• 検索結果がありません。

法政策を分析する基準の検討

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2021

シェア "法政策を分析する基準の検討"

Copied!
22
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

経営 と経済 第 8 4 巻 第 2 号 2 0 0 4 年 9 月 i l n R i

法政策を分析する基準の検討

‑「 F a i r n e s s 」( 公正,正義)基準と 「 We l f a r e 」( 社会的効用)基準との対比‑

松 永

Abst ract

Re c e nt l yma nye f f o r t sha vebe e ndo net oe s t a bl i s hc r i t e r i af o r a na l yz i ngl e ga lpo l i c yma ki ngi nt hea c a de mi cf i e l do fLa wa ndEc o no m‑

i c s .I nt hi spa pe r ,f i r s t ,Ibr i e f l ya na l yz et het he s i so fLo ui sKa pl o w &

St e ve nSha ve l l『 Fa i r ne s sve r s usWe l f a r e 』( Har va r dUni ve r s i t yPr e s s ( 2 0 0 2 ) )a ndde mo ns t r a t ewha tc r i t e r i as ho ul dbea ppl i e di ne va l ua t i ng l e ga lpo l i c yma ki ng.And,Ic o nc l udet hee f f e c t i ve ne s so ft hevi e wt ha t po l i c yma ki ngs ho ul dbeba s e de xc l us i ve l yo nt hee f f e c t so ft he ̀ we 1 ‑ f a r e'o r a ( ggr e ga t i o no fi ndi vi dua l s 'we l 1 ‑ be i ngs'buts ho ul dno tde ‑ pe ndo nt heno t i o nso f̀ Fa i r ne s s 'o r ̀ J us t i c e' .

The n,Iut i l i z ef r a me wo r ko ft hi st he s i sa nde va l ua t et hee l i gi bi l i t y off r e es e r vi c ei nt hePubl i cLi br a r i e s .Publ i cLi br a r i e sa r eno w f a c i ng i nc r e a s l ngde ma ndf o rbus i ne s sda t a ba s ea ndqui c kr e f e r e nc es e r vi c e , a nda r ec o ns i de r i ngwhe t he rt he ys ho ul dc ha r gef e e st os uc h ̀ s pe c i a l ' s e r vi c e s .Idi s c us st hi si s s ueba s e do nt hec r i t e r i ao f̀ we l f a r e , ' whi c h i st r a di t i o na lr a t i o na l eo ff r e es e r vi c eo fpubl i cl i br a r i e s ,a ndc o nc l ude t ha tc ha r gl ngf e ewi l lbea bl et obej us t i f i e di fando nl yi fs uc hs e r vi c e s a r e s ヽ pe c i a l 'a ndnoto r di na r ys e r vi c e s ・Ho we ve r , i ti sq ui t ed i f f i c ul tt o di vi dewhi c hs e r vi c e sa r ede f i ne da s s ■ pe c i a l ' ・

Ke ywords:Le ga lPo l i c yMa ki ng,La wa ndEc o no mi c s , We l f a r eEc o no mi c sve r s usFa i r ne s so rJ us t i c e ,

Publ i cLi br a r y,Fr e eSe r vi c eve r s usFe eBa s e dSe r vi c e

(2)

i l R i 聖 経 営 と 経 済

は じめに

Ⅰ 『 Fa i r ne s sve r s usWe l f a r e 』で展開 されている議論の紹介

1.「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 と 「 Fa i r ne s s 」 ( 公平 ,正義)基準 の定義

2.「 We l f a r e 」 のみを基準 とす るこ とを提唱 し ,「 Fa i r ne s s 」概 念 を 基準 とす るこ とに反対す る理 由

3.「 Fa i r ne s s 」概念 と 「 So c i a lNo r ms 」 ( 社会的規範) との関係及び それが法政策設計 に与 える影響

4 .本書の分析枠組 みを現実の法政策の設計 に活用す る場合の留意点

Ⅱ 法制度設計 におけ る 「 We l f a r e 」基準 と 「 Fa i r ne s s 」基準の果 たす 役割の分析〜公共 図書館の利用料金 「 無料原則」を巡 る議論 に対す

る試論‑

1 .公共図書館の利用料金 「 無料原則」 とその正 当化根拠

2. 現在の 「 無料原則」 を巡 る議論 とその問題点 結 び

はじめに

「 法 と経済学」は,法律上の諸問題 を, ミクロ経済学の分析道具を用いて 分析するもので,主 としてアメ リカで発展 した法学の一分野であ る。近時我 が国において も様 々な法制度の分野で この分析道具 を用いた研究が進め られ ている。

「 法 と経済学」に対 し,法律家の側か らしば しば寄せ られる疑問は,経済 効率性を基準 とすることは , 「 公平 」 「 正義」 といった,法律家が伝統的に尊 重 してきた規範的なカテゴ リーを無視,ない し排除 しているのではないか と い うものである。 さ らには,経済学はパ レー ト最適 を規範的基準 とし,その ため , 「 効用の個人間比較」を回避す る限界があるが , 「 正義性」の観点か ら, この点に踏み込んで判断を行 うところに法学の長所 と存在意義があるとの指 摘 がなされている 。*1 すなわち,経済学は社会全体の効用の最大化を問題 と

*1 代表的なもの として,平井宜雄 『 法政策学 ( 第二版) 』p91 ‑ 9 3( 有斐閣,1 9 9 5 )を参照。

(3)

法政策を分析する基準の検討

‑ 「 Fa i r ne s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 79 するが,分配上の考慮,富者 と貧者 との間の不平等の問題については何 ら有 効な基準を示すことができない とする疑問である。

他方,この批判 に対 して , 「 法 と経済学」の側 か らは,効用の個人間比較 を排除 しているわけではな く,分配の公平性は個別的な法介入ではな く,包 括的な税体系 と社会保障システムによって解決 されるべ きであるとの指摘が なされている 。* 2

この ような,法制度を分析する基準に関する議論に対 し,ハ‑ヴ ァ‑ ド ・ ロースクールのル イス ・キ ャブロー教授 ( Loui sKapl ow) 及びスティーブ ン ・シャベル教授 ( St e ve nShave l l )がその共著 『 Fai r nes sve r s usWe l f ar e』

( Ha r va r dUni ve r s i t y Pr es s ( 2 0 0 2) )において ,「 Fai r nes s ( 正義,公平性 )」

を基準 とす ることの問題性 を分析 し,法制度の設計 においては ,「 W el f ar e ( 社会的効用) 」のみを基準 とすべ きであるとの議論 を展開 している。

そこで,本稿では,この 『 Fai r nes sve r s usWel f ar e 』の議論 を紹介 した上 で,そこで展開された議論を現実の法制度の問題 に適用 し,この分析枠組み の有用性を検討する。その分析の対象 としては,「 公共図書館の利用料金無 料原則」について取 り扱 うこととす る。

Ⅰ 『 F a i r ne s sver s u sWel f a r e』 で展開されている議論の紹介

『 Fai r ne s sver s usWe l f ar e 』( 以下 , 「 本書」と略す。)では ,「 W e l f ar e 」( 社 会的効用)基準 と 「Fai r nes s 」 ( 公平,正義)基準を定義 した上で ( 本稿下 記 1 .参照) 「W el f ar e」 のみを基準 とす るこ とを提唱 し ,「Fai r ness」 概 念を基準 とすることに反対する理 由を検討 してい る ( 本稿下記 2.参照)。

そ して , さ らに,具 体 的 な分析 として,不法 行為法 ( Tort s) ,契 約法

* 2 St e v e nSh a v e l l『 Fo u n d a t i o n so fEc o n o mi cAn a l y s i so fLa w』p6 4 7 6 6 0( TheBe l k n a p

pr e s so fHa r v a r dUn i ve r s i t yPr e s s ,2 0 0 4 )" I n c o meDi s t r i b u t i o n a lEq ui t ya n dTheLa w' '

を参照

(4)

1 8 0 経 営 と 経 済

( Cont r ac t s ) ,訴訟手続 き ( Le ga lPr oc e dur e)及び刑事罰の執行 ( La w En‑

f or c e me n t )の分野 において,それぞれ 「 We l f a r e」及び 「 Fai r ne s s 」の基準 は何 かを示 した上 で,「 We l f ar e」基準 を採用す ることが何故望 ま しいかに ついて分析 を行 っている。

本節では,まず簡単にその議論を紹介する。

1 .「 wel f ar e 」 ( 社会的効用)基準 と 「Fai r nes s 」 ( 公平,正義)基準の定義 (1)「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 * 3

本書 において 「 We l f a r eEc onomi c s 」の基準 とは,政策の効果 ( e f f e c t ) を評価す るための基準であ り,政策の効果が社会的 に望ましい ( des i r a bi l i t y) か否かは,個人の福利 ( We l l ‑ be i ngs )の総和 ( a ggr e gat i on)が増加するか 否 かで判断される とするものである。* 4

以上の説 明について, もう少 し詳 し く見てい く。

① 「 個人の福利 ( i ndi vi dua l s 'we l 1 ‑ be i ngs ) 」の概念は広い概念である。

本書において,「個人の福利 ( i ndi vi dual s'we l 1 ‑ be i ngs ) 」は,経済学用語 の効用 ( Ut i l i t y) と同種の概念であるが,事前 に予測 される効用 を全て含む もの,すなわち期待効用 ( Expe c t e dUt i l i t y) とされている。 さ らに, ここ での 「 Wel トbei ngs ( 福利)」概念は広 く,「個人が価値 ある と評価するもの 全て」を含む概念 として定義 されている。すなわち,物質的な ものに限定 さ れず,達成感 ( not i onsoff ul f i l l me nt ) ,共感 ( s ympa t hy) な どを含み,他 方で不便 さ ( i nc onve ni e nc e)や個人が不満足 ( di s t as t e f u l )に思 うことは, 福利を減少 させ るもの として評価 され る。そ して,福利が増加 したか否かは 当該個人 による評価 に基づ き,例 えば外部の評価者 が客観的に評価するもの

* 3 Lo u i sKa p l o w & S t e v e nS h a v e l l『 Fa i r n e s sv e r s u sWe l f a r e 』 ( Ha r v a r dUn i v e r s i t y

Pr e s s( 2 0 0 2 )) ,p1 5 ‑ 3 8 , ̀ A. We l f a r eEc o n o mi c s '

*4 個人の福利の増進 に関係ない ものは除外 される。

(5)

法 政 策 を分析 す る基 準 の検 討

‑ 「 Fa i r ne s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 81

ではない とされる。* 5

② 社会的福祉 ( Soc i a lWe l f a r e ) と個人の福利 ( I ndi vi dua l s 'we l f a r e) と の関係

社会的福祉は個人の福利の増加のみに依存 し,他の要因には依存 しない。

そ して,個人の福利の増加の総和が社会的福祉 ( Soc i a lWe l f a r e) である と 定義 されている。

③ 社会的福祉 ( Soc i a lWe l f a r e ) と所得分配 ( di s t r i but i o no fi nc o me ) 問 題 との関係 について

一般的な 「法 と経済学」では,分配の問題 ( 効用の個人間比較,貧富の格 差,所得配分の公正 さの問題 な ど。)は重要ではない と見なされていた。そ の理 由は,法政策の多 くは,所得分配 に及ぼす効果が間接的であ り, したが ってその影響は小さ く,また,税制や社会保障プログラムによ り,分配の問 題の解決は達成で きると考 えたか らである。 しか しなが ら,例 えばクラスア クシ ョンの導入な ど原告が特 に有利 になるような法制度の導入が現実には考 え られ,その ような制度は,特定の人たちに厳 しい分配の問題 を もた らす可 能性があ り, この問題を取 り込む ことが重要 となる。

そ して,本書での 「 We l f a r e」 基準 に基づ く分析では, この分配の問題 に 関する懸念を取 り込む ことがで きるため優れてい るとされる。例 えば不運な 人への同情 を感 じている場合,所得 を再配分することは,所得 を得た人の効 用の増加のみな らず,その 同 情 を寄せた個人の 「 We l 1 ‑ be i ngs 」 ( 福利) も増 加 させ ることになる。また,本書の分析枠組みでは 「 We l f a r e」 の増加の程 度は個 人毎 に評価 され るので,例 えば同 じ金額 の助成金 で も,貧 しい者 の

*5 例 えば本書 の 「 We l f a r e 」基準では犯罪者 が罰せ られ るこ とに よ り, 自己の正義感 が

満足 された場合の効用 ない し福利 ( we l l ‑ be i ngs ) の増加 も含 まれ る。 これ に対 し 「 Fa i r ‑

ne s s 」を基準 とす る考 え方 は この ような個人の満足感 ( 正義感 の充足) に よる効用の 向

上 とは関係な く,それ 自体の価値 に基づ くものである とされ る 。Se eKa pl o w & Sha ve l l ,

i bi d,p2 1

(6)

1 8コ 経 営 と 経 済

「 we l 1 ‑ be i ngs 」 ( 福利)の増加は,裕福な人間の 「 we l l ‑ be i ngs 」 の上昇 より 大 きい と計測することが可能 となる。

(2)「 Fa i r ne s s 」 ( 公正,正義)基準* 6

本書では ,「 Fa i r ne s s 」 の基準は多様な ものを含み,法政策が,個人の福 刺 ( we l l ‑ be i ngs ) にいかに影響するか とい うことのみを評価の基準 とする 分析 (これが正 に 「 We l f a r e 」 を基準 とする分析)以外の分析の全てである と定義 している。その中の代表的な もの としては,矯正的正義 ( c o r r e c t i ve j us t i c e ) や応報的正義 ( r e t r i but i vej us t i c e ) などをあげている。

そ して, この ような 「 Fai r ne s s 」 基準の問題 として,例 えば正義の基準 ( 上述 した矯正的正義 と応報的正義)相互間の優劣を決める判断基準がない, とい う疑問を指摘 している。すなわち ,「 Fa i r ne s s 」 の基準は,往 々にして 自己の信 じる 「 Fa i r ne s s 」 を主張するだけにな り,信念の争いになって しま い,優劣について結論が出ない危険性がある。

また, 「 Fai r ne s s 」 の概念は,当該行為 を事後的 に評価する見方 を反映 し ている。すなわち,ある行為が損害を生 じさせているという結果を見て,辛 後的にその損害 を生 じた事態を

かに矯正するか ( 矯正的正義),あるいは 加害に対 し, どの ように応報するか ( 応報的正義) という観点が基準になっ ている。 しかしなが ら,法政策の立案 には,結果に影響する事前の行動につ いて,当該法制度が どの ように影響を及ぼすか という観点が必要であ り,こ の点をスコープに入れ られない 「 Fa i r ne s s 」 の基準 より ,「 We l f a r e 」 を基準

とするアプローチの方が,個人の全ての行動 と ,その影響 ( 当該行動が及ぼ

す,全ての潜在的な結果)を考慮に入れることがで きる点で,よ り包括的で あ り,優れていると,本書では評価 している。

* 6 Se eKa pl o w & Sha ve l l ,i bi d , ̀ BNo t i o nso fFa i r ne s s ' ,p3 8 51

(7)

法政策 を分析す る基準 の検討

‑ 「 Fa i r ne s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 8 3 2.「 Wel f ar e 」のみ を基準 とすることを提唱 し ,「Fai r nes s 」 概念 を基準 と

することに反対する理由 * 7

以上 の各基準の定義 を前提 として,本書では ,「 Fa i r ne s s 」 概念の問題点 として以下の ような指摘 を行 っている。すなわち,

1)「 Fa i r ne s s 」 の追求は , 「 社会的効用 」( So c i a lWe l f a r e ) を減少 させ, さ らには全ての個人の福利 を減少 ( Wo r s eOf f ) する場合があるが,そ れが何故正当化で きるのか説明がで きない点,

2)「 Fa i r ne s s 」 の正当化根拠 ( r a t i o na l )が酸味であるとい う点

を問題 点 として指摘 してい る。前者 は,個人の福利 ( we l トbe i ngs ) を犠牲 にして も促進 されるべ きものがある と 「 Fa i r ne s s 」基準か らは指摘 されるが, それによって社会は何 を獲得することがで きるのか,明確 に示 されていない

とい う批判である。例 えば,応報的正義 によって 「モラルのバ ランスを回復 す る」 といった正当化根拠があげ られるが,何故それが,全ての個人の福利 を減少する という犠牲 を正当化で きるのか,説得的な説 明がない とい う指摘 である

この議論 について,本書で検討 されている具体例 に基づいて紹介 してい こ う。* 8 ここでは刑事罰の政策 について考 えてみる。

例 えば窃盗犯のケースで,当該窃盗が犯人 には 1 0 0 の ( 効用) を与 え,被 害者 に 1 0 0 の Di s ut i l i t y ( 非効用) を もた らす と仮定す る。 この場合 「 Fai r ‑ ne s s 」 基準 に基づ く法制度設計,例 えば応報刑の場合は,量刑は犯人 に対 し 被害者が受けたの と同一の非効用を与 えるべ きである との結論 となる。すな わち, ここでは 1 0 0 の Di s ut i l i t y を与 える と言 うことにな る。 この量刑 は, 犯罪者 が全て逮捕 され るのであれば本犯罪は見合わない もの とな り抑制 され ることとなる 。1 0 0 の効用をえ られて も,後 か ら 1 0 0 の非効用 ( 刑罰)が与 え られることとな り,合理的な犯罪者 は最終的にこの窃盗は効用の増加をもた

* 7 Se eKa p l o w & S h a v e l l , i bi d , ̀ c ove r v i e wo fOu rAr g u me n t' ,p5 2 6 2

* 8 Se eKa p l o w & S h a v e l l , i b i d , ̀ vILa wEn f o r c e me n t' ,p2 9 1 3 2 9

(8)

1 8 L l 経 営 と 経 済

らさない と判断で きるか らである。 しかしなが ら,現実には全ての窃盗犯が 逮捕 され るわけではない。例 えば 2 5 % しか逮捕 されない と考 える と,窃盗犯 の期待 Di s ut i l i t y ( 1 0 0×2 5 %) は 2 5 にな り,それ以上の効用を窃盗で得 られ る と計算 す る合理的な犯罪者 は,犯罪 を犯 して しま うことにな る。他方,

「 we l f a r e」 基準 になる と,社会的効用の減少を最低限にす る政策を とるこ とになるので, この場合逮捕者 には 4 0 0 の刑罰 に よる Di s ut i l i t y を与 える と い う政策 を とることになる。 こうなる と,犯罪者の期待 Di s ut i l i t y ( 4 0 0×2 5

%)を 1 0 0 とすることで,犯罪者 に とって犯罪を行 う結果得 られ る効用 と, 予測 される非効用 との関係で, この犯罪が見合わな くすることができ,結局 犯罪が抑制 されることとな り社会的な非効用の発生 を防 ぐことがで きること になる。

この議論 に対 して ,「 Fai r ne s s 」 基準か らは,何故捕 まった犯罪者が,実 損以上の Di s ut i l i t y を与 え られ るのか正当化根拠がない との批判 がなされ得 る。 これに対 し 「 We l f a r e」 基準 か らは,社会的な効用の増加 ( 非効用の減 少)が正当化根拠であ り,さ らには,応報刑では逮描 されなかった 7 5 % の犯 罪者 によって,被害者の Di s ut i l i t y が生 じているこ とが問題であ ると指摘で きる。「応報刑」論 は,逮捕 されなかった 7 5 % の犯罪者 によって,罪のない 人たちに被害が生 じることを容認 しているのである。すなわち, この ように 被害者が被害を受けることを上回る 「 Fa i r ne s s 」 の正当化根拠が必要である が, この点について説得的な説 明はで きないのであ る。 さ らに言 えば ,

報刑」論 は,犯罪者 が適切な応報刑を受けるとい う目的のためには,無実の 被害者が苦 しむのは仕方がない との判断を示 していることになる との批判を 免れ得ない。

この問題のバ リエーシ ョン として, 「 Fa i r ne s s 」 の立場 か ら,生来の犯罪

者すなわち,いかなる非効用が想定 されて も犯罪を犯す者がお り,犯罪は無

くな らない こと,さ らにはその結果,捜査や裁判制度の不完全 さの故に,無

実 の者 が過大 な刑罰 を受 け る可能性 があ るこ ととい った反論 が示 され得

(9)

法政策 を分析す る基準の検討

‑ 「 Fa i r n e s s 」 ( 公止,止義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 8 5 る* 9 。 これに対 し, 「 W el f ar e」 基準 を採用すべ きである とする本書の考 え方 か らは,以下の再反論がある とされている。

1 )応報刑 において も ( 刑罰の程度 には差があるが)無実の人間が刑罰を 科 されることは同じであること。

2 )確信犯以外は犯罪を犯 さないのだか ら,社会全体の Di sut i l i t y は応報 刑を採用する場合 よ り少ない こと。

3 )無実の人間が刑罰 を科 され る可能性 が犯罪者の数 に比例 す る とすれ ば,確信犯以外の人間が犯罪を犯 さないようになる刑罰の設定の仕方 の方が犯罪数 は少な くな り,その結果無実の罪で逮捕 される人間が減 少する。 さらには,犯罪減少 により浮いた捜査及び裁判のコス トを, より適正な捜査や裁判 を行 うための費用 に回す ことがで き,無実の人 間の科罰可能性 を減少 させ うる と考 えられ ること。

いずれにせ よ,応報刑は,犯罪者の科罰の適正 さを守 ることが,無実の被 害者の Di s ut i l i t y の発生 よ り重要であることを示 す正当化根拠 を示す必要が

あ り,その答えを示す ことがで きないことに最大の問題があるのである。

3. 「Fai r ness」 概念 と 「Soci alNor ms 」 ( 社会的規範) との関係及びそれが 法制度設計に与える影響 ★ 1 0

「Fai r nes s 」 概念 と毎 日の生活の指針 となる 「Soci a 1N or m 」 ( 社会規範) との間には相関関係があ り,社会規範は 日常的行動 を円滑 に進 める役割を果 た している。 したが って, 「Fai r nes s」 概念の基準は価値 がある との考 え方 がある。 ここでの 「 社会規範」 とは,毎 日の生活で どの ように振 る舞 うべ き かを決定す る際の規範であ り,例 えば , 「 嘘 をつかない」 , 「約束 は守れ」 と いった ものであ り,その根拠は 「 Fai r nes s 」 基準 に関係 している。

しか しなが ら,本書は, この ような 「 社会規範」の存在 自体は,法制度の

* 9 Se eKa p l o w & Sha v e l l ,i bi d,p3 3 6 3 5 2

* 1 0 Se eKa p l o w & Sha v e l l ,i bi d , ̀ D No t i o no fFa i r ne s sa n dSo c i a lNo r ms ' ,p6 2 8 1

(10)

1 8 6 経 営 と 経 済

選択の際の指針を与 えるものではない としている。すなわち, もし,社会規 範の存在理 由が個人の福利の増進 とい うことであるな らば ,「 We l f a r e 」 基 準 と同じ基準であ り,独立の基準 とはな らない。他方,社会規範 自体は,千 供で も理解できるように極めてシンプルなものであ り,したがって,法制度 の指針 として使 うことは しば しば正当化 しえない法制度の設計を招 く危険性 があると本書は指摘 している。例えば 「 約束を守 らねばな らない」 という社 会規範は,両当事者に とって履行の意味が無 くなって も契約の履行を迫 るこ とにな り ,「 We l f a r e 」 基準か らは正当化で きない。 お互いに効用 を減少 さ せ るにもかかわ らず,何故契約の履行が必要なのかについて , 「 社会規範」

はそれを正当化する説明ができないのである。

しかしなが ら, この ような議論は , 「 社会規範 」 に基づいて,毎 日の生活 を規制す ることが適当ではない と結論づけているわけではない。社会規範 は毎 日の生活の指針 とな り,社会生活を円滑 にす る機能がある。ただ し,

「 Fa i r ne s s 」基準 自体が,法制度の適切な評価基準 とな り得ないの と同様の 意味で,法制度の評価基準 とはな り得ないのである。

4. 本書の分析枠組みを現実の法政策の設計に活用する場合の留意点

以上の議論を受けて,本書の分析枠組みは,現実の法制度評価を行 う際に, どのような示唆を与えるだろうか。

まず,ある法政策の分析にあたって ,「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)の増進 と いう見地か ら正当化で きるかを評価することの重要性の指摘は有効である。

特 に ,「 We l f a r e 」 とは異なる何 らかの 「 Fa i r ne s s 」 ( 公平,正義)基準が法

政策の正当化根拠 として示 された場合,それは何故正当化で きるのか,すな

わち 「 We l f a r e 」 基準を犠牲 にして も何故正当化で きるのか厳格 に検討する

ことが重要であるとの視点は法制度を評価する上で重要な指針を与えるもの

である。現実に,法政策策定に当たっては,ある特定の 「 Fa i r ne s s 」概念,

ない しより暖味な 「 社会規範」が,あたかも絶対的な真実 として指摘 され

(11)

法政策を分析する基準の検討

‑ 「 Fa i r n e s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 8 7 上述 した ような社会的な効用 に対す る影響 についての厳密な分析 を行 うこと な く強調 され,結果 として社会全体の効用 を低下 させている例があるのでは ないだ ろうか。 あ るいは,当初の制度設計 は ,「 Wel f a r e」 の基準 に基づ く 設計がなされていたのに,時間の経過 とともに,その制度設計の趣 旨と異な

る解釈 が,何 らかの 「 Fa i r ne s s 」 の名の下 に行われていることがあるのでは ないだろうか。例 えば,筆者が専門 とする中小企業政策の分野 において も,

「小規模 ( あ るいは零細)事業者の保護」の名の下 に ,「 We l f a r e」 基準 か らは正当化で きない ような制度が導入 され,社会全体の効用 を低下 させてい る懸念がある。

次 に,本書の 「 We l f a r e 」の概念は極めて幅広 い ものであ り,現実にはそ れを計測す ることが困難である とい う本分析の有する限界である。上述の よ うに 「 We l f a r e 」には,達成感 ( no t i o nso ff ul f i l l me nt ) ,共感 ( Sympa t hy) な どを含み,他方で,不便 さ ( i nc o nve ni e nc e) や個人が不満足 ( di s t a s t e f u l ) に思 うことは,福利 を減少 させ るもの として評価 される とされるが, これ ら を どの ように計測 し,その We l f a r e の増加 と減少 を どの ように計算す るか は,現実の法政策の評価 としては極めて難 しい問題である。社会学や心理学 な どの関連する分野に対する研究を総動員することが重要である と言 うこと で あ ろ う。 しか しな が ら,不 完 全 で は あ って も, この よ うな各個 人 の

「 we

l

トbe i ngs 」 の変動 を分析 してお くこ とは,後 日,政策の事後評価 を行

う際の指針 を示す とい う意味で有益 である。 どの ような we l l ‑ be i ngs の変化

が事前 に予想 されたかを明確化 し,事後的にその予測が妥当 したか,あるい

は予測 されなかった we

l

1 ‑ be i ngs の変化があったかを評価す るこ とが可能 と

な り,有効な事後評価 q) 実施が行 えることとなる と考 え られる。

(12)

1 . q 8 経 営 と 経 済

Ⅱ 法制度設計 における 「Wel f ar e」 基準 と 「Fai r ness」 基準の 果たす役割の分析

〜公共図書館の利用料金 「 無料原則」を巡 る議論 に対する試論〜

Ⅰで検討 した ,「 We l f a r e 」( 社会的効用)基準 と 「 Fa i r ne s s 」( 公正,正義) 基準 との関係に関する議論,特に前者 とは異なる 「 公正」 さない し 「 社会規 範」が無批判に正当化根拠 として示 されることの問題性についての議論は, 日本の法制度の有効性を検証する場合にも優れた分析枠組みを提供するもの である。それでは,この分析枠組みを使 って,具体的にどの ような分析を行 うことができるのか,以下では,実際に法制度の検証にこの分析枠組みを活 用 した試論を展開することとする。

本稿では法制度の例 として,公共 図書館の利用料金の無料原則 ( 以下,

「 無料原則 」 と略す。)について取 り扱 うこととす る。 *11 これは ,「 We l f a r e 」 基準 に基づ く正当化 ( 公共財の提供)が明快であ るのに対 し,現実には, 1 9 8 0 年代 か ら有料制対無料制の問題が米国での議論 を受けて続 け られてお り,他方で,その議論 は 「 We l f a r e 」 の増進 という観点か ら検討 されている わけではな く,例 えば 「 知性に関わる機関に市場原理を導入する是非 もまた 問われねばな らない」 といった, Ⅰで分析 した ところの 「 Fa i r ne s s 」 ( 正義) ないしは,より暖味な 「 社会規範」の基準か らの議論が しば しば提起され *1 2 , 議論に混乱が見 られる分野であるか らである。さらに,近時のインターネ ッ

ト化,商用データベースの普及な どの情報化 に伴い , 「 無料原則」を巡 り様

*1 1 筆者 は公共図書館制度 を専門的研究対象 としているわけではないが,創業支援施策 の研究 の一環 として,ビジネス支援図書館 ( 図書館の有す る情報 を活用す るとともに, 商工会議所等の産業支援機関 と連携 を行 うことで,ビジネスを支援 しよう とする試み。) に関す る研究を行 っている。本稿は ,RI ETI 政策シンポジウム 「ア メ リカ図書館のビジ ネス支援」及びその後の 日米の図書館関係者 とのデ ィスカ ッシ ョンに示唆 を受けて考察 した ものである。

* 1 2 ‑例 をあげれば,国立国会図書館q) 発行する情報誌 カ レン トアウ ェアネスにおける,

滑川慶一 「 市場原理の有料論 」No.1 9 8 ,阪脇孝子 「 NYPL エクスプレス 」No.21 な どの

議論 を参照。

(13)

法政策 を分析す る基準 の検討

‑ 「 Fa i r ne s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e J ( 社会的効用)基 準 とq ‑ ) 対比 1 8 9 々な議論が生 じてお り,その問題性を検討す る意義がある考 えるか らである。

1 .公共図書館の利用料金の 「無料原則」 とその正 当化根拠 (1 )公共図書館の 「 無料原則」 ( 法令の記述)

市立図書館,県立図書館な ど我が国の公共図書館は,そのサービスの提供 に対 し無料制の原則を採用 している

具体的には,図書館法 ( 平成 25 年法律 第1 1 8 号,改正,平成 1 1 年法律第 1 6 0 号)第1 7 条 においてでは,以下の ように 規定 されている。

第 1 7 条 ( 入館料等) *1 3

公立 図書館 は,その他 図書館資料 の利用 に対 す るいかな る対価 を も徴収 してはな らない。

注 :下線 は筆者 が添付。

この 「 無料原則」は普遍的に採用 されているものであ り,例 えばユネスコ 公共図書館宣言 1 9 9 4 年 ( UNESCOPu bl i cLi br a r yMa n i f e s t o1 9 9 4 ) にも以 下の ように規定 されている

財務 ,法令 ,ネ ッ トワー ク

公共 図書館 は原則 として無料 とし,地方及 び国の行政機 関が責任 を持 つ もの と す る。 それは特定 の法令 に よって維 持 され 国及 び地方公共 団体 に よ り経費 が調 達 されなければな らない。公共 図書館 は,文化 ,情報提供 ,識字 お よび教育のた めq) いかな る長期政策 において も,主要 な構成要素 でなければな らない。

注 :下線 は筆者 が添付。

(2 )公共 図書館の利用料金 「無料原則」 を支 える 「 We l f a r e 」 ( 社会的効 用)の増進 とい う ( 経済学的な)説 明

公共図書館 も , 「 教育」同様の意味で,いわゆる 「公共財」 ( あ るいは 「 公 的に供給 され る私的財 」) であ ると解釈 されている。すなわち,図書館 につ

* 1 3 本条文中の 「図書館資料」 とは,図書館法第 3 条第 1 号に定義 されている。同法第

3 条 「1 .郷土資料,地方行政資料,美術品, レコー ド,フ イルムの収集 にも十分留意

して,図書,記録,視覚聴覚教育の資料その他必要な資料 ( 以下 「図書館資料」 という。)

を収集 し,一般公衆の利用に供すること 。」

(14)

1 9 0 経 営 と 経 済

いては 「 排除不可能性」がないので,純粋な公共財 とはいえないが,市民に 教育が普及することに関連 して重要な外部性があるが故 に,公的に供給する ことが正当化で きるとされている。* 1 4すなわち,図書館 を通 じた知識 ・教育 の普及は様 々なスピル ・オーバー効果 により,知識 を獲得 した国民同士によ る文化的な生活が行われることで,社会生活全体が円滑 に機能す ると考 えら れる。そ して, この外部効果はサービスを受ける個 人には正確 には評価 され ないために,図書館のサービスが私的に提供 される場合は,社会的に望まし い水準ほ どには当該サービスが提供 されない とととなる。すなわち図書館に 対する投資が過小 にな る可能性があ り, したがって,公的に供給 されること

が正当化で きると説 明されている。* 1 5

(3 )公共図書館の 「無料原則」の法文上の規程ぶ り

それでは, これ らの 「 無料原則」を正当化するための根拠が, どの ように 法制度上 に示 されているかを見てい く。 まずユネス コ公共図書館で,前文及 び 「 公共図書館の使命」 として以下の ような記述が見 られる。

前文

社 会 と個人の 自由,繁栄及 び発展 は人間 に とっての基本的価値 である。 この こ とは,十分 に情報 を得 てい る市民 が,その民主的権利 を行使 し,社会 において積 極的 な役割 を果 たす能 力 に よって,初 めて達成 され る。建設 的 に参加 して民主主 義 を発展 させ る こ とは,十分 に教育 が受 け られ 知識 ,思想 ,文化 および情報 に

自由にかつ無制 限 に接 し得 ることにかか ってい る。

* 1 4 St e v e nS h a v e l l ,『 Fo u n d a t i o no fEc o n o mi cAn a l y s i so fLa w ,Ha r v a r dUn i v e r s i t y

Pr e s s( 2 0 0 4 ) ,p1 2 卜1 2 3

* 1 5 ステイグ リッツは 「 公的教育」についての説明 として 「 分配上の懸念」をあげてい る。すなわち 「 子供が教育を受けることは両親の金銭的能 力や利他主義的考え方次第に なるべ きではない とい う考 え方が広 く受け入れ られてお り,それが公的なサービスの提 供を正当化する」 もの と指摘 している。 ( ∫ .E. スティグ リッツ 『 公共経済学 ( 第二版) 』 薮下史郎訳 ( 2 0 0 3 ) 東洋経済新報社)

本稿では,外部効果による説明を採用 したが,ステ ィグ リッツの上記の説明を採用 し

た場合 も分析に変化はな く,いずれ も社会全体の効用の増進 とい う見地か らの正当化が

なされていると解釈することができる。

(15)

法政策 を分析する基準の検討

一 「 Fa i r n e s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 91 地域 において知識 を得 る窓 口であ る公共図書館は,個人及び社会集団の生涯学 習,独 自の意思決定及び文化的発展のための基本的条件 を提供する。

( 以下略) 公共図書館の使命

情報,識字,教育 および文化 に関連 した以下の基本的使命を公共図書館サービ スの核 に しなければな らない。

1.幼い時期 か ら子供達の読書習慣 を育成 し,それを強化する。

( 以下略)

すなわち,地域 において知識 を得 る窓 口である公共図書館は , 「 個人及び 社会集団の生涯学習,独 自の意思決定及び文化的発展のための基本的条件 を 提供す る)」 と位置づけ られ , 「 情報 ,識字,教育及ぶ関連 した」サービスを 提供す る機関であると位置づけ られ るわけである。

また,我 が国の図書館法で も,無料原則 について,同様の考 え方が示 され ている。

図書館法

第一条 (この法律の 目的)

この法律は,社会教育法 ( 昭和 2 4 年法律第 207 号)の精神 に基づ き,図書 館の設置及び運営に関 して必要な事項 を定め,その健全な発展 を図 り, もっ て国民の教育 と文化の発展 に寄与することを 目的 とする。

社会教育法

第一条 (この法律の 目的)

この法律は,教育基本法 ( 昭和 2 2 年法律第 25 号)の精神 に則 り,社会教育 に関する国及び地方公共団体の任務 を明 らかにすることを 目的 とする。

教育基本法 前文

われ らは,さきに, 日本国憲法を確定 し,民主的で文化的な国家 を建設 し て,世界の平和 と人類の福祉 に貢献 しようとす る決意 を示 した。 この理想の 実現 は,根本において教育の力をまつべ きものである。われ らは,個人の尊 厳 を重ん じ,真理 と平和 を希求する人間の育成 を期する とともに,普遍的に して しか も個性 ゆたかな文化の創造 をめざす教育を普及徹底 しなければな ら ない。

ここに, 日本 国憲法の精神に則 り,教育の 目的を明示 して,新 しい 日本の 教育の基本を確立するため,この法律を制定す る。

第一条 ( 教育の 目的)

教育は,人格 の完成 をめざ し,平和的な国家及び社会の形成者 として,真 理 と正義を愛 し,個人の価値 をたっ とび,勤労 と責任を重ん じ, 自主的精神

に充ちた心身 ともに健康な国民の育成 を期 して行われなければな らない。

(16)

1 9 2 経 営 と 経 済

この我 が国の法律の構成か らも,図書館は , 「 教育」 と同様の性質を持ち, 社会人一般の教育のために行われる機関である と位置づけ られていることが

わかる。

したが って, これ らの条文か らうかがわれるのは,図書館の 「 無料原則」

の正当化根拠は 「 教育」 と同様,社会生活上の外部効果の存在 に求めること がで きるあろ う。 あ るいは,少 な くとも,上記の ような経済学上の 「 We ト f a r e 」 ( 社会的効用)の増進 とは異な る何 らかの 「 Fa i r ne s s 」 ( 公平,正義)

を明示的 に正当化根拠 としいるわけではないことがわかる。

2 .現在の 「無料原則」を巡 る議論 とその問題点

公共図書館 において,無料原則は幅広 く浸透 している と思われる。

以下では, この無料原則 との関係で議論 となった二 つの問題を検討 し,何 故無料 なのかに関す る 「 We l f a r e 」 基準 に基づ く正当化根拠 に立 ち返 ること な く,無料原則 をあ る 「 Fa i r ne s s 」 ない し 「 社会規範 」 として,ただ受け入 れる とい う意識があることにより,議論 に混乱が見 られる事例を紹介する。

そ して, さ らに 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)の増進 とい う基準か ら見た場合 には, どの ように評価で きるかについて検討を加 えることとする。

(1 )商用デー タベースの提供 と無料原則

近時,図書館の 「 無料原則」が問われたのは,インターネ ッ トや商用デー タベース等の外部資源のアクセスを巡 る議論である。特 に商用データベース は専門性 が高い もの もあ り,またコス トも高いことか ら,利用者がその対価 を払 うことの是非が議論 された。

具体的 には ,1 9 9 9 年の文部省生涯学習審議会下の図書館専門委員会の報告 書 「図書館の情報化の必要性 とその推進方策 について〜地域の情報化推進拠 点 として 」* 1 6 の 「3. 提言 ( 5 )図書館サービスの多様化 ・高度化 と負担の

* 1 6 平成 1 0 年 1 0 月 2 7 日,生涯学習審議会社会教育分科審議会計画部会図書館専門委員会

(17)

法政策 を分析する基準の検討

‑ 「 Fa i r ne s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 9 3 在 り方」の中で,い くつかの公共図書館において,有料の商用データベース

を利用者の求めに応 じて職員が代行検索 している場合, 通信料金 ,データベー ス使用料を徴収 している例があるこ とについて,その是非が議論 されている。

本報告書では,上述 した図書館法第 1 7 条の対価不徴収は , 「図書館が地域 住民の情報や知識の入手な ど最低限の文化的基盤 を保証する とい う原則の尊 重か ら来ているものである。」 と述べてお り,その上で , 「ここにい う 「図書 館資料」 とは,‑ ・( 中略),通常,図書館によって主体的に選択,収集,塞 理,保存 され,地域住民の利用 に供 されてい る資料 を指す と考 え られ る。」

として,インターネ ッ トや商用デー タベースは,最低限の文化的基盤の保証 とい う見地 か らする 「 通常」の利用 ではな く , 「図書館資料 の利用」を超 え るサービスである と結論づけている。 この結果,対価徴収を,図書館の設置 者である地方公共団体の裁量 にゆだねている。

本報告書は,対価不徴収原則を絶対的な 「 Fa i r n e s s 」概念 として位置づけ るわけではな く , 「最低限の文化的基盤の保証」 とい う見地 か ら くるもの と して,社会的効用の増進 とい う 「 We l f a r e 」 基準の見地 か ら検討 しているも の と考 えられる。すなわち,無料原則を支 える正当化根拠が,上記の公共財 の提供の外部効果であ るな らば,その公共財提供の意義を超 えるサービスに は,無料制原則を適用する必要がない場合がある との分析を行 っている と見 ることがで きる。例 えば極めて専門的な技術 に関する情報や,ブルームバー グの株価情報 などをデータベース として提供することは,果た して公共図書 館が無料 で提供すべ きものだろ うか との判断を示 している 。「 We l f a r e 」 基 準にもとづ く的確な判断である と評価で きる。

しか しなが ら,他方で,インターネ ッ トや商用 データベースが, これほ ど

までに幅広 く利用 され,かつ情報源 としての重要性が高まってい ることを考

える と, これ らの情報 の全てが , 「通常」の 「図書館資料」を超 えるサービ

スの提供であると評価す ることはで きず,外部効果のある 「 公共財」の提供

である と評価で きるもの もあるのではないだろうか。本報告書は ,1 9 9 8 年の

(18)

1 9 4 経 営 と 経 済

ものであ り,現在ほ どインターネ ッ トや商用データベースが普及 していなか った時点での評価である。 この数年間で,社会におけるインターネ ットや商 用データベースの位置づけが大 き く変化 した現状 においては,再度,外部効 果 に よる 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)の増進 とい う見地 か ら,これ らの情報 提供の料金聴取の可否の再評価 を行 うべ き時期 にあると考 えられる。

それでは,次の課題 として,無料で提供すべ き 「 通常」の情報 と,看料で 提供するべ き情報サー ビスの区分は可能なのか とい う議論 を検討する必要が ある。 この点を意識的 に考 えて , 「 有料サービス」を実施 している例 として, ニ ュー ヨーク公共図書館の例があ り,以下で,その分析 を試みる。

(2 )ニ ュー ヨーク公共図書館 におけ る NYPL エクスプレス ( 有料の情報 提供サービス) * 1 7

ニ ュー ヨー ク公共図書館 ( 以下, 「NYPL」 と略す。)は, ( 米国におい ては珍 しい ことではないが),州政府 ・市政府 が設立 ・運営する ものではな く,民間 ( 企業,個人,財団等)の寄付 に依存 している図書館であるが,刺 用を公的 に解放 しているという意味で公共図書館である。 NYPL では,過 常の図書 ・資料閲覧,貸 し出し, レフ ァレンスサー ビスを無料で提供 してい るのに加 え, NYPL エクスプレス とい う有料の書類配送 ・調査サービス事 業を実施 している。 まず,は じめにその概要 を説明する。具体的サービス内 容 としては以下の通 りである。

① 書類配送サービス ( Do c ume ntDe l i ve r ySe r vi c e s )

本サー ビスは,図書館に物理的に赴 かず とも,所定の申込用紙 に記入すれ ば,新聞,雑誌,特許,政府刊行物,報告書のコピーを入手で きるサービス である。サービスの料金は,下記の料金表の ように, どれだけ迅速にその資

* 1 7 NYPL エクスプ レスの内容については ,NYPL の科学技術情報館 ( SI BL)館長ほか

に対 し,2004 年 3 月に行 った インタビュー及びその際入手 したパンフ レッ ト等の資料 に

基づいている。

(19)

法政 策 を分 析 す る基 準 の検 討

‑ 「 Fa i r n e s s 」 ( 公正 ,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 1 9 5 料 を入手で きるかに応 じ, 3 つのランクに分かれている。例 えば,申し込み 翌 日に郵送 される Rus h サービスの場合は 3 5 番 ( 1 0 頁分のコピー料金 を含む) がかか るの に対 し,通常 ( St a ndar d) のサービス として 3I4 日待 つ場合 は 1 5 番とな っている。

( ∋ 調査サービス ( Re s e a r c hSe r vi c e s ) *1 8

本サービスは,図書館の持つレフ ァレンス機能 を活用 し,利用者 に代わ り 必要な情報 を調査 した上で提供するサービスである。上記の書類配送サービ スが必要な情報が特定で きている場合であるのに対 し, このサービスは,図 書館が行 っているレファレンスサービスと同様,あ る特定の調査項 目に対 し, 図書館 の有 す る情報 の検索 ,他機関への調査等 を実施 して必要 な情報 を調 査 ・収集 し提供す るサービスであ る。利用者 としては,投資銀行 ( I nves t ‑ me ntBa nk) や法律事務所 ( La w Fi r m) か らの受注が多い ようであ り,具 体的には,例 えば, タバ コ関係の訴訟 ( ガンな どの病気 になった としてタバ

( 料金表)

資料送付サービス

料金 要する時間

St a nda r d 1 5 番 ビジネスデイ 3‑4 日 Ne XtDa y 2 5 番 翌営業 日C C ) 終業まで Rus h 3 5 番 同 日

調査サービス

料金 要する時間

St a nda r d 75 番/ 1 時間 最低 2 週間 Ne XtDa y 9 0 番/ 1 時間 最低 3 営業 日

荏)資料代には最初の1 0 頁のコピー代を含む ol O 頁を超 える場合は,一枚当た り 25 セン トが 追加課金 される。

出典) NYPLホームページ ( ht t p: // www. nypl . or g/ e xpr es s ) ニ ュー ヨーク公共図書館案内リーフレット等

* 1 8 具 体的 には, 申込 様式 に調査依頼事 項 を記 入 し,調 査依頼 に関 し申込者 との間で議 論 を行 い,調査費用 についての調整 を行 った上 で ( 料 金 を左右 す る 「調 査 時 間」等 につ

いで情報交換 を行 う。),調査 を実施す る。NYPLExpr essのホームペー ジ参照

(20)

1 9 6 経 営 と 経 済

コ会社等 を訴 える訴訟)があった とき,タバ コの歴史,タバ コの成分な どタ バ コに関するあ らゆ る背景情報の収集 を要求 された例があった ようである。

法律事務所の資料室 には,法令関係の資料は備 えているが, この ような歴史 や科学の情報は蓄積 していないので ,NYPL へ調査依頼が来ている。また, 個人か らも自分の先祖 に関する質問がある。例 えば先祖が移民 として, どの 船 に乗 って,何年 にニ ュー ヨー ク港 に入港 したかを調べたい といった調査依 頼があ り,それに応 じてサービスを提供 しているとの ことである。

本サー ビスは,通常,公共図書館が無料で行 っているレフ ァレンスサービ スで十分 に満足で きない場合,あるいは通常 より迅速なサービスが必要な場 合に対応 した ものであると説 明されている。そ して, この ように,「 公共財」

として提供すべ き範 囲を超 えた情報の提供は,公共図書館の 「 無料原則」 に 反 しない と思われ る。何故な らば,無料原則は上述の ように,「公共財」の 提供 とい う正当化根拠 に基づ くものであ り,「 公共財」の提供 にあた らない 情報の提供であれば,私的情報の提供 と同様,利用者 との間で取引を行 うこ とを通 じて市場 メカニズムによ り最適の需要 と供給が達成 され,社会的効用 が増進す る と考 えられるか らである。

他方で,現実には, どこまでのサービスを 「 公共財」 として無料で行い, どこまでのサービスが 「 通常」のサー ビスを超 えるもの として有料制を認め るかの判断基準を一律にに設定するこ とは困難である。 NYPL エクスプ レ スは,その判断を利用者の判断にゆだねていると評価で きる。すなわち,過 常の無料 の レファレンスサービス と有料のサービスの双方を用意 し, どち ら を利用す るかについて,利用者 に判断をゆだねるかたちで,サービス提供 を 行 っているのである。

次に, この ように公共図書館で情報 を有料で提供することは,上記の よう

に 「 公共財」の提供 とい う公共図書館の使命か らは逸脱 しない としても図書

館経営上妥当かの判断は別途必要であ る。公共図書館が,民間の情報提供機

関 と競合 して,このサービスを有料で実施する能力があるか否か という問題

(21)

法政策 を分析す る基準の検討

‑ 「 Fa i r n e s s 」 ( 公正,正義)基準 と 「 We l f a r e 」 ( 社会的効用)基準 との対比 ‑ 川丁 である。情報調査 とい う市場において,シンクタンクな どの,情報提供機関

との間の競争 に優位性が得 られないのであれば,純粋な経済活動 として収益 を得 ることがで きず, したがって,損失を発生 させる前 にそのサービスか ら 撤退すべ きだか らである。 この点について詳 しく議論する余裕はないが,公 共図書館の有する情報蓄積 ( 書籍,雑誌,その他の資料) とい う資源は,他 のシン クタンクな どの調査機関に対 して競争上の優位性を有 している場合が ある。 したがって,公共図書館が, この分野 に参入する余地は十分にある と 考 え られる。繰 り返 しになるが,この場合の判断基準は 「 公共財」であるか 否か ということではな く,純粋 に企業活動 としての,市場での競争優位があ

るか否 か とい う基準,すなわち収益性があるかが基準 となることになる。

以上の ように,情報の種類が多様化 し,情報提供手段 も多様化する現代 に あっては,一律に図書館の提供する情報 は 「 無料」 との原則に拘泥するので はな く,あ くまで もその無料制の意義を考 え ,「 We l f a r e 」 ( 社会全体の効用) の増進 との観点か ら無料原則が必要 か否かを判断することが重要なのではな いだろ うか。 さ らには,その公共図書館の意義を損なわない範 囲で,図書館 自身がその能力があるのであれば, 自らの資源である ところの情報 リソース を活用 して,有料事業を収益事業 として営む ことが考 え られるのではないだ ろ うか 。「 Wel f ar e 」 ( 社会全体 の効用) の増進 とい う基準 か ら,そ して

「 Fa i r ne s s 」 ではな く 「 We l f a r e」 とい う基準 を唯一の基準 として公共図書 館の提供す るサービスを考 えた場合は, この ような結論が得 られることにな

る。

結 び

本稿では,まず 『 Fa i r ne s sve r s usWe l f a r e』の中で展開されている議論 ,

すなわち法制度の分析は 「 We l f a r e 」基準のみで行 うべ きであ り ,「 Fa i r ne s s 」

基準 を採用 すべ きではない とい う議論 を紹介 した。本書では ,「 We l f a r e」

(22)

1 9 8 経 営 と 経 済

を基準をせず ,「 Fa i r ne s s 」 の名の下 に,あるいは, より暖味な 「 社会規範」

を無批判 に強調することで,結果 として社会全体の効用 を低下 させる法制度 となる危険性が指摘 された。その上で, この議論の具体的な適用 として,本 稿では,公共 図書館の 「無料原則」 について検討 し ,「 We l f a r e 」 基準は, 現実に生 じている商用データベースの有料制導入の可否,情報提供サービス の有料制の可否 について,有効な分析枠組み とな り得 ることを示 した。

今後 とも引 き続 き, この分析枠組みの有用性 について,様 々な法制度の分 野で検証 してみることとしたい。

参 考 文 献

Ka pl o w,Lo ui sa ndSt e ve nSha ve l l ,Fa i r ne s sve r s usWe l f a r e,Ha r va r dUni ve r s i t yPr e s s , 2 0 0 2

Sha ve l lSt e ve n,Ec o no mi cAna l ys i so fAc c i de n tLa w,Ha r va r dUni ve r s i t yPr e s s ,1 9 8 7 Sha ve l lSt e ve n,Fo unda t i o no fEc o no mi cAna l ys i so fLa w,TheBe l kna pPr e s so fHa r va r d

Uni ve r s i t yPr e s s ,2 0 0 4

平井宜雄,法政策学 ( 第二版),有斐閣 ,1 9 9 5

ロバー ト ・D ・クー グー, トーマス ・S ・ユー レン著,太 田勝造訳,新版法 と経済学,商 事法務 ,1 9 9 7

宍 戸 善 一 ,常 木 淳 ,法 と経 済 学 〜企 業 関連 法 の ミクロ経 済 学 的 考 察 ,有 斐 閣 ,2004

参照

関連したドキュメント

Pixiv

者であったが、 「動機づけ支援」のみ実施した場合などには、可能な範囲でそ

あった。定量下限値は、15 物質が 0.01 g/mL 以下、56 物質が 0.02〜0.1 g/mL、43 物質が 0.2〜1 g/mL であった(表4)

第 5 期科学技術基本計画における「若手研究者の育成・活躍促進」施策の位置づけの確認

1.1 記述の範囲 ある図書 を他の図書か ら識別する第 1 の要素は書 ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ ヽヽヽヽヽヽヽヽヽヽ 名である。

図4 ポンプの構成図

 このような破壊対象の拡散は,また他方でゲリ

1.4 特徴 第 1期は戦後すぐに始まった図書館学教育の時代である。第 2期は日図協によって図書館学教育の