• 検索結果がありません。

【学位論文審査の要旨】

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "【学位論文審査の要旨】"

Copied!
9
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

【学位論文審査の要旨】

Ⅰ.論文要旨 1.問題関心

本研究は,韓国の公的扶助である国民基礎生活保障(以下,基礎保障)において,労働 能力のある受給者に対する条件付き給付に焦点をあて,公的扶助における能力活用のあり 方を問うものである。

1999 年に韓国では,従来の公的扶助である生活保護法が廃止され,新しい制度として基 礎保障が制定された(2000 年施行)。この基礎保障の導入は,労働能力の有無にかかわらず,

すべての国民の最低生活を権利として保障するようになったという点で,以前の生活保護 からの大きな前進であり,その意味において,韓国の公的扶助,そしてそれを含む社会保 障の大転換であるといえる。

その基礎保障の導入において,国民の最低生活を保障するにあたり,以下のように,独 特な仕組みを取り入れたことは注目すべきである。

まず,労働能力の有無にかかわらずすべての国民の最低生活を保障するとしながらも,

労働能力のある者とない者を区別し,労働能力のある者に対しては,その能力を活用する ことを条件として最低生活を保障している。「能力活用の条件付き」給付ともいうべきこの 仕組みは,その条件を守らない限り,貧困者であっても最低生活保障から排除されるとい う危険性をもつものである。

しかしながら次に,基礎保障においては,上記のように能力活用を条件としているがゆ えに,その能力を活用できる機会や場の提供といった就労支援プログラムを,国が義務と して実施しなければならないこととなっている。「就労支援付き」給付というべきこの仕組 みは,条件付けに同意した貧困者に対しては,単に現金を給付して当面の貧困を救済する ことだけでなく,多様な働く機会や場を国が提供し,貧困者が自立していくことを支える 可能性をもつものといえる。

一般的に公的扶助は,最後のセーフティネットとして,最低生活を営むことを国民の権 利とし,それを国家が責任として保障するものである。そのような制度として位置付きな がら,「能力活用の条件付き」給付のもつ最低生活保障からの排除の危険性と,「就労支援 付き」給付のもつ自立を支える可能性との両面性をもつ韓国の基礎保障は,公的扶助とし ていかに捉えられるべきであろうか。このような問題関心から本研究は出発している。

2.先行研究の批判的検討

韓国の基礎保障に関しては,これまでさまざまな分野から多様な研究が行われてきてい る。それらを見てみると,(1)救貧法的な性格の強かった従来の生活保護を廃止し,すべ ての国民の最低生活を権利として保障するようになった基礎保障の導入意義を強調するが,

「能力活用の条件付き」給付と「就労支援付き」給付という条件付き給付の仕組みが取り 入れられたことの意味や意義に関しては大きな関心を示さない研究,(2)条件付き給付の

(2)

うち,「能力活用の条件付き」給付の側面に焦点をあてるが,それのもつ危険性に注目する あまり,「就労支援付き」給付のもつ可能性についての認識が弱い研究,(3)「就労支援付 き」給付の側面に焦点をあてるが,「能力活用の条件付き」給付ありきで,それのもつ危険 性は認識せず,就労支援プログラムの意義やその仕組みおよび問題点や改善策の提示が中 心になっている研究である。つまり,「能力活用の条件付き」給付と「就労支援付き」給付 という 2 つの側面からなる条件付き給付の全体的な仕組みを捉える,あるいはその条件付 き給付の仕組みを備えた基礎保障の意味や意義をトータルで捉える研究はほとんど見当た らない。

以上のように,先行研究では,条件付き給付の意味や意義に大きな関心を持たない,あ るいはある側面のみを切り取ってみているがゆえに,基礎保障の条件付き給付の仕組みに 関して,その全体像を正確に捉えず,さまざまな見解や評価が共存しており,そこには相 反する認識さえもみられるのが現状である。

3.研究目的

以上をふまえて,本研究は,労働能力のある貧困者に対して,「能力活用の条件付き」給 付のもつ最低生活保障からの排除の危険性と「就労支援付き」給付のもつ自立を支える可 能性を併せ持つ基礎保障の条件付き給付の仕組み全体を体系的に捉え,その実践的および 政策論的な意義とともに限界と課題を明らかにすることを目的としている。

4.研究の視点・枠組み

以上の目的のもとで行われた本研究は,労働能力のある貧困者に対する公的扶助の在り ようを示すものといえる。

そもそも社会保障制度のなかで,最後のセーフティネットとしての役割を担う公的扶助 は,生活に困窮する者に対し,資力調査などにより貧困を認定した場合,国の財源によっ て現金および現物給付を行い生活困窮の状況に応じて最低生活を保障するものである。国 家責任によって国民の最低生活を保障する最後のセーフティネットだからこそ,公的扶助 に能力活用や就労支援といった労働インセンティブを重視する考え方が積極的に入り込み にくい。しかしながら,韓国の基礎保障は,最低生活を保障する制度として位置付きつつ も,能力活用をその最低生活保障のための条件としており,同時に,その能力活用のため の就労支援プログラムを 1 つの制度内に備えている。このような韓国の基礎保障にみられ る条件付き給付の仕組みを分析し,その意味と意義を明らかにしようとする本論文は,最 後のセーフティネットとしての公的扶助の研究はもちろん,それを含む社会保障制度の研 究においても意味のあるものである。

以上の視点から本研究では,大きく次の 3 つの側面に焦点を当てて分析を行っている。

第 1 に,「基礎保障の導入過程」分析である。そこでは,韓国における基礎制度の導入過程 をたどりつつ,「能力活用の条件付き」給付と「就労支援付き」給付からなる条件付き給付

(3)

がどのように取り入れられるようになったかを明らかにしている。第 2 に,「基礎保障の中 身」分析として,「能力活用の条件付き」給付と「就労支援付き」給付のそれぞれの側面の 具体的な中身がどのようになっているのかを検討している。それをふまえ,第 3 に,「基礎 保障の含意」分析として,その両側面からなる条件付き給付の仕組みの全体像を捉え,そ の仕組みをもった基礎保障の実践的および政策的意義,そして限界および課題を明らにし ている。

以上の分析を行うにあたり,基礎保障に関する次の資料を用いている。すなわち,国民 基礎生活保障法,国民基礎生活保障法施行令,国民基礎生活保障法施行規則および各種告 示,法・施行令・施行規則の改正・告示を反映される指針(各種事業案内)である。なお,

本論文では,2014 年 12 月 30 日改正(2015 年 7 月 1 日施行)の基礎保障法を基にし,分析 を行っている。

Ⅱ.論文の構成と概要 1.論文の構成

序章 問題の所在と研究目的

第1節 国民基礎生活保障における「条件付き給付」

第 2 節 先行研究の批判的検討 第 3 節 研究目的と全体の構成

第 1 章 国民基礎生活保障の概観と分析対象 第1節 国民基礎生活保障の制度概要 第 2 節 国民基礎生活保障の受給状況 第 3 節 本研究の分析対象

小括

第 2 章 国民基礎生活保障の歴史的理解 第 1 節 「先成長・後分配」期の貧困対策 第 2 節 IMF 危機と国民基礎生活保障の導入 第 3 節 「条件付き給付」の仕組み

小括

第 3 章 国民基礎生活保障法にみる「能力活用の条件付き」給付 第 1 節 国民基礎生活保障の法的性格

第 2 節 労働能力のある者に対する「能力活用の条件付き」給付 第 3 節「能力活用の条件付き」給付の意味

小括

第 4 章 国民基礎生活保障における「就労支援付き」給付の仕組み 第1節 条件付き受給者の決定

第 2 節 参加する自活事業の決定

(4)

第 3 節 就労支援プログラムとしての自活事業の内容 第 4 節「就労支援付き」給付の可能性

小括

終章 国民基礎生活保障の含意 第1節 本論文のまとめ

第 2 節 国民基礎生活保障の可能性と限界 第 3 節 本研究の意義と今後の研究課題 参考文献

資料

資料 1:国民基礎生活保障法,国民基礎生活保障法施行令,国民基礎生活保障法施行規則 の構成

資料 2:国民基礎生活保障法 導入・主要な改正の理由・内容

資料 3:国民基礎生活保障法(1999 年、2014 年改正、2018 年現在)訳 資料 4:基礎保障法の自活事業に関連する改正整理(導入後 2014 年まで)

資料 5:労働能力評価における「活動能力評価」の評価項目とその定義および評価基準 資料 6:事前段階における基礎条件の診断票 及び 就業準備度評価の指標

資料 7:参加する自活勤労事業の種類を決める際の自活力量評価の評価基準 資料 8:国民基礎生活保障制度の概要(法条文の整理)

2.論文の概要

【第1章 国民基礎生活保障の概観と分析対象】

第1章では,本論に入る前に,基礎制度の導入背景と導入,そしてその後の改革の動向 および制度内容を簡単に紹介しつつ,いくつかのデータにもとついてこれまでの制度運営 の経過と現状を整理している。そのうえで,制度全体における「能力活用の条件付き」給 付と「就労支援付き」給付の位置付けを明らかにしつつ,本論文の分析対象である条件付 き給付の側面を明示している。

【第 2 章 国民基礎生活保障の歴史的理解】

第 2 章では,本論に入って「基礎保障の導入過程」分析として,基礎保障の導入過程を たどり,そこに条件付き給付が導入される歴史的過程を検討している。それを通じて,条 件付き給付がなぜ取り入れられたかを明らかにし,その条件付き給付の全体的な仕組みを 捉えるための論点を導出している。

基礎保障導入の背景には,1997 年後半の IMF 危機によって発生した大量失業・貧困問題 に対して,従来の制度・政策が適切に対応できなかったことがある。特に労働能力のない 者のみを救済の対象とした従来の生活保護が問題となり,そこで,年齢や労働能力の有無 にかかわらずすべての国民を対象に,権利として最低生活保障をする普遍的な公的扶助の

(5)

導入が求められ,基礎保障の導入に至った。

ただし,そこには条件付き給付という仕組みが取り入れられた。条件付き給付という仕 組みの取り入れは,危機の真っ只中で,労働能力のある人々の失業や貧困問題に早急に対 応しなければならないなかで,財政負担や労働意欲の低下等についての懸念のため制度導 入の審議が進まなかった状況を突破するための 1 つの手段であった。その意味で,条件付 き給付は,労働能力をもつ者を含んだすべての国民の最低生活を保障する新しい公的扶助 を導入するための現実的な「妥協の産物」であったといえる。

このような妥協の産物として取り入れられた条件付き給付は,「能力活用の条件付き」給 付と「就労支援付き」給付という 2 つの側面からなり,それが労働能力のある者の最低生 活保障のあり方を規定する。そのような基礎保障の意義や意味,それによる最低生活保障 の成果と問題点また課題などを考えるさいには,その 2 つの側面からなる条件付き給付の 仕組みを明らかにし,それがいかに機能しているかを検討する必要があることを,第 2 章 の分析を通じて指摘している。

【第3章 国民基礎生活保障法にみる「能力活用の条件付き」給付】

第 3 章では,「基礎保障の中身」分析として,条件付き給付の 2 つの側面のうち,「能力 活用の条件付き」給付の側面に焦点をあて分析を行っている。

条件付き給付の「能力活用の条件付き」給付の側面は,国民の生存権の保障と深くかか わる問題である。そのため,生存権を規定している憲法や社会保障法における基礎保障法 の法的位置づけを確認したうえで,基礎保障法の法構造上に「能力活用の条件付け」がい かに組み入れられているのかを検討し,「能力活用の条件付き」給付の意味を明らかにする こととした。

基礎保障法は憲法で規定する生存権保障を具体化した法であると言われる。その点につ いては,すべての国民を対象とし普遍性を備えたこと,受給の権利性を認め条文上で「受 給権者」という用語を用いたこと,また「人間らしい生活」の水準を規定したことから説 明される。

そのように説明される基礎保障における「能力活用の条件付き」給付は,法上では,労 働能力のある受給権者に対する生計給付の支給の方法として,就労支援プログラムである 自活事業への参加を条件付けるとする第 9 条第 5 項に現れる。加えて,第 30 条第 2 項では,

条件を履行しない場合には,受給者本人分の生計給付の全部または一部を支給中止にする ことができるとする制裁に関する条文が置かれている。

そのような労働能力のある者に対する制裁をともなった「能力活用の条件付き」給付は,

上記のように,制度導入時に,労働意欲の低下やモラルハザードが懸念され,労働インセ ンティブ付与という観点から取り入れられたものである。しかし実際は,条件履行をしな かった場合に生計給付の支給を中止するという制裁を備えたことによって,条件を履行し なかった者が保障すべき最低生活水準以下の生活となることを不問にしている。それは,

(6)

「人間らしい生活」を保障しないことを容認するものであり,そのことが労働強制として も機能している。そこに「能力活用の条件付き」給付が生存権を保障していないという根 本的な問題があるといえる。

第 3 章の分析を通じて,憲法の生存権の具体化を重要な意義として導入した基礎保障で あるにもかかわらず,それに反して,条件付き給付の仕組みを取り入れたことにより,最 低生活保障から漏れる人を生み,そのことにより生存権を保障しないという矛盾を制度構 造のなかに持っていることを明らかにしている。それは,憲法の生存権の下に,すべての 国民の最低生活を権利として保障する基礎保障の致命的な欠陥であると言わざるを得ない。

【第 4 章 国民基礎生活保障における「就労支援付き」給付の仕組み】

第 4 章では,「基礎保障の中身」分析として,条件付き給付の 2 つの側面のうち,「就労 支援付き」給付の側面に焦点をあて分析を行っている。ここでは基礎保障における就労支 援プログラムであるといえる「自活事業」に焦点を置き,それがいかに展開されているの かについて,プログラムの実施過程,すなわち条件付き受給者の決定,その条件付き受給 者が参加する自活事業の決定,参加する自活事業の内容から明らかにしている。

自活事業は,雇用センター(日本のハローワークにあたる)および基礎保障法上に示さ れた地域自活センター(2018 年現在 249 か所)を中心にして実施されている。特に後者で は,すぐに労働市場で働くことが難しい受給者を対象とし,その受給者それぞれの意欲や 能力および状況に合わせて,相談支援と職業訓練・職業体験や働く場の創出を行っており,

その際に,働くことを阻害する状況をいかに改善するか,働く意欲と能力をいかに高める かということに焦点をおいて自活事業が実施されている。働く場に関しても,一般の労働 市場だけでなく,社会的に意味のある仕事を創出するなどしながら,労働強度や事業内容 にバリエーションをおき,多様な対応が行われている。加えて,希望すれば,労働インセ ンティブとなりうる資産形成支援も行われている。

第4章の分析では,以上の点から,基礎保障の条件付き給付における「就労支援付き」

給付は,受給者に対し,個別のニーズ把握をはじめとした一連の就労支援プログラムを提 供し,自立を支えていく可能性をもつ仕組みであるとしている。

【終章 基礎保障の含意】

終章では,「基礎保障の含意」分析として,以上での分析の内容を再整理し,それをふま え,基礎保障における条件付き給付の実践的および政策論的な意味や意義そして限界と課 題を検討している。具体的には,条件付き給付の全体的な仕組みの意義と限界および課題,

および「福祉と労働の連携」政策からみる韓国の基礎保障のもつ政策的含意という 2 点か ら検討し,併せて本研究の意義と今後の課題を述べ結びとした。

(1)条件付き給付の全体的な仕組みの意義と限界および課題

条件付き給付の意義としては,何より最低生活保障に能力活用を条件付けたことによっ

(7)

て,その能力活用のための就労支援プログラムの提供を実質的に国家が担うことになり,

就労支援プログラムが体系的に展開され,また能力活用の場が多様化したことである。こ の意味において,基礎保障における「就労支援付き」給付の側面のもつ可能性を評価する ことができる。

しかしながら,妥協の産物として取り入れた条件付き給付のもう1つの側面,つまり「能 力活用の条件付き」給付の側面によって,重大な限界がもたらされている。なぜなら,そ れは,能力活用に同意しない場合は,制度対象から排除する仕組みをとっているからであ る。それは,支給開始という入り口および支給実施段階において,最低生活保障から漏れ る者を生み,そのことが憲法に規定する生存権保障からの排除となっている。この状況は 違憲状態であるといえる。それは労働能力のある者の自立を支える可能性を持つ「就労支 援付き」給付からも排除することを意味し,その意義をも台無しにしてしまっている。

以上のことから,終章の分析では,最低生活保障への条件付けによって,いくら個別化 された就労支援や多様な働く場の創出・提供のシステムが構築され,自立を図ることを支 える道筋が作られても,基礎保障の最低生活保障からの排除を生み,それが憲法で規定さ れた国民の生存権を保障しないという状態を決して乗り越えることはできないと指摘して いる。加えて,この重大な限界を乗り越えるための課題として,憲法で規定した生存権と 基礎保障法の関係を捉えなおし,憲法の生存権規定に従い,基礎保障法における制裁をと もなう条件つき給付の条項を改正するしかないことを指摘している。

(2)「福祉と労働の連携」政策からみる韓国の基礎保障のもつ政策的含意

以上とともに終章では,これまで述べてきた韓国の基礎保障は,社会保障制度あるいは それを含む福祉国家の世界的な動向からすればいかに捉えられるのかについて,最近多く の国々で議論されている「福祉と労働の連携」という政策改革論の視点に着目し,検討を 行っている。

「福祉と労働の連携」のあり方は理念的に大きく分けると,「就労義務強化」型と「雇用 可能性向上」型がある。終章の検討の結果,韓国の基礎保障は,貧困者を単純に労働市場 に向かわせる「就労義務強化」を図ることではなく,それと同時に制度的手間をかけて「雇 用可能性向上」を図っているという特徴があることを明らかにした。それの背景は次のよ うに説明できる。

福祉国家化に乗り出したばかりで「福祉国家の黄金時代」を経験していない韓国におい てはそもそも,戦後の「福祉国家の黄金時代」のなかで社会保障制度の拡大を経験した西 欧先進諸国が,その縮小あるいは抑制の過程で試みた「就労義務強化」を図ることはでき なかった。そこで,「就労義務強化」の意図を含みながらも「雇用可能性向上」に重点を置 くことになったが,経済のグローバル化による労働市場の不安定化のなかで,その雇用の 場として一般の労働市場のみを想定することができず,それ以外のところで多様な働く場 を積極的に開拓し提供することを伴わなければならなかったといえる。それをしないかぎ り,韓国では「就労義務強化」も「雇用可能性向上」も試みることができなかったのであ

(8)

る。そこに,「福祉と連携の連携」の韓国特有の経験を見出すことができる。

終章では,基礎保障における韓国的特徴を浮き彫りにし,それが単に韓国の経験にとど まらず,日本や西欧先進諸国とも共有できる政策改革の普遍的な示唆点を提供しているこ とを指摘している。

Ⅲ.本論文の評価 1.本論文の意義

(1)韓国の基礎保障についての理解に対する偏りの是正

本論文は,基礎保障における条件つき給付を,「能力活用の条件付き」給付と「就労支援 付き」給付という 2 つの側面に分け,その両側面からなる基礎保障の全体像を示したこと に意義がある。

韓国の基礎保障は,労働能力のある貧困者に対してその最低生活を保障するにあたり,

単に現金を給付して当面の貧困を救うことだけでなく,多様な働く機会や場を提供しその 自立を支える仕組みになっている。しかし,制裁をともなう条件付き給付を取り入れたこ とによって,国民の権利として,国家の義務として最低生活を保障する基礎保障から漏れ る人々を生み出してしまうという致命的な欠陥を持っており,そのため,貧困を救う,あ るいは自立を支えるためのさまざまな政策的努力が行われても,現在の仕組みのままでは,

極めて不完全な生存権保障の仕組みであるというほかない。つまり,「就労支援付き」給付 の側面が,貧困者の自立を支えていく上で非常に重要な意義をもつものの,「能力活用の条 件付き」給付の側面が,その意義を制限しつつ,同時に,国民の最低生活を保障する基礎 保障に制度的および法的に致命的な欠陥をもたらしている。このような 2 つの側面からな る基礎保障の全体像を制度構造から指摘した研究はこれまでなく,そこに本研究の意義が ある。

(2)「福祉と労働の連携」政策という国際的な政策的潮流に韓国の基礎保障の位置づける ことへの貢献

基礎保障の導入と条件付き給付が取り入れられた背景と,制度の全体的な仕組みを分析 したことによって,韓国の基礎保障がおかれている政策的文脈を明らかにすることができ た点も,本論文の重要な意義である。特に「福祉と労働の連携」政策という近年の国際的 な動向に照らして,韓国の基礎保障において「就労義務強化」および「雇用可能性向上」

という理念が,いかなる側面でどのように現れているのかを明らかにし,そこにみられる 韓国的な特徴を指摘することができた。それは,基礎保障に止まらずそれを含む韓国の社 会保障制度さらに福祉国家の国際的な位置を検討するうえで重要な一歩であると位置付け ることができる。

2.本論文の課題

(1)基礎保障の受給実態に関する分析

(9)

本論文では,制度構造を軸として検討を行ったために,制度構造での考え方やそのあり 方の域を出ない。つまり,現場での運用の実態や条件付き受給者となった人々の声を取り 上げることまでには及んでいない。基礎保障の意義を検討する際,現場での運用や条件付 き受給者の声を取り上げることによって,自治体および受給者による基礎保障の評価を明 らかにすることができ,基礎保障の実際の姿をより深く示すことができると考えられる。

制度と現場の両側面から韓国の最低生活保障の実際を明らかにすることを今後の研究課題 としたい。

(2)国際比較分析

本論文では,韓国の基礎保障は,「福祉と労働の連携」という視点からいかなる特徴があ るのか考察を行ったが,その理論的な意味についての検討までは及んでいない。韓国の「福 祉と労働の連携」政策の持つ理論的意味を明らかにするためには国際比較分析が求められ る。特に,日本の生活保護との比較は,国際比較研究における東アジアの特徴やその理論 的意味とともに,具体的な政策的示唆点を見出すことができると思われる。この点につい ても今後の研究課題としたい。

3.総合評価

2 月 8 日の公聴会とともに最終審査を行った結果、本研究は、先にあげたいくつかの課題 が見られた。

しかし,筆者は、学部・大学院生時代を通して、韓国における貧困問題を中心とする政 策研究に関心を持ち研究を深めるとともに,社会保障・社会福祉政策等の社会政策を学ぼ うとする、学問に対する真摯な姿勢が高く評価される。とりわけ、韓国留学の経験からの 韓国社会に対する理解と語学力,また韓国の貧困者支援を含む現場への訪問の経験を背景 におき,当該論文において,先行研究について,韓国国内のものを広く読み込み,検討し ている点は高く評価できる。

本博士論文は、これまで、日本に断片的に紹介されていた韓国における公的扶助制度(基 礎生活保障制度)の全体像を制度成立の背景、制度の仕組み・内容・方法・体制について 仔細に検討し、基礎生活保障制度の特質について検証し、その顕著な特質の条件付給付の 課題について言及しており、社会保障制度における公的扶助制度の原理的問いかけとその 問題点を批判的に検証していることは、学術的に大きな意義があると考える。

著者は,これまで,学術論文 6 本(共著 1 本),著書(編著1本,共著1本),翻訳 1 本

(共訳書),国内学会発表 2 本を発表している。

以上により,審査会委員会は,本論文が博士論文として高い水準に達しており,合格と 判定した。

参照

関連したドキュメント

1.4.2 流れの条件を変えるもの

氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目

学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目

氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目

氏名 学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位授与の題目

このような情念の側面を取り扱わないことには それなりの理由がある。しかし、リードもまた

注意: 条件付き MRI 対応と記載されたすべての製品が、すべての国及び地域で条件付き MRI 対応 機器として承認されているわけではありません。 Confirm Rx ICM

据付確認 ※1 装置の据付位置を確認する。 実施計画のとおりである こと。. 性能 性能校正