氏 名・(本籍)
学位の種類 学位記番号 学位授与の日付 学位授与の要件 学位論文題目 論文審査委員
楊 雄 里 学 術 博 士
学博乙第 1 号 昭和57年2月19日 学位規則第7条第1項該当
(中国)
網膜外水平細胞における色覚情報処理機構の研究
(裏員霞)森田之大
教 授 吉村敬三 教 授 高崎 宏 教 授 鈴木久喜 教 授 水晶静夫
論文内 容の要 旨
本研究は網膜第2次ニュー−。ソであるL型外水平細胞の色光応答特性を解析し,L型外水平細胞 へ収赦する視細胞の種類を同定すると共に,外網状層における異なる種類の視細胞からの信号間の 干渉作用を明らかにする目的で行なわれた。
〔Ⅰ〕In vivo網膜から細胞内記録を行なう技術の開発
従来の魚類網膜の電気生理学的実験は,その殆んどが剥離網膜標本について行なわれて来たが,
種々の理由により,長時間,安定した活動を記録することは望めなかった。本研究では最も生理的 と考えられる実験条件,つまり眼球の血液循環を正常に保ったin vivoの網膜標本で細胞内記録が 拇来るような実験技術を開発し,それを用いて実験を行なった。この標本では視物質の再生が十分 に行なわれたので,順応状態を一定に保つことが可能であり,網膜の生理学的研究にとって最適な
ものであることが本研究結果から明らかになった。
〔Ⅰ〕L型外水平細胞の分光特性及びそれへ収赦する視細胞の同定
これまでL型外水平細胞は赤錐体からの入力のみを受けると考えられて釆たが,本研究において 著者は以下の結果に基づき,縁錐体からも入力を受けていることを証明した。即ち,(1)短波長刺激
(≦550nm)に対する応答と長波長刺激(≧604nm)に対する応答は異なる波形を示した。つま り,両者共,光刺激の開始時から約100ms以内にはよく似た比較的早い立ち上りを示したが,長 波長刺激に対する応答には100ms後に顕著な屈曲が見られた。この時点以降では応答が緩徐とな
った。その結果,両者の強度をどのように調節しても,応答の波形を一致させることは不可能であ った。(2)赤錐体を同程度に刺激するように調節してあたえた異なる波長(451,757nm)の単色光に対 するL型外水平細胞の応答の比較を行なった結果,光刺激開始後約100ms以内には両者の応答波 形は極めて良く一致していたが,451nmに対する応答のピーク振幅は757nmに対する応答の2倍
− 63 −
近く大きくなった。(3)異なる2つの披長の光からなる 温色刺激 に対するL型水平細胞の応答は,
もし両方の波長が550nmより小さければ,単一変数の原理によって予測できた。しかしながら,
一方の波長が550nmより大きくなると,予測と実際の応答は一致しなかった。(4)応答の初期相
(光刺激開始時から100ms以内)及び回復相(>700ms)で測定した各々の波長刺激に対する応 答振幅と刺激光強度との関係(Ⅴ−logI曲線)は互いにほぼ平行しており,また,分光感度曲線は 赤錐体のそれに極めて近かった。一方,光刺激開始後403msの時点(はば応答のピークに相当)
で測定したⅤ−logI曲線の傾きは刺激の波長によって異なり,655nmより長波長の刺激によって 得られた曲線は,より短波長光を用いた場合のそれに比べて,傾きが緩やかであった。この時点に おける分光感度曲線は赤錐体と縁錐体の分光感度の中間であった。以上の観察を解析した結果,(1)
L型外水平細胞は赤錐体から優勢な入力を受けているが,縁錐体からも入力を受けていること,(2)
赤錐体からの入力はより潜時が短いことが推定された。
〔Ⅲ〕L型外水平細胞へ収飲する異なる錐体からの入力の間に見られた応答増強効果の分析 し型外水平細胞の 温色刺激,に対する応答は赤錐体と縁錐体からの入力が線型加算するとして 予測した応答振幅を常に上回り,異なる種類の錐体が同時に刺激されると,L型外水平細胞の応答
を増強させる機構が働くことを見出した。更に時間間隔を変えて異なる波長の刺激を与える実験に ょって,この応答振幅の増強が縁錐体が赤錐体に先がけて照射されるとき,或いは両者が同時に刺 激されるときにのみみられることが明らかになった。また,この効果は2つの刺激を同時に与える 場合に最大で,時間間隔が開く程減弱すること,L型外水平細胞の膜電位が暗時のレベルに戻って もみられることを見出した。この結果は応答増強効果を起すメカニズムとしてL型外水平細胞の膜 抵抗の増大以外にも何らかの機構が存在する可能性を示唆するものである。
〔Ⅳ〕祝細胞とL型外水平細胞の結合についての神経回路
本研究の結果を基に,これまで報告されてきた種々の実験結果を考慮し,視細胞とL型外水平細 胞間の神経連絡について考察を行なった。その結果,次の神経回路のモデルを仮説として提出し た。即ち,赤錐体及び縁錐体からの信号は同一の極性で直接,L型外水平細胞に入り,一方,L型 外水平細胞から縁錐体へは極性反転型のフィードバックシナプスが存在するものと考える。その結 果,赤色光の照射によるL型外水平細胞におきた過分極信号は,フィードバックシナプスの作用に
より遅れを持って縁錐体に脱分極を起こす。これを受けて,L型外水平細胞は脱分極する。一方,
短波長光を与えた場合には,縁錐体の過分極状態によってフィードノミックシナプスの働きが弱めら れ,見掛け上,応答の増強が起るものと考えられる。この神経回路モデルによって,本研究で見ら れたL型外水平細胞の諸性質,例えば,波形特性,2種類入力の経路の間にみられた増強効果など を矛盾なく説明することが出来た。
− 64 −