〔特 別・掲 載〕
(東女医大誌第30巻第3暑頁305一一一309昭和35年3月)
本態性高血圧症の臨床所見S血 漿ヘパリン値ごの関係について
第1報 大動脈レ二三及び心電図所見と血漿ヘパリン値の関係
1 緒
・東京女子医科大学第一生理学教室(主任 簑島高教授)
大場須賀子・田中
オオ バ ス ガ = タ ナカ
言
(受付昭和35年2月4則
本態性高!ltrrt症には動脈硬化が高率かつ高度に みられ,その合併症の重要な原因となっている。
一:方血圧上昇が左心肥大拡張を経て心不全をおこ し,肺及び全身の循環障害をおこすことは周知の 事実である。動脈硬化症成立に脂質代謝の面から 血漿ヘパリン(以下H:と略す)1) 4)も大きな役 割をもっている。大場5)は先に高1直心症者の血 漿H値を年令,性別,一血圧とについて比較検討し たが,なお国立東京第一病院高血圧センターの患 者について行った大動脈レ線像及び心電図所見と 血漿H値との関係について研究したところ興味あ
る知見を得たので報告する。
ll 実験方法
1)被検:者
国立東京第一病院高血圧センターの高血圧症患者を 対象とした。ただしそのうちで明らかに急性腎炎,慢 性腎炎及びその他の症候性高血圧と診断し得るものは 除外した。従ってその被検:者は所謂本態性高血圧症患 者である。なお血圧は安静時血圧である。
2)血漿H値の測定
Hの抽出はFreeman法6)によった。力価の測定7)
に用いた羊血漿は2才去勢羊を使用した。その詳細に ついてはすでに発表した5)ので省略する。
千 秋
チ アキ
l11 実験成績
1) 大動脈レ線像と一血漿H値の関係
高一血圧症男女31名の一血漿H値とレ線像の関係 は,大動脈突出及び陰影に拡大のない群と突出及 び拡大のある群とに分け,(1)群は拡大,突出 とも(一)の群,(H)群は突出(十)の群とし た。その被検者成績は第1表に示す。
以上の結果,所見のない(1)群は6名,所見 のある(ll)群は25名であった。(1)群のH値 の平均値は8.6±1.078u./dl,(III)群の平均値 は7.8±1.250u./d1である。(1)群及び(H)
群の差の有意性をt検定するにt。=1.855となり 0.1》P>0.05の危険率を許せば大動脈レ線像に 所見のある群にH値の低下を認めると推定するこ とができる。大動脈レ線像とH値の関係は第1図 の如くである。
2) 心電図所見と一血漿H値の関係
高血圧症者男女45名の』虹漿H値と心電図との関 係は,(1)群を心電図に変化のない群,(H)群
をST・Tに変化のある群に分け(1)群18名,
(ll)群27名について観察した。その成績は第2 表の如くである。
(1)群のH値平均は8.0±1.151u./d1,(H)
Su窪ako OBA, Chiaki TANAKA(First Department of Physiology, Tokyo Wo皿en s Medical ColIege):
らOn the relation between the cli且ical findings and the heparin content of plasma in patients of esse−
ntial hypertension.
Report L On the relation between the angioroentgenogram of aorta, the electrocardiogram and the Plasma heparin value.
一305一
第1表 大動脈y線像被検者成績
1拡大(一)突(一)群 性 別 1覆i蚕者i年 令Hu./,!直』艦璽H装
レ 線 像* 合 併 症
8 9 9 8
!ii
sB
T.T.
K.K.
H.K.
Y.K.
K.M.
T.N.
51 67 60 60 47 52
10. 0
9. 5
9.0
8. 4
7.4 7.0
150一 94
1 160一 92 186一 96 198−100 190一 90
192−94 w大(一)突(一)峡(一)
突(一)心突(一)
tl tl rl
突(一)
拡大(一)突(一)
拡大(一)突(一)心突(一)
ナシ ナシ ナシ 動脈硬化症 心肥大 ナシ
1【突(+)群
性量玉髄.匪皿令一国艦mH鋼・線傑
8 9 9 9 9 9 8 8 8 9 9 8 9 8 8 9 8 8 8 8 8 9 9 9 8
u. s.
A. S.
MH.
S. H.
H.M
S. H.
K. S.
r . M・
T. S.
T.K.
S. A.
T.Y.
S. K.
K.M.
G.A.
K.K.
K.K.
S. 1.
S. T.
Y.H.
N.A.
H.M.
T.A.
K. 1.
y. s.
10. 4
9. 7
9.7
9. 5
8. 8
8.7 8.7
8. 7
8.4 s.e
Z7
7.7
7. 7
7.6
7. 4
7.2
7. 0
7. 0
7. 0,
6. 6
6. 5
6.4
6. 3
6. 3
5. 3
200−110 170−100 164−104 194−120 154一 94 132一 88 140一 90 154一 86 194一 90 164−104 108一 74 162一 86 164−104 148一 88 150一 80 194−100 174一 94 160一 86 184一 90 172一 90 146一 50 186一 66 188−110 180−100 188一 70
突(+)心突(+)
突(+)拡大(+)心突(+)
拡大(一)突(+)
拡大(+)突(+)心突(+)
突(+)
グ
突(+)心突(+)
〃 ゲ
拡大(一)突(一)心突(+)
拡大(+)字突(+)
突(+)
拡大(+)
拡大(+)心突(+)突(+)
突(+)心突(+)石灰沈着 突(+)
拡大(.+)突(+)心突(+)
突(+)心突(+)
tl tl
拡大(+)心突(+)
tl tl
突(+)心突(+)石灰沈着 突(+)
拡大(+)突(+)心突(+)
突(+)心突(+)
11 tl
合 併 症
動脈硬化症 動脈硬化症
動脈硬化症,心筋梗塞 動脈硬化症
動脈硬化症,狭心症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症,心肥大 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化癌 冠硬化症
動脈硬化症,心肥大 動脈硬化症,脳軟化症 動脈硬化症,心肥大 動脈硬化症 動脈硬化症
一 806 一
ヘ パ10
り
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8
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6
5
8.6
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e
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.
ooo 8 轟
。
り 亙 亟 ○習 ㊥繋 第1図 大動脈レ線像とH値
1溜拡大(一)突(一)の群 ll=突(+)の群 群のH値平均は7.3±1. 088u./d1で(1)(H)
群闇の差の有意性をt検定するにts=2.068なと り,O.・05>P>0.01の危険率を許せば, ST・
Tに変化のある群がH値は低値を示していること となる。心電図所見とH値は第2図の如くであ る。なお大動脈レ線像及び心電図の読図に客歓的 意味をもたせるために心電図及び大動脈陰影の診 断は国立東一の判定規準に従い全く独立に行って 対餌した。
IV 考 按
本態性高血圧症と動脈硬化症は,今日の処,両 者の真の原因が明かにされていないため,両者の 相関関係は明かでない。両者を同二疾患とみなす 学者すらあるが,一般には両者・は別個のものと考
えられている。もし両者が別個のものであるとす れば,前者に対する後者の合併,または後者に対 する前者の合併は,ともに実地臨床上患者の予後 に対し重大な影響がある。よって大場5)は本態性 高血圧症患者につき,動脈硬化症と密接な関係に
ある血漿H値の研究を行い,健康人に比し,本症 患者では有意に低いことを証明し,これを既に報 告した。今回更に本症患者の主として,動脈硬化 症に関係ある所見として大動脈硬化,及び心電図 所見と,血漿H値との関係を検討したところ,大 動脈レ線像(1)群の被検者はH値の平均8.6 u./d1で健康人男女平均10.7u./d1よりは5)低 値を示すが,高血圧症者平均7.8u./d1よりは高 い。(ll)群の被検者は, H値の平均7.8u./dlで 高血圧症者の平均値と同値を示す。参禅に健康人
と高血圧症者の平均血漿H値5)を第3表に示す。
Bouck 8)等は人の大動脈は男女とも初期の動 脈硬化病変部においてH値の低いことを報じ,
村上2)等も人の大動脈にっきアテローム変性の 強いものほど,及び石灰化の強いものほどH様物 質の低下していることを報告している。
心電図所見と.盈1漿H値の関係で(1)群の平均 値8.Ou./d1(0.062mg/d1)は健i康人男女平均 10.7u./dlより少いが,高血圧症男女平均7.8 u./d1よりは多く,(ll)群の平均値7.3u./d1
(0.056mg/d1)は低値を示している。
村上9)は心電図上ST・Tに変化を有するも
の(0.042〜0.11mg%,平均O. 062 mg%)心電 図正常例(0.042〜0,14mg%,平均0.076mg%)
と発表している。
なお大動脈レ線像及び心電図の両者の所見はと もに高一血圧症患者にとって好ましいものでなく,
臨床上はその予防法を老慮しなくてはならない。
よって本症患者の臨床上,血漿H値を測定するこ とは有意義なものと信ずる。もしその測定法が一 層容易となれば本態性高一血圧症患者の臨床検査と
して必須のものとなるべきであろう。
V 結 論
1) 本態性高血圧症者の大動脈レ線像を観察し 動脈硬化を有する群と有しない群とに分けて血漿 H値の高低との関係を検討した結果,大動脈硬化 を有しない群のH値の方が大動脈硬化像著明な群 のH値より高い傾向を示すことを認めた。
2) 心電図所見においても変化のないものと,
ST・Tに変化のあるものとのH値を比較するに 変化のないものの方が,あるものより,より高い H値を示す傾向を認めた。
稿を終るにのぞみ終始御懇篤なる御指導と御校閲を 賜った恩師簑島高教授,国立東京第一病院高血圧セン 一S−07一
第2表 心電図所見被検者成績 1 心電図に変化ない群
性別被検者
8 s 9 9 9 9 9 9 9 s s 9 8 8 s s
9−
9
u. s.
T.T.
M.H.・
T.T.
K.M.
S. H.
T.H.
H.N.
T.K.
H.U.
G.A.
K.K.
S.M.
T.T.
S. 1.
N.A.
T.N.
K. 1.
年令㌦、停阻mぜ
心 電 図*鼾?併 症
55 51 51 58 61 60 60 58 57 57 41 55 64 58 56 66 52 55
10. 4 10. 0
9.7
9. 0 8. 8 8. 7 8. 2 8. 2 8. 0
7.7
Z4
.Z2
7.0
7. 0 7; 0
7.0 7.0 6.3
202−110 150一 94 164−104 224−114 154一 94 132一 88 180一 96 153一 88 164−104 160一 70 150一 80 194−100 154一 86 4154一 84 160一 86 176一 74 190一 90 180一 80
a (一) b (一)
グ 〃 ク 〃 ク ヴ a (一) b (一) c (一)
a (一) b (一)
a (一) b (一) c (一)
a (一) b (一)
tl
グ
rl
tl
rl
グ
ケ
グ
tl
グ tl
rl
Il
tt
グ
グ
グ
グ
グ
tl
動脈硬化症 ナシ 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症,狭心症 動脈硬化症 気管麦喘息 ナシ 動脈硬化療 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 ナシ ナシ 動脈硬化症 動脈硬化症 ナシ 動脈硬化症 一9ST T}こ変化ある群
正別i被編」年令H面直臨i藷「心電 蛭「合併症
9 9 8 s s 8 8 8 9 9 8 8 9 8 s g s 9 9 s s 9 9 s s 8 8
S. T.
R.K.
A.Y.
K. S.
T. S.
K.A.
T.H.
T.Y.
S. A.
S. K.
K.M.
M. 1.
K.M.
1.M.
K.K.
Y.N.
S. T.
K.Y.
Y.K.
Y. 1.
NA.
H.M.
M.A.
T.K.
Y.H.
U.T.
y. s.・
61 53 64 44 77 60 62 39 55 70 65 45 47 70 53 57 60 57 65 70 71 67 50 77 65 60 80
9. 5
9.2
8. 8 8. 7 81 4 8. 4 8. 2 7. 7
7.7
7. 7 7. 6
7.6 7.4
7. 4
7.0
7. 0 7. 0 6. 8 6. 6
6.6
6. 5 6. 4 6. 3 6. 0 6. 0 6. 0 5. 3
194−120 206一 96 219一 98 140一 90 194一 90 186一 96 186一 90 162一 86 216−106 164−104 184一 88 168一 98 198−100 204−102 174一 94 196一 98 152一 86 160一 88 184一 78 188一 75 146一 50 186一 66 188−110 180一 96 172一 90 155一 85 188一 70
a(十)c(十)
ク ク a(+)b(+)
a(+)b(+)c(一)
a(十)b(十)
a(+)b(+)c(一)
a(+)b(+)c(+)
a(十)b(十)
a(一)b)十)
グ 〃 a(十)b(十)
a(+)c(+)
a(+)b(+)
a(+)c(+)
a(+)b(+)
グ ク a(一)c(十)
a(+)b(+)
グ ク a(十)c(+)
c(+)
b(+)
a (十) b (十)
a(+)b(+)
a(一)b(十)
a(+)b(+)
a(+)b(+)
動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 心肥大,狭心症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 心肥大 動脈硬化症 動脈硬化症 動脈硬化症 狭心症 動脈硬化症 動脈硬化症 大動脈弁閉塞不全 動脈硬化症,心肥大 動脈硬化症,脳軟化症 動脈硬化症,心肥大 動脈硬化症,脳軟化三 冠硬化症
狭心症 動脈硬化症
一 308 一一一
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第3表 健康人高血圧三者男女別平均血漿H値
区 分
ヘパリン値単位 男 平 均 女 平.均
男女平均
健 康 人
u.fd1 9. 5 11. 8 10. 7
mg/dl
O. 073 0. 091 0. 082
高血圧症者
u./d1
7. 7 7. 9 7. 8
mg/dl
oo
o
eoeoe oo
e
eoo e ooe
g oeo
O. 059 0. 061 0. 060
o
7.3
タ「齊ー谷亮一博士に深甚なる謝意を捧げます。
文 献
1) Engelberg, H.:Acta. Med. Scand., 151 161 (1956)
2)村山元孝・外:日本臨床16074(1957)
3)大島研三・外:内科478(1959)
4)鳥居綾子:東女医大誌29534(1959)
5)大場須賀子::東女医大誌3025(1960)
6) Freeman, L. et al.:Am. J. Clin. Path., 24 599 (1954)
7) U.S.P. (The United States Pharmacopeia)
14 271 (1950)
8) Boueck, . R.J. Noble, N.L., Kung, Y.T.:
Circulation. 12 683 (1955)
9)村上元謬・外:内科455(1959)
」互
oW o繋 皿
第2図心電図所見とH値
1=心電図に変化ない群 II == ST・Tに変化ある群
*第1表,大動脈レ線像被検者成績のy線像の分類 は次の如し。
突:大動脈陰影の突出しr(rいるもの。
拡大:大動脈陰影の拡大しているもの。
玉突:左第4弓の突出,拡大を意味する。
**第2表,.心電図所見被検者成績の心電図の分類は 次の如し。
q:艮波の電圧の高さによる分類でa(+)とは 2.5mV以上のものを言いa(一)はそれ以下のも のをいう。
b:ST・T部の形による分類で主としてSTの 水平部が長くなりT波が小となり,かっ多くは 非対称性を増した場合これをb(十)とした。b (一)とはこの変形のないものである。
c:ST部または丁波が負になった場合をC(十)
とし,然らざるものをC(一)とした。
一 809 一」L