ポルトガル民法典―素描:アンドレ=ペレイラ
著者 加賀山 茂, 今尾 真, 阿部 満, 大野 武, 伊室 亜
希子
雑誌名 明治学院大学法学研究 = Meiji Gakuin law journal
巻 84
ページ 97‑122
発行年 2008‑01‑31
その他のタイトル Andre PEREIRA: Portuguese Civil Law ―a brief survey―
URL http://hdl.handle.net/10723/1997
【翻 訳】
ポルトガル民法典――素描
(1)アンドレ=ペレイラ
(2)(監訳)加賀山 茂
(訳)今 尾 真 阿 部 満 大 野 武 伊 室 亜希子
序
1549年,フランシスコ=ザビエルは,鹿児島に到着して,初めて,「南蛮
(南方の蛮人)」と日本人との結びつきを確立した(3)。文化間の重要な交流がこ のとき生じ,日本,ポルトガル及び人類全体に大きな利益をもたらした。
数世紀後,民法に関して,ユーラシア大陸の両極に位置する二国が,共通の 文化を分かち合っている。すなわち,二つの民法典は,フランスの法的文化と ドイツのパンデクテン学派からの影響を融合している。
これから簡単にポルトガルの歴史を振り返った後,ポルトガル民法典につい て述べることにしよう。その後,ポルトガル法の基本的特徴を論じ,人権の保 護,不法行為制度,契約法における信義誠実の重要性,最後に所有権移転にお ける意思主義の原則に焦点をあてることにしよう(4)。
1.ポルトガルについての幾つかの事
最初のポルトガル国王D. Afonso Henriquesが,1143年に,レオン王国(現 在,スペインの1州)から独立を獲得して,ポルトガルを建設した。独立と権力 の象徴として,コインブラ大学が1290年に創設された。このように,ポルト ガルは,ヨーロッパ屈指の歴史の古い国家であり,13世紀以来,(イスラムに 対する)非常に安定した最前線であった。
1498年,ヴァスコ=ダ=ガマは,大西洋とインド洋を横断し,南アフリカ の南端(喜望峰)を通過して二つの大洋を結んでインドに到達した。ポルトガ ル(商業)帝国が確立され,ヨーロッパと中国・日本を含むアジアとの強力な 結びつきが創設された。
18世紀以来,ポルトガルでも,主要なヨーロッパ諸国で見られた政治的・
文化的運動が生じた。1822年に自由主義革命が起こった。1910年,共和制が 樹立され,君主制は崩壊し,そして1926年から1974年まで,ファシズム体制 がこれに取って代わった。
1974年,革命が起こり,1976年に憲法が改正された。それ以来,政治体制 は,民主制となり,憲法体系には次の統治機関がある。共和国大統領,議会,
行政府,裁判所である。大統領と議会は,国民による直接・秘密・定期の投票 で選ばれる。
ポルトガル は,リ ス ボ ン が 首 都 で,面 積92,142km2,人 口10,599,095人
(2006年現在)である。
ポルトガル語は,ラテン系で,世界で三番目に広く使用されているヨーロッ パ語であり,2億人以上の母国語になっている。ポルトガル語が公用語である 国々は,アフリカでは,アンゴラ,カボ・ヴェルデ,ギニア・ビサウ,モザン ビーク,サオ・トメ・プリンシペ,南アメリカではブラジル,アジアでは東チ モールがある。日本にも成長しつつあるブラジル人コミュニティーがあって,
カモエス(Camo〜es)(5)の言葉を広めている。
2.国外でのポルトガル法の影響
ポルトガル法は,国外で,とりわけポルトガル語を話す国々で,かつても,
また今でも一定の影響力を持っている。アフリカの旧植民地には,独立が 1975年になって初めて達成されたので,1966年民法典(家族法と相続法を除く)
が今なお適用されている。
1999年からは,ポルトガルの民法典の基本部分が,マカオ(中華人民共和国 のマカオ特別行政地区)で施行されている。さらに,東チモールの法的支援は,
この若い国に対するポルトガルの主要な支援活動の一つである(6)。
3.ポルトガル民法典――「注釈学派」から「パンデクテン学派」へ
これから,ポルトガル民法典を見ていくと,ポルトガル民法と日本民法の幾 つかの類似性が分かるであろう。
日本におけると同様(7),19世紀には,フランス法は,多くの影響を及ぼした が,20世紀には,ドイツの学説がより影響力を持つにようになった。われわ れの最初の民法典が,「注釈学派」の果実であるとすれば,次なる民法典は「パ ンデクテン学派」の新たな成果である。1867年(8),最初のポルトガル民法典が,
ナポレオン法典の影響を受けて,制定された(9)。
1世紀後の1966年,新しい民法典が制定された(1967年6月1日施行)。 ツバイゲルトおよびケッツ(10)は次のようにコメントしている。この法典が,
「外国法制―特に,ドイツ,スイスおよびイタリア―に巧みな配慮をしている という点で注目に値し,ポルトガル私法がいまだラテン法系に入れるべきか否 か迷うほどである」と。
しかしながら,ラテン法系,ドイツ法系,ノルウェー法系の区別は,もはや 認めるべきではない。これらすべての法体系は,大陸法系に属している(11)。イ タリア,ポルトガルのような法体系は,フランス法とドイツ法両方の多くの共 通の特徴を持っているので,体系化することが困難であろう。
日本民法典と同様,ポルトガル(民法典)の立法者は,労働法と商法を民法 典に入れないことを選択した。もっとも,民法典がこれらに補充的に適用され ることは否定されない。それゆえ,「古典的」私法のみが,民法典の2334条の 中に見いだされることになる。この点で,1942年のイタリア民法典よりむし ろ,1900年ドイツ草案(BGB)が踏襲された。
さらに,BGBのパンデクテンの編別が厳格に踏襲された(12)。したがって,
民法典は5編に区分されている。第1編―総則(Allgemeiner Teil),第2編―債 務法(Obligationenrecht),第3編―所有権法及び物に対するその他の権利(Sachen- recht),第4編―親族法(Familienrecht)及び第5編―相続法(Erbrecht)。
親族法および相続法に関しては,1977年に大改正があった。すなわち,民 法典が,1976年の新たな民主的憲法に適合するように改正されたからである。
夫と妻の平等,婚外子の非差別,カトリック教徒の離婚なども,そして生存配 偶者の強力な相続権(inheritance position)といった事柄が,幾つかの主要な改 正点であって,これらはポルトガル家族法をヨーロッパの基準に戻した(13)。
結論として,ポルトガルの民法の主要な部分は,ドイツ法(法典の構成では,
抽象的な概念を含む総則の存在,不法行為の規制など)から,そして,所有権法お よび特別な契約の分野ではフランス―イタリア法から,影響を受けている。さ らに,ポルトガルの立法者は,スイス債務法典(14)およびギリシャ民法典(15)のよ うな他の現代民法典を考慮に入れた。
2.ポルトガル民法のいくつかの争点
A 人格権
自然人に関する法では,法的人格は,「完全にかつ生きて出生」することに よってのみ獲得され,そして死亡時に消失する。すべての人は,等しく権利能 力を持つ。満18歳で成年となり,完全な行為能力が与えられる(16)。
(ポルトガル民法典には)人格権についての章が設けられている。
一般的人格権(Allgemeines Persoenlichikeitsrecht)―1954年にドイツ連邦裁判 所により創設された(17)もの―が,民法典の70条により認められた(18)(19)。
これは,いわゆる枠組み的権利(Rahmen―recht)であり,民法典以外で発見 される特定・個別的権利によって補充されていくことが予定されている。民法 典72〜80条に,氏名,名誉・評判・信用,肖像,プライバシーおよび画像や 私信の公表などのような個別的な人格権が規定されている。
このほか,人格形成の自由(20),遺伝的データの保護,医療データの秘密,イ ンフォームド・コンセント,情報を知らないでいる権利(21),休息の権利(22)など の新しい人格権が,憲法,刑法,国際条約,判例法などの民法以外の法源に見 いだされている。
人格権が侵害された場合の救済手段は,損害賠償のみではなく,原状(in kind)回復措置及び差止命令がある(70条2項)(23)。
「20世紀は,契約と,信義則(Treu und Glauben)による契約の純化の時代で あり,21世紀は,まさに人格権の時代となりうる」といえよう(24)。事実,ポ ルトガルでは,過去20年間,人格権侵害を理由とする不法行為の研究と裁判 実務が積み重ねられてきた。以下のような権利を認める判決がある。a)生命
の権利,すなわち死亡に対する損害賠償を求める権利,b)良好な環境に対す る権利の是認(consecration),c)健康,休息,静穏に対する権利および,d)
特にマスメディアによる攻撃に対する,名誉・評判・信用の権利の強化。
B 不法行為法――非財産的損害,とりわけ死亡の場合
Ë)非財産的損害についての一般論
非財産的損害については,ポルトガル民法典496条に規定されている。
「損害賠償責任の判断に当たっては,その深刻さゆえに法律の保護に値す る非財産的損害が考慮に入れられなければならない」
この規範は,ペットや物(例えば家族の宝物や贈り物)が損傷された場合にも 非財産的損害の賠償が認められる可能性を閉め出すものではないものの,ポル トガルの判例法は,何が「法律の保護に値する」のかの判断については,従来 から慎重かつ限定的である。
他方,判例法は,契約責任の分野でも,非財産的損害が賠償されうることを 受け入れている。この問題に関しては,学説が分かれている(25)。
Ì)死亡における非財産的損害
死亡の場合の非財産的損害についてのポルトガル法と日本法の一致を指摘し たい。
ポルトガル民法典496条によれば,
「¹被害者が死亡した場合,非財産的損害に対する賠償権は,法的に離婚 していない配偶者……及びその子供達又はその他の卑属;それらの者がい ない場合には両親又はその他の尊属,並びに最後に兄弟姉妹又はこれを代 襲する甥姪に対して,連帯して認められる。
º損害賠償の額は,いかなる事件でも,494条に列挙されている諸状況 を考慮して,裁判所により公平に定められる……;死亡の場合は,被害者
が被った非財産的損害ばかりでなく,前項で賠償を受けることができると された者が被ったこのような損害も考慮されるべきである。」
この規定は,解釈するのが容易でない。しかしながら,ポルトガルの文献(26)
および判例法によれば,死亡の場合次の三つの(あり得べき)非財産的損害が 賠償され得ることになる。¸被害者の「生命の喪失」,¹死亡以前に被害者が 被った損害,º親族が被った損害。
ポルトガル法は,死亡のそのときにその者の法的領域(legal sphere)が終了 するにもかかわらず,死亡損害(dano da morte)を認めている。ポルトガルの 学説によれば,他のすべての人格権が保護と賠償(非財産的損害について)に値 するとするならば,人格権の中でもっとも重要な権利(生命の権利)にも同じ く保護と賠償が適用されるべきであるから,この規範は正当であるとしてい る(27)。
死亡の場合に賠償されるべき額に関しては(個々の 死亡損害=死亡慰謝料 に関しては)学説上一定の議論がある。学者達の中には,すべての者に対して 等しく賠償されるべきであるとする者もいれば(憲法の平等原則を論拠として)(28), 損害賠償算定の一般的ルールが適用されるべきであると主張する者もいる。
しかしながら,最高裁判所(Supreme Court of Justice)は,2002年1月25日 の判決(29)で,生命の喪失に対する賠償額の算定にあたっては,亡くなった者の 具体的な諸事情が重要であると判示した。被害者が長い余命への期待と彼女の 前に約束された将来がある24歳であった事実が考慮されるべきであるとした。
DWORKINもこれと同じことを述べている(30)。
「私は今,正義や正しさや公平についてではなく,人生の悲劇と消耗につ いて問うているのだ。それ故,生命の神聖さに対する侮蔑とは別の根拠に 基づいている。…ある若い女性が飛行機事故で死亡することは,年老いた 男のそれよりも悪い。その若い女性は,事故に遭わなければもっと長く生 きられたであろう。…しかし,このことがいかに悪いことなのか−いかに
大きな失望であるか−は,事故が起きたときの人生の段階による。なぜな ら,その人が自分の人生に投資して,もし実質的に投資の目的が成し遂げ られたあるいはほぼ成し遂げられたに近くなった後に事故が起きたとすれ ば,失望はより少ないのだから。」
事実婚パートナーが死亡した場合の他方のパートナーの損害賠償請求権は,
ポルトガルの判例法の論点の一つである(31)。伝統的な判例は,事実婚による パートナーに損害賠償を容認しない(32)。
2002年,憲法裁判所は,ある特別な事件で,この規定(訳注:賠償請求権者 に関する民法典496条2項。前出)は,憲法違反であると判示した(33)。この憲法 裁判所の判決は,結婚していないカップルの幾つかの権利を認める方向におい て画期的な判決であった。憲法裁判所は,憲法36条(家族を形成する権利)が あらゆる種類の家族を保護しているので,この規範は違憲であるとし,民法典 496条は,(2年以上一緒に住んでいる)パートナーが他方パートナーの死亡につ いての非財産的損害の賠償を受ける権利を排除すべきではないと判示した(34)。
Í)致命的ではないが極めて重度な傷害を負った被害者と緊密な関係を持つ者 が被った非財産的損害
前述した死亡の場合を除くと,ポルトガルの裁判所では,(たとえ近親であっ ても)第三者が被った非財産的損害は通常賠償されない。 しかしながら, 最近,
第三者の損害賠償を認めるいくつかの判決が出されている。2003年6月29日 ポルト控訴院での判決と1998年11月25日の最高裁判所の判決である。
最初のケース(ポルト控訴院2003年6月29日判決)は,X氏が交通事故で性的 不能を含むいくつかの傷害を被った。原告であるX氏の妻は,不法行為者の保 険会社を相手取り,彼女の非財産的損害(夫と性交渉を持てなくなったことを含む)
を主張して訴えを提起した。裁判所は,婚姻契約は,夫婦の相互的な同居義務
を発生させ(民法典1672条),この中には定期的な性生活が含まれ,これが現 在不可能になっているので,この損害は直接損害であるとした。婚姻は,貞節 義務も発生させる(民法典1672条)。さらに,事故の時点で,妻は生物学上の 母となり得たはずであり,このことは,別の「権利」(憲法68条;母性の保護)
も影響を受けたことを意味する。要約すれば,裁判所は,家族法の諸規範およ び一般的人格権(民法典70条)に基づき,婚姻関係上の性生活に対する権利が 存在するとし,保険会社は,「被害を被った」女性に対して非財産的損害に対 する賠償を支払うことを命じた。
これと類似のケースで,2005年3月8日の最高裁判所で類似の結論の判決 が,また下された。
しかしながら,この1年後,最高裁判所(2003年11月4日判決)は,結婚し ないパートナーには非財産的損害の賠償を受ける権利がないと判示した(35)。
もう一つのケース(1998年11月25日の最高裁判所判決)(37)では,ある子供が重 度の傷害を受けた。両親は,自分たち自身の非財産的損害に対する賠償を主張 した。判決は,家族法上の親権関係が存在し,その中には子供の健康な成長を 見守る権利が含まれるとし,両親に賠償を与えた。
Î)臨機応変(ad hoc)な減額
フランス法やドイツ法と異なり,ポルトガル法は,オール・オア・ナッシン グ的解決を押しつけていない。事実,1967年にポルトガルの立法者は,単な る過失行為の場合に損害賠償の制限を導入した(38)。過失による不法行為の場 合,裁判所は,被告が全損害についてまでは責任を負わないと判決することが できる。過失の程度,被告と被害者の経済的地位,その他事件の諸状況など が,裁判所が考慮に入れる基準となる。
類似のルールは,例えばオーストリーのAGBG,スイス債務法,最近では
ブラジル民法典944条(2003年施行)(39)あるいは新オランダ民法典(6条:109)(40)
に見られる。
ポルトガル民法典の「劇的な(spectacular)な分岐点」であると指摘されて いるように,故意によらない不法行為の場合に過失の程度に応じて損害賠償を 制限しようとする考え方は,民事弁護士に歓迎されている。しかしながら,こ の規範が契約責任(41)や厳格責任(42)に適用されるべきかについては,学説上議論 がある。
この考え方は,少なくとも「寄与過失(contributory negligence)」の場合,ま たはNODIがそれを翻訳したように,「比較過失(comparative negligence)」(過 失相殺)の場合には,日本の法律家にとって親しみやすいものかもしれない。
というのも,ボアソナード(Gustav Boissonade)が過失相殺を1890年の旧民法 に導入し,かつ,過失相殺が日本の法律家の法律感覚と衡平の概念に調和して いると思われるからである。「比較過失」の目的は,「損害賠償の公平な分配」
であるといわれている(43)。
C 契約法
契約法に関しては,法典の各部分において,特に重要な四つの法規範群が存 在する。¸「法律行為」(44):契約の成立,様式,解釈および有効性に関する法 規範を含む。¹契約(45):契約自由の原則(405条),「契約は守られなければな らない」(pacta sunt servanda)(契約は合意されたとおりに,かつ支払期日に履行され なければならない)という原則(406条),そして権限の譲渡の意思主義(principle
of consensuality)のような契約法の主要な諸原則に関連する。また,予備的契
約(46)の規定もここに位置づけられている。º562〜572条(47)は,因果関係,損 害賠償および寄与過失に関する法規範を含む損害賠償義務に関連する。»760
〜816条は,債務の履行および不履行に関連する(48)。¼最後に,第二編第二章 は,特定の有名契約について規定する(49)。
契約法に適用される法規範のこのような分類は,一般的かつ抽象的概念に基 づいた論争と判決の努力によるものである。方法論的には,ポルトガル契約法 はパンデクテン学派の賜物である。
具体的・実質的な分析において,ポルトガル現代契約法は,契約自由の原則
(405条)と信義誠実(good―faith)(善意(Bona fides),誠実かつ信頼(Treu und
Glauben))の原則との間の衡平を確立しようとする。
誠実の原則を適用するいくつかの法規範が存在する。例えば,227条は,契 約締結上の過失(Culpa in contrahendo)理論を定める(50)(51)。契約の「統合」に ついての239条は,信義誠実を契約上の宣言を履行するための最も重要な基準 として用いている。334条は,権利の濫用の禁止を規定する(52)。437条は,「事 情変更の原則」条項を有する(53)。573条は,信義誠実の原則にその根拠を置く 情報提供義務に関連する(54)。762条2項は,信用上の権利の行使だけでなく,
義務の履行においても,当事者は信義誠実の原則に従って行為するものとする
と規定する。そして,812条は,公正性に基づく違約条項の制限を許容する。
他方,「善良の風俗(good morals)」(bonos mores)もまた,特に関連する概念 である。280条2項は,「契約が公の秩序(ordre publique)又は善良の風俗(bo-
nos mores)に反している場合には,契約は無効である」と規定する。
19世紀の典型である, 自由主義的で個人主義的な民法はもはや存在しない。
信義誠実の原則が裁判官に契約関係に干渉することを要求する限り,裁判官が 契約関係に干渉することは今日では許容されている。要するに,契約の自由と
「契約は守られなければならない」(pacta sunt servanda)の原則は,もはや契約 法の唯一の原理ではないということである。信義誠実の原則は,現代の法の社 会性の到達点として,ますます重要な役割を果たしており(55),私的自治の原則
(principle of autonomy)は,形式的な観点においてだけでなく,実質的な観点 においても守られているのである(56)。
最初のポルトガル民法典(1867年施行)は,ナポレオン法典と19世紀の自由 主義的・個人主義的なイデオロギーの明確な影響を受けていた。それに対し て,新法(1966年施行)は,「共同社会主義の」見解をより反映しており,20 世紀前半にヨーロッパで生じた学説上かつ判例上の進化の大部分を導入してい る。
これらの考え方は,不公正契約条項に関する法規範により一層明確であ る(57)。今や信義誠実の原則は,特に契約の解釈における基本原則である。
D 財産権移転(Transfer of title)
Ë)意思主義の原則(Principle of Consensuality)
第三編は,占有権,所有権およびその他の物権について規定している。当該 規定は動産,不動産の両方に適用される。無形財産については別途規律されて いるが(58),しかし民法典も適宜適用される。
ポルトガル財産法の3つの主たる原則は以下のとおりである。
¸ 物権法定主義「numerus clausus」の原則(1306条)
¹ 合意による所有権移転原則(408条1項)
º 公示の原則
日本がギュスターヴ=ボワソナードからプロジェ(project)を受け継いだの と同じように(59),ポルトガルはナポレオン法典の財産権移転の法体系(60)を受け 継いでいる。
民法408条1項は,意思主義を規定している。「特定物に対する物権の創設 又は移転は,契約によってのみ生じる……。」(61)この規定によれば,適法かつ有 効な「効力のある(efficient)」権原( titulus )さえあれば,財産を移転したり,
物権を創設するのに十分である。
他の「形式的な(external)」要件(a modus )は求められない。有効性の要 件すべて(形式,当事者能力,物権移転の適法性,意思表示の瑕疵のないこと(no vices
of the will),命令への適合性など)を満たしているかぎり,契約だけが所有権を
移転する。
これは,自然法と同じく,ナポレオン法典の影響を受け継いでいる(62)。これ らのルールは,不動産だけではなく,動産にも適用される(63)。
ポルトガル法は,非常に厳格な意思主義(the Principle of consensuality)の規
定を有している。実際に,動産の二重売買の事例では,第一買主が保護される。
アナ(Ana)がバーバラ(Barbara)に南蛮の屏風を10万ユーロで売った。
しかしながら,バーバラはその絵画を持って帰らなかった。翌日,カーラ
(Carla)はアナに15万ユーロを提供し,直ちにその絵画を持って帰った。
どちらに絵画が帰属するか。
ポルトガル法によると,当該絵画は,バーバラに帰属する。なぜなら彼女
(バーバラ)は単に契約によって所有権を得たからである。アナがカーラにそ の絵画を売った時には,彼女(アナ)はもはや彼女(アナ)に属さない物を売っ ていた。すなわち,何人も自分が持っている以上の権利を譲渡することができ ない(Nemo plus iuris in alium transferre potest quam ipse haberet)―という所有権の 派生的・伝来的(derivative)取得に関する基本ルールが適用される(64)。
カーラには抗弁がない。すなわち,彼女は善意による(in good―faith)取得で あることを主張することができない。すなわち,「善意取得(possession vaut ti- tre)」は,ポルトガル法では適用されないのである。
同様のことは,不動産にも当てはまる。引渡も不動産登記も所有権取得の要 件ではない。登記は強制ではないし,物権を創設するもの(constitutive)でも ない。登記は任意のものであり,単なる宣言(merely declarative)である(65)。し かしながら,不動産に関する所有権その他の物権の移転契約は,公証人による 公的な不動産譲渡証書(a public deed)でなされなければならない(民法875条 および公証人法80条)(66)。
それにもかかわらず,409条は,所有権留保条項(clauses of reservation of owner-
ship)を認める。したがって,意思主義は,「強制的」ではなく,当事者の私的
自治が優先し,彼らは異なった解決を採用しうる(67)。
Ì)公示の原則,不動産登記および第三者保護
不動産に関する物権は登記されなければならない。しかしながら,ポルトガ ルにおける不動産登記は,単なる宣言にすぎず,登記された不動産の権利を保 有する者は,その限度までその権利を保有するという,反証を許す(iuris tan- tum)推定を定めるにすぎない(不動産登記法7条)。
不動産の保有者は登記しないかぎり,第三者に対してそれを対抗することが できないけれども,登記は強制的ではない(68)。実際に,登記の欠缺は,不動産 登記法5条4項に規定されているように,第三者が同じ不動産を同じ売主から 取得した場合に,買主にとって深刻な結果をもたらしうる(69)。これは「何人も 自分が持っている以上の権利を譲渡することができない」 Nemo plus iuris というルールの例外であり,公示の原則によって正当化される(70)。
Í)動産における公示の原則とは?
ポルトガル法は「占有は権原に値する(善意取得 possession vaut titre )」とい うルールを採用しなかった。したがって動産については善意の第三者の保護は ない。それは伝統的なローマ法のルールにしたがっている。すなわち,何人も 自分が持っている以上の権利を譲渡することができない(Nemo plus iuris in alium transferre potest quam ipse haberet)。
弘子は律子にコンピュータを貸した(原文borrowed)。律子は彼女の友 達のコンピュータを勝夫に売った。勝夫はその事実に気づかなかった。
弘子はまだコンピュータの所有者である。律子と勝夫との間の契約は無 効であるからである。律子は自分に属さない物を売っている(民法892 条)(71)。
したがって,多くのヨーロッパ諸国とは異なり(72),善意で動産を取得した第
三者は,売主(tradens)が適法な所有者でない場合には,所有権を取得しない。
しかしながら,同種の物品を扱う商人から物品を取得した場合には,「経済的 な」保護がある。所有者はその物の所有権を主張したいのなら,善意の第三者 がその商人に支払った価額を支払わなければならない。
Î)登記された動産
ポルトガル法は幾つかの動産(車,飛行機,船舶)について特別な登記制度を 創設した。不動産登記法典の諸原則が適用される(宣言的登記であり(創設的な ものではない(not constitutive),所有権の反証を許す(iuris tantum)推定であること,
など)。しかし,ひとつ重要な違いがある。すなわち,これらすべての事例で は,登記は強制であり,つまり,取得者は登記をする法的義務を負う。そうし ないと取得者は行政当局によって罰せられる(73)。
Ï)何人も自分が持っている以上の権利を譲渡することができない(Nemo plus iuris)原則の例外
ポルトガルの体系は,純粋な意思主義および有因体系(a pure consensual and
causal system)であるので,第三者はしばしば所有権に基づく返還請求権によっ
て影響を受けうる。さらに,所有権に基づく返還請求権には出訴期限がなく,
取得時効(Ersitzung)期間は比較的長い(74)。それゆえ,ポルトガルの立法者は,
善意の第三者を保護するために2つの道具を創設した。すなわち,243条と 291条である(75)。
Ð)物権変動――結論
所有権移転に関するポルトガル法は,意思主義の原則というナポレオン法典 と自然法の伝統を踏襲している。これとともにわれわれの法体系の基本的特徴 は,「何人も自分が持っている以上の権利を譲渡することができない」(Nemo
plus iuris)というルールを非常に厳格に尊重することである。そして,これら
の特徴は,所有者へ過度な保護を与え,合法な取引や商取引にほとんど注意を 払わない,すなわち善意の第三者の利益をほとんど顧慮しないものとみなされ るであろう。
結 論
話は長くなったが要約すると,以下のようになる。
●人格権の保護と人に関する民法の発展(商取引と物に関する民法とは反対に)
は20世紀の潮流である。
●ポルトガルの不法行為法は,人の死亡の場合に特殊な賠償(specific compensa- tion)を定めている。それは生命の権利に対応するもの(the counterpart of the right to life)であると考えられている。
●契約法の諸原則は,「意思の自由と約束は守られなければならない(pacta sunt
servanda)」だけではなく,むしろ,信義誠実(good―faith)の原則が基礎をな
している。さらに,現代の社会法(Social State of Law)の新しい理解として,
契約(the life of the contract)への裁判官の干渉は増加している。
●最後に,所有権の移転について意思主義の原則がポルトガルでは採用されて いる。さらに,多くの国で見られる「善意取得」( possession vaut titre )の ような修正は,導入されなかった。それゆえわれわれの法は,非常に所有者 に有利であるが,他の法体系ほどには,善意の第三者を保護していない。
とても離れているように見えて,しかし実際は民法に関する限り共通点が非 常に多い,とある国へのこの法的な「旅」が,ともかくも皆さんに刺激を与え,
皆さんの国の法体系に新たな洞察をもたらすことを希望する。
注
(1) この講演は,2007年7月18日,東京の明治学院大学で,今尾真教授を介し て,山本研教授の主催するセミナー(共同研究「倒産実体法研究会」)で報告された ものである。この講演の発表の機会を与えてくださった今尾,山本両教授に感謝 したい。また,私を今尾教授に紹介してくださった宮本健蔵教授(法政大学)に も感謝申し上げたい。さらに,当日,司会の労をお取りくださった加賀山茂教授 にもお礼を申し上げたい。
(2) Dr. Andre´ PEREIRA,ポルトガル,コインブラ大学法学部。
andrediaspereira@hotmail.com
(3) Joa〜o OLIVEIRA E COSTA, Portugal and the Japan: the Namban century, Lisboa, 1993.
(4) 詳細は,以下の文献参照。SINDE MONTEIRO et al ., Portugal , in Interna- tional Encyclopedia of Comparative Law, Volume I, Viktor KNAPP(Chief Editor), 1996,185―206; SINDE MONTEIRO/Andre´ PEREIRA, Portuguese Report: Unfair
sureties , in Aurelia COLOMBI CIACCHI(Ed.), Protection of Non―Professional Sureties in Europe: Formal and Substantive Disparity, Baden Baden, Nomos,2007; Andre´ PEREIRA, Portuguese Tort Law: A comparison with the Principles of European Tort Law , in Helmut KOZIOL/Barbara STEININGER(Eds.), European Tort Law2004, Wien―New York, Springer,2005,623―648, and Andre´ PEREIRA, Transfer of Title in Portuguese Law , in Johannes Michael RAINER/Johanna FILIP―FRO¨SCHL(Eds.)Transfer of Title Concerning Movables―Part I: Introduc- tion, Estonia, Italy, Poland, Portugal, Scotland, Slovenia, Spain, Band18, Frankfurt am Main[etc.], Peter Lang,2006,129―153.
(5) Camo〜es(1524―1580)は,ポルトガル最大の詩人である。アフリカとアジアの ポルトガル叙事詩『オス ルシアダス(Os Lusl´adas)』の著者。
(6) Erik JAYME/ Christian SCHINDLER(Ed.), Rechtsentwicklungen in Portugal, Brasilien und Macau, Baden―Baden, Nomos,2002.
(7) Yosiyuki NODA, Introduction to Japanese Law,(translated by Anthony AN- GELO), University of Tokyo Press,1976,41ff.; J. Mark RAMSEYER/ Minoru
NAKAZATO, Japanese Law, an Economic Approach(Studies in Law & Economics), University of Chicago Press,2001; Hans Peter MARUTSCHKE; Einf u¨hrung in das japanische Recht, Mu¨nchen, Beck,1999,87ff.
(8) その同じ日(1867年7月1日),ポルトガルで死刑が廃止された。
(9) 民法典の起草者,Seabra教授は,ABGB(オーストリア),ALR(プロシア民法典), サルディニア民法典のような他のヨーロッパの民法典を研究した。
(10) Konrad ZWEIGERT/Hein KO¨TZ, An Introduction to Comparative Law,3rdEd., Oxford University Press,1998,108.
(11) Johannes―Michael RAINER, Europa¨isches Privatrecht: Die Rechtsvergleichung, Frankfurt am Main[etc.], Peter Lang,2002,57; Antonio GAMBARO/Rodolfo SACCO, Sistemi giuridici comparati, Torino, UTET,2ndEd.,2002,41ff.
(12) Jorge SINDE MONTEIRO, Manuel de Andrade e a influeˆncia do BGB sobre o Código Civil portugueˆs de1966,[2003]Boletim da Faculdade de Direito, Volume Comemorativo,181―207. There is a German version in Eric JAYME/Heinnz―Peter MANSEL(Hrsg.), Auf dem Wege zu einem gemeineuropa¨ischen Privatrecht―100 Jahre BGB und die lusophonen La¨nder(Symposium in Heidelberg,19―30.11. 1996), Baden―Baden, Nomos,1997,29―49.
(13) 基本的な家族法の諸権利(1976年憲法の36条に規定されている)は,子供達およ びその民事能力に対する関係で父と母の平等な権利,法律婚外で出生した子供達 に対するあらゆる形の差別の禁止,両親の子供達に対する教育・看護の義務,裁 判所によって判決された場合および法律に規定する法定家族としての養子の承認 の場合を別として,両親と子供達の別居の禁止などである。
(14) 例えば,第494条は,1911年のスイス債務法典(施行は1912年)の第43条1項 に倣って,損害賠償の制限(特別に)を規定している。
(15) 権利濫用に関する第334条は,ギリシャ民法典の影響を受けた。
(16) 行為能力を有しないものは,未成年,被後見人,persons under curatorshipで ある。
(17) ドイツ連邦憲法裁判所は,1972年のLebach判決でこの権利を認めた。
(18) ポルトガル民法第70条(人格の一般的保護)「法は,個人の物理的ないし倫理的 存在に対する,いかなる不法な侵害ないし侵害のおそれから個人を保護する」
(19) See CAPELO DE SOUSA, O Direito Geral de Personalidade, Coimbra, Coimbra Editora,1995.
(20)(ポルトガル憲法)第26条は,次のように規定している。(その他の人格権)「第1 項 すべて人は,人格の同一性についての権利,人格形成についての権利,私 権,市民権,名誉権,嗜好性についての権利,speak outの権利,個人とその家
族のプライバシーを守る権利,あらゆる種類の差別に対する法的保護を求める権 利を持つ。」
人格形成の自由についての権利は,1997年のポルトガル憲法改正によって認 められた。これは,ドイツの判例法と論文から大きく影響を受けている。See Paulo MOTA PINTO, O Direito ao Livre Desenvolvimento da Personalidade , in Portugal―Brasil―Ano2000, Coimbra, Coimbra Editora,2000,149―246.
(21) 人権とバイオメディシンに関する条約第10条2項(ヨーロッパ審議会,1997年)。 Art10(2)Convention on Human Rights and Biomedicine(Council of Europe, 1997)
(22) 先駆的判決であるリスボン控訴裁判所1960年3月2日判決(Lisbon Court of Ap- pealof2March1960)及び最高裁1977年4月28日判決(Supreme Court of Justiceof28 April1977)参照。See Carlos MOTA PINTO, Teoria Geral do Direito Civil ,(4thEdi- tion by PINTO MONTEIRO and P. MOTA PINTO), Coimbra, Almedina,2005, 210.
(23) ポルトガル民法第829条のAは,義務に違反する不法行為者に対する一日単位 ないし事件ごとの間接強制金について規定している。これは,フランスのアスト ラント強制に類似しており,人格権の継続的侵害を排除する手段として極めて重 要である。
(24) MENEZES CORDEIRO, Os Direitos de Personalidade da Jurisprudência Portu- guesa,[2001]Revista da Ordem dos Advogados,61, III,1229―1256.
(25) ALMEIDA COSTA, Direito das Obrigaçoes,〜 9th Ed., Coimbra, Almedina,2001, 552; PINTO MONTEIRO, Cláusula Penal e Indemnizaçao, Coimbra, Almedina,〜
1990,31.
(26) Diogo LEITE DE CAMPOS, A indemnizaçao do dano morte ,〜 [1974]Boletim da Faculdade de Direito,247ff.
(27) この損害賠償が相続人によって受け取られるべきか,それともポルトガル民法 第496条2項に規定されている人によって受け取られるべきかについては,学説 上議論がある。
(28) See LEITE DE CAMPOS, A vida, a morte e a sua indemnizaçao ,[1987]Bo-〜
letim do Ministério da Justiça,365,15, and Joaquim SOUSA DINIS, Dano Corporal em acidentes de Viaçao,〜 [2001]Colectânea de Jurisprudência―STJ,7.
(29)[2002]Colectânea de Jurisprudência―Supremo Tribunal de Justiça, I,62.
(30) Ronald DWORKIN Life s Dominion: an argument about abortion and euthanasia, London, Harper Collins Publishers,1993,86ff.
(31) 民法第496条2項によれば,被害者が死亡した場合,非財産的損害への賠償
は,法的に離婚していない配偶者,子供その他の卑属に,後者がいない場合には 親その他の尊属に,最後に兄弟姉妹ないしこれを代襲する甥姪に限定されてい る。
(32) 最高裁判所1994年1月13日判決,最高裁判所1994年1月20日判決,最高裁 判所1998年4月23日判決,リスボン控訴院1992年3月17日判決参照。学説で は,FRANÇA PITAA〜O, Unia〜o de Facto no Direito Portugueˆs, Coimbra, Almedina,
2000,30が,これらの保守的な判決に反対している。
(33) Decision of the Constitutional Court no.275/2002, in DR, II,24July2002. See André PEREIRA, Portugal , in Helmut KOZIOL/Barbara STEININGER(eds.), European Tort Law2002, Wien―New York, Springer,2003,345―363(346).
(34) 社会調査データ(2000年)は,コモン・ロー上の結婚はより頻繁になってき ていることを示している。多くの出生は,婚姻内である(76.2%)。しかしなが ら婚姻外の出生も段々と増加してきている。2001年で23.8% である。そのう ち,17.8% は両親と一緒に生活しており,6% がそうではない。子供がいる家 庭の12% が片親家族である。−Ministry of Justice−Legislative policy bureau, Justice Statistics Portugal2000,19.
(35) See André PEREIRA, Country Report Portugal , in H. KOZIOL/B. STEIN- INGER(Eds.), European Tort Law2003,2004,333―350(343)
(36) See A. PEREIRA, Portugal , in H. KOZIOL/B. STEININGER, European Tort Law2005, Springer2006.
(37)[1998]Boletim do Ministério da Justiça,481,470.
(38) 494条:「責任が過失にのみ基づくときであって,不法行為者の過失の程度,
不法行為者のと被害者の経済的地位,その他の状況から正当化することができる 場合には,衡平の観点から生じた損害に応じた額よりも低い額の賠償を定めるこ とができる。」
(39) See André PEREIRA, Brazil, H. KOZIOL/B. STEININGER, European Tort Law2003, Springer,2004,458.
(40) See Ewoud HONDIUS/Cees van DAM, Niederlande, in Christian von BAR, Deliktsrecht in Europa,1994,20.旧社会主義国については,André TUNC, La Re- sponsabilité Civile, Paris, Económica,1981,73.参照
(41) See PINTO MONTEIRO, Cláusula Penal e Indemnizaçâo,95, fn.182.
(42) ANTUNES VARELA, Rasgos inovadores do código civil português de1966,
[1972]Boletim da Faculdade de Direito,100―104.
(43) NOMI, Proportionality in Tort and contract law , Ewoud HONDIUS(ed.), Modern Trends in Tort law: Dutch and Japnese LawCompared, Kluwer Law Inter-
national,1999,209―220.また,John O. HALEY, The spirit of Japanese law, Geor- gia, The University of Georgia Press,1998は,日本の裁判官は,「社会常識」,
「権利濫用」「信義則」などの一般条項をしばしば行使する,重要な権能を持っ ている,と述べている。
(44) 第一編(総則)SubtitleÁ(法律行為)。
(45) 第二編(債務法)第一章(債務法総則)第二款(債務の発生原因)第一節(契約)。
(46) 例えば,約束,優先権,第三者のためにする契約など。また,「同時履行の抗 弁(exceptio non adimpleti contractus)」や「手付」などのようなある種の法規定 もある。
(47) 第二編(債務法)第一章(債務法総則)第十款(債務の形式)(Sub―Chapter Y)。
(48) 第二編(債務法)第一章(債務法総則)第七款。
(49) 売買,贈与,民法上の組合,賃貸借,家畜飼育組合,消費貸借,雇傭,役務,
委任,建設請負,定期金(永久的定期金および終身定期金),賭博および取引。
(50) 227条(契約締結上の過失):契約を締結するために他人と交渉するものは誰でも,
その形成過程だけでなく準備段階においても,過失によって他方当事者に引き起 こされる損害に対して責任を負うことを条件に,誠実の原則に従って進めなけれ ばならない。
(51) 最高裁判所は,契約締結前の責任に関する事件について2006年4月4日に判 決を下した。有限責任会社の社員が自己の持分を売却した(参加権の譲渡契約)。 その会社は多くの負債を抱えていたが,売主はこのことについて買主に伝えてい なかった。そのため,その買主は損害賠償を請求した。最高裁判所は,契約締結 上の過失に対する損害賠償を規定する227条を適用した。契約そのものは妥当か つ有効なままであるが,この法規範が適用されると損害賠償が認められる。売主 は,会社の債務に関して,誠実の原則によって課される情報提供義務に違反して いた。損害賠償額は債務の金額に相当する。契約締結前の責任の法的性質は(そ れが,契約責任の形式であるか,契約外の責任の形式であるか,あるいは第三の形式である かにかかわらず)論文において議論されている。最高裁判所は,その論争に態度を 明らかにしなかった。他方,通常227条は,交渉の突然の破棄が存在するときや 契約が無効と主張されあるいは法律効果を生じないときに適用される。しかしな がら,本判決は,正しい判決であり,バランスのとれた損害の評価であると思わ れる。
See Daniela CUNHA, Responsabilidade Pré―Contratual por Ruptura das Nego- ciaçoes, Coimbra, Almedina,〜 2006and Eva SILVA, Da Responsabilidade Pré―Con-
〜 〜
tratual por Violaçao dos Deveres de InformaçaoCoimbra, Almedina,2003.
(52) 334条―権利の濫用:「権利の行使は,その権利者が誠実の原則によって課さ
れる制限,善良の風俗(boni mores)および権利の社会的・経済的範囲を明らか に超えるとき,違法である。」
(53) 437条―契約目的の達成不能:「契約が締結される事情に異常な変化が存在し,
その結果新たな事情が当事者が想定していたと考えられるべきリスクの範囲外で ある場合,あるいは当初の特約に忠実であることが誠実の原則に著しく反する場 合,契約は衡平の要件に従って無効とされ,ないしは修正されうる。」
(54) SINDE MONTEIRO, Responsabilidade por Conselhos, Recomendaçoes ou In-〜
formaçoes〜 Coimbra, Almedina,1989,418.
(55) MENEZES CORDEIRO, A Boa―Fé no Direito Civil, Coimbra, Almedina,1984.
(56) 同様に,日本民法典は1条において次のように規定する。:「¸私権は,公共 の福祉に適合しなければならない。¹権利の行使及び義務の履行は,信義に従い 誠実に行われなければならない。º権利の濫用は,これを許さない。」
(57) Decree―law no.446/85, of25October, amended by Decree―Law no.220/95, of 31August and Decree―Law no.249/99, of7July.
(58) 知的財産法Code of Industrial Property(2003年制定),著作権と他の隣接する権 利に関する法Code of copyright and other neighbouring rights(幾つかの修正をし て1985年制定)
(59) Yosiyuki NODA, Introduction to Japanese Law,198―199
(60) 昔のポルトガル法(1867年まで)は,ローマ法原則を採用していた。それによ ると,所有権は,契約によっては即時に移転しなかった。反対に,物の引渡(tra-
dition)が所有権を移転させる要件であった。参照ALMEIDA COSTA, Direito das
Obrigaçoes〜 2001,261
(61) このルールは,広義では,フランス法とイタリア法と同じであり,ローマ法,
ドイツ法,オーストリア法またはスペイン法とは異なっている。
(62) 参照Eltjo SCHRAGE, Ius in re corporali perfecte disponendi: Property from Bartolus to the New Dutch Civil Code of1992
(63) しかしながら,動産の分野では,いくつかの例外がある。贈与は物の引渡(tra-
ditio)または書面がある場合に限り有効である。質権を設定するには引渡が要求
される。その法理は債権質の場合の例外も考慮している。債権質は債務者の通知 を要求するからである(民法671条)。そしてモーゲッジの最終的な設定は,物権 の不動産登記への登記を要求する(民法687条及び不動産登記法5条3項)。
さらに,所有権の即時移転は,408条2項に言及されるような場合には生じな い。すなわち,将来の物,物の一部,果実など。物の一部や果実の場合には,果 実又は(新しい)物の分離がなければならず,その後,所有権の即時移転が生ず る。「将来の物」の場合には,それらが現実のもの(actual)にならなければなら
ない。
不特定物債務もまた特別の規制がある。すなわち,種類と量によって特徴づけ られる物が特定されない限りは所有権の移転はない(民法408条2項および539条)。 これらの状況は意思主義の例外としてよりも特定の原則の結果として理解されて いる。特定の原則とは,物権は具体的な特定された物にしか存せず,複数の物や 結合された物には存しない。
(64) このルールは,他人の物の売却は無効であると規定する民法892条から推論さ れる。しかしながら(無効原因について知っている)悪意の売主は,そのような契約 無効を主張する(invoke)ことができない。さらに,後に売主が所有権を取得し た場合には, 当該契約は自動的に有効となり, 所有権は買主に移転する(895条)。
(65) 民法689条および不動産登記法5条3項によると,モーゲッジの例外がある。
(66) 唯一の例外がある。背後に公証人による物理的な管理(「認証された署名」)があ るタイムシェアリングは,宣言によって移転されうる。―Art.12(1)Decree―
Law no275/93,5August, changed by Decree―Law no180/9,22May and Decree
―Law no22/2002,31January, regulating Time―sharing .
(67) 参照Ana PERALTA, A Posiçao Jurídica do Comprador na Compra e Venda com〜
Reserva de Propriedade,1990.
契約が不動産または登記されうる動産に関する場合には,第三者に対する有効 性を持つためには,登記に所有権留保条項が記されなければならない。動産の場 合には,それは契約宣言の有効性によるのみであって,それ以上に要求されな い。この所有権留保条項は,買主が分割払いを行う売買契約でしばしば見られう る。売買契約の一般ルールに従えば(民法886条),例外規定を除いて,代金支払 い義務の不履行を理由として,売主は契約を終わらせる権利を持たない。そんな 訳で,売主は,当事者が所有権留保条項に同意した場合には一層保護される。よ り広い分析では,この解決は,一般に与信とビジネスを容易にする。しかしなが ら,それは時にはこの条項に気づかなかった第三者の利益に影響を与えるかもし れない。
(68) 彼は不法占有やニューサンスのような不法な抗弁に対しては,不動産訴訟(所 有権に基づく返還請求(vindication),actio negatoria 民法1311条)を使って,登記な くして所有権を対抗できる。
(69) 善意(Good―faith)は1999年5月18日の最高裁判所の判決(no.3/99)によって 要求される。この判決によって判例が統一された。
(70) しかしながら,「既登記の第三者」の概念に関しては議論がある。参照Paulo HENRIQUES Terceiros para Efeitos do Registo do Artigo5.°do Código de Reg- isto Predial ,[2003]Boletim da Faculdade de Direito, Volume Comemorativo,
389―452
(71) しかしながら,1301条と1281条2項は善意の第三者のゆるやかな(soft)保護 を規定している。AがコンピュータをBに貸した(原文borrowed)。Bは彼の友達 のコンピュータをコンピュータのセールスマンであるCに売った。CはそれをD に売った。ポルトガル法のもとでは,Aはまだ所有者である。「何人も自分が 持っている以上の権利を譲渡することができない」 nemo plus iuris というルー ルが適用され,したがって,CとDは決して所有権を取得できない。もっともA は所有権に基づく返還請求(vindicatio)(1311条)を提起できるが,しかし,占有 訴権(actio restitutoria)に基づいて請求することはできない。なぜならDは善意の 第三者であるからである(1281条2項)。すなわち,彼女は所有権訴訟を使うこと ができるが,しかし,占有訴訟は使えない。そしてポルトガル法に基づいて所有 権訴訟における立証責任は,原告にあり,そして大変難しい。一方で,1301条 によると,AはDにコンピュータを返してもらう前に,彼女が支払った代価を支 払わなければならない。
さらに,取得時効の規律(usucapiao〜 )は,動産の占有者にとってはより好ま しいものである。すなわち,善意の場合には3年,悪意の場合には6年。
(72) 1804年民法2279条1項から始まる,善意の第三者を保護する解決は商取引に とってより効果的である。参照MENEZES CORDEIRO, A Posse: perspectivas Dog- máticas Actuais,3rd Ed.2000,116ff.
(73) 参照MENEZES CORDEIRO, Tratado de Direito Civil―Parte Geral, As Coisas, 2002.
(74) 不動産について。悪意占有の場合は20年。善意占有の場合は10年(民法1296 条)。動産については権原,善意および権原の登記に応じて2年,3年,4年,
10年がありうる。
(75) 前者は,仮装(simulation)の場合にのみ適用される。後者は一般的に適用され る。243条によると,善意の第三者は,仮装売買の無効に対して保護される。
291条は有償契約を通じて不動産または登記された動産を取得し,その所有権取 得を登記し,所有権に基づく返還請求権を正当化する瑕疵(vice)から3年以上 たっている場合には,善意の第三者を保護する。