第 1 章 序 論
1-1 はじめに
わが国は山間地が多く,古くから良好な生活環境が得やすい平野部に人口が集中してい る.列島の中央には太平洋と日本海とを隔てる大きな山脈が存在し,これが長い間,人々 の自由な交流の妨げとなっていたが,近代の交通網の整備により,このような問題点は解 決されつつある.
鉄道や道路などの線状構造物は,その平面線形や縦断勾配に制約があるため,山岳地帯 を通過する際には,トンネルや橋梁などの構造物の全体に占める割合がどうしても大きく ならざるをえない.その結果,現在までに数多くのトンネルや橋梁が建設されてきたが,
とくにトンネルでは,その建設に著しく難航したものが少なくない.それらのトンネルの うち代表的なものとしては,首都圏と日本海とを結ぶ第三セクター鉄道ほくほく線の鍋立 山トンネルがあげられる.このトンネルの掘削は極めて大きな膨圧に苦しめられ,長い工 期と多額の工事費を要した.現在,建設中である首都圏と北陸とを結ぶ北陸新幹線の建設 工事においても,長野県と新潟県の県境に位置する飯山トンネルがこれと類似した地層,
地質を掘削している.このような地山条件を克服することが,飯山トンネルの昼夜にわた る掘削作業の安全性と合理性を確保する上で,また,北陸新幹線の早期の完成を目指す上 で緊急に解決すべき課題である.
1-2 研究の目的と構成
本研究は北陸新幹線の飯山トンネルで得られた知見をもとに,主として新第三紀以降の 泥岩を掘削中にトンネルで発生する膨圧現象に対して,地山の変位制御に着目してその課 題を抽出し,それを克服するためのトンネル支保工の合理的かつ経済的な設計法と施工法 とを検討したものである.
本論文は 7 章より成り,全体の構成は以下のとおりである.
第 2 章,第 3 章では膨圧の特性について明らかにし,第 4 章では,飯山トンネルで実施 した計測結果とすべての議論を通して重要な数値解析の方法について述べている.本研究 の主目的である膨圧が発生する地山でのトンネル支保工の設計施工法は次の 2 つの章に分 割して検討している.第 5 章では, NATM 設計施工指針1)における地山分類 Is に相当する 収束変位量が 300mm 程度未満である地山に対象として,収束変位量の予測方法と,それを
利用した支保工の設計手法について提案している.第 6 章では,同指針 1)において特殊地 山に分類されるさらに変位量の大きい膨圧性地山に対して,従来には適用されることのな かった新しい考え方に基づく多重支保工法について述べるものである.
次に,各章ごとにその内容を概説する.
第 2 章では,まず,膨圧性地山に発生する膨圧の発生原因を地質との関連において整理 した.次に,主として鉄道トンネルの施工事例に基づき,過去に実施されたトンネル支保 工および施工法の変遷をたどるとともに,近年のトンネル技術に関する開発の動向を整理 した.これは,過去の施工経験がトンネル技術の発展に大きな比重を占めいていること,
また,今後の膨圧性地山対策を検討する上でトンネル技術の発展の流れを踏まえることは 非常に重要であるとの認識にもとづくものである.とくに,豊富な施工記録が残されてい た鍋立山トンネルについては,代表的な地山条件,膨圧発生の程度,土圧変位特性等もあ わせてまとめた.また,当時の膨圧対策工法の集大成ともいうべき青函トンネルの周壁導 坑先進円形ショートベンチカット工法に注目した.
第 3 章では,本研究で対象とした飯山トンネルについて,その地層や地質の概要につい て一般的な特徴を述べ,地山条件を検討して膨圧現象の原因と膨圧の判定に関する指標を まとめている.さらに,飯山トンネルの著しい膨圧を受けた区間において実施した調査や 計測とそれらの結果について述べている.ここでは,地質調査ボーリングによる各種調査 と地山の変形挙動と密接な関係があると考えられる地山の弾性波探査,速度検層を実施し た.この結果,掘削の進行による地山の弾性波速度の変化を計測することにより,ゆるみ 領域の大きさを把握することができることを示し,掘削によりゆるみ領域は拡大するが全 断面閉合した後にはゆるみ領域の拡大は停止することを確認した.また,著しい膨圧の発 生が予想される地山の変形係数は,300~500MPa 以下であることを確認している.
第 4 章は,支保工と地山の変形挙動の計測結果の考察と数値解析手法を述べた章である.
まず,本研究が対象とするような地山変位量の大きいトンネルの数値解析手法は地山を弾 塑性体とし,吹付けコンクリートと鋼製支保工の降伏を考慮した三次元解析が必要である ことを明らかにした.つぎに,施工過程を忠実に取り入れた三次元逐次弾塑性解析を行い,
その解析結果が,抗壁の変位や地中における変位,吹付けコンクリートや鋼製支保工の軸
応力,および天端付近に発生した変状などの計測結果や支保工の挙動を解析結果がよく表 現できることを確認した.次に,トンネル施工における重要な支保部材としてのロックボ ルトについて,その計測結果をもとに設計上の留意点についてまとめている.また,前述 の解析方法にロックボルトを加えた解析を実施し,その結果が計測結果を再現できること を示した.ロックボルトの軸剛性は,節点間のばねとして評価し,定着グラウトのせん断 変形と付着切れ滑りを表現できるモデルとして評価した.次に,この数値解析を用いて数 値実験を行い,ロックボルト打設長と変位量との関係を検討した.得られた結果に現場に おける施工性を考慮し,膨圧性泥岩地山の変位の制御にはロックボルトの一打設長を増加 するのではなく,そのピッチを密にすることが有効であることを示した.
第 5 章では,施工上の手戻りであり工期,工費の上で重大な影響を与えることとなる縫 返し区間を減らすために必要な,また支保工の修正設計に利用できる収束変位量の予測方 法について検討した.ここでは,まず,計測データの測定時における前提条件とその取扱 い方を統一し,得られた計測データと収束変位量との関係に考察を加えた.その結果,ベ ンチカット工法を用いた場合の地山の収束変位量は上半切羽 0.5D(D=トンネル直径)の時 の内空変位量(以下,初期変位量と呼ぶ)により予測することが適切であり,また,精度 が良いこと,この収束変位量と収束変位量の関係は掘削工法,支保工の仕様により変化す ることを確認した.
次に,この関係を利用して支保工の仕様を選定する手順を検討した.この結果,掘削計 画を策定する時点であらかじめ許容変位量を定め,それに地山の変位量を計測して得られ た初期変位量から収束変位量を推定し,それに適合する支保工の仕様を決めるという掘削 管理の簡明な方法を提案した.また,ベンチカット工法では,そのベンチ長を短縮するこ とがトンネル工法として合理的であることを明らかにした.
第 6 章は,多重支保工法について述べる.
この工法は,従来から行われてきた地山の膨圧対策としては,適用する支保工の剛性を 増加させる方法やトンネルの全断面をできるだけ早く閉合させるような方法などが一般的 である.多重支保工法はこれらの方法では対処できないような大きな変位量を示す地山を 対象として,あらかじめトンネル断面を大きく掘削して支保工(一次支保工)を施工し,
掘削により発生する変位量を管理しながらその内側にさらに支保工(二次支保工)を施工
するものである.
多重支保工法は,一次支保工および二次支保工のそれぞれが有する耐力を十分に発揮さ せることによって地山の変位量を変形余裕量内に制御する施工法である.一次支保工は大 きく変形して壊れてもよく,それが変形することによって地山の変位を吸収し支保工が受 ける地圧を軽減する.その後に二次支保工を施工して変位を制御するが,二次支保工が大 きく変形した場合にはさらに三次支保工を施工する.飯山トンネルでは,内空変位量が 600mm を超えて鋼製支保工 200H(H-200×200)が破断するような著しい膨圧下においても, その効果が確認された.
本章では,多重支保工の変形特性について計測結果を分析し,この工法が膨圧性地山に おけるトンネルの施工法として優れた工法であり,合理的な工法であることを確認した.
また,前述の解析モデルを用いて数値実験を実施し,このような地山において支保工を二 重に施工する場合の特有な挙動について検討して,多重支保工法の優位性を検討した.
膨圧性の著しい地山の変位制御を適確に実施するには,二次支保工の施工時期の決定が 重要である.二次支保工は切羽との離れを十分に確保した後に施工するのではなく,一次 支保工の変位量に応じて施工すべきであり,また,地山の変位速度が速く,一次支保工の 応力伝達のためのスムーズな軸線が乱されるような状況では,遅滞なく二次支保工を施工 することが必要であることを明らかにした.すなわち,一次支保工に応力の伝達機能が残 っていれば,吹付けコンクリートにクラックが発生しても,一次支保工はまだ相当の耐力 を有しており,その後に施工する二次支保工が一次支保工に内圧を付与することにから,
支保工全体としての耐力が増加することになる.このことは,数値解析によっても検証さ れた.
また,これまで以上に激しい膨圧が予想されるトンネル区間の対策として,二次支保工 の分担する変位量は一次支保工の変位量よりも小さいことから,一次支保工側の高耐力化 が有効であり,とくに一次支保工の吹付けコンクリートを高強度化することが有効である ことを指摘した.
最後に,これらの検討から,一次支保工および二次支保工の施工時期の目安となる適切 な変位量の管理値を設定するとともに,多重支保工法の支保の手順について提案した.ま た,計測結果,施工実績,および数値解析の結果から,多重支保工法がトンネルの工法と して極めて柔軟な施工性と安全性を有することを確認した.
第 7 章は,本論文の結論であり,各章のまとめを整理し本研究で得られた知見を述べる とともに,地山変位量の制御に有効であると考えられる吹付けコンクリートの改良や開発 の方向など,今後の研究課題を示した.
現在,日本鉄道建設公団は(独)鉄道建設・運輸施設整備支援機構に名称変更となり,
日本道路公団は分割され,東日本高速道路株式会社,中日本高速道路株式会社,西日本高速 道路株式会社に名称が変更されている.ただし,本論文では,旧称を使用することとし日 本鉄道建設公団,日本道路公団をそのまま使用することとした.
参考文献
1)日本鉄道建設公団:NATM設計施工指針,平成8年2月
第 2 章 膨圧性泥岩の掘削
本章では,主に膨圧性地山における鉄道トンネルを中心としたトンネル掘さく事例につ いて文献による研究を行う.これにより,膨圧現象の特徴とトンネル施工法など北陸新幹 線飯山トンネルの設計施工を検討するうえでの必要な情報を把握する.
2-1 概要
2-1-1 膨張性地山の土圧
膨張性地山とは,従来から,山岳トンネルの掘削にあたってトンネル内空を縮小するよ うにはらみ出してくる地山をいい,このような地山で支保工や覆工に作用する土圧を膨張 性土圧と称してきた1).
このように,膨張性とはトンネル掘削に伴って,トンネル壁面,切羽,底盤がトンネル 内空に押し出されてくる現象であり,この結果,掘削断面が徐々に縮小し,工事費や工期,
安全確保,さらには維持管理の点で大きな問題となってきた例があることはよく知られて いるところである.
膨張性土圧の発生原因については,従来から多くの研究2)3)4)5)がなされているが小島ら6) はその原因を以下のとおり大別している.
(1)岩石の物理化学的性質に起因するという考え方:岩石中の膨潤性粘土鉱物の吸水によ る体積膨張,または風化による造岩鉱物の粘土化による体積膨張
(2)地山の潜在応力の解放に起因するという考え方:褶曲や断層運動により発生した地山 の潜在応力が解放されることによる周辺地山の体積膨張
(3)地山のせん断破壊に起因するという考え方:掘削に伴う周辺地山のせん断破壊による 体積膨張と,せん断面に沿った岩塊の塑性流動による内空への押し出し
1988 年に実施された International Society for Rock Mechanics(ISRM)のミーティング では,「膨張性地山」の定義として「トンネル掘削によって発生する二次応力状態が周辺地 山の破壊強度を超え,地山が塑性流動を起こしてトンネル空間を押し出す地山」であると し,「squeezing rock」と称している.しかし,その原因は複合しているものと考えられ,
必ずしも十分に解明されているとは言い難い現状であるものと思われる.
なお,本論文で研究の対象とした飯山トンネルの変形挙動は,上記の小島ら 6) による分
類の(1)と(2)の影響は小さいものと考えられることから,北川の研究7)と同様に,本論 文でも飯山トンネルの地山の変形挙動を従来から総称として用いられてきた膨張性土圧と 区別して「膨圧」と呼び,その現象を膨圧現象と呼ぶこととした.
2-1-2 膨張性地山の地質
膨張性地山に掘削されたトンネルはわが国に広く分布している.
吉川8) は図-2-1のとおり,わが国の膨張性地山の鉄道トンネルの分布状況を示し,これ らのトンネルが掘削された箇所の地質条件から,膨張性地山を以下のように大別している.
(1)軟弱な粘土質岩
土丹,泥岩など強度の小さい,おおむね新第三紀中新世以降の軟質な泥岩類.
変質作用を受け軟弱化した頁岩.
(2)温泉余土など熱水,熱気による変質岩
現在あるいは過去の火山活動地域において,熱水,熱気の通った後に見られる変質粘土.
(3)蛇紋岩
地下深部のマグマから形成されたかんらん岩等が変質したもの.ただし塊状蛇紋岩は堅 硬で膨張性も示さない.
(4)その他
粘土鉱物を主成分とする滑石片岩,緑泥片岩,絹雲母片岩,石墨片岩等の結晶片岩類
しかし,このような分類においても膨張性地山の地質条件は地質学的には必ずしも共通 ではない7).このような分類に該当する場合であってもトンネル掘削時に膨圧が発生すると は限らず,トンネルが無事掘削できた事例も多い.また,このような分類に全く該当しな い場合であっても,古第三紀層の硬質な地層で構成されている炭鉱の地下数 100m の採掘現 場では膨圧の発生例が報告されている9).
以上のとおり, 膨圧発生現象の有無は,地質学的なとらえ方だけでなく風化,破砕,変 質の程度やトンネルの土被り,地形の状況とも関係があり7),その程度は掘削工法や支保工 の仕様とも大きく関係するものと考えられる.
2-2 掘削事例
2-2-1 概説
ここでは,本研究で述べる飯山トンネルとほぼ同様の地質で,掘削時に膨圧による著し
図-2-1
膨張性地山に掘削された鉄道トンネルの分布8)い変位が発生した主要なトンネルについて事例分析を行う.
2-2-2 北陸本線頚城トンネル
10)(1965~1969)
・鉄道在来線 複線トンネル :内空断面積 約 50 m2
・当初の工法 :底設導坑先進上部半断面工法
・対策工法(第1工区) :上部半断面先進ベンチカット並進逆巻工法
・対策工法(第 2,3 工区) :側壁導坑先進工法(以下サイロット工法と呼ぶ)
北陸本線頚城トンネルは,膨圧現象の原因究明と対策に本格的に取り組み9),その掘削経 験はトンネル技術の発展に大きな影響を与えることとなった.第 1 工区では当時の標準工 法であった底設導坑先進上部半断面工法で掘削が開始された.しかし,導坑掘削時でも膨 圧に悩まされ,上半部の切羽が近づくと図-2-2 のとおり導坑は大きな影響を受け,導坑内 の通行すら困難となるような支保工の変状が発生した.対策として,導坑の仮巻き補強な
図-2-2
頚城トンネル第1工区底設導坑の変状10)図-2-3 頚城トンネル第1工区の膨張性地山区間の覆工
10)どが実施されたが,十分な解決法とはならなかった.次に検討されたものが上半断面先進 ベンチカット並進逆巻工法である.この工法は底設導坑が上半部掘削の影響を受けたこと から,①上半部掘削を先行する,②コンクリートによる断面の早期閉合を図る,③一次巻 きコンクリートを施工する,を特長としており,とくに,一次巻きコンクリートにはアー チコンクリートの変状と押し出しに対処するため,図-2-3 に示すとおり変形余裕として 30cm を考慮している.
この工法ではアーチコンクリートの変状や部文的な縫い返しも生じたようであるが,全 体としては膨圧対策として成功したものと報告されている.
図-2-4 頚城トンネル第 3 工区サイロット工法の標準図
10)第 2,3 工区では膨圧が増大したことから,底設導坑先進上部半断面工法を変更し,上半 アーチ脚部を固定して上半支保工の変位を低減することを目的として側壁導坑先進工法
(サイロット工法)を適用した.とくに第 3 工区では途中からサイロット工法を標準的な 工法としている.しかし,サイロット工法の場合,先行する導坑が後行する導坑の影響を 受け変状が大きくなったと報告されている.
図-2-4
は膨圧区間でのサイロット工法の標準図である.同図によれば,導坑自体も外力 に対抗するためにさまざまな補強を行っていることがわかる.上半部の鋼製支保工は 200H型鋼を使用しても天端や肩部で変形が激しく一部で縫い返しを余儀なくされている.
頚城トンネルでは,トンネル掘削時の導坑等の相互の干渉を考慮した設計をしているこ と,また膨圧がひどくなった場合に一次巻きコンクリートに変形余裕量を考慮しているこ とが大きな特長である.
2-2-3 北越北線赤倉トンネル
11),12)(1969~1978)
・鉄道在来線 単線トンネル :内空断面線 約 23 m2
・当初の工法 :底設導坑先進上部半断面工法
・対策工法 :円形ショートベンチカット工法
赤倉トンネルでは膨圧対策として図-2-5の F 断面に示す円形断面のショートベンチカッ ト工法を採用した 11),12).赤倉トンネルは断面積の小さい単線鉄道トンネルであったため,
施工上の理由から側壁導坑先進工法(サイロット工法)は最初から検討の対象とはならず,
北海道の膨張性蛇紋岩を掘削した新登川トンネルですでに実績のあった本工法が本格的に 採用された12).
当初の膨圧対策工法は,ショートベンチカット工法による二重巻き覆工コンクリート工 法とされた.掘削後ただちに一次巻きコンクリートを施工し,一次巻きの変状をある程度 覚悟し土圧を軽減した後,二次巻きコンクリートを施工することにより土圧を克服しよう とするものであった.しかし,土圧が増加し一次巻コンクリートのアーチクラウン部に圧 壊が生じたことから,断面形状を検討し,馬蹄形から円形に変更した.
円形断面のショートベンチカット工法の特長は,①掘削断面は円形である,②上半部と 下半部の離れは,上半部での施工機械の稼動が可能な最低限度の長さとして,10m 程度に抑 え,上半部の掘削直後には鋼製の中間ストラットを設置して上半部を断面閉合している,
③支保工は鋼管支保工を採用し,モルタルを中詰めすることにより耐力の増加を図ってい る,であり,特筆すべき点として当時普及しつつあった吹付けコンクリートを採用し断面 の早期閉合に努めている.
これらが示すように赤倉トンネルは,掘削断面の早期閉合を明確な膨圧対策としており,
現在実施されている膨圧性地山対策としての掘削工法を確立したトンネル工事であったと 考えられる.
また,赤倉トンネルでは膨圧の発生を予知するため,一軸圧縮強度,モンモリロナイト の含有量,構成土粒子の粒度など岩石の物性試験を体系的に実施し詳細な分析検討を行っ た.これらにより得られた結論は以下のとおりである4).
図-2-5赤倉トンネルの概要4)
① モンモリロナイトの含有量が土圧と良い相関が認められる.
② モンモリロナイトの含有量は,
X
線回析,構成土粒子の粒度分析,構成土粒子の液性限 界および塑性限界の測定,塩基性交換容量(C.E.C.)の測定から総合的に判定できる.③ 一軸圧縮強度,変形係数や地山強度比と土圧の間には良い相関は認められない.ただ し,膨圧発生機構は「粘土鉱物の吸水膨張」ではなく「地山岩石の強度不足による押し 出し性土圧」が主である.
赤倉トンネルにおける地質概略を図-2-5に示すが,第 3 章で述べる飯山トンネルの掘削 対象地山と同様に椎谷,西山,灰爪層という地層名が登場している.
2-2-4 北越北線鍋立山トンネル
13),14),15)・鉄道在来線 単線トンネル :内空断面積 約 23 m2
・当初の工法 :底設導坑先進上部半断面工法
・対策工法 :円形ショートベンチ工法他,別記
鍋立山トンネルは,第三セクター鉄道ほくほく線の十日町駅と犀潟駅間とのほぼ中央に 位置する延長 9,117m のトンネルである.このトンネルは,1973 年 12 月に着手されたが,
過去に例をみない大きな膨圧現象に悩まされ,3 年 5 ヶ月の凍結期間をはさみトンネル完成 までに 21 年を要したトンネルである13).
(1)地質ならびに施工概要
鍋立山トンネルは,主として新第三紀中新世から鮮新世にかけての西山層,椎谷層で構
図-2-6 鍋立山トンネルの概要
14)C 区間
成されている.地質は,各層ともに泥岩あるいは砂岩と泥岩との互層が主体であり,一軸 圧縮強度は概ね 2~7MPa 程度である.
図-2-6
に示すとおり,鍋立山トンネルはその施工状況や土圧発生状況により 7 区間に区 分されている13).A,G 区間は,地質が比較的安定しており,平均月進約 80m で順調に施工さ れた.これに対し,B,E,F 区間では,膨圧が大きくなり支保工の変状や縫返し区間が出現し,D 区間および C 区間に入ると,著しい膨圧のために掘削作業が難航し,さまざまな対応策と 施工法の検討に追われた.
C 区間は,岩石の細片化, 無数の鏡肌,さらに岩片自体の強度が小さく,一軸圧縮強度 は 0.2~0.3MPa である.また,地質調査のためのボーリング孔から生コンクリート状の土 砂が吐き出される現象がみられ,この原因としてガス圧の関与13)が想定された.ガス圧は C 工区で施工した中央導坑内で最大 1.6MPa を記録した.
(2)C 区間の施工13)
当初は,膨圧の大きい区間で実績のあった掘削断面が卵形のショートベンチ工法が採用 された.しかし,膨圧が増大したため,導坑先進ショートベンチ工法を採用した.この工 法の特長は本坑掘削時の土圧を軽減するために,上半部において導坑(直径 3m)を先進さ せるものであるが,導坑の変状が著しく約 90m の掘削でこの工法を中止した.
次に採用したのは中央導坑先進工法である.導坑(直径 3m)掘削の目的は導坑先進ショ ートベンチ工法と同じであるが,本坑を全断面で切り広げることを前提として導坑を本坑 の中心部に設定した.導坑に使用する支保工は剛性を増加させることを目的とし,溝形鋼 を加工した簡易セグメントを使用した.掘削は上下 2 分割の人力施工とし,25cm の手掘り 掘削後,直ちに,このセグメントをベタ並べし建て込むものである.この剛性の大きな支 保工は中央導坑の変位制御に有効であったが,掘削が進むにつれ切羽面の押し出しが次第 に大きくなり,直径 3m の切羽の押し出しが 2~3m/日にも達することとなり掘削を中断した.
掘削延長は約 130m であった.
この後,反対側の D ブロックから,中央導坑をシールド式の TBM で迎え掘りすることと した15).
図-2-7
に示すシールド式の TBM の採用の考え方は導坑切羽の押し出しが 2~3m/日 であることから,TBM によりそれを上回る掘進速度で導坑を掘削しセグメントを速やかに建 て込むことにより導坑を完成させるものである.この方法により中央導坑は貫通できるも のと思われたが,60m 掘削後,地山の押し出しにより TBM 本体が導坑の入口まで押し戻され た.導坑からの地山の押し出しはその後も止まらず,本坑を数十 m 間にわたり埋め戻すこ図-2-7 鍋立山トンネル導坑用の TBM
15)断 面 縦 断
とにより終息した
次に実施したのは地盤改良である15).
これは,地山強度そのものに問題があるとの認識から,地山の強度を改善することを目 的として,地山に対して地山固結注入を実施したものである.この結果,鍋立山トンネル の導坑は貫通することとなった.
本坑の切広げは,この時点(1990 年)では,支保工として鋼製支保工と膨圧性地山にお ける最有力の支保部材である変形能力の大きい鋼繊維を混入した吹付けコンクリートとを 使用したが,切羽面の押し出しは大きく,鏡面のロックボルト等の補助工法を要している.
図-2-8
は,中央導坑のセグメントに作用した背面土圧の経時変化を示したものである15). 同図をみると,この土圧は,ほとんど静水圧的に作用しており,その値はほぼ 3 MPa 程度 である.この個所の土被りは約 150m であり,地山の単位体積あたりの重量を 2tf/m3とすれ ば,この土圧は全土被り圧と考えてよい.このことは,難工事トンネルとして世界に知ら れる鍋立山トンネルの特徴と,また著しい膨圧が発生するトンネルにおいて剛性の大きい 支保工の適性を検討するうえでの課題を示しているものと思われる.図-2-8 鍋立山トンネルのセグメントに作用した土圧の経時変化
15)2-2-5 青函トンネル第 5 本坑
16)(1976~1978)
・鉄道(新幹線) :内空断面積 63 m2
・当初の工法 :サイロット工法
・対策工法 :周壁導坑先進円形ショートベンチカット工法
1970 年代後半の複線鉄道トンネルの掘削はサイロット工法が標準工法であった.青函ト ンネルにおいても左右の導坑を,導坑自身と本坑部の止水注入の基地として使用できるこ とからサイロット工法が標準的に採用されていた.また,膨圧を受ける地山においても,
上半のアーチ部の変位を左右の導坑により抑制できることからサイロット工法が有効と考 えられていた.しかし,北海道方の第 5 本坑では青函トンネルで経験したことのないレベ ルの 2 MPa を超える土圧に遭遇し,工法変更が必要となった.このために計画された工法 が,図-2-9に示す周壁導坑先進円形ショートベンチカット工法である.本坑の掘削断面は 円形とし,掘削工法はショートベンチカット工法とした.ただし,上半掘削に先立って本 坑のスプリング位置の左右に円形の導坑(直径 3m)を掘削し,この周壁導坑の中に本坑支 保工の設計位置にあわせて導坑直径分の支保工をあらかじめ設置して,この導坑をコンク リートにより埋め戻しておく.その後,上半を掘削して上半支保工を建て込むが,周壁導 坑部にあらかじめ設置した支保工と上半支保工をボルト締めすることにより,上半支保工 の沈下を防止する.ベンチ長は施工機械を置ける最低のスペースとして 15m を標準とした.
下半掘削後,支保工は上半と同様に建て込み,全断面を閉合した.
青函トンネルでは当時から吹付けコンクリートが標準的に使用されており,鋼製支保工 の建て込み後,吹付けコンクリートが施工されている.前述の頚城トンネル,赤倉トンネ ルの全断面の閉合は鋼製支保工と矢板によるものであったのに対し,青函トンネルでは現 在と同じように吹付けコンクリートが断面の閉合に使用されていたという点で膨圧対策の 上からは有利であったことになる.
鋼製支保工は図-2-10に示す高強度鋼管支保工である.この支保工は 12 インチの鋼管の 中にらせん状のフープ筋を挿入し,28 日強度σ28=50MPa のモルタルを充填するものであり,
鋼管とフープ筋によりモルタルを拘束することにより大きな軸方向の耐力と,降伏後も支 保工の耐力を維持,増加する性質を期待したものである.高強度鋼管支保工の荷重とひず み曲線は図-2-11に示すが,鋼管単独,モルタル単独,および鋼管とモルタルの合成とフー プ筋付き鋼管とを比較するとフープ筋付き鋼管は 3%ひずみ時で 12MN の耐力を示し,変位 が増加すればするほど耐力が増加していることから,膨圧性地山における支保工としては 極めて優れていると考えられる.また,当時,注目され始めたロックボルトが上半部に使 用されている.
上記のように周壁導坑先進円形ショートベンチカット工法は,膨圧対策としてみた時,
きわめて安定した施工法であり,高強度の可縮支保工である高強度鋼管支保工を採用した という点で評価すべきものと考えられる.
図-2-9
青函トンネル第 5 本坑周壁導坑先進円形ショートベンチカット工法16)図-2-10
高強度鋼管支保工16)図-2-11 荷重~ひずみ曲線
16)2-2-6 上越新幹線中山トンネル
17)(1972~1982)
・鉄道(新幹線) :内空断面積 約 63 m2
・当初の工法 :サイロット工法
・対策工法 :ショートベンチカット工法
中山トンネルの中山工区16)は,当時,膨圧対策工法として一般的に使用されていたサイ ロット工法により掘削されていたが,膨圧により導坑の変状と上半部の度重なる縫い返し を余儀なくされていた.
1976 年(昭和 51 年)当時,我が国に紹介されつつあった NATM のシステムロックボルト が側壁導坑において変位制御に有効であったことを受け,膨圧性地山における変位制御を 目的として,NATM が膨圧性地山対策として初めて中山工区に導入された.
掘削工法はタイヤ方式によるショートベンチカット工法であり,ベンチ長は 15m~20m で ある.支保工の設計例は図-2-12に示す.ロックボルトは全周にわたり 3m~6m を打設し,
吹付けコンクリート厚は 20cm,変形余裕量は 15cm である.アーチコンクリート厚はサイロ ット工法では一次巻きが 25cm,二次巻きが 90cm,合計 115cm であるのに対し NATM では 30cm であり,吹付けコンクリートと合計しても 50cm と薄肉な覆工となっている.また,計測結 果により,ロックボルトの打設長を変更している.
図-2-12 中山トンネルにおける NATM
の設計例17)施工結果は良好であり,内空変位は 100mm 以下に制御できたと報告されている.
膨圧性地山対策として
NATM
を考えると,その特徴は① 吹付けコンクリートとロックボルトの使用
② 計測結果の支保工の設計と施工計画へのフィードバック
となる.前者は,従来から提唱されていた膨圧性地山の早期支保のための具体的手段であ り,さらに,これらを十分に活用して地山を支保として利用するという考え方も理解しや すいものと考えられる.また,後者は,従来は現場技術者の経験によるところが多かった 現場における技術的な判断が,計測値という数値により検討されるようになり,この結果,
膨圧性地山対策が合理的なものになるという大きな利点をもたらした.さらに計測結果は 設計の標準化にも利用されている.
NATM
は,その基本的な考え方18)が優れていることから周知のとおり,またたく間に我 が国のトンネル掘削の標準工法となり,同時に膨圧性地山における適応性でも十分な成果 をあげている.NATM を適用した膨張性地山のトンネルとして,円形断面で可縮支保工を 施工した伊東線新宇佐美トンネル(1978 年~1982 年)19),膨圧によりロックボルトが破断した篠ノ井線第 1 白坂トンネル(1979 年~1981 年)20)などがあるが,いずれも良好な成果 が得られいる.近年では,NATMの合理性は誰もが認めるところとなり,NATMそのもの がトンネルの掘削をわかりやすくした功績は極めて大きいものと考えられる.この背景に は,吹付けコンクリートやロックボルトの研究,さらに施工機械の改良 21)等の
NATM
を 支える技術の発展があることも忘れてはならない.2-2-7 上信越自動車道日暮山トンネル
22),23),24)(1988~1992)
・高速道路第Ⅰ期線 :内空断面積 約 52 m2
・当初の工法 :ショートベンチカット工法(NATM)
・対策工法 :導坑先進工法
日暮山トンネルは,ショートベンチカット工法で掘削を開始し,安定した安山岩部を順 調に掘さくしたが,掘削延長が 900m を越えた付近からは膨圧性を有する泥岩層に遭遇し,
破砕部では突発性の湧水に苦しめられた.薬液注入や縫い返し,さらに再縫返しを実施し た後にあっても地山に発生する変位が大きいことから,
図-2-13
に示す円形導坑を先進させ る工法が採用された.先進導坑は 10m 先進し,その後先進導坑の切羽手前 3m まで上半部の図-2-13
日暮山トンネル導坑先進工法23)切拡げを行う交互掘さく方式である.導坑には地質調査のほか,支保工の設置前に地山を
変形させて地山の応力を開放することにより支保工に生じる応力が低減する効果(一般に いなし効果と呼ばれている)を期待した.覆工コンクリートは強度を増加させるために鋼 繊維を混入している.導坑先進工法の施工結果は良好であり,総変位量の制御にも効果が あるが,とくに切羽の安定効果が大きいと報告されている.その後のⅡ期線工事では,導 坑に馬蹄型断面の採用することと導坑の先進距離についての検討を行った.
本工法は本坑の変位を低減するために,導坑の変位を許容する,いなし工法を意図して いるもので,膨圧性地山の掘削を考えるうえで極めて興味深い施工法である.
2-3 まとめ
トンネルの掘削事例について文献調査を実施し,膨張性土圧が発生する地山の挙動と,
その対策の基本的な考え方を整理した.その結果をまとめると以下のとおりとなる.
(1) 膨張性土圧の発生原因については現状では十分解明されていない.
(2)トンネル坑壁の変位を許容すると土圧は軽減される.膨圧対策としていなし工法がある ように,トンネル坑壁の変位を許容すると土圧が軽減されることは,従来から経験的に よく知られている.今回の事例分析でも,縫い返し後は地山が安定する傾向をみせるこ とや,いなし工法の成功例が報告されている.
(3)膨圧対策として覆工コンクリートの鉄筋コンクリート化,鋼繊維の混入,さらに鋼繊維 入りの吹付けコンクリートのようなある程度剛性があり,かつ粘りのある支保部材を活 用した対策は有効である.
参考文献
1) 土木学会:土木用語大辞典,1991.
2) 足立貞彦:膨張性地山におけるトンネルの施工法,第 6 回トンネル工学シンポジュウム,1970.
3) 中野良紀:膨張性地山の実態,トンネルと地下,6 巻,10 号,pp.15~25,1975.10.
4) 日本鉄道建設公団 東京支社:北越本線赤倉ずい道膨張性地質の総合解析,1977.9.
5) 竹林亞夫 他:トンネル施工事例に見る膨張性地山の実態,岩盤力学に関するシンポジウム 公演論文集,Vol.21,pp.361~365,1989.
6) 小島芳之 他:NATM のための膨張性泥質岩の地山分類,鉄道総研報告,Vol.3,No.5,1989.
5.
7) 北川修三:軟岩トンネルでの膨圧現象と対策工法に関する研究,京都大学博士論文,2002.9.
8) 吉川恵也:膨張性地山の鉄道トンネルにおける調査・設計・施工について,’77 トンネル技 術公演会資料,1977.
9) 粕谷逸男著:トンネル工学,共立出版,pp57,1970.
10) 日本国有鉄道岐阜工事局:北陸本線糸魚川直江津間線路増設工事誌,1969.10.
11) 大島尚:湧水を伴った膨張性泥岩の施工北越本線赤倉トンネル,トンネルと地下,1972.11 12) 青沼達:膨張性地山を抜く円形断面の施工,トンネルと地下,1974.10.
13) 小暮誠 他:超膨圧トンネル掘削-北越北線鍋立山トンネル,トンネルと地下,1995.7.
14) 土居則夫:高圧気体を含有する岩盤中のトンネル掘削時の地山挙動に関する研究,京都大学 博士論文,1993.5.
15) 秋田勝次 他:膨張性地山におけるトンネル掘削(北越北線,鍋立山トンネル),土と基礎,
1993.3.
16)日本鉄道建設公団 青函建設局:津軽海峡線工事誌(青函トンネル),1990.2.
17)日本鉄道建設公団 東京新幹線建設局:上越新幹線工事誌(大宮・水上間),1983.10.
18) Pacher, F: Deformationsmessungen im Versuch-stollen als Mittel zur Erforschug des Gebirgsverhaltens und zur Bemessung des Ausbaues, Felsmechanik und Ingenieurgeologie, Suppl. I,1964.
19) 吉村恒 他:超膨張性地山における NATM の施工(1)(2)伊東線新宇佐美トンネル,トンネ ルと地下,1980.7-1980.8.
20) 吉村恒 他:ロックボルトが破断篠ノ井線第1白坂トンネル,トンネルと地下,1980.6.
21)剣持三平 他:長大山岳トンネルにおける急速施工,トンネルと地下,1996.2.
22)中村良明 他:超膨張性泥岩を克服,トンネルと地下,1993.1.
23)村田洋一 他:三次元数値解析によるトンネル掘さく工法の評価,山口大学工学部研究報告,
Vol.52,No.2(2002).
24)天野角雄 他:押出し性泥岩を頂設導坑で貫く,トンネルと地下,1999.11.
第 3 章 飯山トンネルの概要と膨圧区間の調査
トンネル現場で目視により確認できる支保工の変形や計測により得られる変位は膨張性 の発生原因やその地質分類によらず似たような形態を示す.トンネル掘削の目的は安全に 内空を確保し坑道を保持することにあるが,このような点からみると膨圧現象の原因を特 定することは重要ではなく,地山および支保工の挙動を知ることにより支保工の健全性を 判断することが実際的であると考えられる.
本章では,膨圧性地山を掘削する北陸新幹線飯山トンネルの地質的課題と発生する変位 の特徴を検討し,飯山トンネルを掘削する際の地山の変形挙動を把握するため実施した調 査について述べる.
3-1 飯山トンネルの概要 3-1-1 工事の概要
図-3-1
に示す北陸新幹線飯山トンネルは,長野県飯山市から新潟県板倉町に至る,延長 22.2km の長大トンネルである.事前調査の段階において,長野市付近から日本海へ到達する新幹線ルートは,ほぼ真北 に抜ける大町ルートのほか,いくつかの候補が検討されたが最終的には現在の飯山トンネ ルを含むルートが決定された.飯山トンネルの北東 30km 付近には,建設時において大きな
図-3-1 飯山トンネル位置図
1),2)膨圧が発生し,施工が著しく難航したことで有名な鍋立山トンネルがあり,地形や地質が 飯山トンネルと類似しているため,同様の膨圧現象が発生することが懸念されていた.
トンネルの基本計画が策定された後においても,平面および縦断線形の修正が加えられ,
さらに飯山トンネルの円滑な建設計画の策定を目的として,ルート近傍において試験坑の 掘削,地質調査ボーリング等が実施された.このような検討を経て,大きな膨圧とガス湧 出といった,飯山トンネルにおける困難な課題をすべて有すると想定された図-3-2 に示す
「富倉工区」が平成 10 年 6 月に最初に着手された.続いて平成 11 年
3
月には「上倉工区」,「新井工区」が,平成 12 年 3 月には残る「東菅沼工区」,「木成工区」,「板倉工区」の 3 工 区が着手されることとなった.
以上のように飯山トンネルは全 6 工区で掘削され,それぞれの問題点を克服しながら平 成 18 年 4 月現在,「上倉工区」,「板倉工区」を除く 4 工区で掘削が終了している.
3-1-2 地質概要
飯山トンネルおよびその周辺に分布する地層の状況および構造を図-3-2 にまとめた.同 図は,最近公表された地質文献3),4)と補充した地質踏査の結果および切羽観察結果により 既往の地質調査資料を修正したものである.全工区に分布する地層の層序および分布比率 は表-3-1 のとおりである.なお,同図の分布比率のうち,完新世の崖錐堆積物および地す べり堆積物については坑口付近の一部に分布するのみであることから直近の基盤岩に含め た.飯山トンネルの地質構造は,板倉工区を除く他の 5 工区では,1 背斜軸および1向斜軸 よりなる明瞭な褶曲構造を呈している.地層は概して急傾斜で,160km470m 付近の中栗向斜 軸から入口方は直立ないし直立に近い傾斜を示す.一方,中栗向斜軸の出口方は 20°以下 の緩傾斜となる.褶曲構造に沿う高角度の断層が多数発達しており,断層に沿うせん断帯 が多くの箇所に分布する.
せん断帯と破砕帯は特定の地層中にみられ,椎谷層の泥岩や砂岩と泥岩との互層中に主 として分布するほか,一部灰爪層の砂岩と泥岩中にも分布する.また,富倉工区と新井工 区の境界部である富倉背斜の南東翼部では,地層全体が落ち込んだ構造もある.
板倉工区では小濁断層で代表される顕著な衝上断層帯が発達し,椎谷層,西山層および 灰爪層が細かく切断されて,小国層に衝上している.
3-1-3 トンネル掘削上の地質的課題
前述のとおり,飯山トンネル付近の地層は,第三紀末期から第四紀初頭にかけて浅海域
図-3-2飯山トンネルの地質
が隆起し,次第に陸化した過程の堆積物である.この過程で地層は変形を受け,その結果,
地山の強度は低下している.トンネルの掘削において留意すべき地山の強度低下の要因を 地層的変形および地質的形態にわけ,以下のように分類する.
(1)地層堆積時の変形
①スランプ構造
地層の続成作用の初期段階で未固結~半固結状態の時に発生した海底地すべり等によ り地層が撹乱されたもので,周辺の撹乱されていない地層に比べ,強度が低い.特に 砂岩については風化を受けていない部分でも未固結から半固結状態であること場合が ある.
(2)地層堆積後の変形
①褶曲
背斜,向斜を問わず,軸部付近では亀裂が多くなり,地山強度は低下する.また,褶 曲軸の両側では相対的に強度が低い岩層が選択的に破砕されて,強度低下をすること がある.
②せん断帯
せん断性の断裂に沿って圧砕され角礫化した部分がせん断帯である.破砕帯の一種で あるが,劣化程度は断層破砕帯までは至らない.せん断性の割れ目の集中するゾーン で,健岩部に比べ,強度が低下している.
③破砕帯
断層運動に伴ない岩石が機械的に破砕され,不規則な割れ目の集合体をなし,断層角 礫や断層ガウジなどから構成される.飯山トンネル周辺では未固結から半固結のもの が大半で,健岩部に比べ強度が低下している.
④擾乱帯
西貝屋・菰立断層等の衝上断層の飯山方にはこれらの衝上断層の生成に伴ない,破砕帯,
せん断帯などが不規則に発生し,地山全体の強度が低下している.これらの区間を一 括して擾乱体としている.当区間は飯山トンネルにおいて比較的古い地層である椎谷 層(泥岩)が分布するが,強度低下の著しい区間である.これらの強度低下の事例と して泥岩・砂岩の一軸圧縮強さの比較を図-3-3 に示す.泥岩・砂岩とも古い地層ほど強 度が増加しているが,擾乱体においては地層を問わず強度低下していることがわかる.
表-3-1 飯山トンネル区間の地質層序表
時代 地質名 記号 岩相 分布比率
崖錐堆積物
dt
礫・砂・シルト完新世
地すべり土塊 Ls 岩塊・土砂 段丘堆積物 Tr 砂礫
-
北畑崩壊堆積
物 Bl 砂・砂礫・シルト・凝灰角礫岩
9%
黒岩山火山岩
類
Kv
安山岩溶岩・火砕岩-
屋敷層Yal
砂・砂礫・シルト・凝灰角礫岩互層
4%
Otf
凝灰岩Oms
泥質砂岩Os
砂岩Omg
含礫泥岩 第四紀 更新世小国層
Og
礫岩10%
Htf
凝灰岩Hm
泥岩Hs
砂岩優勢,砂岩・泥岩互層Hal
砂岩・泥岩・礫岩互層 灰爪層Hg
礫岩28%
Nm
泥岩Ns
砂岩鮮新世
西山層
Nal
砂岩・泥岩互層8%
Stf
凝灰岩(機織凝灰岩)Sm
泥岩Stm
凝灰質泥岩Ss
砂岩Sal
砂岩・泥岩互層Stb
凝灰角礫岩(樽本火砕岩層)椎谷層
Sg
含礫泥岩27%
Tm
泥岩Tal
砂岩・泥岩互層 新生代 新第三紀 中新世寺泊層
Ttb
砂岩・泥岩・凝灰角礫岩11%
表-3-2
は飯山トンネルにおける内空変位 100mm 以上の変形が大きい区間を抽出して,当 該区間の地山弾性波速度および地質的特長とともに示したものである.大半の大変形区間ではせん断帯,破砕帯,スランプ帯など地山強度の低下を伴う地質現 象が認められている.加えて,これらの区間では地山の弾性波速度値が 2.6km/s 程度であ り速度の低下が認められる.ただし,これらに分類される地山が必ず大変形するというこ
図-3-3
一軸圧縮強度 砂岩系 泥岩系表-3-2
変形の大きい区間の地質的特徴区 間 水平内空
変位(mm)
最大天端沈 下(mm)
弾性波 速度値
(km/s)地質的特長
148k580~620m 120 95 - 断層150k180m 135 35 1.8 - 152k380~
153k480m 200 50 1.8~2.6 一部にせん断帯あり 153k480~830m 800 520 1.9~2.0 せん断帯
153k960~
154k470m 310 200 2.4~2.6 西山層砂岩・泥岩互層分布区 間に一致.
154k500~860m 200 95 2.4~2.6 西山層・椎谷層泥岩区間 154k860m~
155k360m 860 600 2.3~2.4 せん断帯・断層破砕帯 157K370~624m 271 140 2.4~2.7 せん断帯
160k480~820m 331 74 1.8~2.0 (弾性波速度の落ち込み) 161k000~600m 161 35 1.6~2.6 (弾性波速度の落ち込み) 162k200~780m 215 130 2.2~2.4 西山層,椎谷層(スランプ層) 163k530~
164k220m 425 195 2.2~2.6 せん断帯 164k400~
165k700m 514 436 2.2~2.4 せん断帯
166k850~
167k300m 800 650 2.0~2. 2
せん断帯(擾乱帯)とではなく,地質的特長のない箇所でも 150km180m のように弾性波速度値が低く変形が大 きくなっている場合もある.地山の強度低下はその程度が異なりトンネル部への広がりに 差があることから,せん断帯,破砕帯,スランプ帯などによる地山強度の低下は地山の大 変形の要因の一つであると考えるべきものと思われる.
図-3-4
地層別収束変位量3-1-4 変位
トンネルは掘削後,支保工により坑道の安定を図る必要がある.その際の問題点は適用 する支保工により,変位の制御が可能であるかどうかを知ることである.膨圧下のトンネ ルにおいては特にこのことは重要であり,また困難な技術課題となる.
飯山トンネルの施工実績により,掘削後の収束変位量と膨圧の原因となる各指標との関 係を以下に整理する.「収束変位量」とは変位量の増加が1月あたり 1mm 以下になった時点 での内空変位量である5).本項は全体の概要を述べるものであり,
第 5 章で後述する変位制
御と支保工の仕様と掘削工法との関係については取扱っていない.(1)地層
図-3-4
に各地層別内空変位の収束変位量の分布を示す.分布の中心には平均値を,その 上下の太線は80%確率値
6)を示す.地層と変位量の関係は明確ではないが,寺泊層の変位 が他層と比較して小さいのは,図-3-3 にも示したとおり,寺泊層の強度が大きいこと,砂 質分の占める割合が多いことによるものと思われる.擾乱体等を有し地質が変形を受け地 山強度が小さい部分を多く持つ椎谷層泥岩は収束変位量もバラツキが大きい.(2)弾性波速度
弾性波速度と収束変位量の関係を示す図(以下,このように二変数のばらつきの状態を 示す図を散布図と呼ぶ)は図-3-5のとおりである.同図では弾性波速度が 2.6km/s前後よ り小さくなると収束変位量が増大する傾向がみられる.
図-3-5
弾性波速度と収束変位量図-3-6
土被りと内空ひずみ(調査坑)図-3-7
土被りと収束変位量(本坑)0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
0 1 2 3
弾性波速度「km/s」
収束変位量「mm」
4
内空ひずみ「%」
0 50 100 150 200 250 300 350 400 450
0 50 100 150 200 250 300
土
収束変位量「mm」
被り「m}
(3)土被り
2-2-4
で記述した鍋立山トンネルでは,坑壁変位を極力許さないセグメントを切羽に設置 して土圧を計測したところ,土被り圧に等しい土圧が計測されたと報告されている.この ことは坑壁の変位を可能な限り抑制する工法の妥当性を考察する上で興味深いが,他方,最大の土圧は土被り圧を考えればよいことを示している.
図-3-6
に飯山トンネルで施工された全調査坑(1/4 の下り勾配で掘削断面積 10m2を基本 とする)の土被りとトンネル内空ひずみ(内空変位量/トンネル直径)の関係を示す.土被 りが 100m 程度付近まではトンネルの変形をほとんど考慮する必要はないが,100m を越える とバラツキはあるもののトンネルの変形が急激に増大することがわかる.同図における内 空ひずみによる表現は調査坑断面の変化による違いを補正するためのものである.また,本体工事では富倉工区の斜坑(1/8 の下り勾配で掘削断面は約 30m2)の掘削時にお いて,同様に土被りが約 100m を越える付近から,また木成工区の斜坑掘削時では土被りが 130m を越える付近から坑壁に目立った変位が現れ,インバートコンクリートには盤ぶくれ によるクラックが発生するようになった.
飯山トンネル本坑の収束変位量と土被りの関係を図-3-7 に示すが,土被りが 100mを越 える前後から変位が大きくなる傾向となっている.ただ,土被りの影響がはっきり現れる 場合がある一方で,土被りが 200mを越えているにもかかわらず収束変位量が 50mm を下回 る計測結果も得られている.土被りの影響を受けやすいグループは一般に泥岩が主体であ り,あまり土被りの影響を受けないグループは砂岩が主体であることが多く,地山の種類 によりトンネルの土圧現象が変化することが想定される.
(4)地山強度比
収束変位量と地山強度比の散布図を図-3-8に示す.
地山強度の測定方法は採取したコアの一軸圧縮強度試験によるものとし,測定頻度は,
おおよそ本坑の間隔 100m と,岩種の変化点で実施している.またコア採取が困難な場所で は針貫入試験により圧縮強度を換算した.このような方法により得られた結果を切羽全体 の強度としてもよいかどうかの判断は難しいが,なるべく代表的な数値を示すような岩種,
地山を対象として計測した.
同図によると,地山強度比が 4 以上の領域は収束変位量が小さくなるものと考えてよい.
また,地山強度比が 4 未満では収束変位量は大きく変動している.これは強度試験に表れ
図-3-8
地山強度比と収束変位量0
50 100 150 200 250 300 350 400 450
0 5 10 15 20 25 30
地山強度比
収束変位量「mm」
ない鏡肌の出現,亀裂の多寡,小規模破砕帯に伴う軟質泥岩の介在が原因であると思われ る.
「NATM設計施工指針 7)」(以下,NATM施工指針と呼ぶ)では,泥質岩で膨圧性の 大きい特 S 地山についての膨圧発生の判定における地山強度比の目安は,「ばらつきはみら れるものの 1.5 を事前検討段階の目安として考える.」としており,吉川8)らが行った泥質 地山における施工事例の統計的分析結果では 1.0 程度以下とするのがよいとしている.地 山強度比 1.0~1.5 について,地山密度γs=20KN/m3,土被り Hs=100m として地山強度を算 出すると 2MPa~3MPa となり,比較的大きい値を示す.飯山トンネルの掘削経験では,特殊 な地山条件を除き現行のような強度測定法を採用する場合は,膨圧の判定の目安としての 地山強度比をもう少し小さくし,0.5~1.0 程度以下でもよいのではないかと考えている.
3-2 飯山トンネルの膨圧区間の調査 3-2-1 調査の目的
木成工区は,鍋立山トンネル9),10)の地層と同様の新第三紀中新世の椎谷層を主に掘削す る.同工区で予想された著しい膨圧11)の対策については,先行していた富倉工区での各種 の膨圧対策および支保工を二重の施工する多重支保工法12),13)の導入により,ある一定の成 果をおさめていたが,延長 719m の斜路の掘削開始以来,土被りの増加に伴い膨圧はさらに 増大した.斜路と本坑の交差部(本坑キロ程 164km400m)より本坑を金沢方に約 600m 掘 削した付近(本坑キロ程 165km000m)では,図-3-9に示すように内空変位が最大 450mm に達し吹付けコンクリートのクラックおよび剥離が所々に観察された.吹付けコンクリー
-500 -450 -400 -350 -300 -250 -200 -150 -100 -50 0 50
F1 F2 F3
F4 F5 H1
H2 H1
H2 F1
F3 F5 F2
F4
天端沈下・内空変位経時変化図
測点凡例165K212m(一次支保工)
天端沈下 190mm
内空変位 440mm 下半掘削
一次インバート閉合
0 10日後 20日後 30日後 40日後 50日後 60日後
図-3-9
天端沈下量と内空変位量の経時変化(165km212m)トが圧壊(圧縮せん断破壊)を生じた箇所では,鋼製支保工が座屈し,飴のように曲がっ たり,破断した箇所も観察された14).
このような支保工の変状は,富倉工区と基本的に同じ現象であったが,切羽より
2~3m
後方で変状が現れるなど変位速度が速いこと,その規模が大きいこと,および擾乱帯と呼 ばれるさらに激しい膨圧区間が予想されたこと,などにより膨圧現象への対策を早急に講 ずる必要があった.以上により,膨圧現象の解明を目的として実施された既往の研究との対比も併せて,各 種の調査を木成工区 165km200m~300m において実施することとした.
調査の計画を図-3-10に示す.
調査の目的は,地質調査ボーリングにより地質および地層の精査を行うとともに膨圧の 原因である物理的特性,化学的特性,力学的特性を把握することにある.また,膨圧によ る地山の挙動に密接な関係があると考えられる地山の弾性波速度の測定および速度検層を 行うこととした.また,日常施工管理のために必ず実施する A 計測に追加して,地山の
図-3-10調査計画
図-3-11調査結果
挙動と各支保工の部材の力学的挙動との相互の関係を把握して支保工の地山との適合性を 検討するために B 計測を実施した.これらにより得られた調査結果をもとに,数値解析手 法の妥当性を検証し,膨張性地山掘削への対策を講ずるための基礎資料を得ることとした.
3-2-2 165km200m~165km300m 区間の地質状況
地質構造は上越方の掘削方向に対し右側(東側)へ約 15~20°斜交し,層理面および地 層境界面は切羽右側(東側)へ 20~60°傾斜している.
地山の地質構成は凝灰質泥岩,軟質泥岩,中硬質(亀裂質)泥岩の互層である.軟質泥 岩,中硬質(亀裂質)泥岩はいずれも浸水や乾燥による劣化(スレーキング)が著しいた め,掘削後の応力解放とともに層理面や潜在的な(密着した)節理や亀裂が開口しやすい.
このため,地質の不連続面に沿って切羽が不安定化しやすい傾向がある.
先進ボーリングでは凝灰質泥岩や軟質泥岩は軟質泥岩片から粘土混り泥岩片スライムと して採取され,切羽では地質構造に沿った節理や粘土を介在する亀裂が多くなる傾向が認 められた.特に 165km220m より上越方は右側壁方向に小規模破砕帯を伴う軟質泥岩が分布 し地山状況が悪い傾向がある.
図-3-11
は速度検層のために右側壁から実施したボーリング により得られた地質の情報もあわせて作成した地質図(平面)である.また,同図には坑 内から実施した弾性波探査試験と速度検層孔 No1(165km203m),速度検層孔 No2(165km228m),速度検層孔 No3(165km253m)の結果により得られた地山速度分布と孔内水平載荷試験
(165km231m)による変形係数と弾性係数を示す.
3-2-3 原地山の弾性波速度
図-3-12
は掘削に先立って,施工計画の策定を目的として地表面から実施した 163km500m~165km500m の弾性波探査試験結果と土被りの関係を示したものである.
図中の 1 回目,2 回目とは後述する坑内で実施した弾性波探査試験のそれぞれの試験範囲 を 示 し て い る . 164km600m ~ 165km300m 付 近 と , 164km700m 付 近 の 一 部 の 区 間 で , VP
=2.4km/sec 程度の比較的高い地山弾性波速度が得られているものの,全体的には VP=2.1~
2.3km/sec 程度であった.この結果から,本調査の検討範囲である 165km200m~300m 付近に おける施工前の地山弾性波速度は VP=2.2km/sec 程度以下であると考えた.
3-2-4 速度検層
図-3-13
は速度検層の試験方法とその結果を示したものである.同図により得られた結果 をまとめると次のとおりとなる.図-3-12 弾性波探査試験(施工前)
本坑距離程
(1)速度検層孔 No.1,2
側壁から深度 5.0m までの地山弾性波速度は VP=1.5~1.8km/sec であり,深度 5.5m 以深 はいずれも VP=2.1km/sec となっている.
前 述 の と お り , 地 表 か ら 実 施 し た 弾 性 波 探 査 で は 施 工 前 の 地 山 の 弾 性 波 速 度 は VP=2.2km/sec である.深度 5m 以深は当初の地山の弾性波速度を示しているとすると,側壁 から深度 5m 付近の地山の弾性波速度(VP=2.0km/sec 以下)は,本坑掘削に伴う緩みによっ て低下したものと考えてよい.
速度検層孔 No.1,2 における検層実施時の上半切羽位置は,165km239m であり上半切羽と の離れは No.1 孔では約 25m,No.2 孔では約 6m となっている.図-3-13をみると,検層孔 No.1 と検層孔 No.2 における地山の弾性波速度は VP=2.0km/sec 以下となる深度が約 5m付 近で一致していることがわかる.したがって,切羽の掘削による地山の緩みは,切羽との 離れ 1D 以内で側壁より約 5m に達しているがその後の切羽の進行に伴う緩みの範囲の拡大 は少ないと考えられた.
(2)速度検層孔 No.3
側壁から深度 6m までの地山の弾性波速度は VP=1.6km/sec,深度 6m 以深は VP=1.9km/sec となっており,全体に 2.0km/sec 以下となっている.ボーリングコアの観察結果からも No.1 孔, No.2 孔と比較して No.3 孔の地質の状況は悪化しており,VP=2.0km/sec 以下の弾性波 速度の低下は,深度 5m~9.5m に分布する小規模破砕帯による地山の初性的な劣化が原因と 考えられた.このため側壁方向(地山側)への緩み範囲の拡大も,他の検層孔に比べやや 深く,深度 6m に及んでいると判断された.なお,上半切羽と検層実施時に検層孔との離れ は約 29m である.以上のことから,施工前に地山がもともと保有していた弾性波速度は
図-3-13 速度検層と変形係数
変形係数Ed [Mpa」
変形係数 Ed[Mpa」