神戸製鋼技報/Vol. 56 No. 1(Apr. 2006) 75
新 製 品 ・ 新 技 術
問合わせ先:技術開発本部 機械研究所 流熱技術研究室 東 康夫 TEL:(078)992−5634 FAX:(078)993−2056
CO2排出削減に貢献する熱エネルギー輸送技術
東 康夫(工博)
技術開発本部 機械研究所
当社と㈱神鋼環境ソリューションは,製鉄所や工場,ごみ処 理施設,バイオマスエネルギー転換施設などで従来有効利用さ れることなく放散されていた中・低温域(200℃以下)の廃熱 を,独自開発の蓄熱装置に効率良く蓄え,トラックなどの輸送 手段で遠隔地へ輸送する技術を共同開発した。本技術により,
世界で初めて 90℃以上の高温水としての廃熱利用が可能とな り,暖房や温水としての利用にとどまらず,吸収式冷凍機と組 合わせることで廃熱エネルギーの冷房利用が可能となる。パイ プラインなどのインフラ整備が不要で,CO2排出削減・地球温 暖化対策にも結びつく有効な熱エネルギー利用手段として,集 合住宅などの民間施設や地域・公共機関などの冷暖房・温水に 本技術が幅広く利用されることを期待している(図 1)。
特 徴
熱を輸送するにあたり,どれだけコンパクトな装置に多くの 熱を蓄えられるかが大きなポイントとなる。この際に大きな役 割を果たすのが潜熱蓄熱材である。物体が固体から液体へと融 解するときには,潜熱とよばれる物質固有の熱量を必要とする。
この現象を利用して蓄熱する材料を潜熱蓄熱材とよび,質量当 たりの蓄熱量を大きくすることができる利点がある。代表的な 潜熱蓄熱材としては,酢酸ナトリウム(融解潜熱 251kJ/kg,融 点温度 58℃)が挙げられる。これに対して,本技術の特徴を以 下に示す。
1)蓄熱材に人工甘味料を使用
蓄熱材料には人工甘味料として流通しているエリスリトール を使用した(図 2)。エリスリトールは 119℃の融点温度で単位 質量当たりの融解潜熱が 340kJ/kg と高く,装置のコンパクト化 と融点近傍の高温度域での熱出力が可能となる。
2)直接接触熱伝達
蓄熱装置には,当社独自開発の特殊構造(特許出願中)を採 用した。従来,蓄熱材と熱媒体との熱交換は,蓄熱装置内部に ある熱交換器を介して行ってきた。本技術では,蓄熱材と熱媒 油は装置内で混合した状態にあり,熱媒油は蓄熱材と直接接触 しながら熱交換を行う。本方式の採用により,従来より高い熱 伝達効率が得られ,また熱交換器を不要とすることで従来比 30%の蓄熱装置の小型化を実現した(図 3)。
3)90℃の温水を冷熱転換
開発した蓄熱装置からは,90℃以上の温水出力を連続して得 ることができる。この温度域の熱出力を駆動温度とする吸収式 冷凍機との組合わせで,熱エネルギーの冷熱転換が可能となり,
未利用廃熱を暖房のみならず冷房用途として利用することが可 能となる。
両社は,すでに実験用の小型蓄熱装置にて約 5km の間で公道 輸送を実施し,本方式による熱輸送を実証した。また,吸収冷 凍機と接続した冷熱転換試験を行い,実際に冷房として熱エネ ルギーの有効利用が可能であることを確認した(図 4)。今後は 装置の大型化研究を通じて,本技術の実用化を目指す予定であ る。
図 1 熱輸送システムの概念図 廃熱回収・輸送
吸収式 冷凍機
クアハウス・温水プール
地域冷暖房 周辺エリアでの熱利用
農業用温室 温熱
温熱 冷熱 蓄熱装置
道路融雪
「蓄熱装置(蓄熱カセット)」
による熱輸送
工場
図 2 蓄熱材料(エリスリトール)
廃熱源
(余剰蒸気など)
熱媒油
油加熱器 蓄熱装置
(直接接触熱交換方式)
140℃
90℃ 加熱 エリスリトール
熱媒油 140℃
90℃
吸収式 冷凍機
暖房 機器
冷熱利用 温水利用
暖房利用 温水
90℃
熱交換器 50℃
(a) 蓄熱時の運転方法
(b) 放熱時の運転方法 エリスリトール
蓄熱装置
(直接接触熱交換方式)
図 3 蓄熱装置の運転方法概要
図 4 小型蓄熱装置と冷熱転換試験装置(熱輸送量 250MJ)