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【学位論文審査の要旨】

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Academic year: 2021

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【学位論文審査の要旨】

前十字靱帯(ACL)は膝主要靱帯のひとつであり,大腿骨と脛骨をつなぎ,両骨の相 対的な動きを拘束して膝関節運動を適正に保つ重要な役割を果たしている.しかし,

その損傷頻度は非常に高く,日本国内だけでも年間 3 万件ほどにのぼる.しかも,ACL は自己治癒が望めないため,その損傷治療には高い医療技術が要求される.そのため,

ACL 損傷の外科治療には多くの関心が寄せられ,整形外科領域や臨床バイオメカニク ス領域で様々な検討が行われてきた.一般に,ACL 損傷の治療では,同一個体内での 移植手術である ACL 再建術が用いられる.その手法は,損傷した ACL を取り除き,膝 周囲に存在するハムストリング腱や膝蓋腱などの ACL の代替組織(グラフト)を取り 出して ACL の代わりに固定するというものである.この ACL 再建術は,複雑かつ高度 な技術が必要であるがゆえに,術式の定量的評価が十分に行われておらず,最適な条 件や手法が定まっていない.そのため,術後の ACL 再建膝の機能が順調に回復するか どうかは,医療機関や医師の経験と力量に依存しているという側面があり,改善の必 要があった.

ACL 再建術を定量評価し,その外科処置のレベルを向上させていくためには,膝 関節に作用する生理的負荷を再現しつつ,正常膝および ACL 再建膝の特性を詳細に調 べ,比較することが基礎となる.そのためには,個体から切り離した切断膝に再建術 を施し,日常動作や臨床検査時に膝に加わる荷重・モーメントを実験室的に再現して あたえ,膝の3次元的な応答動作を調べることが求められる.また,そのときの再建 ACL の力学的機能や,応答動作が現れたメカニズムについても調べる必要がある.そ のために本論文では,関節力学試験ロボットシステムを用いて多自由度力学試験を行 って ACL 再建膝の応答動作を求め,また,画像相関法による位置計測技術を3次元計 測に拡張し,この新計測法を用いて再建 ACL の変形解析を行っている.そして,それ らの手法を有効に用いて,これまでの研究では得られなかった重要な結果を導いてい る.

本研究で行った主な検討およびその成果は以下のように要約できる.

1)ハムストリング腱グラフトを用いた ACL 解剖学的多重束再建術をヒト膝に施行し,

前方力負荷試験および複合モーメント負荷試験を行った.その結果,グラフト初期固 定張力,関節移動量,グラフト張力の点で,ACL を異なる3つのグラフトで再建する 3 重束再建術が他の再建術に比べ優位であることを示した.しかし,一方で,どの多重 束再建術も 60°以上の屈曲位では関節移動量が正常膝に比べて有意に大きいことを 明らかにした.

2)正常 ACL のひずみ分布に着目し,前方力負荷時におけるヒト ACL の変形挙動解析 を行った.その結果,正常 ACL のひずみは,膝伸展位では ACL 全体に分布し,屈曲と

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ともに ACL の前方,かつ大腿骨付着部近傍に集中することを明らかにした.また,同 一線維上であってもひずみが不連続に発生することを明らかにした.これらの結果か ら,正常 ACL は膝の屈曲に伴って張力の作用部位を変化させて対応するとともに,線 維間の相互作用により隣接する線維へ張力を伝播させていることが示唆された.

3)ハムストリング腱グラフトを用いた解剖学的 1 束再建術と,膝蓋腱グラフトを用 いた解剖学的長方形骨孔再建術をヒト膝に施行し,これら現行術式による再建 ACL の 変形挙動解析を行った.その結果,再建 ACL の変形挙動はどちらの術式においても,

伸展位では正常 ACL に近いが,屈曲位では異なることを明らかにした.詳細な画像解 析により,これの原因が,両術式ともグラフトが骨孔挿入部の前方壁に圧迫され,荷 重伝播が偏ったためであることを明らかにした.

4)これらの結果を踏まえ,膝蓋腱グラフトの骨部分を骨溝に固定する,新たな ACL 再建術を提案した.この手法では,現行術式のように骨孔壁にグラフトが押し付けら れることがなく,正常 ACL と同じように,グラフト線維の緊張部位が関節姿位や外荷 重に応じて変化するため,再建 ACL の変形挙動や再建膝の力学特性が正常レベルに近 づく可能性が高い.

以上のように,本論文は筋骨格系バイオメカニクスに関する重要な成果を得てお り,臨床医学への貢献も大きい.よって,本論文は博士(工学)の学位を授与するの に十分な価値があるものと認められる.

(最終試験または試験の結果)

本学の学位規則に従い,最終試験を行った.公開の席上で論文発表を行い,主査委 員および副査委員3名を含む多数の出席者による質疑応答を行った.また,論文審査委 員より本論および関連分野に関する試問を行った.これらの結果を総合的に審査したと ころ,専門科目についても十分な学力があるものと認め,合格と判断した.

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