論文審査の結果の要旨
氏名:大 島 麻 耶
博士の専攻分野の名称:博士(歯学)
論文題名:Histopathological and Immunohistochemical Studies of the Distribution of Elastic Fibers in Oral Fibrous Hyperplasia
(口腔線維過形成病変における弾性線維の分布に関する病理組織学的および免疫組織化学的研究)
審査委員:(主査)教授 久 山 佳 代 (副査)教授 近 藤 信 太 郎 教授 福 本 雅 彦 教授 渋 谷 鑛
口腔領域に発症する線維腫,義歯性線維腫およびエプーリスなどを含む口腔線維過形成病変(OFH)は,
膠原線維の過形成性腫瘤とされている.しかし,OFHの膠原線維以外の弾性線維および細網線維の存在に ついては詳細が明らかにされていない.一方,肩甲下部に好発する線維腫に弾性線維の増生を主体とする 弾性線維腫とよばれる病変が存在する.また,近年では口腔粘膜に弾性線維腫様変化を示した症例が数例 報告されている.
以上のことから,口腔組織においても血管壁などを中心に弾性線維は分布しており,OFHの構成要素に 弾性線維も関与している可能性が推測される.
そこで,本研究はOFHを構成する結合組織のなかでも弾性線維に着目した.弾性線維の病態形成への役 割を検索する目的で病理組織学的および画像解析(2値化)を行い,弾性線維の分布様態を客観的に評価し た.さらに,OFHで観察される弾性線維の起源を探るために免疫組織化学的検索を施した.
対象症例は,hematoxylin-eosin(HE)染色にて確定診断された頬粘膜線維腫,口唇粘膜線維腫,舌背線維 腫,歯肉線維腫,線維性エプーリス,線維腫性エプーリスを含むOFHを各20症例(計120症例)選択した.
既存の弾性線維の分布を把握する目的で,頬粘膜,口唇粘膜,舌背および歯肉の正常組織を対照とした.
Elastica van Gieson(EvG)染色を施し,各標本の粘膜固有層を3領域(上皮側,中央部,基部)に分類しImage Jによる画像解析を行った.そして,各領域の弾性線維の分布量のうち,最多のピクセル数を用いて以下の 統計処理を行った.
1. OFHにおける弾性線維の分布量の性差:
口唇線維腫に性差を認めたが,男女比が4:16と男性が極端に少なかったので,以下の検定に性別は考慮 しなかった.
2. OFHにおける弾性線維の分布量と年齢,分布量とマクロサイズとの関連性:
有意な相関はみられなかったため,以下の検定に年齢・マクロサイズは考慮しなかった.
3. 対照とOFHの間の弾性線維の分布の比較:
対照とOFHにおける弾性線維の分布量の比較に有意差がみられたのは舌背のみであり,弾性線維の分布 量は,各組織の既存の弾性線維の分布量に影響されることが示唆された.
4. OFH間の同じ領域における弾性線維の分布量の比較:
弾性線維の分布量が特に多かったのは口唇粘膜線維腫であり,次いで弾性線維の分布が多かったのは頬 粘膜線維腫であった.線維性および線維腫性エプーリスでは弾性線維がほとんどみられなかった.弾性線 維は口腔粘膜の大部分にみられるが,弾力性のある被覆粘膜により多く存在する.したがって,弾性線維 の分布量はOFHにおいても,頬粘膜および口唇粘膜線維腫の方が舌背および歯肉線維腫と比較してより多 く存在したものと考えた.
5. 同じOFHの3領域間における弾性線維の分布量の比較:
3領域間に有意差がみられたのは頬粘膜および口唇粘膜線維腫であり,ともに基部に分布が集中していた
.被覆粘膜である頬粘膜や口唇粘膜は粘膜下組織を有し,健常な頬粘膜や口唇には粘膜下組織に存在する よく発達した筋性血管から派生した毛細血管網がループを形成しながら粘膜固有層に進入しており,これ らの血管壁には弾性線維で構成される弾性板が存在する.一方,特殊粘膜の舌背と咀嚼粘膜の歯肉は粘膜 下組織を欠く.しかし,舌背における粘膜固有層の深層は頬粘膜や口唇のような筋性血管を有する.また,
歯肉に分布する血管は周囲の歯根膜,歯槽骨ならびに歯槽粘膜を経由するとされている.つまり,歯肉に
は臨在する組織に筋組織の存在はないが,頬粘膜,口唇,舌では,隣接組織に頬筋,口輪筋,舌筋などの 筋組織が存在する.それゆえ,弾性板をもつ筋性血管の既存の有無が部位特異的局在に大きく関与したと ものと推察された.
EvG標本で弾性線維が観察されたグループ(EF+群)と観察されなかったグループ(EF-群)に分類し,
免疫組織化学染色(抗Vimentin,抗Actin,抗CD34抗体)を行った.その結果,膠原線維を含む全症例の紡 錘形細胞はVimentin陽性およびActin陰性だったことから,OFHが間葉細胞由来ではあるが筋原性由来ではな いことが示唆された.CD34に関して,紡錘形細胞はEF+群全症例に陽性でEF-群全症例に陰性であり,膠 原線維とは異なり弾性線維とCD34には関連性があることが推察された.CD34は未熟な血管前駆細胞に発現 することから,OFHを構成する弾性線維は血管周囲の未分化間葉細胞から由来する可能性が示唆された.
また,形態的に弾性線維が血管壁を構成する弾性板から派生し,病変内に連続あるいは移行的に進入して 上方へ向かって伸展していく組織像が観察された.これらの結果から,OFHにおける弾性線維は粘膜下層 または粘膜固有層の深層の筋性血管の弾性板から派生したと推察された.
EF+群において,CD34陽性であったOFHは主に頬粘膜線維腫,口唇粘膜線維腫,舌背線維腫だった.し かし,歯肉ではCD34が発現しない症例もあった.歯肉に生じたOFHを比較すると,歯肉線維腫8症例,線維 性および線維腫性エプーリス2症例であった.歯肉という同一組織でありながら陽性症例数に差が生じた一 因として,線維腫とエプーリスの病因の相違が考えられた.
本研究を通して,口腔線維過形成病変にみられる弾性線維は,病態を主として構成する膠原線維とは異 なり,その分布様態に部位特異的局在性があることが示唆された.さらに,その弾性線維の由来には血管 周囲の未分化間葉細胞が関与している可能性が示唆され,口腔外科学ならびに口腔病理学における病因論 の発展に寄与するものである.
よって本論文は,博士(歯学)の学位を授与されるに値するものと認められる。
以 上 平成26年2月27日