ウ サ ギ脳 虚 血後再潅流障害モデル における イ ン タ ー ロ イ キ ンー8(I L 8) の役割
金 沢 大 学 医学 部 医 学 科 脳 神 経 外 科 学 講 座 ( 主 任:LL 「 F純 宏 教授)
松 本 哲 哉
脳 虚血後再 潅 流 障害は脳 神 経 外 科 領 域で は脳 塞 栓 なら び に脳 梗 塞 後の血栓 溶 解 療 法に おける重 要な問 題であ り, その発 生に おいて好 中 球が重 要 な 役 割の 一 つを 担っ ている といわ れ てい る. 好 申 球遊 走 因子であるインタ ー ロイ キンー8(in te rle ukin‑8,
Ⅰし8) の脳 虚 血 後 再 潅 沈 降 害に おける関与 を 検 討 する た め, ウ サギ 脳 を 用い局 所 脳 虚血後再 潅流の実 験モデルを作 成し た. さ ら に抗Ⅰし8 抗 体に よ る再 潅 流 障害の治 療の可能 性 を 検 索し た. 脳 組 織ホモジネー ト中のⅠし8 濃 度は, 虚血側に て再 潅 流後6 時 間で有意に 上昇し た. また再 潅 流 後6時 間で は, 痛 理 組 織 学 的に好 中 球の血管 内での凝 集, 血管 周 囲腔への浸 潤が認め ら れ た. Ⅰし8 の免疫 組織 染 色に より, 血管内 皮が Ⅰし8 を 主に産 生し ていることが判 明 した. 抗Ⅰし8 抗 体 を 静 脈 内 投 与 する と, 梗 塞巣 を 中心と し たエ バ ン スブル ー の血管 外 漏 出, す なわち 血液 脳 間 門 O)lo od‑br ain ba r rie r, B B B) の透 過 性が抑制 され た. こ のように脳 虚血後再 潅流 障害に おいて Ⅰし8 が深 く 関 与し てい る と考えら れ, 抗Ⅰし8 抗 体に よ る脳 再 海 流 障 害の治 療の可能性 が示 唆さ れ た.
Key w o rds c e r ebr al is che mia‑r epe rfu sio ninju ry,n e utr Ophil,inte rle ukin‑8(Ⅰし8),a nti‑IIJ8 a ntibody
近 年, 脳 梗 塞 超急 性 期の治 療 法と して, いまだ不 可 逆 的な細 胞 死に陥っ ていない領域の血流 を 再 開さ せ る 血栓 溶 解 療 法に期 待が寄せ ら れ ている1 ) 2). し か し, 血行 再 開に伴い機 能の回複よ
F) む し ろ逆に更な る組 織 傷 害 ( 虚血後 再 潅 流 障 害) の発 生が問 題と なっ ている. 臨 床 的に は出血性 梗 塞=一軒や脳 浮 腫の増 大と し て認め ら れ る が, 血栓 溶 解 療 法 を 行っていない場 合でも血栓の 自然 融解に続いて起こることも ある. 再 潅 流 障 害は脳 梗 塞以外 にも 心 筋 梗 塞や臓 器 移 植 等で問 題となっている が, その病 態は
いまだ完 全に は解 明さ れ てい ない. 虚血後 再潅 流 障害の病 因の
一 つと し て好 中 球が重 要な役 割 を 果た し ている と考 えら れ てい る5 … . 好 中 球は 血管 内 皮 細 胞と接 着し, 内 皮 細 胞に傷 害を与 えるのみ な らず, 脳 組 織 内に侵入, 椎々 の細 胞 傷 害物 質を放 出 し, 脳 組 織 を 傷 害す ることも 明ら か になっ てきている. ま た,
好 中 球 除 若洲や好 中球の血管 内皮へ の接 着 阻 止が虚血後l専権流
障害の軽 減に有 効‖)'1 5 )との報告 もな さ れて いる.
インタ ー ロ イ キ ンー8 (inte rle uk in‑8, I L 8) は1) ポ多 糖 体 (1ipopolys a c charide, L P S) 刺 激ヒト末 梢血単 楷 球の培 養上清よ り 精 製さ れ た サ イ ト カ イ ン1 ti)で, 7 2偶の ア ミ ノ酸よりなり1 7 ),
分子 量は約8,0 0 0 である. Ⅰし8 は酔‑l]球 走 化性 作 用 を 有 するのみ ならず, 好 中 球を活 性 化し リソゾー ム酵 素の放 出やス ー パ ー オ
キ サイドの産生誘 導1 8)1 9 ), ロイコ ト リエ ンB 4 (1e ukotrie n e B 4,
m 4)2 0)21 )の産生誘 導 などの働 き を する.
心 筋 虚 血 後 再 潅 流 障 害2 2 ), 肺 虚血後 再 潅 流 障 害の実 験モデル
に おいて Ⅰし8 が検 出さ れ, こと に肺 虚血後 再 潅 流 障 害で は抗
Ⅰし8 抗 体の投 与に より 再 潅 流 障 害が抑 制さ れ た2 ニー)と報告さ れ て
いる.
以上 より 脳 虚血後 再 潅 流 障 害に おいて I L 8 が関与し ている か どうか, また関与し ている な ら ば抗Ⅰし8 抗 体投 与に より 再 連流 障 害の治療が 可能か どうかを 検 討 する た め, ウ サ ギを 用いて脳 梗 塞モデルを 作 成し, 実 験 を 行っ た.
対 象お よび 方 法
Ⅰ. 実験 動 物
実 験に は体 重2.7 、3.O kg の ニ ュ ー ジ ー ランド種の雌 性ウ サ ギ (三共ラ ボ サ ー ビス
, 東京) 6 8 羽 を用いた. まず 前投 薬と し て硫 酸ア トロ ピン 岬 辺, 東 京) 0.5m g を筋 肉 内 注 射し, イソフ ル
ラン(アポッ ト, ノ ー ス シカゴ
, 米 国) 3 (‰ に てマ スク麻 酔し た. 実 験 中の輸 液, 薬 物の投 与のた め耳 介に静 脈 路を確 保し,
手 術 台に仰 臥 位に固 定し た. 前 頭 部 縦切開に て気 管を露Jll後,
気 管切開に より 行3.5m m の気管 内挿 管チ ュ ー ブ を約2c m 挿人 固 定し, 人工呼 吸 器 (シ ナノ製 作 所, 東 京) に接 続し た. 人 工 呼 吸 器を接 続 する と同 時に臭 化パ ンクロニ ウム (オルガノ ン,
ア ム ステル ダム, オ ランダ) 2m g を 静 脈 内 投 与し イソ フ ルラン 濃 度を1.5 % と し た. 人工呼 吸 器は, 酸 素 濃 度3 0 % , 1回 換 気 量1 5 、 2 0ml/kg, 換 気 回数 毎 分2 0 、2 5回と し, PC O 2 が 3 2 〜 4 0m m H g となる よう 調 節し た. 右 大腿動 脈 を 露 出し, 留 置 針
平 成8 年1 1月29 日受付, 平 成9 年1 月9 日受理
A bbr eviatio n s: A C A, a nterio r c e r ebral a rte ry; B B B,blo od‑br ain b a r rie r;B S A,b ovi n e s e ru m al bu min;I C A,inte m al
C ar 0ti d arte ry ;I C A M
,inte r c ellular ad he sio n m ole c ule;IL,1 ,inte rle ukin‑1;II]8,inte rle ukin‑8;L RA bTmP ho cy te fu n ctio n a s s o ciated a ntige n; u 、,1e ukotrie n e; M C A, mid dle c e r ebr al a rte ry; O N ,Optic n e rv e; P B S, ph o sp hate‑bu飴r ed s alin e; T N F,tu m O r n e C r O Sis 血cto r
2 6 松
を 留 置し 血圧モ ニタ ー に接 続 して 血圧 を 持 続 的に測 定し た. 続
いて ウ サ ギを 腹 臥 位に変 え 頭 部 を 固定し た. 補 液は 5 % 乳 酸リ ンゲル液 ( 大 塚, 東 京) を5ml/k g/ 時 間で行い, 臭 化パ ンクロ
ニウムを 適 宜 静 注し た.
Ⅰ. 実 験モデルの作成
右 眼球 周 囲に頭 皮 切 開を 加 え, 頭 皮 を 剥 離, そして眼 球お よ び眼裔内容 物 を 摘 出し た. 視 神 経 管 をド リルに て拡 大し直 径 約 5m m の関 頭 を 行っ た. 硬膜を開放し右 内頚 動 脈, 中 大 脳 動 脈,
前 大 脳 動脈 を確認し, 右 内頚 動 脈, 中大 脳 動 脈 起 始 部, 前 大 脳 動脈 起 始部 をZe n 式ク リッ プ で ク リッ ピングを 行い, 中 大 脳 動 脈 閉 塞モデルと し た( 図1). 虚血中は イソ フ ル ラン の濃 度 を 調 節し て, 平 均 血 圧が 5 5 〜6 5m m H g となる ように し た. 右 中大 脳 動 脈 領域の局 所 脳 虚血モデルとし て 以 下の3 群の実 験 系 を作
成し た.
1 . 虚血 後 再 潅 流 群
ク リッ ピング に て常 温2.5時 間に わ た る右 脳 局 所 虚 血 を 開始 し た. 2.5時 間の虚 血の後, ク リ ップ を解 除し再 潅 流さ せ た. 再 潅 流 後3時 間 (5 羽), 6 時 間 (8 羽) の時 点で実 験 を 終 了す
る亜 群に分 けた. 2 . 対 照 群
対 照と し て虚 血 負 荷 前の正 常 脳 群 (4羽), ク リッ ピング を行 わず, 血管の剥 離のみを 行い, 8.5時 間 放 置し た偽 手 術 群 (4 羽), お よ び ク リッ ピング に て脳 虚血のみを2.5時 間 (4 羽), 5.5 時 間 (5 羽), 8.5時 間 (8 羽) の永 久 血 流 遮 断 群 を も う けた.
3. 抗Ⅰし8 抗 体 投 与群
上記と同じ脳 虚 血 後 再 海 流 実 験に おいて, 再 潅 流 開 始と同 時 にマウス抗ヒト Ⅰし8 モ ノクロー ナル中和 抗 体 (W S‑4)2 4 )を投 与 す る群 (8 羽) を 作 成し た. 1 0mg の W S‑4 を3ml の生 理食 塩 水で 希 釈, 耳 静 脈 内に注 入し た後, 6 時 間の再 潅 流 を 施 行し た. 対 照 実 験と し て ミエ ロ ー マ蛋白b 3.6.2.8.1)2 5 】10 mg を同様に静 注し再 潅 流し た群 (9 羽) を 作 成し た.
】肛. 脳 組 織 中の Ⅰし 8 濃 度 測 定
各実 験の終 了時 点で塩化カ リ ウム5mlを 急 速 静 注し, ウ サ ギ を屠 殺し, 全 脳 を一 塊と し て摘 出し た. 右 中大 脳 動 脈 領 域の脳 組織 を1 5 0mg 採 取し, リン酸緩 衝 食 塩 水bho sphate‑bufEe r ed
Sal in e, P B S)b H 7.2)1 5 0FLl中で十 分ホモ ジネー 卜 し た. なお,
採 取 部 位は手 術 部 位 を 除いた. その後1 0,0 0 0回 転, 5分 間 遠 心
Fig.1. Sche m aticdr awing ofthe e xperim e ntalpr o c edu r e. Ze n Clipp$ W e r e applied to I C A, M C A,a nd A C A a ndthe fo c al
C e r ebr al is che mia w a s m ade. Repe rfu$io n w a s pe rfo r m ed by r e m o val of th e clips.
し, 上宿のみを取 り‑8 0℃で保存し た.
脳 組 織ホモ ジネ ー ト 上清 中のⅠし8 濃 度の測 定は E L IS A21 ) 2̀i)に て行っ た. ま ず 一次抗 体と し て W S‑4 を0.0 5 M 炭 酸 綬 衝 液bH
9.6) に て 0.5/上g/ ml の濃 度に希 釈し, 9 6穴マイ クロ タ イ タ ー プ レー ト(ヌ ンク, コ ペ ンハ ー ゲン, デンマ ー ク) の各穴に 1 0 0〃l ずつ加 え4 ℃で 一 晩イ ンキュベ ー ショ ンを行っ た. 0.0 5 % ツイ
ー ン2 0,
1) ン酸 綬 衝 食 塩 水 (tw e e n.P B S) に て 3 度 洗 浄し た後,
1 % 仔 午 血 清ア ルブ ミン O) O Vin e s eru m albumi n, B S A), リン
酸 緩 衝 食塩 水 (1 % B S A , P B S)1 50FLl を各 穴に加 え, 3 7℃で 1 時 間インキュ ベ ー ショ ンを行っ た. ツイ ー ンーP B S に て 3 度 洗 浄し た後, 0.5 % B S A, ツイ ー ンーP B S に て希 釈さ れ た サンプル を 1 0 0〃1 ずつ 加 えた. また毎 回Ⅰし8 濃 度の標 準 曲線 を 作る た め, 組 換 え 型ウ サギII.J・8 を1 3.7 〜1 0,0 0 0p g/ml の濃 度に 0.5 %
B S A , ツイ ー ンーP B S で希釈し, 1 0 0/Llずつ別の穴に加 えた. そ の後プ レ ー トを4 ℃ で 一 晩インキュベ ー ショ ンを 行った. ツイ
ー ンーP B S に て 5 度 洗 浄し た後, 二次 抗 体と し てモ ル モ ッ ト抗 ウ サ ギ Ⅰし8 抗 体2 3)を3 % ポ リエ チレ ング リコ ー ル6 0 0 0, ツイ
ー ンP B S で 1/Ll/ml に希釈し, 1 00/Llずつ各穴に加 え3 7℃で 2 時 間イ ンキ ュベ ー ショ ンを 行った. ツイ ー ンP B S に て 5 度 洗 浄し た後, ア ルカ リフ ォ スうァ タ ー ゼ標 識 抗モ ル モ ット免 疫グ
ロブ リ ンG ( バイ オマ ー カ ー , エ ルサ レム, イス ラエ ル) を 0.5 % B S A, ツイー ンーP B S で 3 0 0 0倍に希釈し, 1 0 0/Llずつを各 穴に加 え3 7℃で 2 時 間インキュベ ー ショ ンを 行っ た. ツイ ー
ンーP B S に て 5 度洗 浄し た後, 針ニ トロ フユ ニ ー ルリン酸ニ ナ ト リ ウムをジエ タノ ー ルア ミンで 1m g/ml の濃 度に希 釈し, 1 0 0
〃1 ずつ各穴に加 え 室 温で3 0分 間インキュ ベー ションを 行っ た. 反 応 を 止め る た め に 1 規 定 水 酸 化ナ ト リ ウムを1 0 0〃1 ずつ各穴
に加 え, マ イクロプ レ ー ト リ ー ダ ー ( 束ソ ー , 山口) に て 4 0 5n m に おける吸 光 度 を 測 定し, 標 準 曲線 を もと に サンプル中
のⅠし8 濃 度 を 算 出し た.
(
】
∈
、 m d
)
u O
仙 l
巴
l 亡 O u u 0 0
?
」
‑
0
0 0
0 6
5
0
0 0
0 4
3
2.5 brI 5.5 b∫Ⅰ 2・5 k I 8.5 bI 2・5 brI
+ 3 brR 十6 brR
S b田I l
Fig.2. I L‑8 c o nte ntsin t he ho m oge n ate of br ain tis s u e s
bg/ ml). Atth eindic atedtim e, r ab b its w e r e killed an d brain
t
is s u e s w e r e ha rv e Sted a nd a s s ayed forI し8. T he n u mbe r s of
a nim alsfo r e a ch gr o up a r e a sfo 1lo w s :2.5 hrI(is che miafo r2.5 hr) 4; 5.5 hrI (is che mia fo r 5.5 hr) 5; 2.5 hrI + 3 hr R (is chemi afo r2.5 hr+r epe rfu sio nfo r3 hr)5;8,5 hrI(is che mia
f
or2.5 hr)8;2,5 hrI + 6 hrR (is chemi afo r2.5 hr+r epe rfu sio n
fo r6 hり8;S h am 4. Data a r esho w n a s更±S E M . * *p < 0.0 5 (A N O V A wi th Sche触's m ultiple c o mparis o npr o c edu r e).