一 は じ め に 二
米 国 に お け る マ リ タ イ ム
・ リ ー エ ン の 準 拠 法 三
英 国 に お け る マ リ タ イ ム
・ リ ー エ ン の 準 拠 法 四
ま と め に か え て
─
─ 日 本 法 へ の 示 唆
─
─
一 は じ め に 法 の適 用に 関す る 通則 法
(以 下
「 通則 法」 とい う。
) が 施行 され る 以前 の我 が 国国 際私 法典 で ある 法例 には
、 海 事に 関 す る法 律関 係に 適用 され るこ とを 明示 した 規定 は存 在し なか った
。な ぜな ら、 法例 立法 時の 資料 によ れば
、立 法担 当者 は 船 舶に 関す る事 項の 国際 私法 的規 定は 特別 法に 譲る とし てお り、 法例 に規 定さ れる 準拠 法選 択の 一般 則と は異 なる 特則 に よ り準 拠法 を決 定す るこ とが 想定 され てい たた めで あ(
1
る)
。
六
〇 五
(
) 一
米 国 お よ び 英 国 に お け る マ リ タ イ ム
・ リ ー エ ン の 準 拠 法
大 西 徳
二 郎 田
邉 真
敏
そう であ るに もか かわ らず
、今 日に 至る まで 特別 法は 制定 され てお らず
、ま た、 通則 法に おい ても 海事 法律 関係 に適 用 さ れ る こと を 明 示し た 規 定 は設 け ら れて い な
そ のた め
、 海 事法 律 関 係、 殊 に 船 舶に 関 す る事 項 に つい て は、 通則 法
(通 則法 施行 以前 は、 法例
)の 解釈 によ り準 拠法 の決 定が なさ れな けれ ばな らな い。 し かし
、船 舶は
、国 境を 跨い で移 動し
、し かも
、い ずれ の国 の領 域で もな く、 どこ の国 の主 権下 にも 置か れな い公 を移 動す るの も常 とす るた め、 所在 地法 の確 定が 困難 であ ると いう 問題 点を 抱え る。 そう する と、 例え ば船 舶に 関す る物 権の 問題 につ き、 目的 物所 在地 法主 義を 採用 する 通則 法( 法例
)を 単純 に当 ては める ので は準 拠法 を決 定す るこ とが でき ない 場合 が生 じる
。 そ こで
、通 則法
(法 例) をど のよ うに 解釈 し準 拠法 を決 定す るの かが
、従 来か ら問 題と なっ てい る。 この 問題 の中 でも
、 とり わけ 多数 の説 が存 在し
、議 論が 紛糾 して いる のが 船舶 先取 特
準拠 法で ある
。我 が国 にお ける 船舶 先取 特権 の準 拠 法 につ いて は、
①船 舶先 取特 権の 成立
・効 力と もに 旗国 法を 準拠 法と する 説、
②成 立・ 効力 とも に被 担保 債権 の準 拠法 を 準 拠法 とす る説
、③ 成立 につ いて は旗 国法 と被 担保 債権 の準 拠法 を累 積適 用し
、効 力に つい ては 旗国 法を 準拠 法と する 説
(通 説)
、④ 成立
・効 力と もに 旗国 法と 被担 保債 権の 準拠 法を 累積 適用 する 説、
⑤成 立・ 効力 とも に差 押え 時の 船舶 現実 所 在 地法
(法 廷地 法) を準 拠法 とす る説
、⑥ 成立 につ いて は差 押え 時の 船舶 現実 所在 地法
(法 廷地 法) と被 担保 債権 の準 拠 法 を累 積適 用し
、効 力に つい ては 差押 え時 の船 舶現 実所 在地
(法 廷地 法) を準 拠法 とす る説
、お よび
⑦船 舶先 取特 権の 成 立 につ いて は被 担保 債権 成立 時の 船舶 現実 所在 地法 を、 効力 につ いて は差 押え 時の 船舶 現実 所在 地法 を準 拠法 とす る説 な ど
、数 多く の説 が存 在す 本稿 は、 船舶 先取 特権 の準 拠法 の問 題に つい
米英 にお ける 処理 を概 観し なが ら、 比較 法的 視野 から その 議論 を収 束
( 2
い)
。
( 3
海)
上
( 4
権)
の
( 5
る)
。
( 6
て)
、
<
論 説
>
修 道 法 学 三 四 巻 二 号
六
〇 六
(
) 二
さ せる 糸口 を探 求し
、示 唆を 得る こと を目 的と する
。 二 米 国 に お け る マ リ タ イ ム
・ リ ー エ ン の 準 拠 法 1 米国 実質 法上 のマ リタ イム
・リ ーエ ン 米国 にお いて
、 我が 国の 船舶 先取 特権 に相 当す るの は、 マ リタ イム
・ リー エン
(maritimelien
) で あ
マ リタ イム
・ リ ーエ ンは
、海 事債 権に おけ る債 務の 支払 を担 保す るも ので あり
、法 によ って 債権 者に 与え られ る法 定担 保権 であ る。 そ し て、 公示 を要 せず
、ま た、 運航 によ る運 賃や 傭船 料の 取得 を可 能に する ため
、目 的物 たる 船舶 の占 有も 必要 とし ない
。 こ れら の点 は、 我が 国の 船舶 先取 特権 と同 様で あ しか し、 我が 国と 大き く異 なる のは
、米 国法 では 船舶 を擬 人化 し、 船舶 自体 が権 利義 務の 主体 とな ると いう 考え に基 づ い てい る点 であ
した がっ て、 米国 法に おい ては
、船 舶自 体が 不法 行為 や契 約上 の義 務に つい て責 任を 負い
、マ リタ イ ム
・リ ーエ ンは その 船舶 の責 任を 追及 する 制度 とい うこ とに なる
。そ のた め、 マリ タイ ム・ リー エン は、 船舶 の価 額を そ の 責任 の限 度と し、 船舶 所有 者の 人的 責任 の有 無に かか わら ず成 立す る。 そし て、 マリ タイ ム・ リー エン に基 づく 訴訟 は、 船 舶自 体を 被告 とす る対 物訴 訟(actioninrem
) とい う我 が国 には ない 制度 によ りな され マリ タイ ム・ リー エン を生 じさ せる 海事 債権
(海 事上 の請 求) は、 連邦 法( 連邦 制定 法お よび 連邦 判例 法) によ り定 め ら れる が、 連邦 法に 抵触 しな い限 度で 州法 によ るも のも 認め られ る。 そし て、 マリ タイ ム・ リー エン を生 じさ せる 海事 債 種 類は 多岐 にわ た
こ れら を大 きく 分類 する
①船 長お よび 船員 の賃 金債 権、
②海 難救 助料 債権
、③ 共同 海損 に 基 づく 請求
、④ 傭 船契 約違 反に 基づ く請 求、
⑤優 先船 舶抵 当権
(preferredshipmortga g
⑥ 修繕
、必 需 品の 供給
、曳 船、
( 7
る)
。
( 8
る)
。
( 9
る)
。
(
)
る10
。
(
)
権11
の
(
)
り12
、
(
)
と13
、
(
) 14
e
)、 米 国 お よ び 英 国 に お け る マ リ タ イ ム
・ リ ー エ ン の 準 拠 法
( 大 西
・ 田 邉
)
六
〇 七
(
) 三
水 先案 内、 埠頭 使用
、お よび その 他の ネセ サリ ーズ
(necessaries
)供 給の ため の契 約か ら生 じた 債権
、⑦ 人身 傷害 や人 の 死 亡、 そし て船 舶衝 突を 含む 不法 行為 債権
、⑧ 貨物 の毀 損ま たは 滅失 に基 づく 請求
、⑨ 未収 運賃 債権
、⑩ 汚濁 に基 づく 請 求 に分 ける こと がで きる
。 マリ タイ ム・ リー エン と他 の担 保権 との 優劣 関係
、お よび マリ タイ ム・ リー エン 間の 順位 つい ても 制定 法お よび 判例 法 に 依っ てお り、 その 決定 方法 は、 被担 保債 権の 種類 に基 づく 順位 付け と被 担保 債権 の発 生時 期( 航海 の順
)に 基づ く順 位 付 けの 二段 階に 分か れて いる
。 その 概要 を示 すと
、ま ず、 被担 保債 権の 種 類に 基づ く順 位付 けで は
、差 し押 さえ られ て裁 判所 の管 理下
(incustodialegis
) に ある 船舶 の保 管費 用が マリ タイ ム・ リー エン に優 先し
、最 も優 先順 位が 高い
。つ まり
、裁 判所 の保 管費 用は
、マ リタ イ ム
・リ ーエ ンを 生じ ない が、 債権 者全 体の ため の費 用で ある ため
、ま ず船 舶の 売却 代金 から 控除 され
次に 優先 順位 が 高 いの はマ リ タイ ム・ リ ーエ ンで あ り、 そ の被 担 保債 権を 基 準と する 順 位付 けで は
、船 長 およ び 船員 の賃 金 債権
( 右記
①
)、 海難 救助 料債 権( 右記
②) およ び共 同海 損に 基づ く請 求( 右記
③)
、不 法行 為債 権( 右記
⑦、
⑧、
⑩)
、 優先 船舶 抵当 権設 定前 に生 じた 契約 債権
(右 記④
、⑥
、⑨
)、 優先 船舶 抵当 権( 右記
⑤)
、 優先 船舶 抵当 権設 定後 に生 じた 契約 債権
(右 記④
、
⑥、
⑨
) の順 に 優先 順位 が高 い。 そ して
、 マ リタ イム
・ リー エン に劣 後す るの が 租税 債権 に基 づく リー エン
(taxlie さ らに それ に劣 後す るの が優 先抵 当権 では ない 船舶 抵当 権と いう 順に なる
。 次に
、被 担保 債権 が同 じ種 類の マリ タイ ム・ リー エン にお いて は、 被担 保債 権の 発生 時期
(航 海の 順) を基 準に 順位 付 け がな され る。 具体 的に は、 後の 航海 につ き発 生し たも のが 先の 航海 につ き発 生し たも のに 優先 する とい う逆 順の ルー ル が 用い られ る。
(
)
る15
。
(
) 16
n
)、
<
論 説
>
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〇 八
(
) 四
順位 の判 断が 二段 階に 分か れ、 被担 保債 権の 種類 およ び発 生時 期を 基準 にし てい る点
、さ らに 発生 時期 に基 づく 順位 付 け にお いて 逆順 のル ール が用 いら れて いる 点は
、我 が国 と同 様で ある
。し かし
、我 が国 では 発生 時期 によ る順 位付 けが 種 類 によ るも のよ りも 優先 され るの に対 し、 米国 で は発 生時 期よ りも 種類 に基 づく 順位 付け が優 先さ れる 点 で大 きく 異な ま た、 我が 国で は租 税債 権に 基づ く船 舶先 取特 権の 順位 が高 く、 船長 およ び船 員の 賃金 債権 に基 づく 船舶 先取 特権 の順 位 が 低 いの に 対 し、 米 国 で は逆 に 租 税債 権 に 基づ く リ ー エン の 順 位が 低 く、 船 長 お よ び船 員 の 賃金 債 権 に基 づ く マリ タ イ ム
・リ ーエ ンの 順位 が高 いの も特 徴的 であ 2 米国 にお ける マリ タイ ム・ リー エン の準 拠法
( 一) 管 轄権 の問 題 マリ タイ ム・ リー エン につ いて は、 米国 抵触 法上
、大 きく 三つ の問 題点 の存 在が 指摘 され 一つ 目は 管轄 権(jurisdiction
)、 二 つ目 は承 認(recognition
)、 三つ 目は 順位
(ranking
) の問 題で ある
。つ まり
、事 案 解 決 にあ たり
、こ の三 つの 段階 でマ リタ イム
・リ ーエ ンの 準拠 法如 何が 問題 とな る。 まず
、一 点目 の管 轄権 の問 題と は、 米国 にお いて 法廷 地の 裁判 所が 外国 法上 のマ リタ イム
・リ ーエ ンに 基づ いて 船舶 の ア レ スト
(arres
実 行す る 管轄 権を 有 する か、 と い う問 題で ある
。 こ れは
、 一 般的 に米 国裁 判 所が 外国 法上 の マリ タ イ ム・ リー エン に基 づい て船 舶の アレ スト を実 行す るこ とが でき るか とい う問 題で はな く、 個々 のケ ース ごと に法 廷地 の 裁 判所 がア レス トを 行い 得る かと いう 問題 であ る。 これ は、 我が 国の 議論 でい うな らば
、国 際裁 判管
問題 に含 まれ る で あろ う。 我が 国に おい ては
、国 際裁 判管 轄が 国際 民事 訴訟 法上 の問 題と して 国際 私法 上の 準拠 法選 択の 問題 の前 に処 理
(
)
る17
。
(
)
る18
。
(
)
る19
。
(
) 20
t
)を
(
)
轄21
の 米
国 お よ び 英 国 に お け る マ リ タ イ ム
・ リ ー エ ン の 準 拠 法
( 大 西
・ 田 邉
)
六
〇 九
(
) 五