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早稲田大学大学院法学研究科

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Academic year: 2021

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早稲田大学大学院法学研究科

2016年2月

博士学位申請論文審査報告書

論文題目 「株式買取請求権の理論と実践」

申請者氏名 沈 啓光

主査 早稲田大学教授 黒沼悦郎

早稲田大学教授 福島洋尚

早稲田大学教授 博士(法学) (早稲田大学) 若林泰伸

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沈啓光氏博士学位申請論文審査報告書

早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程学生沈啓光氏は、早稲田大学学位規則第7条 第1項に基づき、2015年10月13日、その論文「株式買取請求権の理論と実践」を 早稲田大学大学院法学研究科長に提出し、博士(法学)(早稲田大学)の学位を申請した。後 記の委員は、上記研究科の委嘱を受け、この論文を審査してきたが、2016年2月5日、

審査を終了したので、ここにその結果を報告する。

1 本論文の構成と内容

本論文は、合併等、会社の組織再編行為に反対する株主に会社関係から離脱する権利を 認める株式買取請求権について、制度の存在意義、公正な価格の基準日の機能といった理 論面、および買取価格の算定方法、市場価格の利用方法といった実務面の双方から、総合 的に検討した論文である。本論文は、「第1章 序論」、「第2章 アメリカの判例の検討」、

「第3章 日本の判例の検討」、「第4章 株式買取請求権の存在意義の理論的検討」、「第 5章 結論と今後の課題」からなる。

第1章では、検討の前提として、日本の株式買取請求制度の立法経緯、本論文の問題意 識の設定、中国の株式買取請求制度の概説および日本法との比較・分析を行なっている。

第2章は、アメリカのデラウェア州判例における、株式買取請求権が行使された場合の 買取価格の算定方法を検討している。論文は、まず、買取請求をした株主が得るべき買取 価格を算定することは株式の本源的価値を算定することにほかならないこと、したがって、

上場会社について株式の市場価格が利用可能であるにも拘らず、裁判所は、金融上の評価 方法として一般に認められている、いわゆる DCF 法(株式所有から生ずる将来のキャッ シュ・フローを予測計算し、これをリスク・プレミアムで割り引いて現在価値を算出する 方法)を用いて株式の価値の評価を行っていることを明らかにしている。論文では、デラ ウェア州判例の歴史的変遷を辿ったのち、裁判所が DCF 法を用いる場合のキャッシュ・

フローの算出や割引率の決定という具体的な運用を詳細に紹介している。その結果、キャ ッシュ・フローの算出においてターミナル・バリューが占める割合には限度があること、

資本資産評価モデルを割引率の算出モデルとすることが多いこと、合併前の通常の事業運 営において会社経営陣が作成した業績予想は、裁判所による審査において原則として信頼 できる情報源と評価されていることを明らかにした。また、裁判所が実際の合併対価の額 を買取価格の考慮要素とするか否かについては、合併対価が市場のテストや公正な手続を 経たものであるかどうか、合併対価の公正さについて他の証拠があるかどうかを基準とし て、ケース・バイ・ケースで判断していることが判明したとする。

第3章は、株式買取請求事件と全部取得条項付種類株式の取得価格決定申立事件に関す る日本の判例を紹介・分析するとともに、買取請求権についての重要な解釈問題を検討し

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ている。組織再編行為に関するわが国の株式買取請求制度は、反対株主が会社に対して公 正な価格で株式を買い取るよう請求する権利を付与している。そこで、いつの時点の公正 な価格を買取価格とすべきかという「基準日」の問題が生じる。また、わが国の判例は、

組織再編行為により企業価値が毀損する場合には組織再編がなかった場合の価格が、組織 再編行為によりシナジー(相乗効果)が生じている場合はシナジーを公正に分配した価格 が、それぞれ公正な価格であるとしているので、企業価値の毀損をどう判定するのか、シ ナジーをどう分配するのかが問題となっている。

本論文では、まず「基準日」の問題について検討を加え、組織再編行為が企業価値を毀 損する場合には、株主総会における組織再編行為の承認決議日を基準日としたうえで、反 対株主に組織再編行為の公表日後の株価の市場変動分を負担させないために、組織再編行 為の公表日前の市場株価を算定資料とすべきであるとする。また、シナジーの分配が不公 正な場合には、承認決議日を基準日としつつ基準日の市場株価に適切と認められるシナジ ーを加算することで公正な価格を算定すべきだと結論づけている。この見解は、承認決議 日を基準日とするものであるが、承認決議日説に対しては反対株主の投機的行動を懸念す る反対論があるところ、本論文は、組織再編対価の形式および企業価値毀損かシナジー分 配不公正かという事案類型ごとに精緻な分析を加え、反対株主の投機的行動の懸念は大き くないとする。

つぎに本論文は、組織再編行為により企業価値が毀損するか否かは、いわゆるイベント・

スタディにより判断することができるが、イベント・スタディの適用は組織再編対価の公 表時よりも組織再編計画の公表時のほうが適していると分析する。また、市場価格による 判定方法と裁判所による審査との関係については、最高裁判例の態度を分析したうえで、

独立当事者間の組織再編行為について手続が公正であると証明された場合には市場株価に よる検証は不要であるが、非独立当事者間の組織再編行為については、手続、市場株価に よる検証、および対価そのものの検討が必要だと主張する。

第3にシナジーを始めとする企業価値増加分の公正な分配方法について、本論文は、全 部取得条項付種類株式の裁判例・学説を分析し、経営判断原則、レブロン基準、完全な公 正の基準を比較検討することを通じて、いわゆる MBO(経営者による買収)の場合に妥 当する審査基準を導いている。すなわち、対象会社において特別委員会が組織された場合 には、裁判所は特別委員会による組織再編対価に対する審査が十分であったか否かを審査 し、十分であったと判断する場合には当該組織再編対価をそのまま公正な価格として採用 してよいとする。さらに論文では、わが国の事例を詳細に検討し、特別委員会が第三者算 定機関による株式評価を主体的に判断していない事例が見受けられるなどの指摘を行って いる。

第4章は、株式買取請求権の存在意義を理論的に検討している。まず、論文は、資本多 数決の経済的意義の分析から始め、支配株主への利益移転の可能性が存在しない場合には、

企業価値最大化のために資本多数決が貫徹されるべきであり、株式買取請求権を認めるべ きではないが、支配株主への利益移転の可能性が存在する場合には、資本多数決が貫徹で きないので株式買取請求権が認められるべきであるとする。

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また、株式買取請求権は非効率な組織再編行為を阻止するスクリーニング機能を果たす といわれているところ、本論文は、効率性の検討を通じて、そのようなスクリーニング機 能が発揮されるのは株式所有が集中し支配株主が存在する場合に限られると分析し、制度 の存在意義に関する上記の結論を補強している。

第5章は、本論文の内容を要約して示すとともに、買取価格について会社の純資産価値 を重視する中国法に対し、DCF法の採用を提案している。さらに、今後の課題として、シ ナジーの分配についてのより精緻な研究、および組織再編に関する会社法の規律全体のな かでの株式買取請求権の位置づけの研究が必要であることを挙げている。

2 本論文の評価

本論文は、組織再編行為にかかる会社法上の株式買取請求権について、アメリカ法との 比較を踏まえ、ファイナンスや法と経済学の議論を参照し、それらを用いつつ、日本で問 題となっている重要な解釈問題について筆者の見解を示すとともに、より根本的に株式買 取請求権の存在意義と機能を分析した、総合的な研究である。

近年、わが国では、組織再編やMBOに関する株式買取請求事例が増加しており、裁判 例が数多く出され、学説の議論もさかんになっている。学説のなかには、アメリカ法との 比較を踏まえ、理論分析および実証分析を行う本格的な研究も出てきているが、当該研究 はわが国で判例が集積される前になされたものである。また、わが国では最高裁が買取価 格となる「公正な価格」について一応の解釈を示したが、実務上および理論上、未解決の 問題が多く残されている。このようななか、沈氏の本論文は、最新の判例・実務を調査し たうえで、株式買取請求権のさまざまな問題について網羅的に研究したスケールの大きな 論文であり、このような本格的な論文が公表されることは日本の会社法学にとって意義の 高いことであると認められる。

本論文の特筆すべき特徴として、以下の3点を挙げることができる。

第1に、アメリカの裁判例における株式評価の手法を詳細に紹介し、分析を加えている 点である。アメリカのデラウェア州会社法では、買取価格に合併等のシナジーを反映させ ない枠組みが採用されており、従来、その裁判例はわが国にとってあまり参考にならない と考えられていた。しかし、組織再編がなかった場合の株式価値を基準として買取価格を 算定する場合には、デラウェア州会社法に学ぶべきことも多い。沈氏は、自らファイナン ス理論を学んだうえで、デラウェア州の裁判所が最新のファイナンス理論に基づく株式評 価を行っていることを明らかにしており、本論文の指摘は、株式の市場価格をきわめて重 視するわが国の実務に反省を迫るものとなっている。

第2に、本論文が、基準日、企業価値毀損の判定方法、MBO取引に対する裁判所の審

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査方法という、わが国で議論の対象となっている最先端の問題に果敢に挑戦し、筆者の見 解を説得的に展開している点である。これらの問題は、いずれも伝統的な法解釈学では対 処できない難問である。たとえば、基準日については、法の経済分析を用いた藤田友敬教 授の著名な論文が発表されているが、沈氏は、藤田教授と同様の方法論を用いつつ、事案 を類型ごとに分ける精緻な分析を行い、藤田教授とは異なる結論を導いている。企業価値 毀損の判定方法について、わが国の裁判所は、公正な価格を算定する場面とは異なり、市 場株価を重視していないところ、本論文は、市場株価を用いたイベント・スタディが有用 であること、および利用の際の注意点を明らかにしている。MBO 取引に対する裁判所の 審査方法については、法律学に伝統的な事例分析およびアメリカ法との比較の手法を用い、

現実的で実務にも受け入れやすい具体的な提案を行っている。これらのことから、沈氏は、

法の経済分析という新しい分析手法、ファイナンスなどの隣接科学に習熟し、しかも伝統 的な法学の研究手法も十分に身に着けており、問題の性質に応じてそれらを適切に使い分 ける能力も高いことが分かる。

第3に、株式買取請求権の存在意義という、より根本的な問題に取り組み、大胆な結論 を導いている点である。ここでの分析手法は、制度の趣旨・目的の探求と効率性の追求を 組み合わせたものであり、沈氏の研究者としての独創性が表れている。また、その結論は、

一定の場合には株式買取請求権を認めるべきでないという大胆なものとなっているが、議 論が論理的に展開されているので、十分な説得力が付与されている。

このように本論文は、意義がきわめて高く、内容も優れたものであり、沈氏の研究能力 の高さを示すものとなっているが、なお不十分と思われる点がないではない。

第1に、本論文第3章第5節は企業価値増加分の分配の公正性を論じているが、そこで はMBOについて裁判所が企業価値増加分の分配の公正性をどのように審査すべきかが検 討されているにとどまり、組織再編やMBOにおいて企業価値増加分(シナジー)をどの ように分配すべきかという根本的な問題の検討が十分には行われていない。企業価値増加 分をどのように分配すべきかについては、わが国の判例・学説に議論の蓄積が乏しく、研 究の材料が不足しているうえ、沈氏が触れているように、シナジーについての経済学的な 精緻な研究が必要であるので、今後の研究に期待したい。

第2に、本論文は、買取価格についての示唆以外には、中国法への具体的な提言を行っ ていない。これは、中国の株式買取請求制度やこれに関する学説が未成熟な段階にあり、

中国において多くの論点が議論の対象になっていないためである。沈氏の研究は、中国で 将来起こり得る問題を先取りして検討しているのであり、中国法への具体的な提言を行っ ていないことは、本論文の価値をいささかでも損なうものではない。

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6 3 結論

以上の審査の結果、後記の審査員は、全員一致をもって、本論文の執筆者が博士(法学)

(早稲田大学)の学位を受けるに値するものと認める。

2016年 2月 5日

審査員

主査 早稲田大学教授 黒沼 悦郎(会社法、金融商品取引法)

副査 早稲田大学教授 福島 洋尚(会社法)

早稲田大学教授 若林 泰伸(会社法、金融商品取引法)

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【付記】

本審査員会は、本学位申請論文の審査にあたり、下表のとおり修正点があると認めたが、

いずれも誤字・脱字等軽微なものであり、博士学位の授与に関し何ら影響するものではな いことから、執筆者に対しその修正を指示し、今後公開される学位論文は、修正後の全文 で差支えないものとしたので付記する。

博士学位申請論文修正対照表

修正箇所

( 頁 ・ 行 等)

修正内容

修正前 修正後

2頁・14行 (決議がなかったとすれば有していた はずの価格)」と規定されていた

(決議がなかったとすれば有していた はずの価格)と規定されていた

2 頁・脚注

14

相澤哲『一問一答・新・会社法』 相澤哲編著『一問一答・新・会社法』

3頁・脚注3 坂本三郎編『一問一答 平成26年改正 会社法』

坂本三郎編著『一問一答 平成26年改 正会社法』

5頁・1行 または株式移転子会社の株式の場合 または株式移転完全子会社の株式の場 合

7頁・13行 1982年前のアメリカ州法 1982年より前のアメリカ州法

108 頁・脚

注100

この問題は、本章第5節を参照された い。

この問題は、本節第4款第2目および 本章第5節を参照されたい。

111頁・9頁 株主の合理的判断が妨げられる事由が あるどうか

株主の合理的判断が妨げられる事由が あるかどうか

195 頁・脚

注471

大きくないのではないかと思おもれる から

大きくないのではないかと思われるか ら

以 上

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