大谷 昇平 論文内容の要旨
主 論 文
Runx3 is required for oncogenic Myc upregulation in p53-deficient osteosarcoma
(p53不活性型骨肉腫においてRunx3はMycの過剰発現を誘導する)
大谷昇平、伊達悠貴、上野智也、伊藤智子、梶川修平、大森景介、谷内一郎、
梅田正博、小守壽文、戸口田淳也、伊藤公成
(Oncogene : in press)
長崎大学大学院医歯薬学総合研究科医療科学専攻
(主任指導教員:梅田正博教授)
緒 言
p53 遺伝子は最も普遍的な「がん抑制遺伝子」である。間葉系細胞由来の悪性腫瘍、骨 肉腫(OS)においては、そのほとんどの症例でp53の不活性化が認められる。p53 遺伝子の 重要性は明らかであるが、p53 機能不全からどのような機構を経て OS の発症に至るのか、
その詳細な分子メカニズムについてはほとんど不明である。
骨芽細胞特異的p53 遺伝子欠損マウス(Osterix/Sp7-Cre; p53fl/fl;以下 OSマウス)は、ほ ぼすべての個体が、ヒト OS の性状に酷似した OS を発症するので、ヒトOS 発症モデルとし て広く解析に利用されている。そこで本研究では、このOSマウスを用い、p53不活性化に伴 う転写因子(TF)の挙動に注目し、骨肉腫発症の分子機序の解明を試みた。
対象と方法
ヒトOS細胞株およびOSマウスに発症した骨肉腫から樹立した細胞株を解析に使用した。
小児骨肉腫患者由来OSのRNAseqデータは、米国NIHデータベースTARGETから取得 し、正常ヒト骨芽細胞と比較した。一方マウスにおいては、正常骨芽細胞と OS マウスが発症 した骨肉腫を用いてRNAseqを実施した。OSで特異的に発現が上昇あるいは下降するTF を、ヒト:794TFs、マウス:741TFsより検索・同定した。転写因子RunxおよびMycの機能を検 討するため、OS マウスと、Runx1、Runx2、Runx3 あるいは Mycの Flox マウスを交配し、そ れぞれの骨肉腫発症を観察・比較した。Runx3 のターゲット遺伝子は、活性化クロマチンの 指標であるH3K27acとRunx3のChIPseqを実行し、そこにATACseqのプロファイルを重ね、
さらに Runx3 ノックアウト細胞を用いたマイクロアレイの解析結果をあわせて、総合的に検索
し同定した。ゲノム編集あるいは相同組換えを用いて、Myc プロモーターに存在する Runx
結合配列、mR1、mR2、mR3 に欠失あるいは変異を導入したOS細胞と OSマウスを作製し た。遺伝子操作を施した OS 細胞の造腫瘍能評価は、ヌードマウス皮下への担癌実験にて 行った。p53とRunxsとのタンパク質間相互作用は免疫沈降にて解析し、Runxタンパク質の mR1への結合能はEMSAにて検討した。最後に、骨肉腫を発症したOSマウスにRunx阻 害剤を投与した。
結 果
ヒトおよびマウス骨肉腫において、 Runx3 の顕著な発現上昇を認めた。Runx3 を欠損さ せると、OS マウスの明らかな生存延長と骨肉腫発症の抑制が観察された。Runx3 の標的遺 伝子候補の筆頭に Myc を同定した。実際に、ヒトおよびマウス OS において Runx3 と Myc の発現は正の相関を示し、RUNX3 と Mycは共に骨肉腫の予後不良因子であった。Runx3 と同様、Mycを欠損させると、OSマウスは効果的にレスキューされた。さらに、Myc遺伝子の promoter 領域にMycの過剰発現誘導に必須なRunx結合部位;mR1を見出した。そこで、
OS細胞でmR1を欠損させると、Myc発現の強い抑制ならびに造腫瘍能の低下が観察され、
さらに OS マウスに mR1 ホモ変異を導入すると、Runx3 のヘテロ欠損と同様、OS の発症が 抑制され OSマウスは延命した。Runx 転写因子のmR1への結合を精査したところ、ヒトおよ びマウス OS 細胞において、Runx2 および Runx3 の強い結合が検出された。興味深いこと に、Runx3の結合は p53非存在下でのみ観察され、そのDNA結合は、p53とのタンパク質 間相互作用によって阻害された。さらに Runx 阻害剤の投与で、骨肉腫を発症した OS マウ スは顕著に延命した。
考 察
p53非存在下でのRunx3によるmR1を介したMycの過剰発現が、骨肉腫発症における 根本的な分子機序であることが判明し、Runx3の「がん遺伝子」としての機能が明らかになっ た。さらにRunx3が効果的な薬剤ターゲットになることも示された。p53が存在する正常細胞 では、p53によってRunx3のDNA結合能が阻害されているので、Runx阻害剤の作用点は 存在せず、副作用が小さいことが期待できる。当初より RUNX3 は、その「がん抑制遺伝子」
の機能が注目されてきた。「がん遺伝子」か「がん抑制遺伝子」か、その決定要因はp53の存 在であると考えられた。正常p53存在下では、p53との相互作用を通してp21の発現を誘導 し、他の転写因子と相互作用を通して「がん抑制遺伝子」として機能する。一方で p53 非存 在下では、自身の転写活性を増大させ、Mycの過剰発現をもたらす「がん遺伝子」となる。こ のようにRunx3は、発がんにおける「分子スイッチ」として機能する可能性がある。