長崎大学教育学部紀要 一教育科学 一 第60号 1‑7 (2001年3月)
学社融合の基礎的研究
‑ 学社融合関係 を中心 として ‑ 猪 山 勝 利
St udyo nFus i o no fSc hoo la ndCo mmuni t y
Ka t s ut os hiI YAMA
1 .問題の所在
本稿の 目的は,いわゆ る 「学社融合」のあ り方 を地域教育論の視角 か ら考察 す るこ とに あ る。
筆者 は,現代離 島教育研究 と相即 して, 1990年 に 「現代地域教育の論理 と課題 (1)」
を提起 したが, この10年 間に教育システムの進展 を基底 として,地域教育はかな りの進 展 を してお り,地域教育は新 たな地平 を迎 えつつあ る と言 える。教育システムの進展 とは, 本稿で考察 す る学社融合 システムであ り,このシステムの形成 が地域教育 に新 たな実践的, 理論的課題 を提起 しつつあ るが,解決 を求め られてい る多 くの課題 も生起 させてい る。
本稿 は,地域教育の推進 を企図す る立場 か ら,学社融合の在 り方 について考察 をす るこ とにあ るが,まず基本問題性 をあげてみたい。
その 1は,学社融合の基本 スタン ス ともいえる学校 ・地域 (社会教育)関係の問題性 で あ る。両者 の融合相手 との基本 ス タンス として,相手方 を 「利用対象」 ととらえる問題性 であ り,学校教育の視点 か らの地域利用実践や地域活性化視点 か らの学校教育利用実践 の 展開であ る。 この実践視点は,学校教育や地域社会 の人間形成 の問題性 を部分的 に補完す るに とどま り,学校教育や地域社会 の人間形成 を豊 かに創造 してい くこ とに連関 しない と いえ る(2)。 したが って,両者 は,相手 と 「相互活用 す る協 同連 関」関係 を創 出 してい く こ とが改めて強調 され る必要 があ る。
上記の課題 を解決す るには,学社融合教育計画 を策定す るための学校 と地域社会 との協 同を推進 す る組織の形成 が必要 であ り,その制度形成 も現代的課題 とな ってい る。 この点 では,学校評議会の ような学校主導型の関係組織 ではな く,筆者等 が提言 した ような 「学 社融合推進委員会」 の ような新たな学社融合推進組織の組織化 が必要 であ ろ う(3)0
その2は,学社融合の教育実践 シンボル とも言 える 「総合的学習時間」の創設 によ り, 学社融合実践 が進展 しているが,学社融合実践 と基礎教育性 との連関性の問題であ る。 は なはだ しい場合は,両者の連関がな く展開 し,本来基礎教育性 を豊 かにす る学社融合実践 が逆 に基礎教育性 を弱体化す る実践 として批判 され る場合 さえ生 じている。 この批判の中 には,学社融合実践 の導入 によ り基礎教育時間の縮小が生 じた ことへの批判や基礎教育性 の現代的問題性 への無 自覚か らの批判 があ る。 しか し, よ り本質的な問題 としては,基礎
2 長崎大学教育学部紀要 一教育科学 一 第60号
教育性 と学社融合実践 との連関性 を形成 す る論理の未形成 が問題 を生 じさせてい ることも 少な くない。 この点 か らの,学社融合実践の取 り組 みが早急 に求め られてい る。
本稿 は,上記 した2点 に問題 を限定 して,学社融合推進 の基本問題 について論究 してい くこ ととしたい。
2 .学社融合 の構成 と関係性
(t)地域教育構造 の構成現在 の学社融合論 が教育 内関係 として論 じられ るこ とが多 いため,学社融合の構成 は学 校教育 ,家庭教育 ,社会教育な ど既存教育 内の教育組織 として とらえ られ るこ とが多 い。
とくに,教育政策 ・教育行政サ イ ドか ら学社融合 を推進 す る視点 か らは,学校教育 と社会 教育 に特化 して学社融合が課題 とされがちであ る。 しか し,その視点は こどもの基底教育 としての家庭教育 を欠落す る点 において,教育組織論 として も問題 を もつだけでな く,現 代的学社融合論 が課題 としてい る地域教育力論 の視角 として地域社会の教育性 が積極 的 に 位置づけ られていず,現代教育組織論 として も問題 であ る。
学社融合論 か ら家庭教育 が欠落 しているのは,大別 して以下の諸点が要 因 とな っている。
その 1は,現代の家庭教育の教育力が基底 としての家族機能の外部化 によ り弱体化 して い るこ とに もよ り,学校教育や社会教育 と主体的関係 を形成 す る教育組織 として措定 Lが たい こ とであ る。 しか し,その ような家庭教育 の現状 か ら即 断 して家庭教育 を教育融合関 係か ら対象外 とす る学社融合論 は,その こ とに よってます ます家庭教育 の弱体化 を促進 す るこ とにな り, こどもの生活参画力を も欠落 して,学校教育の 「教育基盤性」さえ喪失 す る と言 える。
その2は,家庭教育 を個別 に とらえるこ とか ら,その教育 力の弱 さを原田 として融合対 象外の教育組織 とす る点であ る。現代の家庭教育が個別 ,孤立化 してい るこ とは否めない が,子育 てサー クルの ような協 同化 が進展 していけば,家庭教育力の再生 は可能 であ り, 学社融合 は家庭教育 力の協 同的再生 を図 る とともに,その家庭教育力に よ り豊 かな内包性 を形成 しうる。
その3は,近代教育 の教育制度論 として家庭教育は 「私教育」組織 であ る と位置づけ ら れてい るため
,
「教育の 自由」原則 か ら公教育組織 サ イ ドか ら融 合 してい くこ とは認 め ら れない とす る論 であ る。公教育 が家庭教育 を統制 す るこ とは教育制度論 か ら認 め られない が,その こ とを もって家庭教育 を教育融合外 として把握 す る視点は現代教育システム論 と して正 当 と言 えるであろうか。筆者 は,学校教育 や社会教育 が家庭教育 に対 して統制外関 係の融合関係 を形成 す ることは可能 であ るし,その実現が現代の教育組織融合 を本格的 に 推進 してい くと考 える。ついで,教育融合 の構成 か ら欠落 してい るのは,「社会」の位置 づけであ る。教育界 が 学社融合 を教育組織 内の融合 として しか把握 しえないのは,以下の ような諸点が要因 とな
ってい る。
その 1は,教育は教育組織 内で完結 させ る とい う 「教育専門主義」の視点 か らきてい る。
この視 点 は,形成 と教育 を類別 し,形 成‑Non‑Formal‑Education,教 育‑Formal‑
Educationとす る教育組織論 を形成 す るこ とに よって教育の独 自性 を とらえるこ とには寄 与 したが,現代的 には再検討 を求め られてい る。すなわち,Non‑FormalEducationと
猪山 :学社融合の基礎的研究 3
Formal‑Educationの問のIn‑FormalEducationの位置づけの欠落であ る。一般 に,In‑
FormaEducationは 「組織化 されつつあ る教育」 ととらえ られ,近代教育組織論 では教育 専門外組織 と把握 されて きたが,現代教育論 においては,その積極的教育性 が評価 されつ つあ る(4)。 この視点 にたてば,教育 と社会の両領域 にまたが る不定形教育性 を積極的 に 位置づけ るこ とが学社融合論 に とって も重要 であ る と言 える。
その2は,社会教育 ‑社会 ととらえる視点か ら,社会 とりわけ地域社会独 自の教育 を軽 視 し,社会教育 に内包 させ る 「公教育主体主義」 であ る。近年 ,社会教育主導 の 「生涯学 習のまちづ くり」運動 な どの影響 もあ り, この視点 が強調 されがちであ るが,地域社会は 公教育か ら相対的 に独立 した地域社会独 自の教育性 を形成 してお り,学社融合は教育組織 内融合だけでな く,教育 と社会 との融合視点 を内在化 す るこ とが求め られている。
その3は, 日本 においては教育界 が教育外の関与 を基本的 に排 除 して きた こ とも一因 と な り,社会 サ イ ドも教育 についての参画意識や 自己組織化は低迷 であ る。 しか し,現代社 会 は知 の創造性 を基盤 にお く学 習社会化 の動 向を促進 してお り(5),社会 自 らの教育の 自 己組織化 とともに,他の教育組織 との連関が不可欠 とな ってい る。 この ような社会の教育 状況が生起 してい る現在 ,学社融合論 は社会 とりわけ地域社会の教育 との融合 を積極的 に 内在化 してい くこ とが求め られ る。
(2)学社融合の基本関係性
いわゆ る 「融合」 関係 を, どの ような関係 として捉 えるかについては,「融 合」概念の 把握 が重要であ る。
第一の タイプは,部分結合 ともいえる 「パーシ ャル ・コネ クシ ョンシ」関係 であ り,両 者 が部分必要性 か ら結合す るタイプであ り,片方 が相手 を利用 して部分結合 をはかる関係 であ る。 この タイプの学社関係は,学社 「連携」 と称 されて きた関係であ り,具体的事例 として,社会教育サ イ ドか ら学校施設 の開放 を求め るが,社会教育施設 を学校 に開放す る ことは些少であ り,学校サ イ ドか ら地域講師を要請 す るが,学校人材は地域 ・社会教育 に は提供 しない とい うような関係であ る。
第二 の タイプは,「ボー ダー レス」関係 であ り,両者 が統合 され る関係であ る。 この関 係は,両者の基本性格 を喪失す るか,片方 に統合 され る関係であ る。学社融合の場合,学 校主導 に地域 ・社会教育がサポー ト的役割 を担 わされて統合 され るか,かつての経験主義 教育の ように学校 が学校教育の性格 を喪失 して,教育が全体 として社会教育化 してい くこ とにな る。 この関係は,基礎 ・基本学 力の弱体化 をまね き,再 び学社分離論 を生起 させ る こ とは教育の歴史が証 明 している。
第三 の タイプは,「クロスボー ダー」関係であ り,両者 が基本性格 を保持 しなが ら,協 働関係 を形成 してい く関係であ る。施設 ,人材,教育活動 の相互活用,相互協働 を図 るが, 学校の基礎教育性 は保持 され,社会教育の社会実践性 も保持 され るのであ る。現代の学社 融合関係は, この タイプの融合関係 を形成 してい くこ とが基本 であろう。
さ らに,学社融合が発展 して教育制度の再編成 にお よび,いわゆ る 「生涯学習社会 シス テム」 が本格的 に制度化 されていけば,学社融合論 を超 えた 「教育協 同」 システムが形成 され る と思われ る。 しか し,その制度形成は,現代教育の課題 であ る学社融 合が進展 し, あ らたな教育制度次元への基盤形成 がなされ るこ とが前提 であ り,教育制度形成の未来展 望 を形成す るために も学社融合は重要 な現代的教育課題 であ る。
4 長 崎大学教育学部紀要 一教育科学 一 第60号
(3)学社融合の具体的関係性
現行の学社融合関係は,先行 した学社連携次元か らの影響 が強 く,教育活動面では学校 主導型 で推進 され るパ ターンが多 く,社会教育や地域社会はサポー ター関係 にな りがちで あ り,逆 に施設面では社会教育が学校施設利用 を一方的に推進す る とい うような関係性 に 止まることが多い。 しか し,相手利用型でな く,両者の相互発展を図るには,相互の主体 性 を基本 とする相互活用,相互協働 ,相互創造型の連関関係 を形成 してい くことが必要 で ある。
相互活用型 については,施設,人材,学習 ・活動 を相互 に活用することであ り,近年 は 学校が地域人材 を一方的に活用 した り,地域が学校施設 を一方的に活用す る段階か ら,人 材,施設 ,学習 ・活動 とも相互活用 が進みつつある。
ついで,相互協働型 とは,両者 が協 同 して共通課題 に取 り組む ことであ り,文化学習 ・ 活動,環境学習 ・活動 ,福祉学習 ・活動な どが協 同で取 り組 まれ始めてい る。その際,単 なる学習 に とどま らず, しだいに活動次元を取 り込みつつあ り,学社融合実践は地域 コミ
ュニティ活動 を拡充す る磯能を形成 しつつあ る。 その協 同学 習や活動 を展開す るために, 学校の余裕教室の改修 による 「協 同の学習 ・活動」スペースを設置する市町村 も増加 しつ つあ る。
さ らに,相互創造型 とは,両者協 同の学習や活動が各 々の活動や組織 ・機能を創造 して い く作用 を してい くことであ り,近年, この学社融合学習や活動 も生成 しつつある。長崎 県内において も,伝東文化の再生 を学社融合学習 ・活動 として協 同で取 り組む ことで,学 校の表現学習や活動 を飛躍的に発展 させ る とともに,地域の祭 り復活 にな った例や水環境 への協 同の取 り組みが学校の国語学習や理科学習 を発展 し,地域の新 しい景観創造 を生み 出 した例 な どがあ り,今後 この ような取 り組みの事例が多様 に蓄積 されていけば,学社融 合実践は現代教育を 「教育協 同システム」へ発展 させ る大 きな起因 となろ う。
(4)学社融合の協同推進組織
学社融合を一方の利用型でな く,相互活用型 として推進 してい くには,両者が主体 とし て協 同推進組織 を形成す るこ とが不可欠である。
その組織 として,学校主導型の学校評議会 を超 える新 たな組織の創設 が必要 であ り,
「学社融合推進委員会」な どの組織化 を図ることが現代的な課題である。
学社融合推進委員会は,学校 と地域 ・社会教育の双方が対等,平等に代表 を選 出 し,協 同運営 してい く組織であ り,協 同計画の策定 をす ることを基本課題 とする。 この点におい て,既存の多 くの青少年育成協議会の ように,主 として社会教育が事務局 を担当す る片肺 運営を学社融合推進委員会は超 えてい く形態で組織化す ることが基本 とな る。
その組織構成者 として,中等教育以上の生徒 も参画す ることは 日本において も早急な課 題 にな っている。 ここ10年来, ヨー ロ ッパにおいては中等教育段階以上の学校 において は,生徒の運営参画が可能な学校評議会が組織化 されているが, 日本では学校運営 どころ か,地域の活動 も成人主体 に運営 されることが大半である。後述す るように,学社融合が こどもの主体性 を育成 することを 目的に している以上, 日本 において もこどもの運営参画 を積極的 に推進す る時代を迎 えている ととらえる必要がある。
猪 山 :学社融合の基礎的研究 5
3. こどもの主体性 と学社融合の基本構造
(1) こどもの主休性近年 ,教育界 において こどもの主体性 が強調 され始めてい る。学的検討 は除 いて,その 大 きな起 因は こどもの権利条約の締結 であ り,その条約 を基底 とした1996年 の第 15期 中 央教育審議会答 申 とその答 申を受 けて教育課程改善 を答 申 した教育課程審議会答 申であ ろ う。 それ らの答 申は, こどもの 「生 きる力」 を 「自分 で課題 を見つけ, 自ら学 び , 自ら考 え,主体的 に判 断 し,行動 し, よ りよ く問題 を解決 す る能 力」 と 「自らを律 しつつ,他人 と協調 し,他 人 を思いや る心 や感動 す る心 な ど豊 かな人間性 とた くま し く生 きるための健 康 や体 力」 と規定 した。 それ らの答 申が起 因 とな り,「こどもの主体性 」概 念 が教 育実践 の主導概 念 として ,教 育 界 を席 巻 しつつ あ る。 その状 況 は,佐藤 学 も指摘 す る よ うに,
「主体性 『神話』」現象(6)さえ生起 させてお り,多義的 ,万能的 に流用 されてい る。
したが って,問題 は こ どもの主体性 を どの ような視点 と論理 で把握 す るかが問 われ る必 要 があ る。 以下 ,近年 の主 な論理 について,その視点 と内包論理 について論究 してい くこ
ととしたい。
第一 の潮流 は,「自己責任」論 を基本視点 とした理論 であ る。 この理論 は,近年 の教育 政策論 に強 い影響 を与 えつつあ るが, こどもの主体性 を前提 に した うえで,その結果責任 を こ ど もに負わせ る論 理 であ る(7)。 その典型 的 な論理 は,教育機 会 の 自己選択 を前提 に して,その結 果 につい主体責任 を負わせ る論理 であ る。 この論理 は,佐藤学 も指摘 す るよ うに,個性的発達 を促進 し,主体性 の あ る学習 を推進 す る とい うよ りも,独学 と学 習者 間 の競争主義 を生起 させ る論理 で あ る(8)。 さ らに, この論 理 にいわゆ る市場論 的視 点 が加 重 すれば,結果責任 だけでな く,教育機 会 への参加 も自己負担責任 とされ,競争 主義 さえ 超 えて一部 の主体者 を主導 とす る不平等主義 に陥 る。学社融合は,被統制的 な没主体性 を 超 え,個性 的主体性 を基本 とす るが,協 同的 な主体形 成 をめざす ものであ り,いわゆ る 自 己責任論 的視点 では多数 の こどもの非主体者 を生起 させ る こ ととな る0
第二 の潮流 は, こ どもを権利主体者 ととらえる主体者論 であ る。 こどもの権利 条約 が柿 結 されて以来 , こ どもをアプ リオ リに非主体者 ととらえ るこ ども観 は減少 し, こ どもを権 利主体者 ととらえる こども主体論 が生起 してい るが,その権利性 を どの ような視点で把握 す るかに よって,種 々の論理 が提起 されてい る。 ここでは,学社融 合の視角 か らこども主 体論 を検討 す るこ ととしたい。
その 1ほ,権利享受主体論 とも言 うべ き論理 であ る。 この論理 は,第一 の潮流 を逆転 し た論理 ともいえる論理 であ るが, こどもの主体的意志 を全面的 に肯定 し,権利享受性 を強 調 す る論理 であ る。 この論理 は, こどもが 「生 きる」生存構造 を学習 ・教育領域 に限定せ ず,遊 びや文化領域 に拡充 す る点 において,新 たな こども主体論 を形成 した といえる。 し か し,その論理の基調 が権利享受 にあ るため,こ どもの活動領域 が限定 され るだけでな く, こどもも社会的主体者 として とらえ る視角 が弱体 であ る。 その論理 が こどもを社会的 には 非主体者 ととらえるの は, こどもを被保護者 ととらえる前時代 の子 ども観 を継 東 してい る か らであ ろ う。 この論理 が,学社融合論 において捷起 され る場 合,学習や文化活動 の享受 が強調 され,社会的 な課題 であ る福祉 や環境課題 への対応 は トーンを低下 させ る こ ととな り,限定 的主体論 にな りがちであ る。近年 , この論理 を発展 させ文化的社 会参加性 へ拡充
6 長崎大学教育学部紀要 一教育科学 ‑ 第60号
する論者 もでているが,やは り権利享受領域 に止 まっている。
その2は,学習主体論 とも言 うべ きこども主体論 である。 この論理は, こどもの学習を
「文化的実践 への参加(9)」ととらえる論理 であ り, こどもの学習観 を変革 して,学習を
「学び」 と主体的に把握する論理 を提起 している。 この論理 は, こどもの学習を非主体的 な行為 ととらえるのではな く,積極的な 「文化的実践」 とする点において, こども観の根 底 を変革する論理 を提起 している。 つま り, こどもは大人社会の被保護者でな く,学習領 域ではあるが実践主体 ととらえる論理 を提起 しているのである。 しか し, この論者たちの こどもを対象 とするフ レームが学校 内を主たる対象 として設定 しているため,教科学習を 主体 とした学習主体論の領域 をでず,学外の生活参画や社会参画については消極的である。
この論理は,こどもの主体性 を リアルに とらえる点で優れた現代的視点を形成 しているが, こどもの社会的主体性 を学習主体 として限定す る論理 であ り, こどもの主体性論 としては さらなる拡充が必要であろう。
その3は,社会主体論 とも言 うべ きこども主体論である。筆者は, この視点に立つ論理 を形成す る立場 にあ るが, この論理 は こどもも生活や社会的役割 を担 う主体者 ととらえ る(10)。 この論理 は, こどもを成人 と同等の社会的主体者 ととらえるのではな く, こども の固有性である基礎学習発達性 を前提 とした上で, こどもも生活,社会の主体的構成者 と して とらえる。 したがって, こどもを全面的な社会主体者 ととらえる 「経験教育主義」 と は異な り, こどもを (学習 ・社会主体) ととらえ, こどもの 「生 きる」生存構造 を (学習
・遊 一文化 ・生活 ‑生産 ・社会参画)構造 ととらえる。 これ らの構造 内の構成は,学習を 基底 として どの領域 も主体性 を もって参画す るのであ り,学習外の構成活動が学習の主体 性 と内在的連関性 を もって展開 される。 とくに,現代の少年期 を この ような主体者 として 位置づけることが,早急 に求め られている。 この主体論 に立てば,学社融合実践 は単なる 学習で もな く,単なる経験で もない,新たな学習 ・社会実践の総合的実働 といえる。
(2)学社融合の基本内容構造 a.学社融合 と学校の教育課程
2002年度の教育課程 か ら 「総合的学習の時間」が新設 されるため,学社融合実践 は その時間に展開 される実践である ととらえる論者がいる。筆者 も総合的学習 を学社融合実 践の典型 とすることに賛意 を表す るが,学社融合実践 はその時間に限定すべ きではない と 考 える。
学社融合実践 は社会実践であ り,総合的時間がその実践 に当て られる とす る論 は総合的 時間の学習を嬢小化するだけでな く,教科学習,道徳教育,特別活動 と学社融合 を遊離 さ せ る論であ り,教科,道徳,特別活動の社会的実践性 を軽視す る論理である。したがって, 学社融合実践はすべての教育課程 に対応す る実践であ り,学習 と社会実践の結合 した教育 実践であ り,その一部 は地域 コミュニティ創造の社会実践 を内包 している ととらえる。
以上の ように学社融合実践 を把握すれば,学社融合を典型的に主導す る総合的時間の性 格は,学習を総合する主体学習 と社会実践の総合である といえる。 したがって,その学習 時間の運営は,学校 と地域社会教育や地域社会の住民が協 同的に参画 して運営す ることが 多 くなるであろう。 さ らに,各教科 との構造的連関や道徳,特別活動 との連関 も総合的学 習の課題であ り,学校 カ リキ ュラム構成の再編成が求め られている。
先述 した ように,学社融合実践は単独の教科 とも連関するものであ り,すべての教科 が
猪 山 :学社融 合の基礎的研究 7
学社融合実践 と連関 している し,道徳や特別活動 も学社融 合実践 として展開 しうる。 とく に,特別活動 については,児童 ・生徒活動や学校行事だけでな く,学級活動 を学社融合実 践 として展開す る活動分野 を創設 す るこ とが これか らの特別活動論 として重要 な課題 であ
る。
b.学社融合 と社会教育実践
学社融合実践 は地域社会教育の在 り方 を も改革す る ものであ る。
その lは,学校教育への協 同参画 に よる支援性の創設 であ る。社会教育施設 の学校への 開放 や人材の学校教育への支援 とともに, こどもの教育活動 への支援 であ る。
その2は,社会教育活動 への学校 か らの支援性 であ る。学校施設の社会教育への開放や 教 師や生徒の社会教育への人材支援 とともに,社会教育活動への学校の参画 に よる支援 が あ る。
その3は,学校 と社会教育 との協 同学習や協働活動の創造 であ り,世代 を超 えた諸種の 社会課題学習 を協 同で展開 した り,合同文化祭や合同体育祭の共催 も課題 であ る。
C.学社融合 と地域社会実践
先述 した ように,地域社会教育 と地域社会は連関 してい るが別の教育組織 であ り,学社 融合実践 と地域社会 との関係は社会教育 との関係 とは別 に設定すべ きであ る。
その 1は,地域社会 も学校教育への支援 を行 う。施設 開放や人材派遣 による学校教育へ の支援 とともに,地域社会 で展開す る学 習や活動の支援 であ る。
その2は,地域社会の学 習や活動への学校の支援性 であ る。学校 の施設 を地域社会の住 民 に開放 した り,学校 が地域講座の開設 な どに よ り住民の学習支援 を行 うとともに, こど もや教師が地域社会の学習や活動 に よって地域社会への提言な どに よ り地域社会の活性化 支援 を行 う。
その3は,学校 と地域社会 が協 同 して学習や活動 を創造 す るこ とであ り,協 同で展開 し た地域学習の成果 を協 同の地域 シンポ ジ ュウムな どで発表 した り,地域環境や地域福祉な
どの創造 を協 同で展開す る。
(荏)
(1)猪 山勝利 「現代地域教育の論理 と課題」『現代離 島教育の構造 と展開一長崎県上五島地 区を中心 として‑』
長崎大学教育学部 平成2年 (2)猪 山勝利 同上書 15貢
(3)長崎県生涯学習審議会 『生涯学習社会 におけ る学社融 合の在 り方』長崎県教育委員会 平成12年 (4)鈴木敏正 『ェンパ ワー メソ トの教育学』北樹 出版 1999年 41頁
(5)L.Rohlin "STRATEGICLEADERSHIPINTHELEARNNING SOSIETY" ABinSweden 1994 (6)佐藤 学 『授業 を変 える,学校 が変 わ る』小学館 2000年 19頁
(7)桜井哲夫 『く自己責任) とは何 か』講談社現代新書1403 1998年 (8)佐藤 学 前掲書 23頁
(9)佐藤学 ,佐伯耽他 『学びへの誘 い』東京大学 出版会 1995年 佐伯眺
『
「学 ぶ」 とい うこ との意味』岩波書店 1995年(10)猪 山勝利 「こどもの生活体験学 習の現代的構成 に関す る研究」 日本生活体験学習学会学会誌 No,1 2000年