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早稲田大学大学院法学研究科

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早稲田大学大学院法学研究科

2015 年 2 月

博士学位申請論文審査報告書

論文題目: 移行期における政府規制と競争政策の関係について の検討―日中両国における電力産業の規制を中心として―

申請者氏名: 李 慧敏

主査 早稲田大学教授 土田 和博

早稲田大学教授 岡田 外司博

早稲田大学教授 須網 隆夫

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李慧敏氏博士学位申請論文審査報告書

早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程に在籍する李慧敏氏は、早稲田大学学位規則 第7条第1項に基づき、2014年8月8日、その論文「移行期における政府規制と競争政策 の関係についての検討―日中両国における電力産業の規制を中心として―」を提出し、博士

(法学)(早稲田大学)の学位を申請した。後記の委員は、上記研究科の委嘱を受け、本論 文を審査してきたが、2015年2月4日、審査を終了したので、ここにその結果を報告する。

1 本論文の構成と内容

(1)本論文の構成

本論文は、電力産業に対する政府規制の根拠を再検討することから出発して、日中両国 の電力産業の規制緩和・規制改革の歴史的経緯と現状を把握した上、独占禁止法と事業法の 適用関係に関する諸学説を踏まえて、日本の電力産業における両法の相互補完関係につい て検討し、そこから翻って中国電力産業への法適用のあり方、より具体的には反壟断法の 適用可能性を強調するものである。

このような内容の本論文は、「序章」、「第1章 電力産業に対する政府規制の法理と規制 改革」、「第2章 中国電力産業における政府規制の状況及び市場化改革の試み」、「第3章 中国電力産業における競争法の適用及び政府規制との衝突」、「第4章 日本電力産業の規 制状況及び自由化改革についての考察」、「第5章 日本の電力産業における競争法の適用 状況についての考察」、「第6章 電力産業における政府規制と競争政策の相互補完及び中 国の電力産業に対する示唆」、「終章」から構成される。

(2)本論文の内容

第1章では、電力産業の一般的特徴と電力産業に対する政府規制の理論的根拠を確認す ることから始めている。すなわち、いずれの国においても、電力は社会の生産活動と人々 の日常生活にとって不可欠な財であり、ほぼすべての商品・サービスのコストの一部とし て避けられない中間投入財であること、電力産業に対する政府規制の根拠として、電気の 貯蔵不可能性、自然独占性、ユニバーサル・サービス確保の必要性、大規模投資に伴う高リ スクの存在、国家安全および環境・保安上の要請といった市場の失敗が挙げられてきたこと が指摘される。そのため、多くの国においては、これらの経済的、非経済的根拠に基づい て、電力産業に政府規制が行われてこと、その法制度的表現として電気事業法等、料金規 制、参入規制を伴ういわゆる事業法が成立し、その反面として競争政策・競争法が排除され てきたことを指摘している。

その後、電力産業における技術革新の進展、規制産業に関する経済理論の精緻化・再検討 などに伴って、伝統的な電力事業の政府規制の根拠が見直されていく。特に経済理論につ いてみれば、経済学における自然独占理論は、従来、電力産業全体が自然独占(natural

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monopoly)であって競争に馴染まない産業であると認識していたが、自然独占性が存在す るのは送電、配電部門だけであって、発電部門や小売分野については自然独占性はなく、

競争導入が可能であるとの認識が一般化していくこと、また政府規制あるいは独占的経営 には「効率的経営や企業者精神の発揮」の阻害、「競争制限的体質の助長、既得権益の擁護、

透明性の欠如、消費者利益の侵害」などの欠点がみられるようになることが指摘される。

後述する「政府規制と競争政策・競争法」との関係については、規制緩和・規制改革に 伴って、①両者の究極目的が一致することの肯定、②「競争の代替物としての政府規制」

という認識、③競争政策の観点から政府規制の存在意義と規制手段の妥当性を検討する必 要性が認識されたことが重要であるとする。これと並行するように、学界では、政府規制 と競争政策を対立物として考察するのではなく、電力事業における競争政策の可能性を認 識しながら、両者の相互関係を重視するようになったという。電力産業における政府規制 の側からみれば、それは競争政策に親和性を示し始め、政府の過剰規制の見直しの契機と なり、競争政策との対立から接近の関係になってきたということができるとするのである。

すなわち本論文は、「規制緩和」の時期と「規制改革」の時期を区分しており、後者にお いては、電力産業における競争の可能性と重要性に対する認識が一層深まるとともに、政 府規制は、より積極的に競争促進的な方向へ進むようになってくるという。競争政策との 親和性ないし類似性が一層際立ってくるのである。より具体的には、規制緩和期において は積極的に合理性の乏しい規制の緩和・撤廃が行われたが、規制改革期には事後規制という 手法を運用して、事業法に競争促進型のルールを新設してきたという。

要するに、本論文によれば、電力分野の政府規制(電気事業政策、電気事業法)と競争 政策・競争法の関係は、一般に「競争政策との棲み分け」から「競争政策への接近」を経 て「競争促進規制の新設」という変遷を辿ることが明らかとなるという。しかし、その結 果、電力産業に対する規制においては、政府規制(事業法)と競争政策(競争法)の二重 規制の可能性が問題になり、同一の行為に対して、両法の適用関係をどのように考えるべ きか、両法の執行機関の相互関係をいかに調整して、それぞれのメリットを発揮できるよ うにすべきかかが重要な課題となっているとしている。

第2章では、中国電気事業の発展と政府規制の現状、市場化改革の試みが以下のように 述べられる。中国における電気事業の出発点は、1882年に設置された上海電光公司である が、本論文との関係で重要な中華人民共和国成立以降の電気事業の歴史をみると、第 1 期

(1949ー1978年)では、建国直後の中国において国内資本家や外国資本によって経営され ていた電力企業は軍事管制委員会によって統制され、1952年頃までに徐々に燃料工業部に 移管されたが、同部は、1950年に電力管理総局を設けて、全国に火力発電所、送変電設備 を建設して発送配電と小売の全てを直接運営することとなった(ほかに水力発電工程局も 設立された)。その後、燃料工業部は電力工業部、石炭工業部、石油工業部に分離された。

これらの政府機関は電力産業を管理監督する行政機能を持つだけでなく、他方では電力施

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設を経営する企業機能をも有する「政企合一」体制を構成する。このような体制のもとで、

中国の電力生産は徐々に回復し、発電された電力は主として工業生産に向けられた。しか し、電気事業への民間企業の参入は禁止されていたこともあって、電力需要が急増する1950 年代半ばには重大な停電事故が相次ぐ。また「政企合一」体制は、電力企業の低効率性、

技術革新のインセンティブが乏しいことといった欠陥を晒し、投資不足、電力不足等の問 題を生むこととなった。

その結果、中国共産党第11回三中全会以降、「改革開放」がさけばれる中、第2期(1978 ー1985年)において、電力体制の改革が始まることになる。すなわち、中央政府、地方政 府等による発電投資が奨励され、一定程度「行政性公司」が誕生した。同時に参入規制権 限が一部、地方政府に「下放」された。1985年には「発電投資を奨励し、多様な電気料金 を実施することに関する暫定規定」により、多様な電気料金を許容することになる。第 3 期(1987ー2002年)においては、中央政府レベルで、電力工業部の権能のうち、規制権能 を国家経済貿易委員会に、管理権能を中国電力企業連合に、経営権能を国家電力公司(国 有企業)に分離することにより、尐なくとも形式的に「政企分離」が達成された(1998年)。

第4期(2002年以降)においては、国務院「電力体制改革方案」(5号文件、2002年)が 自由かつ開放的な電力市場の育成を宣言するとともに、国家電力公司を 5 つの国有発電公 司と 2 つの送電公司(これらは地方に複数の区域別の子会社をもつ)に分割した。また発 電事業者から一部の大口需要家が直接購入することを可能とし、送配電公司の託送義務も 定められた。さらに従来の規制機関の独立性、透明性の欠如という問題に対処するため、

独立した電力管理・監督機関として国務院に直属する電力監管委員会を設立した。同委員会 は、電力公司を直接監督するもので、電気事業の許可、料金の規制を行い、電力監督管理 に係る法律、法規の制定、電力発展計画への参与等、広範な権限を与えられていたが、2013 年に廃止され、これらの権限は国家発展改革委員会・能源局に吸収された。

しかし、以上のような改革にもかかわらず、2002年以降の電力改革は、①発送電分離に ついて2大電網公司が相当規模の発電施設を保有する点、5大発電公司と2大電網公司の間 には資本関係があるため、完全に両者が分離されたわけではない点で不十分であったこと、

また②形式的とはいえ発送電分離が行われた結果、送配電網への投資インセンティブが低 下し、送配電能力が低下しつつあることにおいて問題を抱えるものである。

以上の改革の結果、2011 年時点では、中央および地方の国有企業が発電部門において

71.41%のシェアを占めて、寡占的支配力を有している。また配電部門では全国で 39 の配

電事業者が存在するが、最大のものは国家電網公司と南方電網公司であり、これらを中心 に「三縦三横一環」の基幹送電網を完成させようとしている。さらに配電事業には3171の 事業者が全国に存在するが、電力法25条は「1つの電力供給区域には1つの電力供給営業 機構のみを設置することができる」としているため、需要家は特定の配電事業者からしか 購入することができないのが現状である。

他方、電気事業の規制機関についてみると、国家発展改革委員会・能源局が中心的規制

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機関であり、電力法(1995年制定、1996年施行)を所管する。施行細則、電力市場運営基 本規則をはじめとする規則、弁法と証する通達が抽象的な電力法を補う。

参入規制については、「電力市場運営基本規則」5 条により、発送配電企業は、許可証を 得た後、区域電力市場に参入することを申請することができるとされている。発電、送電、

配電の区別および総設備容量により規制機関が中央か地方か区別されている。小売分野の 参入は制限されている。料金規制については、卸電気料金に競争入札制度を導入すること を目指すとともに(その結果、政府決定料金と市場競争料金の両者が存在することになる)、

規制料金(認可料金)である送配電料金と小売料金とを連動するようにした。電気料金の 改革は難題であるとされ、需給関係と料金体系との乖離が生じ、各分野の料金間でアンバ ランスが生じ、料金規制を混乱させている。

以上のような移行期にみられる特徴は、政府規制と市場メカニズムの併存、移行期にお ける政府規制への依存などと総括できるとする。

第 3 章では、まず電気事業に関する規定を、反不正当競争法、反壟断法、価格法につい て概観している。その上で、反壟断法制定過程において自然独占の適用除外規定が2001年 法案以降削除された経緯、「国有経済が支配的地位を占め、かつ国民経済の根幹及び国家の 安全にかかわる業種並びに法に基づき独占経営及び独占販売を行う業種」に対する保護と 規制が共に規定されている反壟断法7条の解釈(適用除外規定と解されるか)を検討して、

筆者は、電気事業について反壟断法が適用除外となる法的根拠が存在しないこと、自然独 占と考えられる範囲が縮減されてきていることから、送配電事業を含めて電気事業に反壟 断法を積極的に適用することができ、またすべきことを主張している。

次に、本章は、小規模発電事業者による供給量削減、卸電気料金の引上げ、大規模国有 企業集団(発電事業者、送配電事業者)による発電部門、送配電部門、小売分野における 競争制限的行為(単独行為、共同行為)など、電気事業分野において考えられる反競争的 行為を挙げ、最も深刻な影響を及ぼす可能性があるものは、市場支配的地位にある既存電 気事業者により行われる行為であると述べている。すなわち、発電部門において、既存の 大規模発電事業者が、競争者である他の発電事業者を排除または支配するため、送配電部 門の事業者に対して自己とのみ取引するよう制限する行為が、送配電部門においては、正 当な理由がないのに、特定の発電事業者との取引を拒絶し、または特定の発電事業者に対 して不当に不利な若しくは有利な取引条件を設定する行為が、小売分野においては、ある 程度自由化された卸電力を低価格で調達した上、独占的小売事業者が認可料金である小売 価格を高く設定して販売する等の濫用行為がそれぞれ例であるとしている。さらに反壟断 法は、いわゆる行政独占をも規制することができる旨の規定を有しているが、電気事業に ついても、人為的に省際間に取引の障壁を設ける地域独占(地域封鎖、地方保護主義、水 平的独占)と政企分離が不十分な場合に規制機関が保有・監督する独占的事業者の競争者 の参入を排除する部門独占(業種独占、部門独占、垂直的独占)とが理論的に考えられる

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6 としている。

さらに本章では、電力産業で実際に起こった競争法上の問題を含むと考えられる事件・

事例を以下のように具体的に検討している。

(1)中国電網買収事件(2010年) 中国電網がその子会社を通じて、河南省の電力装備 製造企業集団を買収した事例(垂直的企業結合)である。これについては、国家発展改革 委員会、工業和信息化部のほか、中国機械工業連合会が反対したにもかかわらず、国務院・

国有資産監督管理委員会が 2 つの行政批複を公表して容認した。そのため商務部は反壟断 法に基づく審査を行わなかった。

(2)陜西楡林事件(2012年) 高圧配電線を持たない地方政府の傘下にある送配電事業 者が競争関係にある中央政府傘下の送配電事業者に依存することを避けるため、内モンゴ ル地区に送電線を建設しようとしたところ、両者の間で暴力的な衝突が起こったというも のである。本件の背景には、前者のみがコストの嵩むユニバーサル・サービスを提供し、後 者は提供していなかったという事情があり、物理的暴力によってではなく、後者が託送供 給を行う義務を負うとすることにより、法的紛争解決が図られるべきであるとする。

(3)山東省魏橋集団事件(2012年) 大規模な民間企業集団(紡績、アルミ精錬事業者 ら)である魏橋企業集団は、国有企業である国家電網の電力の品質(供給の安定性等)に 満足できず、自家発電設備を設置するとともに、当初、不足する電力については、国家電 網からバックアップ供給を受けてきた。その後、自家発電能力を高めた魏橋集団は、他の 商工業需要家に電力を供給するようになったところ、国家電網はバックアップ供給を拒絶 し、さらに送電線の設置場所をめぐって暴力的な衝突が起こった。筆者は、本件の国家電 網の行為(バックアップ供給の拒絶)が、電力法26条(供給義務)に違反し、同時に反壟 断法17条(市場支配的地位の濫用の禁止)にも違反するという。また魏橋集団が小売供給 を行ったことについては、中国国内に賛否両論が存在するとしている(尐なくとも形式的 には電力法は1供給地域に1事業者しか認めず、魏橋集団が許可なしに小売供給したこと は許されないとする議論と、実質的に電力改革の趣旨・目的に反せず、許容されるとする 議論)。筆者自身は、この議論よりも、国家電網の行為を事業法、競争法によってどのよう に捉えることができるかに重心を置いて記述している。

(4)二灘水力発電所事件(2000年) これは中国政府が莫大な投資によって二灘水力発 電所を建設し、低料金で電力供給が可能となったにもかかわらず、発送配電を垂直的に統 合していた四川省の「政企合一」事業体によって電力を購入されなかったというものであ る。なぜなら、四川省内の電力事業者の経営状況が四川省地方政府の政治的評価、税収に 直結するから、これらに否定的な影響を与える省外で発電された電力を購入するインセン ティブはなかったのである。

第4章では、日本の電気事業分野における政府規制の歴史と自由化の進展を概観した上、

自由化後の電力産業への参入の状況を分析している。

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まず、日本電力産業の歴史的変遷を、戦前の民間主導期(1883‐1938 年)、戦時下の国 家統制期(1939‐1950年)、戦後の9(ないし10)大電力体制の定着期(1951年以降)と いう三期に分けて、電力市場参入の状況と政府規制の方式を考察している。その結果、日 本の電力産業は、戦時下において電気事業者の大部分が国営化された時期を除いて、民間 主導、地域独占、垂直一体経営という特徴がみられ、民間主導の下に市場拡張のために激 しい競争を経験してきたということが明らかになったとしている。そこから、中国の電力 事業と比較すると、民間主導の経営の下で競争を経験した時期が比較的長期にわたって存 在することが日本の電力産業の最も顕著な特徴だとするのである。

次に、日本の電力産業における自由化の契機、3回の自由化の内容、今後実施される予定 の自由化措置(広域系統運用機関の設立、小売分野の参入全面自由化、法的分離方式での 発送電分離)、および発送電分離、地域独占の撤廃、全面的自由化をめぐって行われた論議 を検討している。

発送電分離をめぐっては、構造分離による競争の促進、自然エネルギー発電の促進、発 電と送配電部門の事業コストの明確化、託送料金の透明性・公平性の確保などを理由とす る賛成論がある一方、発送電分離による設備投資インセンティブの減退、垂直統合による 経済性の喪失、発電と送配電部門間の調整が困難となるため産業部門の安定性に影響を及 ぼす可能性などを理由とする慎重論もある。

また地域分割の撤廃をめぐっては、発電部門における規模の経済性の実現、地域を跨ぐ 電力融通の促進、再生可能エネルギーの出力不安定性の解消などの賛成論がある一方、電 力供給者の供給責任の減退、系統運用の困難性などを理由とする慎重論もある。さらに小 売全面自由化をめぐっては、一般家庭の電力選択の自由の拡大、供給独占が解消されるこ とによる電気料金低下の期待などの賛成論がある一方、市場支配的事業者の存在による実 際の改革効果への疑問、火力電源の新増設・建替え、地域間連携線の強化等のコスト増大 による電気料金引上げの可能性、最終的に供給を保障するための対応措置の必要性などを 根拠とする慎重論もある。

最後に本章は、電気事業法の規制内容を概観した上、自由化された小売分野への参入の 状況(供給区域外の一般電気事業者および新電力の参入状況)について検討している。そ こにみられる顕著な傾向は、区域外の一般電気事業者の参入がほとんどみられず、参入し た新電力の市場シェアが低調だということである。後者の原因について、筆者は次のよう に分析している。電源構成などが原因で新電力の電気料金と供給の安定性の両面で競争力 が弱いこと、発電事業者は一般電気事業者との長期契約によって新電力より一般電気事業 者への供給を優先するため新電力に供給される電力量が尐ないこと、託送料金の面で新電 力が一般電気事業者と公平に競争することが困難なことである。このような現状を打破す るためには、電力産業に垂直一貫の市場支配的事業者が存在する以上、事業法の競争促進 的規制により、送配電線網を開放する義務を課すだけでは、全ての市場参加者が公平かつ 平等に競争することは達成できないとし、特に小売分野の全面自由化、発送電分離の実施、

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市場支配的事業者の競争制限的行為に対する独禁法の厳正な適用が必要であると指摘して いる。

第5章では、日本の電力産業に対する独禁法の適用可能性を検討している。第 1 に、旧 21条という適用除外規定の存在は領域特定型の事業規制法の役割が重視されていたことを 意味するが、それにもかかわらず、適用除外規定が存在したからといって安易に独禁法の 適用が回避されたわけではなく、自然独占産業における競争制限的行為に対して、適用除 外規定の立法趣旨に基づいて判断する必要があり、旧21条を厳格的に解釈する原則が確立 されていたという。

第2に、2000年の独禁法改正により旧21条は削除されたが、事業規制法による規制が 存在する場合、独禁法の適用がなお除外されるかという問題がある。これについては、① 適用除外は市場経済の基本ルールである独禁法に対する例外であるから、適用除外に対し て慎重であるべきこと、②適用除外となる場合においても、その判断基準と考慮要素が明 確に開示され、総合的に論証されるべきであること、③独禁法が明示的に適用除外を規定 していない場合は、競争の余地があると解されるべきことが明らかとなったとする。

第 3 に、中国の電力事業には国有企業が数多く存在していることを考慮して、日本にお ける関連判例の整理を通じて、公的主体の事業者性についての判断基準を検討している。

判例によれば、国や地方公共団体などの公的主体についても、商品・サービスの供給を行い、

反対給付を受ける関係が反覆継続していれば、事業者性が肯定されるという立場をとって いる(都営芝浦と畜場事件最高裁判決)。したがって、その活動が独立採算を前提にしてい るかどうか、それを行う者の組織形態がどのようなものか、独占性が認められた特殊会社 であるか等によって事業者性を否定することができないという見解は、公取委の実務上も、

学説においても、広く受け入れられているとしている。

第 4 に、独禁法の正当化事由とこれに関する諸学説を考察して、政府規制の存在自体が 独禁法の正当化事由となるわけではなく、行為の目的が事業規制法の目的に沿うもので、

手段も事業法の認める範囲に留まる場合には、事業規制法の目的実現のために必要かつ相 当な範囲内の行為であるならば、正当化事由が成立しうるとしている。

最後に、近年、日本の電気事業にみられた事例として、①東京電力独禁法違反被疑事件

(2012年6月22日、優越的地位の濫用)、②中部電力株式会社による独禁法違反被疑事件

(2001 年11月16日、部分供給による参入の妨害)、③九州電力株式会社による独禁法違 反被疑事件(2002年3月26日、常時バックアップによる参入の妨害)、④北海道電力私的 独占警告事件(2002年6月28日、長期契約による参入の排除)、⑤オール電化警告事件(2005 年4月21日、取引条件等の差別的取扱い)を検討している。これらの事例は、警告または 注意が行われたにとどまって、独禁法上の違法行為が認定された事件ではないが、これら の行為に対する分析を通して、独禁法と電気事業法それぞれの規制内容とそれらが果たし た役割を明確にすることができると述べている。さらに電力産業における競争制限的行為

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を独禁法の視点から評価する際に、電力産業における専門的な事情を考慮しなければなら ないので、公取委は規制機関と意見交換を行っているが、判断の透明性・独立性を保障す るため、両者の意見と判断基準に関する情報の開示が望ましいことを指摘している。

第6章では、まず日本における独禁法と事業法の相互関係をめぐる学説を考察した上、

電力産業における両法の相互補完を主張している。すなわち、事業法優先説、独禁法優先 説を斥けた上で、次のような理由から両法の相互補完を主張する。第1に両法には目的の 相違、違法要件の相違、正当化事由に関する判断基準の相違があり、いずれかの優先適用 は困難であること、第2にいずれか一方のみによる規制では不十分であること、第3に両 法の執行機関の規制実態からみて両者の棲み分けは事実上困難であることを挙げる。実質 的に重要と思われる第2の理由をより詳しくみると、専ら事業法で規制する場合、電気事 業法自体は送配電線網を開放する義務を設定し、開放の程度と託送に関する一般的規定を 置くほか、託送拒絶行為や差別的取扱い行為に対する規制に関する規定などをも置くもの の、規制機関の裁量余地が大きく、十分な規制が可能かどうかという疑問がある。他方、

専ら競争法で規制する場合、電力産業における競争制限行為に対して事後的禁止だけ足り るか、電力産業の特性を踏まえた専門的規制がタイムリーに可能か疑問があるとしている。

次に筆者は、事業法と独禁法の相互補完の具体的なあり方を検討するために、電力産業 における競争制限的行為に対する両法の規制内容を比較している。すなわち、電気事業法 上の不当な差別的料金と独禁法上の差別的対価、電気事業法上の送配電線の利用拒絶(託 送拒絶)と独禁法上の私的独占または単独の取引拒絶、電気事業法上の不当な差別的取扱 いと独禁法上の取引条件などの差別的取扱い、電気事業法上の最終保障約款の義務付けと 独禁法上の取引拒絶、優越的地位の濫用のそれぞれの関係について、両法の規制の観点、

違法性の判断基準、正当化事由を比較検討している。その結果、電気事業法の規制は他の 事業者に不利益を与えることを要件とするものが多いのに対し、独禁法は、それだけでは なく他の事業者の事業活動への影響を通じて、当該市場における競争に一定の影響を及ぼ すことが要件となっているとしている。

以上のような本章の検討(日本の独禁法と事業法の関係に関する考察)を踏まえて、筆 者は、中国への提言として以下のように指摘している。中国の電力分野においては、国有 企業に対する規制が不十分であること、電力市場改革において政府規制が依然として主導 的な役割を果たしていること、電力産業に対する競争法適用が行われていないこと、総じ て「政府規制優先主義」が採られていることを指摘している。より具体的には、①電力産 業政策が存在していない(事業法との抵触がない)にもかかわらず、競争制限的行為が存 在していても、競争法の執行が行われなかったケース(山東省魏橋集団事件における国家 電網公司の取引拒絶行為)、②電力法上は適法とされる競争制限的行為に対して、それだけ を理由として反壟断法違反でないとしたと考えられる事例(山東省魏橋集団事件において 国家電網公司が民間企業の参入を拒んだ行為)、③他の産業政策が存在するため、当該産業

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政策に従った企業結合に対して審査さえ行われなかったケース(中国電網買収事件(2010 年2月))を挙げて、競争法が補助的な地位に置かれている現状を分析している。

その上で、筆者は、中国電力産業における政府規制と競争政策の相互補完関係を構築す るため、以下のような提言をしている。第 1 に、電力産業における政府規制自体を見直す 必要があることである。とりわけ参入規制を緩和して、小売分野や発電部門への新規参入 を促進することが重要であり、中国電力法25条を改正して、小売市場への新規参入を認め るとともに、安定供給、継続供給の保障等を確保することが必要であるとする。第 2 に、

中国電力産業に対して独禁法の一般的適用可能性を肯定する必要があること、電力産業に おいて競争制限的行為が行われた場合には、反壟断法執行機関が積極的に対応する必要が あることである。同法に定められる「社会公共利益」や「正当な理由」など正当化事由に 関する解釈も明確にする必要があること。第 3 に、反壟断法と電力法の適用関係、両法の 執行機関の関係を整序するため、日本の公取委・経産省の共同指針にならって、両法の規 制機関による共同のガイドラインを策定するとともに、電力分野の産業政策に競争評価制 度の導入が求められるとする。

終章では、第 1章から第6章までの内容を要約した上、以下のような提言を改めて行っ ている。第 1 に、中国の発送電分離は、従来、垂直的に一体化していた国家電力公司を 5 つの市場支配的な発電事業者と 2 つの地域独占的な電網(送配電)事業者に形式的に分割 しただけであり、小売分野の新規参入が禁止されていることもあって、垂直的構造分離が 競争促進的な成果を生み出していないという。したがって、本論文の強調する第1の点は、

小売分野への新規参入を促すことを含めた電力構造改革である。第 2 に、国有企業の存在 意義を再検討し、その低効率性や投資インセンティブの不足、独占的地位を濫用して民間 企業の利益を奪うことは、公共の利益を保護すべき国有企業の本来の存在意義に反するも のであると指摘している。第3に、中国の電力事業の改革は、行政規章、部門規章、規則、

行政指導等によって行われており、法律によるものではない。そのため、中国の電力事業 は 3 度の改革を経ているにもかかわらず、多くは「政策上の宣言」にとどまっており、改 革の実はあがっていない(電力法は、1996年の施行以来、全く改正されていない)という。

ここから筆者は、法律改正を伴う電力分野の実質的な改革を求めるのである。第 4 に、電 力分野において独禁法を積極的に適用すべきであり、またその萌芽が中国電網買収事件に おける反壟断法適用を求める動きや2013年の第18期中央委員会第三回全体会議(三中全 会)における「市場の決定的役割」の指摘、電力や電信等の分野における参入規制と料金 規制の緩和の強調などにみてとることができると述べている。

2 本論文の評価 2 本論文の評価

以上のように、本論文は、中国の電力改革を歴史的に俯瞰し、現状を的確に分析し、問

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題状況に対する対処方法を明確に示すものであり、その際、日本の電力改革や独占禁止法 と電気事業法の適用関係に関する学説が参照されていることに特徴を有するものである。

まず、日本では殆ど知られていない中国の電力改革の詳細を1978年の改革開放の時期に まで遡って詳細に検討したことは特筆に値する。すなわち、政府機関が行政機能と企業経 営機能を併せもつ「政企合一」体制のもとで深刻な電力不足が発生したことなどを契機と して始まった改革の第1期(1978年から 1985年)には、発電所・発電施設への投資が奨 励され、第2期(1987年から 2002 年)には中央政府レベルで、電気事業の規制権能を国 家経済貿易委員会に、管理権能を中国電力企業連合に、経営権能を国家電力公司(国有企 業)に分離することにより「政企分離」が達成され、第3期(2002年以降)では国務院「電 力体制改革方案」(いわゆる5号文件)により5つの国有発電公司と2つの送電公司に国家 電力公司が分割されたことが指摘されている。

また、このような政策レベルでの改革にもかかわらず、中国の電気事業と法の現状は、

実質的には改革の名に値しないという指摘も的を射たものである。すなわち、発電、送電、

配電、小売のいずれの段階・分野においても中央または地方の国有企業が支配的であり、か つ「電力体制改革方案」により発電と送電は形式的には分離されたが、これらを行う国有 企業は資本的に関連性を有することから実質的な分離とはいえないこと、5号文件は電力改 革の方向と目標を示す「政策宣言」にとどまり、需要者の選択を拡大する上で重要な小売 業への参入は、電力法25条が依然として「1つの電力供給区域には1つの電力供給営業機 構のみを設置することができる」としているため実現していないことを指摘している。こ うした指摘は、日本の電力改革を比較の座標軸としたため可能となったものであり、ここ に日本の電気事業の自由化とその現状に対する的確な把握をも看てとることができる。

さらに、このような中国電気事業の現状に対する筆者の対応策は、電力改革の政策に沿 った電力法の改正もさることながら、反壟断法(独占禁止法)を積極的に適用することで あり、この点に独禁法と事業法の適用関係に関する日本の学説を踏まえた本論文最大の眼 目があるということができる。すなわち、筆者は相互補完説によりつつ、第 1 にその意義 を次のように述べる。事業法は規制産業の特性に基いて詳細な規制が可能であり、改革の 進展に応じて柔軟な対応措置を実施することができるが、しばしば規制産業の虜となるた め、市場全体の公平公正な競争秩序維持の観点から規制することが困難であるのに対して、

独占禁止法は、市場経済の基本法であって事業者の事業活動を一般的に規律する基本ルー ルを提供するが、産業の特性に応じた詳細かつ木目細やかな対応をすることは難しい。い ずれか一方のみの規制では電力産業を十分に規律することは困難であるから、両法の相互 補完によってのみ有効かつ迅速な規制が期待できるとする。第 2 に、このような意味で両 法の相互補完を強調しつつ、筆者は、①電気事業に対する産業政策が存在しない(事業法 との抵触がない)場合であるにもかかわらず、反壟断法上の市場支配的地位濫用の要件を 満たすと考えられる競争制限的行為が存在していても、反壟断法の適用が行われなかった 事例、②電力法上は適法とされる競争制限的行為に対して、それだけを理由として反壟断

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法違反でないとしたと考えられる事例、③電気事業分野の産業政策が存在するため、当該 産業政策に従った企業結合に対して商務部の審査さえ行われなかったケースを挙げて、こ れらは相互補完説の立場から問題があるとし、反壟断法の積極的な適用を提言している。

電力法の限界を冷静かつ客観的に認識し、反壟断法に電力改革推進の潜在的可能性をみる 筆者の観点は、中国においては相当に独創的であり、創意に富んだものであると評価する ことができる。

本論文の構成や变述方法についても、序章、第1 章で序言と理論を扱い、第 2章、第 3 章で中国の電気事業に係る政策と法を、第4章、第5 章で日本の電気事業の政策と法をそ れぞれ論じた上、第 6 章、終章において中国への示唆を取りまとめるという手堅く明快な 構成によって組み立てられている。また電力産業の構造や「政企分離」、発送電分離の結果 生まれた事業者とその相互関係などがオリジナルの図表によって明瞭に示されており、複 雑な電気事業に係る法と政策を理解させるための工夫が随所に盛り込まれている点にも好 感が持てる。このような論文の明快な構造と視覚的な工夫が論文の説得力を高めていると もいえることを附言しておきたい。

もっとも本論文にも問題が全くないわけではない。第1に、電気事業分野の自由化や電 気事業者への競争法の適用をやや単純に唱えていないかという疑問がないではない。電気 事業に競争を導入することは、世界的にみると、その後に電気料金の値上げが行われた場 合も尐なくないし、競争法適用も適用除外規定がないとしても、電気事業に固有の正当化 事由の有無を考慮するなど、慎重な検討を要すると考えられる。前者については、自由化 後の電気料金の値上げが発送電分離等の構造改革によるものか、それとも発電のための原 料の高騰などを原因とするものかを含めて、電力改革の是非をより慎重に検討する必要が あったのではないか。後者(正当化事由の判断)についてもバックアップ電力の供給拒絶 については検討されているものの、例えば託送拒絶が技術的障害発生の回避、電力の安定 供給等を理由とするものであるかどうかをはじめとして、全般的かつ掘り下げた検討は将 来の課題として残されているように思われる。そのような検討を経た後に同じ結論に至っ たのであれば、結論の説得力がさらに増したであろう。

第2に、国家発展改革委員会は、電力法に基づいて電気事業の経済的規制を担うと同時 に、価格に関する競争制限的行為については反壟断法の執行権限も有する。このように中 国においては、事業法と独禁法の所管が同一の行政庁にあることから、尐なくとも価格に 関する競争制限的行為については、実効的な反壟断法の執行を現実に期待することができ るのかという根本問題もある。

しかし、これらは本論文全体の価値を損なうものではない。第1に指摘した問題点につ いては、電気料金の問題を超えた政府規制の弊害が指摘される中国の現状を考えれば、や むを得ない面があろうし、また電気事業における正当化事由は電気工学的知見を踏まえて 検討せざるを得ないものも含む難問であり、学界においても必ずしも十分に論じられてい るわけではない。また第2の点については、非価格行為には他の競争当局の法執行が可能

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であるし、国家発展改革委員会も、電気通信分野の国有企業については反壟断法に基づく 調査を開始したことがあるという事実を視野に収めるべきであろう(2011 年の中国電信お よび中国聯通のマージンスクイーズ事件)。本件は国有企業の改善措置を当局が受け入れて 調査を打ち切ったものであるが、電気通信分野を所管していた国家発展改革委員会の同分 野の国有企業に対する反壟断法適用の兆しを示すものということができ、そうであれば、

電気事業分野の国有企業に反壟断法を適用すべきとする筆者の提言も決して非現実的なも のということはできないであろう。

3 結論

以上の審査の結果、後記の委員は、本論文の提出者が課程による博士(法学)(早稲田大 学)の学位を受けるに値するものと認める。

2015年2月4日

主査 早稲田大学 教授(経済法) 土田 和博 早稲田大学 教授(経済法) 岡田 外司博 早稲田大学 教授(EU法) 須網 隆夫

参照

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