(東女医大誌 第40巻 第10号頁703〜719昭和45年10月)
〔症例検討会〕
特異な経過をとった胆嚢炎の1症例
日 時 昭和45年4月24日(金)午後2.30〜4.00時
場所東京女子医科大学本部構音
(発言者)
司 会 外 科:織畑秀夫教授 小坂内科:藤島 直幹助手 小坂内科:小坂 樹徳教授 心研理論外科:太田 和夫助手 外 科:山中 爾朗講師
病理=今井三喜教授
受持ならびに文責=木村 恒人助手(受付 昭和45年8月6日)
織畑:今日出します症例は,ここにあります特 異な経過をとった胆のう炎の1症例で,52才の 患者さんで,2〜3年前より胆のう炎の診断を受 け,治療を受けている間に痙痛のため内科に入 院し,発熱が続き黄疸も発生したので外科に転科
して三三を行ない,一応経過も良かったのであり ますが,術後合併症として,一つが胃出血であり まして,もう一つは腎不全であります.あとで腎 不全に対する問題として最近行なわれております 入工腎臓,あるいは腹膜潅流という点について理 論外科の太田先生からお話をうかがうつもりでお
りますのでよろしくお願いします.
では最初にこの患者さんが2〜3年前から小坂 内科で治療をうけていたので,内科の受持の先生 に経過の説明をお願いします.
藤島:内科での経過を申し上げます.実は2カ 月の入院中,受持としては最後の2日間だけを診 ただけですので,うまく説明できるかどうかわか
りませんが…….
主訴は発熱咳,呼吸困難で,家族歴に特記す ることはありません.
Clinico−Pathological Conference (72):
昭和42年5月,発熱と右季肋部痛が出現し,胆 のう炎の診断をうけて,抗生物質の投与をしても 40℃の発熱は消失しませんで,相当頑固な熱が続 いておりました.この状態が続きまして,同年6 月小坂内科に入院しまして,診断は胆のう炎とな っております.抗生物質を投与し,胆のう造影に て,胆のうは造影されませんでした.尿・胆汁に も結晶物を認めず,白血球増多症がみられまし
た.
入es 3日後にSchmerzは消失しております.
5日目に白血球も減少しております.その他,
1009GTTを行ないましてDiabetic CurVeを 認めたが,食餌療法にてControlできておりまし て,2週間で退院しております.
43年8月,咳・呼吸困難が再び突然出現しま て,某医にて気管支喘息と診断されまして,2週 間転地療法を行なっております.ここでも抗生物 質を投与され,3週間でだいたい良くなっており
ます.
今回の入院は,44年5月,咳,発熱,喀疾が出 現するようになり,近くのレストランのカレーの
A report of autopsy, postoperative uremia due to cholecystectomy.
一703一
においがすると必ず咳発作が起こりまして,ひど くなると呼吸困難の状態になりました.この状態 は6月の半ば頃になり,増強したので,小坂内科 に入院したものです.黄疸,腹痛はこの時認めて おりません.
現症ですが,顔色に黄疸なく,眼球結膜にも黄 疸はありません.胸部で,水泡性ら音が右下肺野 に強くありました.腹部所見で,.肝,胆のう,
腎,脾は触れておりません.
次に入院経過ですが,第1回目入院は6月11日 でありまして,入院時,両下肺野に吸気および 呼気に水泡性ら音が聴取できました.胸部レ線 にて両側下部肺野,とくに左下肺葉に穎粒状およ び雲状陰影を認めております.また気管支造影に ては,特別異常は認めませんでしたが,血沈値は 1時間29㎜,2時間63㎜,白血球数11,300.肺機 能検査にて軽度の閉鎖性変化を示しており,また 喀疾培養にてKlebsiellaを認めました.このた め,細気管支炎と診断し,直ちに抗生物質,気管 支拡張剤,去疾剤の投与を開始し,次第に胸部レ ントゲンの影は消失しております.また咳漱,喀 疾,発熱もなくなり,右胸部の水泡性ら音も長い 間吸気時に聞えていましたが,これも徐々に消失 いたしました.
また臨床検査,特にトランスアミナーゼ,血 中・尿中のビリルビンに異常なく,肝シンチにて も軽度の肝腫を認めま噛したが,腹痛などはなかっ たようです.自覚症の消失と共に7月24日,本人 の強い希望により退院しました.
ところが翌日発熱に咳漱,喀疾が再び出現し,
同時に強い心窩部痛が出現し,再入院しました.
胸部所見は退院時と変化なく,血沈値が高くな り,白血球増多症を認めました.8月13日頃より顔 面および眼球結膜に軽微な黄疸を認めるようにな
り,8月20にはGOT77, GPT64,アルカリホ
スファター・ゼ44,総コレステロール286㎎戸dl,総 ビリルビン1.8㎎:畑(直接1.2mg畑)となり,腹 部単純撮影にて異常なく,胆のう造影にても,胆 のう,胆管造影できませんでしたが,心窩部から右 季肋部にかけて中等度の圧痛を認めました,8月 26日,GOT60,GPT47,アルカリホスファター
・ゼ40,総コレステロール255㎎:/dl,総ビリルビン 3.9rng/d1,(直接2.5),この頃より顔面および眼 球結膜に強い黄疸を認めるようになり,心窩部の 圧痛も強度となりましたが,自発痛はほとんどあ
りませんでした.9月4日腹部エコー検査にて異 常は認めませんでした,しかし,胆のう結石症の 疑いにて抗生物質投与と硫苦による洗浄を行ない
ましたが,黄疸および自覚症の消失は認めません でした.しかし今回も本人の強い希望にて退院と なりまして,はっきりした診断がつかないまま退 院となったことは,われわれとしても非常セこ心残
りであります.
織畑:どうもありがとうございました.今お話 を伺いますと,今回私どもに入院しましたのが,
昨年,昭和44年12月13日になりますから,内科を 退院してから約2ヵ月足らずのところだと思いま すので,病気としては関連性がだいぶあるように 思います.胆のう炎のほかに気管支炎があって,
それがあまりすっきり治っておらないような印象 を受けますが,そういった前歴をもつて今回,
昨年の12月13日に救急セγターを訪れたわけです が,その時は前からありました胆石発作と,それ に軽度の黄疸というふうなことでありまして,そ の後に外科で手術して,いろいろ合併症やその他 ありましたので,そのことを受持の木村先生から 話してもらいたいと思います.
木村:外科の経過を申し上げます.まず簡単に 病歴を紹介いたしまずけれども,主訴は,:右季肋 部痛,全身倦怠感黄疸で,家族歴では,兄が輸 血中に死亡しておりますが,その疾病,病状,詳 細は不明です.その他は特にありません.既往歴 は,2〜3年前より発熱,腹痛があり,小坂内 科に入院,chr・gastritisとcholecystitisの診断 を受けました.この頃より体重の減少が見られま
した.昭和44年6月,腹痛・熱発あり,小坂内 科へ胆のう炎および胆石の疑いで再入院.黄疸が 出現しましたが,経過と共に消退し,9月軽快退 院しました.この時のDiagnoseは胆のう炎,慢 性気管支炎および細気管支炎でした.生来健康 で,体格も大きく,スポーツ等も万能であった が,職業は歯科医で,かなり無理をしてきたとい
一 704 一
うことです.現病歴は,昭和44年12月13日,午後 1時に救急センターに来院.1週間前より心窩部 痛および左・二季二部痛があり,近医に受診し,
gastr量tisの治療を受けました.3日前より疹痛は 右季肋部に限局し,背部,右上腕に放散する痛み を伴いました.黄疸には気付いていませんでした が,Hamの色は濃い茶褐色でありました.近医 にて鎮痛剤投与をうけ一時的には軽快しました が,時間とともに再び同様の三民の出現をみると いう経過を繰り返しました.12月13日の朝,38.4
℃の熱発あり,近医にて抗生剤とBuscopan注射 をうけ,一時冷痛・熱発はなくなりましたが,繰
り返して起こるので,当院救急センターを受診 し,内科医診察後,外科へ入院となりました.胸 部・腹部レ線所見は異常所見はありませんでし
た.体温36℃,白血球10,700,
入院時所見は,体格良,栄養状態不良,顔貌衰 弱,歩行可,皮膚黄染(十),脈拍68/min,整,緊 張良,軽度動脈硬化あり,血圧go/60皿}セ,体温 36.1℃,咳・疾・リンパ節腫脹等(一).瞳孔左右 差なく,減光反射正常,眼球結膜に黄疸(十),面 隠結膜に貧血(一).心音清,肺異常なし,肺・肝 境界は第VI肋間.腹部は肝・脾・腎を触知せず,
腫瘤なし,腹水(一).右季肋部に圧痛(+),自発 痛(一),Resistenz(十),他の部位は柔らかい.
神経学的異常なし.E. K. G.は左軸変位, low voltage, V1,2,8,4でT波逆転している.
入院後の経過は,入院直後より血圧は低目気味 でありましたが,熱発もなく,右季肋部痛も軽減 し,ほとんど訴えがなくなりました.13日夜排便 があり,少し硬いが色調に異常はみられず,嘔吐 は1回ありましたが胃液のみでした.
黄疸については,入院後3日目までは肉眼的に 進行はみられませんでした.抗生物質の経口投与 によって胃部不快感を訴えております.15日,胸 部,腹部レントゲンで異常所見はありませんでし た(写真1).腹部単純X−Pで胆石陰影は不明 です.テレパーク経口前日投与による胆のう造影 にて胆のう陰影は写らず,同時に行なった胃レン トゲン(写真2)では患者の状態が余りよくなく て精査できませんで,病変の有無こついては不明
夢
團
写真1写真2
です.16日,十二指腸液採取のため,リオン管を のませましたが,嘔気が強く,十二指腸液採取で きずに中止となりました.摂食は肝A全粥を1/3〜
2/8量程度,検査の間は家人と談話したりして全身 状態は良好でしたが,軽度の全身倦怠感は持続し てありました.また一時的に37.4℃の発熱があり ましたが,下熱剤を使用しないで下熱しておりま す.この日より術前(肺合併症予防)療法として
ネブライザー3回/1日,ダ一鶴ン4錠を投与して おります.
12月17日より,肉眼的に全身の皮膚に黄疸が入 院時より強くなってきております.ビリグラフa
一 705 一
ン静注による胆のう造影はテストだけで中止して おります.夜になって発熱38℃あり,下熱剤を使 用して容易に下っております.
12月18日,咳,疾,咽頭痛の訴えがありまし た.血液型再検査で前回のB型に対してAB型と の返事があり,慎重に再検査しましてB型と決定 しました.高圧洗腸にて排便がありまして,一部 に灰白色便が混じておりました.血清生化学的検 査では,T.P 6.69佃, AIG 1.2, GoT loo,
GPT40で,以後上昇の傾向がありましたが,
100前後にとどまり,急性肝炎の時のような高値 は示しておりません.黄疸指数も40→58.5→66と 上昇し,Al−Pも41→43と上昇しております.血 液一般検査では特に異常は認めませんでした.尿 検査で,混洩強く,タンパク(十),ビリルビン
(十),ウロビリノーゲン,ウロビリンは正常でし た.沈渣では,ガラス円柱上皮が出ております が,赤血球,白血球の出現はほとんど正常範囲で
した.尿量は計測していませんが,5〜6回/1
日あり,正常と思われました.P.S・P・testでは15 30%,120 55%でした.以上の経過と検査より,
総胆管結石症,胆のう炎,胆管炎の診断のもと に,12月19日手術を施行しました.
手術所見:上正中切開にて開腹,胆のうと総胆 管にNetzが癒着,剥離後,総胆管にウズラの卵 大の結石を1コ触知しました.総胆管にエラスタ
ーを入れ吸引しましたが,内容を引けず,生理的 食塩水を注入し再び吸引しまして少量のEiterを 得ました.この時点で,ビリグラフaン20ccを注 入し,胆管造影を行ないました(写真3).結石の 上面にて縦切開を加えるに,Wandは肥厚し,結 石は大きく,動かないので更に側面に横切開を加 え,steinを割って取り出しました.次に乳頭へ向 ってブジーを入れ,拡大をしました.他に結石は ありませんでした.胆のうは萎縮していまして,
表面を切開し,内腔を求めるに総胆管との交通が ありました.胆のう部分切除を行ない,総胆管に T−Tubeを入れ,側面を縫合し, Drainageを行 ない,腹壁を閉じて終了しました.Leberは異常 なく,Magenも外より触れる限りGeschwUrは みつかりませんでした.結石は,2.5x2×2㎝
P
150 40 130 3 11e sa
90 37 70 36
灘1
写真3 阻管造影 村○安0 6S2
14. 15 16 τ7 18 1 20 21 2 2 25
0 1 6
T4140338373635
門:満=・㌧
TP
マ≧=・
ケフロ隔ソン2 ay
セジラニド 自mg彪麺m盟 月mg匿 臼
BTF 600 200 200cc
Blutung 糸勺570 cc
図1 入院経過
の大きさ,ビリルビン結石であり,もろかった.
麻酔中などに問題はございませんでした.
術後経過(図1):術後着床時,悪寒あるも著 変なく,血圧は最高血圧90〜100m}セ前後で,発 熱38℃ありましたが,下熱の傾向がありました.
頻脈(120/min前後)あり,徐々に上昇していき ました.胃管より液の排出はありませんでした.
第1離日より血圧の下降がみられ,脈拍は整で すが,144/minまで上昇しました.胃洗浄によ って得られた液は,胆汁が混じ黒褐色を呈して いました.セジラニドを半急速飽和の形で使用し ました.白血球が25,000と高値を示しました.第 2病日は嘔吐がありましたが,量は少なく黒褐色 でした.脈拍は158/minにもなり,不整とな り,血圧は下降し,時max 60〜70m㎏代となり 一706一
ましたので,輸血を開始しました(600cc).昇圧 剤,補液etcによって血圧は上昇し,脈も頻脈は ありましたが,一 OO〜120/minに落ちつきまし た.自尿があり,尿量は術後700〜900cc,比重 は1,040前後でした.第3二日より血圧,脈拍と もに落ちつき,熱発もなく,ただ時折,脈拍に不 整と嘔気がありました.第4病日は排ガスがあ り,経口的に水分摂取開始,特に異常ありませんで した.27,000のleukocytoseがありましたが,原因 はちよつと不明です.第5病日は経過良好で,病 棟へ帰室いたしました、経口より水分300〜400 cc摂取しております.第6二日はタール便!509 がみられましたが,流動食を開始しております.
軽度の熱発がみられましたが,脈拍は100〜110/
min前後で,不整なく,血圧も落ちついておりま した.ただ全身倦怠感の訴えと二部の強い二二の 訴えがありました.手術創に発赤が見られまし
た.
織畑:今までの所の話を聞いていただいた範 囲で,そう特異な経過はみられないと思うんで すが,私自身も手術にタッチして,また術後経過 にタッチしてみていて,そう異常なものは認めら れなかったと思います.もしこの中で何か御質問 でもありましたら伺いたいと思いますが,私の方 でちよつと確かめておきたいのは,このプリント によりますと,chr. gastritisというのを木村先生 の方は書いておりますが,内科のお話ですとそう いったことはふれてないんですが,内科の方では 何かそういうことはありましたか.
藤島:内科の方では特別検査しておりません で,記載もございませんが,一応記載の方には食 欲減退という事が書いてございます。
織畑:積極的な胃潰瘍とかということはなかっ たわけですね.
そうすると,あとは手術する前には潰瘍に関す る何かデータがありますか.
木村:ちよつと状態が悪かったもので精査でき ませんでして,ちよつと潰瘍みたいな疑わしいよ
うな所があったんですけれども,レントゲンで見 た限りでは断定できるようなものはありませんで
した.
織畑=それと,手術の時にもはっきりと潰瘍は ないんですか,
木村:はい潰瘍は外からは触れておりません.
織畑:もう一つは,胆のう炎はあったけど,胆 のうの中には石はなかったようですが.
木村:胆のうの中に石はございませんでした.
織畑:術後総胆管からT−tubeでGalleを引い ていたわけですから,1週間ぐらいの経過ではは っきりしまぜんが,少なくともある程度黄疸の状 態とか,モイレングラハトというようなことはこ れから話しますが,そういうことで経過は良好だ つたわけですね.何か御質問ありますか.
小坂:ちよつと伺います.今の術後の経過のと ころで,外科の方のお話では非常にgiattだという ことですが,検査所見でビリルビン値の推移とモ イレングラハトの推移との間に違いがあります.
両方の測定法が正しいとしても,その感度からみ て血中ビリルビン値をより参考にするわけです.
そうしますと術前と,術後の血中ビリルビンの下 り方が,この程度で普通良好な経過としてよいの かどうか.そして白血球が依然として多いんです けれども,そういうことも手術の後によくあるん で問題にするほどのことではないかどうか.
織畑:ビリルビンの方の下り具合は症例,症例 によって違うかと思うんですけれども,20日の,
手術の翌日が一番高いわけですが,それで徐々に 下っているというわけなんでしょうが,その辺 症例によってだいぶ違うんじゃないかと思います ので,早いとは言い切れませんが,モイレングハ
トに関して顔色なんかではあまりはっきり出ない わけですね.
木村:はい,術後4〜5日目まして,やはり肉 眼的にはつきりとうすくなったという感じはしま
す.
織畑:そういうことで,非常に早いとはいえま せんが,全然良くならない形でもないという程度 で,見た感じで少しでもいい方へ五ってるという
ところで……
もう一つ,ロイコチF一価に関しては20,000ぐ らいあったのですか.
木村:第1二日tlc25,0eoです.それから22日に は下っているんですけれども,23日にもう一度
27,000tlc上昇しました.ちょっとこれは熱が出た とか,そういうことはございませんで,このデー たはちよつとはっきり意味付けができないと思い
ます.
織畑:普通は手術のあと,ある程度Leukocytose がありますが,やや多過ぎるという感じはします ね.他にはございませんか.
太田:今,手術所見の所でおっしゃったかも知 れませんけれども,肝臓の所見でちよって考えま すのは,Billiary cirrhosisがあったかどうかとい
うことです.physical Statusはおそらく脾腫はな かったと思いますが,白血球が12月15日に4,000,
5,000と少ない.今おうかがいしたのはportal hypertensionがあったかどうかという事で,後で 吐血の事がございますので.
木村:肝臓に関してはJ肉眼的に,また触知す る限りではCirrhosisという所見はありませんで した.Milzについてはわかりませんでした.
織畑:山中先生,手術に立会って見られてどう でしたか.
山中:手術の時にMilzは触れていましたが,
特別大きさ,性状に異常はなかったようでした.
織畑:手術の時によく肝臓の変化を見る場合が ありますが,いわゆるCirrhosisとして,縮小 して,でこぼこしているものを見る事があります が,今回見た感じではそういう変化は全然なく て,ほぼ正常に近いものでした.
藤島:黄疸のアナムネーゼの方なのですが,私 達のとはくい違っておりますが,Icterusが,ず っとくり返していたという事はありませんでした
か.
木村:本人から聞いた限りではありませんでし た.一応9月軽快退院したと言ったものでしたの で,その後黄疸が出たり消えたりというような事 は患者からは得られませんでした.
藤島:私共での退院前のモイレングラハトが 30,ビリルビンが3.8となっておりまして,ビリ ルビン値は高くなっておりますが,モイレングラ ハトはそれ程高くなっておりませんが,しょっち ゅう黄疸が存在した場合に,特に胆石の場合など で,そういう事が言えるのでしょうか.
木村=やはり完全な閉塞ではなかったというこ とで,完全閉塞ならば,そういうふうな経過で黄 疸がでたり,下がったりしなくて,ほとんど悪化
していくわけですが,この人の場合は,その時点 で完全に閉塞していなくて,Harnでもウロビリ ノーゲン,ウロビリンも正常でございまして,閉 塞が完全になってきたのはやはり12月頃だと思わ れます.それまで全く黄疸がなかったとは思われ
ません.
織畑:ちょっとつけ加えますが,胆道の石は割 合と柔らかくて,いわゆるビリルビン結石ですけ れども,よくみられる堅い「こちんこちん」ので はなく,比較的柔かくてかたまっているわけです が,そういった感じからして,非常に古いという よりも,やや新しいものではないかという事で,
最初内科で黄疸があった原因もこのためであっ 七,一旦治ったのも,完全閉塞ではなくて,ぐず ぐずのような石では,まわりからも通るでしょう し,炎症がとれるに従ってよく通るようになっ て,治ったのではないかと思います.それから場 合によると,今回は大きな石が1つあって,閉塞 していたのではなくて,小さいものが,閉塞を起 こしていたかもしれないという事が考えられま す.そういうぐずぐずな石の事ですから,時々つ
まる,そしてまた通るという事が考えられる.胆 のうの方に石はなくて,総胆管にあったわけです が,内科の方のアナムネーゼであった事も総胆管 結石が原因であったと思われます.それでは術後 の経過で続けて頂きます.
木村:その間の尿量は700〜1,500CCで,比重は 1.030で一定しておりました.沈渣で頼粒円柱上 皮が出現しておりまして,タンパク(十),血液検 査で一万前後の白血球増多症がずっと続いており
ます.出血凝固時間では,延長は特に見られませ んでした.黄疸は肉眼的にも消退の傾向にあり,
MG,GOT, GPT, AI−Pも低下してきております.
血中ビリルビンもやはり低下してきております
(図2,3,4).経口摂取では,流動,3分粥,5分 粥と進みまして約1/3〜2/3量摂取しております。順 調な経過でたどるように思われましたが,図5の 如く第9子日にFieberはありませんでしたが,再
一 708 一
50一
Ro十e(XIO万)
Ht(%)
40一
30一 BTF
ヰ寸○安○ δ 52
20一
600 200 200 Bl・+ung 570
Hb(gdD Pla十「et 10− We;Be
ノx
13yXI14 i5 ]6 17 18 (S)20 21 22 23 24 25 26 27一一一 5/III nf
図2 血液検査経過
41
PT
150 co 13039 110 ea
eo 37 70 36
村○安0 652
対○安○ δ52
1 1415i6 1718 19202122232425262728293031
11234567
oρel つ 3 4 5 6 7 8 9 1〔)1112↑30囲r1只 ∩
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幅ジラニド 暫mg匿 wa (晋瀞S 「謬mg圏 ee
BTF 600 400 400 4000 200 600 Blutung ? ? ? 3920
図5 入院経過
100 80 60
.nf O
20
図3 生化学的Dataの経過
ネ寸○安○ δ52
13bu 」4 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 ee 303H/i 2 3 4 5 6 7
3000一
2000一
1000一
Intet
Ope.
Ou十let
Ope.
一k量 1:118ニー
水フk動動←5分粥う 全粥
Y2−2/3 10010eeOO600 2/3 図4 体液バランスの経過
び頻脈の傾向がみられ,血圧の下降が始まりまし た.12月30日(第11虚日)嘔気,胃部不快感を訴 え,著明に食欲低下が目立ち,ジュースを飲んだ 後,嘔吐しコーヒー残立様吐血を確認しておりま す.輸血によってかなり改善されましたが,12月 31日脈拍急激に上昇し,160/mにまでなりまし た.不整がみられ,血圧はmax 90〜110㎜}壇を 保つように輸血補液をしております。1月1日 血圧はmax 100前後,脈拍も90代となって落ちつ きました.不整はありませんでしたが多少微弱で した.Coagulaを含む胃液を約150cc嘔吐してお ります.虫部の冷却と冷たい生食水による胃洗浄 を行なっております.
1月2日夜半に胸内苦悶感あり,.血圧の急激な 下降がみられ,脈拍は再び上昇して微弱となり,
酸素吸入,輸血を行なった.脈拍は不整,欠滞を 伴い, 120/m前後であった.午前2時300cc吐 血(暗赤色)あり.血圧は70と下りShock状態と なり,輸血を続行致しました.午前7時2回目の 吐血400cc,午前9時3回目150cc吐血 グリセ
リン溌腸によってタール便を得ています.田部の 冷却と生食水による胃洗浄を行ないました,約8 時間で850cc出血し,症状に応じて輸血しており ます.輪血は血圧保持(max gO代)するように 量を追加して行ないました.時間の経過によって
このような状態をくり返し起こすので,出血胃の 診断のもとに,手術をすることに決定しました が,状態悪く,血圧max 60〜70mmH9の状態なの で,局麻で開腹致しました.
その時の手術所見:
前回手術創2カ:所に皮下膿瘍が認められ,
Querschnittにて開腹しました. Magenを触ってみ ると,Winkel V.Wに母指頭大の潰瘍を触知し,
他の部からの出1血も考えられたので,大竃側V・W に約4c皿の切開を加え,内部を調べると,大器 側にErosion 1コあるもここからの出血は見られ ず,Winkel V.WのGeschwUrはEiter Belagを 有し,Randwallとの境界に動脈性の出血がみら れた.術中胃管より吸引したところBlutはかなり の量に及び,患者の状態も良くないのでMRは 行なわずに,潰瘍部の部分切除を行な:い,Witzel 腸痩を造設して手術を終了しました.
術中の出血は2,000cc,輸1血は1,800ccしてお ります.潰瘍は1.2×0.8cmの大きさであった.
術後なお出血が見られ,胃管より吸引した血 液量と吐血の量は約1,000cc,輸血はtota1約
1,400ccを,血圧がmax 90ぐらいになるように 調節して行なった.その時新鮮血600ccを使用し
ました,また昇圧剤,強心剤,補液,戸部冷却,
胃洗浄など必要に応じて適宜行なっておりまし
た.
1月3日血圧はmax 70〜801imiiHg一度350cc 吐血がありましたが,出血は止まる傾向がみられ 徐々に血圧も上昇し,変動も少なくなりました.
患者は意識明瞭で,倦怠感を訴えております.
1月4日嘔吐がありましたが,大量出血はなく なり,Coagulaを含む程度になりました.血圧脈 拍ともにおちっき,尿量も一時550ccぐらいに落 ちたが再び1,000〜1,200cc確保できるようにな
った.
1月5日腹部の膨満感を訴え,排尿困難感を訴 えました.血圧,脈拍共に落ちついておりました,
多少興奮気味の状態が時折みられるようになり,
嘔気,嘔吐は少量だが頻回あり,コーヒー残渣様 のものを得ました.血液検査では,多少濃縮の状
・態にあり,尿量は約1,000cc,出血時間6 30 と 延長しております.凝固時間は9/00 でほぼ正常 でした.血清生化学的には著明に改善しており ます.血清タンパク分画で,Alb 48%,γ一gl 26
%,AfG O.9,電解質にてUrea Nの上昇があり
ました.
1月6日血清生化学にて患者を再検して,前
日の値Urea−N 152 Na 137, K 5.1, CI 74と判 明しました.排ガスがありました.突然起き上が
り,変な事を口走るような事がみられ,嘔吐は頻 回みられたが,出血はありませんでした.二部不 快感と全身のJuckenを訴えました.血圧の下降 がみられ,脈拍も微弱,不整,欠滞となり,意織の 混油が強くなってきたようでした.新鮮血を輪血
し,尿量は1,200cc,比重1,019でありました.
1月7日血圧は割合落ちついておりましたが,
意識の混油強く,失禁がみられました.至急の
検査にて,T.P 8.4, Urea N 204, Na 139, K 7.8で異常な高値で示しております.腹膜潅流を 午後開始しました.午後20時50分,ペリソリタ 1,000cc, KM19腹腔内に注入し,続いて1時15 分,ペリソリタ1,000cc注入しました.この時血圧 は88〜64㎜㎎,Puls 122/min, R−16/minでした.
1時間後,開放し排液1,180cc得ました.3時30 分より15分かけてペリソリタ1,000cc, KM19 注入しました.4時23分,開放しまして,排液850 cc得ました.5時20分,ペリソリタ1,000cc入れ ましたが,5時30分突然呼吸停止し,血圧40mnHg となり,続いて心停止も起こりました。気管に挿 管をし,心マッサージを行なったが,6時15分死 亡致しました.この時排液950ccありました.以 上で外科の経過報告を終了致します.
織畑:今,その後の経過を話していただきまし たが,大きく言いますと,手術後9病日あたりか
ら血圧の下降のため様子がおかしいという事と,
出血が起こってきまして,だいたい3〜4日は何 とか輸血胃内容の吸引,冷たい食塩水での洗浄 とか,色々保存的な方法を講じたわけですが,だ んだん出血量が多くなりまして,血圧下降がはげ しいということから,どこか出血しているところ を止めないことにはどうしようもないということ で,思い切って再開腹に踏み切ったわけです.開 けてみましたら,先ほどの話しのように,胃の前 壁にはつきりした潰瘍がみられまして,しかもそ こからの出血があって,そこだけを切除すること によって一応危機をのがれたと思っていたわけで 一710一
すが,多少の出血傾向はあるとしても,だいたい 4〜5日目経過をみていますと,その大きな出血 tcよる影響はくいとめられたわけですが,不幸に
してそのころから毎日みていますと,どうも意識 がボヤッとするのが気になったのですが,Urea−N の測定の結果が,少し日がずれてわかった関係も ありますが,151で非常に高い.そういうこと ですぐ理論外科の方で人工腎臓をまわしていると いうことを聞きましたので相談に行ったわけで す.そうしますと,手術後間もない時間にやると 出血傾向その他の危険があるので,ちよつと様子 をみて,腹膜潅流ぐらいがいいのではないかとい うこともありまして,それを実行したわけです が,不幸にして,だいたい終った頃ですが,突然 心停止がおこったというのが全体です.この腎不 不全に関して,しょっちゅうではない関係もあり
ますが,時として外科で行なう手術後に腎不全が おこります.それはある時間まで,ある程度まで 何とかもちこたえると,あと利尿がついて治ると 本に書いてありますが,丁々そのように行かない のが多いわけで,最近できた人工腎臓を使っての 治療に大きな期待をもつているわけで,偶然です が,この前にも1例,胆嚢炎で入った患者が局
:所々見,全身状態もおさまって,手術をしようか と思って尿を調べると,尿が少ない.Urea・Nも 高くなっている.そういうことで結局手術をせず に胆嚢炎のほうはよくなったのですが,今度は腎 不全の方の具合が悪くなって,確かこの例のあと に人工腎臓でお世話になった例があります.そう いう例もありまして,人工腎臓あるいは腹膜潅流
の適応,あるいは最近の動向などについて,太田 先生から話しを伺いたいと思います.
小坂:お話しの前に,この症例ではどうしてそ のような状態になったのか,大いに問題にすべき だと思いますが.
織畑:太田先生のお話しの中でその点にふれて もらいますが,そういう状態になる理由は色々考 えられるのですが,一応,血圧下降,あるいは輸 血に伴う腎障害が考えられます.そこで早く助け たい,どうやったら早く助けられるか,検査成績 があとでわかって,もう手遅れであるということ
になっては非常に困るので,特に太田先生に,ど いう時期に適応があるかという点でお話しをして 頂きたいのです.
太田:それでは少し時間を頂きまして人工腎臓 ならびに腹膜潅流など人工透析を使った尿毒症の 治療法について,最:初に方法を説明し,あとで適 応の問題について触れてみたいと思います.
人工透析には,今お話しましたように腹膜潅流 と人工腎臓による血液透析とがある訳ですが,腹 膜潅流というのは皆様ご存知のように,リンゲル 液にブドウ糖を加えたような潅流液を腹腔内に注 入し,一定時間放置した後,それを体外に排出さ せますが,この場合は腹膜という半透膜を利用し て透析を行なって物質の出納を行なうわけであり ます(図6).
人工腎臓にはコイル型のものとサンドイッチ型 のものと二種類ありますが,このコイルを使って いる代表的なものが,コルフ型人工腎臓です.写
as
図6 腹膜潅流
写真4 コルフ型人工腎臓 一711一
真4は人工腎臓のコイルの部分で,血液はビニー ルの回路を通ってセPtファンのチェーブに連結し ており,このチコ・一ブが約10m上下二段に分れて いますが,合計20mまかれております.
このようなコイルを1001の潅流液,これは腹 膜潅流液と非常に組成の似たものでありまずけ れど,その潅流液にひたしまして下から電機洗濯 機と同じような機構で潅流液をモーターでまわし て,血液をセロファン膜という半透膜を通しまし てきれいにするというわけです(写真5).
写真5
はここにごらんに入れますように潅流液の供給装 置がありまして,この装置の中で35倍の濃厚潅流 液を水道水とまぜ希釈しまして,これが透析装置 の中へ流れてそのまま捨てられるようになってい ます.(写真7).
写真7
透析膜としては,現在セロファン,ないしは ヵプロファンなどを使用しておりますが,これら の膜には30A前後の穴があいています.そうしま すと非常に小さな分子であります塩類とかUrea−
N,そういったものは皆通るのでありますが,ビ ールスなどはそれに比較しますと非常に大きなも のでありまして通りません.そこで人工腎臓用の 潅流液は消毒の必要はありません.しかし腹膜潅 流の場合は潅流液を腹腔に直接入れるので消毒し たものでなければなりません(図7).
また人工腎臓をまわす場合に,体外に血をひつ ばり出す装置が必要になります.そのたび毎に血
写真6 キール型人工腎臓
写真6がキール型人工腎臓です.これはサンド イッチのようになっておりまして,サンドイッチ の真中に封筒をはさんだような格好です.そして 封筒の内腔にあたる部分を血液が流れ,封筒の外 側とプラスチックの板との間を潅流液が流れると いうような形になっております.
コルフの場合は100 1のタンク内で透析し,一 定時間後にそれをとりかえますが,キールの場合
Q
蘇
糠騰職○
一
100A1・)
躇,i,θ Vric acld Holes in the
membrane A
図7 Actual size molecles(Nos6による)
一712一
管を切ってカニェーレを入れてもよいのですが,
最近では特に慢性の患者さんを扱う場合には反覆 して使用できるA−Vシャントを入れます.それ で人工腎臓をまわす時には連結管をはずして,そ
こに人工腎臓の方の導管を挿入するということに より,患者さんtlこは全く苦痛を与えることなく人 工腎臓を回転することができます(図8).
このような外に出す方法以外に,最近では体内 に動静脈短絡路をつくる方法も考えられておりま
す.
x
写真8 前腕体内の動静脈短絡円
融
ノ
Vein
Ar十ery
一 A
ノ}
x
v
いますので,手掌の方向に刺しますとこれが動 脈血,反対向きにさしますと,そのBlutは体に かえる静脈血になります.この方法によります と,体外シャントを常時つけているというわずら わしさがありせん.ぬきますと点滴したあととほ ぼ同じでありまして,患者にとってもそれほどの 苦痛がありません(図9).
以上が腹膜潅流と人工腎臓のあらましでありま すが,その薗応を表1に並べてみました.人工腎 臓の初期の時代には,適応はすべて急性の腎不全 でありました.すなわち,ショック腎とか,今回 のような術後の腎不全,それから薬物中毒,異型 輸血,そんなものが非常に多かったわけでありま す.しかし,最近では今ご紹介しましたようなシ
ャントをつけて反復して人工腎臓をまわすことが できるようになり,また腎移植によって患者をな おす事もできるというような事になって参りまし たので,最近では人工腎臓の9割以上が慢性腎不 全に対する応用で,急性腎不全はそれが発生した ときに対処するというような状態になっておりま す.慢性の腎疾患の中では,慢性糸球体腎炎が一 番多くなっています(表1).
表1 透析の適応
A
急 性 腎 不 全
1. ショック腎 2.術後腎不全 3. 薬物中毒 4. 異型輸血 5. Crush Syndrome 6. 腎外傷
7. 急性糸球体腎炎
B
慢 性 腎 不 全
1. 慢性糸球体腎1 2. 慢性腎孟腎炎 3. 多発性嚢胞腎 4. 腎結核 5.両側腎腫瘍 6.両側腎結石
Y一ノ
図8 A−Vシヤソト(体外) 図9A−V fistula(体内)
写真8はその短絡路でありまして,前腕のA,
Radialisと皮膚のVenenとの間に吻合をする.
そうするとその手の静脈が動脈化されまして(写 真8),この静脈を経皮的にPunktionすること により,人工腎臓をまわすことができます.そ れがこの図9です.すなわちここに短絡路がござ
それで腎不全の患者さんが発生した場合に,こ の患者さんを血液透析でやるか,腹膜潅流で処 置すべきかというような問題があるわけでありま す.これはそれぞれ一長一短がありまして,表2 にその特徴を書いてみました.まず尿素窒素の除 去効果でありますが,これは血液透析の方がはる かに有効で,1回血液透析をコルフ型で4〜6時 間行ないますと,Urea−Nはだいたい術前値の半 分になります.すなわち200であれぽ100,100な
ら50ぐらいに下ります.腹膜潅流ですと,もちろ んUrea−Nはさがるのでありますが,その効果は 一713一
血液透析に比較してはるかに落ちます.次にカリ ウムの除去効果でありますが, これは腹膜潅流 も血液透析もそれほど変らないという印象をうけ ております.つぎに浮腫などのある場合の水分除 去効果ですが,これは使用する液にもよりますが 腹膜潅流が非常に有効で,やりようによっては一 晩に3〜51ぐらい水分をとることも可能であり
ます.血液透析ももちろん有効でありますが,む しろ水分をぬくという目的には腹膜潅流の方が適 しているように思います.次に侵襲という大ざつ ばな表現をいたしましたが,血液透析のほうが腹 膜潅流に比較して大きいと,しかし血液透析でも 昔考えていたほど大きいものではありません.そ れから開始までの所要時間でありますが,血液 透析はやろうと思ってから実際に動き出すまでに 30分〜1時間かかります.しかし,腹膜潅流の方 は一応なれたころであれぽ5〜10分で開始できま す.透析に要する時間ですが,コルフ型を使いま すと人工腎臓を4〜6時聞,腹膜潅流ですとやは り8〜10時間ぐらいかけないと効果は充分といえ ません.それからもちろん人工腎臓は機械のある ところでないとできない.
合併症としては血液透析の揚合は敗血症,心不 全,出血・こういった合併症がわりあいみられま す.腹膜潅流の場合は,腹膜炎とか癒着とかいっ たものがあります.最後に費用は血液透析の方が 高い.しかし,これは健康保険があれぽそれでま かなうことができます(表2).
表3にそれぞれの適応をあげてみました.まず 高カリ血症などですでec,.心不全を起こしている 表2 血液透析と腹膜潅流との比較
血液透析1腹膜獣
表3 腹膜潅流の適応
1。高カリ血症などですでに心不全をおこしている
症例
2,水分の貯溜が高度な症例
3。消化管などの出血が始まっている症例 不適当た場合
1.腹膜炎」腹部手術々心ないしはその既往のある
症例
BUNの除去効果
カリウムの除去効果 水分の除去効果
侵 襲
開始までの所要時間 透析の所要時間 機械,装置 合 併 症
費 用
大
30, tw 60,
40N60
要 敗血症,心 不全,出血
高い
十
小 5ノ〜10
80rv120 不要 腹膜炎,癒着
安い
か,ないしはHerzがArestを起こしていると いうふうな患者さんでは,これはもう腹膜潅流が いいと思います.それから消化器などの出血がす でにはじまっている症例,実は私達のところに来 るのはこの程度まで悪くなっている患者が多いの ですが,こういうような場合もやはり腹膜潅流を やったほうが安全であります.といいますのは,
人工腎臓をまわしますときには,やはりどうして も全身のヘパリン化という事をしなければならな い.もちろん腹膜潅流でも潅流液にヘパリンをあ る程度まぜるのですが,その程度は人工腎臓に比 べれば,ずっと少ないというわけです.腹膜潅流 が不適当ないしはあまり適当ではない場合,これ らは腹膜炎を起こしている場合,それから腹部手 術の術直後,ないしは以前に開腹手術をしてお腹 の中にかなりの癒着が考えられる症例,こういう 場合はあまり望ましくない.しかし,まあできな
いことはないということでございます(表3).
たとえばこの患者さんは(写真9)このように ひどいうつ血性心不全できましたが,このような 状態ではすぐ人工腎臓をまわすと具合が悪いと思 います.このような場合にはまず腹膜潅流で水分 をとることが重要です.腹膜潅流を2〜3日やり ますとHerzはこのようになります(写真10).こ のようになりまして人工腎臓のプログラムにのせ るわけであります.この患者さんは実は高血圧が 非常に強くて,また将来腎臓移植をやろうという 考えもあるものですから,両方の腎臓を摘出いた
しました.
両方の腎臓をとりまして,人工腎臓で維持して いると,Herzはさらに最小いたしまして,患者は 非常に元気で行動も全く自由になっています(写
真11).
一714一
写真9
,ζレ
■,.ど,
写真11
e−si
写真10
このように人工腎臓,腹膜潅流をうまく利用し て使いますと,驚くほど患者は良くなるものであ
ります.
次にどういう時期に人工腎臓をまわす決意をす べきかということについてふれたいと思います.
これは慢性と急性でかなり違いますが,まず急性 腎不全について考えてみたいと思います.たと
えぽ,ここであるエピソードがあったことにしま す.たとえば血圧が下ったとか,手術中にショッ
クになったとか,その他薬物中毒になった,異型 輸血をしてしまった,というようなエピソードが あって,それから腎不全が起きてきたというわ けであります.もちろん腎不全がおきてきたとい
う事は検査のデーター上ではっきりわかるのであ りまして,尿が出ているという事,これに決して だまされてはいけません.私達が扱う患者さんの
うちかなりの症例が1,000cc前後の尿量がありな がら,しかもUremiaになっている患者さんであ ります.そうしますとBUNがだんだん上ってき ます.術後は必ずといっていいほど,BUNは一 時的に上りますが,大部分の場合はすぐ下って
きます.しかしあるものは上昇の一途をたどって しまうというようなことであります.どの辺にこ のわかれ道があるのだろうかというと,個々の症 例について一概には言えません.しかしだいたい 感じといたしまして,私はBUNが60をこえた場 合にはもう透析の適応を考えていいのではないか
と思います.もちろんそれ以上になっても自然に 下ってくる場合もあります.しかし,そのまま上 っていってしまうものもかなりあります.それで 実はこの辺に線をひきましたのは,まず60とい
うデーターが出るのは,実際に採血した日から2
〜3日後であります.そうしますと1日でBUN が20〜30上ることがしばしばありますので,実際
一 715 一
にはすでに100に達しているということでござい ます.透析するときには100前後ではじめなけれ ば具合が悪いというわけです.またKでいいます と,Kが6をこえた場合はもう透析しなければい けません,Kはだいたい手術後の腎不全などでは
1日に1mEqの割合で上っていきます.ですか ら6ということがわかってはじめます時には,す でに7.OmEq/1をこえており,もうHerzがと まるちよつと前であります.それから慢性腎不全 はこれに比べましてあがり方がやや緩急でありま すので,その点100をこえた時点で透析の適応を 考えていいのではないかと思います.慢性腎不全
も社会復帰をさせるためには患者さんがあまりひ どいdamageをうけてからでは回復に時間がか かります.BUNが100㎎畑をこえたくらいの時 点で透析を考え,最初は短時間の透析を行ない,
徐々に透析を重ねていきますと,会社を長期に欠 勤することなく社会復帰の道をたどっていけるわ けです(図10).
(mg/dD
200 180 160 120 10e 80 60 40 20
CRF
Eplsode
ARF
01 2 3 4 5 67 89 10(day)
図10 急性および慢性腎不全BUNの経過 これは予研で現にやっております状態でござい
ます.コルフ型を同時に3人まわしているところ です.患者さんは元気のよい人は本をよんだり,
音楽をきいたりできるわけです.
これはキール型を使い同時に2人まわしていま す.今,キール型で2人,コルフで3人,同時に 計5人まわすだけの能力があります.かつて腎と いうのはindispensableな臓器で,両方の腎をと るという事は死につながる道だつたのですが,現
在は極端な表現をいたしますと,dispensableな 臓器になったということができると思います.こ れがなくても充分生きていけるという考えを私達 はもっております.透析の適応になる患者がいま したら,なるべく早くご連絡下さいますようお願 い致します.
織畑:今おうかがいしますと,結局私達は適 応の上からいくと,やや適応をこした時期になっ ておこなったという印象をうけます.それから,
術後という条件で人工腎臓をまわす適応ではなか ったように思われます.といって腹膜潅流もあま り好ましいというのではないというこの点で,非 常にマイナスの面があったわけですが,後でわか ったのですが,まわす頃にはUrea−Nが200を
こえていたということで,そういうた腎不全がど こで起こったかということですが,術前検査であ まり詳しい腎検査をやっておりませんが,まあ まあ正常範囲の上限くらいあるということでした ので,そう危険は予想していませんでした.お そらくはやはり合併してきた胃潰瘍からの出血の 時期に血圧が下降してきましたので,その時点で 腎不全が起こってきたというふうに考えたいと思 います.こういったような合併症がどる程度にあ るか調べてみましたが,松倉教授は胆石の大家 ですが,約670例くらいでしたが集計の結果で20 例に胃・十二指腸潰瘍の合併があったということ で,約3%くらいということです.ですからそう 頻度は高くないと思いますが,いわゆるTriasと してAppeと胃潰瘍と胆石というものは昔から言 われていますが,確かに関連性はあるので,日 頃注意するようには努めているのですが,案外こ ういった合併症はないものですから驚いたのです が,まあみかけ上,一応の手は尽したわけです が,最後の段階で腎不全に陥って助けられなかっ た。非常に残念に思っていますが,今後これを機 会に,腎不全に対して人工腎臓腹膜潅流という
ようなものを大いに利用させて頂いて不幸を防ぎ たいと思っています.
それでは今井先生に,病理の結果をお願い致し
ます.
今井:簡単に病理の結果をお話し致します.
一一@716 一
今,腎不全のことが問題になっていましたが,こ の例は病理学的にもやはり腎不全が死因として大 きい意味があり,またもう一つは心筋の変化もか なりあります.急性のショックの時に来る変化が いろいろの臓器にあらわれます.まず,手術の後 はどうなっているかといいますと,手術の目的は 達していると思われます.手術創も治っておりま す(写真12).胆石はありません.胆のうはもちろ ん取ってあるからないのですけれど,肝の中にも
写真12 肝門部の下面.胆のう摘出後の状態・
手術創の治癒状態は普通.
総胆管の中にも石はありません.肝は胆汁性肝硬 変といっていいような変化です.手術の時に,肝 硬変はないようだったというお話でしたが,胆汁 性肝硬変の時は普通の肝硬変と違って,表面があ まり凸凹になりませんので,少しわかりにくいの ではないかと思います.肝臓は目方が1,8909で す.一般に胆汁性肝硬変では腫大し,硬くなり,
しかも結節形成はあまりないのが特徴です.今迄 の経過で,熱が出たりして肝の感染のような症状 がありましたが,肝膿瘍を起こしているような所 見は今はありません.また膿瘍が治ったというよ
うな大きなNarbeもありません.組織豫(写真 13)では主としてグリソン丁丁に線維の増殖があ り,リンパ球の浸潤がみられます.白血球はほと んどありません.肝内の胆汁のうつ滞は今はそれ ほど強くはありません.これらの所見は慢性の胆 汁うつ滞および胆道炎の結果おこなった胆汁性肝 硬変の所見です.次は脾臓ですが,胆汁性肝硬変 の結果として5009の脾腫があります.これは普
写真13 肝の組織像.弱拡大.主として胆道周囲の 線維化,軽度の小葉構造の不規則化。
溝
.拶駐1い:し・il 讐セ影ε1難論 毛 ・)t「
i挙:難僚晦鶉・瞳「鱒「t9蟻耀薙ge姶雛繍嘉鋒m御憩欝w惣ee be
写真14 腎の表面および割面.
写真15 腎の組織像,尿細管の高度の拡張.尿細 管上皮の変性.
通の5倍ぐらいの目方で,線維性でそれにショッ クの影響が加わり,血液の分布が不規則です.門 脈高血圧による門脈や,脾静脈の中等度の拡張と 壁の肥厚がみられます.
次はショックの状態でおこる色々な臓器の変化 一717一
です.腎臓は左2809,右290 9,普通の倍ぐら いの目方です.割面は腫脹し,皮質が蒼白,髄質 が暗赤色です(写真14).組織でみますと,尿細管 の拡張,尿細管上皮の変性がかなり強い(写真 15),いわゆるショック腎の状態です.しかし経過 が少し遷延していますので,一部は尿細管上皮の 再生もあります.
次は心臓です.心臓ではかなり広汎な左室の心 筋の変性と問質の浮腫があります(写真16).その 他,腸などにも出血も強いし,両側の肺に浮腫が あります.それから軽い食道炎があります.ショ
ックによる急性腎不全で尿毒症をおこしたもので すが,いわゆる尿毒症性炎症はほとんどみとめら れません.
写真16 心筋の組纈像.心筋の高度の変性.
織畑:どうもありがとうございました.どなた かご質問ありませんか.今井先生にお聞きします が,尿毒症があるとあのように心筋が弱くなるの か,心筋の変化があって尿毒症が加わって余計心 臓がまいったというふうに考えるのか,いずれを 考えればよろしいのでしょうか.
今井:尿毒症の場合では,普通は間質の浮腫,
軽い炎症が主で,心筋の変性,壊死は起こりませ ん.今のような変化は,やはり尿毒症の結果とい うよりは,尿毒症が起こった腎臓の変化と併列し てよい急性循環障害による変化だと思います.
織畑:どうもありがとうございます.結局尿毒 症が一つの主役ではあるが,心臓にも問題があっ
て,その背景に,もしかすると肺の方に気管支炎 などがあったということで,Anoxiaがその原因
をつくっていたかもしれぬというような考えをも っております.さかのぼって,もう少し危険のな い手術をするにはどうするかということですが,
やはり早目に手をうつしかないと思われます.黄 疸が起こってるような胆石症にする治療として は,できるだけ早く,誘導して黄疸をとるような 最小限の治療をする.ということがあるわけです が,時期に関してはまちまちで,症状のない石か ら症状のある石も色々あるわけで,今後もまた検 討していきたいと思います.
ごく最近,別の話すでが,外科学会で胆嚢癌と 胆石の関係という話がでまして,女の人で50画面 過ぎると,胆石をもつた人に胆嚢癌が非常に高率 であるといわれ,その場合には,予防的な胆のう 摘除もいいのではないかというところまで話が進 んでおりますが,うっかりすると,このような合 併症も起こる可能性もあり,その辺は慎重であら ねぽならないと思っております.
太田:この機会をかりてお願いしたいのです が,開腹手術します虫垂炎以上の手術をやる場合 ですが,手術後3日目にはBUNのチェックをル ーチンとして必ずやつて頂きたいのです.これを やっておかないと,症状がでてきましてからでは 手遅れでございますので,術後のBUN, Kなど のcheckを忘れずにやって頂きたいと思います.
織畑:どうもありがとうございました.今後必 ずみなやってもらうように致します.
小坂=今井先生にお聞きしたいのですが,この caseはショック腎,術後の腎不全ということで ございます.形態学的にごらんになって,糸毬体 の病変や尿細管の変化から,尿量が保たれながら これだけUrea・Nがあがることの機序の面まで,
推論することは難かしいと思いますが,何かその 面で原因みたいな事が考えられるのでしょうか.
織畑:太田先生何かごご意見ありませんか.病 変との関係,あるいは日数との関係について.
太田:急性腎不全が起きますと,臨床的e:・3週 間ぐらいかかって回復してくるように思われると いう印象をもつております.
織畑:病変としてはもっと早い好期になおって いても,臨床的に治るには,相当時間がかかると
一 718 一一一
いう考え方が成り立ちますね.原因を比較検討す るのは難しいでしょうが.
小坂:術後の経過では,かなり尿量が確保され ていて,なお且つUrea−Nの上昇する点に関し て,太田先生にお話お願いしたいのですが.
太田:そういう場合,水は排瀧されてはいるが 尿のNa, K, Urea−N, Creatinineを調べますと非
常にそれが低いです.Naでも普通ですと100〜
200mEq/1ぐらいですけど,それが30とか,せいぜ い50以下でございまして,先程話しましたように 3日目にBUNをcheckしまして,高ければHarn を調べて,Harnの電解質を調べます.さらにそ れが悪ければずっと経過を追って毎日のように調 べて,上っていく傾向があれば,人工腎臓をまわ します.昔考えられていたように,決して危険な ものではございません,軽い気持で術後ちよつと 悪ければまわしていただいて結構だと思います.
また予防的にまわすということでもいいと思いま
す.
小坂:先程の図を見て思うのですが.例えば ureterを両側しぼるとAnurieになる1),1日30ぐ
らいUrea−Nがあがる.先程の図でもそのよう になっております.そういう場合はよくわかるの です。もう一つ健全な腎を持っている場合,1日 尿量500ccぐらいあれぽ濃縮することによって,
Ureaの上昇は防げるが,500 cc以下になる状態 が続けば良い腎をもつていてもUrea−Nは上がっ てゆく.今の太田先生のご説明では…….
織畑:その説明を小坂先生が満足するには大分 時間が必要なのですが.
小坂:ショック腎,術後の腎糸毬体の機能低 下.このcaseでは血圧はともかく大変な努力に
よって70,それ以上に保持され,尿量も確保され ていたわけです.しかし,尿細管に変化がおきた
というのはわかるのです.その時に尿量が保たれ ながら,なぜUreaが上ったのか,その機序にな:
りますと,今のご説明ではちよつと無理なように 思いますので.
太田:説明の仕方がたりなかったと思います が,やはり,尿細管の変化がおきますし,糸毬体 の変化も受けます.また腎内のシャントができま すし,それから,腎のMicro thrombusもあち
こち出来るという事が証明されています.結局G FRが減少する.再吸収能はおかされ,特に選択 性がなくなる.要するに,原尿が減少し,これが 尿細管を下っているうちに,尿細管細胞の壊死し たところや基底膜の傷害されたところがら腎の間 質内にしみ出したり,また選択的な再吸収も余り
うけないで出来てくる訳で,量としてはある程度 出ましても,濃縮をあまりうけておりません.で すから,尿中のUrea−N,Creatinineといったもの が値が低い.Naも低くなる. Kなどはそれ程低
くないが,尿量が減少しているから,相対的には 排泄量としては,かなり減っているという結果に なると考えられます.
織畑:小坂先生tlこはまだご意見もあるようです が,この辺で勘忍して載きます.今日は非常に有 意義な検討会を行なうことができまして,本当に ありがとうございました.これで終りに致しま
す.
一719一