韓国の高齢者福祉制度をめぐる新しい動向 : 介護 保険制度創設問題を中心に
著者 李 玲珠
雑誌名 評論・社会科学
号 82
ページ 39‑63
発行年 2007‑03‑15
権利 同志社大学社会学会
URL http://doi.org/10.14988/pa.2017.0000011906
韓国の高齢者福祉制度をめぐる新しい動向
──介護保険制度創設問題を中心に──(1)
李 玲 珠
(社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程)
は じ め に
現在,韓国の合計特殊出生率は世界最低水準の1.16(韓国統計庁,2004)と なっており,世界的にも前例のない「超高速高齢化」が始まっている。この急 速な少子高齢化は,量的な問題だけではなく,質的にもさまざまな社会問題を 生み出すと予測される。
そうした中で高齢者介護に関する議論も本格的に展開されるようになり,政 府は2000年1月に「公的高齢者療養保障推進企画団」を設置した。この企画 団によって,2005年2月に公的介護保険導入に向けての最終案が発表され,
2008年から段階的に介護保険制度を施行するとしている。
しかし,現時点では発表された最終案どおりに制度を実施できるか疑問視さ れており,また実施に向けてのステップとなる基盤整備,財源の確保,国民の 合意形成などが重要な課題として残っている。
本論文では,発表された試案を用い,日本の介護保険制度との比較を試み る。それは,法律の成立も不透明な状況のなかで簡単なことではないが,高齢 者の介護問題をめぐってこのような動きがあることは,韓国の政策の流れとし て重要な意味をもつと考える。そして,その考察から得られる示唆を参考に,
韓国の介護保険制度の今後の方向性をさぐってみたい。そこでまず,アジアで はじめて介護保険制度を導入し,6年間の経験をもつ日本を先例として,韓国 の高齢者をめぐる状況,制度導入をめぐる争点を再解釈し,改善方向をさぐる
―39 ―
とともに制度の今後を展望する。さらに,実現可能性を含め,2008年度の実 施に向けての政策的取り組みや,経済情勢の変化,政治的要素にも目を配る必 要があるが,本論文はその第一歩となることを企図している。
1
介護保険制度導入の背景および経緯(1)導入の背景
韓国における高齢者の介護は,儒教思想によって主に家族に強いられていた
図表1 韓国の65歳以上高齢者人口の推移
2030 50,296 11,604 23.1 出典:韓国統計庁(2001)
2026
(超高齢社会)
50,610 10,113 20.0 2020
50,650 7,667 15.1 2019
(高齢社会)
50,619 7,314 14.4 2010
49,594 5,302 10.7 2000
(高齢化社会)
47,008 3,395 7.2 総人口(千人)
65歳以上(千人)
構成比(%)
図表2 人口高齢化速度の国際比較
2002年における65歳 以上の人口構成比(%)
16.3 14.9 17.2 12.7 12.3 12.7 18.6 15.9 17.3 18.4 7.9 資料:UN,The Sex and Age Distribution of World Population,各年度
日本国立社会保障人口問題研究所,「人口統計資料集」,2003 OECD,OECD Health Data,2004
出典:韓国統計庁(2004)
増加の所要年数 14%→20%
40 44 39 18 16 14 20 44 38 12 7 7%→14%
115 92 85 73 72 65 61 47 40 24 19 到達年度
20%
2019 2021 2011 2030 2030 2024 2008 2020 2010 2006 2026 14%
1979 1977 1972 2012 2014 2010 1988 1976 1972 1994 2019 7%
1864 1885 1887 1939 1942 1945 1927 1929 1932 1970 2000 フ ラ ン ス ノ ル ウ ェ ー スウェーデン オーストラリア ア メ リ カ カ ナ ダ イ タ リ ア イ ギ リ ス ド イ ツ
日 本
韓 国
―40 ―
面もあるが,実際問題として,高齢者に対する公的福祉サービスは生活保護 層,または低所得者に限定されており,一般の高齢者の場合は個人問題として 解決するしかなかった。
しかし,世界でも前例のないスピードで進む高齢化(図表1, 2参照),高齢 者のみの世帯の増加(1985年20.5%→2004年45.5%),離婚率の上昇(1985 年1.0%→2004年2.9%),女 性 の 社 会 進 出 の 増 加(1985年41.9%→2000年
48.3%)(2)という事実があり,さらには,後期高齢者や長期療養を要する高齢者
の急激な増加が予測されている(図表3)。これらの変化によって低所得層の みを対象とした高齢者福祉対策の不十分さが明らかになり,また,家族に依存 した高齢者介護システムをこれ以上維持することが難しくなって,改革に取り 組むことが不可欠になったわけである。
(2)導入の経緯(3)
韓国政府が介護保険を政策議題として検討しはじめたのは,2000年に保健 福祉部が「公的高齢者療養保障推進企画団」を設置してからである。この企画 団は2001年2月に「高齢者長期療養保護総合対策」をまとめている。
2003年3月から2004年2月まで「公的老人療養保障推進企画団」が,続い て「公的老人療養保障制度実行委員会」が2005年2月まで運営された。2005 年党政協議を通じて「老人療養保障制度基本案」が確定され,老人療養保障制 度を社会保険制度として導入することを決定した。制度導入時期は2008年と
図表3 長期療養が必要な65歳以上人口の推計(人)
在 宅
合計 518,629 692,812 829,101 1,001,847 出典:公的高齢者療養保障推進企画団(2003)
軽症痴呆 195,672 261,389 312,809 377,983 軽症
197,656 264,040 315,981 381,817 重症
102,797 137,322 164,336 198,575 最重症
22,504 30,062 35,976 43,472 施 設
合計 77,837 101,338 119,726 143,033 重症
55,265 71,950 85,006 101,554 最重症
22,573 29,388 34,721 41,480 区分
2003 2010 2015 2020
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され,保健福祉部案として,「老人スバル保険法案」が2006年2月7日国務会 議で承認された。スバルとは「付き添って世話をする」という意味の純粋な韓 国語である。
現在,本制度導入の準備段階としてモデル事業が実施されている。第1次モ デル事業は2005年7月から2006年6月までであり,対象者は65歳以上の公 的扶助受給者から選定された者である。モデル事業の内容は評価判定および介 護報酬の基準,ケアプラン作成など技術的な事項の検討,施設サービス(2 種)および在宅サービス(5種)の提供である。第2次モデル事業は2006年7 月から2007年6月までであり,第1次モデル事業の結果にもとづき,利用料 を支払う一般人を対象に地域・サービス内容を拡大して制度運営全般を検証・
補完することになっている(4)。
2
日本と韓国の介護保険制度の比較(1)介護保険試案の基本的仕組み
(a)保険者と被保険者
試案によると,介護保険の保険者は国民健康保険公団である。既存の健康保 険制度と連携させて介護保険制度を運営するのが効果的で,また今まで医療保 障制度を運営してきた経験がある国民健康保険公団を活用することが,保険料 の徴収等において最も便利だと考えられたためである。
被保険者は20歳以上の健康保険加入者である。サービスの対象者は65歳以 上のすべての高齢者と64歳以下の早期老化や老人性疾患の患者である。
このように保険加入者と受給権者が一致しない問題が生ずることから,64 歳以下の障害者を受給権者とする案も検討された。しかし,障害者を含む場 合,高齢者を対象として準備した基準,評価体系,サービスの種類と範囲,単 価体系などほとんどすべての制度を根本的に変える必要があり,財政上の所要 額も大きくなることから,制度実施当初は障害者を除外することを前提に検討 がなされた。
―42 ―
老人スバル保険制度の段階的導入計画で,対象者は全体高齢者中の12.1%
と推計されており,2008年7月の第1段階では介護等級1・2等級(5)(高齢者
人口の1.7%,公的扶助対象を含む),2010年6月からの第2段階では,介護
等級3等級(高齢者人口の3.1%)まで対象者を拡大する予定である(保健福 祉部,2007)。
(b)管理運営体系
老人スバル保険にかかわる機関・主体は,保健福祉部老人スバル委員会,国 民健康保険管理公団,スバル等級判定委員会,スバル機関,そしてスバル機関 に属する訪問看護機関などである。老人スバル委員会は委員長(保健福祉部次 官)1人,副委員長1人を含む,16人以上22人以下の委員で構成される。
老人スバル保険制度の保険者である国民健康保険管理公団はスバル等級判定 委員会を設置し,ここでスバル等級,スバル給付の種類と内容などを決定す る。スバル機関も国民健康保険管理公団が指定するという。訪問看護機関は,
スバル機関が保健福祉部令の定めた施設・人員を整え,地方自治体長へ届け出 ることによって運営できる。保険者である国民健康保険公団は,資格管理,保 険料の賦課・徴収,給付額の審査・支給に関する業務を担当する。
介護保険制度を運営する際も健康保険と同じような問題が生じる可能性が高 いため,保険者ははじめから統合体制の国民健康保険公団(6)に設定された。た だし,介護を必要とする高齢者の把握や,サービスを提供する施設に対する指 導・監督業務は,当該地域の地方自治体が担当し直接的に参画することが検討 されている。また,介護サービスを提供する事業者は,入所療養施設と在宅サ ービス施設である。現行の社会福祉事業法による事業主体を基本とし,サービ スの効率性および経済システム構築のために,民間事業者と非営利法人・団体 など多様な主体が参加できるように計画されている。なお,サービス事業者は 申請によって保険者が指定するとしている。
(c)介護給付の内容
介護給付は人間の尊厳・価値尊重の原則,利用者中心の原則,給付の適正性 の原則,在宅給付優先の原則,医療サービスとの連携を基本原則にしている。
―43 ―
介護給付は6種類で,在宅介護給付,生活介護施設給付,介護手当,特例介護 費,療養病院介護費,その他大統領が定める給付となっている。給付は現物を 原則とし,補完的に現金を支給する。現物は在宅介護および生活介護施設提供 であって,現金は介護手当,特例介護費,療養病院介護費である。在宅介護給 付は5種類(訪問介護,訪問入浴,訪問看護,デイサービス,ショートステ イ),施設入所者の介護給付は2種類(既存の10名以上の高齢者療養施設,5
〜9名規模の高齢者介護共同生活施設=グループホームの導入)である。介護 給付は,利用者が介護等級別月使用限度額の範囲内でサービスを選択して利用 することができ,介護給付の対象となる費用の20% 程度は自己負担となって いる。ただし,公的扶助受給者は,利用者負担がゼロになるように定められて いる。なお,一般加入者が入所施設を使用するとき,その食費は全額利用者負 担となっている。
介護給付は,評価判定委員会による介護対象の可否および等級判定→結果通 知→ケアプラン作成→提供主体と契約→サービス利用の順序で進行する。評価 判定基準は,ADLが11項目,看護措置および更生が21項目,認知機能が8 項目,問題行動が22項目の計62項目で構成され,介護等級は心身の障害状 態,サービスの必要量などを考慮して区分される。
(d)介護保険料および費用の負担
介護保険料の徴収対象は健康保険加入者とし,医療扶助受給者は介護保険料 を支払わない。介護保険料は大統領令で定め,健康保険料と合わせて徴収す る。介護給付費用の20% は加入者本人が負担するが,基礎生活保障受給者の 本人費用負担はない。医療扶助受給者および大統領令で定めるボーダーライン
層は10% 負担になる。国庫負担は健康保険と同じ比率(2004年では20.1%)
とされ,30〜40% 程度の公費負担が見込まれている。公的扶助対象者(国庫 および地方費)に対しては,介護給付費の総額を支援することにしている。
(2)日本と韓国の介護保険制度の比較(7)
日本と韓国の介護保険制度は,基本的な仕組みは似ているといえるが,大き
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く異なる点も少なくない。たとえば,日本が市町村を保険者とする地域保険主 義をとっているのに対して,韓国は国民健康保険公団を保険者とする予定であ る。これは,すべての自治体が十分な財源を確保することは困難であり,国民 の福祉サービスに大きな格差が生じないようにすべきであるという考えによる と思われる。これにより,要介護認定にもとづくサービスを全国どこでも平等 に受けられるようになるが,一方では,介護サービス利用から排除される階層 について,市町村の責任があいまいになるおそれもある。
さらに,日本では40歳以上が被保険者となるが,韓国は20歳以上で医療保 険に介入している者は全員被保険者となる。財政を公費と保険料でまかなう点 は,日本と韓国でほぼ同じ形態をとっていると理解してよいだろう。韓国では 自己負担は最初から2割に設定することになっている。
保険料負担の内容をみると,韓国の場合は65歳以上の高齢者からは保険料 徴収がないことがわかる。これは,韓国では年金制度が未成熟であり,高齢者 の所得保障がまだ整えられていないためである。しかし,介護保険制度が実施 される2008年度からは年金給付もスタートするので,高齢者からの徴収が検 討される可能性もある。日本の場合,第一号被保険者である65歳以上からの 保険料が財源の18% を占めている。韓国ではその不足分を賄うために被保険 者を20歳以上の医療保険加入者にしているとも推測できる。主なサービスの 対象となる65歳以上の高齢者から保険料徴収がないことに,保険料を払う層 から不満の声があがることも予想される。
給付内容からわかる問題点は次の2点である。第一に,韓国は自宅で暮らし ている高齢者の割合が高いにもかかわらず,在宅サービスの内容が貧弱であ り,リハビリに関する給付はまったく設定されていない。第二に,現金給付(8)
は日本よりも充実しているが,それは様々な角度から解釈できるだろう。たと えば,基盤整備が間に合わないため,その不足分を現金で給付し,在宅介護を 家族に可能なかぎり担ってもらう,あるいは,韓国社会には儒教思想がまだ根 強く残っており,美徳とされる「孝」を保つため現金給付を充実させていると いう解釈もできるだろう。しかしこの儒教思想のため,韓国では家庭内の女性
―45 ―
に介護の負担が押し付けられてきた。現在の案では,その延長線を辿ることに なるのではないかと懸念されている。
図表4 日・韓介護保険制度の比較 韓 国
・老人スバル保険法(仮称)
・施行日は 2008年度後半期とする 段階的に施行−2010年7月1日に対象者 を拡大して介護給付を実施
国民健康保険公団
健康保険に加入している者(20歳以上)
・65歳以上の高齢者
・64歳以下の者−給付は老人性疾患に限 られる
・医療扶助者
・2008年度の予測数値
−1〜2級重症以上8万5000人を対象に実施
−2010年 に は1〜3級16万7000人 ま で 拡 大実施
・保険料:40〜50%
・公費負担:30〜40%
2割
(医療扶助の受給者及び大統領令で定める ボーダライン層は1割負担)
・65歳以上の高齢者−保険料の徴収なし
・64歳以下の健康保険加入者−既存の健 康保険料に10〜15% 上乗せして徴収
介護給付,介護手当,特例介護費,療養病 院の介護費等
出典:筆者作成
*日本は自己負担を除く比率,韓国は自己負担を含む比率。
日 本
・介護保険制度
・2000年4月施行
市町村・特別区
・65歳 以 上 の 高 齢 者(第1号 保険者)
・40歳〜64歳(第2号保険者)
−老人性疾患(15種)
・2000年度:218万2000人
・保険料:50%
・25%
都道府県:12.5%
市町村:12.5%
1割
・65歳 以 上 の 高 齢 者(第1号 保険者)−市町村が決める定 額(5段階)で徴収
・40歳〜64歳(第2号保険者)
医療保険料に上乗せして徴収 介護給付,予防給付,市町村特 別給付等
制度名
保険者
被保険者
受給権者
(65歳以上)
保険料 国庫 地方 自治体 自己負担
保険料負 担
給付内容 財政構造*
―46 ―
3
韓国の介護保険制度創設をめぐる論争(1)所要額の推計(暫定案)
介護保険制度は,2008年に1〜2級(重症以上)の8万5000人を対象に実 施し,2010年には1〜3級の16万6000人に拡大されるという(図表5)。導入 にかかる費用は,総支出額が2008年は1兆213億ウォン,2010年は1兆8204 億ウォンになると推計されている(図表6)。なお,韓国は日本とは異なり,
図表5 介護対象者の推計
(単位:人)
小計
84,565 87,407 166,295 出典:老人スバル保障法案財政推計保健福祉部(2005)
*ボーダーライン層とは,基準が2007年基礎受給者収入の130% 以下である。2007年 基礎 受 給 者 の 基 準−1人 世 帯:435,921ウ ォ ン/月,4人 世 帯:1,205,535ウ ォ ン/月
(保健福祉部2007年資料)
医療扶助 その他
小計 347 359 683 在宅
40 41 136 施設
307 318 547 基礎生活受給権者
小計 8,332 8,616 16,398 在宅
957 989 3,274 施設
7,376 7,627 13,124 健康保険
ボーダーライン層* 小計 24,329 25,156 47,877 在宅
7,497 7,752 23,351 施設 16,832 17,404 24,526 一般
小計 51,557 53,276 101,336 在宅 15,888 16,417 49,424 施設 35,669 36,859 51,912 区分
2008 2009 2010
図表6 年度別財源分担の推計
(単位:百万ウォン)
平均 保険料
(ウォン)
3,066 3,148 5,357 出典:老人スバル保障法案財政推計保健福祉部(2005)
合計
1,021,344 1,056,219 1,820,408 自己
負担分
138,029 142,649 250,391 政府支援分
小計 282,732 292,453 505,288 医療給付
地方費 38,041 39,360 68,792 国庫
75,997 78,631 137,430 健康保険
168,694 174,462 299,066 保険料
収入分
600,582 621,117 1,064,730 区分
2008 2009 2010
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財政構成に自己負担分を含めて計算している。
これらの財政推計結果は,主要変数として使用された介護対象高齢者比率,
介護対象高齢者の施設・在宅の分担比率(施設保護率),施設・在宅の報酬単 価によって変わりうる。
実行委員会は,国庫負担を30〜40%,本人負担を20% とし,健康保険料の 10〜15% 追加負担すると制度の運営が可能であると予測している。
介護保険料は健康保険料に定率で上乗せするかたちで徴収するという。しか し,現在の健康保険料の賦課体系は公平性の面で問題があり,この形式で徴収 されることには多くの反発が予想される。たとえば,職場加入者の場合は広範 囲の被扶養者認定問題があり,地域加入者の場合は所得把握の問題がよく指摘 されている。地域加入者に対する給付費50% 国庫支援の非公平性問題も指摘 することができる。既存の健康保険制度が抱えているこれらの課題を解決する ことが先決であろう。
社会保険料も国民負担であることを考えると,なぜ保険方式を選ぶのかに関 して根本的な再検討が求められる。財源確保にあたって,保険料を主財源と し,政府に一定部分の国庫支援を,サービス利用者に20% 程度の本人負担を 課すという案であるが,問題は保険料を国民が払えるか,また払おうとするの かということである。
措置制度から社会保険方式に変わることはきわめて大きな意味をもつが,利 用者にはその方向性や理念が見えてこない。社会保険として世代間の扶養原理 が基盤にはなるが,このためには保険料賦課および徴収の公平性が前提となる べきである。国民健康保険に10〜15% 上乗せするかたちでの一括徴収を決め ているが,これに対する国民の意見も検討しなければならない。
重要なポイントは,第一に,受給権者である高齢者が保険料を負担しないこ とである。年金制度が未成熟であることを考慮した結果であるが,サービスの 利用者が負担しない保険料を青・壮年層が負担することになり,保険料負担に 対する世代間の対立が予想される。政府による国庫負担も簡単なことではな い。韓国の一般予算は硬直しているため,社会福祉部門への大幅な予算増額を
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実現できるかも未知数である。第二に,サービス利用時の20% の本人負担 は,高齢者の経済能力によっては大きな負担となるだろう。ボーダーライン層 に対する特別な施策がないまま導入することは(9),新たな福祉難民を生む危険 をはらんでいる。第三に,本制度が施行され成熟すると高齢者のニーズもそれ に伴う費用も大きく増えると予想されるが,その場合,国家と国民全体の負担 も大きくなる。このような高齢者介護の費用を長期的にどう確保していくか,
その見通しを立てることもきわめて重要である。
(2)韓国の社会保障体系などとの関連性
(a)年金制度の不安定さ
年金制度が不安定であることも,この制度導入のハードルとなっている。国 民年金発展委員会は党政協議を通じて,年金制度の安定化のため所得代替率を
50% に引き下げ,2004年から2007年までは55% に調整したところである。
財政推計をみると目標積立率を2倍に維持するための必要保険率が15.85%
と,加入者の負担率が大幅に増加している。またKDI(韓国開発研究院)の 報告書によると,低金利の影響で政府が予想した国民年金基金が枯渇する時点 が,2047年から2041年へと6年も早まる見込みである。
その他,低出産率と高齢化率,物価上昇率,失業率,納付例外者比率,保険 料徴収率などが影響するため,国民年金制度の将来はきわめて不安定である。
長期失業者と480万人の非課税所得水準層の人々には,介護保険料の負担能力 がないことも考慮されるべきである。国民年金保険料と健康保険料などの社会 保障が低所得層の負担を増大するような矛盾は回避しなければならない。
(b)健康保険との関連性
介護保険制度は基本的には現在の国民健康保険制度を活用し運営する方式で あるため,国民健康保険制度の受給対象者資格基準によって加入者を分類する こととなる。
健康保険は,地域加入者が42.8% 職場加入者が57.2% の割合である。介 護保険の負担率は健康保険に対する政府支援と同じであると見なすと,地域の
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場合は政府支援が44.5%,国民が負担する保険料は55.5% で,職場の場合は 政府支援が5.5%,保険料部分が94.5%(労使で折半)である。
調査機関によって差はあるが,各種の調査研究の結果,国民の健康保険に対 する不満は相当なものである。このような状況にもかかわらず,健康保険公団 が介護保険制度を運営するとなると,健康保険の赤字を介護保険に移転させる かもしれないという不安をまねく。また,所得把握の難しい自営業者の保険料 賦課徴収上の問題が介護保険にも悪影響を及ぼすだろう。現在の不満が新たな 制度である介護保険に影響しないよう,健康保険制度の改革をあわせて進める べきであろう。
(c)管理運営主体
試案によると,管理運営主体は三つの類型で検討された。第1案では管理運 営主体を市郡区(市町村),第2案では国民健康保険公団,第3案では役割分 担案として「自治体+国民健康保険公団」であった。実行委員会の審議の結 果,給付管理および財政管理主体の一元化で管理運営の責任性・効率性の向上 を可能にするということで,運営主体は国民健康保険公団となった。
公団が運営主体となった場合の長所は,健康保険業務で蓄積された経験(ノ ウハウ)などを活用し,制度導入が容易にできるという点と,全国市郡区単位 の支社組織やマンパワーを活用できるので,管理運営費の追加負担が少ないこ とである。さらに,制度運営の面で統合と調整が比較的容易であるという利点 もある。
短所は,サービス基盤の拡充が多少難しいこと,自治体ごとに運営している 公共施設やマンパワー活用に制約があること,公的扶助と重なる各種受給権の 調整や統制が円滑にできないこと,介護サービス事業者の管理監督に一定の限 界があること,地域健康増進事業(地域保健法)との連携・調整などにおいて 不利である点などである。
なお,管理運営主体を健康保険公団にした背景には,2000年の公団統合の さい,職員の整理が行われなかったという事情がある。余剰職員の活用のため にも,公団を保険者にするのが適当と判断されたのであろう。
―50 ―
(d)サービスの整備拡充
現在の韓国の高齢者介護施設はまだ量的にも質的にも基礎的段階にとどまっ ている。介護施設は1981年の老人福祉法で制度化されたが,1980年代末まで 数的な増加は見られなかった。しかし,1990年代後半からは年々増加してい る。最近は高齢者介護施設,高齢者専門介護施設が増加している。
費用負担面からはまだ貧困層を対象とする無料施設が大半であるが,最近は 実費,有料などの施設も増えつつある。
介護保険の段階的な施行は,現在進捗中であるサービスの整備拡充に合わせ た合理的な方法とみることもできる。しかし,介護サービスの提供を約束する 保険制度であることを考えるならば,サービス提供体制の完備が前提となるは ずである。あえて段階的な施行に踏み切るのであれば,「保険あって介護なし」
の状況を避けるため,可能なかぎりの対策を講じなければならない。
現在,サービス整備拡充は2002年からの「高齢者医療福祉施設拡充10カ年 計画」と2004年からの「市郡区高齢者医療福祉施設拡充5カ年計画」の下で 進められているが,地方自治体の財政負担問題などで計画どおりに進んでいな いのが実情である。現在の入所施設の充足率は28.7% であり,在宅サービス
の場合は3.2% 程度である。介護保険の開始に向けて,民間の在宅サービス事
業者が増えると期待されているが,初期投資の負担が重いこともあり,計画ど おりに拡充されるかは疑問である。
したがって,介護保険を計画どおりに施行するためには,地方自治体の積極 的な参加誘導,民間事業者に対する税制もしくは融資支援など,施設を早期に 拡充するための特段の対策が必要である。
4
よりよい介護保険制度にむけての提案介護保険制度の実施に向けて,法案の内容がほぼ確定し,国会への提出・可 決を待っている段階である。制度創設がもつ意味をまとめると以下のとおりで ある。
―51 ―
第1に,1989年の国民皆健康保険制度と国民皆年金制度以来の,本格的な 新しい社会保険制度である。これまで低所得者に限定されていた高齢者福祉サ ービスについて,選別から普遍化への一歩を踏み出したことで,量的・質的な 底上げが期待できる。
第2に,韓国は,日本が経験したゴールドプランの段階なしに,いわば圧縮 的な政策の取り入れ方をしているが,これは,めまぐるしく変化している韓国 の現状をよく反映している。第3に,日本では1990年からの社会福祉構造改 革の成果として介護保険制度が形づくられたのに対して,韓国の場合,基礎構 造改革といえるほどの大きな改革はなかった。しかし,介護保険制度の導入に よって,構造改革への動きが加速する可能性もあると考えられる。
次に,現在までの準備段階であるモデル事業の検討と,介護保険制度のあり 方の日韓の比較からは,次の課題が浮かび上がる。漓運営主体とケアマネージ メントシステム,滷基盤整備,澆制度に対する国民の認識不足。以下,この3 つの課題を中心に提案を行う。
(1)運営主体の再考
2007年1月現在,公団が保険者となることは,ほぼ確定しているようであ り,自治体にどのような役割を与えるかが課題になっている。
管理運営体系試案の大きな問題点は,地方自治体の役割がほとんど規定され ていないことである。保険者である国民健康保険公団は国レベルの機関であ り,利用者や家族との距離の問題が懸念される。このため,委員会による最終 案の第2案でも提示されているように,地方自治体が保険財政の一部を担当 し,高齢者福祉政策に一定の役割と責任をもつような,具体的枠組みを検討す る必要がある。
介護保険サービスは市郡区における社会扶助の性格ももっていることと,地 方分権化,サービスの効率化を考えると,各市町村の役割を綿密に決定し運営 すべきであると思われる。それは,老人スバル保険に対する市町村の関心を高 め,制度導入に向けての積極的な対応をうながすためである。現在は国と健康
―52 ―
保険公団だけで先走っているようにも見える。
介護保険は措置制度である高齢者福祉とは異なるため,被保険者のニーズに 応えるケアマネージメントシステムを構築する必要がある。住民との距離が近 く,介護対象者の情報をもっていてコミュニケーションがとりやすい市郡区 は,受給権の管理の面においても効率がよいだろう。介護保険サービスを担当 する施設・機関との連帯をとりやすい利点もある。運営面においても,地域密 着型のケアマネージメントシステムをつくる必要がある。市郡区単位でケアマ ネージメント管理機関を指定するほうが,利用者のニーズと地域性を反映した ケアプランを作成でき,よりよいサービスを提供できるのではないか。専門的 な知識とスキルを兼ね備えたケアマネージャーの育成も,早急に取り組むべき 課題のひとつである。
2006年11月に行った健康保険管理公団関係者へのインタビューによると,
地域密着のためにサービス提供者がケアプランを立てる方向で検討中であると いう。また,モデル事業ではガイドラインとして標準スバル利用計画書を作成 し,強制ではないが在宅福祉サービスを中心に使わせている。この結果をもと に,具体的なケアマネージメントを決める予定であるという。現在,韓国には 237の市郡区があるが,そのうち227に公団の支社,189に住民センターがあ
図表7 老人スバル保険運営方式の比較
財政・サービス分離型 安定的
老人福祉法上の老人福祉施設 地域スバル支援センター(自治
体参加),公団,老人福祉施設 強い
あり
(地域スバル支援センター所属)
地域スバル支援センター 出典:鄭ジェフン「韓国老人スバル保険の構造,問題点および改善方向」韓国社会政
策学会国際学術セミナー(2006)
財政・サービス統合型 安定的
老人福祉法上の老人福祉施設 公団と老人福祉施設
弱い なし サービス提供者 財源調達
サービス提供主体 サービス伝達体系 既存サービスとの連携 ケアマネージャー制度 ケアマネージメントの主体
―53 ―
る。公団の職員数は1万200人。第1段階において,その25% がスバル保険 に投入される予定だという。
(2)高齢者介護の基盤づくりの重要性
日本は,2000年4月導入予定(当時)の介護保険制度の基盤整備として,1989 年に「高齢者保健福祉推進10カ年計画」,いわゆるゴールドプラン(10)を策定し た。そこでは,漓市町村における在宅福祉対策の緊急整備,滷「ねたきり老人 ゼロ作戦」の展開,澆在宅福祉等充実のための「長寿社会福祉基金」の設置,
潺施設の緊急整備(施設対策推進10カ年事業),潸高齢者の生きがい対策の推 進,澁長寿科学研究推進10カ年事業,澀高齢者のための総合的な福祉施設の 整備という7つの柱が立てられた。とくに注目されたのが在宅福祉対策と施設 の緊急整備であり,いずれも1999年度までの具体的な目標値が示されていた
(図表8, 9, 10)。この目標を達成し,サービスを飛躍的に増やすため,国は老
人福祉法と老人保健法を改正し,都道府県と市町村に「高齢者保健福祉計画」
図表8 市町村における在宅福祉対策の緊急整備
新ゴールドプラン 17万人
6万床 1万7000カ所
1万カ所
5)ショートステイ,デイサービスセンター及び在宅介護支援センターを全市町 村に普及させる。
6)在宅福祉事業の実施主体(財団法人たる公社等)を全市町村に普及させる。
7)「住みよい福祉のまちづくり事業」を推進する。
ゴールドプラン 10万人
5万床
1万カ所
1万カ所
1)ホームヘルパー 2)ショートステイ 3)デイサービスセンター 4)在宅介護支援センター
図表9 施設の緊急整備(施設対策推進10カ年事業)
新ゴールドプラン 29万床 28万床 10万人 400カ所 ゴールドプラン
24万床 28万床 10万人 400カ所 1)特別養護老人ホーム
2)老人保健施設 3)ケアハウス
4)過疎高齢者生活福祉センター
―54 ―
の策定を義務づけた。このゴールドプランによって高齢者の介護が国民的な課 題になったといっても過言ではない。
都道府県と市町村に義務づけられた「高齢者保健福祉計画」は抽象的な文言 で表記するのではなく,具体的数値目標を明記しなければならないとされた。
すなわち「数値明示型の計画(indicative plan)」である。この計画は要介護高 齢者を第一義的対象者とし,その人数,障害の状況,介護の実態などを把握し たうえで,在宅サービス(ホームヘルプ,デイサービス,ショートステイ), 保健サービス(機能訓練,訪問指導,訪問看護サービス,健康相談など),施 設サービス(特別養護老人ホーム,老人保健施設,養護老人ホーム,ケアハウ スなど)などのサービス提供体制について,計画期間(1994〜1999年度)の 整備目標を定量的に示すものであった。
韓国の場合,国レベルの政策として「老人療養施設拡充10カ年計画」があ るが,市・道と市・郡・区レベルの具体的な整備計画も,インフラ整備の遅れ に対する危機感もなく,財政的な問題から傍観的態度をとっている自治体もあ る。
現在の施設インフラ拡充計画では,要介護対象者(軽症以上)の20% を介 図表10 「高齢者保健福祉増進10カ年戦略(新ゴールドプラン)」の整備目標
平成11年度目標
60,000床 17,000カ所 10,000カ所 290,000床 280,000床 100,000人 400カ所
(国庫補助予算ベース)
平成7年度計画 92,482人 29,074床 6,180カ所 10,000カ所
227,329床 165,811床 30,700人
240カ所 平成6年度計画
59,005人 24,274床 5,180カ所 3,400カ所 212,019床 139,811床 23,700人 200カ所 平成元年度計画
31,405人 4,274床 1,080カ所 2,400カ所 162,019床 27,811床
200人 ホームヘルパー
ショートステイ デイサービス 在宅介護支援センター 特別養護老人ホーム 老人保健施設 ケアハウス
高齢者生活福祉センター
―55 ―
護施設が受け持つこととし,2011年の需要充足を目標として毎年100カ所ず つ拡充していくという。民間部門は有料施設,急性期病床転換など毎年2000 余りの病床拡充を推進する方針であり,これまでの無料施設中心から低所得層 が利用する実費施設の拡充に重点をおいて毎年50〜70カ所の設置を推進する という。
計画案では入所介護施設を今後7年間で公共部門は3.4倍(2004年265カ所
→2011年900カ 所),民 間 部 門 は3.9倍(2004年74カ 所→2011年291カ 所)
に増設するとなっているが,過去の実績からみて計画どおりに進む可能性は低 い。実際,老人施設の建設に対する自治体の負担が重く,計画どおりに進むか 不透明であるという指摘がある。
制度の導入に向けて緊急に普遍的なサービスを構築せざるをえないのはわか るが,無理な計画を謳うより,地域別に予測される需要量と現在のインフラを 厳密に把握したうえで目標値を設定すべきだと考える。
2005年12月現在,全国の介護施設は505カ所(3万1000人),在宅施設は 765カ所(ホームヘルパー派遣350,デイケア326,ショートステイ89)であ る。2008年に予想される給付対象者は8万5000人で,内訳は施設保護者が6 万人(特養4万2000人,療養病院1万8000人),在宅対象者が2万5000人で ある。したがって,2008年までに,3万4000床の施設拡充が必要とされる
(図表12参照)。
日本と韓国の要介護者をめぐる状況が異なり,基盤整備のための目標量が違 うのは当然であるが,日本が都道府県と市町村レベルで計画をたてることを義 務化したのは評価できると考える。現在の韓国は,市町村レベルでの計画がな く,国からの目標値だけで,地域の特性や現状は十分に把握されていない。財 政が豊かな自治体は積極的に設置し,厳しい自治体はまったく設置しないとい う地域格差も問題である。自治体の取り組みをうながす具体的な対策を打ち出 すことが,現在最も重要な課題であるといえよう。また,施設インフラ整備に おける財政負担率(現在は国50%,地方自治体50%,ソウル特別市は70%)
を国の負担を増す方向で調整すれば,整備がスムーズに進むと考えられる。
―56 ―
図表11 施設サービス
単位(カ所,人)
2011 912
(65,624)
133
(9,310)
262
(18,340)
194
(13,580)
238
(16,660)
85
(7,734)
264
(16,250)
56
(5,896)
208
(10,354)
81,874 85,109
△1,105 98.7%
出典:公的高齢者療養保障制度実行委員会(2005)
2010 805
(58,094)
130
(9,100)
219
(15,330)
189
(13,230)
188
(13,160)
79
(7,274)
242
(15,150)
56
(5,896)
186
(9,254)
73,244 82,645
△7,421 91.0%
2009 709
(51,252)
127
(8,890)
177
(12,390)
184
(12,880)
148
(10,360)
73
(6,732)
220
(14,050)
56
(5,896)
164
(8,154)
65,302 53,595 12,767 123.8%
2008 620
(44,982)
124
(8,680)
148
(10,360)
179
(12,530)
102
(7,140)
67
(6,272)
198
(12,950)
56
(5,896)
142
(7,054)
57,932 52,134 5,448 110.4%
2007 520
(39,482)
121
(8,470)
118
(8,260)
174
(12,180)
68
(4,760)
61
(5,812)
167
(10,860)
47
(4,906)
120
(5,954)
50,342 50,435
△1,633 96.8%
2006 452
(33,122)
118
(8,260)
82
(5,740)
169
(11,830)
28
(1960)
55
(5,332)
136
(8,770)
38
(3,916)
98
(4,854)
41,892 2005
333
(24,672)
111
(7,770)
45
(3,150)
132
(9,240)
− 45
(4,512)
105
(6,680)
29
(2,926)
76
(3,754)
31,352 2004
265
(19,919)
105
(7,329)
22
(1,541)
114
(7,996)
− 24
(3,053)
74
(4,590)
20
(1,936)
54
(2,654)
24,509 区 分
小 計 療養施設 実費療養 施 設 専門療養 施 設 実費専門 療養施設 療養病院 小 計 病床機能 転 換 有料施設 合計
目 標 量 過 不 足 充 足 率
公共部門民間部門
推進計画
図表12 老人スバル施設供給計画
在宅 35千人
(765カ所)
25千人
26千人
(242カ所)
施 設
31千人(505カ所)
60千人(施設42千床+病院18千病床)
34千人(不足)
(既存施設入所者の中等級外23千人含む)
36千人(1,042カ所)
2005年供給 所要推計 療養施設の不足 拡充計画(2006年〜2008年)
2008年
― 57 ―
(3)制度に対する国民の合意形成
国民健康保険公団釜山北区支社の老人スバル保険モデル事業運営班長である 文ソンボ氏は,その報告でモデル事業の問題点として,老人スバル保険制度に ついての認識不足をあげている(11)。
2006年6月健保研究センターで実施した老人スバル保険制度の認知度に関 するアンケート調査では,保険制度およびモデル事業について,60% 以上の 人が「よくわからない」と回答した。制度の実施に向けて,広報をさらに強化 し,制度の肯定的側面を積極的に訴える必要がある。ちなみに高齢者保険制度 の申請率が低調である理由は,漓制度自体がよくわからない,滷申し込む意思 はあるが,本人負担金を支払ってサービスを利用するほどの状態ではないと思 う,澆可能なかぎり家庭で家族による介護を受けたい,などである。これは老 人スバル保険のモデル事業においてもまったく同様であると思われる。
お わ り に
制度の施行までには解決しなければならない難問が山積している。介護保険 の保険者は国民健康保険公団であるが,行政の分権化の基調をふまえ,地域の 特徴と利用者の意向を最大限反映するためのシステム作りが強く期待される。
この点で,地方自治体の役割をどのように規定するかも重要な課題である。高 齢者のニーズに応えるため,地域中心のサービス体系を構築することが重要で あるが,国民健康保険公団が地域の高齢者問題にどれほど関与できるかも問題 である。
全般的な制度の導入に向けての基盤整備も重要であるが,何より必要とされ るのは,国民の理解を求める努力ではないだろうか。正確な情報を伝えること はもちろん,制度の段階的実施を円滑に進めるためには,広範な議論にもとづ く国民的合意の形成が不可欠である。これを怠ったまま保険料の徴収を開始 し,国民の反発を買って政争の具にされるようなことがあってはならない。
―58 ―
本論文は2005年10月の社会政策学会第111回大会(於・北海道大学)での発表 に,2007年1月現在の資料を加えて原稿化したものである。
注
盧 韓国の介護保険制度はまだ計画段階であるため,本論文は2005年2月に公的高 齢者療養保障制度実行委員会が「公的高齢者療養保障制度実施モデル開発研究」
として発表した最終案と,2005年9月15日の公聴会で保健福祉部が報告した
「老人介護保障法案および主要内容」を参考にしている。制度の実施までに内容 の変更がありうることをお断りしておきたい。なお,保障は保険と公的扶助を含 むが,社会保険方式で運営されていることと日本との比較を行うために介護保険 制度とよぶ。
盪 金貞任「韓国の介護保険制度の導入」『保健の科学』第47巻第8号,2005。
蘯・2001年8月15日:大統領の「光復節(独立記念日)」記念式典での式辞におい て,「老人療養保険制度」導入の必要性に言及。
・2003年2月:大統領職引き受け委員会にて大統領選挙の公約の推進状況を報告。
・2003年3月〜2004年2月:「公的老人療養保障推進企画団」が構成され,活動を 行う。
・2004年3月22日:公的老人療養保障制度「実行委員会」及び「実務企画団」発 足。
・2003年3月〜2005年1月:「老人介護保険制度」のシミュレーション。
・2005年7月〜2006年3月:老人介護保険制度の第1次モデル事業実施。
・2006年2月7日:「老人介護保険法(案)」政府案が国務会議(閣議)で可決。
・2006年4月〜2007年3月:老人介護保険制度の第2次モデル事業実施。
・2006年11月2日:「老人介護保険法(案)」国会公聴会が開かれる(6つの法案 提出)。
盻 第1次・第2次モデル事業内容比較
備 考
’06. 7 北済州郡が済州市
に編入されたことによって 邑面地域だけ適用 第2次モデル事業
8つの市郡区
(1次 モ デ ル 地 域 の 他 釜 山 北 欧,全南莞島追加指定)
−65歳以上 一般高齢者
(1−3等級:約5万200人)
※基礎生活受給 高 齢 者 を 含 む
(2006. 9. 15 指針変更)
第1次モデル事業 6つの市郡区
(光州 南 区,水 原,江 陵,安 東,扶余,北済州郡)
−65歳以上基礎生活受給高齢 者
(1−5等級:2,050人)
対象地域
適用対象
―59 ―
眈 日本の場合,要介護度を要支援と要介護度1〜5の6段階に分けており,最重度 は5であるが,韓国は要支援がなく,介護度1〜5のうち1が最重度である。
眇 韓国の健康保険は,初期には地域別組合が保険者になり,数多くの組合が運営を 担ってきた。その結果,組合間で保険料負担や財政状態に格差が生じるなどの問 題点が浮上した。このため,2000年にこれをひとつの保険者である国民健康保険 公団に統合した。
眄 日本の介護保険法は2005年に改正され等級などが変わっているが,本稿では改 正前のものと比較している。
眩 日本は,一割を自己負担とする住宅改修費(20万円),福祉用具購入費(10万 円)の現金給付があるが,韓国は,家庭を援助する形で現金給付を行う。そうし た現金給付には,特別現金給付として家族介護費,特例介護費,療養病院介護費 の3種類がある。
家族介護費は,老人介護を行っている家庭が,島嶼・僻地など介護機関が著し く足りない地域に居住するとき,または,災害などの事由によって,介護機関が 実施する介護給付を利用することができないと保健福祉部長官が認めた場合,身
−介護用品支援及療養 病院スバル費’06下半期実 施検討
−訪問看護
家庭看護事業所などを活用 し,実質的なサービス提供
(単価適用)
利用者便宜向上及び効率的 な判定及び標準スバル利用 計画書体系適用,検証
在宅サービスの費用の一部 分(10−25%)を 財 政 自 立 度によって自治体が負担
−老人スバル保険法(案)上の 等級判定 サービス利用支援体 系,給付範囲及び内容,単価算 定,サービス利用時,本人負担 など本事業と類似した形態の運 営及び検証
−在 宅 サ ー ビ ス(5種 類):訪 問介護,デイサービス,ショー トステイ,訪問入浴,訪問看護
−施 設 サ ー ビ ス(3種 類):療 養施設,専門療養施設,グルー プホーム
−特 別 現 金 給 付(1種 類):家 族スバル費
−等級判定及びニーズアセスメ ント道具の統合及び同時調査
−等級とスバル給付種類及び内 容決定通報
−サービス提供者と利用者との 自律的なサービス利用体系
*標準スバル利用計画書ガイド ラインとして提供
−モニタリング及び質評価
−本人負担20% 適用
国庫(76億ウォン), 地方費(約20億ウォン)及 び 利用者負担
−等級判定 単価・費用支払 いなど運営体系技術的な部分 検証
在 宅 サ ー ビ ス(5種 類):訪 問介護,デイサービス,ショ ートステイ,訪問看護 標準スバル利用計画書
−施設サービス(2種類): 療養施設,専門療養施設
−公団作成標準スバル利用計 画書によるサービス利用体系
−等級判定のための訪問調査 と標準スバル利用計画書のた めのニーズアセスメントの二 元化運営
本人負担制度非適用(基礎受 給者対象)
国庫支援(19億ウォン)
事業内容
サービス の種類
等級判定 及び標準 スバル利 用計画書 体系
本人負担
財源
―60 ―
体・精神的事由や性格など,大統領令が定める事由によって,施設ではなく家族 による介護が不可避になった場合に支給される。
特例介護費は受給者が介護機関ではなく,老人療養施設などの機関あるいは施 設で,在宅介護給付または施設介護給付にあたる介護給付を受けた場合,その費 用の一部を大統領令の定めた基準によって支給するものである。介護給付の提供 が認められる機関および施設の範囲は保健福祉部令で定める。
療養病院介護費は,受給者が老人福祉法第34条第1項の規定による老人専門 病院あるいは医療法第3条の規定による療養病院に入院した場合,介護に要する 費用の一部を療養病院介護費として支給するものである。
現金給付が充実するのはよいが,制度の定着には不安がある。
眤 在宅福祉サービス(ホームヘルプ,デイサービス)を中心に 低所得者向けの
「老人ドルボミ(世話をする人を意味する純粋な韓国語)支援事業」が今後1年 間運営されるという。しかしこれは,モデル事業で生じている不平等への対策 と,在宅サービスの活性化を主な目的とするものであり,低所得者のためのきめ 細かな政策とはいえない。具体的な内容は以下のとおりである。
支援額:
月20万ウォン(国庫負担はソウル特別市50%,地方70〜80%)。これ に自己負担5万ウォンを加えた25万ウォンの限度内で,ホームヘルパーサービ ス,デイサービスを選択的に利用できる。自己負担金を追加し,限度額を超えて 持続的に利用することも可能。
適用除外:釜山(北欧),光州(南欧),水原,江陵,扶余,莞島,安東,北済州 などの老人スバル保険制度モデル事業地域でサービスを受けている1
〜3等級の高齢者。
施行期間:2007年4〜12月
既存事業との区分:原則的に低所得の高齢者を対象とし,サービス利 用料の一部を本人負担とする。基礎生活受給者及びその上位階層(ボ ーダーライン層)の高齢者に対しては,既存事業(宝くじ基金家事・
看病ヘルパー,自活勤労など)による無料サービスをまず提供する が,本人負担金を支払えばサービス対象に含む。
眞 1994年12月に全面的に改定され,新ゴールドプラン(新・高齢者保健福祉推進 10カ年戦略)として1999年度まで実施された。
眥 文ソンボ「老人スバル保険モデル事業の概要と課題」釜山大学校看護科学研究所 冬季学術大会(2006)。
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・冷水豊編著(2002)『老いと社会』有斐閣。
・愼燮重他(2005)『比較社会福祉論』裕豊出版社。
・埋橋孝文編著(2003)『比較のなかの福祉国家』ミネルヴァ書房。
・山田誠編著(2005)『介護保険と21世紀型地域福祉』ミネルヴァ書房。
・山本恵子(2002)『行財政からみた高齢者福祉』法律文化社。
The new trend of welfare system for the aged in South Korea : Focusing on the problem of public long-term care
Lee Young Joo
In South Korea, “Ultra high-speed aging”, which is globally unprecedented, has started. It is predicted that this rapid “low birthrate and longevity” gives rise to vari- ous social problems. Under these circumstances, the proposal to introduce social in- surance schemes for the elderly care is announced in February of 2005, and it is also having a discussion on nursing care for elderly people to enforce public nursing care insurance gradually from 2008.
Although it is not an easy work, it is important and informative to compare the South Korean policy with the long term nursing care in Japan.
In this paper, I explore the future direction of South Korean public nursing care insurance by doing a comparative study. Furthermore, I try to analyze the political measure towards the enforcement in the 2008 fiscal year, change of the economic situation, and a political element as well.
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