調査報告
漁業の現状と再生に向けて
~望まれる水産資源管理の徹底と経営体の再構築~
1.水産物需給動向
(1) 世界の水産物需給動向
世界の食用水産物消費量は、図表1の通り1970 年から2003年で2.5倍と、大幅に増加している。
また図表2に見られるように、国民1人1年当 たり水産物消費量の世界平均は、同期間で約1.5 倍に増加しており、人口増加以外に1人当たり
消費量も伸びている。国別に見ると、日本は高 水準ながら減少に転じているが、一方で中国、
米国の1人当たり消費量が増加している。要因 として、健康志向、BSE(狂牛病)・鳥インフル エンザによる他の動物性食品から水産物への代 替、経済発展による消費増加などが挙げられる。
(図表1)世界の食用水産物消費量推移
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000
1970 1980 1990 2000 2003 (年)
(千トン)
(資料)FAO「Food balance sheets」
【要約】
・世界の水産物消費量は大幅に増加しており、人口増加による食料獲得競争の中で、水産資源 の重要性は増している。
・日本の水産物消費量は近年減少しているが、1人当たり消費量は世界平均の約
3.5
倍と、依然 として水産物は日本人の食生活で重要な役割を果たしている。・一方、日本の漁業生産量はこの
20
年で半減し、消費の約半分を輸入に頼るようになった。漁 業就業者は半減・高齢化し、その経営状況は、特に小規模経営体が多い沿岸漁業で厳しい。・また、漁業が脆弱化する一方で、日本近海の水産資源劣化が懸念される状況にある。
・漁業再生には、水産資源管理の徹底と、資源に見合う、かつ経営として成り立つように経営 体を再構築することが必要と考えられる。
・現在、漁業協同組合や民間の手によりブランド化、情報提供による需要開拓、企業参入によ る新分野開拓といった生産と消費のミスマッチを埋める取組みが現れており、今後が期待さ れる。
(図表2)世界の国民1人1年当たり水産物消費量推移
0 20 40 60 80
世界平均 日 本 中 国 米 国 E U インド
(㎏)
1970年 1980年 1990年 2000年 2003年
(資料)FAO「Food balance sheets」、農林水産省「食料需給表」
消費量増加に対応して世界の水産物生産量
(飼料用含む)も大幅に増加したが、図表3の 通り、2000年以降漁獲は頭打ちで、養殖、特に 中国の養殖※1増加が近年の水産物生産量の増加
を支えてきた。世界的な水産資源の逼迫が唱え られ、漁獲が大きく伸びていく余地は少ないと 言われている。
※1:中国の養殖は、コイやソウギョなどの淡水魚が主。
(図表3)世界の水産物生産量(飼料用含む)推移
0 20,000 40,000 60,000 80,000 100,000 120,000 140,000 160,000
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 (年)
(千トン)
その他養殖 日本養殖 中国養殖 その他漁獲 日本漁獲 中国漁獲
(資料)FAO「Fishstat:Capture production、Aquaculture production」を基に水産庁作成
(2) 国内の水産物需給動向
では国内の食用水産物需給状況を見てみよう。
図表4の通り、消費量は1995年をピークとし、
2001年以降は毎年減少している。生産量は1976
年がピーク、1980年頃までは消費量とほぼ拮抗 していたが、近年はピークから4割以上減少し ている。生産量減少を補う形で輸入量は年々増 加し、2002年にピークに達した。以降、輸入量 は消費量減少とともに減少しているが、消費量のおよそ半分を占めるようになった。
(3) 日本人の魚離れと輸入水産物の動向 図表4に見るように、日本では水産物消費量 が減少している。図表5は動物性食品摂取量に 占める魚介類の比率を1995年と2006年で比較し たものだが、60歳代未満の全ての年代で比率は 減少している。若年層の「魚離れ」はよく指摘 されているが、
30~50歳代での低下幅が大きい。
(図表4)食用水産物の国内需給推移
0 1,000 2,000 3,000 4,000 5,000 6,000 7,000 8,000 9,000
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 (年度)
(千トン)
消費量
生産量
(漁獲+養殖)
輸入量
輸出量
(資料)農林水産省「食料需給表」
(図表5)動物性食品摂取量に占める魚介類の比率
0%
5%
10%
15%
20%
25%
30%
35%
40%
1~6歳 7~14歳 15~19歳 20~29歳 30~39歳 40~49歳 50~59歳 60~69歳 70歳以上 1995年
2006年
(資料)厚生労働省「国民健康・栄養調査」 動物性食品=魚介類・肉類・卵類・乳類として計算
次に食べる魚の種類を比較してみる。図表6 は鮮魚の消費量をこの20年で比較したものだが、
まぐろ・さけ等の刺身・切り身で販売される魚 の消費が増加している一方で、あじ・かれい等 の一尾そのままで販売される魚の消費が減少し ている。また、消費される魚の種類が減少して いることも最近の傾向である。
世帯の少人数化・共働きの増加で、食事の「簡 便化指向」が強まり、水産物消費量が減少する とともに、切り身・刺身などの調理・後片付け がしやすい水産物へと消費が集中するようにな った。加えて流通面でも、昔は水産物小売の主 体だった多種多様な水産物を扱う鮮魚店がピー
クの3分の1に減少し、スーパーなどの量販店 にとって替わられた。量販店ではロットがまと まり安定供給が可能な水産物が望まれ、同ニー ズに合う輸入水産物の取扱いが増加していった。
消費・流通両面から特定の魚への需要が高まり、
国内漁業とのミスマッチが拡大し、輸入への依 存度が高まってきたと言えよう。
国内消費に占める割合の増加した輸入水産物 だが、その単価は上昇している。図表7に見ら れるように輸入水産物合計の単価、また輸入量 が多い魚類(生鮮、冷凍、冷蔵)の単価は1995 年頃から上昇を続け、低下が続いていた甲殻類 等(えび、いか、たこ等)単価も2005年から上
昇に転じた。
以上のように国内の水産物消費量はピークか ら減少しているが、図表2で見た通り日本人1 人1年当り消費量は世界平均の約3.5倍と、依然 として日本人の食生活の中で水産物は重要な役 割を果たしている。一方で世界的な水産物需要 増加・食料獲得競争の中で、近年「買い負け」
により水産物を思惑どおり輸入できない事態が
指摘されるようなってきた。水産物が十分に輸 入できない場合、他の動物性食品にシフトする 方法もある。しかし、日本の穀物自給率が低い ことや国土・農地面積が狭いことを考えれば、
世界6位の排他的経済水域の広さがある水産物 の方が、食料自給率引き上げには効果的と言え るかもしれない。
(図表6)鮮魚品目別消費支出量推移
9.2%
6.5%
8.9%
11.4%
2.5% 8.8%
0%
10%
20%
30%
40%
50%
60%
70%
80%
90%
100%
1985年度 2005年度
他の鮮魚 いわし たい たこ かに かれい かつお さば あじ ぶり えび さんま さけ いか まぐろ いか
まぐろ さけ
(資料)総務省「家計調査年報」
(図表7)水産物輸入単価推移
0 200 400 600 800 1,000
1985 1990 1995 2000 2005 2006 (年)
(円/kg)
甲殻類・軟体生物
・水棲無脊椎物 輸入水産物合計
魚類
(生鮮、冷凍、冷蔵)
(資料)農林水産省「水産物流通統計年報」
2.国内漁業の現状
(1) 国内漁業の部門別生産量推移
図表4で見たように国内漁業生産量は大きく 減少しているが、部門別に飼料用を含めた生産 量推移を見てみよう。図表8の通り1985年から
の20年間で、海面漁業・内水面漁業※2ともに生 産量は5割以上減少した。遠洋漁業の76%減少 を筆頭に、沖合漁業が62%減少、内水面漁業が
60%減少、沿岸漁業が36%減少、海面養殖業だ
けが9%の増加となっている。大幅に減少した遠洋・沖合漁業の漁獲量減少要因として、
200海里
規制や公海内での漁獲規制、環境変化による資源変動が大きいと言われる魚種の資源減少が挙 げられる。
(図表8)漁業部門別生産量(飼料用含む)推移
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 (年)
(千トン)
遠洋漁業 沖合漁業 沿岸漁業 海面養殖業 内水面漁業・養殖業
海面漁業
(資料)農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」
※2:海面漁業:海で行う漁獲・養殖。内水面漁業:河川・湖沼で行う漁獲・養殖。
遠洋漁業:遠洋底びき網、以西底びき網、大中型遠洋かつお・まぐろ1そうまき網、遠洋まぐろはえ縄、遠洋 かつお一本釣、遠洋いか釣り、その他のはえ縄のうち日ロ民間操業に係る漁業、その他の漁業のう ち大西洋はえ縄等漁業及び日ロ民間操業に係る漁業。
沖合漁業:10トン以上の動力漁船を使用する漁業のうち遠洋漁業、定置網及び地びき網による漁業を除いたも の。
沿岸漁業:漁船非使用漁業、無動力船及び10トン未満の動力漁船を使用する漁業、定置網及び地びき網による 漁業。
(2) 漁業就業者数の推移
次に水産物生産の担い手である漁業就業者数 の推移を見てみる。図表9の通り、漁業就業者 数は一貫して減少し続けている。同じく1985年 からの20年間で見ると、漁業就業者数は半減し
た。また新規就業者が少ないため、1985年には 3分の2を占めていた60歳未満の男性就業者の 割合が、2006年では半分を下回った。就業者数 の減少とともに、高齢化が進んでいる。
(図表9)漁業就業者数推移
0 100 200 300 400 500 600 700
1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2006 (年)
(千人)
女性 男性60歳以上 男性40~59歳 男性15~39歳
(資料)農林水産省「漁業動態調査」 就業者は沿海市町村内に居住し、過去 1 年で海上作業従事日数 30 日以上の者
(3) 漁業就業者1人当たり生産量の国際比較 ここで各国の漁業就業者1人当たり生産量と その背景を見てみよう。図表10に見られるよう に、日本の漁業就業者1人当たり生産量21.0ト ンとなる。これは、農林水産業のウエイトが高 く、安い人件費に基づく労働集約的な漁業を行
っているアジア諸国を上回る。しかし、かつて 日本と同じく漁業が盛んだったロシアと同程度 にとどまり、現在漁業先進国と呼ばれているノ ルウェー、アイスランド、ニュージーランドを 大きく下回っている。
(図表 10)漁業就業者 1 人当たり生産量等比較
(単位:千トン、千人)
生産量 漁業就業者数 1 人当たり 漁業就業者比率 付加価値構成比率
生産量 (対労働力人口) 農林水産業 うち漁業
日本 4,819 230.0 21.0 0.4% 1.4% 0.2%
タイ 3,743 440.9 8.5 1.2% 10.2% 1.4%
ベトナム 3,367 1,429.2 2.4 3.4% 20.9% 3.9%
ロシア 3,306 166.0 19.9 0.2% 5.4% 0.4%
ノルウェー 3,050 14.0 217.8 0.6% 1.6% 0.7%
フィリピン 2,804 1,407.0 2.0 4.3% 14.3% 2.1%
バングラデシュ 2,216 1,044.0 2.1 2.4% 19.5% 4.1%
韓国 2,075 68.5 30.3 0.3% 3.4% 0.2%
アイスランド 1,669 5.0 333.9 3.1% - -
メキシコ 1,422 165.9 8.6 0.4% 3.8% 0.1%
マレーシア 1,390 107.0 13.0 1.1% - -
カナダ 1,235 30.9 40.0 0.1% 2.1% 0.1%
スペイン 1,071 60.1 17.8 0.3% 3.3% 0.2%
フランス 833 14.0 59.5 0.1% 2.3% 0.1%
ニュージーランド 641 2.7 237.3 0.1% 7.0% 0.2%
イタリア 479 33.2 14.4 0.1% 2.2% 0.1%
ポルトガル 218 18.7 11.7 0.3% 3.2% 0.3%
(資料)生産量、漁業就業者数:FAO「FISHSTAT」2005 年時点、アイスランドとマレーシアの漁業就業者数は 2003 年時点 付加価値:UN「NATIONAL ACCOUNTS STATISTICS」、2005 年時点
(4) 海面漁業部門別1人当り生産量・生産額推移 次に国内漁業のほとんどを占める海面漁業を 部門別にもう少し詳しく検討してみよう。
まず図表11から、遠洋・沖合漁業の1人当た り生産量・生産額推移を見てみる。1人当たり 生産額は、変動はあるが上昇している。1人当
たり生産量も、2005年で100トン強に及ぶ。遠 洋・沖合漁業に関しては、世界的に見ても相応 の規模を有していると言える。
一方で養殖を含む沿岸漁業を見ると横ばいで、1 人当たり生産量14トン弱、1人当たり生産額5百万 円弱と、遠洋・沖合漁業を大きく下回っている。
(図表11)漁業部門別1人当たり生産量・生産額推移
0 20 40 60 80 100 120
1985 1990 1995 2000 2005 (年)
(千円)
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000 12,000 14,000 16,000 18,000 20,000
(トン)
遠洋・沖合漁業 1人当たり生産量
(左目盛)
沿岸漁業(養殖含む)
1人当たり生産量
(左目盛)
遠洋・沖合漁業 1人当たり生産額
(右目盛)
沿岸漁業(養殖含む)
1人当たり生産額
(右目盛)
(資料)農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」
更に沿岸漁業を沿岸漁獲と海面養殖に分けて、
1経営体当たり生産量・生産額推移をまとめた ものが図表12である。
海面養殖は1990年代後半からの総生産量減少 の中でも、経営体数減少・技術改良により、1 経営体当たり生産量・生産額ともに上昇を続け ている。1経営体当たり生産量は2005年で55ト ン、生産額は約20百万円弱となる。
一方で沿岸漁獲は、1経営体当たり生産量は
2005年で15トン強、同生産額は5.3百万円弱と、
海面養殖と比較して極めて低い水準にとどまっ て推移している。もともと就業者数・小規模経 営体が多かった沿岸漁獲において、漁獲量減 少・魚価低迷の中でも経営体が多数並存してい る。図表13の通り、1経営体当り生産額(漁労 収入)があがらず、ひいては所得(漁労利益)
が見込めずに、新規参入がなされない状況に陥 っていると考えられる。
(図表12)沿岸漁獲・海面養殖別1経営体当り生産量・生産額推移
0 10 20 30 40 50 60
1985 1990 1995 2000 2005 (年)
(トン)
0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 (千円)
海面養殖1経営体 当たり生産量
(左目盛)
沿岸漁獲1経営体 当たり生産量
(左目盛)
海面養殖1経営体 当たり生産額
(右目盛)
沿岸漁獲1経営体 当たり生産額
(右目盛)
(資料)農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」
(図表13)沿岸漁船漁家の経営状況推移
(単位:千円)
2001 年 2002 年 2003 年 2004 年 2005 年
漁労収入 5,160 5,153 5,002 4,943 4,908
漁労支出 2,903 2,887 2,846 2,790 2,766
うち油費 411 401 416 423 482
(対漁労支出比) 14.2% 13.9% 14.6% 15.2% 17.4%
うち販売手数料 282 286 281 288 290
(対漁労支出比) 9.7% 9.9% 9.9% 10.3% 10.5%
うち漁船漁具費 450 460 466 467 449
(対漁労支出比) 15.5% 15.9% 16.4% 16.7% 16.2%
うち減価償却費 590 579 546 499 458
(対漁労支出比) 20.3% 20.1% 19.2% 17.9% 16.6%
漁労利益 2,257 2,266 2,156 2,153 2,142
漁労外所得 282 264 238 190 180
兼業込み所得 2,539 2,530 2,394 2,343 2,322
(資料)農林水産省「漁業経営体調査」 家族型経営調査の結果から 10 トン未満分を再集計し水産庁が作成
3.懸念される日本近海の水産資源劣化
では、改めて海面漁業漁獲量減少要因を魚種 別に見てみよう。図表14に見られるとおり、海
面漁業漁獲量減少はスケトウダラとマイワシの 漁獲量減少によるところが大きい。
(図表14)海面漁業魚種別漁獲量推移
0 2,000 4,000 6,000 8,000 10,000
1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 (年)
(千トン)
いわし類 たら類
ひらめ・かれい類
その他
さば類
さんま あじ類 さけ・ます類 かつお類 まぐろ類
(資料)農林水産省「漁業・養殖業生産統計年報」
スケトウダラは主に遠洋漁業で漁獲されてい た。国際規制により他国200海里内で漁獲ができ なくなったことが漁獲量減少の主因である。マイ ワシは主に沖合漁業で漁獲され、海洋環境の変化 が漁獲量減少要因と言われている。この2魚種を 管理不能な特殊要因と考えても、それ以外の魚種 の漁獲量が1980年前後から減少している。
また日本周辺水域の資源水準は、水産総合研 究センターが過去20年以上にわたる資源量(漁 獲量)の推移から、魚種・系群※3毎に高位・中 位・低位の3段階に区分し評価している。図表
15の通り2008年では資源評価を実施している魚
のうち半分が低位水準にあり、2002年よりも低 位と評価された魚の割合が増加している(図表 15)日本周辺の水産資源水準の推移
2002年度
不明 2%
中位 37%
高位 18%
低位 43%
2008年度
低位 50%
高位 18%
中位 32%
(資料)独立行政法人水産総合研究センターHPより作成
資源劣化の要因は様々で、漁場環境の変化と いった外的要因もあるが、資源回復可能量を上 回る漁獲が原因のひとつとして挙げられている。
漁獲量・魚価の低迷で収入があがらない中、少 しでも収入をあげるために成長してない幼魚を 含めた漁獲が行われ、更なる資源悪化を招くと
いう悪循環が懸念される。図表14で見たように サバ類の漁獲量は減少している。環境変化によ る変動の大きい魚種だが、図表16に見られるよ うに、サバ類のうちマサバの1990年以降反復し てなされた未成魚乱獲も原因のひとつと言える だろう。
(図表16)マサバの魚齢別漁獲尾数推移
0 5 10 15 20 25 30 35 40 45 50
1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 (年)
(漁獲尾数:億尾)
6歳以上 5歳 4歳 3歳 2歳 1歳 0歳
(資料)水産庁データを基に作成
遠洋漁業を主とした自国200海里外の漁獲は、
自国以外の外的要因により左右される。安定し た漁獲量を確保していくためには、
200海里内で
操業される沖合・沿岸漁業といった近海での漁 獲量維持・向上に取組まねばならない。しかし 日本近海の資源状況は劣化が懸念される状況に ある。※3:系群とは遺伝的に他の生物集団と区別できる集団、
あるいは遺伝的に区別できなくとも、産卵期、産卵 場、分布、回遊、成長、成熟、生残など、独自の生 物学的特徴を有する場合が多い集団。マサバの場合 は、太平洋系群と対馬暖流系群に分類される。
4.漁業再生のための施策
(1) 管理方法見直しによる資源管理の徹底 日本を含め先進国は、魚種毎に漁獲総量を規 制するTAC制度を採用している。主要国のTAC
管理方式を図表17にまとめた。TAC制度は、他 国では概ねIQ(個別割当)方式、ITQ(譲渡可 能個別割当)方式により運営されている。
IQ方式・ITQ方式では各漁業者等に漁獲量が
割当されるので、漁業者は高く売れるサイズ・時期の漁獲に時間をかけて取組める。一方、日 本はオリンピック方式と呼ばれる魚種毎の総量 規制だけで、主に漁業者間の調整で運営されて いる。個別に漁獲量の割当がないため、調整さ れた出漁時になるべく多く獲らなければ、総量 に到達し漁獲できなくなる可能性がある。市場 で価格が見込めない、成長していない幼魚であ っても他の漁業者に獲られてしまう前に先駆け て獲る、その結果、資源悪化を招くという悪循 環に陥りがちな制度と言える。
(図表 17)主要国における漁業管理制度
TAC管理方式
IQ方式 ITQ方式 オリンピック方式
日本 ○
ロシア ○
ノルウェー ○
アイスランド ○
カナダ ○
スペイン ○
ニュージーランド ○ ○
TAC制度:資源の維持・回復を図るため魚種毎に漁獲できる総量を定めること IQ方式:TACを漁業者、漁業団体、又は漁船毎に割当する方式
ITQ方式:IQ方式のうち、割当された該当量を他の漁業者に譲渡できるようにする方式
オリンピック方式:関係漁業者の自由競争を認め、漁獲量がTACに達した時点で一斉に停止させる方式
(資料)水産庁「TAC制度の現状と課題」より作成
日本では、もともと主に遠洋・沖合漁業にお ける許可制、沿岸漁業における漁業権といった 参入規制があり、当事者である漁業者からなる 漁業協同組合が資源管理の主体だった。TAC導 入後も、漁獲量は漁業者の経営状況等にも配慮 し決定するとされ、資源状況(ABC:生物学的 許容漁獲量)を超えてTACが設定されるケース が見られる。またTAC管理も、個別割当はなさ れず、漁業協同組合の調整に実質的に委ねられ ている。組合員である既存漁業者の維持・存続 が優先され、資源維持・回復への取組みが十分 になされなかったと言えよう。
漁業者から独立した第三者機関が資源状況に 基づいたTACを設定することと、TAC管理にIQ 方式を導入することで、厳密な資源管理が期待 できる。
更にはITQ方式を導入した場合には、資源管理 とともに漁業経営体の再構築効果も期待できよ う。漁業者への割当方法・譲渡の仕組みにもよる が、競争力の高い(生産コストの低い)経営体は、
他の経営体から漁獲量を購入し生産量を増やす ことが可能となる。一方で競争力の低い(生産コ ストの高い)経営体は、割当られた漁獲量を他の 経営体に賃貸・譲渡することで対価を得ることが でき、休漁・廃業する際の補償となる。
従来、漁業協同組合が担うことが多かった資 源管理は第三者機関に移し、同機関が資源状況 に基づいて漁獲管理を実施することが望ましい。
一方、漁業協同組合は、本来的役割である共同 販売機能、つまり商品開発・販路開拓といった
生産・流通面での付加価値向上に一層力を注ぐ べきであると考える。
(2) 水産基本計画における経営体育成の方針
2007年3月に改定された水産基本計画で、施
策の中に「低位水準にとどまっている水産資源 の回復・管理の推進」と並んで、「国際競争力の ある経営体の育成・確保と活力のある漁業就業 構造の確立」が挙げられた。この中で既存漁業 者に対して一律の支援施策を実施するのではな く、「漁業の将来を担う経営体に対する支援施策 の集中を図り」と記されたことが重要と考えら れる。日本の漁業再生のためには、資源に見合 う、かつ経営として成り立つように経営体を再 構築することが必要と考える。また本年3月に閣議決定された内閣府の規制 改革推進のための3か年計画(改定)において も、水産業分野につき、「資源管理の在り方の見 直し」の他、「参入規制の緩和による新規創業の 拡大」「漁業金融の円滑化」「漁協経営の透明化、
健全化」が検討されることとなった。本年中に 中間報告がなされるが、その動向が注目される。
5.民間による新しい取組み
最後に民間による新しい取組みを紹介したい。
(1) 漁業協同組合によるブランド化
まず、共同販売機能で成功している漁業協同 組合の例として、大分県の大分県漁業協同組合 佐賀関支店、鹿児島県の東町漁業協同組合によ るブランド化を例に挙げたい。
(図表 18)漁業協同組合によるブランド化への取組み
経 緯 従来の委託販売を見直し、漁協が漁業者から買い取り、自ら販売に取組む。
関あじ・関さば
(大分:大分県漁協
佐賀関支店) 品質管理
漁獲方法、使用する餌、釣った魚を休ませるために入れる生簀の管理、面買い(魚 を傷つけないため計量器を使わず水面から大きさを判断して価格を決める)等、取 扱を厳格に管理し、同水域で取れるアジ・サバよりも品質が高いと評価されている。
経 緯 ブリ養殖業者の増加で国内価格競争が厳しくなり、アメリカ向け輸出へ取組む。
鰤王
(鹿児島:東町漁協) 品質管理
まず加工場が対米輸出のHACCP認定を取得。次いで原料であるブリの品質管理 にも組合を挙げて取組み、幼魚・飼料の種類から給餌・投薬などの履歴管理まで、
全組合員が「ぶり養殖管理基準書」に沿った統一した方法で養殖。品質にバラつき のない養殖ブリの大量出荷・生産管理が可能となった。
(資料)各漁業協同組合HP等から作成
漁業者が個々に販売に取組んでも、まとまった 量を出荷できないため市場では価格がつきにく い。漁業協同組合に販売委託してもサイズ・品質 がバラバラでは、やはり結果は同じだ。漁業協同 組合が主導して地域の漁業者をひとつの経営体 として組織し、品質管理を徹底することで均一な 質・量の出荷を可能とし、市場で買い叩かれるこ となく流通させることに成功した例と言える。
(2) 情報提供による需要開拓
次に、マイナー・未利用魚の流通に取組む愛知 県の(株)プロ・スパーを採り上げてみたい。
漁獲対象魚とともに混獲される、知名度が低い ため地元でしか流通せず価格がつきにくいマイ ナー魚、あるいは市場で価格がつかずに捨てられ ていた未利用魚に、同社は着目した。これらの魚 を地元漁業者・産地市場との協力で集め、魚種に 合った調理方法を提案することで商品価値を消 費者に認識させ販売するという取組みである。ま ず地元直営店で取組みを始め、水産庁の「キャリ ア活用型再チャレンジプラン支援事業」認定を受 け、現在は県内だけでなく大手居酒屋チェーンに も販売している。今後、同様の取組みを、全国に 展開していく計画にある。
市場で評価されなかった近海の水産資源を活 かすとともに、漁業者の収入増加が期待できる取 組みである。
(3) 企業参入による新分野開拓
~クロマグロ養殖~
既に国内ではブリやタイなどの養殖が先行し て取組まれてきたが、参入者増加による魚価下落 や飼料価格高騰により、近年伸びが止まっていた。
今年に入り市場価格が望めるクロマグロ養殖 において、既存経営体の規模拡大に加え、商社、
水産会社、食肉会社といった各業種の企業が相次 いで新規参入する動きが見られる。各社とも、全 額出資子会社を現地に設立し地元漁業協同組合 の組合員となる、地元の水産会社・漁業生産組合 等と共同で現地に会社を設立する、といった地元
と協調・既存の漁業権の枠組みに即した形態で参 入している。
参入増加の背景には、まず企業側には漁獲規 制・調達競争が厳しくなるなかで、市場で価格が 見込めるクロマグロを確保するニーズがある。一 方で受け入れる地元側にとっても、クロマグロ養 殖は従来魚種の養殖と比較して初期設備投資資 金・飼料にかかる運転資金といった資金負担が大 きく既存経営体だけで取組むのは難しい、また種 苗であるマグロ幼魚や飼料であるサバなどの地 元漁業者からの購入・地元の雇用確保が期待でき るというニーズがある。そのため、都道府県や地 元が積極的に誘致しているケースも見られる。
現在では海外と同じく蓄養(マグロ幼魚を漁獲 し育てる養殖)の段階だが、日本では完全養殖(養 殖マグロを産卵させ幼魚を生産する養殖)の成功 例が現れている。完全養殖の事業化に成功すれば、
輸出を含めた大きな市場が見込める。今後、人工 種苗の生産・配合飼料の開発・養殖方法の確立と いった技術確立が待たれる分野であり、この点か らも資金力のある企業に期待がかかる。
(森豊 浩基)