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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

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Academic year: 2022

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨

論文提出者氏名 早田旅人

論 文 題 目 報徳仕法と近世社会―近世社会の成熟と危機対応―

審査要旨

本論文は、江戸時代後期関東地方を中心に、財政難に苦しむ領主や田畑の荒廃に悩む村のあいだで 広がった、二宮尊徳が指導した荒村復興・財政再建・家政再建のための独特の手法である報徳仕法に 関する研究である。

報徳仕法の研究は、天保改革の反動的な政策、また下層民切捨てによる地主の経営再建、等の一環 として理解されてきたが、1980 年代以降、農民の立場に立ったものと理解されるようになった。本論 文はその延長線上にあるが、さらに議論を深化させて、当該期の農民が、農民の範疇では括ることの できない多様な生業や階層下におかれていたことに着目し、そうした多くの人々に報徳仕法が受け入 れられたのはなぜか、を課題にしている。また 1980 年代以降、報徳仕法は領主的立場と一線を画する ものとして理解されるようになったが、領主的立場・農民的立場と二者択一的に理解するやり方を止 め、報徳仕法が領主層にも受け入れられていることに改めて注意を払っている。こうした柔軟な研究 が本論文を内容豊かなものとしている。

本論文は二宮尊徳を特別な人間として扱っていない。尊徳を小田原藩領に生きた百姓として位置づ け、彼が当該期の社会慣行である「助合」や金子有合次第質地請戻慣行などによって没落した自家を 復興した、また小田原藩家老服部家の家政再建に従事したという経験や、居村・城下双方に足場をお く地域の生活様式などを踏まえて報徳仕法を創始したことを論じている。このことが、報徳仕法を当 該期の社会状況・慣行に即して構想させることにつながっており、生活実態に根差した研究となって いる。

報徳仕法は「分度」と「推譲」による財政運営に特色がある。「分度」とは収入・支出を定額にする こと、「推譲」とは「分度」で余った分を将来の自分、村や他者のために提供することである。「分度」

は、尊徳が前述した服部家の家政再建に従事したとき創始した仕法資金の捻出方法である。これは、

小田原藩主大久保家の分家宇津家領で実施した桜町仕法その他で採用された。尊徳は領主に対し「分 度」を農民に対する「仁政」として説いている。農民に対するお救い政策を後退させ、領主としての 理念的正当性を欠いていた領主層が報徳仕法を受け入れた背景にはこうした事情があったのである。

荒廃した村の復興には閉塞した社会状況を打開するための起爆剤が必要である。「分度」と「推譲」に はそうした意味合いがあった。しかし、領主側が当面する借財返済を優先する姿勢に転じると、報徳 仕法は行き詰まるという弱点を抱えていたことも本論文は指摘している。

本論文は報徳仕法が多くの人々から主体的に受け入れられた理由を、教諭や表彰といった教化政策 に求めるのではなく、人々が日夜従事した仕法の構造そのものから内在的に分析しなければならない と強調する。これは説得力がある。そこで本論文は農民を上・中・下三層に分け、これらの人々が当 該期の社会状況の下で、助け・助けられて報徳仕法に編成されていったことを論じている。

当該期の農民は、土地を手放し、日雇い・小商い・出稼ぎ等々に生業の比重を移す動向にあり、そ れが村落荒廃の一因となっていた。村からの流出を抑制し、村に留まれる生活基盤を整える必要があ る。その一つとして荒地開発があり、困窮者(下層民)を「破畑」として開発に従事させた。彼らに は新百姓に取り立てられるチャンスがあった。荒地開発は、米穀の増産、年貢負担農民の拡大につな

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2 氏名 早田旅人

がった。また、困窮者を領主の陣屋詰め労働として雇用した。このように、報徳仕法は雇用を創出し、

人々に賃金を得させて生活を立て直させるところに特色があった。

報徳仕法は仕法事業を進めるために報徳金融が重要な位置を占める。報徳金は下層民に融通されな かったため、報徳仕法は下層民切捨てであると理解されてきたが、本論文はそうではないと説く。上 層民に融資して、上層民にリスクを負わせて中下層民に融通させている構造を論じている。上層民は 融資を受けて自らの経営を発展させ、得られた利益の中から報徳金に醵金して報徳仕法を回転させる 役割を果たした。報徳仕法は中層民を中心とする村の復興をはかるのではなく、余裕のある上層民を 育てて村を復興させる仕掛けだった点を明らかにしている。

報徳仕法が行った仕法事業は、本来領主が行うべきお救いを民間の資金・人材が補完・代行したと いえる。これは領主行政が民間社会にもたれかかっている。言い換えると、民間社会が領主行政の公 共的領域に食い込んでいるともいえる。本論文はここに近世社会の到達点がみられると評価している。

本論文は、桜町前期仕法から後期仕法のあいだに二宮尊徳の成田参籠を位置づけている。尊徳自身、

農業専従者としての百姓認識を基調として前期仕法を開始した。これが、前期仕法の停滞した要因で あると本論文は指摘している。報徳仕法を考えるうえで重要なポイントと考えられる。尊徳はそこを どのように思考し克服していったのか、もう少し説明がほしい。

とはいえ本論文は、これまでの報徳仕法の研究を、方法と内容において大きく凌駕していることは 間違いない。よって審査委員会は、本論文を博士(文学)の学位を授与するに値すると判断した。

審査会開催日 2013 年 12 月 9 日

審査委員資格 所属機関名称・資格 博士学位名称 氏 名

主任審査委員 早稲田大学文学学術院・教授 文学博士(早稲田大学) 紙屋敦之 審査委員 早稲田大学文学学術院・准教授 博士(文学)早稲田大学 谷口眞子 審査委員 早稲田大学・名誉教授 文学博士(早稲田大学) 深谷克己 審査委員

審査委員

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