発育発達に伴う柔軟性について
尾形 敬史*・武田 美南子*・都筑 孝子**
根本 幸雄**・奥川 昌史**・星 秀男***・川上 香***
(1993年10月18日受理)
Astudy on the Flexibility of Children(2〜15years old)
Takashi OGATA, M壼nako TAKEDA, Takako TUZUKU,
Yukio NEMOTO, Masahumi OKUGAwA, Hideo HOSI and Kaori KAwAKAMI (Received October l 8,1993)
はじめに
最近の子どものからだに関する報告で,「朝からあくび」,「転んだときに手がでない」などの異常 が指摘されるようになっており1),発育発達に関しての諸問題が学校現場だけでなく,社会現象とし ても注目される昨今である。これは,高度経済成長の結果もたらされた日本人の生活形態や生活の 質の変化が影響していると考えられる。すなわち,あらゆることにおいて均質化が進み,住宅は都 市型の構造となり職業の如何に関わらず生活も都市型になり,子どもたちの生活も変化し,子ども の遊びも屋外型が中心であったものが,いまや漫画やテレビゲームなどの屋内型中心に変わり,「身 体を動かして遊ぶ」ことがほとんど無くなり,発育発達に見合う運動量が減ったことが大きな要因 として考えられている。
一方で,毎年,体育の日を中心にして文部省から発表される国民の体力・運動能力調査の結果に よると,青少年の体格については年々大型化が進み,欧米型の手足の長い体型に近づいているが,体 力や運動能力に関しては,必ずしも体格の伸びに伴わず,低下傾向が見られる項目もあることが指 摘されている。これは,体力に関する統計が取られる様になってから,日本人の身長は伸びを示し 続け(第二次世界大戦の終戦直後の落ち込みはある),この身長の伸びに見られるように,栄養摂取 の変化(高蛋白・高脂質の食事)や生活様式の変化(畳の生活から椅子とテーブルでの生活)など の影響が青少年の体格体力に現れているものと言えよう。
このような状況の中で,平成4年度に施行された小学校体育科学習指導要領では,スポーツテスト の中で停滞・低下の傾向の見られる柔軟性について,「体の柔らかさを高める運動」が体操の分野で
*茨城大学教育学部保健体育講座(〒310茨城県水戸市文京2丁目1−1).
**茨城大学教育学部附属小学校(〒310茨城県水戸市三の丸2丁目6−8).
***茨城大学教育学部附属中学校(〒310茨城県水戸市文京1丁目3− 32).
74 茨城大学教育学部紀要(教育科学)43号(1994)
扱うことになった。従来,体力の構成要素である柔軟性について,その重要性は経験的には認識さ れていたものの,柔軟性という定義がはっきりされていないことなどから,積極的な評価は少なく2 , 準備運動などで行われる柔軟運動についても積極的な取り組みは少ない。また,体育の分野での研 究もほとんど見られないのが現状である。
そこで,本研究では,柔軟性に関する基礎的な研究として,加齢に伴う柔軟性の変化と,日常の 運動量の大小が柔軟性に影響を与えるのかどうか,運動経験の有無と柔軟性との関係などを調査検 討し,今後の体育やスポーツ指導に役立てようとするものである。
研究方法
1.対 象
市内の保育所および本学部附属小・中学校における2歳児から15歳の中学生までの男女約1500名。
年齢別,男女別の対象人数は表1に示す通りだが,これらの対象を日常の運動経験の有無から運動群 と非運動群とに分けて示したのが表2と表3である。なお,事前調査から,6歳以下の児童において は,記録の問題と日常的に運動量の個体差があまり見られず,運動群と非運動群とに分けることが 不可能であるため,7歳以上を運動群と非運動群とに分けて比較することとした。
表1対象の内訳 (人)
年齢 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 男子 13 19 49 73 56 59 58 58 58 57 58 65 71 74 女子 8 21 63 44 49 55 57 57 59 62 59 72 63 77 計 21 40 ll2 117 105 114 115 ll5 117 ll9 ll7 139 134 151
表2 運動群の内訳 (人)
年齢 7 8 9 10 11 12 13 14 15
男子 12 15 34 35 25 33 51 52 49
女子 10 14 24 16 21 27 41 28 38
計 22 29 58 51 46 60 91 80 87
表3 非運動群の内訳 (人)
年齢 7 8 9 10 11 12 13 14 15
男子 47 43 24 23 34 25 14 19 25
女子 45 43 33 43 41 32 31 35 39
計 92 86 57 66 75 57 45 54 64
尾形他:発育発達に伴う柔軟性について
2.測定期間
1)水戸市内保育所児童(2〜6歳児)
1992年11月2日〜12月2日 2)本学教育学部附属小学校児童 1992年12月7日〜12月17日 3)本学教育学部附属中学校生徒 1992年5月
なお,中学生については,5月に行われた附属中学校のスポーツテストの結果からデータを収集し
た。
3.測定内容および方法 1)身長
2)体重 3)柔軟性
4)運動に関するアンケート
1),2)については,一般的な測定器具及び測定方法を用いて行われる各学校の体力測定の結果か らデータを収集した。
3)柔軟性の測定について イ)柔軟性の概念について
一般に「体力」と言う場合,握力や背筋力などの力の要素,あるいはポール投げ能力などの運 動能力としてイメージされることが多いが,学校体育における「体力」の定義は,力や能力の要素 だけでなく,健康や精神などを含む広義の体力として捉えられている。現在の学習指導要領では,体 力と運動の種類の関係を図1のように表している。
体力 抵抗力[ 行動力
・運動の発現
L筋力,瞬発力(筋)
・運動の持続
(注)()内は主として関係する器官 く体操の内容〉
力強い動きを高める運動
L持久か[無酸素的持久力(筋) 一 L酸素的持久力(呼吸,循環器)
属]嚇続する能力を高める運動
・運動の調整
図1 体力と運動の種類の関係(加賀谷)
76 茨城大学教育学部紀要(教育科学)43号(1994)
図からわかるように,柔軟性は「運動の調整」に関わる能力として捉えられている。しかし,柔 軟性に関しての定義は示されていない。すなわち,一般的に「柔軟性」というと二通りの解釈が成
り立つ。第一は,関節の可動性と筋肉や腱の伸展性の善し悪しに関係するものであり,「静的柔軟性」
と言われ,体力テストにおける柔軟性はこの能力を測定される。第二は,「動的柔軟性」と言われ,
からだの柔らかさだけではなく,運動の巧みさや動きの柔らかさなどを表すが,「流れるような柔ら かい動き」とか「スムーズな大きな動き」といった全体の動きのイメージを表すため,測定を行う ことはほとんど困難であり,体育やスポーツの指導の現場において「動的柔軟性」の必要性は充分 認識されているにも関わらず言及されることが少ないのが実状である。
ロ)柔軟性の測定方法
一般的な柔軟性の測定方法は,様々な測定項目の組み合わせから全身柔軟性が評価されることが 多いが,本研究では,柔軟性に関するテストの中でも再現性が高く,一つの関節の柔軟性ではなく 体幹全体の柔軟度をみる体前屈と上体そらしをテスト項目とした。これらの体前屈と上体そらしの 柔軟性テストは,一一般的に学校体育におけるスポーツテストとして行われているものであるが,テ ストの正確性や再現性の面から,6歳以下の児童に対しては長座体前屈と伏臥上体そらしを,7歳以 上には立位体前屈と伏臥上体そらしをテスト項目とした。すなわち,6歳以下の長座体前屈について
は,立位で行うと膝が曲がってしまい正確ではなくなってしまうためである。
測定方法については以下のように行った。
【長座体前屈】
①方法
・机の上に足を伸ばして座り,踵と踵の間隔を約20cmに開く。
・両手を揃えて伸ばし,両足の間におき,上体を前屈しながら出来るだけ伸ばす。この際,膝が 曲がらないように注意する。
②記録
・両指先の達した一番遠い位置に印をつけ,踵と踵を結んだ線からの距離をcm単位で計る。
・踵と踵を結んだ線に達しないときは(一)をつけて記録する。
③実施上の注意
・両指先が揃うようにする。
・ゆっくり前屈するようにする。
【立位体前屈】
①方法
・両足を揃えて踵をつけ,足先を約5cm開いて台上に立つ。
・両手を揃え指先を伸ばして物差しに触れながら上体を前屈する。この際膝を曲げないように する。
②記録
・両指先の再下端の位置を物差しの目盛りで読む。
・0に達しない場合は(一)をつけて記録する。
③実施上の注意
・両指先が揃うようにする。
尾形他:発育発達に伴う柔軟性について
・ゆっくり前屈するようにする。
【伏臥上体そらし】
①方法
・うつ向きに伏し両手を腰の後ろで組み,足先を約45cm(6歳以下は約20cm)開き,平行線上に置く。
・補助者は被験者の足首から膝を押さえる。
・被験者はこの姿勢から静かに上体をそらす。この際顎を出来るだけ上にあげるようにする。
②記録
・床から顎の高さまでの最大値を素早く計測する。
③実施上の注意
・被験者の顎が上下すると計測しにくいので,最高の位置を保つように努めさせる。
4)運動経験に関するアンケート
日常の運動経験に関するアンケートは,以下の項目を調査した。
イ)運動活動の有無 ロ)運動の種目 ハ)活動時間
なお,バレエや体操など特に柔軟性を必要とする種目以外で週1回・1時間未満の活動は非運動 群とみなした。
結果と考察
1.年齢別にみた柔軟性について
表4と表5に,2歳児から15歳生徒までの男女別の身長,立位体前屈,伏臥上体そらしの測定結 果の平均を示した。
以上の結果を柔軟性の測定項目ごとに示すと以下のようになる。
図2は男子の立位体前屈の結果であり,同様に図3は女子の立位体前屈,図4は男子の伏臥上体そ らし,図5は女子の伏臥上体そらしの結果である。
(1)立位体前屈について
立位体前屈については,図2と図3を見て分かるように,男女とも2歳から5歳に向かって柔軟度 が徐々に下がる傾向が見られる。これは,筋肉や骨格が固まらず年間の成長率も著しい乳幼児期の 自然な柔軟度の高い状態から,徐々に筋肉や骨格がしっかりしてくるにしたがって,柔軟度が落ち るためであると考えられる。
5歳以降は,男子の11歳においてやや落ち込みが見られるものの,男女とも徐々に柔軟度が増加 する傾向にあるといえよう。男子の11歳における記録の落ち込みは,被験者の数が少ないため一定 の傾向とは異なる結果になったものと思われる。
男女ともに,乳幼児期は筋肉,骨格ともに未発達で,柔軟性の面からみると非常に柔らかいこと は経験的に知られているところであるが,今回の測定結果でもそのことは明確に現れており,2歳児 から5歳児までは男女とも徐々に記録が低下していた。その後は,加齢とともに徐々に記録が上昇し
78 茨城大学教育学部紀要(教育科学)43号(1994)
ており,これは身長の発達とともに手足の長さも発達することが,記録の伸びに結びつくことを裏
表4 男子の測定結果 表5 女子の測定結果 年齢
i歳)
身長 icm)
体重
ikg)
立位体前屈
@(cm)
伏臥上体そらし
@ (cm)
年齢
i歳)
身長 icm)
体重
ikg)
立位体前屈
@(cm)
伏臥上体そらし
@ (cm)
2 86.28 12.52 9.35 10.65 2 86.95 12.95 14.38 13.06
3 94.88 13.68 8.45 17.63 3 94.27 14.93 10.38 18.45
4 101ユ4 16.44 5.65 24.87 4 100.55 16.55 8.60 27.13
5 108.50 19.01 4.20 27.97 5 108.28 19.15 8.00 3L60
6 114.33 21.59 5.24 34.86 6 ll3.76 20.96 8.20 34.88
7 ll6.81 21.85 5.22 37.69 7 116.84 21.51 7.98 37.04
8 123.20 25.06 6.65 42.86 8 122.44 23.39 10.75 42.42
9 128.85 27.61 6.54 4472 9 128.17 26.66 11.03 46.36
10 134.87 30.90 6.39 41.22 10 133.19 29.70 11.24 48.26
ll 139.03 36.00 5.70 48.76 11 138.61 33.06 10.91 49.52
12 144.48 38.77 6.55 58.06 12 146.01 38.45 11.53 51.21
13 151.75 43.42 7.32 49.31 13 152.83 4437 11.82 53.51
14 156.62 47.56 9.72 52.08 14 153.91 46.62 14.06 55.30
15 163.31 54.Ol 10.58 59.58 15 157.10 49.49 14.04 60.99
(cm)
:ll
幽\
臓 8
6
4
2
0
\/° ■
/口
■
■
コ /
/圏
臨\鳳/■
/圏
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11
図2 男子の立位体前屈の結果
12 13 14 15
(歳)
(cm)
16 「
14 12 10 8 6 4 2
0
尾形他:発育発達に伴う柔軟性について
2
(cm)
60 50 40 30 20
10■
0 2
(cm)
70 60 50 40 30 20 10 0
3 4 5
6789101t 1213
図3 女子の立位体前屈の結果
/口!■\.
■/1■
/\闇
/°
/ /圏
■
/
/°
5歳
4
1
■
3 4
■/
レノ/
図4 男子の伏臥上体そらしの結果
■匿1口 _■!
■1■一■■
・/
/
■■!■■
■/
14 15
(歳)
/圏
2 3 4 5
図5 女子の伏臥上体そらしの結果
12 13 14 (歳)15
80 茨城大学教育学部紀要(教育科学)43号(1994)
付けるものであるといえよう。
② 伏臥上体そらしについて
伏臥上体そらしについては,図4,図5から分かるように,立位体前屈とは明らかに異なる結果が 見られた。立位体前屈では一旦低下傾向を示した後に増加の傾向を示すのに対し,伏臥上体そらし では,男女ともに2歳児から年齢の増加に伴って記録が伸びており,身長の伸びに連動して記録が増 加することが推察される。
このことは,上体そらしに関して測定方法の限界として,特に発育期においては長育の影響を受 け易いと言われ3),その指摘通りに男女とも加齢に伴って上昇傾向を示したものと思われる。
(3)運動経験からみた柔軟性の結果について
次に,運動調査の結果から運動群と非運動群に分け,それぞれの身長,体重および立位体前屈と 伏臥上体そらしの結果をまとめると,表6(運動群男子),表7(運動群女子),表8(非運動群男子),
表9(非運動群女子)のようになる。
なお,両群とも7歳児以上を対象としたことについては,運動調査を行うにあたって対象を小学生 以上としたためである。すなわち,6歳以下については本人の記述が困難なことと,何よりもこの時 期の児童は定期的な運動経験を持つ者はごく限られたケースのみであり,ほとんどが幼稚園なり保 育所での遊びが運動として考えられ,運動量の個体差はほとんど無いと思われるため,調査対象か
ら除外することとしたものである。
運動群と非運動群における体格(身長,体重)の平均値を比較してみると,年齢によって運動群 が優る場合もあるが,その逆の場合もあり,必ずしも一定の傾向は見られなかった。
表6 男子運動群の測定結果 表7 女子運動群の測定結果
年齢
i歳)
身 長 icm)
体 重
ikg)
立位体前屈 icm)
伏臥上体そらし
@ (cm)
年齢
i歳)
身 長 icm)
体 重
ikg)
立位体前屈 icm)
伏臥上体そらし
@ (cm)
7 119.6 22.8 7.54 41.38 7 115.0 20.3 13.04 40.85
8 123.4 24.9 5.90 45.23 8 124.5 23.9 14.54 46.32
9 133.1 29.6 7.66 45.62 9 133.2 26.2 11.10 44.44
10 138.8 322 7.27 47.29 10 133.7 30.3 12.66 48.50
11 138.3 34.5 5.30 5α08 11 137.6 32.9 12.57 49.14
12 145.1 38.7 7.48 50.26 12 148.5 40.2 12.78 53.70
13 147.7 42.2 7.24 44.53 13 152.3 44.2 11.46 50.22
14 154.7 45.6 8.83 53.80 14 155.3 48.4 13.75 56.00
15 167.9 54.9 11.81 59.59 15 157.1 49.0 13.89 60.95
尾形他:発育発達に伴う柔軟性について
表8 男子非運動群の測定結果 表9 女子非運動群の測定結果
年 齢
i歳)
身 長 icm)
体 重
ikg)
立位体前屈
@(cm)
伏臥上体そらし
@ (cm)
年齢
i歳)
身 長 icm)
体 重
ikg)
立位体前屈 icm)
伏臥上体そらし
@ (cm)
7 116ユ 21.6 4.63 36.76 7 117.2 21.8 6.79 36.86
8 123.2 25.1 6.90 42.03 8 121.8 23.2 9.51 41.15
9 123.9 25.3 4.90 42.03 9 128.6 26.2 9.59 47.76
10 124.3 27.9 5.02 33.26 10 136.0 29.5 10.72 48.17
ll 143.8 38.2 6.23 48.77 ll 145.9 34.8 10.06 49.72
12 143.7 39.0 5.48 67.02 12 143.9 37.2 10.46 49.ll
13 151.9 45.5 7.57 66.71 13 152.9 44.6 12.29 57.87
14 159.8 50.8 12.16 47.37 14 153.2 45.7 14.31 54.74
15 161.6 54.3 8.16 63.48 15 157.1 49.9 14.18 61.03
(cm)14
12 10 8 6 4 2
■
0
■
圏 ■
■
■
■
圏
−m
運動群
夢B運動君羊
7 8 9 10 11 12 13 14 15 (歳)
図6 男子運動群・非運動群の立位体前屈の結果
続いて,柔軟性に関する測定結果を各項目ごとに運動群と非運動群とで比較してみると,図6は 男子,図7は女子の立位体前屈の平均値の推移である。図から分かるように,運動群と非運動群の差 の出方が男女でやや違いが見られた。男子ではほとんど両群に差が見られないのに対して,女子の 場合,12歳までは運動群が高い傾向を示し,その後両群の差が見られなくなっている。
次に,伏臥上体そらしの結果を運動群と非運動群とで比較したのが図8(男子),図9(女子)で ある。伏臥上体そらしでも,男子は運動群と非運動群との差はほとんど見られず,女子においても 両群の差はほとんど見られなかった。
82
16(cm)
14
208 一1 1
6420
留6。5。佃−3。2。ゆ・
(
茨城大学教育学部紀要(教育科学)43号(1994)
7 8 9 10 11 12 13 14
図7 女子運動群・非運動群の立位体前屈の結果
一15
7
70(cm)
60 50
40欄■.
30 20 10 0
8 9 10 11 12 13 14
図8 男子運動群・非運動群の伏臥上体そらしの結果
15 (歳)
(歳)
7 8 9 10 11 12 13 14
図9 女子運動群・非運動群の伏臥上体そらしの結果
15 (歳)
柔軟性と運動経験との関係に関する研究はほとんど見られず,筆者らの小学生の柔道練習者の調 査4)では,週一回の運動でも柔軟性が改善された例はあるが,このとき伸びを示した者達はほとんど が最初の測定時に平均値を下回るものであったことから,参考としては適切ではないと思われ,女 子の立位体前屈における運動群が低年齢層で優れたことに関する要因については,言及できない現 状であると言える。
(cm)
16 14 12 10 8 6 4 2
/
男子 女子
゜2 3 4 5 6 7 8 9 ・。… 2・3・4・5(歳)
図10 立位体前屈の男女比較
(cm)
70 60 50 40 30 20
10。L_..___一_.一.一一__一.一一.一 ______
2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15(歳)
図11 伏臥上体そらしの男女比較
(4)男女別にみた柔軟性の結果について
図10は立位体前屈の平均値の推移を男女別に比較したものであり,図11は同様に伏臥上体そら しの平均値の推移を男女別に比較したものである。図から分かるように,立位体前屈では男女差が はっきり見られるのに対し,伏臥上体そらしではほとんど差が見られなかった。
これは,立位体前屈においては,男女における筋力や関節可動域の差が柔軟度の差として現れた ものと思われる。すなわち,本研究では体力測定は行っておらず推定の範囲を出ないが,小学校期 では男女の体格差はほとんどないが,筋力に関しては筋肉群によって差が見られることが知られて おり5},背筋力では男子の方が女子より各年齢で優ることが一般的であり6 ,このことが体を前に曲げ る際に抵抗として作用し,前屈の成績に影響を及ぼしたものと思われる。一方,上体そらしでは,背
84 茨城大学教育学部紀要(教育科学)43号(1994)
筋力の影響よりも「長育」すなわち身長の影響のみが現れ,男女に差が見られなかったものと思わ
れる。
以上の結果から,女子の立位体前屈で運動群と非運動群とでやや差が見られたが,運動経験が影 響を及ぼしているのかどうかは即断できない。すなわち,運動経験の有無が体力的にどのような差 になっているのかは本研究の調査からは判断できないためである。また,全体の男女の比較では,立 位体前屈において各年齢とも女子が一定の差で男子より優れていたが,やはり男女の体力の差があ るのか無いのか,背筋力などの体力測定を行っていないので,本研究の調査からは判断することは 不可能である。したがって,運動経験の調査と同時に握力,背筋力などの能力を測定し,柔軟性の 成績との比較を行うことが今後の課題として残される。
まとめ
本研究では,柔軟性に関して年齢に伴う変化および運動経験の有無による影響を探ることを目的 とし,2歳児から15歳の生徒までを対象として男女別に比較検討を試みた。
その結果,以下のような知見が得られた。
(1)年齢からみた柔軟性の結果は,
① 立位体前屈においては,2歳児から5歳児に向かって成績が一端低下し,その後徐々に上昇す る傾向が見られた。
②伏臥上体そらしでは,加齢とともに徐々に伸びる傾向を示した。
(2)運動経験から見た柔軟性の結果は,
① 立位体前屈については,女子において低年齢の時期に運動群が上回る傾向が見られたが,男子 においてはほとんど差がみられなかった。
②伏臥上体そらしでは,男女とも両群間にほとんど差が見られなかった。
(3)男女別にみた柔軟性の結果は,
①立位体前屈においては,男女差がはっきり現れ,女子のほうが各年齢とも成績がよかった。
②伏臥上体そらしでは,男女の成績にほとんど差がなく,性差は見られなかった。
注
1)正木健雄『子どもの体力』(大月書店,1979).
2)三浦忠雄「柔軟性に関する方法論的研究」『茨城大学教育実践研究』6(1987),pp.113−130.
3)東京都立大学身体適性学研究室編r日本人の体力標準値第四版』(不昧堂出版,1989),pp.233.
4)神澤ともみ「少年柔道教室参加者の体力について一特に柔軟性に注目して一」r平成3年度茨城大学教育 学部卒業論文』(1991).
5)高石昌弘,宮下充正編著「年齢と身体の変化」『スポーツと年齢』(大修館書店,1977).pp.23,
6)東京都立大学身体適性学研究室編r日本人の体力標準値第四版』(不昧堂出版,1989),pp.120−121.