修 士 論 文 概 要 書
Summary of Master’s Thesis
Date of submission: 02/13/2013 (MM/DD/YYYY) 専攻名(専門分野)
Department 表現工学専攻 氏 名
Name 平原 正広
指 導 教 員 Advisor
河合 隆史 印 Seal 研究指導名
Research guidance
先端メディアと 人間工学研究
学籍番号 Student ID
number
CD
5111E019 - 4 研究題目
Title 3D映像コンテンツの表現手法に関する人間工学的研究
Ergonomics study on representation methods for stereoscopic image content
1. はじめに
2眼式立体映像(以下3D映像)分野では,数多く の3D映画が公開され,各家電メーカーからは 3D対 応テレビが発売されるなど,3Dが身近なものとなり つつある.2012年,40型以上の薄型テレビの53%
が3D対応となっている[1].一方,3Dコンテンツの 制作においては,両眼視差を活用した効果的な奥行 き表現に関して未だ不明な点が多い.
そこで,本研究では,3Dコンテンツの表現手法に 関する基礎的な知見を得ることを目的として,3D映 像の視差操作に関する心理・生理的影響の検討と公 開された3D映画を対象とした視差分析を行った.
2. 3D映像の視差操作の心理・生理的影響
3D映像において,3D空間の再生範囲の拡大・縮小 あるいは,3D空間の中心を近方方向,遠方方向にシ フトすることを視差操作と定義し,その有効性に関 する評価実験を実施した.標準的な 3D 映像と視差 操作を行った 3D 映像を実験刺激として,一対比較 法による主観評価と心拍測定による客観指標を用い て実験的に検討を行った.その結果として,3D映像 の視差操作が心理・生理的に影響を与える可能性が 示唆された.
3. 3D映画の視差分析
国際的に公開された以下の3D映画を対象とした.
・ アバター(20世紀フォックス,2009)
・ くもりときどきミートボール(ソニーピクチャー ズ,2009)
・ コララインとボタンの魔女(ユニバーサルピクチ ャーズ,2009)
・ 塔の上のラプンツェル(ウォルトディズニーピク チャーズ,2010)
・ アリスインワンダーランド(ウォルトディズニー ピクチャーズ,2010)
・ ヒックとドラゴン(パラマウント,2010) 視差分析にあたっては,ステレオマッチングを用 いた画像処理により,左右の対応点の視差角を抽出 した[2].
4. 作品全体を対象とした分析
各3D映画に対して毎秒1フレームで,フレーム 毎に含まれる視差角を算出した.視差分析の結果で は,各フレームの 90%ile,50%ile,10%ile の視差 角を,それぞれ 3D 空間の遠方,中心,近方の代表 値として時系列にプロットした.各代表値は,作品 全体を通した視差変化が把握しやすくなるよう 10 秒間の移動平均に変換した.なお,視差角は正の値 が同側方向,負の値が交差方向を意味している.視 差分析の結果例(アバター)を図1に示した.
この結果から,視差角の代表値の分布は時系列的 に一様ではなく,おそらく作品内のストーリーの起 伏等に呼応する形で増減していると考えられる.ま た,今回対象とした 3D コンテンツでは,近方,遠 方の代表値のほとんどが視差角±1.0°以内に収ま っていることが確認できた.
図 1 作品全体を対象とした視差分析の結果(アバター:20世紀フォックス,2009)
5. 感情表現シーンを対象とした視差分析 5.1 感情表現シーンと奥行き感の基本変化
特定のシーンを抽出し,詳細な視差分析を行った.
結果から,3Dコンテンツの感情表現と奥行き感が呼 応する形で変化していると考えられるシーンが散見 された.そこで,特定の感情表現に対する奥行き表 現について知見を得ることを目的として,本研究で 対象とした 3D 映画の中から,感情表現を意図した と考えられるシーンを抽出・分類し,図 2の奥行き 感の基本変化と照合した.
図 2 奥行き感の基本変化
5.2 感情表現シーンの抽出と分類
6作品の3D映画を中心に,感情表現を意図したと 考えられる109種類のシーンを抽出し,分類を行っ た.抽出にあたっては,正常な視機能を有した筆者 ら3名がコーダーとなり,全作品を複数回鑑賞し,
候補となるシーンを選択した.そして,Eckman の 基本感情[3](怒り,嫌悪,恐怖,幸福,悲しみ,驚 き)を尺度として選択されたシーンの評価を行い,
コーダーの判断が一致したものを各シーンから表出 された基本感情とした.
5.3 感情表現シーンにおける視差角の定量化 特定の感情を表現していると分類されたシーンの 奥行き感の傾向を把握するために,各シーンの視差 分析の結果から,3D空間の中心と再生範囲について,
1 フレーム目とシーン内での最大値を算出し,その 差分を代表値として定量化を行った.
5.4 結果
感情表現シーンを対象とした視差分析の結果を図 3に示す.いずれの基本感情においても 3D空間の再 生範囲の代表値が増加していたが,その傾向は感情 の種類によって異なっていた.
具体的には,嫌悪や驚きに分類されたシーンでは,
3D 空間の中心が観察者に近方方向へ変化したのに
対し,恐怖に分類されたシーンでは遠方方向への変 化がみられた.3D空間の中心や範囲の変化は,観察 者にとって,対象までの距離や広がりの変化として 体験される.本分析では,制作者の意図の確認には,
至らなかったが,奥行き感の基本変化と特定の感情 表現の間に,演出的な関連性が示唆されたと考えら れる.
図3 各感情の3D空間の中心と範囲の変化の平均
6. まとめ
本研究では,3Dコンテンツの表現手法に関する取 り組みについて述べた.結果から,以下の知見を得 ることができた.
・ 3D 空間の範囲を適切に増大・縮小させることで 観察者の快適性を向上させる可能性がある
・ 分析対象とした 3D 映画の奥行き変化は一様で はなく時系列的に増減している
・ 奥行き感の基本変化と特定の感情表現の間に関 連性が示唆された
今後は,分析対象とする 3D 作品数の増加と得ら れた知見のガイドラインなどへの活用や特定の感情 表現を意図した視差操作の考案と有効性の検証を行 う必要がある.
参考文献
[1] 一般社団法人 電子情報技術作業協会
http://www.jeita.or.jp/japanese/stat/shipment/
2012/12.htm
[2] 岸信介, 河合隆史, 他:“2眼式立体映像コンテ ンツ評価システムの試作”, 映像情報メディア 学会誌, Vol. 60, No. 6, pp96 – 104, 2006.
[3] P. エクマン,W. V. フリーセン 共著,工藤力 訳:“表現分析入門 – 表情に隠された意味を探 る”,誠信書房,2000.