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JAIST Repository: システムデザインの技法を用いた科学技術イノベーション政策の可視化と共創 : 事例分析

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Academic year: 2021

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Japan Advanced Institute of Science and Technology

JAIST Repository

https://dspace.jaist.ac.jp/ Title システムデザインの技法を用いた科学技術イノベーシ ョン政策の可視化と共創 : 事例分析 Author(s) 調, 麻佐志; 鳥谷, 真佐子; 白川, 展之; 小泉, 周 Citation 年次学術大会講演要旨集, 35: 504-506 Issue Date 2020-10-31 Type Conference Paper Text version publisher

URL http://hdl.handle.net/10119/17372

Rights

本著作物は研究・イノベーション学会の許可のもとに 掲載するものです。This material is posted here with permission of the Japan Society for Research Policy and Innovation Management.

(2)

2C23

システムデザインの技法を用いた

科学技術イノベーション政策の可視化と共創 ─事例分析

○調麻佐志(東京工業大学),鳥谷真佐子(慶應義塾大学),白川展之(新潟大学), 小泉周(自然科学研究機構) 1. はじめに 現代の科学技術イノベーション(STI)政策は,多様なステークホルダーの関与が前提となる多数の施 策群から成り立つ複雑性の高いものとなっている。そのため,政策全体の論理構造が掴みにくく、その デザインが困難になっている。前報告(2C22)では、異なる立場のステークホルダーがシステム全体に ついての共通認識を持って政策のデザインをしていくのに有効な方法として、システムデザインの考え 方・技法を用いた政策の全体構造の可視化と分析の方法を提案した。続く本報告では、第5 期科学技術 基本計画の中から「若手研究者の育成・活躍促進」施策を取り上げて、そこにシステムデザインの技法 (バリューグラフ法、enabler 法、因果ループ図)を適用した具体的な事例の分析を紹介する。 2. 第 5 期科学技術基本計画における「若手研究者の育成・活躍促進」施策の位置づけの確認 すでに述べてように前報告で第5 期科学技術基本計画全体をガバナンスアーキテクチャフレームワー クに従って構造化し、その可視化を行った。「若手研究者の育成・活躍促進」施策を分析する本報告では まず、その中から関連する(階層)構造に着目して、当該施策の位置づけを確認しよう。 図 図 11「「若若手手研研究究者者のの育育成成・・活活躍躍促促進進」」施施策策のの位位置置づづけけ 図1 は、第 5 期科学技術基本計画全体の構造の中から、本報告で注目する「若手研究者の育成・活躍 促進」施策以上の階層(近接のものに限る)を取り出したものである。○○の改革、○○改革の強化や 推進といった実質の伝わらない題目がいくつか立っているという問題こそあるものの、科学技術イノベ ーションの基盤的な力の強化という政策の基本方針に対して、広い意味でのリソースに着目した3つの 柱(人材・基盤(制度・組織等)・資金)を立てて要処をカバーしている。その中で、人材力の強化とい う戦略目標は人材そのものの強化とその運用の改善(多様性確保と流動化)という2つの戦略目標にブ レークダウンされており、前者を実現するための戦術的なシステム要件の一つとして若手研究者の育 成・活躍が位置づけられている。 このような図1に示された構造を、下位項目が上位項目の実現に必要な要素(イネーブラー)となっ ているかという観点で見ると、上下の階層関係は概ね適切であるとみなせそうである。つまり、多少短 科学技術イノベーションの基盤的な力の強化 人材力の強化 知的プロフェッショナルとしての人材の育成・確保・活躍 若手研究者の育成・活躍 多様な人材の育成・活躍 大学院教育改革の推進 次世代STI人材の育成 人材の多様性確保と流動化の促進 女性の活躍 国際的な研究ネットワーク構築の強化 分野、組織、セクター等の壁を越えた流動化 知の基盤の強化 資金改革の強化 基盤的経費の改革 公募型資金の改革 国立大学改革と研究資金改革との一体的推進 2C23 ― 504 ―

(3)

絡に述べれば、「若手研究者の育成・活躍促進」が達成されることは、科学技術イノベーションの基盤的 な力の強化に必須と言えよう。 3. 「若手研究者の育成・活躍促進」施策の構造 一方で「若手研究者の育成・活躍促進」施策の中身が、科学技術基本計画の中でどのように描かれて いるかを確認すると、不思議な構成をしていることがわかる。図2は、その構成をガバナンスアーキテ クチャフレームワークに沿って表記したものである。ここで注目すべきは、「若手研究者の育成・活躍促 進」施策の下位レベルに、シニア研究者の処遇にかかる一見したところ直接関係がない事業(operational な要素)が現れている点である。 確かに若手育成・活躍促進施策とシニア研究者の処遇にかかる事業の間に「キャリア段階に応じて能 力と意欲を発揮できる環境の整備」という項目が置かれているが、その事業内容は若手研究者の育成・ 活躍に直接つながるものとなっていない。ところが、その事業には明示されない「シニア研究者の人件 費削減」という目的があると想定すれば、意味は容易に理解できる。すなわち、シニア研究者の人件費 削減によって発生する余剰資金を若手研究者の雇用拡大やその他の関連施策の原資として「若手研究者 の育成・活躍促進」を実現しようとしていることが浮かび上がる。その意味ではシニア研究者の処遇に かかる事業は「若手研究者の育成・活躍促進」達成を可能にする要素といえなくはない。 図 図 22 「「若若手手研研究究者者のの育育成成・・活活躍躍促促進進」」施施策策のの構構成成 4. 「若手研究者の育成・活躍促進」施策の構造がもたらす影響 それでは、「若手研究者の育成・活躍促進」施策にシニア研究者の処遇にかかる施策群(事業)を位置 づけることによって政策システムの上位の目標にどのような影響を与えると考えられるだろう。影響の 予測のために、「シニア研究者の処遇にかかる施策群の強化」という項目を中心とした因果ループ図に よる分析を行った。図3がその因果ループ図である。 因果ループ図から判断すると、大きく2 つの影響があるだろうと推測される。第一に、ある意味当然 ながら、シニア研究者の研究スタイルに変化が生じ、そのモチベーションの低下が起きることが予想さ れる。第二に、さらに深刻な影響であるが、研究職、特に大学を含む公的機関における研究職の魅力の 低下が予想される。シニア研究者の人件費の削減は当然研究職の生涯賃金の期待値低下につながり、ま た当該事業の一部である研究者の流動化の促進はすなわちキャリア全般に渡って研究者の身分が不安 定となることを意味する。このことは、間接的に若手の研究職キャリア選択の回避という深刻な帰結に つながるので、若手研究者の育成・活躍にも負の影響をもたらす。 この大きな2つの影響はさらに因果の連鎖を通じて、日本の科学技術イノベーション(STI)のあり 方に深刻な影響を与えることも考えられる。図3の因果ループ図における2 つの自己強化型ループ(R1 とR2)は、国内企業と国内大学の魅力は Win=Win(あるいは lost=lost)となるいわば運命共同体の関 係にあることを示唆している。そして、研究職の魅力低下やシニア研究者のモチベーション低下は間接 的にこの関係に悪影響を及ぼす。 一方、「シニア研究者の処遇にかかる施策群の強化」を要素とするループには、2 グループ計 7 つが示 されている(図3)。まず自己強化型ループにはR3、R4、R5、R6、R7 がある。R7 は(「競争圧」を上 げ)競争的な研究環境になれば「近視眼的な研究テーマ」が増え、「STI の基盤的な力」は下がることを 目指すべき国の姿:①持続的成長と地域社会の自律的発展/ ②国及び国民の安全・安心と豊かで質の高い生活/③地球規 模課題への対応と世界の発展への貢献/④知の資産の持続的 創出 若手研究者の育成・活躍 博士課程修了後のキャリアパスを明確化 キャリア段階に応じて能力と意欲を発揮できる環境の整備 若手が挑戦できる任期なしポストの拡充 シニア研究者に対する 年俸制やクロスアポイントメント制度の導入 人事評価の導入と評価結果の処遇への反映 再審査の導入 外部資金による任期付雇用への転換促進 テニュアトラック制 運営費交付金における重点配分や法人の業務実績評価等の枠組みなどと連動させた上記人事システム の導入促進 若手研究者のための研究費支援等の取組を推進 優れた若手研究者が独立して研究できるようにする制度 公募型資金の直接経費から研究代表者等への人件費支出を可能とする直接経費支出の柔軟化の検討 ― 505 ―

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示している。その逆の状況が、今世紀になっての日本のノーベル賞ラッシュにつながる「古き良き時代」 に見いだされる。科学者のcuriosity-driven な研究活動の結果、オリジナルかつユニークな研究が実施 され、STI の基盤的な力が向上するという好循環が生まれていた。ただ、いずれにせよ、B1 の平衡型ル ープがあるため一定レベルに収束していくので、近視眼的なテーマは生産性を上げるが長期的なテーマ は生産性を上げにくいというジレンマが存在すると解釈できる。 さらに、R5 と R6 という2つの自己強化型ループは、シニア研究者の処遇向上こそが研究職の魅力を 高め優秀な若者を研究職に引きつけ、その結果「STI の基盤的な力」が高まるといったように文字通り の好循環を生むことを示唆している。また、R3 と R4 も、「シニア研究者の人件費」が上がり、「シニア の雇用の安定性」が増せばシニア研究者のモチベーションが上がり、STI の基盤的な力が向上するとい うもう一つの好循環である。これらは研究者にとって自明の関係(ロジックモデル)であろう。 図 図 33 「「シシニニアア研研究究者者のの処処遇遇ににかかかかるる施施策策群群のの強強化化」」とといいうう項項目目をを中中心心ととししたた因因果果ルルーーププ図図 5. おわりに 本報告では第5 期科学技術基本計画における「若手研究者の育成・活躍促進」施策を事例として、シ ステムデザインの技法を用いた科学技術イノベーション政策の可視化を実施した。その結果、多様なス テークホルダーの関与が前提となる多数の施策群から成り立つ複雑な政策体系全体の論理的な構造を 明らかにし、それが全体としてどのような問題を生み出し、あるいは影響をもたらすかについて比較的 わかりやすい形で表現し、コミュニケートすることが可能となった。 参考文献

鳥谷・白川・小泉・調(2020a),システム思考の科学技術イノベーション(STI)政策(前編),STI Horizon,

6(2),DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00218.

鳥谷・白川・小泉・調(2020b),システム思考の科学技術イノベーション(STI)政策(後編),STI Horizon,

6(3),DOI: https://doi.org/10.15108/stih.00219.

参照

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