安全に使えると知って安心 した」といった使用への安心感についての記述が

₄ 件みられた(表 ₃ ).また,いずれの授業の感想 においても,誤った知識と判断される記述は含ま れていなかった.

Ⅴ.考  察

 「罹患性」焦点型授業では,副作用の「罹患性」

の自覚の ₃ 項目すべてにおいて,事前と直後,事 前と ₃ ヵ月後に有意な差が認められ,効果量が大 であった.また,感想文には,副作用の身近さに 関連して,自らの体質や薬の使用状況と照らした 記述がみられた.寺町らが「アレルギーを持って いる人は自分の判断で薬を使うことが多い傾向が ある」₁₄)と指摘しており,自分の体質や体調を考 えた振り返りは,薬を使用する際の的確な判断に 表 2  自由記述の感想文のカテゴリーと主な記述例

カテゴリー  主な記述例

﹁罹患性﹂焦点型 副作用の身近さと意外性の実感 ・こんなに身近に副作用をうけた人がいるのかと驚いた.

・自分はアレルギー体質で,じんましんが出たことがあるので真剣に考 えたい.

副作用の被害者への共感 ・自分はじんましんがでる体質なので,被害者の気持ちに共感できた.

・副作用をうけて苦しめられている人の気持ちがすごくよくわかった.

自分なりの薬の使用と副作用予

防の意図 ・用法・用量だけでなく,注意,成分をよく読みたい.

・説明書を読み,自分の体を守れるよう心掛けたい.

薬の使用の新たな環境づくりの

意図 ・薬はよいものと限らないことを再認識するようにできないか考えたい.

・正しい薬の使用法を私たち使用する側が知る体制をつくりたい.

自然治癒力焦点型 自然治癒力と日ごろの行動の大

切さの実感

・かぜを治すには自然治癒力が重要だと改めてわかった.

・早く寝る,水分補給するなどかぜをひいたときにこうするとよいと言 われてきたことの大切さを再認識した.

薬の使用と副作用の大変さの実感 ・説明書を読めば安心・安全に使えると知って安心した.

・今も被害者がいる事実とその数の多さに驚いた.

・薬は風邪を治すのではなく,補助的なものと知りびっくりした.

自然治癒力と薬の使用のバラン スを意識した生活応用の意図

・早く寝るなどの意味を理解し,薬に頼らないようにしたい.

・授業での理解を活用し,できるだけ飲まないようにしたい.

・市販で買うより病院で薬をもらうようにしたい.

(9)

つながる意図である.さらに,副作用の被害に あった事例を通して,「副作用の身近さの実感」の 記述に併せて,「被害者の命・死を無駄にしないよ うにしていきたい」といった被害者への共感性を 示す記述をした生徒もいた.前述のエイズ教育の 研究において,「自らのHIV感染の可能性を高く 認知する者は,患者・感染者を排除する傾向が弱 い」₁₃)と指摘されていることから,副作用の「罹 患性」の自覚が高まったクラスにおいて,このよ うな感想をもった生徒がいたことは,今後,薬の 副作用の被害者を排除しない考えにつながってい くと期待される.

 さらに,「罹患性」焦点型授業では,副作用への 意識において,事前と,直後, ₃ ヵ月後に有意な 差が認められたことから,「罹患性」焦点型授業 は,副作用の「罹患性」の自覚や副作用への意識 を高めるのに有効であった.市販薬への意識に関 する「市販薬の作用は弱い」の項目で,授業の事 前と直後に有意な差が認められたのは,「罹患性」

の自覚や副作用への意識が高まったことにより,

必ずしも市販薬の作用が弱いとは限らないという 理解につながったものと推察された.

 また,副作用予防行動の自己効力感において,

授業の直後には有意な差が認められた.自己効力 感の質問項目である「薬の説明書を読むことでき る」に関連する感想文の内容をみると,「説明書の 成分表をみて副作用を防ぎたい」,「用量・用法だ けでなく,注意点をよく読みたい」,「説明書の注 意,おこりうる症状,回数をよく読みたい」など,

説明書のどこを読むとよいかを具体的に記載して いるものや,「自分の体との相性を吟味して薬を服 用したい」,「自分が今,本当に薬をのんでよいの かを確かめたい」,「注意を読み,自分に ₁ つでも あてはまったら薬をのまないようにしたい」と いった,自分の状態に合った薬を選択する意図が 記載されており,自分たちの行動を具体的にどう 変えたらよいかイメージすることができたことで 自己効力感が高まっていた.しかし,自己効力感 の授業後の変化が ₃ ヵ月後まで持続しなかったこ とについては,今後の検討課題である.

 一方,自然治癒力焦点型授業では,副作用の

「罹患性」の自覚と,市販薬への意識において,事 前と直後, ₃ ヵ月後に有意な差は認められなかっ た.また,副作用への意識や,副作用予防行動の 自己効力感では,事前と直後, ₃ ヵ月後に有意な 差が認められた.これらの理由として,感想文で,

表 3  知識に関連する記述内容と記述数

目標①かぜ薬の効能,自然治癒力の意味 目標②専門家へ相談,説明書を読む

「自分に合った使用」 「薬の効能」 「専門家へ相談」 「説明書を読む」 その他

﹁罹患性﹂焦点型 ・自分の体との相性を

吟味して薬を服用し

・自分の体と対話してたい.

健康状態を理解して 安全に使いたい.

など₁₁件

・薬はかぜを治すと 思っていたが症状 を緩和させるだけ だと知った.

・薬 は か ぜ を 治 す ヒーローだと思っ ていたが副作用も あると知った.

など ₉ 件

・使用する際は,薬 剤師に相談してか ら使うのがよいと わかった.

・自分で勝手に判断 せずに専門家に相 談してから使いた など ₇ 件い.

・説明書や成分表を みて未然に副作用 を防ぎたい.

・説明書を読み,自 分の体を守れるよ う心がけたい.

など₁₅件

「薬の限界を知った 使用」・薬は万能ではない ということを知っ て使用すべきだ.

など ₄ 件

自然治癒力焦点型 ・今の自分の状態を考

えて使うことが大切 だとわかった.

・慎重に探して自分に あった薬を買おうと など ₆ 件思う.

・薬はかぜを治す補 助的なものと知っ

・薬の効果と欠点をた.

など ₅ 件知れた.

・副作用がでるのは いやなので薬剤師 に相談したい.

・市販薬を使用する ときは薬剤師に相 談するのがよいと わかった.

など ₈ 件

・しっかり説明書を 読 ん で 使 お う と

・自分に被害が及ば思った.

ないよう注意書き をよく読みたい.

など₁₂件

「使用への安心感」

・説明書を読めば安 心・安全に使える と 知 っ て 安 心 し など ₄ 件た.

(10)

自然治癒力のすばらしさを実感したという記述や,

かぜを予防するために,睡眠をとる,栄養をとる といった日ごろの対処を行うことの大切さの記述 や,薬の使用への安心感などの記述がみられたこ とから,自然治癒力や薬の良い面に視点がいき,

副作用への意識には向かわなかったことがわかる.

また,薬の使用を制限したいとの記述がみられた ことから,薬を使用したくないという気持ちから,

副作用予防行動に対して否定的となり,自己効力 感の回答にマイナスの影響を与えた可能性がある.

 なお,本研究の限界として,同一の学校に通う 共通の特性をもつ生徒を対象として,それぞれの 教材の有効性を検討したが,通常の教育課程の中 で行われたことから,その割付は無作為ではない こと,また学校とも相談のうえ,倫理的配慮を慎 重に行ったが,学習保障として行った補足説明は 調査の事後にならざるを得ず,時間差による生徒 への影響は否めないことがあげられる.

Ⅵ.結  論

 中学校における市販薬適正使用の内容において,

副作用の「罹患性」の自覚に焦点をあてた教材を 用いた保健の授業を実施した.その結果,授業の 事前と直後, ₃ ヵ月後に副作用の「罹患性」の自 覚と副作用への意識において,有意な差が認めら れた.また,感想文では,自分の体質や薬の使用 状況と照らすなど,副作用の身近さの実感を記述 しているものがみられた.ただし,副作用予防行 動の自己効力感は,直後には有意な差が認められ たが, ₃ ヵ月後には授業前に戻っていた.

 一方,自然治癒力焦点型授業では,副作用の

「罹患性」の自覚に有意な差は認められず,副作用 への意識と,副作用予防行動の自己効力感では,

事前と直後, ₃ ヵ月後において,有意な差が認め られ,直後には,副作用への意識や副作用予防の 自己効力感が低下した.

利益相反

 利益相反に相当する事項はない.

文  献

₁) 森昭三.保健の教科内容と教材.森昭三,和唐正 勝編.新版 保健の授業づくり入門.東京:大修館 書店;₂₀₀₅. ₁₃₆.

₂) Fishbein M,Ajzen I.Belief, Attitude, Intention, and Behavior. Boston: Addison - Wesley; ₁₉₇₅.

₃₀-₃₂.

₃) Becker MH, Drachman RH, Krinscht JP. A new approach to explaining sick - role behavior in low - incom populations. Am J Public Health. ₁₉₇₄; ₆₄:

₂₀₅-₂₁₆.

₄) Rogers RW, Prentince DS. Protection motivation theory.Handbook of Health Behavior Research.

New York: Plenum Press; ₁₉₉₇. ₁₁₃-₁₃₂.

₅) 高橋浩之.健康教育への招待.東京:大修館書 店;₂₀₀₂.₅₇.

₆) 畑栄一.ヘルスビリーフモデル.畑栄一,土井由 利子編.行動科学 健康づくりのための理論と応用  改訂第 ₂ 版.東京:南江堂;₂₀₁₂.₄₂.

₇) 徐淑子,池田光穂.健康教育における<健康認識 の個人化>をうながす実践について.Communica- tion-Design.₂₀₁₅;₁₂:₂₇.

₈) 文部科学省.中学校学習指導要領解説保健体育編.

京都:東山書房;₂₀₀₈.₁₆₁.

₉) 山田純一,高柳理早,横山晴子,他.中学生を対 象とした医薬品適正使用に関する意識調査と学校薬 剤師による教育の効果.薬学雑誌.₂₀₁₂;₁₃₂:₂₁₅-

₂₂₄.

₁₀) 寺町ひとみ.中学校保健体育科「医薬品の正しい 使い方」授業プログラムの構築.薬学雑誌.₂₀₁₃;

₁₃₃:₁₃₂₅-₁₃₃₄.

₁₁) 上田裕司,鬼頭英明,西岡伸紀,他.中学校学習 指導要領による医薬品に関する授業実践研究.学校 保健研究.₂₀₁₃;₅₅:₂₂₀-₂₂₇.

₁₂) 木村堅一,深田博己.エイズ患者・HIV感染者に 対する偏見に及ぼす恐怖脅威アピールのネガティ ブな効果.広島大学教育学部紀要第一部(心理学).

₁₉₉₅;₄₄:₆₇-₇₄.

₁₃) 水本篤,竹内理.研究論文における効果量の報告 のために基礎的概念と注意点.英語教育研究.

₂₀₀₈;₃₁:₅₇-₆₆.

₁₄) 寺町ひとみ,太田拓希,香田由美,他.小・中・

高校生の「医薬品の正しい使い方」に関する知識・

意識および指導実施状況.医療薬学.₂₀₁₂;₃₈:

₇₆₇-₇₇₉.

(受付 ₂₀₁₆.₁₂.₂₂.;受理 ₂₀₁₇.₉.₇.)

(11)

Effect of the health class in enhancing the perceived

"susceptibility" of adverse effects to the use of nonprescription drugs

Yukiko SAMI *

, Seiji UEDA *

Abstract

Objectives: We examined the effect of a health class in a junior high school, using teaching materials intended to enhance the perceived "susceptibility" of adverse effects towards nonprescription drugs.

Methods: In this quasi-experimental study, participants were ₁₆₀ third-year junior high school students, allo- cated into two groups of ₈₀ students. The first group received a health class using case-based teaching materials, focusing on the perceived "susceptibility" of adverse effects. For the second group, the health class used teaching materials focused on natural healing power. We analyzed the changes of the perceived “sus- ceptibility” of adverse effects, the consciousness of adverse effects, and the self-efficacy of the prevention of adverse effects, one week prior, one week after, and three months after the health class.

Results: In the class using case-based teaching materials that focused on the perceived "susceptibility" of adverse effects, all items regarding perceived "susceptibility," and all items regarding the consciousness of adverse effects became significantly higher (p<₀.₀₀₁). Both items of self-efficacy of the prevention of adverse effects resulted in significant differences. The class using teaching materials that focused on natural healing power resulted in, the same score across all items of the perceived "susceptibility" of adverse effects, but items regarding the consciousness of adverse effects and the self-efficacy of the prevention of adverse effects became significantly lower.

Conclusion: Case-based teaching materials focused on the perceived "susceptibility" of adverse effects, resulted in desirable changes for the perceived "susceptibility" of adverse effects, and the consciousness of adverse effects.

〔JJHEP, ₂₀₁₇;₂₅(₄):269-279〕

Key words: health class, junior high school, perceived "susceptibility" of adverse effects, proper use of nonpre- scription drugs

* Tokyo Gakugei University・Graduate School of University of the Sacred Heart

* University of the Sacred Heart

参照

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