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伊藤 宏太郎 学 位 の 種 類

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Academic year: 2021

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全文

(1)

氏 名 いとう こうたろう

伊藤 宏太郎

学 位 の 種 類

博士(医学)

報 告 番 号

乙第 1851 号

学位授与の日付

令和 2 年 10 月 1 日

学位授与の要件

学位規則第 4 条第 2 項該当(論文博士)

学 位 論 文 題 目

Relationship between the efficacy of biologics and clinical plaque psoriasis subtypes in Japanese patients:

a single-center pilot study

(日本人における生物学的製剤の有効性と乾癬の臨床病型の関 係)

論 文 審 査 委 員 (主 査) 福岡大学 教授

有馬 久富

(副 査) 福岡大学 教授

平井 郁仁

福岡大学 准教授

三宅 勝久

内 容 の 要 旨

【目的】

生物学的製剤の登場は乾癬治療に大きなパラダイムシフトを起こした。しかし多くの患 者で劇的な治療効果を発揮する一方で、一部の患者では満足いく治療効果がみられない ケースもある。生物学的製剤は薬剤費が高価であり、治療選択の失敗による患者の精神 的・経済的負担や financial toxicity といった財政的な問題も大きい。現時点で乾癬の 病勢や生物学的製剤の治療抵抗性を予測できるバイオマーカーは確立されておらず、臨 床的な情報の蓄積が治療の最適化のために必要である。一般的に乾癬にはさまざまな臨 床像がみられるが、本研究では生物学的製剤の効果と臨床病型、発症年齢の相関性を検 討した。

【対象と方法】

対象患者は乾癬に生物学的製剤が使用可能となった 2010 年 1 月~2015 年 8 月までに当科 外来を受診し、生物学的製剤を投与された乾癬患者を対象とした。Infliximab (IFX)、

Adalimumab (ADA)、Ustekinumab (UST)のいずれかの生物学的製剤が投与された乾癬患者

のうち、臨床写真で初診時に背部が確認でき、皮疹が存在する例について検討を行っ

た。初めて生物学的製剤を導入した患者を主な解析対象とした。尋常性乾癬以外の臨床

病型は除外とした。ただし、尋常性乾癬で全身性のステロイドの投与や感染など明らか

な要因があり経過中に紅皮症化、膿疱化したもの、軽度の関節症を伴うが背部に皮疹を

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認めるものは対象とした。また治験での投与例は除外として扱った。観察終了期間は 2016 年 12 月 31 日とし、生物学的製剤の使用が 3 か月未満の患者は除外とした。この研 究は福岡大学倫理委員会において承認されている。

電子カルテと臨床写真により背部の皮疹の大きさと性状にて small、large、gigantic の 3 病型に分類した。Gigantic type は背部の皮疹が 10cm 以上、large type は 5~10cm で 境界明瞭な円形の皮疹、small type は 5cm 以下で辺縁がギザギザの厚さが薄い皮疹と し、様々の大きさの皮疹が混在する場合は背部で最も大きな割合を占めるサイズの皮疹 にて分類した。また発症年齢により onset が 40 歳未満の early onset psoriasis(EOP)

と 40 歳以上の late-onset psoriasis(LOP)に分類した。

薬剤の有効性の評価には drug survival を用いた。生物学的製剤の継続率について終了 の理由を調査し、1 次無効、2 次無効は終了、経過良好だが転居や他院への転院、寛解終 了、経済的理由、妊娠や悪性腫瘍の発生による中止例については継続で観察打ち切りと した。今回の解析は薬剤の有効性に焦点をあてたものであり、副作用については除外と して扱った。

統計学的解析には Prizm6 (GraphPad Software, CA, USA)を用いた。2 群間の比較には Student's t‐test、Mann–Whitney U‐test、Fisher's exact test を行った。3 群間の 比較には分散分析(ANOVA)またはカイ 2 乗検定を使用した。生存曲線は各群に log‐

rank test を用いて比較した。p<0.05 を有意とした。

【結果】

観察期間中に IFX, ADA, UST のいずれかを投与された症例は 144 例であった。尋常性乾 癬以外の臨床病型、背部の皮疹が確認不能例、治験症例、観察期間不十分例、副作用中 止例などを除外すると解析対象症例数は 87 例であった。87 例は背部の皮疹の臨床像で small、large、gigantic の 3 病型に分類された。3 病型には受診時年齢、発症時年齢、

併存疾患としての高血圧罹患率において有意差(p<0.05)を認めたが、性別、body surface area (BSA)や body mass index (BMI)、その他の併存疾患、家族歴、喫煙 歴、最初に投与された生物学的製剤(1stbio)に選択された薬剤については各群での差 は認められなかった。受診時年齢は gigantic type が最も若く( P =0.00003) 、発症時年 齢は small type が最も高かった( P =0.00001)。生物学的製剤の継続率では有意に small、gigantic type と比して large type の継続率が高かった( p =0.0007,log-rank test)

皮疹の形態に関わらず全ての臨床病型で各種生物学的製剤の継続率の検討を行った。

1stbio と 2 番目以降に選択された生物学的製剤(2ndbio)について IFX、ADA、UST の継

続率を検討した。1stbio においては UST が IFX、ADA と比して継続率が高かったが統計学

(3)

的に有意差はみられなかった( P = 0.2122, log‐rank test)。一方で 2ndbio では 3 剤す べてにおいて継続率が低くかった。UST の脱落例は 3 例のみと少数であったため、UST を 除いた IFX、ADA のみで同様の検討を行ったが同様に large type の継続率が高かった( p

=0.0122,log-rank test)

Onset の解析では LOP(≧40years)と比して EOP(<40years)の継続率が高い傾向にあっ たが有意差はつかなかった( P = 0.3110, log‐rank test)。

継続例と脱落例について各薬剤と臨床病型毎にそれぞれの関連性を判定するためにカイ 二乗検定を施行した。その結果、各薬剤と臨床病型ともに P<0.05 であり、継続率と関 連があると考えた。

【結論】

3 病型間での生物学的製剤の継続率では有意に small、gigantic type と比して large type の継続率が高かった( p =0.0007,log-rank test)。薬剤毎での検討では IFX、ADA と 比して UST の継続率が最も高く(P=0.2122, log-rank test)脱落者が 3 名のみと極めて 少なかったため、TNF-α阻害剤のみで解析を行ったが同様の結果であった( p

=0.0122) 。Onset の解析では LOP(≧40years)と比して EOP(<40years)の継続率が高い 傾向にあったが有意差はつかなかった。3 病型の中では small type が最も onset が遅く

(median,43;range,19-84 years;P<0.00001,ANOVA) 、次いで

large(median,28;range,8-59 years)、gigantic(median,24;range,4-42 years)の順で早 くなる傾向にあった

尋常性乾癬には皮疹が大きく境界明瞭なものや皮疹が小さく形が不正形なもの、辺縁を 縁取る巨大な局面を形成するものまで様々な臨床像が存在する。これまでに海外の報告 では皮疹の薄さや大きさ、発症年齢によって様々な病型分類が試みられており、実際に 皮疹の薄さや onset の遅さが TNF-α阻害剤である etanercept の治療反応性に関係する因 子として、また皮疹の重症度や大きさにより発現しているサイトカインの違いが報告さ れている。本邦からは onset の違いによる HLA 抗原の差を馬渕らが報告しており、

genetic な background からも尋常性乾癬の中にいくつかの phenotype が存在する可能性

が示唆される。今回我々が用いた背部の皮疹の大きさでの病型分類については確定的な

ものではなく、最適な分類法であるかは現時点では答えが出ない。しかし、本研究の解

析結果により少なくとも皮疹が小さな高齢発症群(small type+LOP)が存在し、この一

群は生物学的製剤(特に TNF-α阻害剤)の継続率に影響を及ぼす可能性があることが示

された。

(4)

審査の結果の要旨

本論文は尋常性乾癬を皮疹の臨床型と発症年齢で分類し、生物学的製剤の効果との相関 性を検討したものである。尋常性乾癬への生物学的製剤の投与は多くの患者で劇的な治 療効果を発揮する一方で、一部の患者では満足いく治療効果がみられないケースもあ る。しかし、現時点で乾癬の病勢や生物学的製剤の治療抵抗性を予測できるバイオマー カーは確立されておらず、臨床的な情報の蓄積が治療の最適化のために必要である。今 回の研究は尋常性乾癬のサブタイプの存在を明らかにし、最適な生物学的製剤の投与法 の確立のために検討されたものである。結果として大型の皮疹を形成するものでは生物 学的製剤の継続率が高い、発症年齢が早い群では継続率が高い傾向にある、薬剤毎の検 討では IL-12/23 阻害剤の継続率が高い傾向にあることが分かり、尋常性乾癬のサブタイ プの存在を臨床像から推察することができることを提示した。

1.斬新さ

乾癬には様々な臨床型が存在し、尋常性乾癬は最も頻度の高い代表的な病型の 1 つであ るが、尋常性乾癬の臨床像について詳細に検討された報告は少ない。本研究は尋常性乾 癬の臨床型と発症年齢を詳細に検討し、尋常性乾癬のサブタイプを臨床像の分類から明 らかにした初めての研究である。またサブタイプ毎の生物学的製剤の治療反応性を検討 しており、これも前例のない斬新な研究である。

2.重要性

多数の生物学的製剤が使用可能である乾癬治療において、生物学的製剤の治療反応性に 関わる情報は薬剤選択の際に極めて重要となる。本研究により高齢で発症し皮疹が小型 のサブタイプは生物学的製剤(特に TNF-α阻害剤)に抵抗性を示すことが明らかとな り、臨床情報から最適な薬剤選択を行える可能性を示した重要な研究である。

3.研究方法の正確性

本研究は後方視的な観察研究であり、電子カルテと臨床写真から情報を抽出した。統計 学的解析には Prizm6 (GraphPad Software, CA, USA)を用いた。2 群間の比較には Student's t‐test、Mann–Whitney U‐test、Fisher's exact test を行った。3 群間の 比較には分散分析(ANOVA)またはカイ 2 乗検定を使用した。生存曲線は各群に log‐

rank test を用いて比較した。統計学的な有意差は p<0.05 とした。いずれの統計計算も

確立された方法で行われており、十分な正確性がある。またインパクトファクターが 3

点以上の英文誌に受理されており、正確な研究が裏付けられている。

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4.表現の明瞭性

生物学的製剤の効果を生存曲線で表し、臨床型、発症年齢との相関性を明らかにしてい る。新しい概念であるが、簡潔に結論が述べられている。インパクトファクターの高い 英文誌に掲載されており、研究目的、方法、結果、考察が明瞭に記載されていると判断 できる。

5.主な質疑応答

Q:HLA や年齢によるサイトカインのプロファイルの違いがあるか?

A:乾癬では HLA-Cw6 との相関性が高いが、人種差が大きい。日本人ではこの代表的な HLA の保有率が低く HLA とサイトカインの相関に関するデータは少ない。年齢に関しては 本研究で高齢発症群では TNF-α阻害剤の効果が乏しいことが明らかになったため、高齢 発症の乾癬では IL-23 や IL-17 の関与がより大きいのではないかと推測される。

Q:炎症性腸疾患では IL-23 は上流のサイトカインと考えられているが、乾癬ではどう か?

A:現在使用されている生物学的製剤の効果をみると乾癬でも同様に IL-23 は上流のサイ トカインで全体的な免疫反応を調整し、直接的には IL-17 が皮疹形成に関与するものと 考えられる。

Q:二次無効の定義とその際に薬剤の dose up を行うか?

A:二次無効は開始時には効果が確認できたが、経過中に効果が減弱していくものを示 しており、中和抗体の関与が考えられる。通常その際には早期に dose up を検討する。

Q:副作用の症例を除外しているが、実臨床では副作用で使用困難になるケースも多い が、副作用を入れた場合の検討は?

A:データは論文中には示していないが、実際には副作用を入れた生存率も検討してお り、除外したものと比較して大きな差はみられなかった。

Q:今回検討した臨床型の差で最初に使う生物学的製剤の選択に差が出るか?

A:現在乾癬では 9 種類の生物学的製剤が使用可能であり、臨床型に加え皮疹の重症度 や基礎疾患、年齢、関節痛の有無など薬剤選択には様々な因子が影響する。このため臨 床型は重要な薬剤選択の際の情報となるが、患者の背景をよく検討してオーダーメイド で治療を検討していく必要がある。

Q:継続率と有効性は完全に相関すると考えてよいか?

A:研究を行った段階では使用できる生物学的製剤が 3 剤のみであったため、継続使用

している症例の中に十分な効果が得られていないが、他の選択肢が乏しいために継続し

(6)

た例も少数は含まれていると考えられる。従って継続率が有効性と完全に相関するとは 必ずしも言えない。

Q:生物学的製剤投与前の治療によって選択すべき薬剤の種類が異なるか?

A:生物学的製剤使用前の治療の種類とその後の薬剤選択の相関を示すデータはない が、シクロスポリンを使用していた患者では生物学的製剤に切り替えた時に効果が出に くい経験がある。

Q:リウマチでは TNF-α阻害剤の二次無効の際に他の免疫抑制剤を併用することがある が、乾癬ではどうか?

A:乾癬でもリウマチと同様に MTX を併用するケースが多い。また血中濃度の低下が中 和抗体の出現につながると考えられるため、早期の dose up や投与間隔の短縮を行う。

Q:今回の研究でどの臨床型にはどの生物学的製剤を使用すべきと考えるか?

A:高齢発症の小型の臨床型では TNF-α阻害剤以外を最初に検討すべきと考える。

Q:膠原病ではステロイドを使用するケースが多いが、乾癬ではどうか?

A:関節に炎症を伴う乾癬ではリウマチと同様に生物学的製剤と少量のステロイドを使 用すると効果的なことは多い。しかし、皮疹だけの乾癬に長期間ステロイドの全身投与 を行うことは膿疱化のリスクがあり、一般的には行われない。

Q:除外対象を投与期間が 3 か月未満と決めた理由は?

A:各薬剤により投与法が異なり、十分な効果判定をするのに最低 3 か月は必要と考え た。

Q:大型の皮疹は継続率が高いが、巨大型では低くなっており皮疹の大きさと継続率は 相関しているのか?

A:巨大型に関しては皮疹部に発現するサイトカイン量が多くなり、単純に容量不足で 継続率が低くなっているものと考えられる。

以上の審査の結果、本研究は尋常性乾癬の臨床型、発症年齢と生物学的製剤の継続率と

の相関性を実臨床から示しており、前例のない実臨床に繋がる画期的な研究と判断され

る。また申請者は優れたプレゼンテーションを行い、本学位論文の内容を中心に幅広い

質問に的確に回答し、この課題について深い理解と洞察力を持っていると判断した。 最

終的に本論文は論文博士の学位論文に値すると評価された

参照

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